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大学からの帰り道。普段はそのまま駅に向かって電車を利用して自宅のあるマンションに直帰するのだが、その時どうにも腹が減ってしょうがなかった俺は大学からそう遠くない場所にあるファミレスに立ち寄って少し早い夕食を済ませることにした。
全国チェーン店の一つだがここを利用するのは今日が初めてだ。俺は少しばかりの緊張感を胸に抱きながら店の中に足を踏み入れる。
幸いにも客の数はまばらで、店に入ってすぐ空いた席に案内された。
メニューの注文はタッチパネル式。今の時代のニーズに合わせた、実に俺(ボッチ)好みの仕様だ。
稼ぎ時の時間帯は避けるにしても、次回訪れた際もこのくらいの客数ならここを新たな馴染みの店にするのも悪くない。そう思わせるくらいに快適な雰囲気を醸し出している。何となく高校時代によく通ったサイゼを彷彿とさせる。
そうして呆けながら辺りを見渡していると片手にトレーを持った女性の店員がこちらに近付いてきた。トレーの上には飲み物の入ったグラスが一つ乗っている。
「お待たせしました。こちらアイスコーヒーになります」
ほう……注文してから間もなくこうして運ばれてくるとは、これまた好印象。しかし女性の店員に目配せすることに抵抗を覚えた俺はそっぽを向きながら軽く会釈をしてみせる。
「・・・えっ!? 比企がっ・・・やっ!?」
不意に自分の名前を呼ばれて俺は反射的にそちらを振り返る。
その刹那、俺は自身の目に映るあらゆる物の情報を頭の中で読み取り思考を巡らせる。
まず、俺が注文したアイスコーヒーを運んできてくれた女性の店員。その店員に俺は見覚えがある。
青みがかった黒髪を結ってポニーテールにしている。それだけでもかなり限定的ではあるが、その人の特徴はまだ他にもある。
背が高くスタイルが良い。ありきたりな評価のように感じてしまうかもしれないが、他でもない俺がそう言っているのだから間違いない(迫真)
そして何より、普段から険しい表情を覗かせて周囲の人間を寄せ付けまいとするような彼女の右目の目元にある泣きぼくろが、そんな彼女の魅力をより際立たせている。
いや・・・今は彼女を注視している場合ではない。
時間は刻一刻と過ぎて行く。これから起こるであろう出来事を回避することはもう不可能だ。
え? 俺が何を言っているか分からない? なら少し前を思い返してほしい。
彼女が俺の注文したアイスコーヒーをトレーに乗せて持ってきてくれた。
そして客である俺が座っている席に近付き、注文されたアイスコーヒーの入ったグラスを客の目の前のテーブルに置こうとトレーの上から手に取る。
しかしそこで問題が起きた。彼女は俺の姿を見るやいなや何を思ったのか激しく動揺してしまい、今まさに手に取ろうとしていたアイスコーヒーのグラスを取り損ねてしまったのだ。
その結果グラスはトレーの上を離れて宙に浮かび、そのままゆっくりと回転し弧を描くようにして丁度俺の股ぐらの辺りに着地しようとしている。
ここまで説明すればもうお分かりであろう。俺の身にこれから降りかかる出来事についてを。
俺は後々後悔することになる。一時の空腹感に負けてこれまで一度も訪れたことのなかったファミレスに足を踏み入れてしまったことを。
他者と向き合うことを恐れて殻に閉じこもってしまっていた自分自身のことを。
そして彼女………………川なんとかさんと再会してしまったことを、俺は。
バシャァァァ
「アッーーー!!」
やはり俺と彼女のまぐわいは間違っている。
川崎沙希編