蛍は何処へ 作:パリピブラゾール
拳がめり込む。それでもこちらを見上げる顔に、続けざま、力任せに殴り込めば、鼻から血を流した自分の顔が目の前にあった。
従姉である鬼月葵の元を訪れたのがそもそも間違いだったのか、せめて下人にだけには、地下水道の一件も兼ねて顔を見せておこうと考えていたのだが、そこで目にしたのは自分と同じ顔の女を抱く憎たらしい下人と、それに媚を売る浅ましい自分の姿であった。
始めこそ動揺しきりで泣きじゃくるだけであったが、涙も枯れると、理不尽な現状にたいし、沸々と怒りが込み上げてきた。その矛先が自分と同じ顔をした女に向けられるまで、そう時間はかからなかった。
女が小屋を出てきたところを強襲しもつれあったのも束の間、すぐに相手も状況を飲み込んだらしく始まるのは刀剣による決着ではなくより原始的な素手の殴り合いである。
着飾ってきたその判断が今は恨めしい。街で開かれている庶民の道楽がひとつ、怪談ものの幽霊のように、陰惨な顔がそっくり二つ出来上がっていた。馬乗りになっては拳を振るい、息を切らしては振り落とされ、自分の行為をそっくり仕返しされる。そこには赤穂家が誇る剣術などどこにも見当たらず、癇癪に任せて腕を振り回すだけの非力な女、男を奪い合う情けない女だけがそこにいる。
やがて、馬乗りになっていたのか押さえつけていたのかわからなくなった赤穂紫がごろりともう一人の自分の体から転げ落ちる。二人は顔を見合せ、ふいと目をそらした。憎たらしいくらいに空は青く、晴れ渡っていた。
どちらともなく立ち上がった赤穂紫は、せめて一矢報いようと、騒動の原因にこじつけた下人の小屋の戸を開いた。どんな姿であろうと、あの卑しい下人は、さぞ舐め回すような視線で自分をなぶり、目で犯し、それから食後の一品とばかり自分を好きにしようとするだろう、などと、無意識に自分の願望を抱きながら。
二人の赤穂紫が見たものは、自分たち以外の赤穂紫二人の腰に腕を回し、牝の喘ぎ声で啼かせている下人の姿であった。二人同時になんて贅沢ですねなどと満更でもない口ぶりで寄りかかる、半裸の二人は幸せそうに顔を蕩けさせている。
立ち尽くす赤穂紫の瞳から、光が消えた。ぎこちない動き、操られるような動きで互いの服を脱がし始めた二人は、がばと両足を広げて、先程まで死闘を演じていた相手の陰部を己のもので受け入れ、受け止め、ぐじゅぐじゅとすがり合うような女同士でしかできない慰めあいを、誰に教わるわけでもなく、また、自身の意図でもなく、汚し始めていた……。