※この作品はR-18です。

やはり俺と彼女のまぐわいはまちがっている。   作:クロセス

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after(part1)

仕事からの帰り道。普段であればそのまま自宅であるマンションに直帰するのだが、今日は月に一度の食事会の日。俺は単身で駅前にある居酒屋へと向かう。

 

………おいおい、それを言うなら食事会じゃなくて飲み会だろって? ……そう言ってくれるなよ。俺だってそれくらい分かってる。

 

最初は洒落たレストランを予約して二人で食事をしたんだ。それ相応の金を掛けただけあってディナーの質は最良、店の雰囲気も良好でその時の俺は自身の立てた企画の成功を確信していた。

 

しかしレストランでの食事を終えた帰り道、ふと隣を歩く彼女がため息混じりにこう言った。

 

「今日のお店、あたしにはちょっと・・・不釣り合いだったかな」

 

その言葉に俺は首を傾げる。いやいや、お前が駄目なら俺はドレスコード云々の前に門前払いをくらって終わりだろうと。

 

さっきまであんな和ごやかに食事をしていたというのに、今の彼女は遠い目をして何か物思いに耽っている。

 

俺は彼女にそこまで言わせてしまう程の何かをしてしまったかと考え思考を巡らせるが、これといった理由は特に思い当たらない。

 

「・・・あー、その! ディナーはすごく美味しかったよ。お店の雰囲気も良くて居心地は良かったし、機会があるならまた・・・来たい」

 

かと思えば彼女は突然思い出したかの様に言葉を捲し立てる。その言葉の節々には疲弊の色が見え隠れしているが、きっとそれも彼女の本心なのだろう。俺は内心胸を撫で下ろす。

 

……ちなみに彼女のこの”癖”らしき物が出たのは、何もこの時が初めてではない。彼女と交際を始めてからもうかれこれ四年ほどになるが、交際を始めた当初から既にその癖らしき物が顔を覗かせていた。

 

例えて言うなら、何か自分が得することをされたり嬉しいと感じる様なことをされたりすると、嫌な顔とまでは行かないが……まあ困った顔をするんだ。

 

別にそれ自体に問題はない。四人姉弟の長女としてこれまで生きてきたから、そういった遠慮癖みたいな物が染み付いてるっていうのは十分理解出来る。

 

ただ……そういった傾向が顕著に現れるのが……その……俺と一緒に居る時なんだ。

 

彼女と交際する上で俺は常に彼女の為を想って、彼女に尽くしたいと考えて色々と策を講じているのだが、彼女の態度を見るとそれが反って裏目に出ているような気がしてならない。

 

一度この気持ちを直接彼女に伝えて二人で話し合おうかとも考えたが、そんな些細な事を他人に口出しされて良い顔をする人間も居ないだろう。

 

そう考えてこれまでずっと沈黙を貫き通して来たが、やはり気になるものは気になる。どうにも我慢ならなくて彼に相談した事もあったが、彼にしては珍しく府に落ちる答えは返って来なかった。

 

そういや昔からソリが合わなかったもんな、あの二人。そのお陰で妙な嫉妬心が生まれずに済んだのだが、まぁそれは今はどうでもいい話だ。

 

 

………とかなんとか考えている内に、気付いたら目的地である居酒屋に着いてしまった。まいったな、こんな気持ちのまま店に入ったらまた悪酔いして言いたいことも言えずにせっかくの食事会を台無しにしてしまいそうだ。

 

そう思った俺は一旦その店から離れて路地を二本跨いだ所にある自販機へと立ち寄る。

 

自販機に小銭を投入して、自身がいつも愛飲しているあのコーヒーを……と考えたが、今は少しでも気持ちを落ち着けたい。故にここは敢えてブラックを選択するとしよう。

 

ガコンッ、という音と共に取り出し口に流れてきたコーヒーを手に取ってそのままその場で口を開けてそのまま一気に飲み干す。

 

………っぷはぁ………相変わらず、苦いのは口に合わんね、まったく。

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませー!」

 

居酒屋に入ると近くに居た男性店員が声を掛けてくる。土曜の晩ということもあって店内は非常に賑わっているが、俺にとってそれは大した問題ではない。

 

「お一人さまですか?」

 

「あー、いえ、二人です。予約を入れておいたのですが」

 

「失礼ですが、お名前を伺っても宜しいでしょうか」

 

「比企谷です」

 

店員が馴れた手付きでタブレットを操作して俺の予約名を検索する。自分で言うのもなんだがかなり珍しい名字だからすぐに検索ヒットする筈だ。

 

「比企谷さまですね。・・・はい、確認いたしました。あの、失礼ですがお連れさまは?」

 

「少し遅れて来るみたいです。予約した名前と同じ名前を口頭で伝えてくる筈ですけど」

 

「かしこまりました。ではお連れ様がお見えになられましたら、貴方さまの居る個室の方にご案内いたしますので」

 

「ええ、お願いします」

 

それから店員に促されて個室席へと案内される。俺も彼女もお互い他人に干渉されることを苦手としているから、外で食事をする際にこうして人目に付かない空間で食事が出来るというのはかなり有難い。加えてここは提供される料理は美味で値段もリーズナブル、そう言った点が気に入って俺たちはここを行き付けの店に選んだ。

 

「お飲み物は何になさいますか?」

 

俺が席に着いてすぐに店員がそう尋ねてくる。俺はついさっき缶コーヒーを飲んだばかりだから特に喉は渇いてなかったが、彼女が来るまで時間が空くだろうし何か適当に頼んでおくか。

 

「あー・・・じゃあウーロン茶を一つ」

 

「かしこまりました。他に何かご注文などございましたら、備え付けのタブレットを操作して申し付け下さい」

 

「ええ、分かりました」

 

そうして店員は席を離れる。一人になった俺は肩の力を抜いて一息つく。

 

「ふーっ」

 

それから俺はおもむろに上着の内ポケットに手を入れてそこに忍ばせている物に手を触れてその存在の有無を確かめる。

 

数ヶ月前にこれを購入して以来、食事会の日が来る度にいつもこうしてポケットにしまい込んで来ているのだが、どうにもこれを渡すタイミングが掴めずに今日まで至る。

 

………いや、情けない話だが要は俺が尻込みしてるだけだ。タイミングなんてものは幾らでもあった。何も食事会の日に限らず二人きりの時に渡してしまえば良いんだ。それを変に格好付けようとするからこうなる。もっと早くにこれを渡せていたら、それだけ俺たちの関係も進展していたかもしれないというのに。

 

というのも、これだけ長い時間を共に過ごして来て、未だに俺たちは同棲が出来ていない。

 

一応、大学を卒業してお互い就職先が決まったところで俺はそれとなく彼女に同棲の話を持ち掛けたんだ。Vtuberをやっていた頃に蓄えた貯金がそれなりにあったし、交際期間が長いということもあって互いの親御さんへの挨拶もとうに済ませている。だから同棲をするにあたっての障害らしい障害は何処にも見当たらない。

 

でも……俺がその話題を口にした途端彼女は急に口数を減らして、また心ここに在らずといった様子で遠い目をして俯いてしまった。彼女が醸し出す妙な空気感を察した俺は彼女からの拒絶に恐れてその話をそこで打ち切って別の話題にすげ替えた。

 

当時の俺はその時のことで相当ショックを受けたのか、その日から二週間くらいED(勃起不全)に悩まされた。

 

流石にあれは癖がどうこうの話ではないということは流石の俺でも分かる。だからこそ俺は余計に悩み苦しんだ。

 

微妙になってしまった二人の関係は、その年の彼女の誕生日に予定していた旅行中に何とか修復できた……と俺は思ってる。

 

 

……って、あれ? よく考えたら俺たちの関係って、まだそこまで深いものじゃない……? ともすると、俺がこれからしようとしてることは彼女からすれば相当迷惑な行為なのでは………?

 

「お待たせしました。こちらウーロン茶になります」

 

さっきの店員とは違う店員が席にやってきて俺の注文したウーロン茶をテーブルに置く。

 

「ごゆっくりどうぞ」

 

それから店員がぺこりと一つ会釈をしてその場を去る。それに対して俺は何一つ反応が取れず、自らが思考して導き出した可能性についてひたすら頭を悩ませていた。

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