蛍は何処へ 作:パリピブラゾール
向上心は常に持ち続けねばならない。常に数字と戦い続ける商人なら猶更のこと。
異邦人の橘佳世と、正しくこちらの世界の住人である橘佳世は帯をほどき、今にも裸になってしまいそうな状態で向かい合っている。
「例えどんなに嫌いな相手であろうと、愛され続ければ体が受け入れてしまう、ってことですかねー」
無邪気を装って、もう一人の自分の体をまじまじと見つめる佳世に、見世物同然の佳世の顔は歪んだ。
単純に、雌が子を残すためにより優れた体つきに変わっていっただけなのだろう。ただ、自分の心だけを置き去りにして。
かつてまだ生娘のように振舞っていた(実際生娘だった)佳世の前で、異世界から来た佳世が、想い人を寝取って見せたことがあった。その時は、このような関係になるとは思わなかったから、年季が違う、なんてことも言えたのだ。
だが今は違う。
もう一人の自分の想い人は、自分の想い人になってしまった。
想い人に、自分の純潔を捧げられなかったことが悔やまれる。彼の手ではなく、薄汚れた爺どもによって開発され、艶めかしく進化していった女としての体つきが憎まれる。その思いに拍車をかけるのは何といっても眼前の、穢れを知らぬもう一人の自分の存在である。
まだまだ完成されていない。成長の伸びしろがあるとか、そういう話ではない。ただただ、想い人の通りに変わっていくことのできなかった自分の境遇が恨めしいのだ。
「こう見ると、双子みたいなのに、お姉ちゃんみたいですよねー」
佳世がつんつん、と桜桃のような乳首を突きながら言う。ややあって、自重にも負けず形を誇示しているその乳房に、子供のようにしゃぶりついた。下を忙しなく動かして、紅い桜桃をねぶる。相手の体に腕を回して逃れられないようにして、唾液塗れにしてちゅうちゅうと音を立てて吸い上げる。まったくやり方を知らない勢い任せのその動きに、異邦人の佳世は少しだけ身じろぎした。
やがて、発情した男同様に、佳世は着物を取り払った。自分の袖から腕を抜き、相手のものは力任せに。まったく同じ色の着物は、くしゃくしゃに丸められて畳の上に投げ捨てられる。腕を引いて、「姉」を導くのは部屋の隅にある白い布団で、「妹」は鼻歌交じりに「姉」を布団の上に押し倒した。
「こんないい体、伴部さんは放っておきませんよね!」
自画自賛。腰を異邦人の自分の膝に擦りつけるようにすれば、ぬるっとしたものが肌の上を滑ったのがわかる。首筋に顔を埋めて抱き合えば、相手の重さと確かな温もりが、潰れた乳房と乳房の間からじんわりとこみあげてくる。
しかし、虚しい。
父も母も、抱擁が好きだった。両親の手で抱き寄せられたら、必ず心が暖かくなるような不思議な感覚がしたものだ。
今は違う。邪魔だとか、重いだとか、そんな感想しかない。
ふと、下腹部に違和感が走った。目を動かして、へらへら笑っている小娘を睨む。「妹」はにへらと笑って、秘所に埋めた指をゆっくりと動かし始めた。重ね重ねの互いの脚が、お互い暴れるのを防ぐように絡み合う。抱擁のために密着していた体が離れて、相手の股間を撫でられるよう距離を取る。襖と障子、畳の小さな部屋に、くちゅくちゅという水音が、違和感のように滑り込む。
顔を肩に預けて、そのくせ自分の秘部に手を突っ込んでくるという遊びでは済まされない「えぐい」行為も、橘佳世は悪戯っ子のように笑いながらやってしまう。異邦人の佳世は、振り払うのも面倒で、勝手にしろとばかりに体から力を抜く。
額に腕を載せながら思うのは、もう一人の自分が全然うまくないということだった。この程度では感じないし、気持ちよくない。
やはり、自分を満足させてくれるのは、あの下人なのだろう。
この世界の母と父を救い、もう一人の自分の心も救い出した、まさしく英雄。いてほしかった、いなかった、唾棄すべき非力な男。
「うう、指を動かしてると疲れちゃいますね……」
やっと秘所をいじくるのをやめたこの世界の佳世は、半分布団に体を預けつつも、畳の上で大の字になる。一見して二人は見分けがつかない。
ちらり、と散々自分を弄んでくれた妹に視線をやった。着物の端を手繰り寄せる。
その時障子が開いた。面を外した素顔の下人がそこに立っていた。滑稽なほどに動揺し、動けない佳世をよそに、異邦人の佳世は逆に青年の方へとにじり寄った。
同時に着物を投げつけて、変な動きを阻止する。
「伴部さぁん、来るのが遅いですよ。お姉ちゃんは一人で果てちゃいましたし、早く私と遊んでください!」
「え? ちょっ――」
有無を言わさず、股間に顔を埋める。舌の動きからすぐに、彼女の正体がわかったはずだった。しかし下人は何も言わない。これもこの男のいいところよね、と佳世は心の中で呟きながら、座らせた男の股座へとゆっくり座り込んだ。
すぐに頭に血が昇り始めて、もう何も考えられなくなった。