継母の連れ子が元カノだった、いまは僕の父親とヤってる 作:大中小太郎
【七夜目・前編】
親というものは、育児本などを通じて、心理学を囓る。
生まれた子供がどのように成長していくか、親に起きるその立場特有の心理とはなにか。
そういう、親子関係に焦点を当てた心理学というものがある。
前提として、親子というものは、互いの心理に多大な影響を与え合う。
例えば、子供は何かと親の真似をすることで学ぶ。
些細なものでは電話を取ったときの応対の言葉、大きなものでは人生観まで、親に自分を重ねることで体得する。
例えば、親は我が子を自身も同然に思うことで育む。
育児をする生き物なら当然の心理であり、愛情ある親ほど、子は己以上に大切な分身と言える。
同一化や同一視と呼ばれるこの心理は、人間として必要な機能のひとつだ。
逆に問題を抱えている親子とは、その機能の働きが過度や希薄であることが多い。
自覚の有無は別として、最低限の関係を保っている親子であれば、互いに心の一部を重ねている。
心の一部が『同じ』になっている。
ましてやそれが、母と娘であれば。
身を痛めて生んだ、同じ性別の我が子であれば。
母にとって娘とは『自分以上に重大な分身』である。
であれば、心理というものが形を帯びる夢の中で、それはどう表出するか。
ましてやそれが、伊里戸家で密かに巻き起こる、淫らな夢の中であれば。
だから――伊里戸由仁は、今宵も淫らなユメを見る。
○
【一夜目】
夢の中で不可解な現象が起きるのは、ある意味で当たり前だ。
空を飛んでいたとか、子供に戻っていたとか、ゾンビの群から逃げていたとか。
現実とは異なる、まったく別の自分になっている――とか。
『結女?』
『え? きゃっ、峰秋おじさん!?』
その夜――由仁は、結女となっていた。
夢が始まると伊里戸家であったことはいい。
だが視界が勝手に動き、あまつさえ自分の意思に反して喋り、それが娘の声だったら、そう解釈するしかなかった。
幽霊が人間に憑依したらこんな状態なのだろうか。
『そうですか。ではおじさんの許可もいただいたことですし、この格好でいさせてもらいます』
この頃はまだ、由仁も周囲の出来事を正確に認識していなかった。
夢とは、ある意味で『流し見る』もの。
とてつもない不条理を前にしても、なぜか『そういうもの』としてスルーすることは多々ある。
だから――娘の結女が、自分の夫である峰秋を誘惑するような真似をしても、叫びはしなかった。
『あ、それ僕のお酒だよ?』
『えっ!? やだ、ごめんなさいおじさん!』
むしろこれは、自分の欲求不満の表れではないかと思っていた。
目出度く再婚したはいいが、それぞれの子供が同居していることで、夫婦の時間は不足している。
平たく言うとセックスレスだ。
二度目の新婚さんという燃える時期にも関わらず、年頃の子供たちがいるから我慢していた。
峰秋との新婚気分で、精神的に若返っていたということもある。
自分が娘になって峰秋を誘惑しているのは、そういう精神状態が描いた錯誤ではないかと。
『ごめん、なさい♡ あうっ♡ お酒のせいか……私、体が、変なんです♡ はぁ……っ』
だから――娘と夫が怪しい雰囲気になっても、大きな動揺はなかった。
結女と峰秋であるのは、あくまで絵面だけのことで、実質は自分の性欲の表われなのだと。
『いやっ! おじさん、やめ、あんっ♡ 止めてくださいっ。私、そういうつもりじゃ、あっ♡』
『嘘をつけ。そんな格好で誘惑しておいて、いまさら何を言ってるんだ?』
結女の視点で峰秋に襲われたときも、驚きこそすれ拒否感はなかった。
『大丈夫だよ、だって――これ、夢の中のことだからね』
もしこれが現実の出来事なら夫を刺してでも止めたが、これは夢だから。
現実ではできないイメージプレイのようなものとして、欲求不満に従い、行為を甘受した。
『わかんなぃ♡ 私の身体どうなってるかわかんないっ♡ イってばかりで分からないよぉっ♡』
気がつけばすぐにそういう状態となった。
とてつもない快感の渦に飲まれて、まともな思考力は失われた。
『気持ちいい♡ 気持ちいいですぅ♡ いいっ♡ 夢ならいいっ♡ 私、気持ちよくなるっ♡』
自分が結女に成り代わっていることなんて、夢の中の不可解な趣向に過ぎなくなった。
○
【二夜目】
二度目となると、一度目では気付かなかったことに気付いた。
『それで、話っていうのは何かな』
『あ、えっと……』
由仁は前回と同じように、娘の結女となっている。
体も言葉も自分の意思に沿わず、勝手に動いて喋っている。
『ゆ、昨夜のことです……』
『ああ、とても素晴らしかったね』
『そ、そうじゃありません! あ、あんなことは、もうしないでくださいっ!』
それどころか、結女の感情まで、我が事のように感じ取れた。
(お、お義父さんって、こんなにセクシーだった?)
峰秋に――義理の父に襲われて、官能に狂ってしまった女の心地が、伝わってきた。
もしかしたら、この結女は……結女なのではないか。
つまり、夢の中のイマジナリーな存在ではなく、独立した意思を持つ誰かではないかと。
もしや自分は、何か神秘的な事象によって、本物の娘とリンクしているのではないかと。
『セックス、またしたいんだろう?』
『ち、違います……そんなこと……んぅ♡』
だとしたら、これは『誰の夢』なのだろう?
結女が見ている夢に自分が入り込んでいるのか、自分が見ている夢に結女が巻き込まれているのか。
どちらにせよこれは、何とかして止めるべき事態なのではないだろうか――
(ふ、普通? 普通、だったっけ? ふつうってなんだっけ?)
そんな『現実的な思考』は、夢の中の官能に溶かされてしまった。
(気持ちいいっ♡ やっぱり、男の人の、強い力でされると♡ 自分の指とは段違いっ♡)
そうして由仁は再び、夢の中で峰秋に抱かれる。
この夢で娘が浴びている異様な悦楽を、由仁もまた総身に受けていた。
常識なんて、倫理なんて、心の底からどうでもよくなる、女の悦びの臨界点。
(『だれも見てない』んだから……いいよね?)
そう考えたのが、結女だったのか自分だったのかも、分からなかった。
○
【三夜目】
三度目となって、由仁はふと、恐ろしい仮説を思い抱いた。
『お義父さん、もっとぉ♡ 私もう大丈夫ですから♡
お義父さんの手なら、ちょっと乱暴でもいいですからぁ♡』
夢の中のストーリーとはいえ、娘が夫と肉体関係を持ってしまった。
娘が淫らに変わってしまった。
それはひょっとすると――自分のせいなのではないかと。
つまり、自分の抱いている峰秋への愛や欲求不満が、娘に転嫁されたのではないかと。
『ああああっ♡ お義父さんっ♡ イカせすぎでしゅっ♡ 気持ちよすぎて怖いのぉっ♡
わたしいまイってるのに、イキながらイカせられてっ♡ イってない時間ないのぉっ♡』
そうでもなければ、この乱れように納得がいかなかった。
結女の劣情と、自分の劣情。娘の快感と、自分の快感。
二人のそれが、一つの体で混ざり合い、相乗効果を起こしているような気がした。
夢だ。あくまで夢の中でのことだ。
だとしても――もしかすると自分は、知らぬ間に、取り返しのつかないことをしたのではないか。
そんな疑問を覚えながら、由仁の心もまた、峰秋とのセックスによる無上の快感に堕ちていった。
○
【四夜目】
抱いた疑問は、より深まった。
『今日は……峰秋さんって、呼んでもいいですか?』
結女は体だけでなく心までも、峰秋を愛するようになっていた。
夢の中であることを加味しても、未熟な娘が父性への渇望や肉体の快楽に流されたとしても。
順当に考えて、親子ほど年の離れた男性を愛するというのは、希少例すぎる。
それに――
『そうか、水斗とはそういう経緯で別れたのか』
『はい。ごめんなさい、せっかく再婚したのに……』
この結女が、本物の結女なのではないかという考えも深まっていた。
結女が水斗くんと交際していたなんて話、現実では聞いたこともない。
正に、夢にも思わなかったことだ。
夢の記憶は現実に持ち越せないので、確証を得ることはできないが、もしそうなら……
『私……今日は、すごく幸せでした』
この夢の中に限り、娘は本当に、義理の父を愛してしまったことになる。
そしてそれは、もう歯止めを掛けられないところまで進行してしまっていた。
○
【五夜目】
その日、由仁は半ば実体を得た。
半ばというのは、思い通りには動かなかったからだ。
『毎朝すまないね、由仁さん。たまには僕が作ろうか?』
『いいのよ、私が作ってあげたいの』
口が勝手にそう答えて、体が勝手に行動した。
夢の中ではしばしばあることだが、まるで他の何かに操られているような気さえした。
なにせ――
『今日は随分と反応がいいな。こういう状況、趣味に合ったみたいだな』
『ちが、違うからぁ♡』
壁の向こうで、夫と娘がセックスをしていると気付きながら、家事をしていたのだから。
夢を見ている自分は気付いていた、でも『夢の中の自分』は気付いていなかった、そんな感覚だ。
そして、由仁を悩ませるのは、そこではなかった。
(気持ちよく、ならない……)
先日まであった、結女を通じて得られていた快感が、ない。
結女に憑依することで、強制的に感じさせられていた、峰秋とのセックス。
それが、結女とは別個の人間として行動していることで、遠ざかってしまった。
与えられていた快感を、途端に取り上げられてしまったのだ。
『だめっ♡ お義父さんっ♡ この扉の向こうに、お母さんいるからっ♡ 起きちゃうからぁ♡』
『寝てるさ。結女が声を我慢すれば起きないよ』
『むりっ♡ 無理だからぁ♡ そんなっ、奥っ、されたらっ♡ 声ぇ、でちゃうからぁ……っ♡』
そして――体に自由が戻ってきた。
扉の向こうで睦み合った二人が去ってから、しばらく経った頃、由仁は寝室で動き出した。
(結女……峰くん……)
考えるべきことはたくさんある。
この夢はなんなのか、結女と峰秋の関係をどうするべきか。
そんなことよりも――
『結女、目の色がすごいぞ。声を我慢し続けておかしくなっちゃったかな?』
『お義父しゃんっ♡ もういいいでしょっ? 気持ちいい声っ、いっぱい出させてぇっ♡』
娘の部屋から漏れ聞こえる声に、思考をもっていかれた。
半開きになっている扉から、廊下へと流れ出る、ベッドの軋みと肉のぶつかる音。
覗いてはいけない、覗いたら戻れなくなる――そんな予感がした。
そう感じながらも、吸い寄せられるように覗き込んでしまった由仁は、
『んおっ♡ おおおおっ♡ ふぉぉぉぉっ♡ お”お”お”お”お”っっっ♡』
もう、とっくに手遅れだったことを理解した。
第三者としては初めて見ることになる、二人の情事。
その激しさ、結女の乱れよう、峰秋の雄々しさは、もはや由仁の知るセックスの枠を越えていた。
人と人ではなく、オスとメス、ケダモノとケダモノ……そんな荒々しい交わりに、腰が抜けた。
『結女……峰くん……あぁ、こんなことって……』
ずるい――と思った。
羨ましい――と思った。
このとき初めて、由仁は結女に対してそう思った。
それは、この泥棒猫とか、そういう愛に基づく恨みではない。
ただ、あの悦楽を独り占めにするのはずるいと、いつものように分けてくれないのは酷いと。
そういう、肉欲だけに基づいた嫉妬心を自覚したとき、由仁は気付いた。
『あ……あぁ……♡』
自分はもうとっくに、結女を通じて、あの男に堕とされていたのだと。
抱かれたい。
彼に抱かれたい。
娘と『同じ』になりたい。
由仁の中にあった親としての部分が、女としての部分に敗北した瞬間だった。
○
【六夜目】
結局、前夜はなにもできなかった。
しかし由仁の胸中に起きた変化は、あまりに大きかった。
結女と峰秋の関係に対して抱くべき義憤がない。
あるのはただ、火照る体と、悦楽への渇望だった。
そんなものを抱えながら、由仁は夫の峰秋と共に、ダイニングにいた。
「その、峰くん……」
「ん? なんだい?」
椅子に腰掛けている峰秋に声を掛けると、彼がこちらを向く。
妻に隠れて義理の娘と姦通しているとは、到底思えない顔だ。
そんな彼を見て、ふと由仁は思う。
(この人……本当に、峰くん?)
再婚とはいえ妻である。伊里戸峰秋という男のことはよく知っている。
外見が若々しいことや、妙に色っぽい雰囲気であることは、そういう夢だと納得もしよう。
夢の中で義娘を襲ったことも、無意識の奥底にそういう欲を封じ込めていたからかもしれない。
ただ、それらを加味しても――この男は、峰秋らしくない。
例えば彼の性格上、結女に手を出していれば、後ろめたさを態度に出さないとは考えにくい。
他にも、些細な身振りや表情、言動や行動の節々に、夫との違いを感じる。
しかし断言はできない。
そもそも夢なのだから、偽物で当たり前という見方もできる。
由仁がそうして、言葉を迷っていたとき――
「お義父さん、ちょっといいですか?」
リビングに、結女が姿を現した。
一瞬、本当に娘なのかと疑うくらい、その雰囲気には艶があった。
「ああ、なんだい?」
「実は学校に忘れ物をしてしまって。取りに戻りたいんですけど、この時間ですから」
窓の外を見ると、外は夜だった。
夢の中で時間や場所は安定しないが、とりあえずいまは『夜の設定』らしい。
「その、ご迷惑でなければ、車で送っていただけたらなって」
「ああ、そういうことならお安いご用だよ」
結女が峰秋に向けた視線には、隠しようもない『誘い』があった。
応えて席を立つ峰秋の瞳には、隠しようもない『応え』があった。
きっと、忘れ物なんていう適当な口実で、逢瀬をするつもりなのだろう。
そうと察していながら――
「……お酒を飲む前でよかったわ。峰くん、お願いしていいかしら?」
由仁は結局、踏み込めずに、そう言って見送った。
これを機に、二人の関係を追及することだってできただろう。
でもそれが怖かった。
当人たちの口からそうだと肯定されることが? 否。
再婚したばかりの家庭を、終わらせることが? 否。
排除されるのが自分であることを、分かっていたからだ。
二人を詰問して、止めさせようとしても、きっと結女はもう彼から離れない。
例えば由仁がこの家を出て行くとしても、結女はきっと峰秋の傍に残るだろう。
その場合、この家から排除されているのは由仁だ。
全てを失ってしまう。
夫を、娘を、そして――娘を通じて体感していた、あの悦楽を。
(ああ、そうか……私……)
つまり、伊里戸由仁という自分の本心は。
娘を助けたい――ではない。
娘と同じように、女の悦びを味わいたい――なのだ。
リビングを出て行く結女と峰秋を見送りながら、由仁は、そんな自分の本性を静かに自覚した。
だからだろう。
『どうして止めなかったんですか! 父さんはあなたの再婚相手で、結女は……っ!』
水斗から受けた糾弾に、由仁は応えられなかった。
――その後に起きたことは、無かったことにしている。
――ただ、泣いている男の子を抱きしめて、受け止めてあげただけのことだった。
○
鮮烈なのは、その後のこと。
とうとう、この夢の中で、彼に求められる瞬間がやってきた。
当初は拒もうとした。この人が夫の峰秋なのか確信が持てなかったから。
それでも押し切られ、手指で性感帯を刺激されたとき、堪えていた情欲が爆発した。
結女に憑依して『下ごしらえ』されていた体は、瞬く間に快感で支配されてしまった。
『あひぃっ♡ だめっ♡ それだめぇっ♡ ふあっ♡ あああぁぁぁっ♡』
自分が自分とは思えないくらい乱れている最中、抱いていた疑念が確信に近付いた。
セックスの手付きは、ある意味で口癖などよりも、その人の特徴が出る。
彼のそれは、妻として知る峰秋のそれとは大違いだった。
現実の彼よりも……はるかに、女を絶頂に導くのが巧みだった。
まるで触れた女の体が何を求めているかを読み取っているかのよう。
逆に自分も、この人が何を求めているかが、不思議と分かった。
夢の中ではそんな共感が起きるのかもしれない。
だから、どうしようもなく燃え上がってしまう。きっと結女もそうだったのだろう。
見た目も、当人の自認識も、間違いなく峰秋だったけど。
彼は峰秋であって峰秋ではない、夫であって夫ではない。
伊里戸峰秋の姿をとった、この夢の世界の、真の支配者――そんな気がした。
『旦那様に向かってなんだい? その呼び方は!』
『ふあっ♡ ごめんなさいっ、旦那様……っ♡』
だから、屈服した。
屈服したかった。
度重なるオーガズムで打ち負かされ、支配されることに、女の悦びが目覚めてしまった。
もはや彼が何者であるよりも、その悦楽を与えてくれる『男』であることが重要だった。
『ほら、イってばかりいないで答えなさい、由仁。君は誰のものだ?』
『んんっ♡ 峰くんの……旦那様の、ものですっ♡』
だから――旦那様。
夫だけど夫じゃないから、『峰くん』ではなく『旦那様』。
不倫をしているような興奮と同時に、強い男の妻になっている喜びを味わえるように。
こんなことになって、この先どうなってしまうのか分からない。
その不安さえも、いまとなっては興奮材料でしかない。
これが、そういう夢だというのなら――
いつか覚める日が来るまで、この快感を味わい尽くそう。
それが、この淫らな夢に対して選んだ、伊里戸由仁のスタンスだった。
だから――伊里戸由仁は、今宵も淫らなユメを見る。
【七夜目・前編】
ご一読いただきありがとうございました。
なんか総集編ですんません。
総集編っていうより、実は主人公とは別視点で義母も見ていた、
みたいな話ですが。台詞の使い回しがあってお恥ずかしい限りです。
今後の展開に先立ち、由仁の内面を描いておきたかったので、
前編として分けることにしました。
人妻が堕ちていく過程で起きる内面の変化ってエロいよね。