※この作品はR-18です。

FGOで純愛イチャラブ尊厳破壊ドスケベセックスシリーズ   作:デイジー亭

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断章 狂ったケモノ

 ――人理を救えると思ってた。

 そしてそれは、きっと叶うのだろう。

 ああ、救えるさ。救えるとも。

 

 もう、俺が頑張る必要は無い。

 藤丸立夏は、救世主として世界に召し上げられるだろう。

 

 ――だがその代償は、果てしなく重くて。

 認めたくない、二度目。光に消えた、彼女の笑顔。

 

『先輩、良かった……』

 

「……マシュ」

 

『私は、幸せでした』

 

「あ。ああ。あああっ……!!」

 

 残響がリピートする。耳の奥で、呪いのように。

 網膜に焼き付く、無色の笑顔。

 きっと鼓膜に響き続ける、最後の言葉が聞こえたのも気のせいで。

 

 奇跡は二度起きない。それだけが、確信できてしまっていて。

 でも、だけど。まだ俺には、一つだけ希望が残っていて。

 

「や、やぁ……お前は無事で、良かった」

 

「あっ」

 

「気に、するな……ごほっ。お前が死ぬより、マシ……だろう? ああ、でも……死にたくないなぁ」

 

「あ、ああ。あああっ……! 助かる、絶対に助けるからっ!」

 

「無茶を言うな、自分のことは自分が一番わかる。自慢の腹も、この通りの有様だよ」

 

 歩いた。探した。でも、目の前で零れおちる赤と……命。

 無事な方の手を掲げて、泣き言なんか抜かして。

 無い方の手が有っても無駄だとわかる、小さくなった大きかった身体。

 

 掬い上げたその命は、まだ暖かいのに。どんどん温度を失っていって。

 

「ごめんなぁ……こんな弱い私を助けたばかりに、聖槍の騎士王と、大事な後輩まで失わせて」

 

「ま、まったくだよ。だから俺を、俺を一人にしないでくれっ……!」

 

「お前は寂しがり屋だからな。そうしてやりたいのは、山々だとも。ごほっ」

 

「だったらっ!!」

 

 失った、褪せた赤。オレンジ髪の彼。

 宝石よりも大事だった、アメジストの輝きも消え失せて。

 ロマニの髪よりも鮮烈な赤は、俺に再度の喪失を予感させる。

 

 これすらも失ってしまったら、意味など無い。

 救える物も、目の前の零れる命。

 それを掬えないなら、救いたくない。なのに。

 

「……だが、だが……すまん。所長として命じる。人理を、救ってくれ」

 

「それに何の意味が有るんだよッ……!」

 

「例えそこに、私たちが居ないとしても……生きて、忘れないでくれ」

 

「わ、忘れる? 言われなくても、無理だよ。俺はそこまで強くない」

 

「ははっ。なら安心だな……なぁ、立夏。藤丸立夏」

 

「……なんだよ」

 

 ああ、呪いだ。呪いが刻み込まれていく。

 だって、あんまりだ。最後の言葉を聞いてやらないと。

 この人は、英霊になる資格も無い。人理はその功績を称えない。

 

 その命が、報われるには人理を救うしかない。

 なんてズルい大人だ。ガキ一匹に、そんな重荷を背負わせるなんて。

 だから、もっと望みを。俺に何でも押し付けてくれ。

 

「人理を救ったならば……」

 

「ああ、俺も。みんなの元に」

 

「いいや、来るな。だってお前の旅は」

 

「終わりだ! ここで終わりなんだよっ!!」

 

「否、ごほっ。違う、違うんだよ。お前の旅は、始まってすらいない」

 

「え……?」

 

 ほら来た、何を俺に願うんだ。

 ムジーク家の再興? もちろんやってやるさ。

 けれど、求められたのは拒絶。

 

 ……意味がわからない。愛しい旅は、ここで終わるのに。

 いっぱいの思い出を胸に、いよいよ楽になれると思ったのに。

 ロスタイムが長すぎだろ。どころか、スタートもまだな訳あるかボケ。

 

 ああ。だが聞いてしまう。一言だって、取りこぼしたくない。

 

「レースは、一回では終わらん……報酬を受け取り、次のレースに向かえ」

 

「ここ以外のゴールは要らねぇッ! 報酬だって、もう受け取ってるッ!!」

 

「ははっ。知っているとも。私が気づいてないとでも思ったか?」

 

「あ、アンタ如きが。俺の何を知ってるっつぅんだよ……」

 

「結婚したのだろう? 馬鹿め、そういう時は上司に仲人を頼むものだ」

 

「あ、アレはただの遊びで。アンタには、マシュとの本番を頼もうと。でも、それももう出来なくて!!」

 

「何度だってしてやりたいのだ。お前の人生を、余すことなく言祝ぎたい」

 

「しょ、職権濫用だろ。何の権利が有って、俺の人生に干渉しやがるっ!?」

 

 まだ俺に走らせるとか、ド鬼畜に定評のある俺よりひでぇ。

 それに、何を貰ってももう無駄だ。

 ニンジンは食い放題しちまったし、もう欲しい物なんかない。

 

 だって、目の前でなくなっちまうんだ。今、まさに。

 今まで亡くした者たちが、重すぎて。今亡くす者も、クソ重で。

 藤丸立夏が走るためのエサは、丸ごと全部喪って。

 

「有るとも。何故ならば、私はお前の……」

 

「な、なんだってんだよ!? ただの何の変哲もねぇ、ふとっちょの新所長だろっ!!」

 

「ああ、凡人だとも。無能で使えなくて、足手まといのままに私の人生は終わる」

 

「……そ、そこまでは言ってねぇよ」

 

「ふふ。非情になりきれない所も、お前の悪い……いいや、美点だな。ごほっ」

 

「結論を言え、結論をっ!! 遺言ぐらい、俺にキチンと遺しやがれッ!!」

 

 でも、なんでここで自信満々なんだよ。

 カイニスに守らせてやっても、オドオドしっぱなしだったくせに。

 ああ、でも無駄だった。守り切れなかった。

 

 だから俺は、こんなにも後悔してるのに。

 どいつもコイツも、この人を守り切れなかったサーヴァントどもも。

 そして最も無能な俺自身を、最も憎んでいるのに。

 

 なんで、どうして。そんなに安らいだ顔で、俺を見るんだ。

 

「わ、私は。ごほ、ごほっ!!」

 

「い、良いよ。もう喋んな、じゃないと、傷口がっ!!」

 

「もう傷口しか無いだろうっ!? 私の人生は、コレを言わねば無駄で終わるッ!!」

 

「……聞くよ」

 

 そして、血をごぼごぼと吐きながら。

 短い命を浪費して、それでもその瞳に籠る決意に抗えなくて。

 モゴモゴと動く血まみれの口髭。最後の呪いは、俺に刻まれる。

 

「ごぼ、ごぼぼ。い、いいか。私は、お前の……で……」

 

「うん、うん」

 

「だから、どうか。どうか一つだけ。願わせておくれ」

 

「……」

 

「……に、なって……く、……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 どんどんと掠れてゆく声。多分、聞こえなかった。

 でも、返事をしなきゃ。涙で霞んで、もう見えないけれど。

 ああ、見えない。見たくないんだ、

 

 俺は。読唇術なんて。知らない。

 知ってても、きっと忘れた。

 最後の言葉は、聞き取れず見えなかった。だから。

 

 ――だから。救世主はただ一人。血濡れの丘で、孤独に立つ。

 

「世界よ、契約しよう。救ってやるから、俺にあの人を救わせろ」

 

 ――剣を鍛つ音は、聞こえなかった。

 

「俺を助けて、あの人を助けてくれなかったあいつらと……もう一度、絆を繋ぐ力を」

 

 ――代わりに響いたのは、鎖の破断音。

 

 ――脆すぎる俺の心がブチ壊れる音だけ。

 

 ――ああ。初めて知った。知りたくもなかったけれど。

 

 ……狂うって、こんな感じなんだな。

 

 ――獣はこうして、産声を上げた。

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