蜂谷太郎。
それが俺の名前。
この世界での俺の名前。
前の世界で何故死んだのかは覚えていないが、前世の記憶はある。
といっても前世での名前やどんな人生を歩んだのかは全く覚えていない。
だが唯一前世の記憶として覚えているのが一つだけある。
ここが『インフィニット・ストラトス』という二次元の世界だということ。
前世の記憶は全くと言っていいほど覚えていない、しかし何故か『インフィニット・ストラトス』という作品だけは覚えており、数年前にISなるものが全世界に公表されたことではっきりと認識させられた。
ここに送り届けたのが神様か悪魔か、どちらでも良いが何のために俺をこんな二次元の世界に寄越したのか。
ここで生を受けて早十五年。
未だにそういった方面から何の音沙汰もなく、悠々自適に過ごそうと心に決めた今日この頃。
悠々自適に過ごす、とどのつまり俺はこの世界で『インフィニット・ストラトス』の作品のヒロイン達を攻略する。ハーレムだ、ひゃっはー。
前世の俺は余程この作品が好きだったのだろう、最近世界を沸かせているホットな人物、織斑一夏。
会ったことがない最近話題の草食系イケメンフェイスな彼を見た瞬間、謎の怒りが込み上げてきた。
前世の記憶を探ればISのストーリーは殆どが思い出せず、登場人物がちらほらと頭に浮かぶだけ。
恐らくは女性にしか扱う事が出来なかったISを彼が巧みに操り世の女性たち、頭に浮かぶヒロインたちを一網打尽にしてしまうという作品なのかもしれない。
そして前世の俺はそんな二次元の主人公に激しく嫉妬していたと。
なるほど、バカだろ死ねよ。
いや死んだからここにいるのかもしれないが、とにかく織斑一夏という男に嫉妬心を抱く以上、それを解決するにはヒロインとなる女性たちを奪わなければいけない。
そう決めた俺は勇み足でIS学園へと向かい、幸いにも織斑一夏のお陰か非常にばたついていた学園内に忍び込みテレビで見た待機状態のISを無事発見。
逸る心を抑えてISに触れる。
案の定反応は無し。
絶望に打ちひしがれて思わず絶叫してしまった俺はその声を聞いたのであろう教員に見つかってしまった。
緑色のショートヘアーでたわわに実った女性の武器を向けてくるその教員に、恐らく俺は気が動転していたのだろう。
襲い掛かった。
眼鏡をかけたその姿は小動物を容易く連想させ、とりあえずIS学園に来た記念に美人を犯そうと思った、しかし柔道か合気道か予想外の反撃を食らい硬い床に背中から叩きて蹴られた。
あまりの衝撃に動き以前に呼吸すらままならず苦しんでいると、彼女は俺を俯せにさせて腕を背中に回されて関節技を決められた。いわゆる確保のポーズである。
不法侵入者ということで携帯を取り出して俺を押さえたまま誰かに電話を掛けようとしたため、慌てて話しかける。
内容はこうだ。
偶然にも隠しカメラが爪先に付いた靴を履いてきた俺はこの関節技を決めている彼女のロングスカートの中を偶然にも画像と動画を撮影してしまったと。
俺をこのまま誰かに突き出すと警察が俺を調べて不特定多数の人にその映像が公開される事になってしまう。
もちろん勤務先であるIS学園にも報告されて映像が送られ、それに加えて俺が今ある事をするとその動画と画像が自動的にインターネットに上げられて世界中の人に晒されて、教員がそんな恥態を晒していると世界中がIS学園を日本を貶すだろう。他の誰でもない、貴女一人のせいで。
俺の力でそこまで行うのは不可能だが顔が犯罪者のそれだったのか分からないが、そう言ってみたら異常に怯えだしてしまったため、その隙に緩くなった拘束から抜け出してだめ押しで実際に仕込んでいた靴を脱いでその中からカメラのメモリを取り出して携帯に挿して映ったそれを彼女に見せた。
そこに映っていたのは健康そうな真っ白な太ももと髪の色に合わせているのか薄緑色の下着。
可愛らしくもしかめて俺を見下ろしているプリティフェイスまでもがしっかりと映っていた。
彼女に顔を向けると顔面真っ青で体を震わせていた。
その姿は見ていて非常に可哀想だが、とりあえずこれをネタに脅す。
俺の要求はこうである。
俺も実はISを動かした男ということにしてIS学園に入学させて欲しい。
その為のデータ改竄と各所への言い訳を頼む。
この二点である。
無理なら無理でこの教員を脅して外部から彼女を使い中へと干渉するしかない。
代償はあるだろうけれど断ってもらってもいい、ちゃんとイエスとノーの選択肢をプレゼント。
明らかに要求は言った俺からしても不条理なのだがこんな脅され方をされたのは初めてで正常に思考が回らなかったのか、顔面を真っ青を超えて蒼白になった彼女は見事頷いてくれた。
きっと可愛らしい容姿の彼女とて人間、己の保身が一番だったのだろう。
仕方ないさ人間だもの。
頷いてくれたので、ここからの行動は素早く動かなければならない。
まずはこのIS学園から離れてしまえば、ひょっとしたら彼女は何かしらの策を高じて入れなくなる可能性がある。
ならば正式にここの生徒となるまでこの学園内から出るわけにはいかない。
そして何より彼女を監視下に置かなければ。
よって、次の提案。
君の部屋に案内しろ。
IS学園は機密情報の塊で来る者拒み去る者止める難攻不落の要塞だ。
生徒教師が皆学園内の寮に住んでいるのは公然の事実。
正式に生徒となれるまで彼女を監視する意味も込めて彼女の部屋を根城にする。
当然彼女は拒み相変わらず血の気の無い顔を思い切り左右に振るが、携帯を見せればそれは止まる。
やがて目に涙を浮かべながら小さく頷いた。
彼女は俺の記憶に登場しない、つまり『インフィニット・ストラトス』の主要メンバーではないのかもしれない。
それか単に彼女の印象が薄かっただけという可能性もある。
だが現実にこうして対面すると果てしない美人だ。
記憶には無いが、他のヒロイン同様、彼女も絶対にもらい受けたい。
彼女を手に入れるためにも生徒になる前に教師と生徒というしがらみをぶっ壊す必要だ。
つまりはヤる。
俺の大人への階段の先は彼女に決めた。
心ここに在らずといった雰囲気の彼女に先導してもらい他の教師たちに気を付けながら彼女の部屋へと足を進めた。
誰かに見つかったら何よりも先に先ほどの動画をそいつに見せつてやると言っておいたから、彼女もかなり気合いが入った事だろう。
無事に一つの扉の前に着き、ドアを開けさせて彼女と共に中に入りドアを閉めて鍵をかける。これで一安心。
彼女をベッドの上に寝かせる。
そこで気付いた、彼女の名前を知らないことに。
訊ねると、こちらを見ずに俯せで顔を枕に埋めながら小さく答えた。
山田真耶と。
なるほどやまやんかと呟くとキッと顔を上げて睨まれた。解せぬ。
やまやんはまた力が抜けたように枕へと顔を埋めて、小刻みに肩を震わせた。
静かな室内だから顔を見ずとも解る。
彼女は泣いていた。
そんなやまやんを見て必ず彼女を幸せにしようと心に誓った俺でした。
それから一ヶ月後の今、俺は念願の制服に身を包み廊下に立っているのだった。
教室の中からやまやんの声が聴こえる。
どうやら出番の様だ、派手にかましてやるぜ。