優柔不断は切り捨てろ:周りの美少女は全員他人のモノ 作:エルサイズ
――――――――――――――主人公視点
桜も散り、新1年生も学校に慣れてきた頃。
2年生は修学旅行が近づいてきた事も有り、やや浮足立っている様子だ。
そして、俺はこの学校で社会科の教員をしている。2年生と1年生の社会科を担当しており、専門は地理だ。
「先生さようなら~」
「気を付けて帰れよ~」
ホームルームも終わり、それぞれ部活に行く者や帰宅する者に分かれて散っていく。
「あ、お兄ちゃん!ちょっと教えてよ~」
そんな中、可愛らしいソプラノボイスが俺を呼び止めた。
「夕華、先生にため口聞いたらダメだよ」
隣に居た男子生徒が諫める。まあ、別に気にしていないから良いんだけどな。その呼び名の通り妹の様な存在だから。
「まあいいさ。何処を教えて欲しいんだ?」
そんな彼女の名前は
陸上部所属の女の子で、県内でもそこそこ上位に入る実力の持ち主だ。
ちなみに、彼女が出場する大会は、毎度毎度大勢の人が見物に来るらしい。しかし、それは走りを見に来ているだけではない。
見物人の目的は―――彼女の美しい容姿だ。
ぱっちりとした胡桃色の瞳に、透き通るような白い肌。
スラリと伸びた両脚は、細すぎず太過ぎない男好きするむっちりとした脚線美を描く。
そして、極めつけは同級生より明らかに発育が良い推定Gカップの胸元だ。本人も普段からよく見られると話していた。
故に、誰もが美少女として認める彼女を一目見ようと観客が訪れるのだ。噂ではアイドルのスカウトが何人も見に来るとか。
そして、もう一人の少年は、夕華の幼馴染の
これと言って特徴は無い生徒だが、真面目で成績も良く、比較的整った容姿と穏やかな性格で好かれている生徒だ。
...実は、2人とも近所に住んでる旧知の仲だ。
マンションの最上階にある3部屋のうち、角が俺の部屋で、隣が夕華の部屋、その隣が斉川家の部屋と続く。
また、このマンションはもともと俺の両親が所有していたものであり、両親が亡くなった際に俺が相続したのだ。
「ありがと、お兄ちゃん♪それで、ここなんだけど―――」
―――と、言いながら、国語の小テストを俺に見せてくる夕華。
「...国語じゃないか」
「うん。でもお兄ちゃんなら分かるでしょ?」
「今更だけど学校では先生って言いなさい」
夕華は家が隣なので俺をお兄ちゃんと呼んで慕ってくれる。
...それは素直に嬉しいのだが、まあ...他の先生や男子生徒の視線が痛い。それに、分別を付けることが出来るようにならないと彼女の情操教育に悪い。
まあ、既に何度も呼ばれているので今更してきたところで仕方ないか。
「はーい」
「それで?何処を聞きたい?」
「えっとね...この問題の解説がよく分からなかったの」
これは...確かに解釈が難しい問題だな。
「ここか...確かにちょっと難問だな。圭介も分からなかったのか?」
「そうですね...だから夕華に教えてあげれなくて...」
悔しそうな様子の圭介。
夕華の役に立てなかったという思いと、良いところを見せることが出来ず、悔しさを見せている。
...何となく、圭介が夕華に好意を寄せている事は分かる。だから余計に悔しいのだろう。
「ほら、2人とも教えてやるから座れ。けれど...夕華、部活は良いのか?」
陸上部の顧問は厳しいことで有名な体育教師だ。練習に遅れるのはマズいのではないだろうか。
「あー...うん。大丈夫...だと、思う」
少し影がある表情が気になるのだが、今は聞き出せない。...家で聞くか。
「じゃあ説明するぞ?ここの解釈は.....」
2人きりの生徒。しかも課目外。それでも、俺を頼りにしてくれるのは嬉しい。
―――――――――
「...こんな感じだな。分かったか?」
「おー...さすがお兄ちゃん。凄く理解できたよ」
「はい。聞いて良かったです」
俺が丁寧に説明すると、2人とも理解できたようだ。
「それなら良かったよ」
「ふふっ♪」
楽しそうに笑う夕華を愛らしい笑顔を見ると安心する。
それは何故かというと...実は、夕華は結構な苦労人なのだ。
夕華の両親は...2人とも事故で亡くなっている。なので、彼女は隣の部屋で一人暮らしだ。
一応、夕華の親戚が引き取ることも検討されたのだが、近所に彼女を引き取ることができる親戚がおらず、夕華の両親と仲が良かった俺の両親が未成年後見人となった次第だ。
...しかし、俺の両親も亡くなってしまった。だから今は俺が夕華の後見人であり、保護者なのだ。
「...」
両親を一気に無くした夕華は...本当に気の毒だった。
深夜、火が付いたように泣き叫ぶことが何度も有り、その度に落ち着くまでは俺や両親がそばにいて慰めていた。
「...え?お兄ちゃん?どうしたの?」
突然頭を撫でられた夕華は、不思議そうに首をかしげていた。
「...何でもないよ。もう結構遅いけど、部活は行かなくていいのか?」
何となく、昔のように頭を撫でたくなった。
「うん。...今日は休むって言ってるから大丈夫」
「そうか...じゃあ2人とももう帰るのか?」
「そうですね。一緒に帰ります」
分別が付いている...と言えば良いのだろうが、圭介はちょっと控えめ過ぎる。旧知の仲なの、もう少しフレンドリーにして欲しいところだ。
「わかった。じゃあ寄り道せずに帰るんだぞ。圭介、夕華を頼むよ」
「...なんで私だけ子供扱いなの?」
夕華が頬を膨らませてこちらを睨んでいる...可愛いな、相変わらず。
「そりゃあ...お前が心配だからな」
「そう、なんだ」
何故か少し嬉しそうな様子だ。
「...知らない人に着いていきそうだからな。お菓子とかに釣られて」
まあ、そこまでアホではないとは思う。
「...ちょっとドキドキして損したかも」
夕華の頬は膨らんだままだった。
「じゃあ2人とも気を付けて帰れよ」
「...うん」
「はい。さようなら」
2人を教室に残して職員室に戻る。
...一応、不定期活動のアウトドア同好会の顧問ではあるが、特に忙しくはないので助かっている。
――――――――――――
「よし...こんなもんか」
時刻は19時前。いつもの時間だ。
パソコンの電源を落としてカバンを持った。
「お疲れ様です。お先です」
「おう、お疲れ様」
陸上部顧問の体育教師だ。
部活に熱心なのか、部活の後も度々姿を見かける。
「仕事熱心だよなぁ...」
そんな事を思いながら職員出口から駐車場へ向かう。
職員駐車場に並んでいるのは、パールホワイトの大型サル―ンだ。3500ccハイブリッドのレクサスGS450hが俺の車だ。...中古だけどね。
「ふぅ...」
カバンを適当に放り込んみ、エンジンを始動して帰路に就く。
既に日は落ちており、辺りは暗闇に支配されている。LEDヘッドライトが照らす、
「ん?」
そして、家に近づいた頃、徐行運転で駐車場を目指していた時のことだ。ちらりと視線を向けた近所の公園にて、見知った顔を見つけた。
「夕華と圭介?こんな時間に何やってんだ?」
圭介はともかく、夕華は何をしているんだ?
それを確かめるべく、車を駐車スペースに停めて公園に近寄る。
そして、二人に近寄ると、話し声が聞こえて来た。
「ごめんね...夕華。こんな時間に呼び出して」
「うん。どうしたの?」
何やら真面目な話題のようだ。圭介は見たこともないほどに真剣な表情を浮かべている。
それに...なんだか服装にも気を使っている、気がする。もう夕飯時だというのに、今からデートにでも行くかのような格好だ。
対して、夕華はラフな格好だ。短パンに白いTシャツの上からパーカーを羽織るという、いつもの部屋着だ。
...とはいえ、薄着故に夕華のスタイルの良さが目立つ。
「あの...さ。夕華と先生って、距離...近いよね」
「先生?...あ、お兄ちゃんの事?」
どうやら話題は俺のことのようだ。
「そう。だから...さ」
「うん」
「その...」
歯切れが悪いな...まあ、圭介の優柔不断は今に始まったことじゃないが。
「ご、ごめん...」
「大丈夫だよ。落ち着いて?」
夕華はそんな圭介に優しく声をかけた。
彼女の魅力はそのスタイルや可愛らしい顔だけではない。天真爛漫で心優しい性格こそが夕華の本当の魅力だ。あの子は多分、天使や女神の生まれ変わりなのだろう。
「あ...ありがとう。その...さ、あんなに先生にべったりするのは...よ、良くないと思う!!」
「え...?」
(...ん?)
珍しく声を張って伝えたのがそれか?
確かに、一般論からすると間違ではないし、夕華は別に分別が付いていないワケでは無い。
普段は適切な距離で親しくしており、自宅で過ごす際のようにに甘えるのは、ごく親しい人物の目の前に限る。
なので、他の教員や生徒がいる前では適切な態度で接している。...まあ、時々は甘えたいオーラを発している事もあるけれど。それに、家ではもっとベタベタに甘えて来る。学校の比ではない。
「圭介...?何言ってるの...?」
不安そうな夕華の表情。...ダメだな。夕華のそんな顔を見ると、俺まで落ち着かなくなる。
「ゆ、夕華は先生ともう少し距離を置くべき...だと思うよ」
「距離って...私、みんなの前ではちゃんとしてるつもりだよ?...無意識のうちに甘えてたのかなぁ...」
そんなことは無い。確かに、他の生徒に比べると距離は近いかもしれないが、常識的な範囲内だ。
「それは...っ...と、とにかく!今度からは...ぼ、僕が先生の代わりになるからっ!」
「え?」
「僕に甘えてよっ!!」
「えー...?」
夕華は理解が追い付かない様子だ。
...うーん。ひょっとして、これはアプローチなのだろうか。
夕華は別に頭が悪いワケではない。感情に素直に生きているだけで、地頭は良いのだ。
しかし、それはそれとして、圭介が何を伝えたいのかよく分からない。...いや、分からなくもないのだが、それを夕華に言う理由が分からない。
「圭介、ごめんね。ちょっと、どういう意味なのかわかんない...もう少し詳しく教えてくれない?」
「う...うん。僕が、その...夕華が分からない問題も教えるし、困ったことがあったら相談に乗るから...だ、だからっ、せ、先生にはあまり関わらないで欲しい!」
夕華に関わるな、か...。さすがにそれは傷つく。一体誰が今まで夕華の保護者をしていたと思っているんだ。
...そもそも、夕華の後見人は俺なのだから、関わるなというのは難しい話だ。
「...ごめんね。それは無理」
夕華の声色が少し変化した。
圭介は気づいていない様子だが、今の発言は明らかに夕華の機嫌を損ねた。
「ど、どうして...?」
「だって、私はずっとお兄ちゃんに守られて来たんだよ?お母さんとお父さんが死んじゃったときも、お兄ちゃんとおばさんとおじさん...ううん、二人目のお母さんとお父さんが助けてくれたんだよ?圭介も知ってるでしょ?」
ゆっくりと、はっきりと、大さじ半分より多めの怒りを載せて。
でも、俺の両親の事を父と母と呼んでくれて嬉しい。そういえば、生前も父の日と母の日に夕華から手紙を貰った時にも泣いてたな。
「そのあと、二人とも病気で亡くなったときだって、お兄ちゃんの方が悲しいはずなのに、泣きたいはずなのに...ずっと泣いている私を抱きしめてくれたんだよ?」
...それは覚えている。確かに悲しかったが、俺はもう成人していたし、再び親を失ったようなものである夕華の悲しみを想像すると...それどころではなかった。
「それを関わるなっていうの?圭介もお兄ちゃんの事知ってるでしょ?優しくて、頼りになって、かっこいいお兄ちゃんの事...意外と不器用だけど」
そう言われると照れるな...
「それは...」
「ごめんね。圭介。お兄ちゃんと距離を取れっていうなら...圭介との付き合いを考えることになると思う」
「そんな...!」
「...圭介。私は圭介とは良い“お友達”で居たいから。私の言ったことの意味...よく考えてみて」
そう言い残して夕華は公園を後にした。
残ったのは呆然と立ち尽くしている圭介の姿だった。
「なんだよ...夕華のやつ...わからずやだなぁ...」
「え?」
思わず声が出てしまった。
え?夕華の言葉の意味が分かってなかったのか?
...まあ良いか。圭介にもそのうち理解できるだろ。
俺はきょろきょろとあたりを見渡す圭介から隠れながら部屋に戻るのであった。