優柔不断は切り捨てろ:周りの美少女は全員他人のモノ 作:エルサイズ
――――――――――――――茜視点
「茜、行くぞ」
彼は私の手を握って教官室から連れ出してくれた。
学校の敷地の奥。裏には山しかないのでこの教官室に出入りする姿は誰にも見られない。
先生が来たのは本当に偶然だったのだろう。
「せ、先生...」
「もう少し、こっちだ」
更に体育館の奥の方。本当に何処からも見えない所に連れ込まれてしまった。
...普通に考えれば、他者の死角で教室から遠い場所に自分より身体の大きい男性に引き込まれるという恐ろしい状況だ。でも、先生と一緒だと凄く安心する。
「茜、大丈夫だったか?何もされていないか?」
「ええ。それに...もう関係を断ちたいって言ってやったわ」
...それなりの金銭を貰っておきながら本当に勝手な女だと思う。
「そうだったのか...よく頑張ったな。怖かっただろ?」
怖くなんて無い。そう思っていたのは私の表層意識だけだった。
彼が握ってくれたから手が震えていることに気が付いた。
彼が拭ってくれたから涙を流していることに気が付いた。
「ぁ...」
ぎゅっと彼に抱かれた。アイロンをかけられたYシャツには彼の香りと...少しだけ夕華の甘い香りが残っていた。
「茜...体育の先生は任せろ。今すぐ...には解決は難しいかもしれない。でも、茜をはじめとする他の女子生徒には一切手出しをさせない」
あんな男、今すぐにでも...などと身勝手なことを思ったものの、さすがに継父のようなロクデナシとは違って立場と信頼のある人間なので簡単には動きを封じることが出来ないのだろう。
しかし、親友の顔を思い出すと一つの事実に行きついた。あの男は陸上部の顧問だ。今、全てを露見させると夕華をはじめとする陸上部の大会に影響が出かねない。
そうなると、事実を隠して密かに処分するのだろうか?
「じゃあ...隠ぺい...するの?」
「まさか。もう教頭には証拠と一緒に話をつけてあるよ。女子生徒は公表せずに個々でカウンセリングを行うことを条件に。そして...時期が来ればあの体育教師には然るべき処分を受けてもらう」
では、なぜ早急の解決が難しいのだろうか。彼はその件についても説明してくれた。
「早々に解決できない理由としては...まあ手続き上の諸々の理由はあるけど、極力陸上部の活動に影響が出ないように配慮した結果だな。それと...うーん...」
先生は次の言葉を口にするかどうか悩んでいるようだ。
「先生...?」
「茜、今まで受け取ったお金がいくらになるか計算しているか?」
「ええ。生活費の一部だったから帳簿に残しているわ。通帳にも出入金の記録が残ってると思う」
「そうか...後で見せてくれるか?」
「...ええ」
何となく、先生が何をしたいのか理解できた。しかし、私にはあの体育教師に返せるようなお金は無い。
「よし。じゃあこの話は家に帰ってからまたしよう。もう昼休みも終わる。そろそろ教室に戻ろうか」
「あ...ま、待って」
まだ...彼に言わないといけないことがある。
「どうした?」
「その...斉川君のこと...なんだけど」
「圭介?なにかあったのか?」
「実は...斉川君と...付き合ってる...ことになってるの」
「...そうか」
驚いてはいるのだろうけど、さすがは大人の男性といったところかしら。
「ごめんなさい...だから...」
「その...悪いことしたな。恋人がいるのに君にあんなことを...」
「あ...恋人というか...」
恋人...斉川君は恋人なのかしら?
...よくわからない。
「違うのか?まだプラトニックな関係みたいな」
「あ...ううん。その...一緒にホテルに行ったことはある...けど」
キスは先生と茜としかしたことないし、ホテルも私が無理やり連れ込んだし...初デートは散々な終わり方だった。それに...思えば、あの時は先生の好みの下着が買えたことで舞い上がっていた気がする。
「ああ...そういえばキスは俺が初めてって言ってたな」
「...ええ」
でも...これ以上夕華から先生との時間を奪うのは...
「茜はどうしたい?」
私の心を見透かすように先生は尋ねてきた。
「私は...」
わからない。でも...
「斉川君と...付き合ってみる」
これでいい。これで...いいはずだ。
「そうか...」
「ごめんなさ...ひゃっ!?」
非礼を詫びようとしたところ、抱き寄せられてしまった。
そして、耳元で優しく...甘い声で囁かれた。
「...いつまで我慢できるかな?」
...夕華と同じ言葉を。
私は...太ももに滴る熱い感触を感じながら、判断力が低下する快楽に沈んでいった。
「あ...お兄ちゃんったらこんなとこにいたんだぁ...♡」
ああ...そんな...
...♡
―――――――――――――圭介視点
「遅いなぁ...」
放課後、登校口で一瀬さんを待っていた。
昨日のデートが上手くいかなかったので今日はリベンジだ。
しかし、放課後の登校口で待ち合わせのはずが、なかなか一瀬さんが来ない。
その時、パタパタと駆けてくる足音が聞こえた。
「はぁ...はぁ...ご、ごめんなさいっ!」
一瀬さんが慌てた様子でやってきた。
「だ、大丈夫だけど...どうしたの?顔真っ赤だよ?」
「あ...こ、これは...その...ちょっと急いで来たから...」
更に顔を赤くして言葉に詰まる。余程慌てて来たのだろう。
スカートから伸びる白い素足がほんの少し赤くなるほどだ。
「でもそんなに慌てたら危ないよ?」
「そうね...ごめんなさい。心配してくれてありがとう」
「いえいえ」
彼女と話していると、今度はお兄さんと夕華が歩いてきた。
「あ...先生、夕華...」
「ん?今から遊びにでも行くのか?」
「はい」
放課後に寄り道なので先生であるお兄さんに堂々と宣言するのは少しだけ気が引けた。
「そうか...まあ、あまり遅くならないようにするんだぞ」
「2人とも気を付けてね?」
夕華も笑顔で送り出してくれるようだ。
一瀬さんを見ると...
「...っ...!」
何故か真っ赤になってうつむいていた。
...ひょっとして恥ずかしいのだろうか?案外初心なところが可愛いなぁ...
「ふふふっ...じゃあまた...“後で”ね?」
「...家で待ってるぞ」
そう言い残すと、先生は一瀬さんの頭を撫でて、夕華は身体を撫でて去っていった。
「はぁ...はぁ...ね、ねえ、私たちも行きましょう?」
一瀬さんの言葉で我に返った。
「そうだね。じゃあ行こうか」
彼女と肩を並べてバス停まで向かう。しかし、一瀬さんの足取りは何だか不安定でフラフラしていた。
「大丈夫?」
「...ええ。直ぐに治まると思うわ」
治まる...?何かの発作なのだろうか?
「そうなんだ...?」
少しだけ疑問が残るものの、バスが近づいてきていることに気が付いたのでそれ以上は聞かなかった。
「今日は何処に行こうか?」
「そ、そうね...」
バスに揺られながら隣に座る彼女に声をかけた。
いざデートに誘ったものの何も考えていなかったのだ。
まあ...行きたいところはあるんだけど、さすがにいきなり行こうっていうと引かれると思う。
それに...先ほどから一瀬さんの様子がおかしい。しきりに太ももをこすり合わせている。
あ...ひょっとして...
「一瀬さん、ひょっとしてトイレ?」
「え?...大丈夫...だけど...」
一瞬だけ驚いたようにこちらを見た一瀬さん。
すると、小声で僕に話しかけてきた。
「あのね...今後の為に言うけど、女の子にトイレがどうのって大声で聞いちゃダメよ。しかもこんな人前で」
そんなものなのだろうか?
「うん。わかったよ」
「...わかってくれたのならいいわよ」
だとしたら彼女はどうしたというのだろうか?
そう考えているうちに目的地の駅前ロータリーに到着した。
「まずは服でも見に行く?」
「そうね...あ、私の服はいいから斉川君の服を見に行かない?」
僕の服?...そういえば最近新しく買ってなかったなぁ...
「そうだね。じゃあ、あっちの方に行こうか」
駅前のショッピングセンターの中にある比較的安い服が置いてあるお店だ。
ロータリーからもほど近い距離にある。
少し歩いてガラスの引き戸を引いて先に店内に入った。
「へぇ...ここのお店って入ったこと無かったけど...こんな感じなのね」
「そうなんだ?」
この店は若者向けの服が多く、同級生も利用していることが多い。
...放課後にデートしている姿を見られたいという打算的な考えも無いわけではなかった。
「私は古着ばかり買ってたから...」
「ヴィンテージってやつ?」
「そんな上等なものじゃないわよ。...あまり裕福じゃないから中古の服をそれっぽく見せているのよ。ほら、夕華ってオシャレでしょ?」
確かにそうだ。夕華はスタイルも抜群なので本人の可愛らしい性格のわりには大人びた清楚な服が多い。何処で買っているのかは知らないけど、見るからに安物ではない気がする。
「あー...確かに。夕華ってどこで買い物してるんだろうね?」
「でしょ?うーん...そういえばどこで買っているのかって聞いたことないわね...」
多分、お兄さんと一緒に買いに言っているのだろう。
...その様子を想像すると少しだけ胸が痛んだ。
「あ、ねえ。この服なんてどう?」
「似合いそう?」
「そうね。この色と...この色のどちらかが似合うと思うわ」
こうして、僕たちはショッピングを楽しんだのだった...
生憎、同級生とはすれ違わなかった。
「結構買っちゃったなぁ...」
「久しぶりに買ったんでしょ?それなら大丈夫よ」
紙袋には上下1セットとシャツが入っている。今度のデートで着て行こう。
「この後はどうするの?」
「あ...そのことなんだけど...」
そろそろお願いしても良いんじゃないだろうか。
「うん?」
「その...ご、ごはんにでも行こっか!」
「あ、お腹空いた?...そうね。じゃあ行きましょうか」
言えなかった...
僕は少し気落ちしてロータリーの中にあるファミレスへと歩みを進めた。
自動ドアをくぐると、夕飯時と言うこともあって店内はそれなりに賑わっていた。
「なんとか座れたね」
「そうね...」
何となく、彼女は落ち着かない様子だ。
「大丈夫?」
「え...?あ...ふふっ、ごめんなさい。ファミレスなんてあまり来たことなかったから。ちょっと落ち着かなくて」
珍しいな...今時ファミレスにあまり来た事ないなんて。
「そうなんだ?」
「ええ。そもそも外食をあまりしないわね。あ、料理はそれなりに出来るのよ?...ほら、あまり裕福じゃないから。ちゃんと料理しないと食費が厳しいのよ」
「あ...ごめん。連れてきちゃって大丈夫だった?」
「大丈夫よ。一食くらい何とかなるわ」
彼女の割と派手めなイメージと、その家庭的で逞しい言葉のギャップがあって少し面白かった。
「それならよかったよ」
それから、彼女はうんうんと唸りながらメニューを選び、最終的にはお手頃価格の和食セットを注文していた。
そして間もなく料理が到着した。
僕はハンバーグセットだ。
「結構多いわね...」
目の前に置かれたプレートの上の食事を見て彼女は呟いた。
「そう?」
確かに、あの和食セットは値段の割に量が多い。小柄な一瀬さんは食も細いのかもしれない。
「ええ。でも、美味しそう。いただきます」
きちんと手を合わせて食べ始める一瀬さん。
「ん。美味しい」
先に手を付けていたので僕はそのまま食べ進めた。
ナイフとフォークが無かったので2人ともお箸で食べている。
「ん...美味しいけど...ちょっと塩気が濃いわね...」
「そう?」
確かに家で食べる食事に比べると味は濃い気がする。まあ、どっちも好きだけどね。
「あ...その、斉川君...」
「ん?」
「その...お箸の持ち方なんだけど...」
「ああこれ?上手く持てないんだよね」
前から何度か指摘はされていたけど、なかなか上手くいかないのだ。
「そう...努力はしているのね」
対して一瀬さんは綺麗に食べていた。
「うーん...まあ、そうだね」
実のところ最近はあまり言われなくなったので気にしていなかった。
「そういうのは案外見られているから大事よ」
「...気を付けるよ」
何だか母さんに言われているみたいだ...
そして、食事を終えたので会計を済ませて先に外で待っていた。
「...今月は節約ね...」
小声で何か呟きながら一瀬さんが出てきた。
「一瀬さん、この後行きたいところとかある?」
「そうね...もう特に無いわね」
「じゃあ...ちょっと行きたいところがあるんだけど...良いかな?」
「え?今から?」
「うん。その...」
よし。言おう。
「ホテル...行かない?」