優柔不断は切り捨てろ:周りの美少女は全員他人のモノ 作:エルサイズ
――――――――――――――主人公視点
「ただいま~」
ソプラノボイスの可愛らしい声が玄関から聞こえる。
お腹を空かせた部活帰りの高校生。そんな彼女が帰って来たのだ。
「おかえり」
「おかえりなさい、夕華」
「ただいま~...って2人とも何してるの...?」
ジトっとした目線で呆れたように俺たちを見る夕華。
「何って...夕飯の準備よ?あ、もうすぐ出来るから」
「いや...それは何となくわかるけど...お兄ちゃん、なんで茜を後ろから抱きしめたままなの?というか茜もなんでそんなに嬉しそうなの...?」
「いやほら...茜って抱き心地良いだろ?」
「まあ...それは分かるけど...」
そう。俺はカレーを作っている茜の身体を後ろから抱擁したまま夕華を迎え入れたのだ。
「わかるけど...お兄ちゃんばっかりズルい~私にも変わってよ~」
...そっちだったのか。
まるでお気に入りのおもちゃを取られたかのように駄々をこねる夕華。
「良いだろう?俺のだぞ?」
「違うってば。私の!」
「だから私は貴方たちの玩具じゃないわよ...夕華、お風呂沸かしてるから早く入ってきなさい。先生もいつまでも抱き着いてないでお皿並べて」
まるで母親のようにてきぱきと指示をする茜。
「はーい!」
「ああ」
そんな母性的な彼女の言う事だからかもしれない。駄々っ子モードの夕華も、茜をしばらく手放す気が無かった俺も、彼女の指示ですぐに行動に移った。
夕華は着替えを持って風呂に向かい、俺も食卓の準備にかかったのだった。
食卓を拭いてお皿を並べ、冷えても良いサラダ類を先に並べる。
そして夕華が風呂からあがって来るタイミングで、茜がカレーを盛り付けていた。
「おお...!」
「わぁ...美味しそう...!」
豚肉を使ったカレーは、見た目にも食欲をそそるモノだった。
「夕華、髪くらい乾かしなさい。風邪ひくわよ」
「えー」
「えーじゃないわよ。ほら、こっちに来なさい」
ズルズルとソファに引きずられる夕華。茜は洗面台からドライヤーを持ってくると、タオルで拭きながら夕華のロングヘアを乾かし始めた。
「ふふっ...ありがとう、茜♪」
「もう...」
なんでそんなところで髪を乾かしているのだろうと思ったのだが、普通に考えて長身の夕華が立ったままでは小柄な茜では体勢的に難しいのだろう。
....とはいえ、その姿は仲睦まじい姉妹のようで微笑ましかった。
「これでどう?」
「うん!えへへ...ありがとう、茜」
「いえいえ。先生も待たせてるんだから早く食べるわよ」
「はーい」
そして、俺と茜が隣同士で、向かい側に夕華が腰掛けた。
「じゃあ...いただきます」
「「いただきます」」
茜の声で食事を開始した。
早速、茜謹製のポークカレーをスプーンで掬って口にに運ぶ。
「ん!!」
「え...こ、これ...!!」
「えっ...?ひょっとして...美味しくなかった...?」
俺と夕華が言葉を失っていると、茜はその様子を不安げに見つめていた。
「いや、その真逆だよ!めちゃくちゃ美味しい!」
興奮気味に語る夕華。
本当に美味しい...作っている所を見ていたのに、この味には驚いた。
「本当に美味しいよ。作っている手つきも見てたけど、茜は料理上手なんだな...」
「そ、そんなことないわよ...」
少し頬を染めている茜。あまりにもはしゃぐ俺と夕華の様子に圧倒されつつ、口元は嬉しそうに笑っていた。
そして、パクパクと夢中でカレーとパスタサラダを口に運ぶ俺と夕華の様子を、茜はニコニコと眺めていたのだった。
「ふぅ...ご馳走様でした」
「ご馳走様。凄く美味しかったよ、茜」
「いえいえ。ふふふっ...あなた達が本当に美味しそうに食べるから作った甲斐があったわ」
小食の茜は先に食べ終えていた。
その時、キッチンからオーブンレンジの電子音が聞こえてきた。
「あれ?茜、何か作ってたの?」
夕華が不思議そうな顔で尋ねていた。
「あ、ううん。おかずじゃないわ。本当は少し冷ました方がいいんだけど...」
そう言って茜はレンジからトレイを取り出した。
すると、満腹であるのに食欲をそそる甘い匂いがふわりと香ってきた。
「あ...クッキー?」
「そうよ。熱いから気を付けてね?」
茜は小皿に少しだけクッキーを取り出して持ってきてくれた。
「わぁ...美味しそう!」
「ふふふっ...ほら、先生も食べてみて?」
「ああ。いただくよ」
まだまだ熱々のクッキーを手に取って、口の中に運んだ。
バターが焼ける風味が口内に広がって鼻腔に抜けてきた。
そして、咀嚼すると少し違う食感の後に、チョコレートの香りが抜けてきた。
「おお...!」
「美味しい...」
本当に美味しい。このままお店に並んでいてもおかしくないどころか、普通に買い求めに通い詰めるだろう。
「本当?よかった...今まで自分で食べるばっかりだったから...ちょっと自信なかったのよね」
何とも控えめコメントだ。この技量であれば履歴書の特技の欄に料理とお菓子作りと堂々と書いたところで誰も疑わない。
「いやいや...これって普通にお店に並んでるくらいだよ!茜ってば...お菓子作りも得意だったんだね...」
「ああ。俺もそう思うよ。そっちの道に進んでも大成できると思うぞ?」
「そ、そんなことないわよ...他にお菓子なんて作ったことないもの」
「そうなのか?」
「ええ。その...お菓子作りって意外とお金かかるのよ。砂糖やバターだってたくさん使うから...その材料が買えなかったの」
「あー...確かに。でも、ウチのキッチンも材料も好きに使って良いからな。足りないなら買ってくるから、存分に楽しんでくれ」
料理をしている茜は本当に楽しそうだった。ひょっとすると、料理もお菓子作りも好きなのかもしれない。
「本当に?...じゃあ...その...お言葉に甘えようかしら。...作ったら、また食べてくれる...?」
「もちろん。というからこっちからお願いするくらいだよ」
「ふふっ...ありがとう」
あぁ...今から楽しみだ。
今度、大きなスーパーに一緒に買い物に行こうかな。
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食器を夕華と2人で片付け、ソファに並んでくつろいでいる。
その時、俺のスマートフォンが着信を伝え始めた。
「もしもし?」
相手はこのマンションの管理を任せている不動産会社の営業マンだった。
個人的にも友人関係にあるので、こんな時間に電話がかかって来ても特に不思議では無い。
「ああ...あの件か。あの土地の手続きだろ?ああ。手筈通りによろしく。うん。ありがとう。また今度事務所に行くよ。じゃあまた」
そう言って電話を切った。
茜を膝に抱えている夕華は不思議そうにこちらを見ていた。
「あの土地?」
「ああ。親父が持ってた宅地用の土地が近くにあってな。その買い手が見つかりそうだからその連絡だったんだ」
「あ、そうなんだ...売っちゃうの?」
「まあ、売ると言えば売るんだけど...銀行を介さずに、分割で俺に直接払ってもらう形にするから賃貸みたいなものかな?」
「へぇ...そんなことが出来るんだ」
「ああ。ちなみに、建屋も建築屋さんとその買い手の人に設計を決めて貰って、もう建て始めてるんだ。俺の名義でね」
住戸と土地、どちらも俺の名義のままで建て貸しするようなものだろうか?
「ひょっとして...私が住むようになったからお金が足りなくなったの...?」
不安そうに俺を見つめる茜。...相変わらず気を使いがちな子だな。
「そんなことはないさ。というか、茜はもっと贅沢してくれ。なんだか俺が君に質素倹約を強要してるように見えるからさ...」
「あ...う、うん...出来るだけ、頑張るわ」
自信がなさそうな様子だ。...本当にその通りなのだ。というか、夕華もそんなに散財するタイプではないし、俺も車とバイクに金がかかるくらいで他に金のかかる趣味は無い。お陰で3人分の食費や生活費を除いても十二分に余るほどの収入が有るのだ。正直、教員の給料だけで事足りる。
「ちなみに、どんな人に売れたの?」
「実はな...圭介の御両親なんだ」
「え!?そうなの!?」
「ああ。前に聞かれたことが有るんだ。家を建てたいから良い土地を知らないかってね」
このマンションも格安で賃貸しているので、ある程度まとまった貯金が出来たそうなのだ。そこで俺が紹介したわけだ。
「へぇ...あ、じゃあ斉川君たちは引っ越すの?」
「ああ。でも、圭介の通学もあるし、仕事の通勤のこともあるからここからそんなに遠くないんだよ。というか、ココより駅に近いんだ」
それに、かなり広い土地に大きな建屋を建てているのでかなりの金額になった。頭金として貯金の一部から支払い、残りは俺が無利子で融資しているようなものだ。
「ふふっ...優しいのね、先生」
「あー...なんとなくお兄ちゃんがしたい事がわかったかも」
「え...?」
「気づいたか」
夕華が何に気づいたのか。それは...
「
「
「ああ。圭介は、自分の両親が俺に大きな貸しを作ってしまったんだ。正直、あの土地は資産価値がかなりある上に、建屋も一流の建築屋さんで建てた一級品だ。それなりに高額なのだが、それを無利子の分割払いなんて破格の条件で売ったんだ。だから...あの一家は俺に逆らえない。...もちろん、斉川家に恨みなんてないから、訴えて取り上げようなんて思ってない。でも、圭介も子供じゃないから俺に逆らえないことは理解できるだろう」
...だから、もし、俺に対して強い恨みを持つような“なにか”があっても...圭介は指をくわえて眺めるしかないのだ。
「ふふふっ...流石だね、お兄ちゃん」
にやりと笑う夕華。対して、茜は少し複雑な表情だった。
「...時々、先生の力が怖いわね...」
「安心してくれ。俺は茜と夕華の為なら全てを犠牲に出来る覚悟はしてるから。それだけ君たち2人が大切なんだ。それに...もし本当に俺が嫌いだというのなら、お金だけ支援するから別のアパートに移ってくれても良いと思ってる。だから―――んっ」
最後まで言う前に茜の柔らかい唇に口を塞がれた。
「ふふっ...そんなこと言うわけないじゃない。怖くない...といえばウソになるけど、それ以上に...その...あ、愛してるから」
「ありがとう...茜」
「ねぇねぇ私は?」
駄々っ子の様に茜に愛の言葉をせがむ夕華。
「もちろん夕華のことも大好きよ」
「えへへ...私も大好き!」
...何と言う事のない平和な夕飯時は過ぎていくのだった...