継母の連れ子が元カノだった、いまは僕の父親とヤってる 作:大中小太郎
その後、三人は部屋のあちこちで何度も交わった後、伊里戸家に帰っていった。
僕の視界もそれに引かれ、浮遊霊というより父の背後霊のように連れて行かれる。
以前、一度戻ってきたときは、浮遊霊のため扉も開けられなかったが、父の影として玄関を潜る。
もう僕は、なにもしない。
自慰すらする気にならない。
首でも釣ったように手足を降ろして、父を中心に喘ぐ結女たちを見下ろしていた。
「あひぃっ♡ お義父さんしゅごいっ♡ これしゅきっ♡」
「旦那様ぁ♡ 指きもちいいっ♡ 結女と一緒にイかせてぇ♡」
リビングのソファーで、結女が突かれ、由仁さんが手淫に喘ぐ。
「ふぅぅ♡ ぢゅぷっ♡ お義父様♡ 私のキス、上手になったでしょうか?」
「あんっ♡ あっ♡ パパぁっ♡ それっ、突きながら奥をごりごりってするの凄いっ♡」
いさなが父の顔を抱くように唇を重ね、その間にも南さんがバックで抽送される。
「んむっ♡ ちゅるっ♡ はぁ、はぁ……れろぉ、れるっ♡」
「ちゅ♡ じゅる、ずぞっ、んぶぅ♡」
「はうぅ♡ お義父様の体、美味しい♡」
「ちゅうっ♡ あは、男の人の乳首を舐めるの、けっこー楽しいんだね♡」
結女と由仁さんが母娘でフェラチオをして、いさなと南さんは父の乳首を舐める。
「あああぁぁぁいくいくいくっ♡」
「だめぇ♡ お母さん、そんなに激しくイかないでっ、釣られちゃうっ♡」
「お義父様ぁ♡ もっとおっぱい強くっ、握り潰しちゃってくださいっ♡」
「パパぁ♡ 次っ、次は私もっ♡」
僕はリビングの片隅に浮かび、固定された視点で、父と彼女らの乱交を眺め続けた。
五人は食事も取らず、水分補給もせず、気まぐれに順番と体位を変えて交わる。
日が傾いて夕日が差し込んでも腰を振り、外が昏くなっても髪を振り乱す。
夜が深まっても肉棒をしゃぶり、真夜中になっても乳房を揺らした。
「はぁっ、はぁぁっ♡」
「あぁ、こんなに、いっぱい……」
「もう、だめ……動けないです♡」
「はふぅ♡ みんな、パパの精液塗れになっちゃった♡」
いつの間にか場所を寝室に変えた彼女らの声が、リビングにまで届いてくる。
「…………」
そしてようやく――伊里戸家が静寂に包まれた。
結女たちがとうとう力尽きたのか、あるいは夢から覚めて現実へ戻っていったのか。
どちらにせよ、父や彼女らがリビングに来る気配はなくなった。
――――この瞬間を、待っていた。
「っ!」
実体を得た僕は、リビングの床を踏む。
案の定だ。
結女たちがそこにいる間、僕は浮遊霊になる。
それは僕の心が結女たちから逃げているからだが、逆に言えばいなくなれば、実体化する。
(上手く行った……やっとこの家に入れた)
僕は伊里戸家に戻りたかった。
もちろん、父や結女たちの情事に混ざりたかったという意味じゃない。
覗いていたかったという意味でもない。
もっと単純に、この家の中に侵入する必要があったのだ。
しかし浮遊霊の体では扉も開けられない。だから町で見かけた父の後ろをついて行った。
これまでの傾向から、浮遊霊状態の僕は父と結女たちのセックスに引き寄せられるから。
そうして自分を運ばせてリビングに入り、結女たちが精根尽き果てるのを待って、こうして実体化を果たした。
「いまなら……探せるっ!」
僕は居間のソファーを調べる。
精液や愛液を散々に浴びたソファーだが、夢の中のせいか、汚れも湿りも残ってない。
僕はそのソファーに対して目を皿にする。
思い出すのは――南さんの言葉だ。
『私なりに、なんとかしようと思ったんだけど……私じゃ、駄目だったよ』
あのビデオレターで、彼女はそう詫びていた。
言葉を信じるなら、南さんは、自分が巻き起こしたこの夢を、解決しようとしたのだろう。
結果として叶わなかったようだが、重要なのは、彼女がどう解決しようとしたかだ。
『本当はね、ちょっとした『おまじない』のつもりだったんだ』
全ての発端である『おまじない』を――解こうとしたんじゃないだろうか?
それができれば、この夢もまた、終わりを迎えるんじゃないか?
だとしたら、思い出すべきは、僕におまじないを明かしたときの、彼女の台詞だ。
『えっと、好きな人の名前を書いた紙を指定の順序で折りたたんで隠すの。
それが誰にも見つからなかったら、おまじないは成功。
伊里戸くんの家に行ったとき、リビングでそれをしたの』
そう――このリビングだ。
このリビングのどこかに、『好きな人の名前を書いて折りたたんだ紙』を隠すことだ。
それがおまじないの成功条件。
正確には『それが誰にも見つからなかったら』だ。
逆説――『隠した紙が誰かに見つかったら、おまじないは成功しない』――だったら、
(南さんが隠したものを見付ければ、この『おまじない』は解ける!)
南さんはそれをしようとしたんだ。
しかし南さんはこう言った――『私じゃ駄目だった』と。
あれは父のセックスに堕ちたという意味ではなく、もっとロジカルな意味だったのでは?
南さんには解けなかった……つまり、南さんには条件を満たせなかったのではないか。
だってそうだ。『誰にも見つからなかったら』という条件に、隠した本人が含まれたらおかしい。
南さん以外の誰かが、隠された紙を発見しないと、おまじないは失敗にならないのだ。
(どこだ、どこだ……っ!?)
僕はソファーの周囲をぐるぐると周り、入念に目を凝らす。
南さんの発言によれば、『おまじないの紙』を隠したのはリビングだ。
しかしリビングに限っても、ものを隠せる場所はそこそこ多い。
だから南さんは、あのビデオレターにヒントを残していた。
『居間のソファーとかで、いい夢見てね?』
あのときは、文脈からして、南さんの家のソファーかと思った。
でも、そうだとしても、あのときわざわざソファーに言及するのは不自然だった。
あれが、南さんの送ろうとした、本当のメッセージだとしたら?
『居間のソファー』とは、伊里戸家のソファーではないか?
そこで見る『いい夢』とは、この悪夢への対義語じゃないだろうか?
つまり――隠し場所は伊里戸家のソファー。
そこにあるものを僕が見付ければ――悪夢は終わる。
あれは家出した僕を煽る悪趣味なビデオレターと見せた、南さんのヒントだったのではないか。
結局は南さんも父との情事に染まり、自分の願望を叶えるこの夢を選んだけど、その前に――僕におまじないを解くための手がかりを残した。それは、南さんなりの罪滅ぼしと、僕への詫びだったのかもしれない。
その可能性に賭けて、僕はいま――
「っ!!」
床に頭を近付けて、ソファーの下に手を入れて探っていた手に、妙な感触を覚えた。
座面の裏側を探っていた手が、異物感を捉える。
平らだった裏面に浮いている、将棋の駒ほどの薄い『何か』。
指を引っ掛けると、セロハンテープの剥がれる感触があった。
「あった……っ!」
ソファーの下から引き抜いた手に、折りたたまれた紙があった。
正五角形になるよう畳まれた、無地の白い紙だ。
それを認識した途端――夢が、揺らいだ。
地震と似た、しかし別種の、目に見える景色が丸ごとブレるような揺らぎだった。
(これだ! 間違いない!)
手応えがあった。
長くこの夢を見続けて培われた直感めいたものが、この紙こそ悪夢の源泉だと確信する。
暗くてよく見えない。
僕は窓際に移動して、月明かりに紙を照らしながら、折られたそれを広げていく。
その折り目が伸びていく途中にも、夢の世界の鳴動が続いている。
これまで僕の精神を無茶苦茶にしてきた悪夢が、急所を掴まれて悲鳴を上げている!
それは正しく、勝利の手応えだった。
「……っ!」
五角形に畳まれていた紙が、二つ折りの状態まで広がる。
息を呑んだ僕は、最後の折り目を伸ばして、紙に記されていた名前を確認した。
『――伊里戸水斗くん――』
女の子らしい文字だった。
好きな人の名前を書いた紙を、折りたたんで隠す――南さんの語った『おまじない』の通りだ。
(これが……っ!)
これが、全ての原因。
これこそが、この悪夢の心臓。
これさえなければ、いままでの夢はなかった。
これさえ失われれば、この淫らな夢は終わりを迎える!
「…………」
息を呑む。
ためらうような思いが、否定できなかった。
この夢が終われば、僕はもう、父と結女たちの情事に悩まされることはない。
しかしその一方で、結女や他の女たちの痴態を覗き見ることはできなくなる。
そこに迷いを抱くほど、僕は、この夢に魅入られていたようだ。
「――終わらせるのか?」
背後から、声がした。
不思議と驚きはなく、僕はゆっくりと振り返る。
ソファーに……父が腰掛けていた。
「この夢、終わらせる気か?」
父が不満そうに僕を睨んでいる。
思えば、この夢が始まってから初めてではないか。父と話すのは。
不快だった。
この男は、結女を襲い、由仁さんを辱め、いさなを汚して、南さんも毒牙に掛けた。
正気を奪う夢の中でのことだ、責めるのも酷かもしれないが、それでも許す気はない。
だから――
「お前と話すことなんか無い」
会話そのものを拒絶する。
物語ではよくあることだ。大事な局面でだらだらとお喋りをして、逆転される。
そんなことが起きる余地すら与えないために、僕は父を一蹴して、紙を両手で強く抓む。
紙面に逆方向の力を加えると、紙の端に切れ目が生じた。
その瞬間、夢の世界の景色が、亀裂を走らせるように乱れる。
確信した。これが、『おまじない』を解く唯一の方法だったんだ。
「お前の夢は、これでお終いだ」
一息に破いた。
景色が崩壊した。
リビングの背景が、まるで絵画だったかのように、破れる。
おまじないの紙とリンクしていたかのように、夢の景色が引き裂かれる。
紙を念入りに細かく千切っていくと、景色も同様に千切れていった。
破けた景色の隙間からは、薄暗い空間が広がり、僕と父はその空間で対峙する。
「結局……」
小惑星のように景色の断片が浮かぶ空間で――父は溜息をついた。
「お前は最後まで、なにも分かろうとしなかったな」
意味深な言葉を最後に――父の姿は、景色の断片と共に、闇の中へ消えていく。
断片が小さくなっていく。僕の視界もまた、どこかへと解き放たれているようだ。
(ああ、やっと、終わった……)
安堵感と、一抹の喪失感。
解放された喜びに満ちる一方で、もう二度と見られないのだと残念がっている自分もいる。
(たいがい卑しいな、僕も……)
父が『分かろうとしなかった』と言うのはそのことだろうか?
お前も男なら混ざればよかった、とでも言うつもりだろうか?
(笑わせるな……僕は、お前みたいなことはしない……っ!)
夢から覚めて、現実が訪れるのを予感する。
今夜の出来事も、きっと忘れてしまうのだろう。
いつもなら翌日の悪夢で全て思い出していた。その悪夢も今夜が最後だ。
なら、二度と思い出すことはないのだろう。僕も、結女たちも。
元恋人が父親とヤってるなんていう、ねじ曲がった日々は終わる。
そして、継母の連れ子が元カノだったという、本来の日々に戻るのだ。
もし、そこに、この夢の記憶を、少しだけ持って行けるなら――
(結女に……声を掛けてみるか……)
少しだけ、彼女との距離感を、自分の心に正直なものにしよう。
どの程度の実現ができるかわ分からなくても、そう思うきっかけになれば……
きっとそれが、夢というものの、正しい役立て方なんじゃないだろうか?
○
――伊里戸水斗(現実)――
「ん……うぐぅ……っ」
うめき声を上げながら、目を覚ます。
夏の暑さが部屋に充満していて、寝苦しい。
熱中症対策で枕元に置いておいた水筒から、水分を補給する。
「ぷは……っ」
ベッドの上で周囲を見回す。
見慣れた部屋――足の踏み場に困るくらい本が置かれた、僕こと――伊里戸水斗の部屋だ。
(なんだ? なんか……すごい夢を見たような……)
人生に間々ある感覚の目覚めだ。
印象強い夢を見た後の、全容を思い出せなくて困る感覚。
思い出そうとして手を伸ばしても、掴みきれなくて逃げていくような、奇妙な口惜しさ。
(たしか……僕の名前が書かれたメモを破って……その前に父さんと睨み合っていて……
ああ、女性の裸を見たような……あと、僕は浮遊霊みたいになっていて……)
――結論、わけが分からない。
いかにも人の見る夢というか、支離滅裂だ。
ただ、それを見ている間の僕は、その内容に無我夢中だったというだけで。
(寝汗がひどいな……)
気がつけば僕の思考は、そういう『現実的なこと』に占められていた。
思い出せない夢の内容なんかより、この寝汗をシャワーで洗い流すことを優先した。
○
昨日まで、色んなことがあった。
春先に父が再婚して、その再婚相手は僕の中学時代の彼女である、結女だった。
結女との日々は、表向きこそ大人しいけど、胸の内は波乱だった。
お互いに困ったり腹が立ったり、たまに昔を思い出して心が熱を帯びたり。
そんな日々にも慣れて、いさなに告白されるというイベントもあったりして、
つい先日までは父の帰省に付き合って田舎に行って、結女と祭りに行ったりもして……
なんというか、振り返って見れば、それなりに十代の青春らしいことをしている気がする。
(結女、か……)
元恋人で、いまは義理のきょうだい。
昔の恋が終わりきらず、むしろ再燃するような気配がある彼女。
なぜか今日の僕は、そんな彼女を思うと、複雑な心地になった。
会いたいような、逆に会いたくないような、感情の矛盾を覚える。
とりあえず――会ったら『おはよう』と言おう。
夢の世界が終わりを迎えた朝に最も相応しい言葉を、なぜか口にしたい気分だった。
そんな気分で、僕はとりあえず居間に向かう。
部屋から持ってきた水筒を流し台に置いておくためだ。追加の水分補給もしたい。
冷蔵庫の中の麦茶、まだ傷んでないだろうか? あれは以外と足の速い飲み物なんだよな。
そんなことを考えながら階段を降りて、リビングに向かうと――
「んっ、ちゅ……ちゅぷっ♡ んあっ、はぁ……っ♡ あんっ♡」
悩ましい、声がした。
艶やかで、水音が混じる、独特な声がした。
男の本能を刺激する、切なそうな女の吐息が、確かに聞こえた。
「ぷぁっ♡ はぁ……っ♡ お義父さぁん……っ♡」
結女の――声が――誰かを――呼んで――
僕は、あの声を、どこかで、嫌になるほど聞かされていたような……
リビングの前で、呆然と足を止める。
そして、聞き違いであることを願って――結女の声がするリビングに、足を踏み入れるのだった。
【十四夜目 了】
ご一読いただきありがとうございました。
ここで終わらせてもいいんですが、せっかくなのでもう少し。
次回から最終章に入ります。