蛍は何処へ 作:パリピブラゾール
ある一定の歳を迎えた少女は女へと変わり始める。この過渡期にこそ憧れを抱き続けるものは異常性癖と言われても仕方がないが、この命の流転が著しく速い世の中であれば、それも角がたつことなく、本人すら気づけぬままに終わる。
鬼月葵と伴部、または橘佳世の歳の差は、この世界において一般的である。むしろ、もう少し歳の差が離れていた方が明確な関係性が生まれるのではと助言されてもおかしくはない。
無論それは、男女が同じ立場なればこそ言祝がれる関係であり、男子が下人である時点で、鬼月葵も橘佳世も異常性癖と決めつけられてしまうのは疑いようのないことであった。
「でも、周りがどう思おうと、知ったことではないのだけれどね?」
取り返した鬼月葵の自室。彼の端正な顔を隠し続けていた面はなく、衣服は彼にふさわしいものであるよう橘商会に準備させたもの。まだ自分の待遇に落ち着かない様子を見せているが、それも時間の問題だろう。
「伴部」
「姫様?」
「伴部。お願い、葵って呼んで」
「葵……さま」
ただ自分の名を呼ばれただけなのに、震えるような快楽に体が熱くなる。早くも腰砕けになりかけた鬼月葵は、彼に言う。
「ね、伴部……私は、今まであなたを酷使してきた。酷遇してきた。でもそれはすべて、あなたのため……いいえ、私のためだったわ」
「ひめさ……葵さまがお望みであるとは薄々……」
「でも理由は知らなかったでしょう?」
青年は無言で頭を下げる。そんな彼を見下ろすような真似をしたくなくて、葵は青年の胸元にすがり付くようにして視線を合わせた。
「すべてはね、伴部。あなたを英雄にするため。私が、あなたの隣にかしずく資格を得るため」
「は……?」
絶句する青年に、葵はずっと秘めていた言葉を吐露する。
「だから、伴部」
震える声、上ずる声、か細い声で、鬼月葵は平伏する。
「私を、あなたの側に置いてください」
その言葉には、喜びがあった。ようやく言うことができたという予ての念願だった。
一方の青年からすれば、今だ困惑のなかにいる。従来なら、立場を盾に逃げいたのだが、本能的なものがそれを許さない。自分はこの少女をどう思っているのか……既に少女と関係を持ったあとでなお、その疑問は付きまとい続けた。
ふと、庭の方に視線を向ける。息も絶えた蝉の死骸が玉砂利のなかで埋もれかけている。伴部は、感覚的にすべてを理解した。
もうゲームの通りにはならない。そして、ゲームのようにこの世界が存続しているのかどうかもわからない。
既に生気が失われつつあるこの世の中で、確かなのは少女の温もりだけである。あの時同様に、葵は怯えていた。円環は閉じたのだ。彼はゆっくりと少女を抱きよせ、口付けることで答えとした。
「伴部!」
喜色とともに晴れやかな笑みが顔一面に広がり、青年は、恐らく自分の意志で、少女の体を掻き抱いた。
ふわりと広がる衣と畳が擦れあう。深い息づかいもあって、まさに情事が始まると体が理解する。
「俺は、てっきり嫌われているものかと思っていました」
「そんなこと……んんんっ」
反論を許さぬように、少女の熟れた体を蹂躙する。桜桃のような乳首を摘まむように口付けて、軽く歯を立てる。恩知らずにも、青年に湯浴みをさせて、肌をさらした時のことを思い出す。
「まったく……絶対に忘れませんよ? 葵姫様が、俺にしてきたこと」
「ええ、ええっ! 忘れないで伴部! 許さないで! あなたの痛みを、私に刻み付けてっ!」
溢れる蜜が、伴部の剛毛を濡らしていく。秘所をはい回る産毛の感触にさらにとろけながら、鬼月葵はすべてが喜びに変わっていくことを自覚する。獣のように唇をむさぼられ、受け入れて当たり前とばかりに犯され、被虐の喜びに体が沸く。一度受け入れた男を決して離さないとぎゅうぎゅうに締め付ける快楽に男が喘ぐ。女が吐息を漏らす。肌がぶつかり合う音よりも、水音の方が耳朶を打つ。
言うことを聞かない太腿を熱い掌で掴まれて、無理矢理にこじ開けられる。かつてないほどに息を切らせた男の必死の形相を、鬼月葵が忘れることはないだろう。何度も何度も、男を受け入れるだけで鬼月葵は喜びに絶頂を迎え続ける。
「葵」
仕方がないな、といわんばかりにこぼした唾液を唇ごと吸い上げられる。体がまた跳ねる。呼吸するように収縮するへそに、ゲームと現実の違いをまた確かめながら、二人は同じ快楽のなかに沈んでいった。