継母の連れ子が元カノだった、いまは僕の父親とヤってる 作:大中小太郎
【四夜目】
ものの本で読んだようなことだけど。
――近親者とセックスする夢を見るのは、珍しくないらしい。
特に、性に目覚める年頃に多いそうだ。
心に性欲(リビドー)が強く作用しているから『セックスする夢』を見る。これは納得できる。
じゃあなぜ相手が近親者だったりすのかというと、単に『他の異性をよく知らない』からだ。
夢というものは、主の記憶や心象から、情景や人物を準備する。
その時期の子供にとって最も身近な異性とは父親や母親、異性のきょうだいだ。
性欲の表れとしてセックスが描かれても、その人の心理ではまだ『異性=近親者』なのだ。
つまりインセストタブーを冒したい願望があるわけではなく、
『セックスしたい→異性サンプルが近親者しかない→それとセックスしよう』
という雑な仕事が行われているのだそうだ。
人間の心というものは、眠っている間はそういう風に『バグる』ものらしい。
カウンセラーが患者の夢分析をするときは、それを踏まえて寓意画のように夢を解析するという。
そんな夢分析に関する本では、夢についてこのようにも語られていた。
――夢には意思がある。
現実世界のルールを通して見れば、時に『悪意』としか取れないような、意思があるのだと。
◆
この日、夢が始まると――自宅ではなかった。
いつも自室やリビングあたりから始まるのに。
(ここは……水族館?)
照明とアクアリウムで青く輝く空間に、僕はいた。
ここは……そう、結女とデートするときに行った水族館だ。
色々あって偽装デートの必要に駆られた僕が、結女を連れていった場所だ。
深い安堵感があった。
てっきり、また家のどこかで、結女と父がまぐわっているものとばかり思っていた。
そもそも、連日連夜、同じ夢を見るなんてことがおかしい。
怖い夢を見る日もあれば、目覚めたことをもったいなく思う夢もある。
(いい夢だ。いい夢に切り替わったんだ)
僕はなぜかそう確信して、ありもしない口から息を吐く。
これならきっと、今日はいい目覚めを迎えられるに違いない。
(あ……)
視界に、結女の姿が映った。
春物のブラウスにフレアスカートとタイツという、あの日のデートと同じ服。
不安そうに周囲を見回しているのは、きっと道に迷ったからだ。
正に、あの日のデートを忠実に再現する光景だった。
そりゃそうだ。他でもない僕の夢なんだから。
たしかこの後、ようやく見付けた僕に、結女は不敵ながら安心したような顔をして、
「あっ」
その結女が、僕の方を見てハッと顔を上げる。
夢を見るようになってから、初めて結女と目があった。
結女はその場から、僕の方へと駆け込んでくる。
(まさか、僕のことが見えるのか――っ!?)
僕は歓喜を隠せなかった。
ここ連日、夢のこととはいえ『誰にも認識されない』という体験ばかりだった。
別に寂しがり屋というわけでもないけど、ストレスが溜まっていたのかもしれない。
誰かが、結女が、僕を見てくれる。
不覚にもそれが嬉しくて、僕は駆け寄ってくる結女に手を差しのばして――
「お義父さんっ!」
結女は――僕の体を『すり抜けて』――後ろへ走っていった。
(…………)
僕は、恐る恐る、視界を後ろに振り返らせる。
「よかった、ここに居たのか。結女」
「ごめんなさい、私、道が分からなくなって」
「はは、結女は方向音痴だったんだな」
父が、駆け寄ってきた結女を抱き留めていた。
まるで幼子を迎える本当の父のように。
もしくは――
「次は僕のそばを離れちゃダメだよ?」
「はい。こうしてれば、はぐれませんよね♡」
腕を組んでデートをする、恋人のように。
「うん。じゃあ行こうか」
「はいっ♡」
二人はそのまま歩き出す。
当然のように、僕には気付きもせずに。
僕の視界がふわりと引っ張られ、二人の後を追った。
(なん、だよ……)
なにも変わっていなかった。
僕に肉体なんてものはなく、あるのは視覚と聴覚だけ。
こうして自分の両手を見ようとしても、そこにはなにもない。
ここ最近、連日連夜と味わっている、浮遊霊のように無力な傍観者。
いつも通りの僕だった。
(なんで、『お前たち』が、ここに……)
取り分け今日は、心のどこかがひび割れるような気分だ。
二人は仲睦まじげに、水槽のトンネルの中を進んでいく。
結女は周囲の危険も気にせず、父の腕を抱いていた。
現実で僕の腕を抱いたのは一瞬で、それすらかなり照れていたのに。
(止めろよ。ここは……『お前たち』みたいなのが……っ)
あの二人が、僕と結女がデートしたこの場所にいるだけで、腸が煮えくり返る。
上手く言えないけど、大切な何かが汚されている気がする。
そんな僕の訴えが届くはずもなく――
結女と父は、人気の無い水槽の陰に隠れていった。
「あっ♡ お義父さん……ここじゃダメ。人に見られて……」
「大丈夫さ。水槽の陰になるからね」
結女は水族館の水槽に手を付いて、背後から義父の手淫を受けていた。
フレアスカートが上げられ、タイツ越しに尻やクロッチを愛撫されている。
「ああ……すごいよ結女ちゃん。もうこんなに濡れている」
「やめて、言わないでください。恥ずかしくて、また溢れてきちゃう♡」
洒落た私服に彩られた結女の痴態が、いつにも増して僕の目を奪う。
父の手が、結女の服に触れて、はだけさせている。
その行為は何度も見てきたのに、所詮は偽物で僕の妄想なのだと割り切ったはずなのに。
(……っ!)
今日はなぜか、忘れかけていた怒りが生じていた。
やめろ、触るな。
その服はつい先日、結女が僕とデートしたときの服なんだ。
結女が、偽装のものだったとはいえ、僕とデートするために選んできた服なんだ!
「可愛い服だね。結女は何を着ても似合う」
「ふふ、何を着ても脱がせちゃうくせに♡ ふあっ♡ んっ♡ くぅぅぅんっ♡」
「その声も、子犬みたいで可愛いよ」
ブラウスの裾からいやらしく侵入した手が、下着越しに乳首を抓る。
足の間に入り込んだもう片方の手は、クリトリスを中心に責めているようだ。
刺激が強いのか、結女は快感を覚えつつも涙目になっている。
(やめ、ろよ……おい、もう覚めろよ……)
この場所で、その格好で、そんなことをしないでくれ。
そんな僕の願いとは裏腹に――
僕の股間は……また、逸物を硬くしていた。
「そういえば、ここは水斗とデートで来たところだね。
やっぱり結女ちゃんも、若い男の方がいいのかな?」
「違う、違うのぉ♡ あっちの私は、本心の私じゃないのぉ♡
私がどれだけお義父さんのこと好きで、どれだけエッチなのかを、あっちでは気付かないの。
お義父さんに甘えてエッチしたい私を、認めてないだけなのぉ♡」
結女は恍惚とした表情で、父に告白している。
その口振りは、まるで現実の自分より、夢であるいまの自分こそ本性なのだと語るようだった。
「お義父さぁん、私、なんでもするから。機嫌なおして?」
「はは、すまない。年甲斐もなくヤキモチを焼いたみたいだ」
「ううん、すごく嬉しい♡」
結女は父への愛を証明するように、振り返り気味にキスを繰り返す。
水槽の影に隠れた痴漢プレイが、二人の興奮を高めているようだ。
「妬かせちゃったお詫びに……ここで、お義父さんの好きにしていいよ♡」
そうして結女は、タイツの下に両手の指を入れると、下着もろとも太股まで降ろす。
下着との間に愛液の糸を引いた秘所が、外気に晒された。
「良い子だ、結女。ここで改めて、僕のものにしてやる……っ!」
興奮の笑みを浮かべた父が、ズボンから巨根を取り出す。
ここで? この場所で?
つい先日、僕と結女が、少しだけ昔に戻った気分で連れ歩いた、この水族館で。
(おい、止めろ! 誰か止めろよ!)
幽霊状態の僕は、周囲の客が目撃して制止するのを期待した。
しかし夢の中の客たちは、結女と父に気づいていない。
というか、よく見れば姿形がぼやけている。
ああ、こいつらは、夢の情景が作り出した『モブ』みたいなものなのか。
「またお父さんを興奮させて、後悔しても知らないぞ?」
「いいの♡ きてぇ♡ ここで結女のこと、お義父さんのおちんぽで虜にしてください♡」
父の肉棒から得られる快感を知っている結女は、涎を垂らしそうな顔で懇願した。
止められない。この二人のセックスはもう止められない。
僕はまた、二人が満足するまで、ここで瞼も落とせず見続けるしかないのだ。
いや――もうひとつ、できることがあったか。
(っ!)
いきり立つ自分のペニスに、手を触れることだ。
前回の夢でほぼ実証された仮説――この夢が僕の性欲に由来するなら、解消すれば目覚める。
「いいとも、水斗のことなんて考えられないように犯してやる!」
「ああああああっ♡」
結女が突かれ、叫んだ。
水族館の客は誰も反応しない。
僕にとって思い出であるこの水族館の明かりは、もうラブホテルの照明におちぶれていた。
(くっ、あああ……っ!)
僕は僕で、抵抗感を振り払い、自慰を始めていた。
竿を握り、上へ下へと擦る。亀頭の裏側も刺激すると、背が反りかけた。
(前回といい、なんだよこの感度っ。性欲が昂ぶってるの、あいつらだけじゃないのかっ)
まったく喜ばしくないことに、この夢で行うオナニーは、人生最大の快感だった。
いまだけは、誰にも見えない幽霊状態に感謝する。
だって、僕はいま――
「お義父さんっ、素敵っ♡ やっぱりお義父さんのおちんぽ気持ちよすぎるぅ♡」
父が腰を打ち付け、肉を打つ音を立てる。
結女は水槽に手と顔をべったりつけて、喘ぐ声を響かせる。
僕はいま――そんな結女の姿を見ながら、肉棒をしごいている。
「くうっ、こんな締め方どこで覚えたんだ? でも、お父さんまだ負けないぞ」
「あんっ♡ そんなぁ、私ただ、お義父さんに気持ちよくなってほしくて……」
「こういうときは、男が女を気持ちよくするものなんだよ」
「それならもう充分すぎますぅ♡ 私もう何回もイかせてもらいましたからぁ♡」
できるだけ二人の会話を聞かないようにして、僕は必死に自慰を続けた。
(なんでだっ!? こんなに気持ちいいのに、なんでイけないんだ!?)
どういうわけか、僕の果てがあと一歩というところで訪れない。
上り詰める快感が何かに止められている。
絶頂する直前で不可解なロックがかかっている。
「もっと、もっともっとぉ♡ お義父さんの逞しいので、わたしを支配してぇっ♡」
「いいぞ、結女! 男の悦ばせ方を覚えてきたな」
結女は尻を叩かれれば痙攣して、胸を揉まれればよがり、クリで発狂した。
父のピストンは激しくなり、周囲の水槽から魚が逃げていく。
すると、僕も絶頂が近付いてくるのを感じた。
さっきまで逃げ水のように遠ざかっていた射精の瞬間が、なぜか間近に迫っていた。
「わたし、お義父さんの娘で幸せですっ♡ お義父さんがいれば、他のなにもいりませんっ♡」
本音か、男を興奮させるためか――たぶん両方だろう。
ここにいる結女はもう、義理の父に対して肉体的に服従する、ただの色情狂だった。
なら……そんな元恋人の姿を見ながらマス掻いてる僕は、なんなのか。
「結女っ、もうすぐだっ!」
父の声と共に、僕も絶頂の訪れを感じる。
白熱する思考が、ふと感づいた。
――もしかして、僕の絶頂にロックをかけているのは、父の存在ではないかと。
――ひょっとすると、父が達するまで、僕もイクことができないのではないか?
そんな荒唐無稽な考えは、すぐ立証された。
「イクぞっ、結女!」
父が言った直後、不意打ち気味に、僕は射精感に襲われた。
いまだかつて味わったことのない開放感。
もし僕に実体があったら、さぞ情けなく背を逸らして、中空に白濁液をまき散らしていただろう。
「んああああああいくううううううううっ♡♡♡」
結女の嬌声すら遠くに聞こえた。
(あ、ああ……)
膝を付くような思いで、僕は脱力する。
ひどい屈辱と、敗北感。
そして、なにかに謝らなきゃいけない気分だった。
誰に対して、どう謝ればいいのか分からないけど――そうしなきゃいけない気がした。
「はぁっ、はぁっ」
「ああっ♡ はぁ♡ ちゅ♡ ちゅぷ♡ お義父さぁん……♡」
事後のキスをしている二人の姿が、鮮明に写る。
(……ん?)
そう、視界は鮮明だ。
夢が終わるときの、水に沈んでいくような不鮮明さが、ない。
昨夜は、僕が射精することで、この夢を終わりにできたのに……
(目が、覚めない……?)
背筋が凍った。
夢が終わっていない。
着衣を直す結女と父の姿も、水族館の水槽も、はっきり見えている。
性欲を解消すれば目が覚めるという僕の仮説は、間違っていたのか?
それとも――
(一発じゃ、足りないってことか……)
乾いた笑いが出た。
なぜか分からないけど、それが正解なのだと直感する。
十代の男の性欲が、特殊な状況とはいえこれだけ煽られて、一回で治まるはずがない。
僕はまだ、結女と父のデートを眺めなければならないようだ。
◆
腹立たしいことに――二人はその後、まともなデートしていた。
「ふふっ♪」
「どうした、結女ちゃん」
ご機嫌な様子で微笑む結女に、問いかける父。
僕は例によって視覚と聴覚と逸物だけの幽霊となり、二人の歩く姿を斜め前から見ている。
「いえ、まさかお義父さんに服を買ってもらえるなんて……」
「よく似合ってるよ。まあ、汚しちゃったのも僕だしね」
「もうっ」
結女と父は水族館デートを早めに切り上げて、洋服店に立ち寄っていた。
たしかに、結女の服装には見応えがある。
鮮やかなオレンジ色のブラウスに、腰を搾られた白いフレアスカート、透明感と華のある装いだ。
街の雑踏の中にも、雑草の中に咲いた花の如く輝いている。
(綺麗……だよな)
僕と同じ高校一年であるはずの結女が、急に女子大生くらいに大人びて見えた。
膝が見えるくらい短いスカートで素足を出しているところも初めて見る。
太股を出すのは部屋着くらいで、制服でもタイツを欠かさない結女にしては、大胆な格好だ。
それが……父に対する女のサインであることは、明白だった。
(結女って、こんなに色っぽかったっけ……?)
服装や化粧で化けているだけには思えない。
この夢の中に限ったことだが、結女の容姿は急速に大人びている。
濡れ羽色の髪が艶を増し、肌の血色はよりよくなった。
胸や尻は一回り大きくなったように見えるし、小柄だった背丈と手足も伸びたような気がする。
綺麗な清楚系の女子大生、としか見えない。
ここ連日、男に抱かれてきたことで、急速に大人の女になっている――とでもいうのか。
不快な思考を追い払いつつ、僕は結女の一回り大きく感じる胸元を見て、気付く。
(胸といえば、81のDだとか、前の夢で言ってたような……)
つまらないことを思い出した僕は……時間をおいて絶句した。
(待て、なんで……そんな数字を知ってるんだ?)
結女のバストサイズやブラのカップを、僕は知らない。
僕と別れた後に急成長したようだし、両親が再婚した後も知る機会なんてなかった。
学校で身体測定があったばかりで、親しい女子なら知っているかもしれないけど、僕は知らない。
――僕が知らないその数字を、なぜ、僕の夢の産物である『彼女』が、知っているんだ?
ひどく、背筋が寒くなった。
まるで、現実世界の結女しか知らないことを、『彼女』が知っているかのようだ。
もしそうだとしたら、僕はこの悪夢について、なにか思い違いをしているのではないか?
(いや、考えるだけ無駄だ)
単に僕の頭が、無意識に適当な数字とアルファベットを並べただけだろう。
それに、耳にしたサイズが、現実の結女と一致するかどうかも、確かめようがない。
僕はこの悪夢を目覚めれば忘れるし、覚えていたとして現実の結女に聞けるはずもないからだ。
だから――『あれは本物の結女なのではないか?』なんていう仮説は忘れるべきだ。
あり得ない。ここは僕の見ている夢なのだから、別人である結女がここにいるはずがない。
あの二人は偽物だ。
僕の性欲やら何やらが形を帯びた、妄想劇場の登場人物に過ぎないはずなんだ……っ!
「ところでその、ちょっとお願いがあるんです」
「ん? なんだい?」
結女は照れ臭そうに髪を弄びながら、上目遣いに父を見上げると、
「今日は……峰秋さんって、呼んでもいいですか?」
(…………)
近くで見ていた僕は、結女の表情に、不覚にも胸を高鳴らせてしまった。
魅力的だったという高鳴りと、それが父に向いていることへの不快感がブレンドされていた。
「……もちろんだ。結女」
「はいっ、峰秋さん♪ ふふ、呼んじゃった」
父に手を握られて、結女はいじらしく微笑む。
「結女にそう呼ばれると、お父さんもドキドキするよ――」
そう言った父の唇に、結女の指先が触れる。
爪がよく整えられた指で言葉を止めた結女は、少し拗ねたような顔でこう言った。
「『お父さん』って言うのも、禁止です……」
今日はデートなのだからと、結女は父を見上げている。
(なんだよ……)
より近い距離感で歩く二人を、糸で引かれた風船のように追いながら、僕は陰鬱な気分になる。
結女じゃないくせに、僕の夢がでっちあげた偽物のくせに……
(なんでそんなに――可愛いんだよ)
◆
現実で、僕と結女がしたデートは、水族館を楽しんだ後に解散した。
夕暮れ頃の時間に、水族館の前で別れたのだ。
いま思えば、なんとも高校生らしい、慎ましいデートだ。
若い男女が、夕方五時になったら家に帰る子供でもあるまいし……
対して――父が結女に与えたデートは、僕よりも大人っぽかった。
そもそも父は、結女にバスや電車を使わせる愚をしなかった。
自家用車があるというのに、わざわざレンタルしたのか、デートに映える立派な車に乗せた。
水族館と服屋の後は、少し遠方の大規模商業施設で、様々な店を練り歩いた。
日が沈んでも帰らなかった。
わざわざ予約したらしい、大人びたバーで夕食をとりつつ、ノンアルコールで乾杯までしていた。
どれもこれも、結女にとっては初めての経験だったらしい。
当然だ。彼女が交際した男は僕一人だけ。
そして、僕には逆立ちしても提供できない大人のデートだった。
(…………)
結女の顔には、隠しきれない喜びが浮かんでいる。
僕と付き合っていた頃を思い出す笑顔……しかしいま、それを見ているのは父だった。
いや、僕と付き合っていた頃にはなかった表情がある。
それは父に対する濡れた瞳だったり、年上の男性に対する憧憬の念だったり……
これまで見せつけられてきた淫らな顔じゃない、ごく平凡な、恋する乙女の顔だ。
塗りつぶされていく。
結女の中で『恋愛』や『デート』というプラトニックなものが、父に上書きされていく。
それは、彼女の中からより一層……思い出の中からさえも、僕が消えていくかのようだった。
(もう、いいだろ……)
そんな二人の一日を、背後霊のようにくっついて見ていた僕は、もう気力が尽きていた。
途中でどこかにしけ込んで一発ヤるのかと思ったら、それもなく。
元恋人と父親の爽やかなデートを見せつけられただけ。
いっそ勝手に自慰をしたら目覚めないかと試したが、萎えた逸物は何の快感も生まなかった。
これなら……いつものように、家でギシアンしていてくれた方が、よっぽど楽だ。
「そうか、水斗とはそういう経緯で別れたのか」
「はい。ごめんなさい、せっかく再婚したのに……」
話はいつの間にか、僕たちが過去に付き合っていた件に及んでいた。
現実では、両親は僕と結女が元恋人であることを知らない。
しかしこの夢では、セックス後のピロートークか何かでバレていたらしい。
それは、ある意味で、僕と結女だけの秘密だったはずなのに……
「いいんだ。僕たちに気を遣ってくれたんだね」
「で、でもっ、私もう水斗とのことは……っ!」
結女は僕への気持ちがないことを訴えようとしていた。
父への気持ちが疑われることを、何よりも恐れているかのように。
(やめろ……)
そんな結女の手に、父が自分の手を重ねて落ち着かせる。
大人びたバーの一席、仄明るい店内と洒落たBGMで、手を重ねる男女。
どこからどう見ても、甘辛い恋愛を演じる男女の絵面だった。
「結女の気持ちは、もうしっかり伝えてもらっているよ。そこは安心しなさい」
「お……峰秋さん……ありがとう」
(やめろ、もうやめろよ……っ!)
お前たちは、僕の性欲が夢に描いた妄想だろう。
それがなんで、セックス以外にも情緒があるかのように振る舞うんだよ!
「これからどんなことになっても、僕は君を愛しているよ。結女」
「っっっ!」
父の言葉に、結女が涙をぽろぽろと零していた。
義理の父娘で一線を越えてしまった男女が、どんな運命が待ち受けていようとも愛を誓う。
そんな安い映画みたいなシーンを、僕はいつまで見続ければいいんだ。
(やめろよ! もうたくさんだ! とっとと――)
あまりに不愉快すぎて、聞こえないと承知で叫ぶ。
こっちはそんな三文芝居に興味はないんだ。
早くホテルにでも行って、さっさと服を脱いでヤることヤれば――
(っ! 僕は、いま、なにを?)
自分の思考に、ひどい嫌悪感が生じた。
結女のことを、まるで、射精するためのネタになればいいかのように。
前置きの長いアダルトビデオの早送りができずに苛立っているかのように。
いや、実際そう扱うと決めたからそれでいい。
いいはずなのに――どうしても、大切な何かを蔑ろにしている気がする。
「峰秋さん……」
結女は父の手を両手で握ると、涙をぬぐって微笑した。
「お店、出ましょう?」
どこへ連れて行って欲しいのかは、熱い眼差しが物語っていた。
恋人が、充分にデートを楽しんで、愛の言葉で盛り上がってから、どちらかが誘ってすること。
ようやく待ち望んでいた展開が来たはずなのに、僕の胸中はひどく重かった。
◆
夢の場面が変わって、高級感のあるホテルの一室になった。
デートの締めにここへ連れて来られたら、女の気分が最高潮になりそうな部屋だった。
そんな部屋には目もくれず――結女は父の唇に自ら吸い付いた。
「ちゅっ♡ ちゅぷっ♡ ぷぁ……峰秋さん♡」
「結女、いいかい?」
「はい♡」
舌と唾液を絡ませ合いながら、二人は抱き合ったままベッドへ近付く。
服を脱ぐ間すら惜しむように、絡み合ってベッドの上で跳ねる。
(……っ!!)
僕は、その光景に、髪の毛が逆立つような憎悪を覚えた。
もう見慣れたはずの、結女と父の情事。
しかしいつもと違う、決定的に何かが違う。
その『違い』が、僕の心に、初めて結女が奪われた日のような激昂をもたらした。
「私……今日は、すごく幸せでした」
結女が下から父を抱き寄せ、情欲に染まった目で見上げる。
「ああ、僕もだ」
「お返し、させてください。この後は、何もかも、あなたの望む通りにさせてください♡」
身を捧げる女の顔だった。
――初日に、襲われて始まった関係だった。
――二日目には、理不尽な快感に堕とされていた。
――三日目には、悦楽ゆえに自ら求め始めた。
しかし今日は、肉欲以外のものを動機に、結女は僕の父を求めていた。
「結女、僕は――」
「分かってます。お母さんのことは気にしないで? 私、迷惑なんて掛けませんから。
峰秋さんに、何も失わせたりしませんから」
結女は自ら父の手を取って、自分の胸に触れさせる。
それだけで明らかに感じながらも、言葉を続けた。
「私、ちゃんと峰秋さんの娘でいます。お義父さんの、秘密のお嫁さんにしてください♡
娘としても、女としても、お好きな方で愛でてください♡ ずっと、そばにいさせて♡」
体どころか人生すら捧げると誓うような、結女の哀願。
僕が結女の恋人だった頃に聞いたどんな言葉よりも、愛を訴える言葉だった。
(結、女……)
僕の胸中から激昂が消え失せて、深い喪失感が広がる。
彼女はもう、身も心も、僕の父に染まっている。
もはや僕のことなんて、快感のダシにする気さえない。
正真正銘、目の前にいる義父を――伊里戸峰秋という名の男だけを愛していた。
そんな結女を見ながら――
「結女。君は最高だ。僕の最高の娘で、最高の女の子だよ」
「嬉しい……峰秋さん♡ お義父さん♡ きてぇ、その気持ち全部、私にぶつけてください♡」
――僕は、股間で膨れあがった見えないペニスを扱き始めた。
「ああっ♡ はぁんッ♡ すごいっ、わたしいまっ、幸せなイキかたしてるぅぅ♡」
服を脱がせきるのも待ちきれなかった二人は、ほとんど着衣で交わっていた。
「結女、結女、結女……っ」
「もっといっぱいしてぇっ♡ お義父さんっ♡ 好きぃ♡ 私の身体、全部あげますっ♡」
工夫のない正常位、しかし愛を確かめ合うにはこれが一番だと言うように、互いの腰を動かす。
結女の体には、過去に類のないハイペースでの絶頂が起きているようだ。
「結女、すごくイキやすくないか?」
「だって、ずっとっ、我慢してたからっ! お義父さんに女扱いされるたびに濡れちゃって、
水族館の後も、何度も求めそうになってっ♡ でもデートだから、ずっとずっと……っ♡」
「我慢することなかったのに。でも、これだけ焦らされてたんなら、きっと今日は気持ちいいぞ」
父が抽送を早めると、結女は父の背に爪を立てて喘ぐ。
「あ"あ"あ"あ"あ"ぁぁぁぁっっっ♡♡♡ くるぅぅぅっ♡ すごいのきてるぅぅぅっ♡♡♡」
今日ほど乱れる結女は見たことがない。
いつも激しい性感に襲われているようだったけど、今日はひとしおだ。
その理由には察しが付く。
察したくなかったけど、気付いてしまう。
きっと……体だけではなく、心までも悦ばされているからだろう。
ただセックスが気持ちいいのではなく、相手が『好きな人』だから。
お互いを愛し合うセックスだからだ。
それが、結女をより敏感にして、熱く燃え上がらせているのだろう。
「お義父さんっ♡ もっとっ、もっと結女のこと愉しんでくださいっ♡」
「そんなこと、言わなくていいんだよ? あと、峰秋さんじゃないの?」
「いいのぉっ♡ お義父さんがいいっ♡ やっぱり私、お義父さんのエッチな娘がいいっ♡
私のことっ、こうやってっ、上から支配してっ♡ ずっとずっと、いっぱい可愛がってぇっ♡」
結女はもう完全に父に屈していた。
父は結女を気遣う素振りを見せながら、一方で自分本位に動く。
結女はそれに抗わず、むしろ積極的に受け入れていた。
徐々に服を脱がされていく結女の体は、明らかに前よりも妖艶に成長していた。
「結女、大きくなったな」
「胸だけじゃ、ないよ? 体が全部、お義父さんとエッチしてから急に……」
両手で胸を揉まれながら、結女は指先で全身を撫でる。
父の視界に、自分の魅力を誇示するように。
目の前の男を、自分に夢中にさせたがる、女の情欲の発露だった。
「きっと、お義父さんに、育ててもらってるの♡
最初の夜に赤ちゃんみたいに鳴かされてから今日まで、お義父さんが育て直してくれたの♡」
「ああ、僕好みの、エッチで綺麗な女の子になったね」
「うん♡ 味わって♡ お義父さんが育てた女の子の体、お義父さんだけのものだからっ♡」
結女は父の背徳感を煽り、興奮させることで更なる快感を得ようとする。
父は思惑通り荒々しい笑みを浮かべて、自分の服を脱ぎ捨てた。
(くそっ、くそっ、早くっ、早くっ)
――これだけ見せられていながら、僕はまだ達していない。
どれだけ肉棒を扱いても、また何かのロックがかかっているように、射精できない。
「結女っ、結女っ!」
(結女っ、結女っ!)
姿が見えないのをいいことに、結女の姿を間近に見ながら、哀れに陰茎を手で擦る。
それでもやはり、なぜか父より先にイクことができない。
なんなんだ、なんなんだこのルールは!?
なんで射精のタイミングが、あっちにいる父の姿をした男に握られているんだ!?
「あああああっ♡ またずっとイってるぅ♡ 溶けちゃう♡ からだ全部とけちゃうぅ♡♡♡」
バックで念入りに感じさせられている結女が、ひれ伏すような姿勢で鳴いている。
パン! パン! パン! パン! と――男が女に衝突する音が、部屋に反響していた。
腰の動きで角度を付けて、リズムも音楽的に変化する、女を巧みに喘がせるセックスだ。
(早くっ、早くイけよクソ親父!)
僕は早くこの場から逃げ出したくて父を急かす。
しかし、結女に関しては百戦錬磨な父は、結女の快感を最優先していた。
快感で支配して、ずっと自分のものにしてやろうというのだ。
(結女っ、結女っ、早くっ!)
早く、父さんをイかせてくれと。
そんな……屈辱的に極まることを、僕は元恋人に向けて、心から願っていた。
「っぐ、おおおおっ!!」
それに気付いて絶望感を抱いたのは、父が雄叫びを上げて、結女の膣内に射精したときだった。
「ああああああぁぁぁぁぁぁっっっっっっ♡♡♡」
部屋に木霊する結女の嬌声。
その尻肉を掴んで腰を震わせている父。
その横で、誰にも知られず誰より情けない絶頂を迎えて、膝をつく僕。
(出せた……今度こそ……終われる……)
一秒でも早くと、夢の終わりを待つ。
いまこの胸のうちにある、言語化しがたい不快感を、早く忘れさせてほしい。
なのに――
「あっ♡ はうぅぅぅっ♡ お義父さんっ♡ 待って待って待ってぇ♡♡♡
私いまっ、すごいイキかたしたばっかりだからぁっ♡」
「ごめんよ。でも、僕もずっと我慢してたんだ。一発じゃ終わらないよ」
「はひっ♡ あああぁぁぁっ♡ はいっ♡ 何回でもぉ、受け止めてあげます♡」
父と結女はまだセックスを続ける気だ。
夢の光景も、まだ鮮明なままだった。
父の巨根は、まだまだ戦えるといきり立っている。
手に感じた僕の分身も、まだ勃起状態のまま脈打っていた。
(は、はは……なんだよこれ……僕も、『燃えてる』ってことなのか?)
口の端を引きつらせる思いで、僕は自分の浅ましさを痛感する。
以前は一度の射精で満足した僕のリビドーは、まだこの夢をお望みだというのか。
……自分の逸物を切り落としてやろうかと思ったのは、生まれて初めてのことだった。
――夢には、意思がある。
時に悪意としか解釈できないような、意思がある。
その悪意が、僕に何を伝えようとしているのか、まるで分からなかった。
「んっ♡ くふううぅぅっ♡ あぁぁぁすごいっ♡ お義父さんそこだめぇっ♡」
ホテルの壁際で立ちバックする結女と義父を見ながら、亀頭を丸く刺激し続けた。
「ふぁぁぁぁ♡ お義父さぁん♡ いくっ、いくいくいくいくぅぅぅぅ♡♡♡」
部屋の真ん中で駅弁ファックしている二人を見ながら、竿を掴んで前後させ続けた。
「好きぃ♡ 素敵ぃ♡ ずっと、ずっとこうしていたいです♡」
シャワー室で立ちセックスしている男女の声を聞きながら、扱いて、扱いて、扱いて。
「ぉぉぉぉぉっ♡ おとぉさんらめぇイクイクまたいっぱいイクのくるのぉぉっ♡」
騎乗位で半狂乱となる一匹のメスを見ながら、慰めて、慰めて、慰めて、慰めて。
――五回目の白閃光が僕の視界に走ったとき、ようやく何も見えなくなってきた。
(ああ、やっと、起きられる……)
今度こそ、悪夢の終わりだ。
僕に体があればきっと、部屋の端で仰向けに倒れ込んでいる。
そして右手と下腹部は、自分の白濁液に塗れていただろう。
自慰だったのに、何かに自分を陵辱されたような気分だった。
「しゅきっ♡ しゅきぃ♡ おとぉさんのセックスっ♡ 幸せすぎて好きなのぉっ♡
してぇっ♡ もっとずっとしてぇ♡ 私のこと、ずっと幸せにしてくだしゃいっ♡」
ホテルの部屋と、まだどこかで乱れている結女の声が、遠くなる。
(あと、何回だ? こんな夢を、あと何度、見ればいいんだ?)
答えてくれる人はいない。
そもそもこんな僕を見つけてくれる人が、誰もいない。
「誰か、助けてくれ……」
助けを求める相手にすら、心当たりがなかった。
【四夜目・了】
ご一読いただきありがとうございます。
体といわず、心といわず、思い出や純愛さえも奪われてこそ
まことの寝取られといえるのではないでせうか?(偉人風)
まだ使いたいヒロインやしたいプレイがあるので、主人公の悪夢は続きます。
やっぱりNTRには主人公への死体蹴りが欠かせないよね。