扉を開けて教室へと入る。
想像以上に一人を除いて美少女揃いで思わずたじろいでしまった。
教室内の視線を一身に浴びてこれ以上失態は許されないと気持ちを切り替える。
やまやんとのルームシェアをしている中で度胸はこれでもかというほどについている、こんな好奇の視線も耐えられる。
教卓の前にいるやまやんの隣まで歩き、彼女と同じくクラスメイトたちへと体を向けた。
「うそ、男?」
「男性でIS動かせるのって織斑くんだけじゃなかったっけ……?」
黙っているとあちこちでひそひそと言葉が飛び交い始める。
そろそろ自己紹介をしようか。
「初めまして、蜂谷太郎です。ISについては初心者なので色々と教えてくれたら嬉しいです」
よろしくお願いします、頭を下げて言葉を締めた。
辺りは未だにざわついている。
やまやん、頼んだ。
そう気持ちを込めて隣にいるやまやんへと視線を向けた。
困惑したような、どこか落ち込んだ様な表情を浮かべていたやまやんだが目が合うと引きつった顔を一瞬浮かべ、慌てて生徒たちへと口を開く。
「え、えーと、は、蜂谷くんは、名前は言えませんが 日本のIS開発企業が隠していた男の子のIS操縦者です。ISについての教育を受けた方が良いと判断され、入学は皆さんより一ヶ月遅くなりましたがIS学園に通う事になりました。皆さん! 織斑くんと同じく仲良くしてあげてくださいねっ」
笑顔で生徒たちに話しかけるやまやん。
その笑顔が引きつっていると気づける人はこの中にいるだろうか。
それにしても流石は教師。
話の組み立てが上手い。
やまやんが俺のIS適正偽造を行う際に行った打ち合わせでは、俺は隠されていたIS適正を持つ男とだけ言っておいたが、どうやらその話に綺麗に肉付けしてくれたようだ。
因みにやまやんが俺のIS適正偽造をしてくれた日、俺は童貞を見事卒業した。
自殺するんじゃないかと錯覚させられるほどに危うげな雰囲気を撒き散らしながら部屋へと帰ってきたやまやんを見ていられず、思わず襲ってしまった。
今思えば童貞らしく拙い愛撫しかせずに挿入してしまったが、やまやんが一切の抵抗をしなかったお陰か、数回彼女の膣内に射精しても衰えを見せない自慢の息子を突き続けていたらやまやんも感じ始めたらしく、最終的には俺の背中に両手足を回して喘いでいた。
事後、死にそうな雰囲気が消えて正気に戻った彼女は見るも無惨にテンパり、とりあえず剣呑な雰囲気では無かったため紳士っぽく暴れるやまやんを抱き締めて頭を撫でてたら、落ち着いた彼女との距離が少しだけ縮まった半月前。山田真耶、彼女は非常にちょろかった。字余り。
ちょろいやまやんはそれ以来俺に対して過度の嫌悪は示さなくなり、寧ろどこか好意的に思っているのではないかと俺サイドは考えている。
ベッドが一つしか無いため毎日二人で一緒に二つの意味で寝ており元気一杯な俺だが、今日は彼女の頑張りに応えてもっと元気になってやろう。
やまやんの説明に納得したらしく訝しむ声は無くなり、ただ俺を無遠慮に見つめてくるクラスメイト。
「……でも何か普通だね」
「織斑くんは格好いいけど蜂谷くんは……普通だね」
ひそひそと再びあちらこちらで声が上がり始めた。
普通とか言うなって、傷つくんだから。
そう言ってやりたいが俺は紳士、黙って酷評を一身に受ける。
そんな中、笑みを浮かべて輝いた視線を送ってくるクラスメイトを見つけ顔を向ける。
正確には向けてしまった、だ。
教室に入ってから意識しないようにしていた俺の視線の先には本物の、世界でたった一人のIS男性操縦者。
織斑一夏がこちらを見ていた。
浮かべる笑みは敵地で唯一の仲間を見つけた様なそんな笑み。
テレビで見た時もそうだが、やはり主人公、イケメンである。
自他共に普通な俺が普通と言われるのは当たり前だ。
悲しいけどこれ、現実なのよね。
なんて言葉が浮かんでくるが、まずは彼に笑みを返す。
何せこの世界の主人公様だ。
一緒にいるだけで女がわんさか集まってくる。
是非とも仲良くしようじゃないか織斑一夏くん。
君から全てを奪うまで。
笑みを浮かべるその裏で確信する。
彼を見た瞬間、殴りかかりたいほどの激情に駆られた。
やはり俺は根本的に彼を嫌っているのだと。
生理的嫌悪、その言葉がぴったりだ。
笑みの裏でそう考えながら俺の自己紹介は終わった。
案内された席は織斑一夏とは正反対、教卓の目の前が彼。
その列の一番後ろが俺だ。
斜め前には金髪ロールヘアーのお嬢様、そのもっと前、窓際一番前にはポニーテールで何故か大きく二本に枝分かれした髪型の仏頂面の美少女。
どちらも俺の記憶にある『ヒロイン』。
まずは仏頂面の美少女、篠ノ之箒から攻略だ。
彼女が一体どんなストーリーで織斑一夏と恋を育んで行くのか解らないが、彼女の来歴は記憶にある。
小学生の時、織斑一夏と幼馴染。六年ぶりに会ったが恋慕の炎はまだ燃えていた。
もう一人金髪ロールヘアーのお嬢様セシリア・オルコット。
彼女はイギリス代表候補生で幼い頃の経験から女尊男卑の思考が強い、強い男性がお好み。
彼女の生い立ちの記憶では織斑一夏は出て来ない、つまり彼女はこれから何かしらのイベントが起きて彼を好きになるんだろう。
であればまずは幼馴染である篠ノ之箒を何とか心を開く程度まで早期に持っていかなければならない。
他に記憶にある人物はこの教室内には恐らく居ない。
転校か別のクラスにいるのかもしれない。
まずは目先の花から摘む事だけを考えよう。
彼女には真っ正面から立ち向かう事は出来ない。
一夏ラヴで頑固と来たら何かしようものなら間違いなく自慢の剣道で滅多打ちにされるだろう。
しかし今回はある意味正攻法で攻めてみよう。
予鈴がなった。
遠巻きに俺を見てきてひそひそと喋るだけで誰も話しかけてこないから考えに没頭することが出来た。
頑張れ俺、まだ慌てるような時間じゃない。