優柔不断は切り捨てろ:周りの美少女は全員他人のモノ 作:エルサイズ
――――――――――――――主人公視点
時刻は朝礼の頃。既に自分の席に着いて待っているので、この学校の生徒は真面目な生徒が多いと思う。
「...♪」
「...♡」
フリフリと手を振る夕華と、ちらりと熱い視線を向けている茜。
...表立って反応するわけにはいかないので、一瞬だけ微笑みかける。
「さて、とりあえず出席確認するけど...あ」
空いている座席は一つ。圭介の席だ。
「斉川は遅刻か?誰か聞いてるか?」
生徒はお互いに顔を見合わせているが、どうやら誰も知らないらしい。
「ねえ夕華、斉川君と家が近所でしょ?何か聞いてないの?」
クラスメイトが夕華に尋ねる。
夕華と圭介が幼馴染であることは知られているので当然の疑問だろう。
「うーん...今日は茜と来たから知らないんだよね...」
本当のことだ。
...というか、俺も知らない。
「うーん...とりあえず後で家に電話してみるか。よし、じゃあ朝礼始めるぞー。まず連絡事項だけど―――」
一通り通達事項を伝え、体調不良の生徒が居ないか確認して朝礼を終えた。
...うーん。真面目な圭介が連絡も無しに学校を休むとは思えないんだけどな...とりあえず確認してみるか。
このクラスの1限目は...現代文か。八條先生に圭介が来ていない旨を伝えないと。
.....................
朝礼を終え、再び職員室へ戻ってきた。
八條先生も戻ってきたので丁度良い。
「八條先生」
「は、はいっ...!」
何故かビクっと身体を震わせて返事をした八條先生。
よく見ると頬が少し赤い。
「だ、大丈夫ですか?」
「え、ええ!だ、大丈夫ですわよ!?」
お嬢様だとは聞いていたが、こんな口調ではなかった気がする...
しかし...慌てている彼女は何とも可愛らしい。
「ふふ...落ち着いてください。別にあなたを取って食おうとはしませんから」
「うぅ...失礼致しました。それで...いかがなさいましたか?」
出席簿で押しつぶされている豊満な胸元に視線が向きそうになりながらも、何とか宝石のような美しい瞳に視線を合わせた。
「あ...うちのクラスの斉川圭介なんですけど、どうやらまだ学校に来ていないみたいなんですよ」
「まあ、本当ですか?お家の方からご連絡などは有りませんでしたか?」
心配そうな表情の八條先生。
...確かに。道中で事故にでも遭っているかもしれない。
「それが、圭介のご両親は先日から二人とも不在でして...」
「あ、そういえば斉川君と先生のお宅はご近所でしたね。そうですか...ただの寝坊であれば良いのですが...」
なおも心配そうな八條先生。
あの時間に家から出て居ないのであれば寝坊で間違いないとは思うが、体調不良の可能性もある。
とりあえず連絡してみるか。
「とりあえず、彼の件は私にお任せください」
「はい...よろしくお願い致します」
ぺこりと一礼して授業へと向かう八條先生。
俺は1限目には授業が入っていないので丁度良かった。
学年主任の先生に圭介の件を報告し、とりあえず、学校の固定電話から家に電話をかけてみた。
「....」
コールし続けているが、出る気配が無い。
...夕華の痴態を耳にしたのが余程ショックだったのだろうか。
黒い愉悦がちらりと影を見せたが、すぐに仕事モードに頭を切り替えた。
「...スマートフォンにかけるか」
自分のスマートフォンを取り出し、履歴から圭介を探す。
....茜と夕華がほどんどで、残りは八條先生ばかりだ。
ようやく見つけ出してコールボタンをタップした。
「....」
数コール後、通話が繋がった。
『も、もしもし...!?』
息が切れている。走っているのだろうか。
「もしもし?俺だよ。圭介、どうしたんだ?何かあったのか?」
十中八九遅刻だろうが、他の可能性が無い訳では無い。
『す、すみません...!寝坊しました!...も、もうすぐ着きます!』
恐らく、9:00前に学校の近くを通るバスに乗れたのだろう。
「分かったから、怪我しないように気を付けて来いよ」
『は、はい!』
そう言い残して電話を切った。
...とりあえず一安心だ。
学年主任にその旨を伝え、俺は通常業務へと戻っていったのだった。
――――――――――――――
昼休み。食事を摂る場所はもう決めてある。...社会科準備室だ。
社会科の教師は何人も在籍しているが、実際には俺しか使っていない。
準備室と言っても、世界史や日本史の古い資料や、地理や公民で使用する統計データや大判の世界地図が置いてあるくらいなもので、俺も授業の準備で使用することはないのだ。ただし、自習用の長机と椅子が設置してあるので食事を摂るには丁度良い。
早速、夕華と茜にメッセージを送り、準備室の鍵を持って旧校舎の最奥を目指した。
.......................
教室棟から渡り廊下を越え、特別棟と体育館を越えた先にある旧校舎の階段を上る。まあ、旧校舎と言ってもそこまで古くは無い。当時、他の教室棟を建て替える計画が持ち上がった際に、この旧校舎だけは後から増築した建物なので新しかったらしい。なのでこの建物だけ残されたのだ。
しかし、新築した建物に一般教室も特別教室も収まってしまったので、実はこの旧校舎は殆ど人が来ない。
実に勿体ない話なのだが、何しろ田舎高校なのでわざわざ取り壊して敷地を確保しなくとも、既に十二分な敷地面積が確保されている。
「...」
最上階の一番奥。いよいよ人目に付かないとっておきの場所。
開錠して中に入ると、古い書籍特有の臭いが香って来た。決して不愉快ではなく、なんとも落ち着く臭いだ。それと同時に...甘い香りと、かすかに残る情事の香り。換気はしたのだが、夏場なので少し残ってしまっている。
「お?」
複数人の足音が聞こえて来た。...夕華達だろう。
段々と近づいてくる足音。
まだエアコンをつけたばかりなので少し汗ばむのだが...まあ、そのうち過ごしやすくなるだろう。ちなみに、設定温度は高めにしてある。俺も夕華も暑がりなのだが、茜が寒がりなのだ。しかし、茜は自分が我慢すればよいと考える自己犠牲的な思考を持っているので、何も言わずに茜に合わせている。
そして、足音が扉の前で止まり、引き戸が開かれた。
「こ、こんにちは...」
何故か硬い表情の茜。その後ろには苦笑いの夕華が居た。
...今更何を緊張しているのだろうか?
「いらっしゃい。入らないのか?」
「いえ...そういうワケではないけれど...」
チラリと"隣"を見る茜。....隣?
「ごきげんよう、先生...♡」
ひょっこりと顔だけ見せた彼女は...プラチナブロンドにぱっちりとした宝石のような瞳が美しい、ノースリーブニット姿の美人だった。
「は、八條先生!?」
思わぬ来訪者に驚いてしまった。
...かすかに残る性臭は大丈夫だろうか。まあ、この部屋で行われていた事を知らない限り、気づかない程の残り香ではあるので大丈夫か...
「突然申し訳ございません...そ、その...夕華さん達が先生と一緒に食事を摂られるとお聞きしましたので...つ、付いてきちゃいました」
頬を染めながらそう説明する八條先生。
その様子は大変愛らしいのだが、今日も食事の後にセックスするつもりでやって来た残りの2人は気まずそうにしている。
「い、いえいえ。お気になさらないでください。食事は人数が多い方が楽しいので。さあ、どうぞ中へいらしてください」
「はいっ」
笑顔で応えると、八條先生も愛らしい笑顔を向けてくれたのだった。
可愛らしいトートバッグを手に持った彼女がパタパタとこちらへと向かってきて、俺が弁当袋と水筒を置いている座席のすぐ隣を確保した。
その後ろから茜と夕華が続いた。
普段であれば、内側から鍵を掛けるところだが...今日も同じことをすれば八條先生を怯えさせてしまうだろう。
普通に扉を閉めて、俺も八條先生のすぐ隣に腰掛けた。
「じゃあ、食べようか」
「はい♪」
「ええ」
「はーい」
それぞれ弁当箱を広げ、昼食を摂り始めた....のだが
「あの...先生?」
八條先生が不思議そうに俺たちの弁当に視線を向けている。
「どうしました?」
夕華は普段通り幸せそうな笑顔で茜謹製のお弁当をつついている。
「いえ...なんと言いますか、その...皆さん、お揃いのお弁当箱なのですね」
「え?...あ」
しまった。俺たちはそれぞれ色違いの同じ弁当箱を持ってきていたのだ。
しかも、茜が作ってくれているのでおかずも全く同じだ。
...夕華は気にせず食事を続けているが、茜は卵焼きを箸で掴んだまま静止している。
「あー...」
「か、楓先生...これは...」
しどろもどろになっている俺と茜を、八條先生と夕華は不思議そうな顔で見つめていた。
...なんで夕華も不思議そうな表情になっているんだ。お前もピンチなんだぞ。
「夕華さん、このお弁当...あなたがお作りになられたのですか?」
「ううん、今日は茜だよ。明日は私が作る予定」
「そうなのですね。ふふふっ...茜さんはお料理上手ですね」
にこにこと笑顔で返答する夕華。
八條先生も笑顔で返事をしている。...どうやら、この質問には特に深い意味はなく、単純に気になっただけらしい。
「楓ちゃんも食べる?美味しいんだよ~茜の卵焼き!」
ほっ、と息を吐く。
「ありがとうございます。では、私のおかずと交換しましょう」
「やったー」
お互いに卵焼きを交換して味見をしている夕華と八條先生。
...2人とも天然気味で良かった。
お互いに笑顔で交換した卵焼きを食している姿をみて安心した。
「ふふふっ...美味しいですよ、茜さん」
「あ、ありがとうございます...楓先生」
ニコニコと笑顔の八條先生。
「先生の分も茜さんがお作りになられているのですか?」
「え、ええ。今日は私が作りました」
「そうなのですね。ふふふっ...偉いです。先生も茜さんに感謝しないといけませんよ?」
「ええ。本当に頭が下がるばかりです」
それは本当だ。茜は料理を作るのが好きらしく、結構な頻度で作ってくれている。しかも美味しいので毎度昼休みが楽しみだ。
「ふふふっ...では、そんな頑張り屋さんの茜さんに、これをプレゼント致しますっ」
八條先生はトートバッグから長方形の何かを取り出し、茜に手渡した。
「これは...?」
「私が大好きな洋菓子屋さんのフィナンシェですよ。たくさんありますのでどうぞ召し上がってください」
「あ、ありがとうございます」
そういえばこんな包装紙だったな。綺麗に折りたたまれて八條先生の机に並んでいる様をよく目にする。
「いえいえ。それと...先生、私のおかずも食べていただけませんか?」
八條先生はもう一つの卵焼きを箸で掴み、こちらに差し出してきた。
「良いんですか?」
少し...気になる。
「は、はい...!」
何故か緊張した面持ちの八條先生。
「では...」
俺の弁当箱に置いてもらおうと差し出したのだが、八條先生はそれを拒んだ。
「八條先生?」
「えっと...あ、あーん...です」
顔を赤くしながら卵焼きを差し出す八條先生。
...ここで拒むのも失礼と言うモノだろう。
「では...あーん...んむ」
口内に広がる少し塩気が効いた卵焼きの風味。
この風味は...
「いかが...でしょうか...?」
「ひょっとして...これ、出汁巻きですか?」
「は、はいっ。お出汁は昨日の一人お鍋の残りを使用しました」
おお...凄い...
「ありがとうございます。本当に美味しいですよ」
「ぁ...えへへ...♡」
ふにゃっとした笑顔になる八條先生。
茜も気になったらしいので夕華から半分貰っていた。
「その...花嫁修業は一通り済ませていますので、料理もある程度であればできるのですよ」
「おお...流石名家のお嬢様...」
感心している様子の夕華だった。
「...」
複雑な表情で俺を見つめている茜。
...やきもちだろうか。
「えへへ...」
愛らしい笑顔の八條先生と、特に気にしていない夕華と、少し不満顔の茜。
なんとも穏やかな昼休みを過ごしたのだった。