優柔不断は切り捨てろ:周りの美少女は全員他人のモノ 作:エルサイズ
――――――――――――――――――――主人公視点
「八條先生...あ、ありがとうございます!」
「いえいえ。またいつでもいらして下さいね」
放課後の職員室。グラウンドからは運動部の掛け声が聞こえている中、隣のデスクは先ほどから何人もの男子生徒が訪れていた。
「ふぅ...」
美しいプラチナブロンドがよく似合う美女、八條先生だ。彼女にしては珍しく溜息を吐いている。
「...」
ちらりと彼女のデスクを確認すると、未処理と思われるプリントの束が見受けられた。
「あ、あの...八條先生...?」
そして、再び男子生徒が彼女を尋ねて職員室に訪れていた。
「あ...は、はいっ。いかがなさいましたか?」
慌てて笑顔を取り繕う八條先生。...先ほどからこの調子でひっきりなしに男子生徒が訪れているのだ。
仮に世間話や彼女へのアプローチが目的であれば俺が追い返すのだが、生憎とほとんどの生徒が授業内容について真面目に質問する為に訪れている。...まあ、八條先生へのアピールという点については間違いではないか。
「楓ちゃんって本当に人気なんだね~」
関心した様子でしみじみと言う夕華。
「まあな。だから夕華のクラスは国語の平均点が高いのかもな」
夕華のクラスも含め、彼女が受け持つクラスでは国語の平均点が他のクラスを大きく上回る結果となった。
「確かに男子は国語の時間は目の色が違うわね」
地理の教科書を胸に抱えている茜が答えた。...普通のB5版サイズの教科書なのだが、茜が持つとなんか大きく見えるな。
「まあ、確かに男子の成績は唯一国語だけ毎回女子を超えてる。でも、男女共に点数は良いぞ」
男女共に平均点が高いので、これは単純に八條先生の教え方が上手いという事もあるのだが...それ以上に男子生徒たちがプラスアルファで成績を底上げしまくっているのだ。
ちなみに、俺が受け持つ地理の授業は茜と夕華が2トップだ。
「あ、ありがとうございました!...それで...その...い、いや、ありがとうございました!」
何か言いたげな様子の男子生徒だが、それを飲み込んで何度も頭を下げていた。
「はい。ではまた明日、教室で」
ふわりと微笑みながら返事をする八條先生。
「アッ――」
そんな彼女の笑顔に見とれる男子生徒。
「??」
そんな様子を不思議そうな表情で見つめながら小首を傾げている八條先生。
「...」
熱に浮かされたかのような表情の男子生徒。
「だ、大丈夫ですか?」
透き通るような白い肌。白魚のような美しい指で男子生徒の右手に触れる八條先生。その瞬間、ハッと我に返る男子生徒。
「だ、だ、だ、大丈夫ですっ!!し、失礼しました!!!」
そして、そのまま顔を真っ赤にして職員室を全速力で駆け出した。
「ひゃっ!?そ、それなら......よかったです」
ビクッと小さく身体を震わせ、胸元でぎゅっと手を握りながら答える八條先生。しかし、最後まで言い終わる前に男子生徒は姿を消していた。
「八條先生、大丈夫ですか?」
少し気の抜けたその表情には疲労感が拭えていない。
「は、はいっ!元気です!?」
白い肌を紅潮させながらこちらに振り替える八條先生。
「はい、元気なのは良い事ですね。でも、少しお疲れではありませんか?お手伝いしましょうか?」
デスクのプリントに視線を向けながら訪ねた。
「あ...い、いえ。先生にはいつも助けていただいてるのに...これ以上ご迷惑をおかけできません」
申し訳なさそうな表情で断る八條先生。
「それなら...そろそろ遅いからと生徒を帰らせましょうか?」
正直なところ、質問に来る男子生徒は国語の成績が抜群に良い生徒ばかりなので、一度や二度くらいは追い返しても構わないだろう。
「でも、やる気が有るのはすごく良い事ですので...」
確かにその通りではある。
「絶対楓ちゃんが目的だよ~」
そして、夕華の言う通り八條先生が目的でもあるのだろう。
「そう...なのでしょうか?」
不思議そうに小首を傾げる八條先生。
「あんなのは適当にあしらえば良いと思いますよ」
すっぱりと言い切る茜。...多分、茜ならそうするだろう。その姿が想像できる。
しかし、心優しい八條先生は全員に対して丁寧に対応してしまう。その結果...自分の業務を片付ける為に無理をしてしまう。
「あんなのって...」
俺が茜のあんまりな言い方に対して意見しようとしたその時―――
「は、八條先生...居ますか?」
再び彼女を尋ねる男子生徒が現れた。...そして、その生徒は今まで一度も彼女の下へ訪れた事のない生徒であった。
「あ、小井川君だ。やっほー」
ふりふりと手を振る夕華。
その通り、彼女を尋ねて来たのは小井川翔太だ。...何故か紙袋を持っている。
「よ、よう。...っ...!?」
小井川は俺の方を見て一瞬だけ硬直した。
「小井川、どうした?」
「っ...」
視線を逸らす小井川。...まあ、"あんな事"をされては当然の反応だろう。
「小井川くん?大丈夫ですか?」
心配そうな様子で小井川に声をかける八條先生。
「だ、大丈夫っす...」
大丈夫そうな様子ではないが、それでも小井川は話を続けた。
「は、八條先生。その...聞きたい事があるんだけど...」
「はい、何でしょう?」
穏やかに微笑む八條先生。少し緊張気味の小井川。
「その...八條先生、この前の夕方に予備校前のバス乗ってた?」
何を言い出すのかと思えば...そんなことか。しかし、八條先生の家は予備校前のバス停から少し距離が有るが...そうだ、八條先生お気に入りの洋菓子店があの辺りだ。
「はい、乗ってましたよ。あ、ひょっとして見られちゃいました?」
えへへ...と恥ずかしそうに笑う八條先生。
「まあ、そうなんだけど...それで、このお店、行ってたでしょ?」
そう言いながら何やら紙袋を取り出す小井川。その袋には"BSS"と記されたエンブレムが印字されており、その下に"Bitter・Sweet・Sweets"と店名が記されていた。そういえば、八條先生のお気に入りの洋菓子店はそんな店名だったな。
「すごい!よくわかりましたね?」
両手を合わせて無邪気な笑顔を見せている八條先生。
「よ、よかった。これ...その、先生にプレゼント」
少し恥ずかしそうに紙袋を手渡す小井川。...今度は八條先生にアプローチするのか。とりあえず今は様子見だな。
「私が頂いてもよろしいのでしょうか?」
困惑気味の様子な八條先生。
「あ、ああ。八條先生の為に買って来たんだから。当然だよ」
少し顔を赤くしながら視線を逸らす小井川。...何も知らなければ微笑ましい光景なんだけどな。
「でも...いえ、これ以上遠慮するのは失礼ですよね。ふふふっ...ありがとうございます。嬉しいです♪」
ふわりと花開くように笑顔を浮かべた八條先生。白く柔らかい彼女の両手が"BSS"の紙袋を受け取る。
「それで...その...」
まだ何か言いたげな様子の小井川。
「?」
不思議そうに小首を傾げている八條先生。その仕草は反則的な程愛らしい。
「そ、その...良かったら―――」
その先に続く言葉は、恐らく授業に関する質問等ではないだろう。それを察した俺は、小井川を追い返すべく口を開きかけた。
「小井川くん、あんまり楓ちゃんの邪魔したらダメだよ?」
しかし、先に小井川を諫めたのは夕華であった。
「あ、いえ、別に邪魔だなんて...」
人の良い八條先生は小井川をフォローしようとしたのだが、仕事が進んでいないのは事実であった。
「小井川、部活は良いのか?」
「...失礼します」
渋々といった様子で引き下がる小井川。...どうやら、アピールという点においては他の生徒の方が一枚上手のようだ。しかし、プレゼントを用意した点においては小井川が一歩リードなのだろうか。
「あっ...」
小井川が職員室を後にしたことを確認した後、八條先生は紙袋の中身を確認していた。しかし、何かに気が付いた様子だ。
「どうしました?」
少し困り顔を浮かべている八條先生に尋ねた。
「実は―――あ...いえ、頂いたモノなのに失礼ですよね」
ふるふると首を振る八條先生。彼女の手の上には包装されたチョコブラウニーが乗っていた。
「苦手なんですか?」
彼女の反応から察するに、恐らくその通りであろう。
「...はい。でも、折角頂いたモノですし...」
それでも遠慮する八條先生。
「苦手なら無理することは無いですよ。小井川君呼んできましょうか?」
小井川を呼び出そうとしている茜。...プレゼントが苦手だから返すというのはさすがに気の毒だろう。しかし、きっぱりとした性格の茜ならやりかねない。
茜は母性的な面もあるが、案外はっきりと言い切る面もある。これは、ここ最近で精神的に安定してきた事による変化だ。恐らく、今まで押さえつけてきた茜本来の性格なのだろう。
「茜...さすがにそれは小井川くんが可哀そうだよ」
逆に、夕華はこのあたりの気が利く。能天気に見えるが頭の回転は速く、洞察力が高いのだ。
「そうかしら?」
「うん...」
...付け加えるなら、茜は身内であれば底なしに優しい。
「そ、それなら...その、折角頂いたものをお渡ししてしまうのは失礼だと思いますが...その...受け取って、いただけますでしょうか...?」
濡れたエメラルドの瞳で俺を見つめながら、遠慮がちにチョコブラウニーを差し出した八條先生。
「良いんですか?」
個人的にはチョコレートは好物なので嬉しい限りだ。
「はい...その、先生がよろしければ...」
複雑な心境なのであろう。俺もプレゼントされたものを他の人に渡すのであれば同じ気持ちのはずだ。
「そういう事なら仕方ないですね」
八條先生の柔らかい両手を包み込むように紙袋を受け取る。
「ぁ...えへへ...♡」
ふんにゃりと微笑む八條先生。...可愛い。
「...お兄ちゃん、デレデレしてる」
「...そんなことはないぞ」
夕華の冷たい視線が刺さる。
「あ、あの...八條先生、いらっしゃいますか?」
職員室の入口から再び声が聞こえた。聞き覚えのある男子生徒の声の主に視線を向けると―――
「あ、圭介だ。やっほー」
先ほどと似たような口調で気楽な挨拶をする夕華。そこに立っていたのは夕華の幼馴染である斉川圭介であった。
「ゆ、夕華...それに...」
ちらりと茜を見る圭介。―――しかし、茜は特に何も反応しない。
「斉川くん?どうしました?」
圭介に気が付いた八條先生は視線を入口へと向けた。
「し、失礼します...その、少し聞きたい事がありまして」
両手に抱えられているのは受験対策のテキストだ。どうやら勉強の事で質問するために訪れたらしい。
「はい。何でも聞いてください」
ふわりと笑顔を浮かべる八條先生。
「あ...」
まるで花が咲いたような笑顔を向けられた圭介は、その笑顔に見惚れて放心状態となっている。
「斉川くん?」
口を半開きにしたまま呆けている圭介を見て小首を傾げている八條先生。
「あ...す、すみません...その、ここの部分何ですけど―――」
テキストを開いて八條先生の下へと近寄る圭介。...一応、質問のフリをした彼女へのアプローチという事ではなく、真面目な質問らしい。
追い払う必要が無いと判断した俺は、再び茜と夕華へと身体を向けた。
「二人とも、もう遅いから帰りなさい」
「えー」
当然のように不満そうな態度を見せる夕華。
「...」
少し寂しそうに俺を見つめる茜。
「ほら、良い子だから」
そんな茜の頭を撫でながら諭す。
「ぁ...えへへ...♡」
人前では中々見せない茜の愛らしい笑顔を見ることが出来た。
「...茜ばっかりズルい」
「はいはい。夕華も気を付けて帰るんだぞ」
夕華も柔らかいロングヘア越しに頭を撫でた。
「えへへ...はーい♪」
「茜、夕華を頼んだぞ」
茜に向けて声をかけた。
「ええ。また後で」
「むぅ...」
ふわりと微笑む茜と、少し不満げな夕華であった。