蛍は何処へ 作:パリピブラゾール
「いみがわからないんだよね」
気だるい暑さのなか、半裸になった蛍夜環は、獣のような息遣いの最中に、天井めがけてうそぶく。それは、己に対して言い聞かせているような口ぶりであった。
「僕が、僕の、処女を奪うのに、なんの問題があるっていうんだよ?」
組伏せられている少女の眼から、つつと涙がこぼれる。
決定的な差異としての存在。それが蛍夜環という存在であった。多くの可能性のなかで、否、本来少年であるはずの彼は、この世界では少女であった。男女の違いが明快になっていく手前の中性的な段階で、二人は双子の兄妹のようにも見えた。
生まれでた同胞を犯すのは、決定的な禁忌である。だが、世界を越えて異なる性をもつ同じ存在がまぐわうこと、果たしてこれは、どのような禁忌になるというのか。
それが罪だというのなら、嬉々として環はこれを破ろう。両親を親友を、愛するものをことごとく奪われ続けてきて、奪うものへと堕ちた彼にとっては、罪とは己を興奮させるだけの香料、人生の華でしかなかったのだから。
一方困惑と、組伏せられる恐怖と、何より生まれもつ正しさを鳴らす少女の環からすれば、この自分に酷似した少年は、会うなり舌なめずりと共に自分を犯そうとして来た卑劣漢である。自分によく似た顔というのはなんの慰めにもならない。それどころか、覚えもない己の業を突きつけられるような、はたまた昔から見続けている悪夢が急に像を結んだようで自分を塗りつぶされてしまうかのような、異なる恐怖も拭えない。
「僕から……離れろ!」
「うるさいなあ、君処女でしょ?君と同じ僕が初めてを奪ってあげるって言ってるんだから、大人しくしててよね」
「ふざけたことを……」
「ふざけてないよ。僕は蛍夜環で、君もそうなんでしょ? だったら運命じゃないか」
常人に理解できない破綻した理屈をもって、蛍夜環は摩羅棒を剥き出しにして迫る。これほど直接的な情欲をぶつけられる経験のなかった環は閉口し、また抵抗しようと霊力を込めるのだが、
「だからさ、そういうのやめない?」
「いぎっ……!?」
少年の環が、まだまだ華奢な体つきのせいで少女にも見える彼が、より濃厚に編み込まれた霊力を発揮すると、途端に少女がまとっていた霊力が霧散した。
「へへ。やっとおとなしくなった」
少年は、少女の、慎ましくもしっかりと存在を主張する、桃のような乳房にかぶりつく。乳首に軽く歯を立てて、ちゅうちゅうと吸い上げる。肌がぞうっとするこの未知の感覚を、環は嫌悪によるものだと思った。考えた。そう言い聞かせた。
「だいたい、僕に抱いてもらえるっていうのが相当の栄誉だってことを気づいてほしいんだよね。この年齢で僕くらいうまい奴はいないんだし、君も初めては気持ちよくいきたいだろ?」
「うるさい、その口を、閉じろ、」
「……なんだよ。同じ存在として優しくしたら、つけあがりやがって!」
少年は吠え、いよいよけだもののように少女に飛びかかる。手首を押さえつけられて、足で股をこじ開けられる。それでも睨み付けようとする彼女の顔を、少年は張り飛ばした。唐突の暴力に凍りつく彼女に、少年はにこやかに、
「じゃ、いただきます」
と容赦なく、摩羅を突き立てた。
悲鳴が上がる。嫌悪の絶叫。しかしそれすらも心地よさそうにきいていた環は、男と女とで全く違う形をとる、自分の分身を沈めた場所を凝視しながら、
「やっぱり処女には独特の味があるよねぇ。ぴっちり引き締まった感じが活きのいい魚みたいでさ。この滴る血も、自分だけの手付かずのごちそうだと教えてくれるし。いや、本当にいいもんだよ」
などといいながら腰を振り始める。
「君も男だったらこの楽しさがわかったんだろうけどさ。まあ今回は女だったというわけで、うん。諦めてよ。諦めて、同じ蛍夜環として、しっかり僕にご奉仕してよ」
少年が突き上げると、形のよい乳房が大きく揺れて、尖った乳首が空へとそそりたつ。鼻唄混じりに少女の足を抱え込み、手早く相手の敏感な箇所を確認する様は、確かに自信満々に言ってのけただけのことはある。環は声を殺すの精一杯で、とても抵抗を続けられるような状況ではない。
だが、だからといってそれが、少年の自分に体を許したわけではない。当たり前だ。しかし、体はそんな心を置いてきぼりに下腹部から力が抜け、優しく彼のものを包み込み、蠢動し、より深い場所へと誘おうと濡れそぼる。どうして、と環は声にならない悲鳴を上げる。
「キミ、どうせ色々とどうでもいいことを考えこんでるんだろ?」
環の視界に、己の脚で自分の顔を挟みこむような体位に見える、勝ち誇った少年が刻み込まれる。
「僕も昔はそうだったけどさ、そんなの、何の足しにもならないんだよ。大陸からの聖者が言う通り、この世は初めから辛く、苦しく出来ているのさ」
だからこそ少年は反逆する。刹那の喜びをもって、すべてを踏み躙ろうとする。かつて自分がされたことに比べれば、何と優しい仕打ちであろうか? これはもはや、慈悲とも呼べるものである。
二人の陰毛が絡み合う。少女の胎が喜びに打ち震える。少年の分身が奥へ奥へと入り込む。彼は環の体にさらに圧し掛かり、自分の尻を丸出しにする、滑稽な姿も厭わず完全に環の体を押し倒した。ばたばたと揺れる二本の脚が虚しく空を切る。
「女はさ、こうされると抵抗できないし、孕みやすくなるんだよね」
少年の残酷な言葉に、この世の摂理に、環の背筋が凍りつく。慌てて振りほどこうとするも、すでに押し倒された状態では、今更手遅れであった。
「僕と僕がまぐわって子供が生まれたら、ほら、あっという間に鬼月家なんか目じゃない、すごい子供が生まれるよ。僕はキミの子供も犯すし、キミも子供を犯せばいい。幸せな家族がすぐに出来る。そして僕たちは、もっともっと強くなれるのさ」
そうすれば、失ったものを取り返せるとでも言うのか……否、ただの言葉の綾だろう。環はそう判断する。
「地獄に……落ちろっ!」
「自分の半身に、ご丁寧だね」
環はまっすぐにもう一人の自分の顔を捉えて、言った。
「その時は、一蓮托生だけれどね」
「あ……」
直感で分かった。男が環に、子種を擦りつけているのだ。独立した二つの性器がぴっちりと重なり、中から中へ受け渡され、男の摩羅の蠢きが、女の胎の蠢きと重なる。少年は放心したように笑みを貼り付けていて、最後の一滴まで出し切ろうと環の脚を抱えて離さない。
環はしゃくりあげていた。嗚咽が止まらない。自分の体を許さないまま、組み伏せられるのがどういうことなのか、今はっきりと理解できたが、何の慰めにもならない。
顔を腕で隠して、咽び泣く。おそらく本来の姿である、男としての蛍夜環は、
「さすがはもう一人の僕だね! 名器だったよ!」
と少女を地獄に突き落としながら、いそいそと、二度目の種づけに勤しむのであった。