「うっ!! ・・・・か、川崎!?」
川崎の身体の重みが俺の背中に加わる。密着して押し付けられる形となった彼女の胸の感触が嫌というほど伝わってくる。
「ごめん・・・・もう我慢できない」
そう言って彼女は俺の手からボディタオルを奪い取ると、それにまた新たにボディソープを付け足してモコモコと泡立てた。
「これ・・・取るね」
川崎が俺の耳元に顔を近付けて小声でそう告げた。彼女の熱い吐息が耳元と首筋に当たってまた何とも言えない感覚を覚える。
「ま、待て川崎! ・・・それは駄目だ!」
これとは即ち、俺の股間を覆い隠しているハンドタオルのことだろう。これを取られてしまったら固く膨張した俺の肉棒が露になってしまう。
川崎が一体何を考えているのか分からないが、それだけは何としても死守したかった俺は身体を丸めて股間辺りへの彼女の手の侵入を防ぐ。
人間越えてはならない一線ってもんがあるだろ。一度それを越えてしまったらもう後戻りは出来なくなる。ろくな考えも無しにそれを越えてしまったら、その先にあるのは破滅だけだ。
「駄目じゃないよ。あたしがしたいんだよ」
俺が身体を丸めたのは川崎との身体の密着から逃れる為でもあったのだが、それは許さないと言わんばかりにまた川崎は俺の身体により強く密着してきた。
俺はそれに耐えられず、思いの丈を彼女にぶつける。
「ぐっ・・・そんなことをされたら俺はもうお前に顔向けができない。・・・頼むからそれだけは止めてくれ・・・!」
羞恥心から出た言葉ではない。俺は恐れてしまったのだ。彼女との関係の変化を。
元々川崎とは特別仲が良かった訳ではない。こいつとの関わりも高校時代を最後に今日まで途切れていた。
しかし俺は別に川崎のことを嫌ってはなかった。人を寄せ付けまいとする姿勢を見せる彼女に気後れすることはあっても、何かしらの切っ掛けで関わってみたら意外と気の合う奴だった。
大学生になって他人と関わる機会が増えた今でもその気持ちは変わらない。たとえ服にコーヒーをぶっかけられようとも、それが彼女を嫌う理由にはならなかった。
そんな俺が恐れてしまった。一線を越えた行為の先にある、彼女との関係の変化を。
「ふっ」
川崎が鼻で笑った。惨めに身体を丸める俺の姿を見て、『まるでダンゴムシのようね。気持ちが悪いわ』とでも思ったのだろうか。
「あんたのそういうところ・・・あたし好きだよ」
「・・・・・・は?」
俺の身体を抱擁する川崎の力がこれまで以上に強まる。予想していたことと全く違う言葉が返ってきて、俺の思考は乱れる。
「そんな深く考える必要ないよ。この行いの責任は全てあたしにある。これから先どうなろうとも、あたしがあんたに何か見返りを求めることはない」
それはとても魅力的な言葉だ。彼女のような女性にそんなことを言われた日には世の中の男たちの多くがその言葉に頷き、その身を委ねることだろう。現にこの俺も一瞬、彼女のその言葉に頷きかけた。自分の意識を再認識したのにも関わらず。
「これはあたしの勝手、あたしのワガママ。・・・あたしの贖罪」
川崎はまるで自分に言い聞かせるかのように小さくそう呟いた。それを聞いて俺は彼女の中に迷いがあるのを感じた。
彼女が何の考えもなしにこの行為に至っている訳ではないということがその言葉から伺い知れた。しかし俺はその言葉を聞いて更に彼女の考えていることが分からなくなった。
「元はと言えばこれはあたしが蒔いた種。あたしが何とかしてあげないと、あたしの気が収まらない」
そう言って川崎は両腕を俺の胸板の前で交差させて力を込め俺に身体を起こすよう促す。俺は彼女に対してもう返す言葉が無くなり、それと同時にまた自分の意思が消えて、もうこのまま彼女に身を任せてしまおうと考える。
「・・・それでお前が納得するのなら、お前の気の済むようにしてくれ」
言ってしまった。これでもう後戻りはできない。万が一があるとすれば、今この瞬間に俺たち以外の誰かが家に来訪して二人きりでなくなることくらいか。果たしてそれは可能性としてあり得るのだろうか。さして彼女のことを知らない今の俺には見当もつかない。
「任せてよ。悪いようにはしない。あたしを信用して」
それからゆっくりと川崎の手が俺の股間を覆うハンドタオルに近付く。そして無慈悲にも、俺の唯一の心の拠り所であったハンドタオルを彼女は取り去った。