「ほんっっっと、ごめん!!」
店の裏口。そこで俺はまだ再会して間もない川なんとかさんに両の手を合わせて謝られていた。
最初「頼んだ物の代金はアタシが立て替えておくから、先にお店の裏に行って待ってて!」と彼女から言われた時俺は《ああ・・・俺はこのあと彼女にカツアゲされた上でボコられて病院送りになるのか・・・》と想像し覚悟していたのだが、そんな想像とは裏腹に彼女は俯き加減に心底申し訳なさそうに俺のことを見ている。
「大丈夫だ、問題ない」
最初こそ驚きショックを受けた俺であったが、あれから店側と彼女との間で何やかんやあったらしくそれなりに時間が経過していた為にもうその気持ちは失せていた。
むしろそんな俺の気を他所にひたすら謝り続けてくれている彼女に対して逆に申し訳ない気持ちにさせられた俺は取り敢えず場の空気を和ませようとかなり古いネタを持ち出す。
「でも・・・あんたのジーンズ汚しちゃったし・・・」
ああ、そもそもこの人にそんなネタが通じるはずもなかった(せっかく声真似までしたのに)。彼女は俺の言葉に更に顔を俯かせる。俺も俺で更に申し訳なく、そして泣きたくなる。
「いや、本当に気にしてないんだ。頑張って仕事してるお前にコーヒーかけられたくらいで、誰も本気で怒りゃしねぇよ」
「でも、・・・・でもさ・・・」
ここまで言っても尚彼女は顔をあげない。あまり長い時間ここにこうして二人で居るとこの様子を見た通行人によって警察に通報されかねない。そう思った俺はどうにかして彼女の気持ちを納得させようと考える。
「・・・分かった! お前がそこまで気に病むってんなら何か」
「そうだ! あんた、これからあたしの家来てよ。そのジーンズ洗濯して乾かすから」
「っ? ・・・・ファッ!?」
俺が彼女に(形式上の)和解の意を持ちかけようとした時、突然彼女が俺の方に前のめりになって迫ってきたかと思うとそんな事を言い出した。
やや濡れている彼女の泣きぼくろが俺の腐った目にはとても綺麗に映って見えた。
「そう、それがいいよ。バイトも丁度交代時間近かったし、店長にもちゃんと説明したからこのまま家に帰っても大丈夫」
「ちょっ、ちょっと待て。何もそこまでしてくれなくても」
「そうしないとあたしの気が収まらないの! 面識のないお客さんならいざ知らず、まさかあんたがここの店に来るとは思ってなかったから・・・」
ぐいぐい来たかと思えば彼女はスッと後退りして俺と距離を取りあちらこちらへ視線を泳がせる。
この人ここまで自分の感情を露にするお方でしたっけ? そう思いながら俺は会話を続ける。そうしている内に川なんとかさんの気心が変わってくれるようにと。
「ここを利用したのは今日が初めてだ。俺の通ってる大学と距離が近かったんでな」
「! へぇー・・・あんたここの近くの大学通ってんだ。・・・どこ大?」
「◯◯大学だ」
「あたし◯◯大。ここでバイトしてるのも学校近いから」
「ほぉ、そこって結構偏差値高めのとこじゃねえか。お前も頑張ったんだな。すげぇよ」
数少ない記憶の欠片を頼りに彼女と会話する。確か当時もこいつは学校と塾を行き来しながらアルバイトも同時にこなしてたんだっけな。それでありながら結果こうして努力が実を結んでいるのだから、それは相当に立派なことだ。
「えっ? ・・・・ぃゃっ、・・・しょんなこと・・なひ」
川崎が目を見開く。それから顔を真っ赤にして何やらぽしょぽしょと言っている。・・・・あっ、やっとこいつの名前思い出せた。そう川崎だ。
「・・・川崎? どうした?」
「っ!・・・とっ、とにかく! あんたはこれからあたしの家に来るの! あたしの家、ここから近いから」
「いや、だからそこまでしてもらう義理は」
「いいから来な!! 行くよ!!」
「はっ! ひゃいっ!!」
突然の川崎の大声に驚いて俺は咄嗟に変な声を出して答えてしまう。
あるぇー? もしかして川崎さん本気? 本気で俺みたいな奴を家に招くつもりなの? ・・・どうなってもしらないよ?(俺の命が)
それからぷんすかと鼻息を荒げながら前を歩く川崎の後をついて俺は川崎の家に向かうことになった。