継母の連れ子が元カノだった、いまは僕の父親とヤってる 作:大中小太郎
心理学者、カール・グスタフ・ユング。
この名前は知らずとも、彼の理論は驚くほど耳覚えがある。
例えば「コンプレックス」という言葉は彼の提唱だ。
マザコンやファザコンといった、いつの間にか知る単語もそこからである。
人間の心には愛憎など相反する気持ちが同居するという考え方も、ユング心理学の基本だ。
それら心の問題は、目を逸らさずに直視して、人と人、あるいは自分との対話を重ねることで解決に導かれる――という指針も、物語の王道展開として僕らの生活に溶け込んでいる。
もう少し囓ると、『投影』という身に覚えのある心理行動や、『元型』というオタク心をくすぐる理論も出てくる。
例えば――ペルソナ。
人間誰しも地位や役割に応じてそれっぽい行動を取り、本心とは異なる仮面を被るというあれだ。
男として、女として。先輩として後輩として。上司として部下として。恋人として、家族として。
思いの外、僕らの行動を左右しているものだ。
逆説的に、僕らが接している人々は仮面を被っており、それと異なる本心があるということだ。
これは人間なのだから当然だろう。
自分の胸の内だけに留めるべき感情や欲求くらい誰にでもある。
優等生の仮面を被る結女にだって、僕だけが知っている陰キャな文学少女だったという一面があるように。
更に言えば、『元恋人』や『義理のきょうだい』という仮面の向こうに、僕の知らない女の顔があったように。
父にだって、由仁さんにだって、いさなにだって、南さんにだって。
知れば抵抗感を覚える欲求のひとつやふたつ、あって当然なんだ。
だから……理解しなかったとは、そういうことなんだろう?
結女に淫らな顔があることはよく分かった、父が獣欲を隠していることも分かった。
よく理解した、充分に理解した。
――僕の周りにいるのがクズばっかりだって、嫌というほど理解した。
充分すぎるくらい骨身に沁みたから、もう止めろ。
これ以上、僕に何を伝えたいっていうんだ……
夢が始まると同時に、これまでの夢を思い出した僕は、悪夢の始まりに無言の悲鳴を上げた。
○
夢の世界では時系列も飛び越える。
時に昔のことが思い出されることがある。
たとえば、僕と結女が付き合っていた頃、中学時代のことも。
(結女?)
中学時代の結女を、僕は視覚と聴覚だけになって見ている。
見た瞬間に、そうだと直感した。
制服は中学時代のものだし、眼鏡を掛けて、黒髪をお下げにしている。
表情や仕草といったものに、今日まで父とまぐわってきた結女の淫らさを感じない。
これは…………『綾井結女』だ。
僕と義理のきょうだいになった『伊里戸結女』でもなく、ましてやこの夢で色香を増した『淫らな結女』でもない。
たぶん、結女の中に消えずに残っていた、中学時代の純情な頃の人格。
リセットされたとでも言うのか、僕と交際していた頃の結女が、ここにいた。
夢の中に構築された、伊里戸家の前に。
(っっっ!)
そして僕は、この後の展開を予想して、全身が総毛立った。
(逃げろ!)
叫んだ。無駄だと知りながら、奇跡よ起きよと声を上げた。
当然、結女は僕の警告など聞こえもせず、僕の家のインターホンを鳴らす。
――出迎えたのは、父だった。
(そいつに近付くな!)
結女と父が何か言葉を交わしている。
「息子が待ち合わせ場所に来ない?」
「はい。何かあったのかと思ってっ」
「ああ分かった、電話してみよう。どうぞ上がって」
「お、お邪魔します……」
そのやりとりで確信する。
やっぱりあれは『淫らな結女』じゃない。
本当にあの頃の、僕と付きあっていた頃の、何も汚れていない結女だ。
(止めろ! 親父! その結女に触るな!)
僕にもまだ、こんな感情があったらしい。
久方ぶりに、無我夢中で、父と結女が一緒にいることを阻止しようとした。
それでも、視覚と聴覚だけの僕には、何もできず。
自慰にしか使ってこなかった手を伸ばした先で、結女の通った扉が、父の手で閉じられた。
(嫌だ……頼むから、『綾井』にだけには……)
僕は、入れなくなった自宅の前で頭を抱える。
いままでの結女であれば、いまさらどんな情交をしていたって驚きはしない。
でも……『綾井』は違うんだ。
それは僕と別れた後の結女ではなく、僕と付き合っていた頃の結女なんだ。
たとえ昔の記憶に過ぎなくても、間違いなく僕の恋人で、大切な思い出なんだ。
(せめて、思い出だけは、奪わないでくれよ……)
実体があれば泣いていたかもしれない。
それでも、僕には何もできないのだと、これまでの体験が悟らせる。
(嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だ!)
あの結女だけはダメだ。あの結女だけは誰にも譲れない!
『伊里戸結女』なら納得できる。僕と別れた後の結女だ。他の男を選ぶ権利がある。
でも、『綾井結女』はダメだ。
僕と付き合っていた頃の結女だけは、僕の女だろうっ!
『綾井』だけは、他の男に触れさせてはならないんだ!
そう――『彼女の純潔を奪うのは僕でなければならない』!
その瞬間、何かが起きた。
急激な眩暈によって、視界が一時暗転する。
徐々にその視界が明るさを取り戻していくと――見慣れた我が家の内装が見えた。
(……?)
いつの間に、家の中に入ったんだろうか?
いや、それよりも『体』に違和感がある。
(体が、ある? いや、勝手に動いてる?)
視界が勝手に動く、目線の動きひとつすら、僕の意思と異なっている。
家の内装にも違和感がある。
その答えは視点の高さ――身長が、いつもの僕じゃない。
そんな視界に、自分の腕や服が映る。
(これは……っ、父さんの、視界?)
答えが分かった。これは僕の体じゃない。
伊里戸峰秋――この夢の中にある父の体だ。
まるでSF映画の電脳が視覚情報を共有したかのように、僕の視界が父とリンクしている。
聴覚はもちろん、触覚も。足で踏む床、体に触れる服といった感触がしっかりと存在する。
(感覚が、父さんと、リンクしてる? いや、僕が、とり憑いてるのか?)
浮遊霊ならぬ、憑依霊だった。
僕の五感は父の中にあり、父が見聞きして感じたものを、ほぼ同時に体感している。
それは、改めて考えると、不快感を覚えても不思議じゃ無い現象だった。
でもなぜか、そういう感覚は生じなかった。
まるで、始めからこの体で生きてきたように……しっくりくる。
「水斗、携帯に出なくてね。留守番電話にメッセージを入れておいたよ」
父の声が、少しくぐもって聞こえた。
骨導音を伴う『自分自身の声』だ。
録画した自分の声が、骨導音を抜いた気道音だけのものとなり、別人に聞こえる現象の逆である。
「あ、ありがとうございます」
視界が勝手に動いて、リビングのソファーに座る結女を捉えた。
恋人の家に来たばかりか、その親と対面して、すっかり緊張していた。
それと同時に不安そうだ。彼氏と連絡が付かないことに、安否を気にしている。
その様子で、改めて確信した。
彼女はいま『これまでのことを全て忘れて、中学時代に回帰している』。
夢の中で自己認識が変わることなど、よくあることだ。
むしろ、自分の名前すら忘れている状態が普通だろう。
あれは『綾井結女』、結女の中で大事に保存されていた、僕の彼女だ。
後になって思い返せば、僕の自己認識も、昔に戻っていった。
結女の姿に引っ張られたのだろう。
連日の悪夢で擦れていた高校生の外皮が剥がれ、メンタルが中学生に戻る。
結女を恋人として明確に愛していた頃の精神状態に――戻される。
「息子が済まないことをしたね」
父の視界が結女に近付く。
(止めろ、寄るな……結女に近付くなよ!!)
僕は、自分が憑依している父に訴えた。
この状態なら声くらいは届くのではと思ったが、手応えは一切なかった。
憑依といっても操れるわけではないし、意思疎通ができるわけでもないらしい。
「代わりと言ってはなんだが、息子の部屋で待ってみるかい?」
「えっ!? 伊里戸くんの――水斗くんの、部屋っ?」
目の前にその親がいるせいか、結女は僕のことを「水斗くん」と呼んだ。
そう、この頃は『伊里戸くん』だ。いまでもときおり、結女は昔を思い出すとそう呼ぶのだ。
「恋人なら見る資格はあるだろう。彼女を待たせた悪い彼氏に、ちょっと恥ずかしい思いをしてもらえばいいのさ」
そんな悪戯めいた提案に、結女はくすりと笑う。
「さあ、こっちだ。家主が許可したのだから遠慮はいらない」
「はい。それじゃ、お邪魔します……」
こちらをまったく警戒していない結女を、父は部屋へと導く。
(なんとか……なんとか、できないのか……)
結女を部屋に誘う父の意図など、見え透いていた。
憑依しているせいか、その欲情すらダイレクトに感じ取れる。
――この女を、自分のものにしたい。
――その体を手中に収め、逸物をぶち込んで、自分専用のメスにしたい。
ともすれば、僕自身がそう思っているのではないかと錯覚するほど、獣欲が如実に伝わってきた。
それは下手をすると、僕の心が、この男に毒されていくかのようだった。
○
「水斗が帰ってくるまで、好きに使っていいよ」
父はそう言って、結女を残して部屋を去った。
その『内部』で見ていた僕は、少し拍子抜けしたが、それは甘い期待でしかなかった。
父はしばらく時間を置くと、足音を忍ばせて僕の部屋に近付く。
そして扉を、音を立てずに少しだけ開くと――
「んっ♡ ふうっ♡ 伊里戸、くん……♡」
僕は、父の視界で、オナニーしている結女を目撃した。
ベッドの上でM字開脚して、指先で割れ目をくちゅくちゅ弄りながら、もう片方の手で胸を揉みしだいている。
乳首をつねると、びくり、と体が跳ねた。
「あっ、あん……♡ やだぁ……ここ、伊里戸くんの、部屋なのに……っ♡」
結女が……『綾井結女』が、僕を思って自慰をしている。
元々この夢は人を淫らにする。
そこに僕の恋人だった頃の結女がいれば、なるほどこういうことになるのだろう。
恋人の部屋で、そのベッドの上で、好きな男の匂いを感じながら、思わず自分を慰める。
そんな淫らで、しかしどこか健気でいじらしい結女の姿に、僕は見入っていた。
結女の痴態はこの夢で何度も見てきたのに、嬉しさを伴うこの興奮は、過去一番かもしれない。
「ふぅ♡ ううんっ♡ はぁぁっ♡ 伊里戸くんっ、ごめんねっ♡ でもっ、ふぁぁぁっ♡」
結女はどんどん高まっていく。
ゴクリと生唾を飲んだ。
しかしよく考えたら、これは僕の体ではないから、飲んだのは父だ。
不本意にも興奮がシンクロしたことで、自分の身体だと錯覚していた。
(おい、見るな、見るなよ……っ!)
綾井結女が、自慰をする痴態を、父に見られている。危険な予感しかしない
「~~っ!!」
結女は声にならない悲鳴を上げ――達した。
息を荒げて脱力して結女は、父が部屋の扉を開いたことに気付かなかった。
自分の身体も同然に分かる。早まる鼓動、股間の熱と異物感、何をする気かなんて明白だ。
(待て、待ってくれ、待って――)
僕はなんとかして、父の内側から暴れることで、その行動を阻止しようとした。
でも無力だった。肉体は勝手に動く。僕の意思はこの体を左右できない。
父が結女に迫っていく瞬間を、僕は一人称視点で目の当たりにすることになった。
「やあ、なにしてるんだ?」
「っっっ、おじさ――やっ! 見ないで!」
父が声を掛けると、達した余韻に浸っていた結女が、慌てて着衣を正そうとする。
しかし、すぐに詰め寄った父は、そんな結女の手首を掴んで止めた。
「ひっ」
視界いっぱいに、怯えきった結女の顔が映る。
嫌だ、こんな顔の結女を僕に見せるな。これなら色情狂のときの方がマシだ。
「彼氏の部屋でオナニーとはねぇ。僕が家に居るというのに」
「っっっ」
結女が顔を真っ赤にする。
結女の精神状態を思えば、彼氏の部屋で自慰をしていたところを、その父親に見られたのだ。
死にたくなるような恥ずかしさだろうが、より重大なのは、いま父に迫られていることだった。
「や、やだっ、離して――」
「そう言うなって。君だって気持ちよくなりたいんだろう?」
父は結女を、僕のベッドの上に押し倒した。
その様子を、僕は主観視点で見させられている。
僕がかつて、結女を部屋に招いたときできなかったことを、よりにもよってこんな形で……っ!
「水斗に知られたくないだろう?」
耳元で囁かれた結女が、びくっと震えて動きを止めた。
僕に痴態を知られると聞いただけで止まってしまうほど、いま彼女の中で僕は大きな存在なのか。
こんな事態だというのに、そんなことを喜んでいる自分が、悔しかった。
「なに、ちょっと触れるだけだ。迷惑料とでも思えばいいんだよ」
滅茶苦茶な理屈だというのに、腕に感じる結女の抵抗が弱まる。
単純に力で勝てないと理解したのか、正常な判断力を失っているのか。
そもそも父はどこまで把握しているのか。
結女が『綾井結女』に回帰していると知っているのか、父もまた結女を手籠めにする前の状態に回帰しているのか。こうして憑依してみても、この男の本心が掴めない。
「んっ♡ あっ♡」
いずれにせよ、父の愛撫が始まると、結女は瞬く間に甘い声を零した。
(っっっ!!)
その感触が――父の体を通じて、僕にも伝わった。
手指に結女の柔肌が、押し倒した胸板に結女の胸が、耳にその声が。
不愉快なことに、不愉快極まりないことに、その体験は僕にとってどうしても甘美だった。
(ダメだっ、酔うなっ、結女の感触に酔うな! いま、父さんが結女を襲ってるのに……っ!)
僕の苦悩に構わず、父の行為は進む。
結女は悔しそうに歯を食いしばっているが、反応は過敏だ。
もしかすると体だけは、何度も義父に抱かれてきた『淫らな結女』なのかもしれない。
「ふぁぁっ♡ おじさんっ、許してっ♡ お願いっ、もうしないからっ、伊里戸くんっ、助け――」
父を拒絶する言葉とは裏腹に、結女はどんどん快感を隠せなくなっていく。
流石というか、父の手付きは巧みだった。
どこをどうすれば感じやすいかを知り尽くしていて、的確に刺激してくる。
結女もそれを自覚してか、徐々に抗う力が抜けていった。
そして、ついに、そのときが訪れる。
「やぁ……だめぇ……っ♡」
父を制止する声は弱々しく、抵抗と呼ぶにはあまりにも弱い。
僕が絶望的な気分で見ている前で、父は、結女のショーツを剥ぎ取った。
「――やめてっ!」
瞬間、我を取り戻したように結女が激しく暴れ出した。
だが、父の腕力は強く、結女の抵抗などものともせずに押さえ込む。
「大丈夫だよ結女ちゃん。君だって本当は欲しいんだろう? お父さんに任せなさい」
「違っ、こんなのっ、警察にっ、水斗にもっ、全部バラしてやるんだから!!」
結女は怒りの形相で脅したが、父は笑い、僕は彼女の無力さを痛感する。
「心配ないよ。だって――」
父が何を言おうとしているのか、よく分かる。
思えば、この夢が始まって最初に結女を襲ったときも、父はこう言ったのだ。
「これ、夢だからね」
まるで、魔法の言葉のように、結女の表情と抵抗が消える。
そうであったことを思い出したかのように、茫然自失とすると。
「っっっ、あっ、あああぁぁぁ♡」
いつの間にか秘所を愛撫されていたことに気付いて、甲高い嬌声を上げた。
「ひゃあっ♡ うそっ♡ なんでっ♡ ひあぁ♡ こんな、からだ、おかしいっ♡」
「ああ、『体だけ思い出した』んだな。改めて手籠めにするようで興奮するじゃないか!」
結女からすればわけの分からないことを言って、父はより激しい前戯で結女を乱れさせる。
その全てが、男が女の体から獲得する感触の全てが、僕にも与えられた。
結女の秘所を愛撫する感触が、乳首に吸い付く味わいが、快感に悶える両脚との接触が。
いま結女が、僕の恋人がレイプされているのに、感覚的には僕がその行為を味わっていた。
「あああぁぁぁだめぇぇぇっ♡」
水音を立てて恥部を責められた結女は、顔を押さえて首を振る。
絶頂はすぐに訪れた。
「あっ、だめ、来るっ♡ きちゃいますぅ!」
「いいよ、何度でもイッてごらん。君が味わえる快感はこんなものじゃないからね」
「ひぁっ♡ 止めてっ、お願い手を止めて――っ、あああああぁぁぁぁぁっっっっっ♡♡♡」
いまの結女には初めて感じる、気絶するほどの大絶頂。
下着の中で愛液を噴き、背は大きく逸れて、足は宙を掻いた。
ばたりとベッドに倒れた結女を、父は軽々と抱いて、やりやすい位置に寝かせる。
「まだだ、女の悦びはこんなものじゃない。僕の体がどれだけ気持ちいいか思い知れっ!」
父は更に責める。
口は胸に吸い付き、片手は乳首を刺激して、片手は引き続き手淫の快感を注ぎ込む。
三点責めを受けた初心な結女は、ブリッジするように腰を浮かせては、未知の快感に喘ぎ続けた。
「ほら、体はもう『元通り』だ。君の体はもうとっくに、僕に抱かれるつもりでいるんだよ」
「やぁ、もう止めてぇ……」
思うように動かない体から、結女の制服が脱がされていく。
残ったのはショーツ一枚と、せめてもの抵抗で胸を隠す腕だけだった。
眼鏡と髪紐はそのまま、中学時代の結女が涙目で頬を上気させている。
「気付いてるだろう? これが夢だって。痛くも苦しくもないだろう?」
「やだっ、それでも……私、伊里戸くんのっ、あなたの息子さんの……っ」
体はどうあれ心まではという心境なのか、結女はまだ父を拒絶していた。
無駄な抵抗だと分かっていながら、僕はそれが功を奏することを願わずにいられない。
だというのに、僕自身の意識は、襲っている側にある。
まるで結女だけでなく、僕の精神までも辱められていくようだった。
「どうせ水斗は何もしてくれないよ。『君も知っているだろう』?」
「な、なんのこと――あっ♡ はっ♡ んあぁぁっ♡」
「どうだい? 気持ちよくなってきただろう」
「あっ♡ いやぁ、言わないでぇ、もうイかせないでぇ……♡」
「顔はそう言ってないけどね。まあ、そろそろいいだろう」
いったん、父が結女を解放する。
安心しかけた結女は、父が逸物を取り出して足の間に入ってきたことで、次の展開を悟った。
「待ってください! それだけはダメです。それだけは許して……」
「いいや、これだけは譲らない。ほら、先っぽを当ててみるよ」
「っっっ、あっ、ぁぁぁぁっ♡」
秘裂を亀頭でなぞられた結女は、クリトリスに触れたあたりで、先ほどの手淫と同等に絶頂した。
「うしょぉ? なんでぇ? いま、わたひ♡」
「体が僕のを待ち望んでいるからだよ。ほら、入口にちょっと挿れようとしただけで――」
「ひああああっ♡」
またも、焦らすような疑似挿入で、結女の全身が絶頂にはねた。
「らめ、おねがい、入っちゃらめぇ。ぜったいおかしくなる。初めては、みずとくん――」
弱々しく押し返そうとする結女の手を意に介さず、父は結女の耳に口を寄せる。
「だいたい水斗を恋人だと君は言うが、それは本当かい?
この頃にはもう、お互いの気持ちが冷めてたんじゃないか?」
「……え?」
その言葉が何を意味するのか理解すると、僕の胸中に怖気が走った。
「ろくに連絡も取らなかったんだろう? お祭りの日も、バレンタインの日も」
「あ……で、でも……」
結女の表情に当惑が浮かぶ。
ああ、そうだ。たしかにそうだ――と、結女と僕は同時に思い出していた。
いま再現されている結女は、もっと漠然とした『中学時代の結女』なのだ。
関係の温かかった時期の情緒もあれば、別れる直前の感情も備わっている。
「アイツはその日なにをしてたと思う? このベッドでぐーたら寝てたんだぞ!」
「っ!!」
結女がショックを受けたように震える。
僕も、自分の身体であれば、同じようにしただろう。
(やめ、ろ……)
「君をこの部屋に呼んだときも、アイツは臆病風に吹かれて読書に逃げたじゃないか」
言うな、言うな……
「あれほど好きだった君への感情もあっさり冷めて、面倒くさく思っていたんだぞ?」
事実を、陳列しないでくれ……
僕の失敗を、僕の恥を、僕の過ちを、僕にも結女にも突き付けないでくれ……
「そん、な……」
「君も同じだったんだろう? 好きだけど、相反する気持ちもあって、困っていたんだろう?
彼氏の行動でそれを変えてほしかっただろうに、あの男はなにもしなかったじゃないか」
父の言葉が、結女の精神状態を、別れる寸前の時期に導いていく。
(結女、待て、待ってくれ……)
結女の瞳が、どこか冷めていく。
結女を支えていた僕への恋慕が、いま急速に消えていくのを、僕は間近に感じていた。
「だから僕が、代わりにお前を抱いてやる。お前を愛してやるっ! 僕の手で女になれ!」
「んんっ!?」
父の唇が、結女の口を塞いだ。
キスだった。その感触が僕にも訪れる。
結女としてきたキスがフラッシュバックした。
恋人時代の別れ道でしたキス――
そしてつい最近、父の帰省先で花火を見ながらしたキス。
花火のとき、結女はなぜ、僕にキスしたんだろう?
あのとき僕は、その理由なんかより、その事実が内心で嬉しくて。
かつて一緒に見られなかった花火を、一緒に見ることができて――
不覚にも、泣いてしまって――
そんな、僕にとっては神聖な、結女の唇が――
「ぢゅっ♡ ぢゅぷっ♡ んんっ♡ ぷあっ♡ やっ♡ ん、ちゅっ♡」
僕以外の男に貪られている。
その光景を、陶然としていく結女の瞳を、僕以外の視点で間近に見ている。
これはもう、他の誰かというより、僕自身の手で、僕の思い出を汚しているかのようだ。
「ぷは……」
やがて、唇が離れる。
結女と父の間で唾液が糸を引く。
キスに応じた舌と、濡れた瞳だけでも、結女がどんな心境にあるかは見て取れた。
やがて、彼女が口にした言葉は――
「おとうさん……♡」
まるで、恋人に向けるような声音による、父を呼ぶ言葉だった。
結女自身が、どこまで深い意味を込めて言ったかは分からない。
それでも、目の前にいる『男』を許容して、求めていることを白状するには、充分だった。
「ああ、結女……僕は君を愛しているよ」
父は、まるで恋人にそうするように、結女を抱きしめながら腰を前へ。
「あっ♡ あっっっ♡ あぁぁぁ♡」
少しずつ入ってくる肉棒に、段階的な絶頂に襲われる結女。
目の焦点は失われ、手足は無意識に目の前の男に絡み付く。
頭は爆発的な快感で思考を吹き飛ばされ、喉が勝手に嬌声を上げる。
「あああああぁぁぁぁぁっっっっっ♡♡♡」
少女の正気を奪うには充分すぎるオーガズムが、結女の意識を奪っていった。
○
父が結女を犯すその行為を、僕は加害者側として如実に感じ取った。
視界に映る泣き顔、素肌に乳房。
耳を打つ悲鳴や喘ぎ。手に感じる柔肌、逸物に感じる膣内。
まるで、自分の身体が父の操作するラジコンになり、僕自身が襲っているかのようだ。
あまりに不快で、あまりに屈辱で……
許しがたいことに、快感があった。
これまでの夢で、由仁さんや結女を襲ったときよりも、ずっと鮮明な女体の感触。
肉棒に絡み付く膣の熱と形、耳をくすぐる甘い声、どれも大違いだった。
むしろいままでが、厚い布を一枚挟んでいたのではと錯覚するほどに。
結女が犯されて感じてしまっているように、僕は結女を『襲わされて』感じていた。
「ふあああっ♡ おじさっ♡ もおだめぇ♡ もおいってるからぁ♡」
横向きにされた結女は、片足を持ち上げられながら怒張を突かれ、折れそうなほど背を逸らす。
「お義父さんだ! お義父さんと呼びなさい!」
バックの姿勢にして尻を叩くと、甘い悲鳴を上げた結女が無我夢中で従った。
「おとぉさんっ♡ ああっ♡ おとぉさんっ♡ ぁぁぁぁぁっ♡」
ベッドに顔を伏せて喘がされる結女は、もう父を拒むことを諦めていた。
ただ体に炸裂する快感に打ち震え、それをもたらす男に好悪を越えて媚びるしかない。
「気持ちいいだろう? ちゃんと言うんだ!」
「気持ちいいっ♡ こんな気持ちいいなんて知らなぃぃぃ♡ 知らなかったのぉぉっ♡」
背後から回ってきた腕に胸を掴まれ、その刺激で絶頂を追加されながら、上体を起こされる。
「これっ、これだめっ♡ 変わってりゅっ♡ わたしのからだ変わっちゃうぅぅ♡♡♡」
実際、結女の見た目は、中学時代のものから高校生になりつつあった。
「んんっ♡ ぢゅっ♡ ちゅっ♡ ちゅぷっ♡」
キスをするのに邪魔だった眼鏡は放り捨てられた。
濡れた瞳が父と見つめ合い、もはやそこに拒否感はない。
髪紐は外され、濡れ羽色の髪が靡くころ――
「お義父さぁん♡」
そこに居るのは、僕の彼女だった頃など面影もない、いつもの淫らな結女だった。
「ああっ♡ あっ♡ あっあっあっあっあっあっあっ♡」
僕の部屋の至る所で、結女は父に突かれ続けた。
勉強机の上に、一糸まとわぬ姿の結女が尻を乗せ、足をM字に開かされて抽送を受けている。
結女から学年主席を勝ち取るために猛勉強した机が、いまは父と結女のセックスに使われている。
「いくっ、いくいくいきましゅ♡ いきましゅからゆりゅしてぇぇぇ♡」
結女が部屋の中央で抱き上げられ、いわゆる駅弁の体位で責められながら、赤子のように喘ぐ。
床に積み重なった詰み本の塔は、体位を変える途中でほとんど崩れ、床に散らばっていた。
「しゅごいっ♡ しゅごいのぉ♡ お義父さんのせっくすだめになっちゃうのぉぉ♡」
本棚に手を付いた結女に、父が背後から腰を打ち付ける。
父と結女の足が、まるで四本足の生き物のように並び、床に散らばった僕の本を踏みにじる。
その中には、現実のこの部屋で結女と二人で読んだ本もあった。
「はひっ♡ 気持ちいいっ♡ おっぱいもクリちゃんも気持ちよすぎるぅっ♡
あああ奥っ、おまんこの奥が一番すごいのぉ♡ おちんぽじゃないと届かないところなのぉ♡」
箪笥に背を預けた結女が、父に片足を持ち上げられ、片足立ちで正面から突き上げられる。
床に散乱する本が……僕の蔵書の数々が、愛液に汚れ、白濁液に塗れていった。
「もっと♡ もっろ♡ もっろしてください♡ おとーひゃん♡」
部屋の窓に顔と乳房を押しつぶしながら、結女は焦点の合わない目で背後の父に懇願する。
僕の部屋のあらゆる場所で、体位を変えながら、僕の元カノが父親とまぐわう。
僕は、もう止めなかった。
止められるか否かではなく、その意思が失われた。
最後まで諦めず手を考えるという選択を、いつの間にかしなくなった。
いまはただ、父の体を通じて結女の感触を味わっている。
おこぼれに預かる――なんて次元じゃない。
もうこの体が、父の意思で動いているのか、僕の意思で動いているのかも、区別がつかない。
それは、父と息を合わせて結女を抱いているのと同じだ。
それは、僕自身が、結女を辱める側でセックスをしていることを意味していた。
なのに、いままでで一番の快感だった。
「結女っ、結女っ!」
口をつく言葉も、僕のものなのか、父のものなのか、意識が聞き分けられない。
僕の手で結女が喘ぎ、僕の抽送で結女が乱れ、男として女を虜にしている実感がある。
そういう意味では、間違いなく……
僕はいま、結女を犯すことを、心から愉しんでいた。
「イクぞ結女っ! もう一度中に出すぞっ! 受け止めてくれっ!」
「きてっ♡ おとうさんきてきてぇぇっ♡」
最初の正常位に戻って、プレスするように腰を打ち付けながらの膣内射精。
もう数え切れないほどの絶頂の末、結女はまた意識を奪われる。
父(ぼく)は荒々しい息を吐いて、体を止めた。
「あ、はぁぁぁ♡」
結女は悦楽に染まった瞳でこちらを見て、朦朧とする意識で呟く。
「伊里戸、くん……」
その言葉に、僕は歓喜していた。
冷静に考えれば、恋人の父と交わった罪悪感などから、僕を呼んだだけだろう。
でも、このとき僕は、結女が父の中にいる僕を見付けてくれたんだと思い込んでいた。
「結女……っ! 僕の、僕のものになるんだっ!」
そして小休止の後、再び彼女の体を征服していく。
「ふぁぁ♡ なるっ♡ なりますっ♡ お嫁さん、お嫁さんにしてぇ♡」
「ああ、もちろんだ。ずっとお前を守ってやるからな」
「嬉しい♡ 私も、ずっと、あなたの――んんっ♡」
言葉は無用とばかりに唇を塞いで、飽きもせず腰を振る。
過去最多の射精を越えて、まだ愛欲は留まることを知らない。
まるで、何ヶ月も溜め込んできた熱情を全て注ぎ込もうとするように。
父(ぼく)と結女は、お互いの体に溺れるようにして、淫らな夢の奥底へと沈んでいった。
○
――伊里戸水戸(現実)――
そうして、目が覚めた。
ついさっきまで、父(ぼく)と結女が交わっていた、僕の部屋で。
視界に入った時計は、真夜中を指している。
夏の暑さか、夢見の悪さによってか、不意に目が覚めてしまったようだ。
「っっっ!」
僕は――忌まわしい光景が重なって見える自室から駆け出した。
駆け込んだのはトレイだ。
「ぐえっ! をえっ!」
嘔吐した。
自分がついさっきまで、夢の中とはいえ何をしていたかを、鮮明に覚えている。
いつもなら夢から覚めると同時に忘れていたものが、心どころか体にまで残っている。
(気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い!)
僕は、自分の父親と一体化して、結女をレイプしていた。
前半も後半も最悪の体験だというのに、無我夢中でそれを愉しんでいた。
自己嫌悪なんて言葉じゃ生温い。縄があったら首を括りかねない。
(なんで、夢を忘れるのか、分かった……こんなの、全部覚えてたら、気が狂う……)
夢は狂気だから。
夢を見ている間だけ許容できる、正気の沙汰じゃない時間だから。
ちゃんと忘れないと、狂気が、目覚めた後の頭に持ち込まれるだけだ。
起きたら夢を忘れることは、精神の安定に必要なフィルタリングだったんだ。
(でも、おかげで、思い出せたぞ……)
僕は悪臭がする口元を拭って、ほくそ笑む。
ダメージは大きかったが、夢の記憶を現実に運べた。
おかげで――『おまじない』のことも、思い出せた。
僕はとんだ間違いをしていた。
南さんがしたおまじない、その触媒とでも言うべき『名前を書いた紙』……
僕は夢の中でそれを破いた。
だからおまじないは失効――とはいかない。
だって、南さんがおまじないをしたのは、現実だから。
現実世界にも『名前を書いた紙』があるはずなのだ。
むしろ夢の中にあったあれは、夢が家具などを再現するのと同じ虚像だった。
『紙を見付けたらまじないは解ける』を満たすには、現実でなければならない。
(南さんが、『ダメだった』って言ったのは、そういう意味か)
詰みに近かった。
だって夢の記憶は現実に持ち越せないのだから。
南さんが夢の中で『おまじない』のことを話しても、現世の僕らはそれを『知れない』。
現実の南さん自身だって、こんな悪夢が起きていることを『知れない』のだ。
夢の記憶を現実に引き継げないという原則を越えない限り、このまじないは解けない。
(でも、いまなら……僕なら……)
なぜ僕が夢の記憶を失わずに済んだのかは分からない。
紙に触れて破いたせいかもしれない、または名前を書かれていたからかもしれない。
どちらにせよ、僕がすべきことは決まっていた。
(リビングの、ソファーだ……)
なぜか重い体を引き摺るように、僕はトイレからリビングを目指す。
今度こそ、この淫らな夢を終わらせるために。
【第十六夜 了】
ご一読いただきありがとうございました。
望まない憑依状態により竿役視点で寝取られる水斗でした。
現実の紙はそのままだから、おまじないは解けてない――バレバレでしたね。