優柔不断は切り捨てろ:周りの美少女は全員他人のモノ 作:エルサイズ
――――――――――――――――――――主人公視点
「では、次に―――あっ」
次は何を買うべきか―――と、考えながら視線を移動させると、視界に広がるのは女性用下着のコーナーであった。
「...私の下着を選んできますので、楓さんは―――」
自分で選んで頂く事にしよう。そう思いながら視線を彼女に向けたのだが―――
「...♪」
ほんのりと頬を染めながら、何かを期待している眼差しを向けられていた。
「...楓さん?」
ジャケットの裾を掴んだまま離れようとしない。
「あなた、下着も選んでくださいませんか?」
ニコニコと笑顔を浮かべているのだが、さすがに少し恥ずかしいらしく、頬は紅潮したままだ。
「さすがに下着は...サイズなんかも教えて頂くことになりますよ?」
「っ...お、お教えします...っ」
彼女は一瞬の葛藤の後、何かを決意した表情でぐっと拳を握りこんだ。
...なんということだ。教えてくれるのか。
「...わかりました」
その決意を受け取る事にしよう。決して楓さんのスタイルに興味があるだけではない。
「そ、その...恥ずかしいのでお耳を貸していただけませんか...?」
羞恥心が有るだけで教えること自体は抵抗が無いのだろうか。
「では、どうぞ」
少し膝を曲げて、彼女の口元に耳を寄せた。
「身長は163cmで、スリーサイズは...う、うえから89、59、87...です。ブラは...Fの65です...っ」
凄く小さな声で答えてくれた。...まさかそこまで教えてくれるとは思わなかった、と思うくらいに教えてくれた。
Fの65...つまりFカップでアンダーバストが65cmということだ。身長は高めだけれど、全体的に細身なので数字より大きく見える。
「...」
ゴクリと喉が鳴りそうになる。...目で見ただけでも素晴らしいスタイルだが、数値を知ると...その凄さが良く分かる。
「な、何か言ってください...」
顔を真っ赤にしている楓さんが囁く。
「あ...その...す、凄くスタイル良いですね」
動揺のせいでこんなコメントしかできない。
「あ...ありがとうございます...えへへ...♡」
しかし、褒められたことは案外嬉しいらしく、楓さんは可愛らしくはにかんでいた。
「で、では...お願いします」
「え?」
何をお願いされたのか思い出せなかった。
しかし、商品棚を見てソレを思い出した。
「...あなた」
「すみません...」
ジトっとした目で見られてしまった。...しかし、そんな表情も可愛らしい。
「では...選びます」
覚悟を決めて視線を向けた。
正直に言って、懸念事項はある。茜や夕華もそうなのだが...彼女達のように豊かなサイズの下着となると、デザインが非常に大人っぽくなるのだ。
茜はあまり抵抗が無いのだが、夕華は『私のブラも可愛いデザインが良いのに』と言いながら美咲の下着を両手で掲げながら眺めていたものだ。...ちなみに美咲は恥ずかしいからやめてと顔を赤くしていた。可愛かった。
「...うーん」
そして、その懸念事項は現実のモノとなって視界に飛び込んで来た。
「あなた?」
再び楓さんに視線を向けると、不思議そうに小首を傾げていた。...可愛い。
そう。可愛いのだ。神秘的な美貌と抜群のスタイルで見落としそうになるのだが、この人は非常にキュートな人柄なのだ。
そんな彼女の服を脱がしたら煽情的な下着を身に着けていたのならば...それはそれはとても興奮するのだが、果たして彼女がそれを望んでいるのかどうか分からない。
「その...楓さん」
「はい?」
小首を傾げる楓さん。
「あの...Fの65、ですよね」
顔を寄せ、声を潜めて尋ねた。
「っ...そ、そうです」
かあっと赤くなる白い肌。
「その、結構大人っぽいデザインのものになりますが...大丈夫ですか?」
それに、そもそもあまり選択肢が無い。専門店ではないので大きいサイズはが種類が少ないのだろうか。
「ぁ...そ、それは...確かにそうですね」
彼女も自分の事なのでそれは理解しているのだろう。
「わかりました。では―――」
再び視線を売り場に向けた。
濃いピンクにレースで装飾されたモノ、紫色に花柄の装飾がされたモノ、黒にピンク色の装飾がされたモノ、ベージュの実用的なモノ。サイズが合うのはその程度だ。
...ベージュの実用的なモノを選ぶべきなのかもしれない。しかし―――
「...」
「っ...」
期待している眼差しの楓さん。
―――プラチナブロンドに白い肌。エメラルドグリーンの美しい瞳。...彼女には黒が似合いそうだ。
「...こちらで、いかがでしょうか」
俺が選んだのは...黒い生地にピンク色のレースで装飾された下着であった。
「...こ、これが...先生の好み...!」
下着を手に取り、真剣な表情のまま小声で何か呟いている。
「か、楓さん?すみません...気に入らないのであれば別の物に―――」
変えましょうか?と提案しようとした。
「い、いえ!これで大丈夫です!いえ、これが良いですっ!」
慌てて声を上げる楓さん。...それなりの声量だったので他の客から視線を向けられてしまった。
「か、楓さん、わかりました。わかりましたから...」
細い肩に触れて彼女を落ち着かせた。
「ぁ...す、すみません。でも、その―――」
下着をぎゅっと抱きしめて、言葉に詰まる楓さん。
「楓さん?」
「その...あなたが選んでくれたことが、嬉しくて...♡」
そして、頬を染めながらはにかんだ。...年上である事を忘れそうになるほど、可愛らしい笑顔だ。
「...それなら良かったです。俺も楓さんが喜んでくれて嬉しいですから」
「えへへ...♡」
その可愛らしい笑顔が...俺の世界を支配して、逃がしてくれない。
「楓さん...」
「あなた...?」
潤んだエメラルドが真っすぐに向けられている。
そんな彼女に...俺は―――
「...じ、自分の服を選んできますね」
何とか自我を保ち、男性用の下着のコーナーへと体を向けた。...しかし―――
「お、お待ちくださいっ」
―――楓さんが俺の腕に抱き着いた。...Fカップの感触が右腕から伝わる。
「か、楓さん?」
Fカップの持ち主に視線を向けると、何故か明るい笑顔を浮かべていた。
「私が、選んでも良いでしょうか?」
大きなエメラルドの瞳をキラキラさせている楓さん。
「お、お願いします」
思わず、その眼力に押されてしまった。
「では行きましょう♪」
彼女に腕を引かれ、俺は男性用下着のコーナーへと足を運ぶ。
「わぁ...こんなにたくさん...!」
興味深そうに下着コーナーを眺める楓さん。
「そんなに珍しいモノでは―――」
無いと思うのだが...どうなのだろうか?
「男性の下着は父のモノ以外見たことがありませんので...凄く新鮮です」
なるほど。確か楓さんは二人姉妹だ。家族構成としては父親以外に男性は...えっ?
「他に見る機会は無かったのですか?その...彼氏さんとか」
これ程の美人なのだ。恋人の一人や二人など居ても当然だろう。
「それは...その...っ...」
顔を赤くして言葉を詰まらせる楓さん。
「楓さん?」
「――――ないです...」
彼女は小さな声で何か呟いた。
「え?」
その小さな声は騒然とした店内では聞き取れない。
俺は彼女の口元に耳を寄せて聞き返した。
「そ、その...彼氏...出来た事ない、です...」
「そう...ですか」
...これは驚いた。
「楓さん...ひょっとして、女子校出身ですか?」
まあ、女子校でも彼氏彼女が居る場合も有るか。
「いえ、小学校から高校までは私立の女子校ですが、大学は国立の共学でした...」
恥ずかしそうに答える楓さん。
「...こんなに素敵な女性を放っておくなんて...見る目がない男子ですね」
自然と言葉が紡ぎ出されていた。
「そ、そんな...素敵だなんて...♡」
しかし、何となく状況を察することも出来る。
彼女は...美しすぎるのだ。まるで女神や妖精のようだと言われる程の美人であり、なおかつ実家は名家として名高い八條家という筋金入りのお嬢様だ。情熱的な高校生や中学生ならともかく、ある程度分別のある大学生なら安易に手出ししないのだろう。
しかし、名家故にもう一つの可能性も考えられる。
「楓さん、その―――」
それは...婚約者や許婚の存在だ。それに、お見合いなどの話もあるだろう。
「はい?」
頬を赤らめたまま小首を傾げる楓さん。
「―――いえ、何でもありません」
そこまで踏み込んだ質問は出来ない。俺は別に楓さんと恋仲にあるワケでは無いのだから。
「そう...ですか?」
「ええ」
楓さんは不思議そうにしていたのだが、直ぐに表情を明るくして再び顔を上げた。
「では、選びますねっ」
...そうだ。今、彼女に下着を選んで貰う為にこの売り場を訪れていたのだ。
「お願いします」
エメラルドグリーンの瞳を輝かせているお姫様を止める事は出来ない。
「あなたには何色が良いでしょうか~」
実に楽しそうな様子で男性用下着を物色している楓さん。
「あっ!そうでした!」
両手をパンッと合わせた楓さん。
「どうしました?」
「大切な事を聞き忘れていました」
くるりとこちらに振り返る楓さん。
「大切な事?」
「はいっ」
楓さんは吐息が掛かる程の距離まで近づいて、大きな瞳で俺を見つめた。
「っ...!」
間近で見るその美貌に息が止まりそうになる。
「あなた、下着のサイズを教えてくださいっ」
元気よく尋ねる楓さん。
...出来れば、そんな事は小声で尋ねて欲しかった。売り場を通りがかった若い男の子が二度見してましたよ。
「Lサイズでお願いします。できればボクサーパンツが良いです」
「わかりましたっ」
再び売り場に身体を向ける楓さん。
「ぼくさーぱんつ...あ、この辺りですね」
タグを見ながらボクサーパンツを探していたらしい。
「うーん...」
しゃがみこんで商品棚とにらめっこしている楓さん。
「...うーん」
そして、再び視線をこちらに向けた。具体的に言うと、俺の下半身に視線を向けている。
「っ...!!」
そして、何故か顔を真っ赤にしていた。
「か、楓さん?」
あまりにも愉快な様子に、思わず声をかけてしまった。
「ち、違いますっ!別に下着姿のあなたを想像しただけですっ!」
パンツ一丁の俺の姿を想像しました、と大声で宣言した楓さん。
「そんなに愉快な体ではありませんよ?」
「そんな事はありません。プールの授業中に拝見しましたが、素敵なお体でしたっ」
衝撃的なカミングアウトだ。ちなみに、ウチの学校は珍しくプール授業を実施している。俺は社会科の担当なので体育は受け持っていないのだが、何度か体育教師の補助として参加したことが有るのだ。
「...見ていたんですね」
ちなみに屋内プールなのだが、職員室からはわざわざ出向きでもしない限り見る事は出来ない。
「...あっ」
しまった...と、わかりやすく狼狽えている表情だ。
「...忘れてください...」
顔を真っ赤にしている楓さん。...可愛い彼女の姿を見れたので良しとしよう。
「わかりました。胸にとどめておきます」
「お気遣い感謝します...」
彼女は再び売り場に視線を戻した。そして、商品を一つ手に取り、こちらに手渡した。
「...で、では、こちらでいかがでしょうか?」
「拝見しま...す」
楓さんが手渡してきた下着は...鮮やかなショッキングピンクのボクサーパンツであった。
「ピンク...ですか」
決してファンシーな柄という事ではなく、キャラ物の奇抜なデザインという事も無いのだが...何とも遊び人のイメージがある。個人的な主観ではあるけれど。
「はいっ♪...えっ?お、お気に召しませんでしたか...?」
不安げに瞳が揺れている。
「いえ、そういうワケでは無いのですが...俺、ピンクって似合いますか?」
派手な色はできるだけ控えてきたので、何とも新鮮な気分だ。
「はいっ。きっと、すっごく、お似合いだと思いますっ」
ぐっと拳を握りこんで力説する楓さん。
「か、楓さんがそこまで仰るのなら...」
そう...なのかもしれない。
しかし、それよりも、瞳を輝かせた楓さんが軽く触れ合う事が出来る程の距離に居る事にドキドキしてしまう。
「ぁ...」
彼女も同じことに気が付いたらしく、興奮以外の理由で頬を赤らめながら半歩だけ後退した。
「い、行きましょうか」
「は、はいっ」
楓さんは自然と腕を絡ませて、ぴったりと密着した。
「♪」
本人は実に楽しそうな様子なので、ごく自然と身体が動いたのだろう。...そういえば、夕華や茜とも触れ合っている場面を度々目にする。他人との距離感が近いタイプなのだろう。
そして、レジへと向かう途中で適当なサイズの肌着をカゴに入れて衣料品売り場を後にした。
―――――――――――――――――――
「あっ」
しまった。別宅の方はボディソープが切れていた。
...学校帰りの茜を別宅に連れ込んでソーププレイをしたせいだとは口が裂けても言えない。ちなみに最高だった。茜愛してる。
その茜本人は調子に乗ってボディソープを空にした事を後悔していたが、"今度はローションを用意しましょう”と話している辺り、別に嫌ではないのだろう。
「いかがなさいました?」
ぴったりと密着している楓さんが不思議そうな顔で見上げている。...俺は慌てて邪念を振り払う。
「すみません、買い忘れがありましたので、取りに行ってきますので、少しお待ちいただけますか?」
ボディソープの売り場は目の前だ。幸か不幸か、レジは込み合っているので、順番が来るまでに十分間に合うだろう。
「わ、わかりました...っ」
「?」
反応に違和感がある。実にご機嫌な先ほどまでの様子から一転、少し緊張した面持ちだ。
「直ぐに戻りますね」
念の為、周囲を見渡す。...大丈夫だ。悪意のある視線は感じない。
「は、はいっ」
それに、この間合いであれば、仮にレジ打ちをしているスタッフがストーカーでも対処できる。
俺は絡めていた腕を解き、レジから程近いバス用品売り場へと向かい、いつも使用している銘柄のボディソープを手に取った。もちろん詰め替え用だ。
そして、直ぐにレジ前へと戻る。時間にして1分も経過していないはずだ。
「お待たせしました」
美しい立ち姿の楓さんの元に歩み寄り、カゴを受け取る為に彼女の隣に立つ。
しかし、反応が薄い。
「楓さん?」
「っ!?」
軽く肩に触れると彼女はビクンと身体を大きく震わせた。
「せ、先生...っ...」
彼女は、エメラルドグリーンの瞳を大きく見開き、元々白い肌を更に青白くしていた。
...これは、俺のミスだ。
「楓さん、もう大丈夫です。すみません、私の配慮が足りませんでした」
「私の方こそ...申し訳ございません...」
ストーカー被害を受けたばかりなのだ。怖いに決まっている。
「早く向かいましょう。マンションへ」
微かに震える彼女の手を取り、優しく握る。
「ぁ...はい。ありがとうございます...♡」
ほんのりと笑みを浮かべる楓さん。
...良かった。少し落ち着いたらしい。