優柔不断は切り捨てろ:周りの美少女は全員他人のモノ 作:エルサイズ
――――――――――――――主人公視点
「これで...よし」
「ありがとう...先生」
ガクガクと腰が震えており、まだ身体が動かない茜。
そんな彼女の代わりに俺が身支度を整えた。
「今日はバイトの日じゃなかったか?」
「ええ。本当は一旦家に戻ってから行こうと思ったけれど...直接行かないと間に合わないわね」
ついつい夢中になってコトに及んでいたからな。
「車で送ろうか?」
一度抜けるくらいは問題ないだろう。
「うーん...本当は遠慮しないといけないのは分かっているけれど...その...お願いするわ」
何故か頬を染めながら声が小さくなっていく茜。
「別に構わないさ。...それに、まだ腰が抜けているだろ?」
「...ええ」
今、俺は椅子に腰かけて膝の上に茜を乗せている状況だ。
腕の中の茜はまだまだ脱力しており、不意に触れるとビクンと身体を震わせる。...それは嫌悪ではなくまだまだ絶頂の余韻によって肌が敏感になっているせい、らしい。
「ねえ...先生」
「うん?」
茜がこちらに振り返った。
「んっ...♡」
「ん...」
そっと唇を重ね合わせた。
「んっ...好き...♡」
2人きりになると見せてくれる...甘えん坊の姿。
「ああ...俺も好きだよ」
抱きしめながら囁くと、茜は嬉しそうに笑ってくれるのだ。
....もう少しこの時間を堪能したいのだが、そろそろ終わりにしなくては。
「茜、準備して車の前で待ってろ。直ぐに行くから」
膝の上から降ろし、身体を支えながら立たせた。
「ぁ...うん。よろしく」
少し残念そうな表情。名残惜しいらしく、俺の袖を小さく握ったままだ。
「茜...」
「ぁ...」
細い腕を引いて、小柄な身体を腕の中に閉じ込めた。
「すぐに行くからな」
「...うん」
しばらくの間、俺たちは抱き合っていたのだった。
――――――――――――――茜視点
学校からスーパーまでの長くない距離。あっという間に2人きりの時間は終わってしまった。
「じゃあ、行ってくるから」
運転席の先生に声をかけた。
「ああ。また後でな」
優しく微笑んでくれた先生。
....また、彼に甘えたくなってしまった。
「...っ」
なんとか振り切って従業員入口を目指した。
一歩また一歩と歩いていくうちに、頭は仕事モードへとへと切り替わっていく。
「えっと...今日は品出しとレジね」
誰も居ない事務所。シフト表に書かれた仕事の区分を確認した。
レジ専属の日は立ちっぱなしで少し辛い。
まあ...何も考えなくていいから楽ではあるけど。
「あれ?」
事務所から出ると、何故か私服姿の店長とすれ違った。
「あ、一瀬さん。お疲れ様」
「お疲れ様です」
軽く挨拶を済ませる。...シフト表に店長は休みだと記されていた気がする。やはり社員さんは休みの日でも来ることが有るのかしら?
「...」
店長は何事もなかったかのように従業員出入口から出て行った。...特に会話する用事も無いので私もそのまま休憩室へと向かった。
「?」
休憩室の照明が点いている。同じ時間に入る人が来ているのだろう。
...この時間はパートさんが上がり始める頃なので学生アルバイトのうちの一人かしら。
「お疲れ様です」
挨拶をしながら扉を開くと....
「あ...お疲れ様です、茜先輩」
そこに居たのは美咲さんだった。
何故かシンクの前で口元を拭いていた。
手元にマウスウォッシュのミニカップを持っていたので理由を聞く必要はない。
それよりも...
「っ...」
凄い臭いだ。
悪臭というワケでは無く、強烈な消臭剤の臭いだ。
「あ、ごめんなさい。ちょっと臭いますよね」
私が顔をしかめていることに気が付いたらしい。
「いえ....そうね。確かに凄い臭い」
此処で嘘を吐いても仕方ない。
「あはは...さっき店長が消臭剤の詰め替えボトルを落としてまき散らしちゃったんですよ」
力なく笑う美咲さん。
....なるほど。それでこんなに....
「そう...災難ね」
「ええ...本当に」
...じっと彼女を見つめた。
「ねえ、美咲さん。疲れてない?」
そんなに付き合いが長いわけではないのではっきりとは判断できないけど、彼女の顔に疲労がにじみ出ている気がした。
「あ....えっと....ちょ、ちょっと忙しかったので...」
何故か言葉に詰まっている美咲さん。
....何か、嫌な予感がする。
「そう...あんまり無理しちゃダメよ」
....しかし、踏み込んで尋ねるにはまだまだ関係が薄すぎた。
「ふふふっ...茜先輩って優しいですよね」
「...そんなことないわよ」
力なく微笑む美咲さん。
....私は優しくなんてない。
本当に優しいのは...先生や夕華のような人たちの事だろう。
「...」
「...」
会話が途切れ、お互いに黙々とスーパーの制服へと着替えていく。
...さて。早めに到着したからシフト交代まで時間が有るわね。
パイプ椅子に腰かけながらぼんやりと考えていた。
「茜先輩、少しお話しませんか?」
「ええ」
隣に座っていた美咲さんが問いかけて来た。
「茜先輩って...彼氏、とか居ますか?」
「彼氏...そうね...」
先生は彼氏になるのかしら...?
何度も身体は重ねたし、お互いに愛を伝え合っているけれど...この愛のカタチが何と呼ぶのか、その答えははっきりと導きだせない。
「...居ない、というワケじゃないけど...居る、とも言えないわね」
「....なんだか複雑そうですね」
苦笑いする美咲さん。
「茜先輩は美人ですし...いろいろ複雑なんですね」
「別に美人じゃないわよ」
「...茜先輩クラスの美人さんが謙遜するとイヤミに聞こえますよ?」
「その言葉そのままお返しするわね」
美咲さんこそ誰もが振り返る美少女だと思う。
「まあ、それは置いておいて。その...恋人って...良いですよね」
「...そうね」
良い点については...多すぎて言葉に出来ないわね。
「茜先輩は...恋人についてどんなことを思い浮かべますか?」
「うーん...」
なんとも漠然とした質問で答えにくい。
恋人...
真っ先に思い浮かぶのは愛しい愛しい先生の真剣な横顔。
彼の腕に抱かれたときに見上げていた表情だ。
確かあの時は....そうだ。あのクソ親父から助け出してくれたときだ。
「そうね...
自分で言っておいて何だが、何とも少女チックな答えだと思った。
「ふふふっ...茜先輩って結構乙女なんですね」
楽しげに笑う美咲さん。
「...からかうなら質問は終わりよ」
「ふふっ...ごめんなさい♪でも、素敵な考えですよね。...きっと、茜先輩の"複雑な関係"の人も素敵な方なんだと思います」
「...そうね」
頬が熱くなっている気がする。
「ふふふっ...」
「そういうあなたは何だと思うの?」
美咲さんの価値観が気になるわね。
「そうですね...私にとって恋人は...薬ですね」
「え?」
珍しい答えだった。
薬...それを他人に求めるというのは...
「だから...私は翔太さんに依存してるんです」
...依存。チラリと脳裏に浮かんだ言葉を美咲さんは口にしていた。
「それは...」
どういう意味だろう。しかし、そこまで踏み込んだ質問をしても良いものだろうか。
「あの人と居る間は...イヤな事を考えなくて良いから。でも、居なくなったらどうしてもイヤな事を思い出しちゃう。薬の効果が切れたときってそんな感じでしょ?」
暗い瞳で語る美咲さん。
「それは...」
しかし、何となくその気持ちは理解できた。
体育教師に抱かれて、クソ親父に犯される。そんな中でも正気を保つことが出来たのは夕華のおかげだったから。
でも...私は先生という特効薬で救われた。
「翔太さんは優しいから...ちょっとくらいエッチが荒くて下手でも...私を想ってくれるからまだ許せる。無理やり気持ち良くさせられてトロトロにされるよりマシだから。完全にトんじゃって腰を振ってたことなんて思い出すだけでも恐怖ですよ」
「...」
何も言えなかった。
その暗い瞳に全ての慰めの言葉を飲み込まれて黒く塗りつぶされてしまいそうだったから。
「さ、時間ですよ。今日も頑張りましょうね、茜先輩っ♪」
「え、ええ」
瞬時に切り替わる美咲さんの表情。
先程までの虚ろな瞳がまるで見間違いだったのではないかと思うほどだった。
「...茜先輩」
「?」
休憩室の扉に手を掛けた瞬間。背後から声をかけられた。
「....今日のお話は...ナイショですよ?」
笑顔だった。笑顔だったのに...瞳は凄く暗かった。
「...勿論よ」
言えるわけが無い。というより、情報が中途半端過ぎて他者に伝えることが出来る情報として文章を構築できない。
しかし....間近で彼女の声を聞いたとき、私の不安は更に強くなった。
それは...臭いだ。
ミント系のマウスウォッシュの香り。
しかし、その奥に感じる微かな違和感。
それは.....私や美咲さんのような"女性"が1人では嗅ぐことのない臭い。
.......私の