蛍は何処へ 作:パリピブラゾール
自分の喘ぎ声に耳を塞ぎたい。鬼月葵が初めて心を許せるかもしれない相手は、自分のものになるはずもなかった。
初めはただの下人だと見下していた。そんな存在に期待を寄せる自分自身にしか興味を持たなかった。興味を抱いたときには手遅れで、もはやこの世界の自分を殺して成り代わることもできない。
鬼月葵は愛を求める。その相手を寝取っても、一度や二度では傷にはならなかった。雌伏の時と力を貯めていたのではなく、単に、彼が望むのであれば火遊びは許そうという決意からであり、これもまた、鬼月葵の想いからは遥か対極に位置する。後になってから好意を自覚したものとして、彼と関係を持った初めての相手であるという優位も失われ、鬼月葵は、この汚されたことのない自分が失うものがないはずの自分より強かであると信じていた。
そしてそれは、当然ながら、聡い少女である鬼月葵も見抜いていたところである。
「いや……」
既に衣は剥ぎ取られていた。鬼月葵は先程まで彼に抱かれていたにも関わらず、底無しの体力で持ち直すと、部屋の隅に作った結界のなか、念のため伴部からは見えないように屏風を移動させた上で、帯よりも伸縮性の高い布地に巻き付けた張形を男の分身のように自分の腰に固定して、異邦人の鬼月葵を後ろから貫いていた。
一度妖に体を蹂躙されれば、体はその感覚を忘れることはなく、鬼月葵の体はあっという間に燃え上がった。
例え相手が自分と同じかおをした女であっても、例え相手がただの凹凸のある張形であったとしてでも、である。
「随分と咥え込むのが上手ね、妬けちゃいそう」
これ以上ない皮肉と共に、瑞々しい、桃のような尻を鋭く張り飛ばしながら、鬼月葵は退屈そうな顔を崩さずに言う。犬のように這いつくばった鬼月葵はかつての恐怖を思い出し、屈辱に震えながら、それでも体に振り回されて顔を歪めている。どちらにも共通するのは、肌を重ねる喜びが一欠片も感じられないところである。
事実、鬼月葵にとっては隷属の証であったし、鬼月葵からすれば立場を明確にするための儀式であった。
尻を突き出した鬼月葵は両手を突っ張り、それでも腰砕けになって肘で体を支え、痛みのような快楽と揺れる体を留めようとい草に爪を立てている。抉れた畳が一条の爪痕を残しながら、腰を中心に二人の鬼月葵は密着して前後に揺れる。鬼月葵は改めて、自分の良人となる人物の我慢強さに感服した。こうしていると、男は女に対してずっと奉仕を続けているとしか考えられなくなってくる。
鬼月葵は退屈していた。時折張形の位置をちょっとずらして食い込ませると、予想外の刺激に喘ぐ無様を楽しむことができたが、やはり愛を知らぬ女の喘ぐ声というのは聞くに堪えない。尻の方から見下ろす女陰はうっすらと口を開いて、揺れる花弁は色彩のない泥の一筋である。その蠢きを見せつけられて、鬼月葵は尻に爪を立てて、視界から失せろとばかりに腰を振り続けた。帯を緩め、下半身をはだけさせた衣が、二人の膝でくしゃくしゃにされる。
一方体を捧げている鬼月葵は、過去の仕打ちを思い出し半狂乱になりつつも、ここが慣れ親しんだ自分の部屋で、愛をもって接してくれた伴部のものと自分を騙していると、体はその幻想を受け入れて、愛しい分身とばかりにどんどんと間口を広げていく。ある意味自分で自分の首を絞める仕打ちに涙、鼻水、唾液といった体液で顔をぐちゃぐちゃにしながら、恐怖から強張る体をなんとか緩めようとして、今度は膝が笑い出している。
「その様子だと、彼が相手をしてくれなくとも、あなたは十分やっていけそうだけど?」
「ちがっ……私は、んっ、私はぁ、伴部が、伴部に、愛してほしくて」
「やあねぇ。妖に汚されたような女の体なんて、押し付けられても伴部が迷惑するだけよ」
「伴部は……ううん、伴部ならっ……はうっ」
「よく言うわね。彼を散々なぶっておいて、お情けをかけてもらおうなんて。あなた、どこかに尻尾を隠しているのではなくて?」
「んぎっ……!」
尻の肉をぎゅっと摘ままれ、鬼月葵はついに、畳に顔を擦り付けた。下半身が持ち上がっているのは鬼月葵が突き上げる張形があってこそ、彼女はまったく自分の力で体を支えるのが困難になっていた。
「ひどい顔ねぇ、売女」
きっと鬼月葵は、袖で口許を隠しながら言っているのだろう。その唇は、嗜虐の喜びにつり上がっているはずだ。もしも自分がその立場なら、確実にそうしたであろうから。
双子のような豊満な体をもつ二人は、遺憾なくその授かり物を生かして、ぱちりぱちりと肌をぶつけ合い、一つになろうと無駄な努力を続けていた。