※この作品はR-18です。

優柔不断は切り捨てろ:周りの美少女は全員他人のモノ   作:エルサイズ

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104:楓編

――――――――――――――――――――主人公視点

 

「エスカレート...ですか」

 

ストーカー行為のエスカレート。それは心身ともに彼女を消耗させた事だろう。

 

「はい。先ほどの無言電話や、その...不快な荷物などを送られました」

 

荷物を送られるという事は、部屋番号や氏名なども割れているという事だ。それだけでなく、連絡先まで入手されているという事は―――

 

「知り合いにストーカーと繋がりが有る可能性が―――」

 

自分で発言しておきながら少し後悔した。そんな事をわざわざ指摘して、いたずらに不安にさせる必要は無い。

 

「はい。それが余計に不安で...」

 

表情が暗くなる八條先生。

 

それもそうだろう。自宅の住所や私用の携帯電話の番号などの個人情報は、ある程度信用している人物にしか教えていないはずだ。

 

「でも、今は...あなたのそばに居るから、その...凄く安心しています」

 

少し頬を染めながら付け加える八條先生。

 

頼られているという事実が嬉しい限りだ。

 

「ありがとうございます、信頼していただいて」

 

「ぁ...えへへ...♡」

 

彼女に微笑みかけると、緩んだ笑顔を返してくれた。

 

「他にはどのような被害がありましたか?」

 

「は、はい。他には...先ほどの男性に付きまとわれたり、深夜にインターホンが鳴らされたり、無理やり入られそうになったり...」

 

そんな事までされていたのか...

 

「その際、警察には連絡しましたか?」

 

「はい。でも...お巡りさんが到着される頃には逃げられてしまいます」

 

鼻の利くストーカーなのだろう。

 

「なるほど...」

 

その段階まで来ているという事は、更に重大な実害が出る寸前かもしれない。

 

「それと...あ、いえ、多分、私の考えすぎですね」

 

何か言いかけて口を噤んだ八條先生。

 

「大丈夫ですよ。些細な事でもお話ください」

 

「それが...その、お巡りさんの対応が...少し不思議と言うか、違和感があるです」

 

違和感。疑心暗鬼によるモノの可能性もあるが、この状況下の割に彼女は冷静だ。それに、女性が感じる違和感というモノは、往々にして何か確信的な事実に気が付いている事が多い。

 

「違和感?」

 

「はい。最初からお話しますと、ストーカーの相談をするために近所の交番へと伺ったのですが、交番に入る前に巡回中のお巡りさんが対応してくださりまして、そのお巡りさんと一緒に自宅へと向かいました」

 

...いきなり違和感がある。通常であれば、何か相談事の際には必ず調書を取るはずだ。現場に警察官を呼んだ場合はともかく、交番の付近まで足を運んだにもかかわらず、交番や警察署の中で調書も取らずに自宅へと向かうというのは...対応としては妙な行為だ。

 

「お巡りさんはスマートフォンのカメラで何枚か写真を撮影された後、巡回を増やす以外の対応が出来ないと仰りました。そして、交番の電話番号に直接掛けるようにと名刺を渡されました」

 

「名刺、ですか」

 

この時点で違和感だらけだが、名刺というのは特におかしい。

 

「はい。名刺でした」

 

「確かにそれは妙な話ですね。アメリカの警察官であれば名刺を渡す事は有るかもしれませんが、事務方でも無い警察官が名刺を渡すというのは珍しいというか...あまり考えられませんね」

 

通常はバッジや手帳を提示して身分を示すはずだ。

 

ということは―――

 

「やはり...あの方も、ストーカーの...」

 

みるみるうちに青ざめていく八條先生。

 

それもそうだろう。信頼して自宅まで連れて来た警察官がストーカーに関わりが有る可能性が高いのだ。

 

「八條先生。しばらくこの部屋をお使いください。このまま自宅に帰るのは危険です」

 

「そ、そんな...これ以上先生にご迷惑をおかけするワケにはいきません」

 

あわあわと遠慮する八條先生。

 

「大丈夫ですよ。何でも自由に使って頂いて構いませんから」

 

「で、で、でも...その...先生と一緒のお家...だなんて...っ」

 

顔を真っ赤にしている八條先生。

 

「そ、それに...夕華さんにも―――あれ?そういえば...」

 

...どうやら何か勘違いをしている様子だ。

 

「私は自宅に戻りますので大丈夫ですよ。遠慮なくお使いください」

 

「えっ...?」

 

朱色の頬から急激に血の気が引き、不安げな表情を浮かべる八條先生。

 

「せ、先生は...ここにお住まいではないのですか...?」

 

「ええ。ここは仕事部屋兼友人を招く為の部屋です」

 

...他には華織さんと密会したりする部屋でもある。

 

「そう...なのですね」

 

不安そうな...そして何故か少し残念そうな表情の八條先生。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ...は、はい。...いえ、少し、その...やっぱり...ふ、不安ですっ」

 

頬を赤くしながら言い切る八條先生。

 

その瞳からは何かを覚悟した女の力強さを感じた。

 

「そ、そうですか」

 

しかし、確かに不安だろう。

 

やや天然気味で柔らかい雰囲気だが、それでも彼女は大人の女性であり、決してか弱い乙女では無い。以前、懇親会の二次会の帰り道でナンパされていた事があるのだが、その際には実に華麗に躱していた。

 

そんな彼女がここまで怯えているという事は、それほど追い詰められているのだ。

 

「だから...その...」

 

何かを言いかけて俺に手を伸ばすも、その細い腕はだらりと垂れ下がる。

 

「...ごめんなさい。こんなに良くしてくださるのに、これ以上ご迷惑をおかけするワケにはいきません」

 

本心だろう。しかし、俺は弱々しく袖を握るその手を無視できない。

 

「八條先生」

 

「はい?...ひゃっ!?」

 

少し震える彼女の右手を握る。

 

「今夜はここに泊まりたくなりました。八條先生はそれでもよろしいでしょうか?」

 

「ぁ...は、はいっ」

 

一気に表情を明るくさせる八條先生。

 

「では、一度自宅に戻って着替えを取りに―――」

 

そう言って立ち上がろうとした...のだが

 

「っ...」

 

袖を掴む八條先生。

 

「ぁ...ご、ごめんなさい。着替えなら...仕方ないですよね」

 

彼女に犬耳や尻尾が生えていたとすれば、今頃はペタンと垂れ下がっているに違いない。

 

...もの凄い罪悪感だ。

 

「―――取りに行こうと思いましたが、やはり近所で買い揃える事にしましょう」

 

「...!」

 

再び顔を上げる八條先生。...表情がコロコロ変化して何とも可愛らしい。

 

「八條先生も行きましょうか」

 

「は、はいっ」

 

ほんのりと頬を赤らめている八條先生。

 

「さて、この辺りのお店と言えば...国道沿いのドンキにでも行きましょうか」

 

「ドンキ...あの、黄色と黒のお店ですよね?」

 

この時間帯に服や下着が手に入る小売店は他に思いつかない。品質については多少妥協してもらう事になる。

 

「ええ。まあ、短い期間ですが致し方ありません。近いうちに自宅に荷物を取りに行けるように手配します」

 

「あ、い、いえ、別に不満などは無いのですが...初めて利用しますので、その...少し楽しみです」

 

少し恥ずかしそうにはにかむ八條先生。...心なしか、先ほどより足取りが軽い気がする。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

車を走らせること十数分。駅から少し離れた国道沿いのドンキホーテ。

 

一昔前は派手なカスタムを施された改造車で溢れていたのだが、今は比較的落ち着いている...気がする。

 

「ここが...」

 

物珍しそうに黄色い電飾の看板を見つめる八條先生。

 

「少し離れた所に停めますね」

 

「は、はいっ」

 

車が疎らで視界の良い車室に駐車した。他の車の影から奇襲されてるリスクを減らす為だ。

 

「さてと...では行きましょうか、八條先生」

 

「はい―――いえ、少しお待ちください」

 

財布を手に取り、車を出ようとしたその時、八條先生に呼び止められた。

 

「八條先生?」

 

「あ...そ、その...このようなお店で『先生』と呼ぶと、ご、誤解されてしまうのではないでしょうか?」

 

一理ある。別に悪い事をしているという事ではないが、仮に生徒や保護者に目撃されて噂にでもなれば八條先生に迷惑をかける事になる。

 

「そうですね。では、八條さん、とお呼びしましょうか?」

 

「えっ...」

 

何故か悲しそうな表情を浮かべる八條先生。

 

「八條先せ―――八條さん、いかがでしょうか?」

 

「...むぅ」

 

実に分かりやすく不満そうな表情だ。...マズい。何か機嫌を損ねてしまったらしい。

 

「八條さん?」

 

再び呼びかけるも、膨らんだ頬は元に戻らない。

 

「...そんな他人行儀な呼び方はイヤです」

 

「それなら―――」

 

何とお呼びすれば、と言い切る前にその答えが返ってきた。

 

「―――楓...と、お呼びください」

 

真剣な眼差しだ。

 

「では、楓...さん」

 

呼び捨てには出来なかった。忘れかけていたが年上の先輩教師なのだ。

 

「ふふふっ...はい♪」

 

それでも、ご満悦の表情の八條先生改め楓さん。

 

「では、私の事も他の呼び方でお願いしますね」

 

少し、仕返しのつもりでそう述べた。

 

「それなら...あなた、と呼んでもよろしいでしょうか?」

 

少し恥ずかしそうに、しかしどこか嬉しそうな表情で俺を呼ぶ楓さん。

 

「...」

 

一瞬で心が奪われた。

 

ほんのりと頬を赤く染めた、少し不安そうな上目遣い。

 

年上とは思えない、まるで純情な乙女のような愛らしさ。

 

そして、愛らしさと同居する神秘的な美しさ。

 

そんな彼女の美しい声で『あなた』と呼ばれる自分を想像してみて欲しい。きっと、老若男女問わずその魅力に堕とされてしまう事だろう。

 

「あ、あなた...?大丈夫ですか...?」

 

出来るだけ感情を表に出さないように努力したのだが、尋常ではない精神状態は誤魔化すことが出来ていないらしい。

 

故に、楓さんは心配そうに俺の腕を握っている。

 

「あ...は、はい。大丈夫です。辛うじて」

 

「か、辛うじて?」

 

ギリギリのところで持ちこたえた。もう少しでプロポーズするところだった。

 

「ええ。もう大丈夫です。では、行きましょう」

 

「はい、あなた...♡」

 

「っ...」

 

その甘い声色に再び堕とされそうになる。

 

「ふふふっ...あなた♡」

 

楓さんは何故かとても楽しそうな様子で俺を呼び続けている。

 

...早く慣れないと、これは危険だ。劇物だ。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

何故か行きがけより近い距離。それは精神的にも身体的にもその限りだ。

 

「とりあえず、服を揃えましょう。一日程度ですので肌着、パジャマ、下着、靴下等で良いと思います」

 

明日の夕方にでも彼女の自宅に荷物を取りに行く段取りをしよう。桜に頼めば気が利く若い衆を何人か手配してくれるハズだ。

 

「わかりました。では、売り場の方に...」

 

きょろきょろと辺りを見回す楓さん。しかし、売り場が見つけられないらしい。

 

「...売り場が分かりません」

 

しょぼんとした表情が可愛らしい。

 

「こちらですよ」

 

そんな彼女の手を取り、売り場へとエスコートをした。

 

「ぁ...♡」

 

...自然と手を握ってしまった。しかし、今日は何故かやたらとお客さんが多いので仕方無い。はぐれない為に、仕方のない事なのだ。

 

「この辺りですね」

 

以前、夕華と一緒に来た際の記憶を頼りに衣料品コーナーに辿り着いた。

 

「あ、ありがとうございます...♡」

 

頬を赤らめている楓さん。しかし、その表情はどこか嬉しそうだ。

 

「で、では、私は自分の服を選んできますね」

 

「っ...!」

 

彼女の手を離し、メンズコーナーへと足を向けたその時、楓さんに袖を引かれた。

 

「か、楓さん...?」

 

振り返ると、彼女は耳まで赤くなりながら俺の袖を引いていた。

 

「そ、その...こういうお店は初めてですので...あ、あなたに選んで欲しいっ...です...」

 

選ぶ...服を選んで欲しい、という事だろう。

 

「それは...」

 

「だめ...でしょうか?」

 

不安げな上目遣い。彼女の場合、これが計算ではなく天然なのだから恐ろしい。

 

「...わかりました。お手伝いします」

 

「ぁ...ありがとうございます...♡」

 

途端に上機嫌になる楓さん。素直で愛らしい性格が本当に魅力的だ。

 

「では、まずはパジャマから」

 

そう言いながら売り場を見渡すが、何となく...彼女に似合うパジャマが選べない。

 

「うーん...」

 

「あなた?」

 

売り場の前で悩む俺を不思議そうに見つめる翠色の美しい瞳。

 

「あ、すみません。実は服選びは苦手で...」

 

仕事用のスーツ選びはあまり悩まないが、私服は夕華や茜に選んで貰う事が多い。

 

「そうなのですか?」

 

大きな瞳を見開いている楓さん。

 

...改めて見ると本当に綺麗な人だな。日本人どころか人間離れした神秘的な美しさだ。輝くようなプラチナブロンドのロングヘア、透き通るような白い肌、本物のエメラルドのような翠色の大きな瞳、それら全てが明るく輝いて見える程だ。

 

「ええ。私服も夕華に選んで貰う事が多いです。自分で選ぶのは仕事用のスーツくらいですね」

 

「意外です...でも、スーツも素敵ですし、ネクタイの柄も品があって素晴らしいと思いますよ?」

 

「ありがとうございます。そう言って頂けると嬉しいです。でも、楓さんはいつもお洒落ですから、私のセンスなどで服を選んでも良いモノかと思いまして」

 

まあ、部屋着なので別に気にしないと言われそうではあるが、それでも限度はある。

 

「うーん...ん?」

 

ふと、期間限定のコーナーに目が止まる。

 

「...あっ」

 

彼女も同じ商品を見ていた。

 

「これ...懐かしいですね」

 

「ええ。夕華が小さい頃に見ていました」

 

それは、昔放映されていた子供向けのアニメのキャラクターとのコラボ商品であった。

 

「私も見ていましたよ。可愛いですよね」

 

キャラクターの名前は失念したが、この緩いデザインの猫には見覚えがある。

 

「ええ。夕華も似たようなパジャマを着ていました」

 

あれは確か...夕華の両親が亡くなって間もない頃だ。夜中に泣き出す夕華をよく慰めていた事を覚えている。

 

「ふふふっ...小さい頃の夕華さんですか。可愛いでしょうね」

 

「ええ。それはもう天使のような愛らしさでしたね」

 

元々よく笑う子だった。生まれた頃から知っているのだが、昔からあの愛らしさは失っていない。

 

「まるでお父さんみたいですね♪」

 

優しい笑顔を浮かべる楓さん。

 

「そうですね...今は本当に父親代わりですので、あながち間違いではないかもしれません」

 

...身体の関係が有るとは言えない。

 

「うーん...でも、どちらかというと...」

 

楓さんは何か言いたげな様子だ。

 

「どちらかというと?」

 

「はい。夕華さんとあなたのやりとりは...まるで恋人のようにも見えますね」

 

さすがだ...やはり女性は鋭い。

 

「そうでしょうか?」

 

「ええ。ふふふっ...それほど夕華さんはあなたの事が大好きなのでしょうね」

 

柔らかい笑顔を浮かべる楓さん。

 

...良かった。比較的好印象のようだ。

 

「あっ、あなた、見てください」

 

楓さんは先ほどの緩い猫のパジャマに視線を向けた。

 

「どうしました?」

 

「はい。このパジャマ、男性用のサイズもありますよ!」

 

本当だ...欲しがる人もいるのだろうな。

 

「そうですね」

 

さて、楓さんはこのパジャマを気に入っているみたいだ。サイズを聞くか。

 

「むぅ...」

 

そう思い、彼女に視線を向けたのだが、何故か不満げな様子で頬を膨らませていた。

 

「か、楓さん?」

 

「あなた、このパジャマ...男性用のサイズもありますよ。ちなみに私はMサイズです」

 

サイズを尋ねる予定は達成できたのだが、何故か不満そうだ。

 

「そ、そう、ですね?...あっ」

 

そういうことか...しかし、それではまるで―――

 

「折角..."あなた"と呼ばせていただいているのですから...その」

 

頬を赤く染めながら上目遣いで俺を見つめる楓さん。

 

「...わかりました。自分もこのパジャマにします」

 

俺も、楓さんとお揃いの柄のパジャマを手に取った。

 

「ぁ...♡」

 

 

―――まるで、同棲カップルや夫婦のようだ、と思いながら。

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