※この作品はR-18です。

蛍は何処へ   作:パリピブラゾール

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シチュエーションに困ったので初投稿です。


桃が熟れたら (葵姫ルート)

屈辱以外の何物でもなかった。上座には鬼月葵がいて、初めての時とは大違い、余裕を取り戻してこちらの懇願を聞き入れていると言う風情。対する鬼月葵はといえば、慣れぬ、慣れたいとも思わぬ平身低頭にてお情けを求める有り様。

 

伴部という下人は、鬼月葵にとってそれほどまでに大きな存在であった。一度彼を知れば、絶望と空虚に占領されていた胸のうちにも、愛というものが存在すべき場所があり、そここそが伴部のいるべき場所なのだ、運命なのだと確信してしまうほどに。

 

初めは張形同然であった。次は、いけすかない自分自身を嘲笑うための道具であった。だが今は、ただ、伴部に抱かれたいという一心である。

 

「私も、自分と同じかおをした相手を拒絶するのも辛いものだけれど……」

 

伏し目がちに、笑みを扇で隠しながら鬼月葵は笑い、頭を下げる鬼月葵は激情を堪えようと唇を噛み締める。瑞々しい唇がぷつりと切れて血が小さな珠となる。

 

「けれど、あなたは伴部を道具のように弄んだでしょう? 彼の自我も奪って、私に成り代わろうともした。それを、ただの土下座で、ただの謝罪で、伴部に愛してほしいと思うなんて、虫が良すぎるとおもわない?」

「……百も、承知よ」

 

食い縛りながら鬼月の二の姫は言う。

 

「けれど、伴部は私を愛してくれる。どんなに私が惑わそうと、彼は……」

「ええ。だって、わたしの、彼だもの」

 

ため息のなかには、幸せの自慢が詰まっている。

 

「良かったわね? 私と同じ顔で。そうでなければあなたを伴部が愛するとは到底思えないし、私との積み重ねがあったからこそ、伴部はあなたの我儘も、自分を殺して受け入れてくれている。成った果実をただもぎ取るだけだもの。楽よね」

「……でも、その愛は私には向けられていないわ」

「体なら十二分に重ねたでしょう? これ以上、何を望むと言うの?」

 

鬼月葵は、わざとらしく嘲笑を袖で隠す。

 

「まさか、さんざん馬鹿にしていた愛を、他ならぬ伴部から与えてほしいと、本気で思っているの?」

「……そうだ、と言ったら?」

「頭に蛆が沸いているのではなくて?」

 

さらり、と、鬼月葵は笑う。しかし、鬼月葵はただ、頭を下げ続ける他ない。

 

それは、かつて橘佳世と交わした盟約の一部始終を想起させた。だが、彼女と違って、他の世界の鬼月葵は差し出せるものがなにもない。彼女以上に彼女を知る、暴君には、それでは足りないことを知っているのに、伴部の愛を手に入れるためにはこれに耐えなければならないと直感が告げている。

 

伴部が自我を取り戻すのと、鬼月葵が閉ざす術を解いたのはほとんど同じ頃だった。その頃には嘘偽りない自分を、本物の伴部に見てほしい、認めてもらいたいと言う欲求が、彼女の胸を占めていた。思い出されるのはそれまで傲慢にもてあそんできた自分の無知である。無恥である。

 

「あなた、伴部のために何ができると言うのかしら」

 

鬼月葵は首を傾げる。

 

「例えば私の代わりに、あの姉や祖母を殺してこいといったら、実行するのかしら」

「必要ならば、するわ」

「ええ。あなたは必要ならばするでしょうね。自分でなにも考えることなく、最悪、『鬼月葵にするように』と伴部に命令すればいいだけ」

 

ぴしゃり、と扇子が閉じられた。

 

「それが本当の愛だと思う? 馬鹿にするのもいい加減にしてほしいわね」

 

鬼月葵は、桃色の髪を己の素足で絡めとる。蹴りつける。踏みつける。鬼月葵はただ、耐えた。

 

愛。かつて得られずに、諦め続けていたもの。ようやく見つけたそれは、他ならぬ自分自身によって糺される。自分よりも遥かに永く、愛に狂った女によって。

 

「傲慢だと思うでしょうけれど、私、これでも慈悲深いのよ? もしあなたが私と伴部とを結びつけることを怠って、伴部を寝取ったなら、今頃その首は飛んでいるもの。伴部と結ばれた。その一点だけは、感謝してあげているわ」

 

指が艶かしく動き、桃色の髪を踏みにじる。唇を滴る赤い血潮が、畳に小さな溜まりを作る。

 

「だから、その一点において、あなたの沙汰はすぐには出さない。私は伴部との限られた時間を楽しむわ」

 

だから、そこで、指を咥えて見ていなさいな。

 

屏風の裏から現れた伴部の視線が自分をなぞるだけで、鬼月葵は歓喜に包まれたのがわかった。体が早く男を求めろと喚き立てている。しかし肝心の男は、自分と同じ女と一つとなり、二人の喘ぎ声は、平伏する鬼月葵の頬を濡らすだけであった……。

 

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