優柔不断は切り捨てろ:周りの美少女は全員他人のモノ 作:エルサイズ
――――――――――――――主人公視点
「!?」
けたたましくなり始めるスマートフォン。それは俺のモノではない。
「...!!」
着信音が鳴り続けているのは、先ほどまで沈黙していた楓さんのスマートフォンだ。
楓さんの身体は強張り、先ほどまでほんのりと赤くなっていた肌は血の気が引いて真っ青になっている。
「楓さん、大丈夫です。ここは安全です」
彼女の震える身体を両腕で抱き締めた。
「...!」
強張っていた身体から力が抜けて、楓さんは青白い顔のままこちらを見上げた。
「あなたの事は...俺が守ります」
「ぁ...ありがとう、ございます...」
絞り出すような声だった。
...その間も、電話は鳴り続けている。
「...」
相手は...非通知だ。
そして、数回コールした後に電話は鳴り止んだ。
「今まで応答したことは有りますか?」
「な、何度か応答しました。でも、何もお話しされないので、直ぐに切りました」
典型的な無言電話か。ストーカーの心理という奴は本当に理解できない。
「なるほど...今のように深夜に着信がある事は?」
「いえ...こんな遅くに掛かってきた事は無いです。遅くとも22時くらいでした」
これをストーカー行為のエスカレートと捉えるか、もしくは帰宅していない事を確認して深夜に電話を掛けていると捉えるか...恐らく、その両方なのだろう。
「...楓さん。スマートフォンはリビングに置いて、とりあえず今夜は休みましょう」
「は、はい...」
もう遅い時間だ。これ以上は明日の業務に差し支える。
「では、行きましょうか」
楓さんの細い腰を抱いて、寝室へと促す。
「っ...」
彼女は俺のパジャマの裾をぎゅっと握り続けている。
「...」
...情緒が不安定だ。元々天然っぽいところは有れど、楓さんは基本的には大人の女性だ。
喜怒哀楽が分かりやすく、何とも可愛らしい人柄ではあるが、感情の起伏が思春期の女の子のように激しいという事は無い。
しかし、今日の彼女は様子が変だ。一喜一憂する際の感情の振れ幅が大きすぎる。やはり、強い不安や恐怖が影響を及ぼしているのだろう。
「この部屋をお使いください」
いつも使用しているベッドルームに案内した。
...華織さんとの情事の跡は残っていないハズだ。
「ぁ...あ、ありがとうございます」
楓さんの身体を支えながら、ベッドに座らせた。
「朝は俺が起こしますので、楓さんはゆっくりお休みください」
俺は隣の部屋に置いてある簡易ベッドで寝ることにしよう。...寝心地はイマイチなので今夜は熟睡できないかもしれない。しかし、楓さんの異変に気が付く為には丁度良い。
「お気遣い、ありがとうございます」
丁寧に礼を言う楓さん。動揺していても所作の一つ一つに気品を感じる。
「では、私は隣の部屋で休みますので。何かありましたら―――」
お知らせください―――と、言いかけた。
「っ...!」
「か、楓さん!?」
楓さんは両手を伸ばし、俺の腕に抱き着いた。
「お、お待ちください...っ」
必死な様子だ。
「いかがなさいました?」
極力動揺を見せないように努力する。
...Fカップの感触に動揺してなんかいない。
「あの...まだ、怖いんです」
それはそうだろう。あの怯え方を見てもそれは良く分かる。
「ええ。ですから、私は隣の部屋で―――」
「い、一緒に...寝てくださいっ...!」
顔を真っ赤にしながら、楓さんは大胆な事を言い始めた。
「一緒に...ですか」
「はい、一緒に。...いや、ですか?」
まるで捨てられた子犬のように瞳を潤ませる楓さん。
...本当に怖いのだろう。
「それに...その...最近、よく眠れないんです」
不安なのだろう。
「でも...あなたが隣に居てくれたら...安心できると思うんです」
「俺は...そんなに頼りになりませんよ」
...寧ろ不安要素になりかねない。
「でも...ぁ...そう、ですよね...」
見るからに気落ちした様子の楓さん。
パジャマの裾を握る腕もだらりと垂れ下がる。
「っ...」
もの凄い罪悪感だ。...俺は一体何を悩んでいるのだろうか。俺が我慢すれば良いだけの話では無いか。
「...では、おやすみなさい...あなた」
とぼとぼと寝室へと足を運ぶ楓さん。
俺は―――
「ま、待ってくださいっ」
―――彼女の腕を取った。
「っ...!」
勢いよく振り返る楓さん。
エメラルドグリーンの瞳には再び光が灯っている。
「その...今夜は冷えそうです。だから、一緒に、寝ませんか?」
何とも言い訳がましいモノ言いだ。
「ぁ...はい。是非とも、よろしくお願いいたします...♡」
頬をほんのりと染めながら微笑む楓さん。
...これで良い。これで良いはずだ。
―――――――――――――――――
「では、電気を消しますね」
サイドテーブルの引き出しを開けてリモコンを取り出した。
「はい。お願いしま―――っ!?」
俺の手元を見て固まる楓さん。
「楓さん?」
そんな彼女の不思議ムーヴの理由を尋ねたいところだ。
「ぁ...い、いえ...その...っ...わ、私は...か、覚悟を決めて来ました...っ...ので...っ」
顔を真っ赤にして動揺している楓さん。
「覚悟?...あっ」
しまった...サイドテーブルの引き出しの中身を失念していた。
「あ、いえ、これは...ですね...」
「...?」
リモコンと一緒に引き出しの中に押し込まれていたモノは...LLサイズのコンドーム2箱と、ピンクの振動するオモチャが3つと、伸縮性のテーピングが1巻だ。電動マッサージ機は別の引き出しに入れられている。
使い方としては、乳首とクリトリスの3か所にローターをテーピングで固定して、電マを下腹部にぐりぐりと押し当てながら反応を楽しんだ次第だ。華織さんでさえも激しく乱れていたので、茜は
「っ...」
さて、何と言ったものか。
妹の後輩の母親と濃密なプレイを楽しみました...と言うべきか、教え子を学校帰りに連れ込んでめちゃくちゃにしました...と言うべきか。
そのうち全てバレるとは思うのだが、それを話すのは今ではない気がする。
「...今夜は、やめておきましょう」
「ぁ...そ、そう...ですか」
何故かひどく残念そうな様子だ。
...え?シたかったの?マジで?
「...」
今からでも組み伏せてパジャマを剥ぎ取るべきだろうか。
無垢な天使をめくるめく快楽の世界へと堕落させるべきだろうか...!
...一体何を考えているんだ、俺は。
「とりあえず、今日は寝ましょう」
脳内と股間に集まり始めた邪念を霧散させ、何とか言葉を絞り出した。
「そうですね。明日もお仕事ですから。でも―――」
俺がベッドに入ると、楓さんは身を寄せて来た。
「か、楓さん?」
遮光カーテンで光を絶たれた暗い寝室の中、彼女の甘い香りが近づいている事だけが分かる。
「これくらいは...許してください...♡」
俺の右手を柔らかい感触が包み込んだ。
「えへへ...♡」
暗闇に目が慣れてくると、ふにゃりと緩んだ笑顔が見えた。
実に幸せそうな顔で俺の手を握る楓さん。
「...」
...少しくらい、触れても許されるはずだ。
「えへへ...わひゃっ!?」
彼女が珍妙な鳴き声を上げた理由とは―――
「今夜は...少し冷えますので」
―――俺は、楓さんを思い切り抱きしめたのだ。
「あ、せ、せんせ...じゃなくて...あ、あなた...っ...!?」
たとえ暗闇の中でも、この距離なら彼女が顔を赤くしている事は分かる。
「どうしました?」
柔らかい。そして暖かい。
抱き締めているだけで心が満たされていく。
「ど、どうしたって...うぅ...」
恥ずかしさが限界に達したのか、楓さんは俺の胸板に顔を埋めてしまった。
「よしよし」
ひとつにまとめられたプラチナブロンドの髪の上から頭を撫でる。
「ぁ...」
吐息を漏らす楓さん。段々と身体の力も抜けて来た。
「今夜は私が一緒です。だから、安心してお休みください」
「ふふふっ...ありがとうございます。でも、ちょっとびっくりしちゃいましたよ?」
ほんのりと抗議の色が乗る声。膨れている頬が想像できる。
「...寧ろこれくらいで済んで安心しました」
本音を言えば、このまま組み伏せてめちゃくちゃにしたい。
「...本当は...シたいんですか?」
はい是非とも―――とは言えない。
「...今夜は寝ましょう」
「...むぅ」
どうして不満そうなんですか...
「楓さん?」
「...なんでもないです」
明らかになんでもある言い方だ。そして、楓さんはスリスリと身体の向きを変えて俺に背を向けてしまった。
「楓さん...」
さて...困った。夕華も拗ねて似たような態度をとる事があるのだが、あの子の場合は抱きしめて頭を撫でると大抵機嫌が良くなる。最近はキスやセックスもせがむけれど。
しかし、楓さんにこれ以上触れるワケにはいかない。
「...私が寝るまでぎゅっとしてくれるなら許してあげます」
何とも可愛らしい条件だ。
「...分かりました」
俺は彼女のお腹に両手を回し、優しく抱きしめた。
「ぁ...えへへ...♡」
その声色だけで緩んだ笑顔を浮かべている事が分かる。
「これで許していただけますか?」
「ふふふっ...特別に許してあげます...♡」
上機嫌な声を聞いて気が抜けていたのかもしれない。
「本当は...」
つい、言葉を漏らしてしまう。
「...本当は...?」
何かを期待している眼差しで俺を見上げる楓さん。
「...今すぐ、貴女の身体に触りたいです。もちろん、"そういう"意味で」
「っ...!」
暗闇の中でも彼女が顔を赤らめている事が分かる。
「では、おやすみなさい」
「お、おやすみなさい...うぅ...」
ぐりぐりと俺の腕に顔を埋めながら目を瞑る楓さん。さて、俺も寝ることにしよう。
....ちなみに、言うまでもないが中々寝付くことが出来なかった。
――――――――――――――――
「では、今日も帰りは私がお送りしますので」
「はい。ありがとうございます」
学校の職員駐車場。まだまだ早い時間帯なので、他に出勤している先生は少ない。
「えへへ...♡」
並んで教室へと向かう途中、不意に楓さんが笑みをこぼした。
「楓さん?」
実にご機嫌な様子だ。
「ぁ...も、申し訳ございません。こんな状況なのに...」
「あ、いえ、それは大丈夫ですよ」
...やはり、喜怒哀楽の振れ幅が大きい。
通勤途中の車の中では、何度も不安そうに窓の外を見ていたのだが、学校の敷地の中に入ると一気に機嫌が良くなった。
「でも...えへへ...♡その...一緒にお仕事に行くのが...その...同棲しているみたいで、ちょっと嬉しくて...♡」
ほんのりと頬を赤らめながらはにかむ様は...愛らしくも有り、実に破壊力も有る。
俺はこの笑顔を独り占めしているから良いモノも、彼女に思いを寄せる男子生徒がこの様子を見ると...青い衝動に脳が破壊されて性癖が捻じ曲がってしまうのではないだろうか。
「...でも、学校ではお預けですよね?」
愛らしい笑顔を浮かべていたのかと思いきや、今度は切ない表情で俺を見つめていた。
「ええ。放課後まで我慢です」
「はい...」
わかりやすくしょげる楓さん。その様子は実に愛らしい。
「では、行きましょうか」
「は、はいっ」
そして、気合を入れる楓さん。ほんのりと頬は赤いけれど、その表情はいつもの凛とした"先生"の表情だった。