優柔不断は切り捨てろ:周りの美少女は全員他人のモノ 作:エルサイズ
――――――――――――――圭介視点
「....」
もやもやする。
ここ数日、なんとも気分が晴れない。
「圭介?」
今は昼休み。誰も来ない廊下でぼんやりと校庭を眺めていたところ、愛らしいソプラノボイスの持ち主に声を掛けられた。
「夕華...」
「どうしたの?珍しく黄昏れてるけど...」
黄昏れている...と思われる程にぼんやりとしていたのだろうか。
「ううん、何でもないよ。夕華も珍しいね?一瀬さんと一緒じゃないの?」
「あ...う、うん。ちょっと用事があるみたい」
「?」
何故か慌てた様子の夕華。その様子を特に気に留めることも無く、彼女に語り掛けた。
「あ、そういえば...今日は部活?」
「放課後?ううん。今日はお休みだよ。もうすぐ大会だから、顧問の先生がその打ち合わせに行くみたい。だから部活はお休み」
「それなら...久しぶりに遊びに行かない?」
本来であれば、恋人関係にある一瀬さんを誘うべきだけど...まあ、夕華と僕は幼馴染だから大丈夫だと思う。
「放課後に?別にいいけど...」
何か気にかかることがあるようだ。
「あ、何か用事があった?」
そうであれば申し訳ないことをしたのかもしれない。
「ううん、大丈夫。でも、ちょっと待たせるかも。駅前で待ち合わせでも大丈夫?」
「え?う、うん。大丈夫だよ」
そのまま一緒に学校から行けば良いと思ったけど...まあ、用事なら仕方ない。
.....先日の映画館デートからもやもやしているこの気持ちも晴れるといいけど。
「ありがと。じゃあ...私、先に教室に戻るね」
「あ、うん」
ひらひらと手を振って駆けていく夕華。....何故か少し危ない足取りだ。内股気味でフラフラとしている。
しかし...
「....」
スカートから見える健康的な白い太もも。ひらひらと揺れる柔らかそうなロングヘア。その美しい後ろ姿に僕の視線は釘付けになってしまった。
ゴクリ...
思わず喉が鳴ってしまった。
夕華と僕は、普通の友人関係よりは親しいと思う。一瀬さんと交際していなければ、夕華と付き合ってた未来もあったのかもしれない。多分...あれほどお兄さんと仲が良いと他に付き合っているような人はいないとは思う。
....まあ、この歳で未来と言えば何が起きるのかわからないから、まだまだその未来が到達不可能なifというわけではないとは思うけれど。
「あれ...?」
そういえば、夕華はこんなところに何の用事だったのだろう。
この先には多目的教室と言う名の空き教室や屋上への非常階段しか存在しない。故に誰も来ない廊下だったのだ。
「....」
考えても仕方ない。彼女には彼女の事情があるのだろう。
時計を確認すると、もうそろそろ教室に戻らなくてはいけない時間だった。
さて、午後からも頑張ろう。
―――――――――――――――――――
午後の授業。眠い目をこすりながら授業を受ける。...昨日も遅くまで塾に行っていた上に、遅くまでスマホを眺めていたので寝不足だ。
「ふあ...」
思わず欠伸が漏れてしまった。
「圭介...そんなに大きな欠伸をされると俺でも傷つくぞ?」
丁度、今はお兄さんの授業中だった。
お兄さんのその指摘に教室の空気は緩んだので、他に船を漕いでいた生徒も目を覚ましたことだろう。
....................
放課後、ホームルームを終えて生徒はそれぞれの活動場所へと移動を始めた。
部活に行く人、早々に帰路に就く人。
「さて」
僕も後者なので教室を後にすることにしよう。
そして、先に駅に行くことを伝えようと夕華の姿を探すけれど、既に彼女は教室を出て行った後だった。
「一瀬さん、夕華見なかった?」
彼女はまだ帰り支度をしていたので尋ねてみた。
「夕華?うーん...ごめんなさい。見てないわね」
「そっか...わかった。ありがとう」
まあ、連絡すれば良いか。
「じゃあまた明日」
「ええ」
一瀬さんは荷物をまとめると早々に教室を後にした。
既に翔太の姿は無い。今日は部活に行っているはずだ。代わりに一瀬さんがシフトに入っているらしい。...僕のシフトは土曜日だ。
ちなみに塾も無いので今夜は自由にゲームができることだろう。
「暑い...」
季節は夏。じりじりと肌を焦がす太陽が辛い...
夕華は陸上部なので、今は本格的な大会シーズンだ。...今年は特に暑いので熱中症には気を付けて欲しい。
その時、ガラガラという大きなエンジン音と共に四角い路線バスが見えてきた。
定刻通りに到着したバスに乗り込み、駅前を目指す。
「ふぅ...」
冷房が効いた車内が心地良い。帰宅部の僕には辛い季節だ。
....................
「...」
駅前ロータリーの停留所でバスを降りた。...そろそろ夕華に連絡しようかな?
スマートフォンを取り出し、発信履歴から彼女の名前を探す。
「あったあった...」
随分と下の方に彼女の名前があった。...思えば、しばらく夕華に電話をしていなかった。
発信ボタンをタップして耳にスピーカーを当てた。
「...」
しばらくコールし続けている。...忙しくて出れないのかもしれない。
そして...
『も、もしもし...っ...?』
何故か慌てた様子の声で夕華が応答した。
「あ、もしもし?僕だけど」
『ふぁっ....う、うん!も、もう着いた...っ...?...ぁ...』
走っているのだろうか?随分と息が荒い...
「う、うん。もう着いたけど、別に急いでないからゆっくりで大丈夫だよ...?」
何だか急かしているみたいで申し訳なかったなぁ...
『はぁ...はぁ...う、うん...っ...ごめ...っ...ぁぁっ♡....んね...っ...』
そこで電話は切れてしまった。
...な、なんだかちょっと色っぽい。
走っているだけだと思うけど、夕華の可愛らしい声ではこんな風になるんだ...
「ふぅ...」
さて、どうしようか。コンビニで立ち読みでもしようかな。
そう思い立ち、最寄りのコンビニを目指すも、運悪く改装中で臨時休業していた。
「えっと...」
確か、反対側の降り口にもコンビニがあったはず。
そちらを目指すことにしよう。
....................
「...?」
コンビニで週刊の少年誌をパラパラと捲りながら物色していると、スマホに着信が入って来た。
「もしもし?」
『あ、もしもし?ごめんね、遅くなって。もうすぐ着くよ』
夕華だった。可愛らしいソプラノボイスは電話越しでもよくわかる。
「あ、うん。じゃあ、僕もそろそろ向かうよ」
『はーい...』
『...駐禁取締り重点エリアです....』
「え?」
すぐに電話は切れてしまった。
....最後の音声はなんだったのだろうか...?
...機械的な音声だったけど、タクシーにでも乗っているのだろうか...?
「...」
とりあえず行こう。夕華を待たせるわけにはいかない。
立ち読みだして帰るのも何だか申し訳なかったので、僕はガムだけ購入してコンビニを後にした。
「暑い...」
じりじりと肌を焦がす茜色の太陽。
灼熱の昼間に比べると涼しいけど、帰宅部の僕には少し辛い。冷房が効いた店内に居たものだから余計に汗が噴き出てくる。
駅構内の連絡協を渡り、ロータリーを目指す。
蒸し風呂のような連絡橋の階段を降りると、駅前ロータリーが見えてきた。
「あ...」
バス停の屋根が無いベンチに彼女は居た。
薄い茶色のふわふわとした長い髪。制服のプリーツスカートから伸びる長い脚。白くて綺麗な肌に抜群のプロポーション。
彼女を見たいが為にこの地域の高校陸上の大会には多くの見物客が訪れるというのも納得できる。
「お待たせ」
「あ、ううん。ごめんね、私も待たせちゃって」
「ううん、大丈夫だよ。丁度、読みたかった雑誌もあったから」
「あはは、そうなんだ」
「じゃあ、行こうか」
「うん」
元気よく返事をした彼女。...しかし、その割にはゆっくりと立ち上がった。
「大丈夫?昼間も何だかフラフラしてたけど...」
「え?あ...う、うん。大丈夫だよ。その...ちょ、ちょっと疲れてるだけだから」
「あ...そうなんだ。ごめんね、それなのに誘っちゃって」
「ううん、大丈夫だよ」
そう言って微笑む夕華。...相変わらず、本当に綺麗だと思う。この笑顔に心を奪われた男は何人居るんだろう。
「そういえば...何処に行くの?」
「あ...」
しまった。また何も考えてなかった。
「えっと...」
言葉に詰まってキョロキョロしていると夕華と目が合ってしまった。
「っ...!」
一瞬...ほんの一瞬だけ。驚く程冷たい視線を向けられていた。
「...考えてなかったの?」
しかし、それは見間違えだったのかもしれない。直ぐにいつもの柔らかい表情に戻っていた。
「...ごめん」
「そっか...じゃあ、服でも見に行かない?」
「そうだね」
僕たちは駅前のデパートに向かった。
....................
「え...?」
「どうしたの?」
僕たちが向かったのは若者向けの格安店....では無く、少し大人向けの値が張るアパレルショップだった。
「あの...僕たちには少し早いんじゃない...?」
服のデザインも少し大人向けで、高校生が着るには少し背伸びしすぎているように見えるだろう。
「あー...大丈夫だよ。別に今日買わなくても良いから」
「?」
ウインドウショッピングというヤツだろうか?
頭に疑問符を浮かべたままガラス扉をくぐる。冷房が効いた店内は快適だった。
「いらっしゃいませ。...おや?」
綺麗な女性の店員さんが出迎えてくれた。
「こんにちは。お久しぶりです」
どうやら夕華と女性の店員さんは顔見知りのようだ。
「今日はご一緒ではないのですね?」
「あ、はい。お兄ちゃんは仕事だったので」
「そちらは...ふふっ、ひょっとして恋人さん?」
なんとも清楚な雰囲気の人だ。
「あ...その...」
僕の方に視線が向けられたので思わず動揺してしまった。
「違います」
きっぱりと、ばっさりと、平坦な声で否定する夕華。
....そこまではっきりと否定されると傷つくな...
「あ、そ、そうですか...これは失礼しました」
「いえいえ」
いつも通りの柔らかい口調に戻る夕華。
「今日はどうするの?」
「えっと...秋物のシャツとかあります?」
「はい、こちらに」
清楚な店員さんに連れられ、男物のエリアにやって来た。
「うーん...」
何やら夕華は悩んでいる様子だ。
「...」
並べられたシャツを見る。シンプルながら、地味過ぎず派手過ぎない上品なデザインだ。
「ねえ、圭介、身長は何センチ?」
「えっと...確か...」
四月の身体測定では去年と変わりないくらいだった。
「...これくらいだよ」
測定結果を写真で撮影したものを夕華に見せた。
「うーん...これなら大丈夫かな。ありがとう」
「えっと...どういたしまして?」
突然どうしたのだろうか?
「それじゃあ...これと、これ。試着してもらっても良い?」
「え?」
突然何着か手に取った夕華はおもむろに服を僕に手渡してきた。
「え?じゃなくて...この服とこの服、そこの試着室で着てもらっても良い?」
「う、うん」
言われるがまま試着室に入る。
「うわ...」
値札をみて引いてしまった。...僕の冬用のダウンコートと変わらない金額なのだ。何ならこのシャツの方が高い。
とりあえず、袖を通してみる。
...なるほど、確かに着心地は良い。
しかし...僕が着ると、胸板の辺りがスカスカで少し違和感がある。
「来てみたけど...」
カーテンを開けて夕華の正面に立つ。
「うーん...」
じっくりと服を見ながら何か考えているようだ。
「夕華?」
「ねえ、胸の所は丁度良い?」
「え?うーん...ちょっと緩いかなぁ...」
それに袖も少し長い。デザイン的に補正が効かないからサイズを選びなおさないといけないはずだ。
「じゃあ大丈夫だね...他の服も着てもらっていい?」
「う、うん」
何が大丈夫なのだろう...?
...ちなみに、他の服も胸板の辺り緩く、袖が長かった。
「うん、ありがとう。もう大丈夫だよ」
「う、うん」
なんとも釈然としないまま、試着タイムが終了したのだった。