俺の全身についた泡をシャワーのお湯で綺麗に流した後、二人の居る位置を交代して今度は川崎が俺の前に。川崎はお風呂用の小さい椅子を用意してそれに腰をかけた。(それ俺も欲しかった)
位置を交代する際に川崎に一言ハイと言われて手渡されたボディタオルを手に俺は呆然としながら彼女の背中を眺めていた。
上下黒の水着を身に付けた川崎の背中に垂れ下がる彼女の青みがかった黒髪のポニーテール。そのポニーテールが俺の目の前でゆらゆらと揺れてその存在感を主張する。
シャワワワワワ
椅子に腰かけた川崎はシャワーを手に取りノズルを捻ってお湯を出すと、俺が壁にぶちまけた大量の精液をそのお湯で流し始めた。
「あの・・・それくらい自分でやりますけど」
いくら川崎の施しによって出たモノであっても、俺が粗相をしてしまったことに変わりはない。自分の後始末は自分でつけたかった俺は川崎にそう告げる。
「あたしがやりたいの。それよりもあんたは早くあたしの背中擦って」
そう言って川崎は空いた方の手で自分の髪に結ったポニーテールを自身の身体の前側に垂らしてその美しい背中を露にした。
男のそれとは明らかに違う肌の質感を持つその背中の全貌を改めて目の当たりにして俺は思わず息を飲む。
しかしいつまでも彼女に見惚れてはいられない。またいつ川崎から怒りの催促が飛んでくるか分からない。俺は手に持っていたボディタオルを恐る恐る彼女の背中に当てると、さっき彼女にしてもらったように優しく擦った。
川崎は壁に付着した俺の精液を洗い流すのに気を取られているようで、俺がタオル越しに彼女の身体に触れても特に目立った反応はなかった。ならばと思い俺はそのまま彼女の背中を洗う行為に専念する。
それにしても、しちまったなー、キス。それも川崎と。
言わずもがな、あれが俺にとっての初めてのキスだ。
初めてのキスっていったら、もっとこう色々と感じるものがあるものと思っていたが、実際にしてみて感じたのは性的興奮だけだった。
俺は決してロマンチストではないが、その点だけは少し残念に思った。
・・・・・なら今度はその逆を試してみたらどうだ。
川崎からされるのではなく、俺から彼女にキスをしたら、また何か違う感情が俺の中に芽生えるのではないだろうか。
あんなことをした後だ。彼女も今なら俺の行為を快く受け入れてくれるだろう。そこから更に先の行為に及ぶことだって。
……………って、馬鹿か俺は。
キスってのは本来お互い好き合ってる者同士がするから意味があるんだろう。好きでもない相手としてもそこには何も生まれない。それはその先の行為についても同じことが言える筈だ。
川崎はさっき・・・俺のことを好きだと言ってくれたな。その好きは一体どういう意味の好きなんだ?
目の前の彼女にそれを聞こうかとも考えたが、只でさえ彼女との関係の変化を恐れている俺がそれを聞ける筈もなかった。
彼女の真意が分からないのにそれ以上そのことを考えても時間の無駄だ。俺は目の前の出来事に意識を戻して集中することにした。
「・・・・痛みはないか。川崎」
「うん、平気。あんた上手だね」
「幼い頃こうして同じように親父やお袋、それに小町の背中を擦ってやったことがあるからな。・・・あの頃は楽しかった」
「あの頃は、って・・・今は楽しくないの?」
「楽しいこともあるが辛いことの方が多いな」
「あー、それ分かるかも。あたしも似たような感じ」
「お前は世渡り上手なイメージがあったから苦労なんてないと思ってたぞ」
「苦労のない人間なんて居ないよ。実は今あたし勉強とバイトの両立が難しくなってきててさ、毎日どうしようどうしようって悩んでたの」
成る程。ともすればあのファミレスでの一幕も常日頃の疲労が蓄積した結果だったのかもしれん。人間誰しも日常生活には何かしらのストレスが付き物。それは川崎も例外では無いらしい。
「誰か相談出来る相手とかいないのか?」
「あたし人付き合いが苦手でさ。そういう踏み込んだ相談出来る相手がなかなか作れなくて」
「それは心配だな。俺でよければ話聞くぞ」
「本当?」
「ああ。だが期待はするなよ。あくまでも俺はお前の鬱憤を晴らす為の道具だ」
ふむ。何というか、さっきまでと打って変わってかなり普通に話せてるな。
さっきまで川崎に対して抱いていた後ろめたい気持ちも今は霧散して俺の心は落ち着きを取り戻している。
一時の気の迷いで危うく彼女のことを傷付けてしまうところだった。ナイス俺、お前には後でマッ缶をプレゼントしよう。
「そんなこと言ってくれたの、あんたが初めて」
川崎のすぐ後ろで彼女に見えないようこっそりガッツポーズを作っていたのだが、不意にこちらを振り向いた川崎にその姿をバッチリ見られてしまった。
「勘違いするなよ川崎。俺は別にお前のことを」
「・・・手ぇ止まってる。もう、背中だけじゃなくて他のところも洗ってよ」
何処か不貞腐れたようにしながら川崎は両腕を軽く左右に開いて自身の脇を開けた。その意味を即座に理解した俺はまた息を飲み、そして一度深呼吸をしてからその脇に自分の腕を通す。