優柔不断は切り捨てろ:周りの美少女は全員他人のモノ 作:エルサイズ
――――――――――――――圭介視点
何とか一瀬さんをデートに誘う事が出来た。
最近はあまり話も出来ていなかったので嬉しい限りだ。
....でも、どういうわけかお兄さんの車で送ってもらうことになってしまった。
「ありがとう。その...助かるわ」
少し嬉しそうな一瀬さんの声。...彼女は今、お兄さんの保護下にある。親兄弟のような関係なので嬉しいのだろう。....そう言い聞かせないと心が落ち着かない。
「じゃあ行こうか」
お兄さんと一瀬さんが並んで歩いている。
彼らが向かう先には白い大柄セダン。お兄さんの車だ。
「...っ」
スタスタと歩く2人を慌てて追いかける。
お兄さんは運転席側に回ったので僕もその背中を追いかけて右側の後部ドアから乗り込んだ。
....当然、僕と一瀬さんが後ろに乗るものだと思っていたけれど、彼女は当たり前のように助手席に乗り込んだ。
「圭介もシートベルトは締めてくれよ?」
ブレーキペダルを踏みながらシステムスイッチを押すお兄さん。
「あ、はい」
右後ろに手を伸ばしてシートベルトのバックルを手に取った。そしてしっかりとシートベルトを締めた。
「よし。じゃあ行こうか」
「お願いします」
お兄さんが声をかけるとテンポよく返事をする一瀬さん。
滑り出すような滑らかな走り出しはさすが高級車と言った所だろうか。
「ところで、何を見に行く予定なんだ?」
お兄さんはそう尋ねた。...どちらに声をかけたのだろうか?
「えっと...私は誘われただけだから特に考えていなかったけど...斉川君は?」
「え?」
しまった...誘ったは良いけど何も考えていなかった。
「圭介?」
「えっと...その...」
どうしよう...何がいいんだろう。
「...」
ミラー越しに感じる一瀬さんの視線。特に感情が籠っていないその美しい瞳が僕の思考を乱していく。
「その...えっと...」
「何も考えていなかったのか...圭介、デートに誘うならプランぐらいは考えておいた方が好印象だぞ?」
「はい...」
理解はしている。しかし、悩んでいるうちにどんどん時間だけが過ぎていくのだ。
「そうだな...映画なんてどうだ?茜も映画は好きだろ?」
「そうね。でも、久しく観てないわ」
彼女の境遇を考えるとそれもそうだろう。
「じゃあ...映画館でも良い?」
「...良いわよ」
よし。とりあえずは目的が出来た。
―――――――――――――――――――――――
「じゃあ、俺はちょっと用事があるから。帰りも時間が合えば送っていくよ」
そう言って僕たちを入口の近くで降ろしたお兄さん。
「...ええ」
少し寂しそうな表情の一瀬さんが気になったけど、これで2人きりになれた。
「ではまた」
「ああ。また、な」
そう言いながら微笑むお兄さん。そして立体駐車場の方へ静かに走り出す白いセダン。
「じゃあ、行こっか?」
「ええ」
スタスタと歩く一瀬さん。歩くペースは速いけど、小柄な彼女なので歩く速さは僕とあまり変わらない。
「えっと...映画館は...」
自動ドアを抜けて吹き抜けになっているホールに着いた。しかし、キョロキョロと周りを見渡すけどさっぱり見当がつかない。
「こっちよ」
迷いなく西の方へと足を進める一瀬さん。
「う、うん」
彼女の小さな背中を追って僕も西のほうへ歩く。
「い、一瀬さんはどんな映画が好きなの?」
「そうね...映画を観るのは好きだけど、そんなに特定のジャンルが好きというわけではないわね。テレビで放送されている名作を録画して何度も見ていたわね。それもビデオテープで」
ビデオテープ...久々に聞いた。まだVHSが使えるテレビがあるのだろうか。
「そうなんだ...」
....会話が途切れてしまった。
「えっと...斉川君はどんな映画を観るの?」
「僕は映画はあまり観ないかなぁ...」
テレビでバラエティー番組を見て笑っている程度だ。あとは時々深夜アニメを見るくらいだろうか。
「そう...」
は、話が広がらない...どうしよう...
「...ここね」
何とも言えない沈黙の中、最上階の奥の方に映画館があった。すぐ隣にはゲームセンターもあるようだ。
「うーん...」
上映中の映画は...派手なアクションの洋画や大ヒットアニメの劇場版、身の毛がよだつスプラッター映画に...あとは日本の恋愛映画だ。
「これで良い?」
恋愛映画を指さす。
「そう...ね。私も詳しくないからそれにしましょうか」
僕も詳しくない。まあ、無難でいいのではないだろうか。
「....?」
ふと、視線を感じた。
しかし、周りを見渡しても知り合いは見当たらない。...多分気のせいだろう。
特に気にすることも無く受付へ向かった。
「高校生で1枚。この映画でお願いします」
「かしこまりました。学生証を拝見してもよろしいでしょうか?」
受付の人は僕にそう尋ねた。
えっと...学生証は...
「はい」
「はい。承りました。お席はどちらに致しましょうか?」
「えっと...」
どうやら他に見ている人は居ないらしく、どこでも選べるようだ。
「じゃあここで」
真ん中より少し前方の席を選んだ。
「はい。1100円です」
財布から紙幣と硬貨を一枚ずつ取り出して支払った。
「一瀬さん、この席にしたから」
「ええ。じゃあ隣の席をお願いします。...あ」
一瀬さんはカバンを探ると何かに気が付いたようだ。
「学生証持ってきてないわね...すみません、大人1枚お願いします」
「はい1650円です」
一瀬さんは紙幣を2枚手渡し、お釣りを貰っていた。
「じゃあ行こうか」
「ええ」
映画館なんていつ以来だろう。随分前に両親と一緒に来て以来縁が無かった場所だ。
「...」
一瀬さんは物珍しそうにキョロキョロと見回している。
「映画館は初めて?」
「いえ...初めてというわけではないわ。夕華と何度か来たことはあるけど、あまり慣れてはいないわね」
家で映画を観ることが多いと言っていたのでそうなのだろう。
「ここだね」
目的地に到着した。防音の重い扉を開く。そして中に入ると、耳が圧迫されるような静寂に包まれた。
「えっと...席は...ここか」
少し前方の中央部の座席。
「...ちょっと近いわね」
並んで腰かける。僕は丁度良い高さだけど、一瀬さんは少し見上げるような姿勢になってしまうらしい。
「えっと...ごめん?」
「別にいいわよ」
途切れる会話。そこからは特に会話も無くスクリーンを眺めていた。
..............
「あ...」
照明が暗くなり、盗撮などを禁止する映像が流れ始めた。やがて新作映画の宣伝が流れ始める。
「...?」
そのタイミングで入口の方から光が漏れた気がする。...恐らく他の観賞客だろう。
その人物の方を見るけど、暗くてよく見えなかった。男性だろうか?
「...始まるみたいね」
宣伝も終わり、製作会社のロゴが表示されると本編が始まった。
桜吹雪の坂道。その先には学校と思しき建物が見えている。そして、その坂を歩く男女の姿。
....どうやら学園ものらしい。演じているのは...男子高校生役は若手の俳優さんだろうか?テレビで見たことはあるけど名前は思い出せない。ヒロイン役の人はわかる。有名なアイドルグループの一員だ。
「...」
内容としては、よくある学園青春恋愛映画のようだ。
.....正直、話のテンポがゆったりとしていて眠くなってくる。
「...?」
一瀬さんがスマートフォンを確認している。
チラリと彼女の様子を見ると、画面のライトに照らされた顔は少し驚いているようだ。
「一瀬さん...?」
「あ...ごめんなさい。ちょっとお手洗いに行ってくるわね」
「あ...うん」
眠気でぼんやりとする思考の中、彼女にそう返事をした。
少し慌てた様子で席を離れる一瀬さん。...扉が開く気配を感じた後、足音は聞こえなくなった。
あー...ダメだ...多分寝落ちする。
............
『んっ...ふあっ....』
「...?」
なまめかしい女性の声で目が覚めた。
スクリーンに目を向けると、人気アイドルの素肌が大胆に晒されたラブシーンが流れている。
「...」
思わずゴクリと喉が鳴ってしまった。映画の内容自体は大して印象に残らないけど、やたらと気合の入った濡れ場は非常にインパクトがある。
「ああっ...だめっ...」
画面にヒロインが映っていなくても、色っぽい声だけは流れている。
『んっ...んぅ...ちゅ...』
「んっ...んっ...んっ...♡」
思わず見入ってしまった。
そしてシーンは暗転して、日常シーンへと戻っていった。
「...?」
スクリーンに夢中で気が付かなかったけど、一瀬さんが戻ってきていない。
連絡した方がいいのだろうかと思って周囲を見渡すと、丁度彼女が戻ってきた。
「ご、ごめんなさい...その...お手洗いが混んでて」
「あ...ううん大丈夫だけど...ん?」
鼻にツンと来る臭い。彼女の声に乗って来たその臭いは...いや、きっと気のせいだ。
「どうしたの?」
「いや...なんでもないよ」
ふと、スクリーンが明るくなる。その時に一瀬さんの様子がちらりと見えた。
「...」
少し乱れた髪。上気した頬。それは暗い中でもはっきりと分かった。
....きっと、急いで戻って来たんだ。そうに違いない。
「...?」
人が歩く気配。そして、漏れ出る光。僕たちの他に居た観賞客の人が出て行ったのだろう。...しかし妙なタイミングだ。まだまだ映画はクライマックスまで時間がある。
「....」
まあ、気持ちは分からなくもない。内容としてはありきたりな恋愛映画で、濡れ場がやたらと気合が入っていたこと以外に印象に残らなかった。
......................
「....」
「....」
ぼんやりとスクリーンを眺めていると、最後は主人公とヒロインがキスをして終わりだった。
やがて照明が明るくなり、周りが良く見えるようになった。
「....っ」
暗闇に慣れていたので少しだけ眩しい。
次第に目が慣れてきたので一瀬さんの方へ振り返った。
「...?」
ふと、彼女の服に違和感を感じた。
濃色のジーンズにシンプルなブラウス。彼女の豊かな胸部が大きくその生地を押し上げているのだが....あ、そうか。
「一瀬さん、ブラウスのボタンが掛け間違えてるよ?」
「え...?あっ...!」
自分の姿を見て動揺している一瀬さん。
...僕も全然気が付かなかった。制服の採寸をしている時からだろうか?
「それと...口元に何かついてるよ?」
彼女の桜色の唇から、少しだけ髪の毛のようなモノが付着しているように見えた。
「っ...!」
一瀬さんは慌てて口元を隠した。
「ちょ、ちょっと直してくるわね」
「あ、うん。じゃあ外で待ってるよ」
座席を立って扉へ向かう一瀬さん。
....しかし、その足取りはフラフラと不安定なモノだった。
「だ、大丈夫?」
「...大丈夫よ。少し足が痺れただけだから」
内股ぎみの彼女。...そして、ふらふらと彼女はトイレの方へと向かって行ったのだった。
「...?」
なんだか様子が変だったな...
特に気に留めずに出口に向かう。
....気に留めていない。気に留めてはいけない気がする。
「あ...」
「お?やっぱりこの映画だったか」
出口にはお兄さんが既に待機していた。
「茜は?」
「えっと...今トイレに行ってます」
「...そうか」
特に感情のこもっていない返答。
やがて、トイレから一瀬さんが戻ってきた。
「お待たせ」
「ああ。大丈夫か?」
「...そうね」
特にお兄さんへの大きなリアクションは示していない。....まるで、そこに居る事を知っていたような反応だ。
「これからどうする?もうそろそろ夕暮れ時だけど、圭介はそろそろ帰らないといけないんじゃないか?」
「あ...」
そうだ。夕方からは塾が有るんだ。全く忘れてしまっていた。
「茜はどうする?もう帰るか?」
「...そ、そうね...っ...♡」
何故か少し声が上ずっている一瀬さん。....今日はあまり楽しめなかったのかもしれない。
「じゃあ帰ろうか」
「はい」
「ええ」
こうして...僕の休日デートは終わりを迎えたのだった。
.....言えなかった。
だって....そうでしょ?
女性に向かって......
.....その可愛らしい口から