※この作品はR-18です。

Beliefers   作:とある渓流にいるかわうそ

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10話 退魔士と学園の秘密

???「おう、元気になったか?『  』」

 

影明「……んあ?」

 

その一声で、緑川影明は目が覚めた。

 

影明(あれ…?俺は確かあの時……渋谷で…)

 

あの時…妖魔バルムスとともにビルの屋上から

飛び降りた事を思い起こされる。

バルムスを像の槍に串刺しにし、息絶えたのを

確認した後、影明の意識は深くまどろみに落ちて

いくのを感じ、そこからは何も覚えていない。

 

ただ…何か声がしていたのは覚えていた。

内容は全く覚えていない……というか、

聞き取れていないのだが。

 

影明は体を起こし、声をかけてきた人物を見やる。

 

影明「あー……」

 

そして理解した。そのよく見知った顔により、

先ほどの朧げに聞こえていた声も分かった。

 

ーあぁ、いつものパターンかぁ……ー

 

影明「いつも言ってるけどさ…『そう』呼ぶの

控えろって、【道さん】」

 

喜川道夫「おっと、すまんすまん。2人だけだと

つい…な?影明(・・)」

 

影明に話しかけてきた40代前半の医師の名前は

【喜川道夫】。

影明が幼少期の頃から『ある縁と事情』により

ほぼ専属みたいに付き合いがあるいわば腐れ縁

にも近い顔馴染みだ。

そして、影明が【いつものパターン】と言った

事についてだが、影明はそのお人好しさや正義感

の強さから、時にはヤクザの事務所にも突貫した

事があるほどの無茶を重ねて来たのだが、その

たびに今回のような大怪我を負ってくることも

珍しくはなかった。

そして、そのたびにこの専属の喜川にお世話に

なって来たのだ。

ちなみに、朧げに聞こえて来た声と言うのも、

大怪我を負って動けなくなった影明を大抵

勝平か優、又はその両方に担がれてこの喜川の

元に担ぎ込まれてくる事もお決まりのパターンで

あったため、影明はその声も紅藤優か石山勝平が

発してたものなのだろうと想定していた。

実際は更なる他数名の声も混じっているのだが。

 

喜川「それにしても今回は過去史上記録更新

レベルの酷い怪我だったぞ?

今回はどこぞの大物様に喧嘩を売りに行った

んだ?」

 

クツクツと笑いながら喜川は聞いてくる。

 

影明「あー……その、何と言えばいいか…」

 

影明は返答に困った。無理もない話である。

「渋谷に行ったら見た事もない化け物と

出くわして、そいつを倒すためにビルの

屋上から飛び降りたんだ!」なんて

バカ正直に答えても普通の感性をしている

人間には信じてくれるはずがないだろう。

 

影明「…あれ?そういや前行った時の医院じゃ

なくね?こんな内装してたっけ?」

 

返答に困った影明は話を逸らそうとする。

病院の内装に関しての違和感は少しだけ感じて

いたにはいたのだが、ここに越して来てから

まだ一度しか新しくなった喜川の医院に行って

いないため、そんなに医院の状態も覚えてない

のもあってか、ただの気のせいと結論づけた

のだが、話を逸らすのに、別の話題もすぐに

思いつかなかったため、【今いる場所】に

ついて言及したのである。

 

しかし、影明の違和感は的中していたようで

 

喜川「おっほ!よく分かったな?まだ越して来て

『新しく用意してもらった』医院には一度しか

来てないのに、よく気づけたな!」

 

喜川は意外、と言うように目を丸くさせた。

 

影明「え?じゃあここマジで道さんの医院じゃ

ないん?」

 

喜川「あぁ、そうだ。初めは勝平くんが毎度の如く

俺の医院近くの家に来てな。こちとらもう寝ようと

思って布団に入ってたところを叩き起こされた

から参ったぞ?

まぁ、俺もそんな事には慣れっこだけどな。

それで、いつもの事かと思って医院に行こうと

したら…」

 

喜川「優くんから電話がかかって来てな。

「学園に来てくれと」その後は勝平くんの道案内で

学園まで来たってことさ」

 

影明「……え?じゃあここ俺の今通ってる学校って

事?」

 

喜川「そういう事」

 

喜川の説明を受けた影明は軽く驚く。

何故ならば、影明は今通っている学園でこのような

部屋は見た事がないのだ。

もちろん影明が行ったことのない場所もあり、

医務室や保健室などがそれに当たるが、

それにしては……

 

影明「学園って……何かやたらハイテクな機械

多くね!?」

 

喜川「あぁ、いくらお坊ちゃん学校とは言え、

こんな最先端技術の機器類が置いてあるのには

驚いた。中には俺も見たことの無いような

機器もあるしな。」

 

そう、この場には大病院で使用されるような

大型医療機器や最先端医療具などが置かれて

いるのだ。

いくら財閥の子息たちが通う学園とは言え、

このような医療機器が置いてあるのは異常と

言える。

それこそここにある医療機器だけでも数十億

はくだらないだろうという予算が注ぎ込まれて

いるのは明白だった。

しかし、影明はむしろその事に納得する。

影明が遭遇した異形、【妖魔】の事だ。

 

影明(あのバルムスとかいうリーダー格の化け物は

あの攫った男の子の事を【姫野ヒカル】の弟とか

って言ってた……。

てゆー事はこの学園の【本当の目的】はあんな化け物

どもと戦うために設立されたってところなのかな…?)

 

そうだとすれば、この大規模な医療施設にも納得が

いくものである。あんな化け物どもと戦うのだ。

すり傷や打撲といった軽い怪我で済まない事は

多々あるだろう。

であればここまでの医療施設だって必要になって

来るだろう。

 

喜川「しかし、いくらこれだけの医療設備があった

とは言え、お前の回復力もいよいよ化け物じみてきた

んじゃないか?

たった半日程度でそんなに回復するなんて思っても

いなかったぞ?」

 

影明「……え?そーなん?……え!?半日!?

もっとこう3日とかぐらい経ってんのかと思ったん

ですけど……」

 

喜川「いやいや、あの怪我でそんなにかかる事は

ないぞ。確かに血まみれではあったけど、浅めの

傷ばかりで深い傷は数ヶ所程度だったし、打撲が

少しぐらいだった。

骨もどこにも異常はない」

 

影明「ゔぇ!?」

 

そう聞かされた影明我が身の事でありながら

素っ頓狂な声をあげながら驚いてしまった。

そしてつい

 

影明「お、俺20mのビル屋上から落ちたん

ですけど……あっやべっ」

 

つい口を滑らせてしまった。

それを聞いた喜川は「え?マジ?」と目を

見開いてあからさまに驚いたが……

 

喜川「はっはっはっはっ!!」

 

声をあげて大笑いした。

 

喜川「いやぁ!マジかマジか!こりゃ本当に

人外になって来てるんじゃないか影明?

本当に人間やめるために訓練でも積み始めたか?」

 

影明「茶化すなって!俺は不運に巻き込まれてる

だけで別に平和に今まで過ごして来た一般男子

生徒だっての!」

 

そんな抗議をする影明を、「で」と喜川は制し

 

喜川「どうしてそんな無茶しなければいけない

ぐらいの事件に首を突っ込んだ?

流石の俺も今回ばかりは看過出来んぞ」

 

いつにないぐらいに顔を真剣にして喜川は聞いて

きた。

 

影明はしまった、という風に顔を引き攣らせる。

 

喜川「『  』、お前『自分の立場』を分かっ

てるか?今回のような生きるか死ぬかのような

無茶や事件に首を突っ込んでいると本当に…」

 

喜川の目つきが鋭くなる。

影明がどう答えようか、と頭を悩ませていると…

 

???「それは私からお話ししましょう」

 

いつの間にかこの部屋に入って来ていた少女に

声をかけられた。

 

影明「……は?誰このチビ?迷子?」

 

影明はあまりの珍客とも言える来訪者に口に

出して、思ったままの事を言った。

その少女の見た目は齢10歳もないだろうという

幼子の見た目だ。

財閥の学園とは言え仮にもここは高等学校である。

その上、ここはおそらくは一般生徒には秘密に

されているであろう場所なのだ。

そんな場所にどう見ても幼い少女が来たら、

疑問に思わないはずはないし、迷子と思うのも

仕方がないであろう。

 

喜川「……影明、この子はお前の知り合いの子か?」

 

影明「いや、全く知らんけど……」

 

2人が疑問を持って話していると少女が自らの

素性を明かした。

 

アテネ「申し遅れました。私はこの学園の最高責任者、

学園長のアテネ・リゼラベルツンと申します。

以後、お見知り置きを」

 

影明・喜川「…は?学園長???」

 

アテネ「はい。私がここに来た理由は様々な事が

あって混乱してると思ったからです。

まずこの場所は【ヴァルハラ】。

あなたが出会った【妖魔】に対抗するために

設けられた退魔士のための施設です。

この部屋は妖魔との戦いで傷ついた退魔士を

治療するための医療施設ですね。

影明くん、あなたは【妖魔】と関わりを持って

しまった。

だからあなたには【知る】権利がある。

お話ししましょう。

我ら【退魔士】と【妖魔】との永きに渡る因縁と

戦いの歴史を」

 

影明「いやちょっ待ってガキンチョお前電波k」

 

アテネ「今より、1200年も前のこと----

 

 

 

 

 

-------------------

 

 

 

 

〜約1200年前〜

 

日本では平安京が建った頃、妖魔は突然世界

各地に現れました。

当時は奴らの事は妖魔とは呼んではおらず

日本では【妖】、【鬼】、

欧州では【悪魔】や【吸血鬼】とも呼ばれて

いたそうです。

 

奴らの力は強大で当時の人間たちはどうする

事も出来ませんでした。

奴らは人間の女性を苗床として、あっという間に

数を増やしていき、瞬く間に人の世を支配して

いきました。

 

奴らの勢力が世界の半分を超え、最早これまでと

人間たちが諦め始めた時、奴らを初めて討ち倒した

人間が現れたのです。

それが私の先祖であり、当時の【アテネ・リゼラ

ベルツン】。

リゼラベルツンはこの異形たちの襲来を予見して

おり、この時のために特別な人間に宿るとされる

可能性、【霊力】を自在に操り、力とする術を

編み出していたのです。

 

その当時のアテネは残された人間たちに霊力の

使い方を伝授し、奴らに対抗する術を授けたのです。

以降はアテネは霊力を使う人間たちを導き

人間たちと奴らとの永い戦いが始まったのです。

霊力を用いて戦う人間の戦士を当時の日本では

【陰陽師】、欧州では【エクソシスト】と呼んで

いたようですね。

日本の有名な人物で言えば、【安倍晴明】

でしょうか。彼は永い退魔の歴史でも屈指の

退魔士であったと先代のアテネより聞いています。

 

そして、いつの頃からか霊力を用いて戦う戦士を

【退魔士】と、奴らを【妖魔】と呼称することに

なりました。

 

歴代のリゼラベルツンとそれに導かれた人間たち

は奮闘し、徐々に奴らに奪われた地を取り返して

いきました。

そしてついに今より約23年前、それまで退魔士

最強と呼ばれた初代アテネ・リゼラベルツン

をも超える【歴代史上最強の退魔士】

【ヘルメス・ヒュラッセイン】により、妖魔の

産みの親、【妖魔神】が討ち果たされましたーー

 

 

-------------------

 

 

 

アテネ:それが、退魔士と妖魔との戦いの

歴史であり、退魔士の教科書である【退魔教本】

にも記載されています。

しかし、ここからが本題です」

 

アテネがそう一旦区切り、続きを話そうとするーー

その前に、アテネの肩をポンと手を置く人物がいた。

 

アテネ「…?どうかされました?緑川君?

何か質問でも」

 

影明「君?そういう遊びは他所でやりなさい」

 

その当人物、影明はにっこりと子供に微笑み

かけるような優しい笑顔でそう言った。

 

アテネ「……はい?」

 

影明「はい?じゃないよ? あのね?ここは

高等学校と言って、君のような小学生ぐらいの

子が来るような場所じゃないんだ。

しかもここはね、この学校にとっても極秘裏に

されているような場所なんだ。

つまりね、あんまり人に知られちゃダメな場所

なんだ」

 

アテネ「……初めに私はここの最高責任者だと

説明したはずですが…」

 

アテネが無表情なままそう苦言を言うと更に

そこに喜川も加わり

 

喜川「君ね?あんまり大人をからかっちゃダメ

だよ? 君は今、【自分が学園長で、退魔士と

やらの最高責任者】であるという役をおまま

ごとの中でやっているつもりなのかもしれ

ないけど、時と場所を選びなさい。

それに、見ず知らずの人に君みたいな小さい子が

いきなり話しかけるとか、ましてや遊びに誘う

ような事は絶対にやめなさい。

もしおじさんたちが悪い人で君を連れ去ったり

したらどうするんだ?

この世の中には悪い人がいっぱいいるんだ。

もし君がいなくなったら君のパパやママを

悲しませることになるんだよ」

 

アテネ「……役なんかじゃないです。本当に私は

学園長なんですよ」

 

影明「はいはい、分かった分かった。じゃあ、

君は学園長という偉い人なんだから自分の

パパやママの元に戻れるかな?」

 

喜川「そうそう。おじさんたちはこれから

大事なお話をするんだ。

だから君の遊びに付き合えるような時間は

ないんだよ」

 

アテネ「……バカにしてるんですか?」

 

影明「バカに?いやいや、僕たちは真剣に

お話してるんだよ。

てゆーか、バカにしてんのはおめえだろ

ガキンチョ?

そういう電波系おままごとはさっさと自分の

家に帰って君のパパやママとおやり」

 

アテネ「………」

 

喜川「君ね?いい加減にしなさい。大人を

バカにするのも大概にしておきなさい。

自分で帰れないのならおじさんたちが送って

あげるから君は早く親御さんのところに…」

 

アテネ「……でしょぉ…!」うるっ

 

影明・喜川「あっ」

 

アテネ「私は学園長だって言ってるでしょ

おおおおおおお!!!

ふええええええええええん!!!」

 

それまで無表情だったアテネは突然瞳を

潤ませ、大声をあげて泣き出してしまった。

その様を見た影明、喜川の両名は

「あちゃー」と額に手を当てて、困った

顔を浮かべる。

 

影明「あ〜あ……この子泣いてしまったよ

道さん… どーしよ……

俺あんまり子供の相手とかした事ないから

こういうの困るんだよなぁ……」

 

喜川「俺も子供の相手は苦手なんだ……

でも、このままにしておくわけにもいかない

だろう?

ほら、影明。お前ももう普通に動けるまでに

回復したんだし、一緒にこの子の親御さんの

ところまで送るぞ」

 

影明「まー、そうなるわなぁ……

おーい……、ガキンチョ?一旦泣き止めって。

ほら?影明お兄さんに正直に言ってみ?

「迷子になって家に帰れないんですー!」って

一緒について行ってやるから親御さんのところ

に帰ろうな?」

 

アテネ「ガキンチョじゃないもん!迷子じゃ

ないもん!本当に学園長なんだもん!

どうして信じてくれないのおおおお!!!」

 

影明「うーわ…ダメだ……。泣き止んで

くれねえ…… 困ったわ…」

 

喜川「影明、お前の言い方が良くないんだ。

そんな小馬鹿にしたような言い方じゃ

小さい子は余計傷ついてしまうだろう?」

 

影明「じゃあ、道さん代わりに説得して

くれよ…」

 

喜川「いや、俺は子供の対応とか苦手だし

なぁ…」

 

影明「え?じゃあ何でそんな偉そうに

言ったんすか?」

 

そんなこんなな騒がしいやり取りを

繰り広げているとーー

 

「緑川さん!?」

 

またもや唐突に声をかけてくる人物がいた。

 

影明「え?またすか?」

 

その声にデジャヴ感を思い出しながら

振り返ると

 

ユキ「あぁ…!良かった…!元気になって

くれて…!!」

 

影明「うおっ!?」

 

既に懐まで駆け寄られ、そのまま抱き

つかれる事になった。

 

ユキ「ここに運び込まれた時は本当に血の気が

なくて…!このまま目を覚まさなかったら

どうしようかと不安で不安で……!」

 

目尻に涙を浮かべながら心底安心したように

ギュッとユキは影明の体を抱きしめる。

清楚なユキが大胆とも取れる行動をしている

事は、それほどまでに影明の身を心配していた

証だろう。

影明は『顔を曇らせ』つつ、言葉をかける。

 

影明「あのさ……心配させたのは悪かった

けどさ…… 抱きつくのやめてくれね?

胸も当たってるしさ……」

 

ユキ「……え?……あぁ!/」

 

影明に指摘されたユキは恥ずかしそうに

影明から手を離し、そそくさと離れる。

 

ユキ「ご、ごめんなさい!緑川さん!

私ったらなんてはしたないことを…//」

 

影明「いや、そんなに気にしなくていいよ…

心配かけさせたこっちも悪かったしさ」

 

影明は無意識に『嫌悪』とも取れる行動を

してしまった事に慌て、すぐさまフォロー

を入れた。

そして、影明の無事を確認でき、不安が

解消された綾風ユキが次に行った行動は…

 

ユキ「緑川さん!?あなたは無茶をしすぎです!

連れ去られたショウ君を助けるために

たった1人で妖魔相手に救出作戦を敢行したり!

強大な力を持つバルムスを誘き寄せるために

囮になったり!!」

 

影明「…げっ!?何で知ってんの!?てゆーか、

ちょっ待ってここでその大暴露やめて!?」

 

隣の喜川を横目に見ながら非常に焦りながら

静止しようとする。

影明としては『最悪の事態』になってしまうのは

ごめん被るからだ。

最も、その当人は聞きなれないワードである妖魔

を中心とした話であるため、首を傾げているが

 

ユキ「いいえ!やめません!挙げ句の果てには

私たちを助けるために彼の妖魔、バルムスと

共にビルの屋上から飛び降りるまでして…!

無事だったから良かったものの、もしかしたら

死んでいたのかもしれなかったんですよ!?」

 

ユキがすごい剣幕でまくしたてるが、影明は

その剣幕に対してはおかしい反応、本当に不思議

そうに首を傾げる。

ユキもそれに気付き、先ほどの剣幕が一時中断

される。

そして、影明はこう尋ねてくる。

 

影明「私たちを助けるため…?え?綾風さん

あの場にいたの?」

 

ユキ「…え?私たちに気づいてなかったん

ですか!?」

 

影明「あー…あん時はあのバルムスって化け物に

殴られて意識が朦朧としてたし……

何より必死だったからさ…

でも、そうかー。じゃあ、あの時聞こえた泣いてた

声は綾風さんだったのか……

俺、あの声聞いてあのバルムスの野郎を「この野郎!

絶対許さん!」って思って立ち上がれたし、ある意味

綾風さんのおかげなんかもなぁ…

 

ま!綾風さんも無事で良かったわ!」

 

ニカッ!と影明は太陽みたいな笑顔で笑う。

 

ユキ(……!//)

 

その笑顔を向けられ、ユキは思わずドキリと

胸を高鳴らせてしまう。

影明は性格は残念ではあるのだが、見た目だけ

で言えば、間違いなく世界中のどんな人間も

いや、過去にも、そして未来にすら二度と

現れないだろうと思わせるほどのかっこよさと

完璧すぎる美しさを合わせ持つ、正真正銘の

絶世の美男子だ。

そんな美男子に一切の穢れなき純朴な笑顔を

見せられたら、どんな女性であれ、ときめいて

しまうのは必然レベルだろう。

それこそ、ユキ自身も絶世の美少女と言える

ほどの可愛さと美貌を持っているが

そんなユキすらも影明の美しさの前では足元に

及ぶかどうか怪しい、というほどなのだ。

 

ユキ(いや、待ってください…?じゃあ影明さん

は誰かすら分からない状態だったのに、その人

を救うためにあんな状態で立ち上がって、躊躇

なく命をかけたって事ですか!?)

 

影明は意識が朧げで、あの場にユキたちがいた

事すら気づいていなかったのだ。

にも関わらず、影明は泣いている声が聞こえた

というだけで、迷いなくビルの屋上からバルムス

と共に飛び降りるという、命をかけてまでその人

を救った。そう、全く一度も接点がない見ず知らず

の人間かもしれないにも関わらずだ。

 

その事実に綾風ユキの胸の鼓動はさらに高鳴る。

トクン…トクン…と胸の奥から温かいものが

込み上げてくる事が実感出来る。

『強き悪を挫き、弱き者を守る』

ユキが父からずっと教えられてきた退魔士の心得だ。

ユキもそれを胸に秘め、退魔業を遂行していった。

だが、それでも全くの見ず知らずの人間に対して、

何の躊躇もなく命をかけれるかと聞かれたら、

ユキ自身、おそらく出来ないと思っている。

だからこそ、そんな見ず知らずの人間にすら自らの

命すらもかけて、救おうとする緑川影明に、ユキは

尊敬と敬愛にも近い【純情】を抱く。

 

ユキ(影明さん…この人は本当に……)

 

綾風ユキは知れば知るほど緑川影明に惹かれて

いってしまう。

それは間違いなく恋慕の情なのだが、恋をした事

のない純粋なユキにはその事にまだ気付く事は

出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、【誰かを救う事が誉れ】と信じている

ほどに純粋であるからこそ、綾風ユキは

気付けないのだ。

 

【見ず知らずの赤の他人には自らの命をかけてまで

救う事なんて出来ない】という事が何ら恥ずべき事

ではない。【退魔士】であっても人間ならばそれが

普通だという事を。

 

 

 

むしろ『見ず知らずの赤の他人を自らの命を蔑ろに

してまで救おうとする事のほうが異常』であると。

 

 

 

純粋な綾風ユキは緑川影明の『致命的な歪み』に

気付く事は出来ないのだーーー

 

 

 

 

 

ユキ(はっ!ダメダメ!私ったらぽーっとしちゃ!

ちゃんとこの影明さんには注意喚起しなくては!)

 

ユキはつい見惚れてしまった自分に喝を入れ、再び

影明を叱ろうとする……が

ここで思わぬ介入者が現れた。

 

アテネ「ふえええええん!!綾風さああああん!!

この人たち私が学園長って事信じてくれない

のおおおおお!!」

 

ユキ「え?が、学園長!?も、申し訳ありません!

いらした事に気づかなくて…!どうされたの

ですか!?」

 

ユキはあたふたと慌てて丁寧な謝罪を述べる。

ユキの立場からしたら当たり前のことだ。

彼女はこの退魔士養成学校である学園の最高責任者

であり、学園長なのだから、いわばアテナはユキの

上司にあたる存在。

そんなアテネが泣き喚いていたら、慌ててしまう

のは当然といえる。

 

だが、【そんな事】全く信じていない無礼者2人が

ユキに話しかけてくる。

 

影明「え?何?綾風さんこのガキンチョのお姉さん

かなんか?」

 

喜川「それともこの子の保護者代わりなのかな?

お嬢ちゃん」

 

ユキ「え!?お姉さん!?保護者代わり!?

いえいえいえ!!そんな!そんな畏れ多「だったら

さ、ちゃんと見てやんないとダメじゃん!」」

 

あまりにもアテネに対する無礼すぎる言葉を

2人が言ってきたため、ユキは更に慌てふためき

必死に否定しようとするが、話が終わる前に

影明が更に言葉を重ねてくる

 

影明「ガキってのはすーぐその辺をうろついて、

迷子になるからなぁ。このガキンチョ見ず知らずの

俺たちに遊びを誘ってきたんだぜ?」

 

ユキ「え?え?あそび???」

 

喜川「そうなんだ。いきなり退魔士やら妖魔やら

とかの歴史の話だとか何とか言って、ままごとを

しようとし出したんだ。

……こう言っちゃなんだが、この子もう小学3年生

ぐらいになろうかという子だろ?

だったら見ず知らずの大人に不用意に話しかける

なんていう危なっかしい行動はやめさせないと

この子のためにもならない。

まあ、まだ学生の身分である綾風さんには辛い

だろうが、引き受けた以上はその辺はしっかり

やらないとな。

まぁ、子供苦手な俺からしたら綾風さんのしている

事はとても立派だとは思うけどなぁ」

 

影明「だな。このクソガキの設定に付き合ってる

あげてるみたいだし…

ホント偉いと思うよ。綾風さんは」

 

アテネ「クソガキなんかじゃないもん!!

学園長なんだもん!!!」

 

ユキ「え?いや!?違います!本当!本当なんです!

この子、あ!申し訳ありません!学園長!この子

なんていう言葉を使ってしまい…!!」

 

アテネ「ふえええええええん!!ユキさああ

あん!!このバカ2人に何とか言ってよおおお!!」

 

影明「おいコラ!クソガキ!!あんまり綾風お姉

さんを困らせるんじゃない!!」

 

ユキ「あわわわわわ…!も、もうやめて!?

もうやめてくださああああい!!」

 

ユキがここに来る前の騒がしい喧騒に、またもや

陥りそうとなった時…

 

「影明!?」

 

「緑川君!!」

 

「え!?学園長どうなさったんですか!?」

 

「おー、起き上がってるねー」

 

「いやいや、完治するの早すぎだろ…」

 

影明「え?何々?またこういう展開になるの?」

 

またまたもや唐突にこちらに話しかけてくる

声が聞こえた。

 

瞬「おい!!影明!!お前ってやつはまた心配

かけさせるような事をしやがって!!」

 

優「おっつー」

 

勝平「ノリ軽!?いくら影明とは言えあんな重傷

負っていたんだぞ!?」

 

優「いや、そんな重傷でもなかったよ?軽傷軽傷」

 

ヒカル「え?そうなの!?」

 

優「うん。血まみれの影明を見た時は最初は

僕も驚いたけど、いざくる担いだら「あ、そんな

重傷でもないなー」って。だから皆と違ってそんな

に心配してなかったよー」

 

瞬「はああああ!?いや言えよ!!そういう

大事な事は!!」

 

ヒカル「そうだよ!?ユキちゃんなんかずっと

泣きそうな顔してたんだよーー!!」

 

来た瞬間から瞬たち4人は影明そっちのけで

ぎゃあぎゃあと騒ぎ出す。

そんな中で、1人だけ影明にツカツカと詰め寄って

くる人物がいた。

 

セイラ「あなた!!これはどういうことかしら!?

どうしてアテネ学園長がこんなに泣いて

ユキに縋り付いているのかしら!?」

 

すごい剣幕でセイラが影明にアテネの状態に

ついて聞いてくる。

アテネはセイラたちにとって、上司であり、

敬うべき退魔の祖の血筋の者。

そんな彼女が今、ユキの懐に縋り付いてわんわん

泣いているのだ。

高潔で礼節を重んじるセイラがその張本人と

思われる影明に尋問してくるのは当然とも言える。

 

しかし、そんな事など露知らない、そもそも

学園長だとか退魔だとか全く影明は信じていない

ので、そんな鬼の形相をしているセイラに対しても

呑気に答える。

 

影明「いや、そりゃ泣かせたのは悪かったとは

思うけど……こいつあれだぜ?俺たちに学園長

だとか名乗ってくるし、いきなり訳の分からん

退魔の話とかしてくるしさぁ……

道さん、あ、俺を治してくれた医師の名前ね?

…と一緒に叱ったんだよ。

不用心に大人をからかったり、話しかけたり

すんな!…ってさ。

神無月?さん…だっけ?…も、分かるだろ?

こんな幼い子供が知らない大人に話しかける事の

怖さがさ」

 

まるで自分は悪くないとばかりにあっけからんと

影明はしゃべる。

実際、自分はちゃんとした事を子供に対して叱った

んだ、と良いことをしたと思っている。

 

だが、そんな態度が高潔なセイラの怒りにますます

油を注ぐ事になる。

 

セイラ「叱った…ですって?あなた如きの立場で?

無礼者!!このお方を誰だとあなたは存じており

ますの!!?

この方はこの学園の学園長であり1200年以上に渡り

私たち退魔士を導いた偉大なる退魔の祖の血筋で

あられるリゼラベルツン様ですわよ!!

本来ならあなた如きが話す事すら叶わない雲の上の

お方なんですの!!

恥を知りなさい!愚か者!!」

 

普通なら相対する者を震えさせるほどのセイラの

威圧。

しかし、それに対して影明が見せたリアクションは

顔を引き攣らせた、実にドン引きしたような反応

であった。

その心境をよく表すようにセイラに向かって

話す。

 

影明「……神無月さん?それ本気でしゃべってんの?

神無月さんって、もしかして頭があっち系の人?

こんな小さい子が学園長だとかありえんでしょ?

そもそも入学した時に渡された学園のパンフレットに

載ってた学園長の写真もこんなチビじゃなかった

じゃん?

しかも、このクソガキと同じ、リゼラベルツンー!

とか退魔の祖ー!とか言い出してさ……

それ冗談のつもりで言ってんなら全然面白くない

からね?」

 

そう話す影明はかわいそうな人を見る顔。

例えるなら、精神病棟に入れられた重い精神病を

患った患者を見るような目をしている。

 

セイラ「な…な……!?」

 

セイラは怒りのあまり言葉を失う。

尊敬するアテネを侮辱されただけでなく、自らも

まるで精神病患者のような扱いをされたのだ。

最早どうやって怒るか判断がつかなくなってしまう

ほどにセイラは怒りで頭が沸騰している。

 

更にその噴火しそうなセイラの怒りに油の援護

射撃が注がれる。

 

喜川「……それとも冗談じゃなく、本当に本気で

しゃべっているなら……

君、後で私の医院に来なさい。

こう見えても私は昔はエリートだったんでね。

専門外である精神科の方もある程度なら

診てあげられる。

もし、私の手に負えそうになくても

知り合いの精神科の医師に紹介状も書いて

あげられるしね」

 

喜川の対応は完全に精神病者に対する者だ。

この喜川も影明と同様、セイラやアテネの

話を全く信じていない一般人だ。

 

瞬「……あっ、そうか。影明たちは神無月

さん達の力を見てなかったな」

 

勝平「あー…そういや、そうだったなぁ…

俺も何も知らないでこんな話聞かされたら

そりゃセイラちゃんの事をアッチ系の

人かと思うわなぁ…」

 

優「ぶっちゃけあの少女が学園長っていう

ことに関しては僕も信じがたいしねぇ……」

 

ヒソヒソと瞬たち男3人はしゃべる。

瞬たちは事前に聖徒会の戦いを目撃している

ため、まだ影明たち2人に比べれば信じやすい。

 

ヒカル「…あっ!なるほど!」

 

そして、その話を横で聞いていたヒカルが合点

がいったように影明の元へ駆け寄る。

 

セイラ「こ、こんの……!!」

 

そして、溜まりに溜まった怒りが大爆発させよう

とするセイラの前に間一髪でーー

 

ヒカル「セイラちゃん!待って!!学園長!

あれですよ!【変歳】ですよ!!」

 

何とか割って入って静止する事ができた。

 

そして、その【変歳】の言葉を受けたアテネが

はっ!としたようにそれまでめそめそと泣いて

伏せていた顔をあげる。

 

アテネ「そ、そうですね…。私とした事が

重要な【術】を使う事を忘れていました」

 

と、同時にそれまで怒りに顔を歪めていた

セイラも、あたふたと慌てていたユキも

あ!というように一気に平静へと戻る。

 

しかし、未だ信じていない2人にとっては

【変歳】という聞き慣れないワードを言われた

事により、ヒカルをも【セイラのお仲間】と

いう認識のような反応になる。

 

影明「……え?【へんさい】ぃ?え?なに?

生徒会長さんもアッチ系の人なの……? 

この子と言い、生徒会の人らと言い、

この学園大丈夫か…?

まともなの綾風さんだけじゃね?」

 

ユキ(!……//)

 

ユキは再び胸をときめかせてしまうものの

 

ユキ「み、緑川さん!確かにこの方が言われた事を

信用するのは難しかったと思います…

ですけれど!今から見せるものを見たらきっと

信じてくれるはずです!」

 

今回はちゃんと言いたいことを全部言えた。

その言葉に続き、セイラも仕返しとばかりに

影明を責めたてる

 

セイラ「そうですわ!!学園長の【変歳】を

見たらあなたは自分がした身に余る無礼を

深く後悔する事になりますわ!」

 

糾弾にも近いセイラの苛烈な物言いにも

影明はそれまでの態度を崩さず、哀れみ

の目を込めた表情を向ける。

 

しかし、そんな哀れみ(余裕)はアテネの術の始動と

なる言葉で一瞬で崩れ去る事になる

 

アテネ「【変歳】」

 

その言葉と共にアテネの身体は光に包まれ、

姿形を変えて包まれる光から解き放たれる。

その間、わずかコンマ数秒の出来事だ。

そのため、影明たちにはアテネが一瞬で

姿が変わったように見えた。

 

そして、姿形を変えたアテネを見て、

影明は固まる。喜川もだ。

そしてーー

 

「「「「「ええええええええええ!?」」」」」

 

女性組を除いた、男性陣全員が素っ頓狂な声を

あげて度肝を抜かれるほど驚いた。

 

変化した後のアテネの姿はまさに齢10歳前程度の

少女をそのまま20歳に成熟させた姿。

そう、【変歳】はその名の通り見た目の歳を

自在に変える事が出来る、退魔の高等術なのだ。

その変化をまざまざと見せられた喜川は唖然と

信じられないとばかりに硬直した。

影明も同じだ。

だがもう1点、喜川と同じ驚きとは別の感情が

渦巻いていた。

 

変歳し、成熟した大人の姿になったアテネの

その見た目はまさに学園の公式サイトや説明書に

載っていた学園長の写真の人そのもの。

 

喜川があんぐりとしてしまうほどの驚きを影明も

感じていたが、そんなものどうでも良くなるほど

の焦りが影明を襲う。

冷や汗が流れる。自らの行いを、言葉を思い

起こされる。その記憶は影明に目の前の景色を

現実である事を認めたくなくならせる。

影明がセイラに向けて妄想か何かを浮かべる

精神病者と哀れんだ時のように、

今度は影明がこの一瞬だけ自分が精神病を

患い、目の前の現実は自分の妄想であってくれと

本気で願った。

 

冷や汗が流れる。

 

緑川影明は冷や汗が流れる。

 

そんな彼が放つ運命の第一声目は

 

影明「ふぅ…、何かな?これはこの設備の

素晴らしい機能を体感させていただける

レクリエーションという事ですかな?

皆様方?」

 

これだった。

 

現実逃避。自らの今考えている、そしてその通りの

目の前の事実をあまりにも認めたくなさすぎる

ための苦し紛れの発言だ。

そんな聞いてて惨めにもなってくる発言を続け

ながら影明は変身したアテネへと振り向く。

 

影明「なるほどぅ…!今、こうして見せてみた

この少女の変身はいわゆる立体映像!!

少女に映像を被せる事によって、少女が一瞬に

して成熟したという驚きを我々に提供するという

素晴らしい装置という事ですね!!

いや、この緑川影明!感服いたしました…」

 

最早何を言っているのか分からない。

あまりの焦りで影明は自らの言っている言葉を

考えられる余裕すらない。

セイラはニヤニヤと笑っている。

自分でも思っている以上の焦りと面白い反応を

影明が見せたためである。

ユキはそんな影明を気遣う瞳でじーっと見つめて

いる。

ヒカルは自分にも何か覚えがあるのか、バツが

悪そうに頬をぽりぽりとかいている。

その他4名は未だに驚きから解放されておらず、

あんぐりと口を開けているままだ。

 

影明「という事は!この通りこの手はこの

少女の頬をすり抜け」

 

ペタッ

 

そう言いながら影明はアテネの顔を触りに

いき、普通に触れた。

NO!、とばかりに手のひらにアテネの柔らかい

頬の感触を感じた。

 

影明「……ませんね…。と、いうことは

これは立体映像なんかじゃない、本物という

事ですかな?」

 

アテネ「そうです」

 

影明「と、いうことは1200年前から妖魔と

退魔士は戦い続けていることも本当である

という事ですかな?」

 

アテネ「そうですとも」

 

影明「と、いうことはこの少女はそれはそれは

偉大な退魔士様であるリゼラベルツン殿で、

この学園の一番お偉い学園長様という事です

かな?」

 

アテネ「イエス」

 

影明「………」

 

アテネ「………」

 

アテネは無表情に、無機質に答える。

影明はふっと振り返り

 

影明「ん、んー!……神無月さん?」

 

セイラ「……なんですの?」ニマニマ

 

影明「この緑川影明め、私はこの少女に対し

「ははっww何言ってんのww電波オツww」

的な言葉や態度を取っていたように思います」

 

セイラ「そうですわね」ニマニマ

 

影明「そればかりか、私、この少女に何やら

「子どもが知らない大人に不用心に話しかけちゃ

いけません!」なんて初歩的なお叱りを授けて

しまったように思われます」

 

セイラ「あなたの口からおっしゃっていらした

ものね」ニッコニコ

 

影明「……この少女が……いえ、この方が学園長

であらせられるなら、もしかしなくとも、不肖この

緑川影明めが取ってしまいました数々の行為は

そのまま学園長への大変なご無礼、ということに

なりませんかね…?」

 

セイラ「」ニッコリ

 

セイラ「……私、言いましたわよね?【あなた如きの

立場】で!【我ら退魔の祖の血統】で!【この学園の

学園長】である!【リゼラベルツン様】に!

あなた如きがどの面で説法なんか説いているの

かと!!

恥をお知りなさい!!この能無しのお猿が!!」

 

瞬間、一度は静まったセイラの怒りは爆発した。

その爆発の余波を真正面から影明は受け止め、

ふぅ、と一つ息を吐く。

 

そしてくるりと、礼儀正しくアテネの方に向いた

緑川影明はーー

 

 

 

 

 

 

影明「申し訳ありません

でしたああああ!!!!学園長おおお

おおお!!!」

 

 

 

 

 

 

それはそれはすごい勢いで、しかし軍隊の如く

規則正しく、礼儀正しく土下座を披露した。

 

影明「この愚かな緑川影明!あなた様がこの

学園の学園長という事を知らずに!

数々のご無礼を働いてしまったこと!

誠にお詫び申し上げます!!」

 

影明は額を床に擦り付け、冷や汗をボタボタと

床に滴らせ、必死に謝る。

アテネはその様を見て、普段笑う事は滅多に

ない顔を実ににんまりと、勝ち誇ったように

清々しいまでの笑顔を見せて、しゃべり

始める。

 

アテネ「ん〜〜……どういたしましょうか〜?

私、リゼラベルツンはこのような非礼を

受けたことは生涯初めてですし〜?

少しばかり腹に一物残ってしまいますね〜?

これは〜?それなりの誠意を見せていただけ

ないと〜?収まりそうにないですねえ??」

 

アテネのそんな言葉を受けて、影明の悲鳴

のような焦りはますます加速し、その焦りは

影明に更なる懇願を加速させる。

 

影明「が、学園長!!誠に不躾かつ、ご無礼な

申し立てだと存じておりますが!!どうか

お聞きしていただきたい!!

私!緑川影明めは!普通の男子生徒でござい

ます!

妖魔はもちろん!!退魔士などともフィクション

の中でしか知らない!全く無縁の生活を送って

きた、ただの一般人でございます!!

そんな私が先ほど学園長がお見せいただいた

【変歳】という素晴らしい退魔の術を

存じてあるなどとお思いでしょうか!?

まさか年齢を変えることが出来ると私が

存じていたなどとお思いでしょうか!?

 

このような申し立てを述べることは大変無礼

であると存じてはおりますが!

何卒!その点をお踏まえしていただき!

何卒!何卒!お慈悲をお与えください!!

 

罰を受けろというなら喜んで受けます!!

トイレ掃除でも、いえ!学園中の清掃だって

望まれるならいたしましょう!!

 

ですので!どうか…どうか退学だけは!!

ご勘弁をーーーーーーー!!!」

 

影明は先ほどのアテネを上回るほどに

わんわんと泣いて必死に弁明と

謝罪を申し立ててくる。

そのあまりに必死な形相には見るものに

哀れみと同情を促してしまうものであり、

影明に熱い思慕を抱くユキが影明の

弁明に加勢してきた。

 

ユキ「学園長!この方の申し立てのように、

緑川さんは我ら退魔の事など何も知らずに

生きてきておりました!

それを妖魔に関わらせる事になり、

一般生徒には極秘であるこの【ヴァルハラ】

にまで来させなければならないほどの

怪我を負わせる原因になったのもこの

綾風ユキにあります!

このような事態になった事も、緑川さんが

学園長へ非礼を行なってしまった事も、

責任の所在はこの綾風ユキにあります!

 

影明さんを罰しないであげてください!!

罰なら私がお受けいたします!

どうか、どうか……寛大な処置を

お願いいたします!学園長!!」

 

ユキも影明の隣で深々と土下座を行い、

アテネに必死に弁明を行う。

 

ヒカル「いえ学園長!この緑川くんは私の

弟、ショウを助けるために妖魔へと立ち

向かったんです!

責任ならむしろ私、姫野ヒカルにあります!

罰するなら私を罰してください!」

 

それに加え、ヒカルまで弁明に参戦してきた。

ユキが影明の代わりに罰を受ける事を宣言

したため、それもあるが、ヒカル自身も

決死の思いでショウを救出してくれた影明には

多大な恩がある。

その影明を見捨てる事などは出来ない。

 

セイラ「……学園長?この緑川さんもこれだけ

反省していますわ。

どうか寛大なる御心をお与えしてあげてほしい

ですわ」

 

意外な事にもセイラも影明の弁明に参加してきた。

数々の無礼を行なった影明に対して、怒りを

示していたが、先ほどの涙ながらの懇願に対して

流石にちょっと可哀想と思ったのだ。

それに影明自身が供述した弁明にも納得がいく

ものであったし、何より、セイラ自身も先の事件

の一連での勇気ある行動で、この緑川影明の事を

かなり気に入ったのだ。

それが高潔なセイラをも動かす一因となった

のである。

 

そんなアテネの答えは実にあっさりしていた。

 

アテネ「分かっていますとも。そんな事で

緑川くんを退学になんてしませんし、罰を

与える事もいたしませんよ」

 

影明「マジすか!?」

 

その言葉に影明が真っ先に食いついた。

 

アテネ「えぇ、むしろ私としては緑川くんに

お礼を申し上げたいほどです。

よくぞ私たちの仲間を守ってくれました。

学園を代表してお礼を申させてください」

 

そう言って、アテネはただの1学生である

影明に深々と頭を下げてお礼を申し上げる。

 

影明「いや、そんな!やめてくださいって!

学園長!俺は当然のことをしたまででして…」

 

そんな学園のトップに直々に頭を下げられた

影明はあたふたと慌てふためく。

 

ヒカル「私からもお礼を言わせて!緑川くん!

ショウを助けてくれて本当にありがとう!!

何度お礼を言っても足りないぐらい緑川くん

には感謝しているんだ!

今度、何か別の形でお礼させてくれるかな?」

 

ヒカルもそれに続き影明にお礼を述べる。

ショウの姉である当人なのだ。

この場で一番影明に礼を言いたかったのは

間違いなくヒカルであったろう。

 

ユキ「緑川さん、私からもお礼を言わせて

ください。

私たちの仲間であるショウ君を助けていただき

本当にありがとうございます」

 

名家の令嬢らしく、ユキは優雅に頭を下げて

お礼を申す。

 

セイラ「私からもお礼を言わせてくださいまし。

ショウを助けてくれて、本当に、本当に

ありがとう」

 

セイラも礼を言う。

その声には本当に感謝の気持ちが込められて

いた。

恋慕の情を抱いている男の子を助けてくれた

のだから、それも無理はない。

 

影明「や、やめろって!俺は誰かにお礼して

欲しいとか、そんなん思って助けたわけじゃ

ねえって!

俺がただ見捨てらんないから勝手に無茶して

助けに向かっただけで、そんなお礼を言わ

れる筋合いとかねーからさ!」

 

影明は……何故か『罰が悪そう』に慌てて

3人に言葉を返す。

 

瞬「……優、何か俺たち完全に蚊帳の外なん

だけど…」

 

優「そだねー… 僕たちは影明のモテモテ

ハーレムを見にきた訳じゃないんだけどね」

 

勝平「全くその通りだぜ…!影明の野郎!

ヒカルにまで礼を言われやがってえぇぇ!」

 

優「ウーワシットミグルシー」

 

完全にいないもの扱いにされてしまっている

一般男子生徒3コンビは口々に不満の声が

噴出する。

 

喜川「はっはっはっはっはっは!!!

こんなん見せられちゃ、確かに妖魔の話や

退魔の歴史っていう話も信じない訳には

いかないなぁ!!」

 

そんな中で、喜川が大笑いする。

その大笑いに全員の目がそちらの方向に向くと

喜川は肝心な【アテネ】がここに来た意味を

続けるべく、そして自らが疑問に思っている

事を知るべく、本題へと戻す。

 

喜川「それで?学園長さん、そもそもだ。

何でその妖魔とやらがまだ【この世】に

いるんだ?」

 

その質問に退魔少女たち3人と、学園のトップ

であるアテネの顔つきが真剣なものへと変わる。

しかし、そこで待ったをかける者が出る。

 

優「いや、その前に、僕たちにもその妖魔って

奴と、退魔の歴史ってやらを聞かせて

欲しいな。ここに来れたって事は僕たちも

もう無関係ってわけじゃなくなったんだろう?」

 

優たち3人は影明を聖徒会メンバーと共にここ

ヴァルハラに担ぎ込んできたが、アテネと会うのは

これが初めてであった。

であるので、アテネが話した退魔の歴史はまだ

聞いていないのだ。

 

喜川「あー、それは俺が話そう。学園長さんが

した説明だと、少し長くなりそうだし、要点だけ

かいつまんで説明する。それでいいかな?

優くん?」

 

退魔の歴史の説明者に立候補した喜川が優に

確認する。

 

優「…はい。道夫さんの説明は分かりやすい

ですし、要点だけまとめて簡潔に聞けたら

僕としても大事なところの理解は出来ると

思います。瞬とかっぺえもそれでいいかい?」

 

優が2人に確認を促す。

 

瞬「あぁ、俺もそれでいい」

 

勝平「俺もそれでいいぜ。長いのは嫌いだし、

もし分かんなくても優に聞けばいいしな」

 

瞬「だな!」

 

優「……何でもかんでも僕に頼ってくるの

やめてくれないかな?

まぁ、とりあえずいいって事だね」

 

2人の無責任な了解に優が苦言を言うも、

場を進めるために喜川に了解の旨を伝える。

 

喜川「よし、じゃあ妖魔ってのは今から

1200年ほど前に突然現れた化け物の事で、

圧倒的な力で世界の大部分を侵略した。

それに対抗するためにこの学園長さんの祖先が

退魔士の力をもった人間たちを率いて

妖魔たちと永きに渡る戦いを始めた。

そして、今から23年前に史上最強の退魔士である

【ヘルメス】様とやらが妖魔の生みの親である

【妖魔神】を討ち取った、ということらしい

これで合ってるかな?学園長さん?」

 

喜川がアテネに事実確認をする。

 

アテネ「えぇ、その認識で合っていますよ」

 

アテネは喜川の説明に修正する事もなく

一言でOKの意思を伝えた。

 

優「ふむふむ、なるほど。流石だ。分かりやすい」

 

優も理解の意を示したが、勝平が疑問に思った事を

聞いてくる。

 

勝平「待てよ。じゃあ何で昨日の夜に妖魔っつー

化け物は出てきた?

妖魔の親玉とかいう【妖魔神】はそのすごい

【ヘルメス】っていう退魔士様が倒してくれたん

だろ?」

 

瞬「あぁ、23年前というつい最近とは言え、

昨日会った妖魔は残党ってわけじゃないんだろ?」

 

影明「あー、そうか。渋谷の閉鎖理由が妖魔が

原因なら残党だけで出来るわけねーもんな。

それこそ10年にも渡ってさ」

 

喜川「だからそれを俺は聞こうとしていたん

だがな…… それに、その疑問の答えこそが

学園長さんが話そうとしていた【本題】って

奴なんだろう?」

 

その疑問を受けて、喜川がそのままアテネに

対し、本題に入る事を促してくる。

 

アテネ「…それは「待ってください」」

 

アテネがその疑問に、【本題】を話そうと

したら、今度はユキがそれに待ったをかける

 

ユキ「それに関しては私からお話ししましょう。

その事に関してなら、学園長よりも私の方が

適任だと思いますし」

 

アテネ「……そうですね。では、ユキさん

お願いいたします」

 

アテネに促される形でユキが先の事件に関わった

4人が呼ばれた理由の【本題】について話し出す。

 

ユキ「確かに、妖魔の大元の生みの親であり、

親玉と呼べる【妖魔神】は歴代最強の退魔士と

謳われた【ヘルメス・ヒュラッセイン】様により

討ち果たされました……。

しかし、ヘルメス様は厄介な妖魔を討ちし損じて

しまったんです…」

 

瞬「厄介な妖魔?」

 

ユキ「えぇ、それが当時、妖魔たちを指揮していた

【妖魔王ヴェゼル】です。

このヴェゼルは相当に厄介な妖魔だったと私は

聞いています。

力も他の妖魔より強大だったのは勿論だったの

ですが…それ以上に厄介だったのはヴェゼルは

相当に頭の良い妖魔だったんです。

それこそ、私たち人間にも何ら引けを取らない

ぐらいに」

 

影明・瞬・優・勝平「………」

 

その説明を受け、4人は大体を察した。

あの夜……対峙した妖魔は確かに知能が

低かったように思える、と。

影明に関してはバルムスの口から実際に妖魔は

種族として知能が低い事を聞いているのだ。

 

そんな中で、ヴェゼルは強いだけでなく、

頭もキレた。その上妖魔の指揮官たる

【妖魔王】だったのだ。

頭が優秀であれば、群れの力は強大に

なる。

 

ユキ「妖魔神の崩御により妖魔たちの力は

確かに衰えました。しかし頭脳に優れる

ヴェゼルは顕在だったため妖魔たちの

勢いを完全に挫く事は出来ませんでした。

 

だからこうして私たち退魔士と妖魔の

戦いは未だに続いているのです」

 

ユキがそう言って締めくくると今度は

セイラが説明の続きを話し出した。

 

セイラ「ですけれど、妖魔神の崩御は

妖魔たちにとって大打撃だったのは

間違いはありませんでした。

妖魔神が倒されてから一時は妖魔は

【現界】に現れることはなくなり、

本当に平和な時間がありましたの」

 

優「はい、少し質問いいかな?」

 

セイラの説明の途中で優が分からない事を

質問するべく手を挙げる

 

セイラ「なんですの?」

 

優「さらっと言ったけど、その【現界】って

のは何だい? 言葉を考えるに多分僕たちの

住んでる世界って事になるのかなって思う

けどね」

 

優の質問と同時に出した推察に対し、アテネが

答える。

 

アテネ「紅藤さんの推察通りです。【現界】と

いうのは我々退魔士が、我々人間が住むこの世界

に対してそう呼称しています。

というのも、妖魔はこの世界とは別の次元、

【妖魔界】が存在していると我ら退魔士は

目しています。

妖魔たちは【妖魔界】からこの【現界】に

やって来て、この世界を侵略しに来ている、

それが【初代アテネ・リゼラベルツン】の

見解です」

 

アテネの説明に優は『目を細める』。

しかし、切り替えるように優はセイラに

話の続きを促す。

 

優「なるほど。神無月さん、話の続きを

お願いしてもらっていいかい?」

 

しかし、優の促しに反応したのはヒカルだった。

 

ヒカル「待って、ここからは私が説明するよ。

と言っても、私も学園長や琴音先生から説明

されてるのを説明するから、2人の受け売りに

なるんだけど… けど、この中だと私が一番

【妖魔がこの世に現れた事件】に関係してる

だろうから」

 

影明「え?事件って……まさか渋谷の事件とかと

関係してたりするって事か?」

 

影明の疑問にヒカルが肯定の意思を示し、

そのまま【妖魔の再襲来】の核心を話す。

 

ヒカル「うん、そうなんだ…。実は私は退魔関係

とは無縁のただの一般の家庭だったんだ。

セイラちゃんやユキちゃんのように代々退魔に関係

してきた施設や家なんかじゃなく、普通のお母さんと

お父さんと…そして、ショウと一緒に暮らしていた

どこにでもあるような普通の家庭…。

あの渋谷の事件が無ければ、私は多分【退魔士】には

なっていなかっただろうし、そもそも【退魔】や

【妖魔】の事さえも知らない普通の一般人として

今も生きていたと思う。

 

だけど……10年前の……私が小学生に上がる前に

あの渋谷の事件が……【私の家】で起きた」

 

その言葉に男性陣の全員が度肝を抜かれた。

 

勝平「え!?ヒカルちゃんって…渋谷に

住んでたの!?」

 

ヒカル「うん。そうだよ」

 

勝平「かーっ!……東京の渋谷なんて土地がバカ高い

のに、そんな所に住めるなんて、ヒカルちゃんも

元は相当裕福に暮らしてたお嬢様だったんだなぁ…」

 

ヒカル「え!?そ、そうなのかな?」

 

影明「そーなん!?」

 

瞬「え?何で影明がおどr優「おバカは

黙ってて?」」

 

瞬が困惑した言葉をかけようとしたら優が

それに被せるように影明に黙るようにしゃべる。

瞬は優が何故か『隠す』ように発言したように

思った。

 

アテネ「まあ、今はその話は良いでしょう」

 

ユキ「そ、そうですね!話に戻りましょ?

ヒカルさん」

 

アテネとユキが話が脱線してしまったのを元に

戻すべく、ヒカルに声をかける。

その時のユキはどういうわけか『慌てていた』

ようだった。

 

ヒカル「う、うん…。あの時は私はまだ5歳

だったからよく覚えてないんだけどそれは

本当に突然の事だったと思う。

 

私の家に、【妖魔】が襲ってきたの。それも

大勢…。

何で妖魔が突然現れたのかとか、どうして

私の家を襲って来たのかとか、そもそもどこから

来たのかなんて分からない。

とにかくわからない事だらけだけど、妖魔は

私の家に突然襲って来たんだ。

そんな妖魔の群れに退魔も何も知らない普通の

家庭が対応なんて出来ると思う?

当然出来るわけがない。私のお父さんは殺され…

お母さんは無茶苦茶に凌辱された末にゴミの

ように殺し捨てられた……

あの【バルムス】に!!」

 

ヒカルは瞳に憎悪を込めてしゃべる。

その出てきた【バルムス】という言葉に

影明は今日一日で一番の仰天を示す。

 

影明「え!?バルムスって……俺が何とかして

倒したあの妖魔の事かよ!?

え!?じゃあそのバルムスって生徒会長さんの

両親の仇だったんか!!」

 

影明が驚きのままに叫んだ言葉を聞き、ヒカル

虚しさを滲ませ、先ほどの憎しみにこもった声とは

正反対にトーンを落として返答する。

 

ヒカル「うん…。だから本当はあのバルムスは

私の手で殺したかったんだけどね…

でも!最後のバルムスの「俺がただの人間如きに

いいいいいいい!!」って絶叫したのを聞いた時と

心底悔しそうにして顔を歪めたまま死んだのを

見た時は心がスカッとしたよ!

それだけでも、私は十分に救われたから!

だから影明くんは気にしなくてもいいよ!

私、影明くんには本当に感謝してるんだから!」

 

ヒカルは明るく言い放った。

しかし、話し始めた時のヒカルは確かに声のトーン

は低く、やるせなさが滲み出ていたのだ。

だからその様子が空元気である事は影明には

分かっていた。

ヒカルの本音は自分の手でバルムスを討てなかった

ことが悔しくて仕方ないのだ。

 

影明「そうか…」

 

影明はあえて何も言わなかった。

下手に慰めの言葉を言っても、ヒカルを傷つけて

しまうかもしれないと思ったからだ。

その時、ユキがじっとヒカルの方を見ていた。

ユキがヒカルに同情する気持ちの他に、別の【意図】

がこもっていた。

その視線はどこか不服そうであるが、誰も気づいて

いない。

 

ヒカル「それでね、私は意識が混濁していてよく

覚えてないんだけど、私の家があった場所に

【妖魔の孔】が出来てしまったの。

それが原因で、妖魔は再び【現界】へと姿を

現して、また退魔士の戦いが始まったの」

 

影明「何かまたさらっと新しいワード出てきてる

んですけど… 【妖魔の孔】って何なんすか?」

 

セイラ「まぁ、端的に言えば、この【現界】と

奴らの総本山である【妖魔界】を繋ぐ孔の

ようなものですわね。

妖魔神が健在だった頃の孔は、妖魔神を

滅ぼした時にヘルメス様が全て叩き潰した

のですわ」

 

優「…で、その妖魔を量産する厄介な孔が

またこの世に出来てしまった…と。

なるほど、つまり渋谷事件は表ではガス爆発

による、危険なガスが噴出する危険地帯に

なってしまった、と国は発表してるけど、

実際は【妖魔の孔】が出来てしまって、

妖魔の根城のようになってしまった、

という事が真相って事だねぇ」

 

勝平「まぁ、確かにあんな異形の化け物を

正直に報道しても誰も信じねえだろうしなぁ。

逆に好奇心旺盛なバカが無茶しでかして

無意味な被害を出すだけかもしれねえし」

 

瞬「そういえば、姫野さんは意識が混濁してた

と言ってたけど、そんな状態でどうやって

そんな凄惨な事件の現場から助かったの?

普通なら妖魔たちは姫野さんたちを逃すとは

思わないんだけど……」

 

瞬が疑問に思ったことを問いかける。

その疑問は確かな事だ。そのような凄惨な

現場からまだ当時5歳と4歳だった2人が

逃げ出せた事は、それこそ奇跡と言っていい。

ならば、瞬が聞いてしまう事は仕方がないと

言える。

 

ヒカル「それは…よく覚えてないんだ…。

ただ、『誰か』が私たちを助けてくれた事は

覚えている。『その人』が私たちの手を引いて

安全なところまで連れて行ってくれたんだ」

 

そうヒカルは答えると、ヒカルは顔を真っ直ぐ

にしてさらに言葉を続ける。

 

ヒカル「その後、私は琴音先生と出会って、

妖魔と退魔士の事について知った。そして

あの事件の事も…バルムスという存在も。

それ以来私は琴音先生の元で退魔士の修行を

積んで、退魔士になったの。

もう私みたいな人間を妖魔の餌食にされない

ため、バルムスから両親の仇を討つため、

そして、私たち兄弟をあの日、助け出してくれた

『あの人』を探し出して、恩を報いるために」

 

その言葉を発したヒカルはとても凛々しい、

まさに退魔士としても聖徒会のリーダーと

してもふさわしい佇まいだった。

それを見た影明たち男性陣がヒカルが最強の

退魔士と謳われている事にも納得がいくほどだ。

 

ユキ「私はヒカルさんとは小学1年生の頃からの

同じ退魔の修行を積んだ仲間なんです。

私もヒカルさんがいたから本家の厳しい退魔の

訓練も頑張れたんです。

私にとってもヒカルさんはかけがえのない親友

なんです」

 

セイラ「私は中学生になる時期にこの日本に

越してきた時に、お二人と知り合いましたわ。

時々ヒカルとユキの仲の良さには羨ましく

思ってしまう事がありますわ」

 

影明「そーいや神無月さんは何でこっちに

来たん?確か元々はイギリスに住んでたん

だろ?」

 

セイラ「まあ、理由は大きく2つありますけれど

一番の目的だった『1つ目』はもう果たす事は

出来そうにないから、2つ目である、現代に

顕現出来た【リゼラベルツン】様の学校が

日本で開かれる事を聞いたので、自分の

退魔技術の更なる向上のために【聖マリア学園】

に入学するためですわ」

 

影明「なるほど……ん?現在に顕在出来た…???」

 

さらっと言ったセイラの言葉を疑問符をいっぱい

浮かべて反芻している影明の疑問にユキが答える。

 

ユキ「ええ。リゼラベルツン様は初代からその

魂を器を替えながら存在し続けているんです。

ただ、器が替わる時にその新しい器に定着する

までに長い時間を要してしまわれるらしいの

ですが…」

 

影明「……エ!?」

 

またもや度肝を抜かれる爆弾発言をこともなげに

発言するユキに影明の発する声はうわずったような

実におかしな発音だ。

 

アテネ「そうですね。ですので、【ヘルメス】さん

が健在だった頃は私はいなかったのです。

先の戦いで器が激しく損傷してしまい、新たな

器に乗り移っていたので……

【ヘルメス】さんが健在だった頃に私も一緒に

戦えていれば妖魔王ヴェゼルも……」

 

そう言ってアテネは悔しそうに歯噛みする。

 

ヒカル「それで、今から約3年前に私とユキちゃん、

そして琴音先生は新たな器に生まれ変わった学園長

と出会った。

そして、学園長は現在の退魔界隈や日本政府に呼び

かけて、この【対妖魔前線基地】であり、【退魔士

養成学校】である聖マリア学園を創設したの。

セイラちゃんとは聖マリア学園の入学式の時に

知り合ったんだよ?」

 

ユキ「はい、最初はいざこざもありましたけど、

今ではセイラさんもかけがえのない仲間なんです」

 

セイラ「その時の節は本当に悪かったと思って

いますわ…」

 

ヒカル「そうだね!セイラちゃん、最初に会った

時、すっごい偉そうだったもん!」

 

ユキ「そうですね。それで琴音先生にその鼻っ柱

を折られて泣いてましたっけ?」

 

セイラ「ちょっ!?ヒカル!?ユキ!?」

 

ふふふと、聖女のように煌びやかに笑う3人。

だが、そんな神聖さが漂う雰囲気でも3人の顔は

年頃の女の子が浮かべるような純粋な笑顔その

ものだ。

 

影明「……もうこれから先、何言われても

俺は全て素面で受け止められる自信あるわ…」

 

勝平「だな…もう驚きを通り越して唖然と

するというか……」

 

優「こっちまで笑ってしまえるというかね」

 

瞬「ホント……世の中知らない事たくさん

あるよなぁ……

フミちゃん連れてこなくてホント良かった」

 

影明「確かに… 無意味に巻き込んでしまう

かも「ふーん?そんなこと言うんだシュン

くん?」し……ファッ!?」

 

優「何言われても驚かない自信はどこ

行ったのかな?」

 

驚いて影明が振り向いたドアの方に、何と

天宮文香が仁王立ちで立っていた。

 

影明「え、ええええぇぇぇ!?何でいるん

すか!?ここって一般学生には秘密の場所

だよね!?ここの防犯ザルか!」

 

瞬「ちょちょちょ!?フミちゃん何でこんな

ところにいんの!?

てかどうやって来たの!?」

 

文香「…シュンくんと遊びに行こうと私

誘ったのにシュンくん理由も言わずそれを断った

から、後つけてみたら、いつも一緒にいるあんた

たちの他に接点ないはずのそこのキレイな2人も

一緒に合流してコソコソしだしたからさ……

そんなん怪しさMAXじゃん?だからこっそり

ついて行ったんだよ」

 

勝平「マッジか……全然気付かんかったわ…」

 

影明「おぉい!スグルっち!?チミ元『黒悪』

でしょ!?何で普通に気付かず付けられてんだよ!」

 

優「……テヘペロ(^_-)」

 

影明「テヘペロじゃねええええええ!!」

 

セイラ「……その『ゴクアク』って言うの私すごく

気になりますわね。石山さんも言ってらしたけど、

何なんですの?どういう異名なのかしら?」

 

影明「あっやべ!基本秘密だったんだわ!」

 

優「やれやれ… 前も言ったじゃん。ただの的当て

が趣味でつけられた異名だよ」

 

セイラ「そんな遊びにつけられる異名の割には

随分と物騒な名前ですわね。

あなたのその頭の回転…、私の武器を見破ったこと…

何より、ユキの動きを見たその動体視力……

的当てを趣味とするただの高校生の特技にしては

些か常軌を逸していませんこと?」

 

優「………」

 

セイラ「改めて聞きますわ。あなた『何者』なん

ですの?」

 

ヒカル「確かに、セイラちゃんの言うように

私も気になってた」

 

ユキ「私もです。差し支えなければお教えいた

だけませんか?」

 

優(やれやれ…面倒な事になったな…)

 

影明・勝平(やべええええええ!!)

 

3人は警戒を露わにする。ここは【ヴァルハラ】。

前線で戦う退魔士の総本山のようなところだ。

であれば、色々と不審な点が多い優を警戒する

のは当然とも言える。

別に紅藤優を敵と疑っているわけではないのだが

今回の事件で知り合った4人の中ではこの【紅藤優】

が一番謎が多い。

ヒカルたちにとって、この紅藤優について少しは

知っておきたいのは山々だろう。

更に言えば、それは瞬も同じであった。

瞬が紅藤優の事を聞いても本人も、影明や勝平も

妙にはぐらかしてくるのだ。

こうはぐらかされれば瞬も気になってしまうのは

仕方のない事だろう。

そして、影明と勝平は焦っていた。

それは『ある人』から言われているため。

それがある……が、実は2人自身としてもあんまり

この紅藤優の『素性』に関しては知られない方が

いいと思っているためだ。

 

それほどまでに、その異名のように『紅藤優は

エグく、おそらくは多大に非難されるだろうのだ』

 

優「んー……まぁ、あんまり言うなって言われ

てるけど、別に言ってもいいよ。

そっちもあんまり知られてはならない事を

言ってくれたわけだし、何より僕の正体が

何も分かんないのも不安だろうしね」

 

影明・勝平(ファッ!?)

 

セイラ・ヒカル・ユキ・瞬「!」

 

優はあっけからんと、あっさりとその要求に

応じた。

優自身は別にそんなに自分の素性を隠したい

わけでもなかったのだ。

ただ『ある人』に黙っているように言われて

いるので、隠していただけなのだ。

 

優「僕はね…「ちょっと!?」」

 

影明・勝平(!!)

 

そんな優の正体の公開を防いだのは文香で

あった。

 

文香「私のこと無視しないでくれる!?

別にあんたの正体とかどうでもいいから!

それよりシュンくん!私に隠し事はなし!

今度除け者にしたらシュンくんでも怒る

んだから!!」

 

相当な剣幕で文香は瞬に迫る。

そんな様子にドギマギしながら瞬は答える。

 

瞬「だ、だって!言っても信じないだろうし…

何よりフミちゃんをわざわざ危険な事に

巻き込めないよ!」

 

文香「信じるよ!シュンくんの言った事なら

何でも!後、私を危険な事に巻き込めない

って言うけど!私シュンくんより強いから!

だからこそ危険なら私を巻き込んで!

私がシュンくんの事守るから!!」

 

瞬「フ、フミちゃん…」

 

影明(何この子女の子なのにかっこよすぎん?)

 

優「まぁ確かに瞬より強いだろーね。

鉄製の扉を蹴りでへしゃげたし」

 

勝平「…え?マジ?何その怪物」

 

喜川「……話を戻そうか。本題は分かった。

つまり、今回の事件に関わった連中は

これから先何かあっても良いように連絡先でも

交換しとこうって事か」

 

それまで静聴していた喜川が話を締めくくろうと

しゃべりだした。

その言葉に約2名が食いつく。

 

アテネ「えぇ、今回集まってもらった一番の

目的そのものが先ほどの退魔士と妖魔、

そしてこの学園の本当の目的について

伝える事でしたから。

最早妖魔に関わった者、そしてこの話を

聞いてしまった天宮さんも無関係では

いられません。

あなたたちは我ら退魔士が守るべき優先

対象となりました。

何かあれば連絡を取り合えるようにして

おくべきでしょう」

 

アテネからも肯定の意思を示される。

案の定それに一番食いついたのは石山勝平

だった。

 

勝平「はいはいはーい!それすっごく良いと

思いまーす!

じゃあ、学園長様から直々にご命令が下った

わけだしぃ〜?

ヒカルちゃん!俺と連絡先交換しよーぜぇ!」

 

ヒカル「…ソウダネ」(あーぁ……)

 

勝平「セイラちゃんもー!しようぜえ!」

 

セイラ「……ちっ!」

 

勝平「うーわ!ダイレクト!!」

 

意気揚々と勝平が真っ先にお目当てのヒカルに

連絡先交換を申し出る。

ヒカルはものすごく嫌なのだが、学園長直々の

命令となれば、断るわけにはいかない。

 

そして、もう1人内心同じぐらいに喜んでいる

人物もお目当ての相手に連絡先交換を申し出る。

 

ユキ「…と、言う事ですので緑川さん!

連絡先を交換しましょう!!」

 

影明「ん?okok……ほい!」

 

ユキ:パアアア!

 

影明と連絡先交換を終えたユキはそれはもう

あからさまに顔を綻ばせ、笑顔になる。

その笑顔はあまりにも嬉しいのか、

天使のようであった。

 

ヒカル(…あんなに嬉しそうに笑うユキちゃん

初めて見るなぁ…)

 

セイラ(…あんな笑顔見せられたらもう相手に

告白してるようなものですわね……)

 

ヒカル「よし!じゃあ影明くん!今度は

私とも交換しよ!」

 

何気なくヒカルが言った言葉にユキがピクッと

反応する

 

影明「ん?おーいい「ヒカルさん」」

 

影明がその申し出を受けるその前に、ユキが

ヒカルに呼びかける。

顔は笑顔であるが、相当に迫力がある。

その脅迫にも近い迫力にヒカルがちょっと

ビビりながらユキに尋ねる。

 

ヒカル「…え!?ユ、ユキちゃん…?

どうしたの…!?」

 

ユキ「どうしたの、じゃありませんよ。

ヒカルさん?ちょっと失礼にもほどがあるんじゃ

ないでしょうか?」

 

ヒカル「……エ?ナンノコトデスカ?」

 

ユキ「とぼけないでください!緑川さんを

下の名前で呼ぶのは、ちょっとどうなんです?

そんなに親密な関係でも….それもほとんど

初対面なんですよ!馴れ馴れしいにもほどが

ありますよ!」

 

ヒカル「え?いやそれは…影明くんの友達が

皆下の名前で呼んでるからつい…」

 

ユキ「それはご友人だから良いんです!

まだ会って間もない私たちが下の名前で呼ぶ

のはどうなのかと私は言ってるんです!」

 

ヒカル「…そんなこと言うけどユキちゃん

だって」

 

ユキ「?」

 

セイラ「ユキ、あなたの方こそ緑川さんを

下の名前で呼んでいらしたわよ」

 

ユキ「え!うそ!?私そんな事言って

ました!?」

 

ヒカル「言ってたよ。昨日の晩も時々「影明さん」

って呼んでたし、バルムスと対峙した時とか

ずっと下の名前呼びだったよ」

 

ユキ「う、うそ!?」

 

セイラ「それに緑川さんが学園長に謝っていた際に

ユキも一緒に謝った時に、ちゃっかり「影明さんを

罰しないであげてください!」…って言って

ましたわよ」

 

ユキ「えぇ!?う、うそ!!私ったらなんて

はしたない事を…!」

 

影明「いや、別にいいよ。下の名前で呼び

たかったら呼んでくれてもさ」

 

狼狽するユキの前に影明が割って入る。

 

ユキ「え…?いいんですか?」

 

影明「いーっていーって!俺のこと皆影明って

呼んでるから、俺としても下の名前で呼ばれた

方がしっくり来るしさ」

 

ユキ「あ…/そ、それじゃあ……

かげ…あきさん//」

 

影明「んー?」

 

ユキ「かげあきさんの…身は私が必ず守ります

から…// どうぞ、安心してくださいね!//」

 

影明「おう!こっちこそお願いします!」

 

ユキ「…はい//」

 

ヒカル(微笑ましいなー)

 

何とも微笑ましいやり取りの後、全員が

無事に連絡先を交換し終わり、その場は

そこで解散となった。

 

 

ちなみに帰る際……

 

影明「ありがとうな」ポン

 

勝平「助かったぜ!」ポン

 

文香「え、何?キモいんだけど」

 

優の恐ろしい素性公開をうやむやにしてくれた

文香に微笑ましい笑顔を見せた影明と勝平は

文香に引かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

-------------------

 

 

 

 

 

 

 

〜数時間前 新宿のある場所〜

 

バルムス「はっ!?」

 

バルムスは妖気の満ちる地にて目を覚ました。

目を覚ましたバルムスは自らの身体を見渡す。

 

バルムス「……どうなって…やがる?

俺は確かにあの時、あのクソガキにビルの

屋上から落とされて、あの像の槍に串刺しに…」

 

バルムスは自分が生きている事に驚いている。

確かに自分はあの時命を落としたはずだ、と

それなのに、自分は生きている。

この状況にバルムスの頭は混乱している。

 

バルムス「……ここは?」

 

バルムスは辺りを見渡す。そして気付く。

この場所自体に見覚えはないが、【この妖気】

には覚えがあると。

 

???「目を覚ましたか、バルムスよ」

 

バルムス「……やはりお前か、【妖魔王

ヴァルク】」

 

そう声を呼びかけ、奥から姿を現したのは

6腕のバルムスより大きな妖魔であった。

しかし、腕といっても人間の手のような

特徴を持つものは2本だけで、残りの

4本は対になるように鋭い鎌状と、

腕中に触手のようなものがうねうねと

蠢き、先端は3本の大きな触手が

蠢いている。

 

ヴァルク「クックック、貴様ほどの力を

持つ妖魔が随分なやられようだった

ではないか?

俺が拾ってやっていなければそのまま

死んでいたかもしれぬぞ?」

 

バルムス「なに?」

 

ヴァルク「グフハハハ!あまりにも凄惨に

やられすぎてしまって覚えてもおらぬか!

まぁ、俺が貴様を渋谷の道端で転がっている

のを見つけた時は随分と苦しそうに

唸っていたからなぁ!」

 

バルムス「……道端に…転がっていただと?」

 

ーどういう事だ…?俺は最期銅像の槍に

突き刺さって絶命したはず…

なのに、こいつは俺を道端で見つけたと

言っている…

そもそも俺はどうして生きていやがる?ー

 

バルムスの脳裏にはさまざまな疑問が浮かび

上がる。しかし、そのどれもが考えても

まるで分からないことだらけであり、

考えても無駄、とバルムスは思考を打ち切った。

 

ヴァルク「バルムス、貴様の部下も回収して

やったぞ?」

 

そう言いながらヴァルクが目を向けた先には

バルムスと一緒にいた蝙蝠型妖魔と蜘蛛型妖魔

がボロボロではあるものの、生きてその場に

いる。

 

蝙蝠型妖魔「ど、どうもバルムス様…」

 

蜘蛛型妖魔「失敗してもうた…」

 

バルムス「…ふんっ!生きていたか。

聖徒会どもが来たからとっくにくたばって

いるかと思っていたぜ」

 

蝙蝠型妖魔「え、えぇ!よく覚えてねーん

ですけど、生きてたみたいでさぁ!」

 

この蝙蝠型妖魔と蜘蛛型妖魔も間違いなく

聖徒会に殺されたはずであるが、そんな事

すらも覚えていないほどに妖魔の知能は

稚拙である。

 

ヴァルク「グフハハハ!バルムス!貴様は

渋谷に孔を創り出した功績で【妖魔大王】

様から最上等妖魔の位を与えられるほどの

妖魔の精鋭と聞いていたのだがなぁ?

やはり所詮はたかが中等妖魔風情の無能

であったか!」

 

心底見下した態度で嘲笑うヴァルクに

バルムスは舌打ちをこぼす。

しかし、今回の作戦を実行し、失敗

した事は本当であるので、何も言い返す

事ができない。

 

バルムス「そういうあんたはどうなんだよ?

【妖魔王】さん?」

 

出来ることといえば、ヴァルクに

言葉を返すぐらいのものだった。

 

ヴァルク「グフハハ!俺は貴様のような無能

とは違う。こいつを見るがいい!」

 

ヴァルクが指をパチンと鳴らすと、奥から

【1人の人間】が歩いてきた。

 

バルムス「…そいつは……!」

 

その人間は…なんと!

 

白鳥琴音「お初にお目にかかりますわ。

バルムス様。私、ヴァルク様の忠実なら

愛玩動物…いえ、家畜の白鳥琴音ですわ。

これからあなたがた妖魔様のために

この身を捧げさせていただく所存で

ございます」

 

そう言う琴音の顔は実に官能的で毒々しい

艶があり、恍惚と頬を染めて薄く笑っている。

 

バルムス「白鳥…琴音…。なるほど、あんたに

かかれば歴戦の退魔士だろうと敵ではないか。

しかし、この短時間でまさか完全に堕落させる

ほどとはな。

これが噂に聞く【暴陵の6腕】と呼ばれる

あんたの手腕ってか」

 

ヴァルクが『妖魔王』たる所以はその特殊な

6本の腕にある。

鎌状の腕はもちろん戦闘に対して用いられる

ものであるが、【暴陵】と呼ばれるものは

むしろ触手状の腕にある。

ヴァルクの触手からはありとあらゆる媚薬

成分のある淫液や身体改造を施す特殊な

体液も出す事が出来るし、その触手には

さまざまな淫術も刻み込まれている。

更には触手からは妖魔の卵も産み付け、

孵化させる事も出来るのだ。

 

妖魔としての大きな力を持っている事、

そして、ヴァルクの毒牙にかかった退魔士

はことごとく性の悦楽により、堕落させ

妖魔の僕にしてしまうその手腕により、

ヴァルクは7人の妖魔王、【7大妖魔王】

の一角として君臨しているのだ。

 

ヴァルク「しかし、この琴音とかいう

退魔士は存外しぶとかったわ。

この俺に催淫術まで使わせるとは…

流石は名を馳せた歴戦の退魔士と言った

ところよ」

 

バルムス「何だと?じゃあ完全にそいつを

屈服させたわけではないのか?」

 

ヴァルク「くっくっく…!なあに、時間は

いくらでもある。時間かけてゆっくりと、

しかし完全に戻らぬようにこの俺の虜に

してやるわ

 

それよりも、もっと良い朗報がある」

 

ヴァルクがそう言いながらパサッと

バルムスたちの目の前に一枚の紙を

差し出す。

バルムスがそれを手に取りその紙を

広げてみれば…

 

バルムス「こいつは…奴らの根城の

【聖マリア学園の概略図】か?」

 

ヴァルク「そうよ。更に、とても使えそうな

『人間ども』の情報も載っておる。

貴様らは今体が傷つき、全力を出せん

だろう? こいつらに取り憑き力を

取り戻すのにはちょうどいいだろう?

それに、こいつらは中々に【悪趣味】な

奴らのようでなぁ…

【聖徒会】共を捕らえた後の調教にも

こいつらの知識は一役買ってくれそうぞ」

 

バルムス「ふむ…」

 

ヴァルク「そうと決まれば、明日、早速

奴らの根城の聖マリア学園に侵攻する!

貴様ら、このヴァルクの元に付いてくるが

いいぞ!」

 

バルムス「いや、ちょっと待て」

 

ヴァルクの声高々にあげる声明にバルムスが

待ったをかける。

 

バルムス「この概略図には確かに学園の構造

は載ってある。だが、あくまで構造だけだ。

学園内部に何が仕掛けられているとかそんなん

は載っていやがらねえ。

このまま馬鹿正直に攻め込んだとしても、

下手すりゃ返り討ちに遭うぞ」

 

そのバルムスの意見に琴音が肯定する。

 

琴音「確かに、学園内は妖力を検知する

探知装置や、対妖魔用のトラップがいくつも

あります。そして、それは全て学園長である

【アテネ・リゼラベルツン】により管轄

されているので、私でさえ妖魔対策設備の

全容は把握していません。

策もなしに攻め込むのは危険かと…」

 

そう苦言を呈すると、ヴァルクはあからさま

に機嫌を悪くさせる。

 

ヴァルク「ではどうすると言うのだ?まさか

怖気づいてそのように言っているだけでは

ないだろうな?」

 

琴音「いえ、決してそういうわけでは…!」

 

そんなヴァルクの様子に琴音が怖気づくが

バルムスは冷静だった。

 

バルムス「この女を使うんだ」

 

ヴァルク「ほう?」

 

バルムス「この女は奴ら【聖徒会】どもの恩師

と聞く。ならばこいつを人質にしてここに誘き

寄せれば、奴らは必ずここに助けに来るだろう。

そこを俺たちで袋叩きにしてやるんだ。

 

それに、奴らはこいつがもうこっちの手に

堕ちていることを知らん。

この女に不意をうたせれば確実に奴らを

昏倒させられる」

 

その言葉を聞いたヴァルクはニヤリと

口を歪ませる。

 

ヴァルク「クックック!無能であるくせして

頭だけは回るではないか。

確かに、その狡賢さと運があれば、まぐれで

【最上等妖魔】ぐらいにはなれるかもしれん

なぁ!ふははははは!」

 

バルムス「…ふん」

 

バルムス(俺はお前のオツムの悪さに辟易と

しているがな。

何で妖魔という奴らはこんな事すらも考え

つかないもんなんだろうな?)

 

バルムスは辟易としながらも言葉を続ける。

 

バルムス「問題のその人間どもだが…まぁ外に

出たところを狙うしかあるまい。

学園で襲おうとしても探知装置とやらが

あるなら侵入した途端一瞬で察知されちまう

からな

 

…いや、待てよ?確か『こいつの父親』は普段

外にいるんだったか…

じゃあ、蜘蛛!貴様が『こいつの父親』に接触

して乗っ取ってこい!」

 

蜘蛛型妖魔「了解です。バルムス様」

 

ヴァルク「クックック、方針は決まったな。

では、『この人間ども』とこの退魔士を使い、

【聖徒会】どもを堕落の底に落としてやるわ!」

 

バルムスはヴァルクの【聖徒会】という

言葉に瞳に憎悪を宿らせる。

しかし、それは【聖徒会】に対する

恨みではない。

その言葉を聞き、昨晩のビルの屋上での

光景を思い出したのだ。

つまり、バルムスが今胸に秘める憎しみ

の対象は

 

バルムス「あのクソガキィ…!絶対に許さんぞ

……!必ず見つけ出して…嬲り殺しにしてやる!!」

 

バルムスの興味は最早【聖徒会】にはない。

自らを討ち倒したただの人間、緑川影明に

対する復讐だけが今のバルムスを動かしている

のだーーー

 

 

 

 

 

 

 

×××××××××××××××××××××××××××××××××××××

 

 

ーいよいよ、『奴ら』に動いてもらう時か。

それなりには苦労したと聞いているから

せいぜいしっかり働いてくれよ?ー

 

 

×××××××××××××××××××××××××××××××××××××

 

 

 




うーわ!ちょっとで終わると思ってたのに
全然ちょっとで終わってねーじゃん!普通に
30000文字超えてるし!
次回、いよいよ聖徒会たちの陵辱シーン…
というかそもそもあんまり陵辱シーン書かない
かも…… 私が陵辱苦手な方ですし……
やっぱり情が移っちまうので……


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