蛍は何処へ 作:パリピブラゾール
五十話目なので初投稿です
今までの投稿文と合わせて、原作の一話分の何割ですか……?(小声)
佳世ちゃんでもいけるな、と思っていた話です。
葵は目覚めた。呼吸さえ忘れていた、というのは比喩ではなかったかもしれない。世界を渡り、自分よりも遥かにましな、自分だけの英雄をもつもう一人の自分がいる場所にたどり着いた。
自分自身に対する感情と言えば、初めは軽蔑、次に嫉妬、そして今は……どのような感情を抱いているかはわからない。
ただ、心抉る夢ーー過去の事実を追体験すれば、あるのは殺意だけだ。
他に居場所がないからという理由で思いきり距離をとって、同室にいる二人の鬼月葵。何の悩みもなく惰眠を貪るその姿を、鬼月葵は強襲した。
「起きなさい……起きなさいよッ!」
殺気と化した霊力が、無防備に眠りこける鬼月葵を包むが、さして意味はない。感情を殺しきれないだけというのもあるが、なにより、同一人物の霊力はぶつかり合っても反発することなくするりと溶け合い、両者をどちらも不利にすることなく、ただ、凡人と変わらぬ在り方に落とす。
眠りこけているもう一人の自分に馬乗りになり、いきなり頬を張り飛ばす。一撃で目を覚ました鬼月葵を、常に命のやり取りをする退魔士として、褒めるべきか。
「性格が悪いのは、百も承知だけど……」
頬を赤く腫らしつつも、すぐに相手の腕を掴んだ鬼月葵は、拮抗状態のまま、問いかける。
「手癖まで悪いとは知らなかったわね」
「うるさい!……うるさいッ!」
髪を振り乱し、声にならない絶叫をもってもう一人の自分に為そうとするのは八つ当たり。どうして、どうして。説明にもならないそれで理解したのは、鬼月葵の聡明さゆえか、はたまた同じ自分だからか。
ともかく、伴部という自分だけの英雄がいる鬼月葵は、ふっと笑って腕から力を抜いた。即座にぶおん、と力任せの風切り音と共に、拳が迫った。
鬼月葵は、抵抗しない。
「同じッ、鬼月葵なのに!どうしてあんただけ!どうして!私には……なぜなのよ!どうして私だけが!」
憤懣を、恐怖を、羨望を、嫉妬を、自分でも測りきれない感情をありのまま、もう一人の自分へ。性格の悪そうな眠たげな目が、鬼月葵を見ている。唇が切れ、血が吹き出し、拳も嫌な音を立てる。お互いの着物が乱暴な振る舞いに、どんどん形が崩れていく。それを直そうともせずに、鬼月葵は駄々っ子のように腕を振り回す。
どうして私のもとには、伴部がいないのか。
どうして私には、伴部がいなかったのか。
おそらく、叫びだしたい本音を、激情に任せて言わなかったことだけは、英雄を侍らせる鬼月葵も評価した。それを言ってしまえば、自分は惨めだと告白するのと同じだ。
自分の才能に酔い、虫けら同様に考えていた下人が、諦めることなく奇跡を為した。
諦めない。
鬼月葵は、それさえも才能だと考える。誰もが持ちうるけれど、同時に簡単に腐らせてしまうもの。小賢しいだけの人間なら、却って遠ざけようとするもの。
もっとも、当時の葵がそれを持っていたとして、他者から助けが得られなければ、あったところで無駄だっただろうけれど。
勢い任せの拳は力を失い、鬼月葵の拳は垂れ、させるがままに横たわっていたもう一人の自分の胸元に力なく落ちる。
自分が過去の幻影に怯え、身体を震わせているのに、散々殴られていたもう一人の自分はどうだ。どうして今もなお、哀れむようにこちらを笑っていられるのかーー。
いや、答えなど初めからわかっている。
「臭いわね」
一言呟き、鬼月葵は自分に跨がっていた同じ顔の少女を畳の上に振り落とした。そして、今度は自分が相手を見下ろすと、先ほどやられたことをきっちりと返した。柔らかな頬に拳が食い込む。衝撃で揺さぶられた鼻から一筋、血が流れていく。
「妖に犯された、牝の臭いがするわ。臭くて、堪らない」
哀れむような笑みが、少しだけ、少女の意思を反映して妖艶な色を帯びる。顔のあちこちを腫らした二人は、お互いの顔を覗き込んだ。
「人の場所に土足で踏み込んできた、礼儀知らずの猿には色々と煮え湯を飲まされてきたものだけれど……そうね。悪くないこともあるわ」
鬼月葵は、同じ境遇を味わった少女を、地獄へと突き落とす。
「自分より不幸な人間がいれば、自分が幸せだってわかるものね」
絡み合う二人の少女は、一人は獣のような叫びと共に、もう一人は哄笑と共に、上になり下になり、同じ顔をした女を殴り続ける。時折い草にぱっと散る血飛沫だけが色鮮やかで、二人はどこかくすんだ色をしていた。
「これより裁判を行う。お前の罪は3つ。原作テイストの劣化模倣、圧倒的知識不足、文字数の不足、からなる誤魔化し、コメ乞食、同じキャラを登場させる異端的恋愛描写、あとオーバードーズだ」
「裁判長7つです」