継母の連れ子が元カノだった、いまは僕の父親とヤってる 作:大中小太郎
九夜目(前編)
――伊里戸水斗――
人の心は、どうしても『体験』に影響を受ける。
夢の中もまた、現実になにか大きな出来事があれば、それを反映した変化が起きるものだ。
ましてや――
『好きです。水斗くんの、彼女にしてください……っ!』
愛の告白、なんてものに直面すれば。
東頭いさな。
僕こと――伊里戸水斗の『親友』。
放課後の図書室で接点を持った、人間関係に問題を抱えていたオタク系女子。
僕がその告白を断った後も、気の置けない『親友』というポジションに残り続けた少女。
彼女は、今日まで僕の見ていた淫らな夢とは、何の関わりも無かった。
無かったのだ。
僕なんかのことを好きになって――
自慢の胸を押し当て、異性として意識させて――
あまつさえ、誠心誠意の告白で、僕の恋人になりたがらなければ。
現実では、どうにかドライに『親友』という関係を保ち、波風を起こさずに済んだけど。
あの純粋な好意に、あの豊満な乳房に、男としてなにかしたいという感情は、もちろん生じる。
僕はそれを、現実ではおくびにも出さず、自覚できない心の奥底に閉じ込めることで処理した。
でも――彼女は最近、僕の家に来た。
伊里戸家に、足を踏み入れた。
南さんが『おまじない』を行った家に。
体験者の記憶に残らない夢の世界を作る『儀式場』に。
その場所に関わりがあるだけで、夢の世界に巻き込まれる、伊里戸家に。
僕はその事実を、もっと重く受け止めるべきだった。
○
「ですから、このシーンの挿絵がおかしいんです!
ヒロインの武器の形状が地の文と明らかに違うじゃないですかっ」
「そのくらいは誤差だろ」
「いえいえ、文章から判断するに――」
放課後、僕といさなは、いつものように図書室で並んでラノベ談義をしていた。
現実じゃない。夢の中だ。
気がつけば僕は放課後の図書室におり、現実でもそうしているように、いさなと読書をしていた。
現実世界におけるここ最近の日課が、夢の中でも演じられているのだ。
「作者の注文を絵師が無視したんでしょうか?」
「もしくは、間でやりとりしていた編集が伝え損ねたんじゃないか?」
夢の中だというのに、何も異質なことがない。
静かな図書室の空気も、窓の外で陰る日差しも、部活動に勤しむ生徒の声も。
僕の精神状態も、いさなの様子も。
いつも通りだ。僕の記憶からありふれた日常を切り抜いただけの光景だ。
僕はそこに、深い安心感を抱いていた。
「作者と絵師って、組んでるのに連絡しないんですか?」
「仕事に関しては編集を挟むように求められるって、前にどっかで聞いたことがある」
僕は現実と同じように淡泊な態度を維持しながら、内心ではこの時間を噛み締めていた。
実体はある。けど過剰に盛りついてはいない。
結女もいない、父もいない、由仁さんも南さんもいない。
他人でもなく、恋人でもそれ未満でもない、いさなとの付かず離れずの距離感だけがある。
(この図書室、僕の中で、家より落ち着く場所だったのかもな……)
現実の伊里戸家は、結女や由仁さんという新たな家族を迎えたことで、環境が変化した。
まだ慣れ親しんだとは言えない同居人が増えたことで、少し緊張感のある場所になった。
その点、高校入学により新規開拓された図書室という居場所は、居心地がいい。
つい先日、告白された断ってしまった、いさなという子がそこに居ても、やっぱり落ち着く。
(ここは家からも遠いし、南さんの『おまじない』とも縁がないからかな?)
だからこうして、オタクトークに花を咲かせていられるのだろう。
男も女も、元カノも、義理のきょうだいも、セックスもない。
それら非日常を、創作物として安全地帯から眺められる環境。
僕のような男には、やっぱりそういう時間が性に合っているのだ。
「あ、水斗くん。それの感想、後で聞かせてください」
と、いさなが僕の手元を覗き込む。
僕が片手で持っていた本を見ようとした拍子に、いさなの豊満な胸が、制服越しに腕に触れた。
「っっっ!!」
その瞬間、僕の脳裏に、いままで見てきた淫らな光景がフラッシュバックした。
喘ぐ結女、その乳房を掴む父、乱れる由仁さん、それを犯す僕――
そしていま隣にいるのは、欲情に足る体を持った、いさな。
「離れろっ!」
僕は思わず、いさなに声を荒げていた。
飛び退くように離れた僕を、いさなは驚いた顔で見ている。
「え? あ……ごめんなさい」
「ああ、いや……」
少し呆然とした後、いさなは傷ついたように俯いてしまった。
なにをしているんだ、僕は……
いまくらいの密着は、現実でもしばしばあった。
多少それに困ったとしても、やんわり抗議するだけで、僕らの間ではそういうじゃれ合いが許されていた。
なのに、いまみたいな反応をしたら、いさな自身を強く拒絶したも同然だ。
「あ、あはは、いえいえ、いまのは私が悪いです。『親友』ですもんね」
いさなは、過去に告白した自分が胸を当てるのはよくないと理解したようだ。
それは正解で、常識的な節度なのだけど、なぜか急に、いさなとの距離が遠ざかった気がした。
そんな心境の変化に左右されたのか。
夢の情景は、いつしか街中となり、いさなと道を別れる場所に来ていた。
「じゃあ……」
「はい。さよなら」
僕が気まずい気分で言うと、いさなも苦笑い気味に手を振って、横断歩道を渡っていく。
さっきの態度をフォローする機会は、逃してしまった。
夢の中だというのに、まるで面倒な現実めいた、小さなすれ違い。
いまさらながら、僕といさなの関係は、普通なら成り立たないものなのだと痛感するのだった。
(この夢で、いさなと会うのは、もう止めよう)
理由は言うまでもない。
また僕が彼女に欲情して、どうせ夢の中だからと、襲いかねないからだ。
由仁さんのときのように、突如として生じた激情を制御できないかもしれない。
たとえ夢の中とはいえ、いさなにそんなことはしたくない。
僕を通じて、伊里戸家の淫らな出来事に関わらせたくない。
せめて彼女くらいは汚れないために、僕は胸のうちで、いさなとの時間を切り捨てるのだった。
○
家には帰らない。
帰ったところで、結女と由仁さんが父に抱かれる光景を見るだけだ。
ましてや実体を持ったまま帰れば、僕自身もなにをするか分からない。
だから今日も帰宅拒否。
別の場所で、夢が終わるまでの時間を過ごす他にない。
向かう先は――南さんの部屋だった。
『ちゅっ、ちゅるっ♡ ぷあっ♡ お、お義父さん……落ち着い、て?』
映像に、結女の部屋が映し出される。
私服姿の結女が、父と抱き合いながら、唇を貪られていた。
『ああ、ごめんね。結女の服が、なんだか可愛くて』
『そんな、別に気合いを入れてるわけじゃ……』
結女は薄桃色のシャツと白いロングスカートという出で立ちだ。
その服に隠されるべき胸や脚は、帰宅した継父にまさぐられ、露出させられていく。
僕は、そんな父の手付きをなぞるように、目の前にある女体を愛撫していた。
「あっ……結女ちゃん、エロい♡ 義理のお父さんに、あんな濡れた目をして……」
僕が抱いているのは南さんだ。
ノートPCの画面にベッドの上に置いた彼女は、画面内の結女に釘付けだった。
僕は彼女の背後に座って、南さんの制服を半脱ぎにさせ、起伏に乏しい体を撫でている。
胸も尻も浅い南さんだけど、その体には女の柔らかさに満ちていた。
『ぢゅるっ♡ ちゅぱぁ♡ れるっ♡ あっ♡ ちゅっ♡ あんっ♡ ぷぁ♡ ちゅるる♡』
映像では、結女と父が互いの頬を掴むようにして、水音を立てながら舌を絡め合っていた。
「あはっ、結女ちゃんあれ、キスでイってる顔だよ? すごいねぇ、伊里戸くんのお父さん。
家に帰るなり娘さんをキスでイかせちゃうなんて。伊里戸くん、私のお口に指ちょうだい♡」
結女の受けている好意を追体験したいのか、南さんは僕の指をしゃぶる。
指先に感じる柔らかな舌が、僕の人差し指と中指を、円を描くように舐める。
キスをしないのは、恋仲ではないからとかではなく、映像が見にくくなるからだ。
映像では、いつしか父が結女をベッドに座らせ、服を脱がせながら寝かせていく。
(父さんは、結女を、こんな風に脱がせるのか……)
僕もまた、父の体験を追うように、南さんの服を脱がせていく。
南さんが伊里戸家に仕掛けたカメラによる盗撮映像、それに合わせて行う南さんとのセックス。
ここしばらく、僕は夢の中で、そういう情事を繰り返していた。
『んぁぁぁっ♡ お義父さんっ、そこぉ♡ お豆と、中のいいとこっ、同時に擦っちゃだめっ♡
イっちゃっ♡ すぐイっちゃうからぁ♡ 頭と体ふわふわしちゃうのぉ♡』
結女はベッドで仰向けになり、下着の中に入り込んだ父の手が、ハイペースな手淫を始める。
南さんは巧みにカメラを切り替え、父の体に隠れそうになった結女を映し出し。
「伊里戸くんっ、同じのしてっ♡ 指の形、分かる? お父さんの真似してっ」
「ちょっと、黙っててくれよ」
南さんのリクエストには応えるが、その文言はどこか不愉快だった。
あの憎き父親の手付きを真似て、結女ではなく南さんを感じさせるという仕事は、不本意だった。
それでも、南さんという、結女とは毛色が異なる美少女を抱けるのは、シンプルに快感だ。
お互いに相手を欲してのものではないとはいえ、セックスはセックスだった。
『あひっ♡ おとぉさんっ♡ おっぱい、おっぱいも吸ってっ♡』
結女は自らの手で胸を揉み、涎を垂らしそうな顔で父を誘っている。
父は手淫を維持したまま結女の巨乳に吸い付き、僕も南さんの浅い胸に口を寄せる。
「あっ、伊里戸くん。画面が、見づらいから……あんっ♡」
仰向けにされた南さんは、ノートPCを手で持ち上げ、映像を視界の中心に保つ。
『あああしゅごいっ♡ おっぱいしゅごいっ♡ お義父さんの舌でっ、全身びりびり来るっ♡
わたしっ、あなたの口でっ、楽器みたいに鳴かされてるぅっ♡』
父の口内で乳首を踊らされているのか、結女は父の頭をかき抱き、首を振って髪を乱す。
「うわ、結女ちゃんすごい反応♡ お義父さんのお口の中で、乳首どうなっちゃってるの?」
僕も南さんの乳首を舌で刺激しているが、それ以上に南さんを興奮させるのは、結女の姿だ。
『結女も慣れてきたじゃないか。前ならいやいや言って気絶しかけてたのに』
『慣れて、ないよぉ♡ 何度されてもっ、イク間隔、短くなるばっかりっ♡ んあああっ♡
でもっ、前よりっ、分かるっ♡ お義父さんにされる気持ちよさっ、前より感じてるのぉ♡』
結女の身体は、以前より快感に耐性ができているようだ。
ただそれは、マンネリを招くようなものではなく、以前なら取りこぼしていた快感を、意識が拾っているということなのだろう。10%しか感じ取れなかったものが、100%感じるようになったら、主観的には10倍の快感となる。
その証拠に、結女は何度も腰を跳ねさせ、大小無数の絶頂を味わっている。
「ふぐっ♡ んんっ♡ くぁぁっ♡」
南さんも盛り上がっているようで、唇を噛んで声を堪えている。
結女の嬌声を聞き取るために、自分の喘ぎ声を我慢しているのだ。
それは、僕の手と口で与えられている快感が、彼女の余裕を奪い切れてないことも意味している。
まるで、僕のテクニックが父に劣るかのようで、少し悔しかった。
『結女、入れるぞ』
『うん、来てぇ♡』
南さんが見るPCの中で、結女が四つん這いになり、尻に手を沿えて父に向けている。
バックで突いてほしいらしく、乱れた黒髪が掛かった顔は、父の肉棒を待ちわびていた。
南さんも無言で同じ姿勢をとっており、しかし視線は映像の結女を凝視している。
意識が結女に集中して無言になっていた。
『エッチになったなぁ、結女。お尻を撫でられるだけでイキかけて』
『あんっ♡ だってぇ……お義父さんのそれに、どれだけイかされてきたと思ってるの?
体が、思い出しイキしちゃうの♡ ねぇ早くっ、お義父さんのがここに無いと寂しいの♡』
結女は腰をくいっと持ち上げ、指で陰唇を広げながら、父の剛直をねだる。
「はぁ、結女ちゃん、もう中に入ってるのが当たり前なくらいなんだ♡
お義父さんのが無いと、お股が寂しくなっちゃうんだね♡ 可愛い、エッチすぎて可愛いよぉ♡」
南さんも興奮しながら、僕に挿入を促す。
父が、いきり立った怒張を結女の入口に擦り付けた。
僕もそれに倣い、南さんの膣口に分身をあてがった。
『あっ♡ はあぁぁぁっ♡ くるっ、きちゃうっ♡』
亀頭の先端が膣口に潜り込むと、結女は背筋を反らして感じ入る。
『ひぁんっ♡ また、焦らすぅ♡ はやくっ、奥まで一気に来ていいからぁ♡』
父はそのまま入口を擦って焦らし、結女はシーツを握り込みながら首を振る。
「んっ♡ ふぅぅっ♡」
僕は不思議と、映像に遅れることなく、南さんに同じことをしていた。
何度も結女と父のまぐわいを見てきたせいか、父がここで焦らすことは分かっていた。
特にここ最近は、こうして映像越しに父の動きをトレースしてきたせいだろう。
だから、僕が南さんに挿入したのは、父が結女に腰を押し込むのと同じタイミングだった。
『んああぁぁっっきたぁっ♡ おとぉさんの、あああぁぁぁきてりゅぅぅぅっ♡』
結女が歓喜のオーガズムに吠えている。
南さんも声こそ殺しているが、僕の挿入に背筋を震わせていた。
『はぁ……やっぱりこれだよ。結女の膣内がいちばん気持ち良い』
『えへへ、嬉しい♡ 動いてっ♡ 私、またいっぱいイっちゃうけど、もう大丈夫だからっ♡
お義父さんになら、突かれるたびイかされても、何回気絶させられてもいいからぁっ♡
いつも、みたいにぃ♡ 狂わせてぇ♡』
淫らさを極めた結女は、犯されるほどの抽送を父に望んでいる。
お望み通りに――と、父と僕は同時にピストン運動を開始した。
『あああいいいっ♡ これっ♡ 体重、乗せてっ、ドスドスってぇ♡ すごい、イキかたぁ、何度もくるぅ♡』
……僕も南さんを笑えない。
その映像を通じて、南さんを代用品に、結女を抱いているような錯覚を抱いていた。
どころか、いま結女を抱いているのは父ではなく僕なのだと、脳内で錯誤さえ生じている。
それは冷静になって考えると、とても情けない妄念だったけど、快感を与えてはくれていた。
(っ、まただ。射精に、ロックがかかってる、この感覚……)
最近また味わうようになった、射精寸前なのに解放されない時間。
経験上、なぜか父が射精するまで、このロックは解かれない。
『あひぃ♡ おとぉさんもっとぉ♡ あぐぅ♡ イカせてぇっ♡ 頭、弾けちゃうくらいっ、イカせてぇっ♡ お尻叩いてっ♡ おっぱい掴んでっ♡ 私が気持ちよくなることたくさんしてぇっ♡ いっぱいっ、いっぱいっ、おとぉさんのおちんぽでイクからぁっ♡』
半狂乱になった結女に、父は何回かスパンキングをすると、胸を掴んで上半身を持ち上げる。
結女の身体を、自分が気持ちよくするために使うような荒々しさに、僕は歯噛みした。
「んあっ♡」
同じことを南さんにする。
結女と比べて胸が足りないのが、少し不満足だった。
それでも、この手で直接、女体を感じることに、夢中だった。
『結女、結女っ、可愛いぞっ! 僕がいくらでもイカせてやるからなっ!』
父は体位を変え、背面側位で結女に抽送する、
横たわった結女は、背後の父に片足を持ち上げられ、喉を反らして幾度も絶頂していた。
偶然だろうけど、まるでカメラに対して、結女の裸身を誇示するかのようだ。
『嬉しいっ、素敵っ♡ お義父さんやっぱりすごいのっ♡ 私を気持ちよくする天才なのぉ♡
お願いっ、もっとしてぇ♡ 私の体っ、いくらでもっ、お義父さんの好きにしていいからぁ♡』
ベッドの軋む音が、PCのスピーカーから聞こえる。
僕と南さんの間でも、肉のぶつかる音が鳴り、部屋に反響する。
結女と南さんが、僕と父が、あの部屋とこの部屋が、空間を越えて重なり合うかのようだった。
よって、いま南さんは結女であり、結女を抱いている父は僕である。
絶頂直前で寸止めされた僕の思考は、そんな馬鹿げた妄想に染まり、一心不乱に腰を振る。
『ぐっ、結女、出すぞ!』
『来てぇ♡ 出してぇ♡ 中にちょうだい♡ 熱くて気持ちいいので、子宮いっぱいにしてっ♡』
そして今日も、僕は父と同時に射精する。
映像の中で結女が弓反りになり、声すら出せない様子でオーガズムに震えている。
南さんも体を震わせ、顔が画面にくっつくほど近付け、危険な目で無言の絶頂を迎えていた。
「くはっ、はぁ……」
我に返った僕は、南さんに中出しした逸物を引き抜く。
南さんは僕の膣内射精について抗議すらしない。
それは夢の中で妊娠リスクがないという理由ではなく、僕が忠実に父と同じことをしたから、満足しているのだ。
「はぁぁ……結女ちゃぁん♡ もうだめ、私も結女ちゃんが欲しい♡ ほしいよぅ♡」
南さんはとうとう、画面の結女に舌を這わせ始めた。
映像の中では、気を失った結女を、父が介抱している。
「…………」
僕はと言えば、射精したせいか、賢者モードのような冷静さを感じていた。
(なにを……して、るんだ……)
気持ちよかった……
たとえ僕を肉ディルドくらいにしか思ってない南さんでも、穴は快感だった。
南さんは結女に魅入られ、結女を抱く父の代わりに僕を操り、結女と同じ体験をすることで繋がろうとしている。
僕も同じだ。
僕は結女の痴態に焦がれ、南さんのストーカー行為に便乗し、南さんを結女の代替物にしている。
その最中の僕は、南さんを生きたダッチワイフのように扱っていたことになる。
(なんて……クズなんだ……なんて、なんて、なんて……っ!)
顔を覆いたくなる。
いつしか、結女が父に抱かれる光景に、義憤や悔恨ではなく興奮ばかり覚えるようになった。
それを欲して南さんの歪んだ行為に加担して、結女に劣情を向ける側に回っている。
結女を抱く父に、自分を投影して、結女を抱いてる気分に浸ってしまった。
熱が引いていき、そういう自分を客観視できるようになると――
(恥ずかしい、恥ずかしいっ!)
僕は顔から火が出るほどの自己嫌悪に襲われる。
この淫らな夢が、結女と父の許されざる関係が、僕の卑しさを暴き立てている。
元恋人と父の交尾に欲情して、義理の母を八つ当たりするように犯して、家から逃げて、
なのに、家を出て決別したかと思ったら、外部から自宅に『覗き』をしている男――それが僕だ。
(こんな醜さ、あの二人に、見せられるわけ、ないだろう……)
例えば結女が、こんな僕の姿を知ったら、どんな顔をするか。
例えばいさなが、僕のこの醜態を見たら、どんな目をするか。
だから僕は、この夢で、あの二人には会いたくない。
僕の、こんな醜悪な一面を知られてしまうことの方が……会えないことよりも怖かった。
(でも、南さんは、『僕』を見ていないから……)
だから僕は、こうして南さんの部屋にいる。
ある意味で、僕という人間を全く見ていない彼女なら、安心して自分の劣情をぶつけられるから。
(そうか……結局、僕は……『誰にも見られない』方が、居心地がいいのか)
頭がぼんやりしてきた。
ふと見れば、自分の両手が透けて見える。
ああ、これは、久しぶりに味わう……浮遊霊めいた不可視の肉体だ。
たぶん、この夢の『部屋』から、僕がログアウトしようとしているのだろう。
「あれ? 水斗くん?」
僕の姿が見えなくなったのか、南さんが首を傾げている。
存在を訴えてやる必要はない。今日の『自慰』が終わったなら、肉ディルドの仕事もおしまいだ。
きっと次の夢にでも再会して、どうせ同じような行為をすることになる。
(もう、いい……これで、いい……)
もう、伊里戸家には帰らない、図書室にも行かない。
ただ、こういう形で誰とも向き合わずセックスできればいい。
多少の自己嫌悪はあっても、この醜い自分には似合いの場所だ。
愛も暖かみもないこの環境が、いまはただ気楽で仕方なかった。
○
――伊里戸結女――
人の心は、どうしても『体験』に影響を受ける。
『僕は狭量な人間でさ。本気で向き合えるのは、どうも一人が限度らしい。
そのたったひとつの席をさ、そんな権利もないくせに、まだ占有してるやつがいるんだよ。
そして僕はそいつのことを、そんな義理もないのに、まだ泣かせたくないと思っているらしい』
ましてや、元恋人の男の子から、そんな言葉を聞いてしまったら。
夢の中では忘れていた彼の存在を、思い出してしまうには、充分だった。
「…………」
ぼんやりしていた意識が覚醒する。
体に残る絶頂の余韻が、ついさっきまで義父とセックスしていたのだと教えてくれた。
私こと、伊里戸結女は、いま義父の腕枕で心地よく休んでいるところだった。
(どう、して……)
起き上がる。
シーツで胸を隠しながら、自分の頭の中を再確認する。
いつも夢の中で私を苛む性欲は、満たされたせいか、いまは落ち着いていた。
(どうして、いまになって……思い出しちゃうの……っ!?)
頭の中には――水斗がいた。
継父との背徳的な関係に酔っていた頭が、『しらふ』に戻ってしまっていた。
二重人格のように形成されていた『夢の私』が、現実の私の方へと回帰している。
(伊里戸くん……水斗、くん……)
伊里戸水斗、私の元カレ、いまは義理のきょうだい。
きっぱり別れたはずが、親の再婚で同居することになり、昔の恋を再燃させてしまう相手。
夢の中から自己分析すると、はっきり分かる。
――伊里戸結女は、まだ彼が好きなのだ。
元恋人が家にいることで女の本能を刺激され、他の異性と親しくしていると嫉妬させられている。
現実の自分が否定したがってるその恋心が、こちら側の私には岡目八目みたいに分かる。
その恋心が――現実で強い刺激を受けたことで、こっち側にまで届いてしまった。
(伊里戸くんに、会わなきゃ)
何かの啓示を受けたように、そう思った。
私の中で、現実の側の伊里戸結女が、そうするように訴えていた。
この夢を見るようになって以来、義父に染められていた心の中の、まだ染まっていない部分が……そうしろと言っている。
「結女?」
「っ!」
ベッドを出て服を着ていた私は、義父の呼ぶ声を聞いて肩が跳ねる。
いつの間にか起き上がっていた義父が、ズボンだけ穿いて、私の背後にいた。
「あ、ごめん、起こしちゃって……」
「そもそも寝てないさ。どうかしたのかい?」
後ろから肩を抱いてくれた義父に、心が温まる。
私の心に巣食っている水斗への未練を、埋め尽くしてくれるほどに。
でも、いまだけは――それに流されてはいけない気がした。
「水斗に会いたいんだね?」
まるで分かっていたような確認に、目を丸くする。
態度に出ていたのだろうか、寄りを戻したがっていると思われただろうか。
そんな私の混乱を宥めるように、義父は私の髪を撫でてくれた。
「水斗への気持ちが、まだあるんだね」
「そ、それは……」
自分でも思う。いま、私は軽蔑されるべき女だ。
あれだけ義父と関係を結んでおいて、水斗の名前を興奮の種にさえ使っておいて、いまさら恋する乙女かビッチが――という感じだろう。
自分の女が、他の男の元に行こうとしているのだから、そのくらい言う資格が義父にはある。
「構わないよ。人の心だからね。元恋人に未練があるくらい当然さ」
だというのに、彼に私を責める様子はない。
大人の男性の包容力――というだけではない気がする。
まるで、未来を知っているかのようなこの余裕は、いったいなんなのだろうか。
「会って、どうするんだい?」
「……分かりません。ただ……会って、確かめたくて」
「なにを?」
「気持ちを、です。私が……『ここ』で伊里戸くんを見て、どう思うのか……」
これが普通の夢ではないことは、もう気付いていた。
なぜこんな夢が始まったのか、という解明に興味はない。
ただ、現実世界よりも心の裏が浮き彫りになるこの夢で、水斗に会ったらどうなるのか。
私自身にも決着がつけられない、元恋人への想いに、なにか確たる答えが出るのではないか。
それを出さず、義父との肉欲に溺れ続けるのは、愛してくれる義父に対しても不実ではないか。
そんな身勝手とも言える感情を、義父は察してくれたようだった。
「いいとも、行っておいで」
義父はそう言って、私の肩を抱いて玄関に導く。
私の足は自然とそれに従い、玄関の扉を開けた。
行くあてがあるわけじゃない。
ただ『この家を出る』という行為に、強い意味がある気がした。
「お義父さん……その、ごめんなさい。私、いまさら……こんな勝手な……」
「いいんだよ。息子を想ってくれてのことだ。怒ってなんかいないから、安心しなさい」
頭を撫でられて、胸が引き絞られた。
この人が、ただの肉欲以外でも、私を愛してくれていたのだと感じて。
「もし、結女が水斗のことを選んでも、恨んだりはしない。
ただ、結女の家はここだ。どう転んだとしても、必ず帰ってきなさい」
「っ、はい!」
自然と抱き付いて、キスをする。
抱擁してくれた義父が、名残惜しそうに手を離すと、私は玄関に体を向ける。
「行ってきます、お義父さんっ」
家から駆け出すと、外は朝だった。
水斗がいるのは、学校か、街のどこかか。
少なくとも家の中にはいないと確信している。
とにかく探して、そして会おう。
会って、私の心がどんな答えを出すのか、確かめよう。
元恋人との昔の恋が、終わるのか、始まるのか。
それを知るために、私はこの一時、伊里戸家を出て行った。
○
――東頭いさな――
人の心は、どうしても『体験』に影響を受ける。
ましてや、異性に告白をしたなんて体験があれば、夢の内容も色気づいて当然だ。
私こと、東頭いさなは――これをそういう夢だと解釈していた。
最初は放課後の図書室だった。
そこで水斗くんとお喋りして、家に帰るまでは普通だった。
でも自室に入った途端、自分の体が異様に火照っていることに気付いた。
服との衣擦れにさえ過敏になるほど、全身の性感帯に火がついている。
「んふぅ……あっ、あぁっ♡」
ベッドの上で、濡れた秘部を指先でなぞるたび、甘い快感が脳髄まで響く。
制服を脱ぎ捨て、地味なブラとショーツの上から、乳首と割れ目を刺激する。
「はぁっ、はぁっ……♡ く、う、んんっ♡」
元々、性的なことへの抵抗感は薄かった。
とはいえ、ここまで性欲が昂ぶり、性感が過敏になったのは初めてだ。
ましてやそれが夢の中ともなれば、不可思議といってもいい。
そう気付いても、結局オナニーする手が止まらない。
「あぁ……なんで……こんな……っ♡」
快感が強すぎて辛い。なのに気持ちよくて止められない。
指を奥まで差し込んでも苦痛がない。
処女膜なんて気の利いたものは、夢の体にはないらしく、現実では知らないところまで指が届く。
乳房を掴む指は手加減を忘れ、乳首を抓る快感に味を占める。
「んっ、くぅぅぅっ♡」
迎えた絶頂の甲高さも、過去に例を見ない。
そして短い小休止の後、より大きな快感を求めて、手指の動きが激しくなる。
不可解な興奮だったけど、原因は察しが付く。
水斗くんへの告白だ。
心がメスになってしまったからだ。
初恋も知らずに成熟していた体が、このたび恋を知って女に目覚めた。
起きている間の自分は『親友』とうそぶき、もう恋していたことも忘れたように振る舞っている。
――そんなはずが、ない。
一度でも男が欲しいと願ってしまった体は、得られなかったことに泣いていた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
やがて、何度目かのオーガズムを味わった私は、ベッドの上で疲れ果てていた。
疲労はないけど、あまりの快感に思考力が保てなくなったのだ。
(私、メスになっちゃったんですね……)
これまで眠っていた女の本能を、この夢では如実に感じる。
自覚できているのは、まだその一端だ。
より深入りすれば、予想もしない感情が飛び出してくる気がする。
その怖れもあって、自慰の手を止めた。
(こういうの、明晰夢って言うんでしたっけ? こんなにリアリティがあるなんて……)
何気なく室内を見回すと、一冊のラノベが見つかった。
(あ、これ、水斗くんから借りてたやつ……)
手に取った瞬間、そう感じた。
実際にそうなのかは問題じゃない。そう強く感じたということに、意味があるのだろう。
「夢の中でも、ちゃんと返した方がいいのかな?」
もし――次の夢でもこの本があったら、そうしよう。
図書室で会えたらそのときに。
図書室で会えなかったら?
――そのときは、伊里戸家まで足を運べばいい。
ご一読いただきありがとうございました。
いさな編スタート、その前置きです。
カテゴリなど諸々の調整もしました。