優柔不断は切り捨てろ:周りの美少女は全員他人のモノ 作:エルサイズ
――――――――――――――――――――主人公視点
駅前のロータリーを通り過ぎる頃、窓の外を眺めていた楓さんが口を開いた。
「あの駅前の空き地...家が建ってますね」
俺のマンションから程近い土地に建つ一軒家。それは紛れもなく、斉川家が移り住む予定の一軒家であった。
「ええ。長い事空き地にしていましたが、最近売れたんですよね」
「そうですよね。私が学生の頃には既に更地でしたし」
確かにその通りだ。10年前くらいに父が知り合いの解体業者に依頼して古い家屋を解体して更地にしていた気がする。
あの土地は一部分だけ共同名義の部分が混在しており、名義変更に苦労したものだ。
「あの家は斉川家が住む予定ですね」
「斉川さんって...あの斉川君のご自宅という事ですか?」
「ええ。その斉川です」
もう建物は竣工しているはずだ。先日、旦那さんとお話したところ、今は引っ越し業者を手配している所とのことだ。
「すごい...ご立派な邸宅ですね」
「ええ。フルオーダーの注文住宅です」
とはいえ、斉川さんには随分とお世話になった。なので、知り合い価格として建物も土地も格安で譲渡している。
「...」
「...」
再び会話が途切れてしまった。しかし、沈黙が苦痛というワケではない。
V6エンジンの静かな駆動音が響く車内は案外心地良い。
ロードノイズとエンジン音以外に音は無く、ただただ静かな時間が流れている。
「あの...先生?」
静寂を終わらせたのは、鈴の音が鳴るような美しい声だった。
マンションの駐車場に車を停めて直ぐの事だ。
「いかがなさいました?」
元の呼び名に戻っている。...少し寂しい気分だ。
「ひとつ、お願いをしてもよろしいでしょうか?」
遠慮がちに尋ねる楓さん。...いや、八條先生と呼び名を戻すべきだろう。
「何でもどうぞ。私に出来る事なら全力でお答えします」
「ふふふっ...ありがとうございます」
声にも元気が戻り始めている。
「では、ひとつだけ」
そして、八條先生は俺の手にそっと触れた。
「こらからも...私の事は"楓"とお呼びください」
「...!」
俺も...そう呼びたい。
「楓...さん」
「はい、あなた...♡」
優しい声で俺を呼ぶ楓さん。
「っ...!」
甘く蕩けるようなその音色に、思わず胸がときめいてしまう。
「ぁ...そ、その、つい...先ほどの呼び名でお呼びしてしまいましたが、よろしいでしょうか...?」
不安げに揺れるエメラルドグリーンの瞳。まるで少女の様な愛らしいその顔が俺の鼓動を速くする。
「勿論です。...正直に言いますと、私もそう呼んで欲しいところでした」
「えへへ...良かったです...♡」
頬を赤らめながら微笑む楓さん。その表情に先ほどのような怯えや緊張は無い。...今は他に人が居ないので、リラックスしているのだろう。
「では、上がりましょうか。折角、食材も購入した事ですし」
「ええ。それに、明日もお仕事ですからね」
...忘れていた。今日は木曜日だ。今週は土曜日に出勤する予定は無いので、明日を乗り切れば休日だ。
「楓さん、今週の土曜日は出勤予定ですか?」
エレベーターに乗り込みながら尋ねる。
部活の顧問は請け負っていないはずだが、それでも出勤の予定はあるかもしれない。
「い、いえ、今週はお休みの予定です...っ」
つい先ほどまではリラックスしていたはずなのだが、何故か少し緊張した様子だ。
「それは良かったです」
休みであれば...彼女の自宅に荷物を取りに行く事も出来そうだ。桜に予定を尋ねておこう。
「...?」
考え事をしていると、楓さんが何やら頬を赤らめてこちらの様子をチラチラと伺っている。
「楓さん?」
「へ?ぁ、は、はいっ!いかがなさいました?」
慌てて取り繕う楓さん。
「あ、いえ...特に何かあるワケではないのですが...」
何か言いたげな様子に見えたのだが...どうしたのだろう?
「ぁ...そう、ですか」
そして、何故か気落ちした表情へと変貌した。
「楓さん?」
エレベーターは最上階へと到着し、手を繋いだまま部屋の中へと足を運ぶ。...自分でも気づかないうちに手を繋いでいた。
「いえ...何でもないんです...私が勝手に勘違いして盛り上がっていただけですので...」
勘違い?一体何の事だろう?
「一体なにを...あっ」
自分の言動を思い返して気が付いた。
手を繋いだ状態で休日の予定を尋ねているのだ。多分、俺でも同じことを期待する。
「楓さん、土曜日に何かご予定はありますか?」
「...!」
ぱあっと明るくなる表情。
「い、今のところは何もありませんっ」
「それは安心しました。それでは―――」
背後で玄関がパタンと閉じた。
「っ...」
くるりと彼女の方へと振り向くと、頬を赤らめた楓さんと視線が絡み合った。
「―――明後日、あなたの時間を私にいただけますか?」
あんな聞き方をされたら...きっと、俺もデートの誘いだと勘違いする。
「はい、よろこんで...♡」
ふわりと微笑む楓さん。
...茜と夕華には後で埋め合わせをする旨を伝えておこう。
―――――――――――――――
「先にお風呂に入りますか?」
食事を終えたテーブルを片付けながら尋ねた。今夜はもう遅いので、手軽にスーパーのお惣菜だ。
「ええ。後からで構いませんので、私もお風呂を貸していただけますでしょうか?」
当然の事をわざわざ訪ねる楓さん。
「当然です。それに、準備をして来ますので、お先に使われてください」
「い、いえいえそんな...私は後からで結構ですよ」
それでも遠慮する楓さん。
「本当に大丈夫ですよ。それに、私は少しやる事がありますので。だから本当に遠慮しないでください」
彼女の手を握りながら諭す。
「ぁ...」
潤んだエメラルドグリーンの瞳、ほんのりと紅潮した柔らかい頬、薄く開かれた桜色の唇。
茜曰く"嫉妬の感情すら湧いてこない程の美人が可愛いメイクしてるんだから本当に反則"というほどの美貌。
夕華曰く"あれたぶん女神様"というほどの美貌。
そんな彼女に見つめられたら...誰でも瞬く間に恋に落ちてしまうだろう。
「楓さん?」
「...は、はい...わかりました。お言葉に...甘えます...」
熱にでも浮かされた様子で答える楓さん。
...そんな様子で風呂に入って大丈夫だろうか。
「では、ごゆっくりどうぞ」
楓さんは、先ほど開封したばかりの着替え一式を手に取り、ふらふらと脱衣所へと向かった。
「さて...」
先に片づけを済まそう。
まあ、出来合いのモノばかりなのでまとめて捨てるだけだ。
「...」
ガサガサと食卓を片付けていると、浴室の扉が閉まる音が聞こえた。
...今、楓さんがシャワーを浴びているのか。
「っ...」
楓さんの裸体...それは、情欲や性欲を通り越して、もはや神々しいのではないだろうか。
あの、まるで女神のようだと称される彼女の事だ。きっと、その神聖さで我々のような下々の民は無意識のうちにひれ伏してしまうかもしれない。
それほど、あの八條楓という女神は―――
「―――あっ」
そのようなアホな事を考えていると、買い物袋の中に詰め替え用のボディソープを発見した。
「...しまった」
浴室のボトルは既に空だ。ストックも無い。
という事は...届けるしかないという事だ。
「...」
既に脱衣所から浴室へと移動しているはずだ。浴室の扉の前に置いて受け取ってもらおう。
気を付ける事と言えば...浴室の扉の事だ。
自宅の方は普通の大手メーカー製のシステムバスなので問題ないのだが、こちらの別宅は特注で制作しており、浴室と脱衣所を仕切る扉がガラス製なのだ。
一応、中が見えない加工は施してあるのだが、扉に近づけば普通に見えてしまう。...まあ、余程近寄らない限りは見えないので大丈夫か。
「...行くか」
迷ってる暇はない。とりあえず脱衣所に行こう。
俺はボディソープを手に取り、脱衣所へと向かった。
「楓さん、開けても大丈夫ですか?」
『え?ええっ!?』
慌てた声が聞こえてくる。しかし、直ぐに返答が聞こえた。
『は、はいっ!大丈夫ですっ』
「失礼します」
扉を開き、脱衣所へと入る。
...ランドリーラックには、先ほどまで楓さんが身に着けていたブラウスとスカートが丁寧に畳まれており、その上には白地に藍色の装飾が施された下着が置かれていた。
その隣には先ほど購入した衣類が置かれている。...遠目から見ても、先ほどまで楓さんが身に着けていた下着の方が上質である事がわかる。
「あなた?いかがなさいました?」
扉の向こうから反響した声が聞こえてくる。...声だけでなく、シルエットが近づいてきた。
「い、いえ、その...ボディソープをお持ちしました」
俺とした事が、動揺してしまった。
「あ、なるほど」
段々とシルエットが見えて来た。
「ではここに―――」
置いておきますね、と言い終わる前に、ガチャリと扉が開いた。
「わざわざありがとうございます、あなた♪」
ひょっこりと顔を出す楓さん。
扉にぴったりと身体を密着させ、顔だけを出している。
「なっ...!?」
確かに中の様子は見えない。そのような加工だ。しかし、そこまで密着すれば見えてしまう。
まるで芸術品のように均整の取れた全身も、細身故によく目立つ豊かな母性の象徴も、その先端にある薄ピンク色の果実も、整えられているプラチナブロンドの毛が薄っすらと生えている股の間も、全て、見えてしまう。
あまりにも神々しいその裸体が、俺の視線を奪ってしまう。
「あなた?」
不思議そうに小首を傾げる楓さん。...神々しいだけでなく、可愛いだなんて...。
「あ、い、いえ、何でもありません。コレをどうぞ」
「ありがとうございます♪」
笑顔で受け取る楓さん。
「では、また後で」
踵を返し、脱衣所を後にしようとした。しかし―――
「あ、お待ちくださいっ」
背後で楓さんが俺を呼び止めた。
「どうしました?」
最後まで振り返らずに聞き返す。
「あの...使い方が分からないモノがあるのですが、教えて頂いてもよろしいでしょうか?」
確かに、特注の浴室故に分かりにくいモノもある。...仕方ない。これは仕方ないのだ。
「わかりました。お教えしますので、その...」
「え?...あ、す、すみません...お見苦しいモノを...」
裸体が丸見えである事に気が付いたらしい。
「お見苦しいだなんてとんでもない。むしろ神々しいです」
「え?神々し―――ええっ!?」
「あっ」
無意識のうちに返答していた。
「...すみません」
「あ...いえ、その...だ、大丈夫です!あなたも神々しいですっ」
謎のフォローを受けた。
「そんな事はないですよ」
「そんな事無くありませんっ!今でも鮮明に思い出せますっ」
衝撃的な告白をされてしまった。
「あ、ありがとうございます」
「ぁ...うぅ...」
ほんのりと上気していた頬を更に赤くしている楓さん。
そんな彼女がバスタオルを身体に巻き付けた後で浴室に振り向いた。
「ところで、使い方がわからないというと?」
「はい、コレなのですが...」
楓さんの白い肌と深い谷間に視線が吸い寄せられるのを何とか振り払い、彼女の指さした先に視線を向けた。
「...あっ」
「これ...プール...じゃないですよね。ベッド...でしょうか?」
壁に立てかけているグレーの物体は...空気をいれて膨らますタイプのナニカであった。
所謂、ソープランドにおいてあるような"アレ"だ。
「これは...えっと...」
しまった...先日、茜とのプレイで使用したエアマットだ。茜のマットプレイに興奮して片づけが疎かになっていた。
最低限の清掃はしてあるのだが...エアマットは清掃だけ済ませて仕舞い忘れていた。
「あなた?」
エメラルドグリーンの無垢な瞳が真っすぐに向けられている。
...どうやら、彼女は本当にエアマットの用途が分からないらしい。
「遊具ですね」
「遊具...ですか?でも、一体どうやって...あ、わかりましたっ」
パンッと両手を合わせる楓さん。
...分かった?一体何が分かったのだろうか?分かって欲しくはないのだけれど。
「コレ、プールとか海で使うんですよね?」
「あー...」
確かに、見た目にはそのようにも見える。
「あれ?違いました?」
「そうですね」
俺は...誤魔化した。
「あなたったら、こんなに広いお風呂でもさすがに使えませんよ?ふふふっ...でも、楽しみだったんですね?」
どうやら、ワクワクして家で浮き輪を膨らませる子供の類だと思われたらしい。
「はい。とても楽しみました」
茜と。
「えっ?」
しまった。
「あ、いえ、仰る通りです。試しに膨らませていました」
「ふふふっ...意外と子供っぽいんですね、あなたって...♡」
ふわりと微笑む楓さん。
「今度、一緒にプールに行きましょうね?」
「ええ。是非とも」
...俺は、胸が痛かった。無垢な乙女を穢すまいと嘘を吐いてしまったのだから。
「...では、失礼しますね」
「はい、また後で...♡」
何か愛しいモノを見るよな目で見つめられてしまった...