優柔不断は切り捨てろ:周りの美少女は全員他人のモノ 作:エルサイズ
――――――――――――――圭介視点
僕は一緒に登校しようと思い、マンションのエントランスで夕華を待っていた。
「圭介~ごめん、遅くなっちゃった」
パタパタと駆けてくる幼馴染の夕華。
その揺れる胸元を凝視してしまったが、これは男としてはしょうがないだろう。
「大丈夫、待ってないよ」
「.......そう。じゃあ行こっか」
一瞬だけ、夕華の表情が消えた気がしたのだが、どうやら気のせいのようだ。
夕華が歩き出して、ふわりとセミロングの髪が舞った。
「あれ...?」
そこから香る匂いにほんのわずかに違和感を感じた。
「どうしたの?」
くるりと振り返って夕華が可愛らしく小首をかしげている。
「あ...いや...その...」
「うん」
「あの...シャンプー変えた?」
「...っ!あの、これは...ちょっと買い置きのシャンプーが無かったからお兄ちゃんのを借りたの」
そういうことだったのか。それなら仕方ない。
「なるほどね。ちゃんと気を付けないとダメだよ。それに、僕だって貸して上げれるんだから」
最後はちょっとした独占欲だった。
「......うん、ありがとう」
それはあまりにも素っ気ない返事だった。
「じゃあ行こうか」
「うん」
その日の通学路は...いつもより長く感じた。
とはいえ、夕華と並んで歩くのは少し気分が良い。こんなに可愛い子と一緒に登校出来るんだぞ、と周りの男にアピールできるからだ。
まあ、夕華の美貌のおかげなのだけど、自分まで魅力的になった気分だ。
「あれ?そういえば今日はお弁当じゃないんだ?」
「え...?あ...」
夕華はいつも自分でお弁当を作っている。料理上手で女の子らしいといつも思う。
「忘れた?」
「うん...作ったけど、忘れちゃったみたい」
でも、ちょっと抜けてるところも可愛いと思う。
それ以外は特に会話もなく、いつの間にか教室にたどり着いていた。
「お?今日も夫婦登校か?」
悪友が今日も茶化してくる。いつものように軽く返事をしようかと思っていると、
「違うよ。そういうのじゃないから」
「...夕華...?」
夕華はいつもなら軽く笑って流すのだが、今日は明確に拒絶した。
「お、おう...悪い」
その短くも強い口調に悪友もたじろいでしまった。
一体どうしたというのだろうか。
夕華に尋ねようとしたのだが、教室の引き戸が開いて先生が入ってきた。
...夕華の隣の部屋のお兄さんだ。僕も昔は仲良くしていた。
「ほら座れ。ホームルーム始めるぞ」
担任の先生が産休に入っているので副担任のお兄さんが最近はホームルームを担当している。
「えっと...連絡事項は...あ、そうだ。体育の先生が今日は急病でお休みだから、男子の体育の時間は保健の時間に変更になるぞ」
その知らせを受けて、身体を動かすのが好きな生徒は不満の声を上げた。
「はいはい静かにしろ。連絡は以上だ。あ、それと夕k―――橋本、ちょっと用事があるから休み時間に職員室においで」
「あ...はい」
なにやら夕華が呼出を受けていた。優等生の彼女にしては珍しいことだ。
特に特筆することもなく、1限目は過ぎて行った。いつも通り、ノートを取って問題を解く。
気になったことと言えば...夕華が少しソワソワしていたことくらいだろうか。
まあ、珍しく職員室に呼ばれたのだ。気にもなるだろう。
と、ぼんやりと夕華を見ていたらチャイムが鳴った。
「ではここまで。次回は小テストがあるのでちゃんと復習しておくこと」
「ありがとうございました」
そう言って数学の教諭は教室を後にした。
「夕華...ってあれ?」
気づいたら夕華の姿が無かった。
周りを見渡すと、丁度教室の扉から出ていくところだった。
「早いなぁ...」
僕も席を立ってその
少し小走りの彼女の足取りは軽く、とても気が重そうな印象は無かった。
「ひょっとして...楽しみなのか...?」
確かに夕華とお兄さんは仲良しだけど...
次の角を曲がれば職員室だ。
と、思ったその時、夕華とお兄さんが角から姿を見せた。
「お?圭介も職員室に用事か?」
軽い口調でお兄さんが語りかけてきた。
「あ、いえ...いや...そうなんです」
つい嘘を吐いてしまった。
「...?そうか...まあ、廊下は走ると危ないから気を付けてな」
「...はい」
まさか夕華の後をつけてきたなんて言えない。
と思ったけど、夕華も不思議そうな顔で僕を見ていたので大丈夫だろう。
「それにしても、なんで俺に弁当を渡すだけ渡して自分の分を忘れて行ったんだ?」
「もう、寝ぼけてたのっ」
去り際に聞こえてきた会話に耳を疑った。
...え?俺に弁当を渡して?
夕華はお兄さんのお弁当を作ってるってこと?
「あの...っ...!」
その真意を聞き出そうとして振り返っても、既にそこに彼らは居なかった。
聞きそびれた...全く、せっかちな人たちだ。
そして、時間は過ぎてお昼休み。副担任のお兄さんも教室で食事を摂っている。
この学校は、元々給食は無かったのだが、自治体の方針で希望者には給食センターからお弁当が配給される仕組みになった。
比率で言えば、手製の弁当と購買のパンと給食がそれぞれ同じくらいだ。
「ねえ、先生って毎日お弁当だよね?奥さんが作ってくれてるの?」
クラスメイトの女子が先生にそう問いかけた。
その答えは僕も気になる。先ほどの話を立ち聞きした限りでは、あれは夕華の手製弁当だ。
「いや、俺は結婚してないぞ」
「え~?じゃあお母さん?」
「親はどっちも...ってそれは良いか。それも違うな」
「じゃあ誰が作ってくれるの?」
僕はちらりと夕華を見た。すると、彼女は箸がピタリと止まっていた。
「俺が自分で作ってるとは思わないのか...?」
「思わな~い」
何人かの女子の声が重なってしまった。
「そ、そうか...」
少し傷ついたらしく、苦笑いをしていた。
「まあ...妹が作ってくれてるんだよ」
「へぇ~仲良しなんだね」
「まあな」
そう答えてやり過ごすらしい。
夕華を見ると、少し不機嫌そうな表情で再び箸を動かしていた。
「....」
わからない。夕華の気持ちが分からない。
...あとで聞いてみようかな。僕のことは...まあ、自慢ではないが長い付き合いだから悪くは思われてはいないだろう。だから多少踏み込んだことも聞けるはずだ。
「夕華、今日も一緒に帰れる?」
「...え?」
なにやらボーっとしていたようだ。
「だから、今日も一緒に帰れる?って」
「う...うん。大丈夫だよ」
よかった。今日も部活は無いらしい。
そして、放課後。帰宅部の僕はホームルームが終わればすぐに帰宅できる。
隣では制服姿で浮かない顔をしている夕華の姿があった。
「夕華...?」
「うん?」
声をかけると、いつもの明るい表情に戻った。
「あ...いや...なんでもない」
「そう...?」
不思議そうな顔で首をかしげているのも可愛いな...
「ホームルーム始めるぞー」
引き戸を開けて入ってきたのはスーツ姿の若い男。お兄さんだ。
「えっと...今日は特に連絡事項は無いな。部活に行く人はケガに気を付けること。それとみんな帰りは寄り道をせずに車に気を付けて帰ること。以上」
手短なホームルーム。大雑把なお兄さんらしい終わり方だ。
「夕華、帰ろうか」
「...うん」
今日も夕華と帰れる。
朝は以前から一緒に登校していたけど、帰りは夕華が部活に入ってからは一緒に帰れなかった。
だから最近は毎日が楽しみだ。
夕華と肩を並べて登校口を出たとき、彼女に練習着姿の女子が近づいてきた。
「夕華!今日も練習に来ないの?」
責めているわけではなく、心配している様子だ。
...でも、夕華との下校を邪魔された僕は少し不機嫌になりそうだった。
「う...うん。先生にも話はしてるから...」
「...わかった...でも、辞めない...よね?戻ってくる...よね?」
「...それは...」
言葉に詰まる夕華。
「夕華...?」
「ごめん...まだわかんない」
「5月の大会...出ないの...?」
「...ごめん。それもわかんない...」
「...わかった。でも、私は戻ってきて欲しいから。待ってるからね」
「うん...」
そう言い残して陸上部の女子は練習に戻っていった。
「...夕華、帰ろうか」
「そう...だね」
僕たちはグラウンドの横を通って帰路に就いた。
そして、マンションも近づいてきたとき、昨日の公園が見えてきた。
「ちょっと話さない?」
僕は夕華を公園に誘った。
「あ...うん」
彼女は終始無言だったので、夕華の声を久々に聴いた気がする。
僕たちは奥のベンチに並んで腰かけた。
「ねえ、部活やめるって話、本当?」
「...うん。ちょっと...色々あったの」
「色々って?」
「それは...ちょっと言いにくいことだから...ごめんね」
「でも...」
再び聞こうとしたが、彼女は答えてくれなかった。
「圭介は...どう思う?」
「うーん...夕華が辞めたいと思うならやめればいいんじゃない?」
僕は夕華じゃないし、なんで辞めたいのか分からないから他に言い様がない。
「...そうだよね」
しかし、夕華は浮かない表情だった。
と、その時、公園の入り口から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おーい!」
「あ...お兄ちゃん...」
「...先生」
お兄さんだ。全く...良いところだったのに。
「全く...寄り道するなって言っただろ?」
「えへへ...ごめんなさい」
力なく微笑む夕華。
その様子にお兄さんも気が付いたようだ。
「夕華、あのことだな?」
「え...?...ふふっ。お兄ちゃんは私のことならなんでもお見通しだね」
「まあな」
先ほどに比べて口数が増えた気がする...
「夕華、まだ心残りが有るんだろ?」
「...さすがお兄ちゃん...よくわかったね」
「わかっているさ。不完全燃焼で終わりたくないんだよな」
「うん...」
会話のテンポが速すぎてついていけない...
「日曜日、一緒に買いに行こう」
「え...?」
「知り合いに聞いたんだ。ちょっと離れたお店なんだけど、本人にピッタリのものを選んでくれるらしい」
「そうなの...?...ありがとう、お兄ちゃん...」
「もう1つの悩みについては...」
「うん...それは...」
全く訳がわからない...何の話をしてるんだろう...?
「ふ、2人とも待ってよ!何の話?」
話を聞く限り、日曜に一緒にどこかへ出かけるようだ。
「えっと...」
なにやら少し頬を染めて答えにくそうな様子の夕華。
「圭介...その...陸上の道具を買いに行くんだ。だから圭介が来ても多分参考にならないよ」
なんだ...そんなことか。
ならば、どうしてそんなに真剣な表情をしていたのだろうか?
「もう遅い時間だ。そろそろ帰ろう」
「あ...うん」
どうしよう...聞くべきだろうか...いや...でも...
「圭介?どうしたの?」
「ほら行くぞ」
既に2人とも帰るつもりのようだ。
「う、うん」
結局、何も聞けなかった。