だけど今回はそんなに『重要な回』ではないかも。
男子生徒A「お?影明!何してるんだ?」
影明「あぁ…… 学園長から報告をサボった
罰として、今学園中の掃除とモップがけを
命じられたんだよ……
ちゃんとやらなきゃ謹慎処分にするってよ…」
【忙しそう】にモップを手に持つ影明に
学園生徒が声をかけてくる。
クラスは別だが、下の名前でタメでしゃべって
くるあたり、それなりに影明とは親しいようだ。
と、言っても影明はほぼ全ての学園生徒たちと
これぐらいには親しくなっている。
まだ入学してから2週間ちょっとぐらいだと
言うのに、おそろしいコミュ力である。
おそらく『仲良くない』と言えるのは一部の中等部
からの富豪の内部生、それも退魔士である学生
たちぐらいだろう。
男子生徒B「何だそりゃ笑 とんでもねえ
罰則受けてんじゃん笑」
男子生徒C「ま、退学にはならなくてよかったん
じゃねーの笑
そんで?かっぺー達も同罪ってわけ?」
学生たちは影明をなじった後、そのさらに
奥でモップや雑巾を持った勝平、優たちも
なじろうと声をかける。
勝平「そーそー。ホンットこいつはぁ〜!」
優「こっちにまで迷惑かけないで欲しいよねぇ」
勝平や優は【わざとっぽく】不満を口に出した。
男子生徒A「お疲れさん笑 かっぺーと紅藤も
大変だよなぁ。毎回おバカのお守りに付き合わ
されてるイメージあるわ。
この分だと神崎も掃除させられてんだろ?」
男子生徒B「しゃーねえ。ちょっと手伝って
やろうか?」
影明「あー!ダメなんだよ!!俺たち以外の
誰かを手伝わせたりしたら、問答無用で退学に
するって学園長に脅されてるんだよ!!」
男子生徒たちの意外な申し出に慌てて
誤魔化す影明。
男子生徒C「マジかよ…… 意外とこの学園の
学園長って鬼だな…」
それを聞いた男子生徒たちの反応も先ほどの
からかうような態度から同情するような
反応に変わる。
男子生徒A「ま、そういうことなら手伝え
ねーな。無事に早く帰れる事を祈ってるわ〜」
男子生徒B「じゃあ俺たちもそろそろ帰るわ。
他の学園生徒達もみんなとっくに帰ってる
みたいだし」
男子生徒C「影明〜、また今度ゲーセンに
行って勝負でもしようぜ。バイバーイ」
影明「おう、バイバイ」
そうして、おそらく校内に残る最後の学園生徒
たちと別れ、彼らが見えなくなって、すぐさま
影明は携帯電話をかける。
影明「さっき、多分だけど最後に残っていただろう
竹崎たちと別れた。そっちはどうだ?」
瞬「こっちもぐるっと校内を見回してみたけど、
残っていそうな学園生たちは見当たらなかった。
こっちが最後に別れた学園生たちから30分ほど
経ってる。おそらく影明たちの方に残ってた
学園生たちが最後だろう」
影明「そうか」チラ
瞬の報告を受けて、影明はチラリと優のいる方向
へと目を向け、手のひらを下に向けて左右に振る
仕草をする。
それを見た優は左手の人差し指を1本立て、右手の
人差し指と中指で目尻をポンポンと叩く仕草を
返してきた。
それを見た影明がまた瞬に電話をかける。
影明「1時間様子見するだってよ。そっから
本格的な準備に取りかかる感じで。
1時間また掃除するふりしながらぐるっと
校内に見回したら体育館前に集合な!」
瞬「OK」ガチャリ
瞬からの電話が切れる。
影明「さーて、もういっちょ見て回ります
かね!」
影明は勝平と優に目配せした後、使用した
痕跡のないモップをプラプラと手に持って
3人は移動をまた始めた。
〜1時間後 体育館前〜
定刻になり、体育館前には5人の人影、
【緑川影明】【神崎瞬】【石山勝平】
【天宮文香】【姫野ショウ】が集まっている。
影明「よーしゃ、全員集まったな」
辺りを見渡して、影明は確認をした。
時刻は16時半を過ぎている。
瞬「それにしても……未だに『ヴァルハラ
でのお前の事についての話』が信じられない
よ… 『優』」
4時間ほど前、ヴァルハラで『妖魔への
確実な勝算』について、説明を受ける
中で、瞬は、いいや、神崎瞬、天宮文香、
姫野ショウの3人は『紅藤優』を知った。
しかし、それはあまりにも現実離れしており
にわかには信じがたいものであった。
だが、『あんなものを見せられては』
信じざるを得なかった。
文香「……マジでさ、何で『そんなものを
持てるわけ?』てか、『それ』自体明らかに
常軌を逸してると思うんだけど……」
文香は優の腰あたりを見据えてしゃべる。
文香は『それ』と呼ぶものの方に驚きを
大きくしているようだ。
そう、『それ』こそがアテネを説き伏せ、
作戦を実行に移す事を許された最大の
事柄だった。
優「ま、色々あるんだよ。『ここら辺』は
あまり詮索しないで欲しいな」
勘弁してくれ、というように両手の腹を
左右に上に向け、"やれやれ"というような
仕草をする。
ショウ「あ、あの!皆さん」
突然、それまであまり言葉を出さずに
静かに佇んでいたショウが口を開いた。
ずっと静かにしていたいかにも気弱そうで
華奢な男の子が強い声音で言葉を発した
ので、その場の全員が軽く驚きながら
ショウの方を見る。
ショウ「え、えと…その……」
しかし、その場の皆に注目され、緊張して
しまったのか、ショウは先ほどの勢いを
くじけ、オドオドし始めた。
元々引っ込み思案な性格をしているショウ
には、多くの人に注目されるというのは
苦手なのだ。
影明「ん?何だ?ちょっと気が引けちまった
のか?」ポン
ショウの心情を鋭く察した影明は肩をポンと
叩く。
ショウ「あ…」コクン
ショウは恥ずかしそうに頷く。
その様子を受けた影明はニッと笑って
優しく、そして力強く励ます。
影明「……姉ちゃん助けるんだろ?
じゃあ自分の言いたいことは遠慮なく
言ってみ? 別に俺たちはショウくんの
ことを馬鹿にしたりしないぜ!
俺たちもショウくんも以上も以下もない
同格、姉ちゃんたちを救おうっていう
志を同じくした仲間なんだからさ!」
悪戯っぽく笑うその顔を見たショウは
今の自らの心を支配する怖れが
取り払われていくように感じた。
そして、代わりに勇気が心に満ちて
いくのを感じる。
自分がビクビクしていたのが馬鹿
らしく思えてしまうほど、ショウは
その笑顔に勇気をもらった。
そうして、その温かさに触れたショウ
は目尻に涙を浮かべながら、最初よりも
強い言葉を発した。
ショウ「お姉さんを…お姉さんの大事な
人達を救けようとしてくれて、ありがとう
ございます!
そして……あの日の晩!僕を救ってくれて
本当にありがとうございました!!
感謝してもし切れません……
でも!この恩は必ずお返しします!!」
ペコリと頭を下げて、深く感謝の念を
込めてショウは礼を言った。
影明「くっ、ハッハー!なぁーんだ!
そんな事か!じゃあわざわざ礼を
言うのは間違いだよなぁ!
誰かを助けるなんて『当たり前』の
ことだろ?
ましてやそれが友達になった奴なら
なおさらだろ?なー!瞬よぉ!」
瞬「そうそう。クラスメイトだしさ。
見過ごせる訳ないし!
ショウくんがお願いに来なくたって
俺たちは綾風さんたちを救けに行ってた。
だから俺たちは礼を言われる筋合いなんか
ないよ」
文香「うん。あたしだってシュンくんを
助けたいって方が主だし。ま、もちろん
同じ学園仲間を救けたいって気持ちも
あるけどね。
つまり、あたしたちがやりたいから
やってるだけだから!」
優「まー、僕は勝算しかないからやるって
だけかもねえ〜」
勝平「おまっ、こんな時まで『リアリスト』
発動させるのやめろ!嘘でも気にするなって
ぐらい言え!」
そんなショウを迎えたのは、和やかな
言葉と温かい笑いである。
温かい人たちの温かい言葉の出迎えに
ショウは目尻の涙を更に加速させて
ポロポロと地面に向けて涙を滴らせた。
ショウ(
良かった…!)
ショウは心の奥底の深い場所にまで
その想いを深く刻み込んだのであった。
ーあ、あの!ー
そんな良い雰囲気に包まれていた影明たちを
一気に緊張に引き戻した。
しかし、その声のした方を見たら意外な人物が
そこに立っていた。
瞬「え!?水無月さん?」
水無月楓「う、うん!ごめんね?驚かせ
ちゃったかな…?」
瞬「そ、それはもう…」
意外も意外。【水無月楓】が話しかけて
きたのだ。
この訪問者の【事実】に瞬が応対している
影でコソコソと4人が会話する。
影明(おいおいおい!なぁーんで水無月が
いるんだよ!?見逃したかぁ〜???)
勝平(あんだけ見廻りしたってのにか?
最後に1時間追加で見廻りしたのに
見落とすか?)
優(うーん……)
文香(……てゆーか、何でよりによって
あの子なの? ホントにあんたたち
ちゃんと見廻りしたんだよね?)
勝平(ちょっ、やめろ!あからさまに
不機嫌な顔するなって!)
影明(そうだよこえーわ!)
優(しかし、僕が気づかないなんてね…
これは彼女の事は疑ってかからないと
いけないかもね…)
ヒソヒソ話していたら、瞬と楓の方で
進捗が生じる。4人もちゃんと2人の
会話が聞こえている。
瞬「えっと…、何でこんな時間まで
いたの?それに何でここに?」
瞬が今まさに4人が疑問に思っている
事を楓に聞いた。
最も、瞬自身も万全と言ってもいいと
思える程度には見廻り、確認をしたと
思っていたので、自らも疑問に感じたから
こそ質問しているのであるが。
楓「えっとね… 神崎くんと一緒に帰ろうと
思ってて… 校門でずっと待ってたんだけど
中々来なかったから、気になって学園に
戻ったら………
その…た、体育館前で影明くんたちと集まって
いるのを見て、それで……
ご、ごめんなさい!隠れて様子を見てたの!
だから、事情は分からないけれど、神崎くん
たちが真剣に何か大事な事をしようとしてる
のは分かるの!
その、だ、だから… 私にも手伝わせて
欲しいの!」
瞬「そうなんだ…って、え!?」
文香「はあ!?」
影明「まさかの展開ぃ!?」
優「………」じっ
勝平「………」あー
楓が理由を話した後の突然すぎる
協力を願い出てきたことに、瞬は
驚く。
瞬の後方4人もそれぞれ反応を
示している。
瞬「え、えっと……水無月さん、気持ちは
嬉しいんだけど… 今回は流石に協力を
願えないよ。今回俺たちがやろうとしてる
事は、とても危険な事なんだ。それこそ
命に関わる…いいや、そんな生温いもの
じゃない。
正真正銘、命をかけるんだ。
死んだっておかしくない。
そんな事に水無月さんを巻き込めない。
だからごめん。気持ちだけ受け取らせて
もらうよ」
瞬は和やかに微笑んで楓の申し出を優しく
断った。
驚きこそすれ、突拍子もない協力の申し出の
理由を問う事はなかった。
この水無月楓は瞬によく付いてきていた。
そして、瞬はよく影明たちとよく行動を
共にし、遊びに出かける仲である。
今ではすっかり目立つ影明に勝平と優の3人組、
ではなく瞬を加えた4人組という印象を生徒の
間で持たれている。
であるため、必然的に楓も影明たちと遊びに
行く事が多くなってくる。
そのため、【緑川影明】【神崎瞬】【石山勝平】
【紅藤優】【天宮文香】【水無月楓】
この6人が影明のグループという風に学園は
認識しているほどだ。
更に理由はもう一つある。
それは、楓は瞬に対して常日頃から相当協力的
ということだ。
瞬には楓の
だが、それでも楓の普段の態度は瞬にとって
理由程度にはなるのだ。
話は戻るが、無闇に無関係な人を、それも大切な
【友人】を巻き込みたくない瞬は楓の申し出を
断るのだが
楓「いいの!例えすっごく危険だとしても……
神崎君のためなら私、命をかけれるよ!
私は、神崎君の力になりたいの!!
そのためなら死んだって構わない!!
だからお願い…!私にも手伝わせて…!」
楓は瞬の断りに食い下がってくる。
その迫力は凄まじいもので相当の覚悟が
こもっている。
目には涙を浮かべ、悲哀そうに訴えてくる
様子から【よほど瞬の力になりたいようだ】。
瞬は多大の感動と少しの困惑を感じる。
水無月楓は普段から誰にでも優しく、
クラスメイトが困っている時にも率先して
助けている。
その親切心と友人思いが死ぬかもしれない
危険な作戦にすら協力を志願するほどに
強い。
そんな楓の人格に対して瞬は大きな感動を
覚えたのだ。
一方で楓の様子を見て、「何故それほど
までに危険な作戦に協力したいんだ?」
という困惑を少しだが同時に覚える。
楓の気迫の強さに押されそうになる瞬だが
瞬「ダメだ。今回ばかりは頷くわけには
いかないよ。本当に危険なんだ。
死んだっておかしくないって言ったけど、
もしかしたら死ぬ確率の方が高いかも
しれない。
……俺の親は、いいや、妹もとっくに
他界してしまっていて、親戚皆から
煙たがれているから、俺は天涯孤独だ。
……だから俺が死んだって誰も悲しまない。
だけど、水無月さんは違う。両親がいる。
妹さんがいる。お兄さんだっているんだよね?
水無月さんが死んでしまったら両親も、妹さん
もお兄さんも皆悲しむことになる。
……俺には残される者の辛さが痛いほどよく
分かる。
だから悲しませちゃダメだ。…水無月さんには
まだ本当に愛してくれる人たちがいるんだから
わざわざその人達を置いて去ることになるかも
しれない真似をしちゃダメなんだ!
俺の力になりたいっていうなら… 家族の元に
帰ってあげてほしい」
逆に楓の気迫を飲み込むほどに強く、真っ直ぐ
楓に言い放った。
楓は瞬にとっても一度はほんの少しの淡い恋心
のような気持ちを抱かせた可憐な女の子だ。
だから、他の学生たちと比べても楓は余計感情が
移入しやすいのだろう。
瞬は楓には家族と一緒に幸せに過ごしてほしい。
…自分と同じような悲しみを他の人に味わって
欲しくないのだ。
自らの想いを超える強く、優しい拒絶を楓は
受けて、思わず身じろぎしてしまった。
瞬の昔話を聞いていたからか、瞬の拒絶に
強い説得力を感じてしまったのだろう。
だが、彼女は聞き取れないほどの声でボソリと呟く。
楓「……でも……天宮さんが一緒だよ……」
文香「……ホント無理。あの子ちょっと脅して
シュンくんから引っ剥がす」
影明「ちょっちょちょちょー!?マジこえーん
だって!顔とんでもないことなっとるし!
可愛い顔してる女の子の顔やないやんけ!」
文香「うっさい。あたしは不良つってんでしょ。
自分に可愛げがあるなんて思ってないし、別に
求めてもない」
影明「まー確かに水無月の方が顔可愛いのは
確か」
文香:ブチ ギロリ
影明「や!やめろ!失言だ!怒りの方向を
こっちに転換するんじゃねえ!?」
勝平「しかし確かにあの子は厄介だぞ〜」
優「そうだね。あからさま過ぎる。敵側の
スパイの可能性もあるし、脅してさっさと
追い払うのが吉かな」
勝平「いや、そういう意味の厄介じゃねーって」
優「? どういうこと?」
影明「確かに。意味分からん」
勝平「いや鈍感か!……あのな?誰がどう見ても
あの子が瞬の事が恋愛的に好きなのは間違い
ねーんだよ」
影明「だろうな。んで?」
優「…え?そうなの?……マジか〜。水無月さん
おっぱいでかいから注目してたのに……ショック。
まぁ、いい。それでそれが何の関係があるの?」
勝平・影明・文香「……」じとっ
勝平「でだ、俺たちは間違いなく校門も見に
行った。だけど、目ん玉ひん剥いてまでちゃんとは
見てねえよな?軽く校門の辺りを目視で見回した
ぐらいだな? 何度か行ったけど、確かに誰も
いなかったよな?」
影明「そうだな。だからこんなに驚いてんだよ。
何そんな当たり前のことをしゃべって…」
文香「は?当たり前?じゃあ何であの子いる
わけ? あんたたちがちゃんと仕事してない
からだよね???」
影明「だからいちいちメンチ切らないで
もらえません!?」
勝平「待て待て待て!話を最後まで聞けって!
そんで、あの子は校門で【ずっと】待ってたって
言ったわけだ。
……それって俺たちがパッと見ただけでは
分からないような所で待ってたって事だろ?
まぁ、校門の外までは見てない訳だけども。
……クラスであの子が瞬に話してた時も聞こえてた
んだけどさ、その時もあの子は一緒に帰ろうって
誘ってたけど瞬はちゃんと断ってたんだよな。
なのに、校門でずっと、しかもコソコソ隠れる
ような事までして待ってたとか、ちょっと普通じゃ
ねーんだよ。
間違いねえわ。あの子【メンヘラ】だぜ」
文香「………」
影明「は?めんへら?めんへらって何だよ」
優「確かに」
勝平「……この恋愛弱者どもが……。
メンヘラってのは基本は承認欲求の塊の
自己中のことなんだが、恋愛で言ったら
彼氏彼女への独占欲の塊の自己中だな。
あの子は瞬の事が好きだから、振り向いて
欲しくて、必死にあの手この手で瞬の喜び
そうな事をしてるわけだ。
それこそストーカーまがいになるような
事までしてな」
影明「良いんじゃねえの?それだけ好きって
事だろ?」
優「萌えるじゃん。すっごく」
勝平「いやいや!お前らはメンヘラと付き
合った事ねーからそんな事言えんだよ!
俺も2回ほど付き合ったことあるけど
メンヘラってマジ大変なんだよ!
10分おきにメッセージを送ってくるし、
返信しなかったら100回とか余裕で
超えるぐらい鬼電してくるわ。
挙げ句の果てには「かっぺーくんは
私より学業の方が大切なの!?」って
ヒス起こしてくるんだぜ?
メンヘラに一度気に入られたらホンットーに
大変なんだよ!」
影明「……何かお前が被害者面してんの全然
説得力ねーわ…
お前中学から彼女いんのに別の女の子と『S○X』
しまくってたじゃん。
マジで最低最悪だから彼女がそうなっても全然
仕方ねーと思うんだわ」
優「確かにカニカニ」
勝平「………ともかくだ、あの子とはあんまり
関わらねー方がいいと思うんだよな。
特に天宮の事があるし…」
文香「………」ギッ
影明「え?……あ〜………」
優「え?何で?どういうこと?」
文香「なるほどね… あたしがシュンくんの
幼馴染でいい関係を築いてるから嫉妬してる
ってわけか」
勝平「多分な。しかもついさっき現れました
って感じを出してるけど、下手すりゃとっくの
前に校門から校内に戻って来てて、瞬とお前を
ストーキングしてた可能性もあるかもしれ
ねーぞ?
あの子結構なメンヘラっぽいからな。
マジでストーカー行為もやりかねんぞ。
だから、あの子はこの作戦はもちろん、
これからも付き合い無くした方がいいと
思うわ」
影明「いやいや、何でそんな事言うんだよ。
水無月も俺らの大切な友達になってんだし、
かわいそうじゃねえかよ」
勝平「影明!お前はいつもお人好しが
過ぎるんだよ!誰にでも甘すぎだ!
友達関係、というよりも人間関係ちゃんと
考えて、付き合う奴は選ばねーと痛い目を
見るぞ!?
ってか、『もう既に痛い目見てるだろ!!』」
文香「ありがとね。かっぺー。後押しして
くれて。これでよりいっそうあの子を追い出す
決心ついた。
てことで、あたし行くね。最悪蹴ってでも
シュンくんから引き剥がす」ボキボキ
勝平「おう、がんばれ!」
影明「ちょいちょいちょいちょいちょい!?
やめろぉ!早まるな!!あなた男の俺たち
でもマジ怖いぐらいなのにあんな可憐な
女子に脅しかけちゃいけません!?
てか、かっぺーも煽るなっつの!!
す、すぐるぅー!お前も止め……ってあり?」
楓「おね…がい。おねがい!!私にも……
私にも手伝わせて!!
神崎くんのためになら……私、この命捧げたって
構わないの!
神崎くんの力になりたいの!!
おねがいぃ神崎くん…!
おねがぁい……」ヒックヒック
大粒の涙を大量に流して咽び泣くほどに必死に
懇願してくる楓に瞬は困惑を更に強める。
気持ちはありがたいと思うが、先ほど話した通り
瞬としては無関係の楓をわざわざ危険な事に
巻き込みたくはない。
その事に関しては実は文香にも同じ事を思っていた
のだが、文香は言って聞くようなタイプではないし、
そもそも強さも瞬より断然上であるため、
どちらかと言うと瞬の方が身の危険は上であろう。
だから一応納得はしたが、楓は完全にただの非力な
女子校生だ。瞬としてはどうあっても楓の申し出を
頷くわけにはいかない。
瞬「ーーいいや、ダメなものダメーー」
瞬が負けじと更に強く楓の申し出を拒絶をしようと
したその時、ひょいと瞬の前に割って優が入って
きた。
優「いやー、ありがとう水無月さん!助かるよ!
こっちも人手は少しでも欲しいからね!
水無月さんの協力の申し出は願ったり叶ったり
だよ〜!喜んで受け入れさせてもらうよ!」
楓「!!」
瞬「は?」
影明「え」
文香「は?」
勝平「はぁ!?」
ショウ「…?」キョロキョロ
突然割って入って突然勝手に協力申請にOKした
優にそれぞれが間のぬけた声を漏らす。
しかし、ショウだけは普段の影明達のことを
知らないため訳が分からずキョロキョロと皆を
見渡しているのだが。
瞬「ちょちょちょちょちょちょ!?ちょっと
待て!!? 何で了承してんだお前は!?」
当然のように即反論を優に返すが、優は
あっけからんと瞬に返した。
優「まぁまぁ、別にいいじゃないか。
言っただろ?この作戦は準備がメインな
ようなものだって。だから準備を手伝って
もらうくらいなら危険もないし、別にいいん
じゃないかな?」
瞬「いや、それはそうかもしれないけど……」
なおも渋る瞬に優は更に説得を続ける。
優「それにこうも言ったはずだ。実戦は"僕たち
がやる"と。まぁ、それもほぼ僕onlyのような
ものになると思うけど。
ぶっちゃけ言わせてもらうけど、作戦の危険な実戦
部分も担うのは影明と僕と勝平の3人でやるような
ものだから、水無月さんが実戦パートに加わっても
逆に瞬が実戦パートに参加しないとしても僕的には
関係ないんだよねえ」
手のひらを上に向けて、やれやれと言ったポーズを
する優と説得の内容を聞いて、瞬は少し傷つくと
ともに妙に納得感を得てしまった。
優の言う通り、いざ妖魔との戦いに入れば要になる
優が戦うようなものであり、自分は何もしないに
等しい、まさに役立たずのような役回りなのだ。
実戦に入る影明と勝平も優のサポートといった形で
戦闘をするのはほぼ優のみと言っていい。
そして地下で『
その作戦の内容にも反論はなかったほどだ。
要は完全に瞬は優に説得されてしまったのだ。
しかし、納得したと言う沈黙をする瞬に代わって
文香がツカツカと優に詰め寄って反論してきた。
文香「いやいやふざけないでくれる?つーか、
さっきの話聞いてなかったの?耳が馬にでも
なってたの? 何をどうやったらあの流れから
この子を誘おうって所に着地するわけ???」
今日一番恐ろしい顔をしながら優に捲し立てる
文香であったが、流石の『黒悪』と呼ばれるだけ
はある優は全く怯むことなく答えた。
優「……え?何が?」
……………………………………
文香「は?」
一瞬の間を置いて優の素っ頓狂な言葉にこれ
また間の抜けた声を漏らす文香。
優「?」
この場においては文香にとって憎たらしく思える
ように首をかわいく傾げる優。
どうやら本気で文香の意図が分かってないよう
だった。
そんな優を見てか、影明と勝平も続けてすぐ
詰め寄る。
影明「いや……冗談だろ?その「え?何のこと?」
っていう顔するのやめろ?この状況でマジ笑えんて」
勝平「そうだぞ?優くんともあろう者が悪ふざけを
していい状況かどうかぐらい見極められないなんて
ことないだろ?まさか本当に意味が分かってない
なんてことあるまいし……」
優「いや、こっちの台詞なんだけど…… 状況的に
考えて水無月さんにも手伝ってもらう方が合理的
だと思うんだけど」
………………………………………………
影明「うせやろ()」
絶対零度のような沈黙の後、時が止まるかの
ような絶句を漏らす影明。
ーー瞬間、その場の時間は勢いよく弾けとんだーー
文香「……こんの鈍感チビヤローが」
ヒュバッ!
ドオオオオオオオオオン!!!
鳴り響く銃声。煙をあげる銃口の先は先ほどまで
文香がいた場所に向けられていた。
"チビ"という言葉にいち早く反応した影明によって
文香は突き飛ばされていたのだ。
文香「……なに、してるわけ?あんた…?」
青くなりながらも優に目を向ける文香。
それに答えたのはそれ以上に青く、冷や汗を
流す影明だ。
影明「バッ!バババババカ
ヤロオオオオオオ!!?
それは禁句だあぁぁぁぁ!!!」
ものすごい汗を流しながら文香を叱責する影明。
勝平も瞬も優に言ってはならない【NGワード】を
文香が言ってしまい、顔面蒼白で汗を滝のように
流している。
優「今……なんつったぁ!!??」
目を血走らせ、血管が浮き出るほどキレている優が
銃口を文香に向けている。
優は自分の身長が低いことを死ぬほど気に
している。
そこをいじられると我を忘れてしまうほどに
キレるのだ。そう、"チビ"等と言った身長が
低いことを揶揄する言葉を聞いただけでもだ。
瞬「フミちゃん!!謝るんだ!!今すぐ!!」
勝平「それも誠心誠意!!魂を込めて!!本気で
涙を流して"それ"を言ってしまったことを悔いる
ようにな!!!!!」
影明「でなければ!!死よりも!!!恐ろしい目に
あって!!!!死ぬぞおおおおお!!!!!」
男3人がそれぞれ喚きながら文香に謝罪を求める。
しかし、文香も流石に最強不良と謳われただけの
事はあった。
すぐに気を取り直して、最悪の流れに向かっていく。
文香「チビって言ったんだよ、クソ鈍感チビ。
あたしらがしゃべってた恋愛の話すらも理解出来ない
なんてね? そのチビの見た目通り恋も幼稚園児で
止まってるようでちゅねぇ???」
ボキボキと拳を鳴らして優を睨みつける文香。
優「ふっ!あははははははは!!!1度ならず2度
までも!!しっかも面と向かって堂々と言ってくる
なんてね〜♪♪♪ こっれは〜♪♪♪ 先に目の前の
アバズレから僕が『黒悪』と呼ばれたもう一つの
由縁かつ、『メイン』の理由を思い知らせて
あっげる必要があるなぁ☆☆☆☆☆」
浮き出た血管が切れ、血が外に噴出するほど
怒りが限界突破している優は銃口をもう一丁
取り出し、完全に○る気で文香と対峙する。
瞬「あぁぁぁ……」
影明「アカン()」
勝平「オワタ\(^o^)/」
楓「ヒッ!」ブルブル
文香「やってみろ」
優「コ○ス」
まさに激突しようとする両雄ーー
「やめてください!!」
ーー辺りに響き渡るほどの幼なさの残る大声が
静止した。
文香と優も驚きで先ほどまでの殺気を止め、
大声の主の方を向いていた。
瞬達も同様だった。その大声の主はあまりにも
意外な人物の声だったからだ。
姫野ショウ:ハァ…ハァ…
大声を出す事に慣れていないショウが
はぁはぁと息を切らしつつも更に続けて
言葉を捲し立てた
ショウ「文香さんも!優さんも!!ケンカは
やめてください!! 今僕たちがやらないと
いけないことは何ですか!? ここで仲間割れを
することですか!? 違いますよね!?
僕たちがやらないといけないのは明日の妖魔との
戦いに備えることです!そのための準備をする
事ですよね!? だったら、こんな意味のない
ケンカはもうやめてください!!」
ショウは文香と優をまず叱責すると、続けて
瞬の方に向き直る。
ショウ「瞬さんもです!! そこまで協力を頼んで
きている女の人を除け者にしますか!?
確かに瞬さんの言うように命の危険がある!
危険な事に巻き込みたくないっていう瞬さんの
気持ちはわかります!!
でも、作戦上なら他の学園の皆も全員危険な目に
あう事になるじゃないですか!!
そういう作戦じゃないですか!!
だったら!!その女の人が妖魔と戦いたいって
言うのはそんなおかしなことですか!?
僕たちが負けたら!学園の皆が死ぬんです!!
だからこそ、僕たちと一緒にこの学園を守りたい
って思うのはそんなにいけない事ですか!?
今、僕たちがちゃんと団結しないと、明日の妖魔
との戦いにだって勝てっこありません…!
お姉さんやセイラさん、ユキさんを救う事も学園を
守ることも出来ない……!
だったら!!ケンカしている場合でも協力を
拒んでる場合でもないでしょう!!!!」
目に涙をいっぱい溜めながらも真っ直ぐな目で
こちらを叱責してくるショウ。
皆が皆、呆気に取られていた。小学生かと見間違え
てしまうほど、華奢な彼からこれほどまでの
大声量で、鋭さを持った叱責を受けるなんて
誰もが思っていなかった。
しかし、瞬は不思議と納得がいった。先ほどの
彼の姿に、あの時の【姫野ヒカル】の面影が
重なって見えたのだ。
体格が小さく、庇護欲を掻き立ててしまうほどの
弱々しい存在と感じてしまった姫野ショウは
確かに現代退魔士最強と謳われるほどの姫野
ヒカルの弟なのだ。
いざという時、力強い勇気と覚悟を持つことが
出来る。まさに姉とそっくりであった。
文香「……そーね。ショウくんの言うように
こんな事してる場合じゃないね」
優「全くそうだね。僕としたことが、まさか
こんないたいけな年下の男子校生に説得
されるなんて思わなかったよ。
流石は最強退魔士さんの弟というだけは
あるのかな?」
一触即発の雰囲気であった文香と優はショウの
気迫に当てられすっかり毒気を抜かれ、臨戦態勢
を解いた。
影明「……やるじゃん、ショウくん…」
勝平「さっすがヒカルの弟って感じだな…」
影明たちも見直したように感嘆の声を漏らす」
瞬「はぁ……、確かに優の言う通り恥ずかしい
限りだな…。こんな年下の男の子でも分かる
ようなことを叱られるなんてな」
瞬も瞬で反省していた。確かにショウの言う通り
作戦通りで行くならば学園生徒達は皆十分に
危険に晒してしまうような作戦なのだ。
そんな作戦をそもそも決行しようとしているのに
危険だのへったくれもない。
自分の行いは楓の【学園を守りたい】という
気持ちを踏み躙る行為そのものであったと。
どうせ作戦に参加させないとしても危険に
違いないのだ。ならば彼女の協力を甘んじて
受けるべきだったと瞬は反省した。
瞬は楓に向き直ると
瞬「ごめん。水無月さん。協力、喜んで頼んで
いいかな?」
楓「…!!!うん!!喜んでお受けいたします!」
バツが悪そうに楓に協力を要請し、満面の笑顔で
楓は受けるのだった。
文香「……チッ」
勝平「まぁ…今回だけは我慢するしかねーな」
文香の舌打ちに同情するように肩にポンと
おく勝平であった。
ーーその時
ミユキ「紅藤さん」
遠くから優の方に向けて駆けてきたミユキの姿が
現れた。
優「ん?……あー、ミユキさんどうだった?
調査の結果は」(まぁ、どうでもいいんだけど)
優が抑揚が抑えられた間延びする口調でミユキに
聞く。
ミユキ「はい。…すごいですね。紅藤さんが
睨んだ通りでした」
優「……え?」
そんなミユキの答えは優も予想外のもので
あったーー
------------------
ユキ「いや!?いやああぁぁぁぁぁぁ!!!」
その頃、薄暗い肉牢のなかで悲痛な泣き声を
あげる少女の声がつんざいでいた。
昭三「ヒヒヒヒヒヒヒヒ! よもやこれほど
までに早く効力が現れ始めるとはのぅ…!」
そこでは乳房の肥大途中で母乳を搾られ
飲まれているユキの姿があった。
昭三「分かりますかな?お嬢様。自らの霊核
の霊力がすり減っていくのが」
ユキ「ひっ!ひぃっ!!飲まないで……
もう搾らないでええええぇぇぇぇ!!!」
調教前までの強気さはすっかり消え失せ、
今の彼女はか弱い一少女が泣きじゃくるような
弱々しい姿を晒し続けているだけである。
しかし、それも無理もない。
少し前に【今】の自らの身体が衝撃的な
性質に造り変えられていたためであった。
ユキの母乳は元々の天然のものに加え
単に自らや霊核の霊力が溢れて
しまった余剰分のものであった。
しかし魔乳鍼は乳房の肥大化と感度だけで
なく、母乳の性質をも変質させてしまっていた。
そもそも霊核の霊力の余剰分が母乳に代わって
しまうのは霊核がユキの心臓近く、乳房の近くに
位置しているためであった。
乳首に刺された魔乳鍼は乳管を通じてユキの霊力や
霊核にも影響を及ぼし、【余剰霊力だけ】を母乳に
変えてしまった性質から【霊力そのもの】を母乳に
変えてしまう性質へと変わり、今のユキは
乳房に性的刺激や搾乳を行われると、ユキ自身の
霊力と霊核の霊力を母乳に変換して
噴乳してしまう身体に変わってしまっていたのだ。
それが意味する事は、ユキは搾乳されればされる
ほど、自らの意思に関係なく強制的に自身の
霊力と霊核の霊力を奪われていく事を意味して
いた。
ユキ自身の霊力はまだいい。
しかし、霊核の霊力は話が違う。
そもそも霊核の霊力は退魔士の身体が持つ霊力
とはまた性質が違う。
一般的な霊力は使えば使った分だけ、減る。
ごく一般的な考え方である。
しかし、霊核の霊力は違う。
霊核の霊力は使った分の霊力はすぐさま回復し
元の霊核の持つ絶対量にまで戻る。
要するに普通の霊力にあるような相対量といった
概念がないのだ。
分かりやすく言えば、一般霊力が【水】で霊核霊力は
【器そのもの】と言ったところか。
つまるところユキ自身の霊力はいくら奪われた
ところで水を飲まれるようなもので、他の霊力源
から継ぎ足したり、自然回復する。
しかし霊核霊力が奪われるということは器そのものが
削られることと同義であり、一度奪われてしまえば
絶対量そのものが減り、もう二度と戻らないと言って
いいほどには回復することは困難だ。
ユキ(お父様……申し訳ありません……。
ユキは…ユキは……綾風の尊厳を傷つけて
しまいました…)
ユキは申し訳なさのあまり涙をとめどなく流す。
ユキの持つの霊核は綾風の秘宝そのもの。
霊核に傷をつけることは綾風の尊厳そのものに
泥を塗る行為と同義なのだ。
一方、昭三と同化した蜘蛛妖魔はこれ以上ない
至福に満ちていた。
妖魔の間でも最難関事項の一つであった綾風の
霊核の奪取がこのような形でいとも簡単に
遂げられるとは思いもしなかったのだ。
要はこのユキの身体の変質は蜘蛛妖魔としても
全くの計算外であり、あまりにも嬉しすぎる
誤算であった。
蜘蛛妖魔(この女子の母乳を飲み続けていけば
ワシはバルムス様やヴァルク様、いいや、霊核の
全てをワシのものにすればヴェゼル様すらも
超えられるのでは…)
蜘蛛妖魔がそんな浅はかな下剋上を夢見た
ところで昭三の意識が表層に浮かび、ユキに
更に絶望的な言葉を告げる。
昭三「ふふ、しかし流石は対魔の深い歴史を
誇る『日本一』の名家の秘宝。その莫大な
霊力量はとても1日で絞り切れるものでは
ありませんな。
しかし、お嬢様。日本一の湖、琵琶湖もかつて
その貯水量の膨大さに滋賀の民は慢心し、危うく
枯渇の危機に陥った事があるそうです。
然り、どれほど膨大なものでも必ず底があるもの。
ましてや霊核は湖の水のように、補充される事は
ない。
その膨大な霊核の全てを、いずれはワシのものに
してさしあげましょうぞ!その時こそ、綾風への
積年の怨みは果たされるのじゃ!」
ユキ「そ、そんな!?そんなのいや!いやです!」
自分の命よりも大切な霊核の消失。
ユキにとってそんな絶望を超えた言葉を聞かされ
最早綾風の次期当主としての立ち振る舞いなども
気にせず、か弱い少女のままに涙の粒を宙に飛ばし
狂ったように顔を青くさせて振りかぶる。
そんな惨めな綾風家次期当主の少女の姿を見て、
昭三は実に満足そうに、愉悦たっぷりで嫌な
笑みを浮かべた。
昭三「なぁに、安心してくだされ。例え綾風から
捨てられようとも、退魔士として死んだ身になろう
とも、わしはお嬢様を愛しましょうぞ!
全てが終わった後、お嬢様は黒岩ユキと名乗り、
わしの伴侶として…いや、性奴隷として生きていく
のじゃ!ヒヒヒヒヒ!!!」
ユキ「あ、あぁぁ……」
醜悪に嗤う怪老人の声が高々に肉の壁を反響する中で
ユキは絶望のまどろみにどこまでも飲み込まれていき
悲壮に涙を加速させていくのであるーーー
----------------------
優「ふむ……」
ミユキの報告を受けた後、顎に手をやりじっと
考え始めた優。
信用し切れていないミユキを一時だけ遠ざける
ための方便に過ぎなかった木原貞夫の件が
本当に今回の妖魔王の件に関わっていた
からである。
しかし、では完全に木原の件が優の想定の外であった
かと言えば実はそうではない。
そのため、今優は思案しているのである。
優「今日は……黒岩くんは来ていなかった……。
そこに木原貞夫は行方知れず…か。
なるほど。となると妖魔に取り込まれた人間って
のは黒岩くんと木原さんに違いなさそうか…」
そして一つの結論を出した。
それに対し、疑問の声がいくらかあがる。
影明「…?どういうことだ?」
瞬「あぁ。説明お願いいたします」
2人の問いに優は答える。
優「まず、黒岩くんと木原さんは繋がっている。
最も、協力関係というよりは黒岩くんが権力と金で
木原さんを下僕にしていると言った方が正しいかな」
影明「……何でそんな事知ってんの?怖えぇんだけど」
優「『僕の役割上仕方ないだろ。』影明にそんな事
言われたくないね」
影明の言葉に優はむっとした表情で言葉を返す。
その返答を聞いた影明は罰が悪そうに頭をポリポリと
かいた。
優「ま、話を戻して。黒岩くんの素行の悪さは
皆も周知してるよね?」
瞬「あぁ、まぁ…… あっ!そういうことか…」
優の質問を聞いて、瞬は得心がいったように
頷いた。
優「へぇ、瞬は分かったみたいだね。流石は
高難関高等学園の10位の成績優秀者だねえ」
優は瞬の事を褒める。
そして"瞬は"と言ったように、他の者はピンと
来ていないみたいだ。
影明「…え?うそ!?瞬は何か分かったんか!?」
勝平「マジか!」
文香「流石シュンくん♪」
楓「す、すごいね!神崎くん!」
ショウ「瞬さんも頭良いんですね…」
優「じゃ、僕の代わりに瞬に説明をお願い
しようかな!」
瞬「エ」
突然の優の無茶ぶりに瞬は一瞬呆気にとられる。
そしてすぐさま不満の声を漏らす。
瞬「いやいや!何で俺が!?優がしてくれた方が
分かりやすく皆に説明出来るんじゃ…」
優「いや、僕はよく説明が冗長とか回りくどいとか
って言われるからさ。というか、瞬も回りくどいっ
て言ってたでしょ? だからここは瞬にお願い
したいなと思ってねぇ〜」
ニヤニヤと悪っぽく笑う優。
その表情と先ほどの【回りくどい】という言葉を
聞いて、「あぁ、結構根に持ってるのか」と
内心反省した。
誰かに理解出来るように説明するというのは
難しい事だと瞬も感じているからだ。
瞬「……間違ってたら言ってくれよ?」
渋々ながらも瞬は優の意見に了承する意思を見せる。
影明「瞬先生!おなしゃす!」
勝平「オッナシャース!」
ここぞとばかりにからかうように教授願ってくる
悪友2人に少しイラつきながらも瞬は説明しだす。
瞬「えっと… 黒岩くんは日頃からの女生徒への
痴漢もそうだけど、姫野さんをよくターゲットに
していただろ? そして、バルムスって妖魔も
姫野さんをターゲットにしてるようだったん
だろ?」
と、瞬は影明に向けて話す。
影明「え?あぁ、そんな事言ってたぞ」
影明もそれに対して肯定の意を示す。
瞬「だから、黒岩くんとバルムスの目的が一致
したから、黒岩くんはバルムスに取り込まれた
可能性は十分にあると思うんだよ」
答え合わせをするように影明の返答を受けて、
自らの考えに相違がないかを確認して、話す
瞬。
勝平「……考えすぎじゃね?そう都合よく
事が運ぶか? そもそも黒岩も向こうも
お互いの存在の事を何も知らねえはずだろ?」
その瞬の考えを否定する勝平。だが、それを
更に否定したのは意外な人物だ。
文香「……いやいや、少しは頭を使いなよ。
さっき紅藤言ってたじゃん。黒岩と繋がりの
ある木原って用務員が行方不明になってるって」
影明・勝平「え」
楓「そっか…… 黒岩くんもその木原さんって
人も昨日は学校に来ていて、今日は来ていない。
つまり2人ともほぼ同時期に行方不明になってる
……」
瞬「そう。だからバルムスと共通の目的を持ち、
更にいなくなってる木原さんと関係がある黒岩
くんが妖魔側についたってことに間違いなさそう
なんだよな」
ミユキ「それだけではありません。黒岩源氏の
父親である黒岩昭三はユキお嬢様によくちょっかい
をかけていました。
妖魔とて、綾風の霊核を狙っているでしょうから
黒岩昭三とも同調している可能性は高いかと
思われます」
影明「な、なるほど…」
勝平「理解したわ…」
最後まで理解できていなかった成績不良者2人も
ようやく理解できたとばかりに息を呑んだ。
文香「やれやれ…ホントおバカは困るよね」
そんな2人を完全に揶揄する文香。
影明「うっせ!お前には言われたくないわ!
同じ成績不良者のくs」
文香「ちなみに入学1週間後の模擬試験で
アタシ50位以内だったよん♪」
影明・勝平「……エ」
自分もそう変わらないくせに揶揄するな
と抗議しようとした影明の言葉は文香の
言葉で完全に硬直した。そこに文香は更なる
追い打ちをかけにくる。
文香「なに〜?アンタ達はどのくらいだったの
かなぁ〜???」
影明「……192位です」
勝平「……168位でふ」
マリア学園の在籍校生は200人である。
その事から2人の成績不良さはよく
分かるだろう。
文香「…だっさ。そんなんでこのアタシが
アンタ達と変わらないとか何とか言おうと
したの? ちゃんと自分たちの頭の悪さ
理解したほーがいーよぉ?」ニヤニヤ
ニンマリと笑って小馬鹿にしてくる文香。
影明「………」目晒し
勝平「………」片手で顔覆い
最早ぐぅの音すらも出ない。
完敗である。誰の目から見ても完膚なきまでに
敗北をした愚か者2人である。
優「ちっなみにぃ〜!僕は上から4番目だった
よ〜ん!」
影明「ごめんなさい。黙ってくれませんかね?」
勝平「最高にイラつくんだが?」
文香「今回ばかりは右に同じく」
ウィンクしながら開いている右目にピース手を
当てて、盛大に煽ってくる優に影明たちだけでなく
文香もイラついた。
つい先ほどの10秒すら満たない時間でびっくり
するほどの同調っぷりである。
優「ま、とにもかくにもミユキちゃんの言葉が
本当だとしたら、ますます黒岩くんとその父親と
木原さんに間違いなさそうだね」
気持ちを切り替えるように、再び優が話し始める。
そこにミユキが意見を話した。
ミユキ「ならば、黒岩家は今や妖魔達の根城に
なっているでしょうね…」
優「いや、それはどうだろうね……奴らの襲撃が
昨日の晩だったとしたら、時間にして1晩程度…。
1晩あれば妖魔王とやらほどの力があれば占領も
出来るだろうけど、逆に言えば、【それだけ】しか
出来ない程度の時間とも言える。
黒岩家に本拠地に移すほどのメリットがあるか、
それとも別に優先すべき事柄があるか、と言う
ところじゃないかな」
ミユキの意見に優は否定とも肯定とも言えない
答えを返す。
それを聞いたミユキは内心で一瞬とも言える時間で
そこまでの思案を巡らせられる優に驚いていた。
優「……そうだね、黒岩家には何があるか知ってる
かい?物でも人でも何でも良い」
唐突にミユキに尋ねてきた優。その質問の意味が
分からず、ついミユキは尋ね返してしまう。
ミユキ「あ、えっと……ごめんなさい。どういう
意味でしょうか?」
優「あぁ、ごめん。ちょっと説明が必要だったね。
つまり、黒岩家を根城に出来た時に妖魔達が得る
メリットが何なのかを考えてみようかと思って。
今の所思いつく事と言えば、やはり不意打ちか
騙し討ちをかけやすいと言ったところかな。
妖魔達は人間の誰かに取り憑いてる事をこちら側は
知らないと思ってるだろうからね。
黒岩家の近くを通りがかった学園生徒に近づいて
拉致する、とかね。」
全員「…?」
優の言葉にその場にいる全員がピンと来ていない
ようだ。
それを察してか、優はまた話し出す。
優「分かりやすく言うなら、バルムスは影明を
物凄く憎んでいる訳で、影明はやたらと黒岩くんに
絡んでいるときた。なら黒岩くんのふりをして
影明に近づいて、影明を捕える、なんて事が出来る。
それも黒岩家を乗っ取っていたらより迅速に行動
しやすいし、捕らえた後の拉致もすぐだ」
影明「な、なるほど… さすが優だな」
ミユキ「本当にすごいです…」
長い付き合いのある影明達も含め、改めて
優の考察力はすごいと息をまいた。
優「最も、それをやるとするなら今日の朝にでも
行動に移していたはずだけど、やらなかったわけ
だからそれ以外に優先する事があったか、それとも
単に乗っ取りの最中だったか……
だから、後考えられる事としては黒岩家の使用人やら
関係者を使って、学園に偵察が出来る事と単に学園
近辺に身を潜められる事ぐらいと思ってるんだけどね。
だから、黒岩家についての情報は何か知らないかい
ミユキさん?」
改めてミユキに問う優。
しかしミユキの反応は芳しい物ではなかった。
ミユキ「いえ、残念ですが黒岩家に関して私は
情報をあまり持っていません。
ですが、黒岩家の関係者が学園にいるということは
無いと思います。学園内は身分に関わらず皆平等を
掲げておりますので、財閥関係者を学園内に入れて
一財閥が有利にならないようにしています。
教員等も財閥関係ではないかを厳しくチェック
しています。
もちろん綾風も関係者はいませんよ」
優「なるほど、それを聞けただけでも十分だよ。
ま、でも一応は乗っ取られ「あ、そういえば」」
優が締め括ろうと言葉を発したのを遮る、という
よりも何かを思い出したように今度はショウが
口をついた。
影明「んあ?何だ?ショウくん?何か思い当たる事
でもあるのかな?」
ショウ「いえ……藤悟くんはどうしてるんだろうと
思って…」
瞬「トウゴ……って誰なのかな?」
ショウ「えっと、僕の1つ歳下の男子生徒なんです
けど、藤悟くんも黒岩家なんです。別段仲が良い
わけでも無いんですけど、ちょっとした知り合い
程度ではあるので、どうなってるのか心配で…」
そう言って心配そうに顔を俯かせるショウ。
仲が良いわけではないと言いつつも心配する
のはショウの心優しさを如実に表していると
言えよう。
しかし、それに鋭敏に優が反応する。
優「その藤悟くんってのは、姫野さんたち誰か
3人の事をよく知っているのかい? 顔を
知ってるとか興味がありそうだったとかでも
良い」
またもや奇妙な質問をする優だが、ショウは
不思議に思いつつも素直に答える。
ショウ「いえ……ちょこちょこ話したりはします
けど、多分知らないと思います。知ってても名前
ぐらいじゃないでしょうか…?」
優「ふむ…」
それを聞くと優は突然眉間にしわを寄せて黙り
こんだ。
それは明らかに何かを深く考えている様だ。
このような様子を優が見せるので一体どんな事を
しゃべりだすのかと皆が一様に固唾を飲んで
見守っていた。
しかし、優が言葉にしたのはより一層に
突拍子もない、訳のわからない影明への質問だ。
優「……そもそも、影明は何で黒岩くんとやたら
仲良くなろうとするわけ?」
影明「……へ?何だよいきなり?」
優「いや、黒岩くんはあまりに素行が悪い。
普通の人ならまず間違いなく敬遠するような
タイプだし、実際皆黒岩くんを嫌ってるわけ
だけど、影明だけは相も変わらず絡もうと
してるじゃん?
まぁ、なんとなく分かってはいるけど、実際に
影明の口から聞こうと思って」
影明「いや、今答えなきゃならんか!?
今の状況に無関係過ぎない!?」
瞬「いや、ホントにさっぱりだ……。優の
洞察力を今更疑いたくはないけど
その質問は本気で場違いだと思う」
文香「そーね、雑談してる暇ないと思うんだけど」
楓「そうだね、真面目に作戦会議というか…
ちゃんと話し合った方が…」
勝平「いや、優は無駄なことなんてしない奴って
のは知ってるし、その質問にも何か意味があるん
だと思うがな。……まぁ俺も意図はさっぱり
分からんが」
勝平を除き、口々に優の質問に対して辛辣な
意見をぶつけるが関係なく優は再び質問する。
優「いいから答えて。僕にとっては大事な
ことなんだよ」
目を鋭く尖らせ、影明に答えを催促してくる。
その少し威圧のこもった目に影明は真剣さを
感じ取り、ちゃんと答えることにした。
影明「……まぁ、あいつは根は良い奴だと
思ってんだよ。いや、普段の行いからだと
微塵もそんな事感じさせないし、俺も
あいつの善行なんて一切合切見てないけど…
まぁ、直感ってやつかなぁ」
と、影明が述べるとそれに反対してきたのは
意外にもミユキであった。
ミユキ「影明さんは少しばかり見る目がない
みたいですね。黒岩さんは正真正銘のクズ
そのものです。中学時代、何人の女生徒が
彼の餌食になってきたか。
お嬢様ももちろんお嫌いでいられましたが
私もお嬢様の代行として学園に通っていた
ので、彼の素行の悪さはずっと目にして
います。
ヒカルさんもいつも被害に遭っていました。
残念ですが、彼に善性なんて欠片も
ありません」
顔をしかめ、いかにも不快そうに黒岩源氏を
バッサリと断ずるミユキ。
特に最後のヒカルの事を述べた時に険しさを
増したので、相当ヒカルへの彼の悪行を目に
したのだろう。ユキにとってもミユキにとっても
ヒカルはかけがえのない親友なので、そんな
親友が苦しむ様を見続けては、これほどまでに
彼を否定するのも仕方ないと言える。
だが、更にミユキの批評を優がバッサリと
否定する。
優「いや、僕は影明の方を信じるよ。というか
実は僕も同じ考えだしね」
そして、みんなには聞こえないほどの声で
ポツリとつぶやいた。
優「じゃあ、試してみる価値はありそうか……」
ミユキ「す、優さん!?あなたまで!?
いや、よく考えてみてください!
あなたも彼の日頃の行いを見ているの
ですよね? 彼のどこに善人さを
感じると「ミユキちゃん」」
そこに勝平が口を挟んできた。
勝平「悪いけどさ、『ユキちゃんや
ミユキちゃん程度じゃ影明には勝てねぇよ』」
勝平は真っ直ぐにミユキを見つめてミユキを
バッサリと否定した。
まるで『自分の言葉』に絶対の自信が
あるという様子だ。
ミユキ「……?」
ミユキは勝平の堂々とした佇まいと物言いに
たじたじと見つめる。
そう、自らが何も言葉を発せなくなるほどに
石山勝平に奇妙な説得力を感じてしまった。
優「よし、じゃあ二手に別れようか」
その奇妙な一瞬の沈黙を破って優は言葉を
発した。
それは作戦開始の合図でもあるのだが、次の
言葉にまたまた皆が驚くことになる。
優「まずショウくんと水無月さん以外の
人たちは予定通り学園で明日の仕込みをする。
そして、ショウくんと水無月さんは【黒岩邸】
に行ってもらう」
影明「は!?」
瞬「はあああああぁぁぁぁぁぁ!!?」
突然の黒岩邸への訪問をショウと楓に頼んで
きた優に2人は驚きいっぱいの声を漏らす。
そして、すぐさま瞬が猛反対した。
瞬「いやいやいや!!何で2人を黒岩邸に
行かせるって話になるんだ!? 妖魔の
根城になってるかもしれない場所に
2人を行かせるなんて危険極まりない
だろうが!」
激昂するほどに声を荒げて抗議する瞬。
当たり前だ、先ほど妖魔の根城になっている
かもしれないと話していた黒岩邸に
無力な2人をわざわざ向かわせるなんて
自殺行為にも等しい。
そんな【死ね】というような無茶な頼みに
怒らないはずがない。
しかし、優は冷静に話す。
優『……いや、黒岩邸は妖魔の手に落ちて
いないだろう。
そう言える根拠はある。
それはミユキさんが言うように妖魔達が姫野
さん達3人に対して何らかの行為、まぁ多分
調教かな。
をやっていたとするなら、さっきも言った
ように、拠点を移す暇なんてないって事。
奴らの身体能力ならもちろん渋谷から
黒岩邸まで場所を移すのは容易だろうけど
それは人の目を気にしなかったらの話。
こっちにはアテネ学園長がいる。
隠密に聖徒会の3人を手中に収めたのに、
それを下手すればアテネ学園長に見つかって
3人を救出されるだけでなく、そのまま
討伐されてしまうリスクを孕んでまで
拠点を移すなんてことは…… まぁ普通の
妖魔ならやりかねないけど、バルムスは
しないだろうね。
それならば、妖魔の領域である渋谷に
拠点を置いたままにした方が遥かに安全だし
じっくりと調教も捗るだろう』
優『更に誰か学園の生徒を拉致ることに関しても
妖魔側にそこまでのメリットがない。学園生徒を
使う用途としては…人質だけど、それは既に
捕らえている姫野さんたちを使えば良い。
というか、妖魔達…バルムスは退魔士でもない
僕たち相手に人質を使おうと思うほど脅威に
感じていないはずだ。
まぁ要するにリスクに対して、メリットが少な
すぎる。かなり頭が回りそうなバルムスなら
そんな手段は取らないだろう。
これが【黒岩邸】が安全と言える根拠だよ』
優は顎に手をやりながら瞬に説明する。
頭に血が昇っていた瞬もその説明を受けて
確かに安全そうだと思った。
影明「いや、でもなぁ〜……黒岩邸が妖魔の
手に落ちている可能性は0じゃないんだろ?
万が一って事もあるし……
それなら俺とか勝平が行った方がまだいいん
じゃね?」
それでもなおも不安そうに唸る影明。
優はそれに意外にも肯定した。
優『まぁ確かにね。全く危険がないと
断定は出来ない。限りなく低いってだけ。
だけど、それでも【黒岩邸】には行かないと
いけない理由がある。
ショウくんが言ってた【黒岩藤悟】くんの
『保護』だよ。
既に黒岩邸が落ちていたら、その藤悟くんも
手遅れかもしれないけど、さっきも言った
通り黒岩邸はおそらく無事だ。
けど、これから先も無事だと言う保証もない。
だったら先手でその藤悟くんを助けるべき
だと思う。
そして、影明たちが行くわけにはいかない
でしょ。
こっちの方が人手と力がいるんだから。
それならただ連れてくるだけなんだから
華奢なショウくんと水無月さんに行って
もらう方がいいんじゃないかな?
それにショウくんは藤悟くんと知り合い
なんだから、影明たちより話も通じやすい
だろうしね』
勝平「まぁ…それもそうか……?」
影明「えー…あー……う〜ん…?」
優の説明を受けて2人はなおも唸るも、
最終的には納得した。
だが、そこでまた別に抗議の意見が出る。
ミユキ「それならば私が行きましょう。
私ならば出来損ないとはいえ、多少の霊術の
心得があります。この中でなら一番危険地に
行くのに相応しいと言えるでしょう」
瞬「えっ、あー、えーと……」チラリ
ミユキ「…?」
優「あ〜…ふぅむ……」
歯切れ悪そうに瞬が優をチラ見するので、
ミユキは少し不可思議そうに瞬を見る。
優の言を信じるならば、彼女はもしかしたら
敵側かもしれないのだ。
単独行動をさせてしまえば、妖魔に自分たちの
動きを伝えさせられるかもしれないのだ。
最も、一番肝要な『黒悪』の事はミユキには
伏せているままではあるが。
と、同時に瞬はミユキに対して疑念はほぼ
晴れてもいるのだ。
もし本当に敵側であるとするなら、わざわざ
木原の事を伝えるはずがない。
優が言ったように、不意打ちをさせるのに
持ってこいのはずだからだ。
それにミユキの【ヴァルハラ】での態度や
今こうして真剣そうに作戦に参加している
様子を見て、どうしても瞬にはミユキが
敵だと思えない、というのが最大の本音だ。
しかし、優はどう思ってるかは分からない。
まだ付き合いは2週間程度とはいえ、相当に
疑ぐり深い性格なのは間違いない。
瞬は優にミユキを信頼しようと説得するか
悩み出していたところ、先に優が話し出した。
優「確かにそうだね。じゃあお願いしよう
かな。……それにしても、先ほどの反応から
して、相当黒岩家を嫌ってるみたいだったのに
自分から黒岩家の人間を助けるんだね」
優は意外にすんなりとミユキの意見を
受け入れたのだ。
瞬はそれに対して驚き…よりも嬉しさがあった。
きっと先ほどの木原の件で信用したのだろう。
少なくとも優は人間不信と言ったような
類ではなさそうだ。
ミユキ「はい。いくら犬猿の仲とは言え人命
ですから。それにお二人の身の安全のため
です。確かに現在お嬢様を凄惨な目に遭わせて
いる黒岩を助けるというのは気乗りしない
ですが」
優「ふぅん、なるほどねぇ……」
その時、優は小さく笑った。
そしてミユキの方へ歩いていき、耳元の
近くで【誰にも聞こえないような】声で囁く。
優《じゃ、ミユキさんには言っておこうかな》
ミユキ「?……………」
ミユキは怪訝そうに顔を傾げた後、『意図』を
聞いて神妙な顔つきへと変える。
ミユキ「…なるほど、そういうことでしたか。
見かけによらず相当悪いんですね、優さん」
優「まぁね〜」
ジロリと目を細めるミユキに対して、優は軽く
返事を返した。
優『とりあえず、これを渡しておくよ』
と言って、ショウ、楓、ミユキにそれぞれ
『トランシーバー』と『スタンガン』を
投げ渡した。
ショウ「うわっとと!……え?…こっちのは
分かりますけど……ス、スタンガンですか!?」
楓「ど、どうしてスタンガンなんて……」
投げ渡された物のうち、トランシーバーは
分かる。連絡用だ。
しかし、スタンガンの方には動揺してしまう。
もちろん2人とも意図は分かってはいるが
優「どうしてって、そりゃ『護身』のために
決まってるでしょ? まぁ、安全に関しては
大丈夫だとは思うけど念のためにね。
トランシーバーは言わずもがな連絡用だけど、
その中には発信器、それと緊急連絡ボタンが
右側面にある。
【龍堂院】が開発した画期的なトランシーバー
だよ。そのボタンを押せばすぐに僕の端末に
連絡が入る。
いいかい?そのボタンは『もしもの時、やば
そうな事態になったら』押すんだ。
普通の連絡の時は上部にあるこのボタンを押し
ながら話すんだよ」
そんな2人の様子なんて他所のように構わず
優は話し続ける。
トランシーバーの使い方の説明の時は実際に
自ら用のトランシーバーを手に取っていた。
ショウと楓の2人は初めて手に取った【凶器】
に思わず手を震わせている。
そこに手助けに入ったのがミユキだった。
ミユキ「大丈夫です。お二人とも。いざと
なったら私がいます。お二人の安全は私が
保証します」
ミユキにそう言われて、ショウは少し緊張が
解けたように顔を綻ばせるが、楓はピンと
来ていないようだ。
しかしどこかを見た後、覚悟が決まった
ように返事を返す。
楓「…分かった。藤悟くんは私たちが保護しに
いくよ!」
楓は優の方ではなく、瞬に向けて言葉を放った。
瞬「……え?あ、うん」
先ほどまで優と会話していた楓が何故か
自らの方へ返事をしてきたものだから
戸惑い気味でつい返事を返してしまった。
その横で文香が舌打ちをしていたのが
更に意味が分からなかった。
影明「フミフミ、ありゃ楓にゃんの好意に
気づいてないっぽいぞ」
文香「みたいだね。後その呼び方腹立つから
やめろ」
ミユキ「では、ショウさん、楓さん、参り
ましょう」
ショウ「は、はい!」
楓「分かりました!」
ミユキの号令で3人は出発に取り掛かる。
ミユキ「では優さん、それに皆さん、行って
参ります」
ミユキは『意味深』に優を見やった後、すぐ
影明たちの方に向いてあいさつをし、3人は
黒岩邸に向けてその場から去っていった。
瞬「ミユキさん!楓さん!ショウくん!
みんな気をつけて!」
優「さてさて、僕らも早く準備に取り掛かるよ」
優は影明に何やら『目配せ』をした。
そして影明はその『目配せ』に気づかないような
態度を取りながらも、右手で小さくokサインを
出している。
影明「そうしますか……で、まず何するんだっけ?」
優「まずは体育館の入り口にバリケードを立てて、
【諸事情により、使用禁止】って看板を立てるよ。
言ったように、屋内戦だと不利になるからやる
ならグラウンドがいい。
だから朝礼の場がグラウンドになるように誘導
するんだ
その後、『僕のツテ』で支給された物を設置
しよう」
そして優を中心とした対妖魔迎撃作戦に
取り掛かるのであった----
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ーいよいよ、奴らも動き出したかー
ーそうね。それで?あなたはどう見る
のかしらー
ーそれはまだ分からない…が、俺個人の
感情で言えば…まぁしくじるだろうな。
妖魔どもなんぞに『そっち』の事など
何の期待もしていない。
奴らには『メイン計画』の要となる事だけ
にしか用はないー
ーあら、…まぁそうね。でも可能性が
ないわけではないわ。妖魔達が勝った場合は
どうするのかしらー
ーそれはそれでプランはある。どっちに
転んでも最終的な結果に変わりはないさ。
だが、現場には俺も出よう。
『候補』、もしくは『彼』を殺されたら
目も当てられないからなー
ー……あなたが出るの? それは大袈裟
すぎじゃないかしら。『候補』と『彼』の
安全は私の方で十分対応出来るわ。
奴らにこちらの情報を与えかねない
ようなリスクを取るほどじゃないわー
ーいいや、俺が出る理由は『それ』だけでは
ない。
お前は『セイラ・神無月』の事を知っていたか?ー
ー……?どういうことかしら?ー
ーやはり知らないか。知っていれば
優先調査対応を取るべき事柄だからな。
……【セイラ・神無月】は『○○』だ。
こう言えばお前にも事の重大さが分かる
だろう?ー
ー何ですって…!? ……なるほど、それならば
理解は出来る。でも、どこにもいなかったもの
だから人間に滅ぼされてしまったものと思って
いたのだけれどねー
ー俺も同じ感想だ。しかし、実際にあの女は
『奴らどもの存在を意味してる』ー
ー……確かに。『○○』が現存しているならば
他の『種族』たちも生きていると考えた方が
妥当かしらね。 だけど、当てはあるのかしらー
ーあぁ。お前も違和感を感じているだろう?
『この星の現状』にー
ー……『それ』は気のせいじゃないかしら?ー
ー俺もそう思っていたが…… 【セイラ・神無月の翼】
を見た時、思い出した。【エルフ】どもの【秘術】を
聞いたことをな。
その【秘術】とは『…………』
ー………なるほど、なら確かに『この星への違和感』
にも納得がいくわねー
ー明日の妖魔襲撃により、学生どもの混乱は避けられ
ないはずだ。【死人が出ても】おかしくはないだろう。
『伏兵』を捕まえるならばうってつけだ。
明日に期待することは『奴』が『救世主』
たりえるかだ。
【保険】は多いに越したことはない。
『それ』だけが奴らの存在理由だ。
くく……楽しみだー
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読んでいただきありがとうございます。
今回は戦闘準備回ですね。今回の話はまぁ別にそこまで
覚えてもらわなくても大丈夫かと思いますが、
紅藤くんは必見かもです。覚えていたら後の
こいつのゲスぶりがよく分かると思います。
少し詳しくに言いますと黒岩邸へ赴いて欲しいって
頼んだ時の紅藤くんの台詞に『』で囲んでいる
ところがあるのですが『』がどういう意味かと
言いますと、『』内の内容は全部嘘ってことです。
皆を納得させるためにそれっぽい
事を言ってるだけなんですね。
……『保護』? 『○○』の間違いでしょ君^^