優柔不断は切り捨てろ:周りの美少女は全員他人のモノ 作:エルサイズ
「さて...先輩、戻りましょうか」
「ああ」
桜と肩を並べ、再び部屋の中に戻って来た。
「あ...」
布団の上でタオルケットで身を隠している華織。
何が起きているのか理解が追い付いていないらしく、ぼんやりと俺たちを見つめていた。
「華織さん。私は鬼柳桜と申します。彼の...雇い主です」
俺の名刺の事を思い出したらしい。
「鬼柳さん...桜ちゃん」
「...どうして言い直したんですか?」
桜ちゃんと呼びたくなるような可愛らしい容姿だから、と言えば桜の機嫌を損ねる事は理解している。
「華織さん、とにかく今はここを離れましょう。服は着れますか?」
「はい...」
タオルケットで身体を隠したままふらふらと立ち上がった。
「あ...!」
しかし、華織さんの身体はぐらりと傾いた。
「よっ...と。大丈夫ですか?」
咄嗟に手を伸ばして抱きとめた。
「は、はい...」
まだまだ足に力が入らない様子だ。
それに、何だか顔が赤いような...
「...財布や通帳、資格証や保険証等の貴重品・重要書類を準備してください」
「は、はいっ」
ほんのりと怒気を孕んだ桜の声に慌てた様子で反応していた。
...女性の着替えをまじまじと見つめるというのも失礼なので、俺は車を移動させる為にその場を後にしたのだった。
―――――――――――――――――――
「貴重品は以上でしょうか?」
「はい。あとは美咲に見て貰わないとはっきりとは判断できませんので」
一応、美咲に電話で尋ねて必要なモノは持ち出した。後は直接本人に確認してもらおう。
「...少ないな」
もう戻らないつもりで荷物を持ち出してくれと言ったのだが、美咲の荷物を含めても俺のセダンのトランクに収まる程の量だった。
「...はい」
桜も何とも言えない表情で華織・美咲母娘の荷物を眺めている。
...俺も複雑な気分だ。生活が苦しいとは聞いていたのだが、この荷物の少なさを見る限り...本当に切り詰めて生活していたのだろう。
「行こうか」
「はい...」
後部座席に華織を乗せ、桜を助手席に乗せて走り出した。
「あ、あの...今からどこに連れていかれるんですか...?」
華織が不安げな声で尋ねてきた。
「...ハッピーになれるところですよ」
「ひっ...」
ルームミラー越しにひきつった表情が見えた。
「...先輩、そんな言い方されると誰でも怖いですよ」
「それもそうか。...美咲さんも居るので大丈夫ですよ」
「そう...ですか」
少しだけ安堵の表情を見せてくれた。
「あの...彼はどこに連れていかれたんですか...?」
不安げな声で尋ねられた。...さて、どう答えるべきか。
「彼は大きな犯罪に関わっていますので、事情聴取の後は然るべき罰を受けてもらいます」
俺の代わりに桜が答えた。
...公的機関に引き渡されることも無く、起訴されて懲役刑になることも無い。故に"然るべき罰"なのだ。
「犯罪...」
「はい。先程もお話致しましたが、あなたは被害者です。薬物によって強制的に性的に興奮させられて性交に至る。これは立派な強姦事件です」
「...」
淡々と言葉を並べる桜。華織はショックを受けているのだろうが、大きく取り乱している様子は無い。
「それに、被害者はあなただけでは無く...」
「桜」
桜の言葉を遮った。
「先輩?」
「...それは到着した後で話そう」
美咲も居る場で話すべきだ。
「...はい」
桜もそれを理解したらしい。
「...そろそろ到着します」
マンションが見えて来た。
近所なので車で来ればあっという間だ。
.......................
「お母さん...!」
玄関の戸を開けると、心配そうな表情の美咲が待って居た。
「美咲!」
ふらふらと美咲のもとへ駆け寄り、強く抱擁し合っていた。
「ああ...よかった...無事だったのね...」
「えっと...」
複雑な表情の美咲だった。
それもそうだろう。どちらかというと"無事"ではない。
「お二人とも、お話良いですか?」
桜が切り出した。
「...はい」
...美咲はある程度覚悟していたのだろう。
華織の方は...少しショックな話が続くかもしれない。
「お兄ちゃん...」
奥から心配そうな表情で夕華と茜が出て来た。
「大丈夫だ。夕華、茜と一緒にあっちの部屋で待って居てくれるか?」
「わかった。...信じてるからね?」
「...ああ。任せろ」
次に茜だ。夕華と同様に心配そうな表情だ。
「ねえ...先生...」
「うん?」
茜が小さく袖を握っている。
「...ううん、何でもない。美咲さんの事、よろしくね」
「...任せろ」
茜と夕華が部屋を出たことを確認した後、再び花園母娘に向き直った。
「まず自己紹介をさせていただきます。私は鬼柳桜と申します。彼とは...少し複雑な関係です」
誤解を招くような自己紹介だな...誤解じゃないから言い訳出来ないけれど。
桜は簡単に自己紹介を済ませ、本題に入った。
「では...まず最初に。あなた達と同居していた男は凶悪な犯罪者です」
きっぱりと言い切った桜。そのまま説明を続けた。
「今回、あなた達母娘に薬物を使用して強制性交とみなされる行為に及んだ件もありますが、それ以前にも性犯罪・暴力事件・一部詐欺の片棒を担いでいたこともありました」
そこまで調べていたのか...
流石に俺はそこまで調べることが出来なかった。
「ま、待ってください!母娘って...私はともかく、美咲に薬物って...あの人、美咲に手を出していたんですか!?」
かっと目を見開いた華織。
まだまだ薬の影響で思考がままならないはずなのに、そのような様子は全く見えない。
「はい。あなたの再婚相手は...美咲さんに対しても薬物を使用して性行為に及んでいました」
「...あの男...!!」
ショックより先に怒りが沸いてきたらしい。
穏やかで可愛らしい顔立ちの女性だと思っていたのだが、怒気を孕んだその表情は...恐ろしかった。
しかし、直ぐにその表情は崩れ、ボロボロと涙を流し始めた。
「でも...でも...私が結婚したせいで...美咲を傷つけたのよね...っ...」
自分が再婚したせいで、自分の娘が傷つけられた。その事実が瞬時に思い浮かんだのだろう。
...しかし、それも継父の計画だろう。
「お母さん...」
「ごめんね...ごめんね...美咲...」
美咲は母親の事を何とも言えない表情で見つめていた。
「華織さん、落ち着いてください。...恐らく、あなたの再婚相手は、最初にあなたとセックスをしたその時から薬物を使用していたと思われます。薬物の売買の経歴に関してはこれから尋問しますが、犯罪歴からして常習犯でしょう。だから、あなたが全て悪いわけではありません」
一方的な被害者ではない、という意味が込められていた。
桜は一通り話し終えると、次は美咲の方を向いた。
「美咲さん、あなたの件に関しては...」
「それは俺が話そう」
店長に関してはある程度調べが付いている。美咲に話を聞いた後で調べたのだが、それでも十二分に情報が集まった。
「あの男に関しては重犯罪の経歴は少ない。しかし、黒い話は事欠かない」
ちらりと美咲に視線を向けた。...愉快な気分ではないだろうが、ショックを受けている表情ではない。これなら続けても大丈夫だろう。
「あの男は、そもそも女癖が非常に悪い。二度の結婚で子供が複数人いるが、そのどちらも本人の不貞が原因で離婚している。そして、今もバイトの大学生の一人と交際しているが、他にも何人か関係を持っている」
その内の一人が"マイ"という女だ。...ある意味、彼女も被害者なのかもしれない。
「...っ...」
「そんな...夫だけでなく、他の男にまで...」
美咲は何とか持ちこたえているが、どちらかというと華織の方がショックを受けている様子だ。
...それもそうだろう。愛する娘が複数人の男に犯されているのだがら。
「それで...店長はどうなるんですか?」
美咲は静かにそう尋ねた。
「既に連行済みだ。君の継父と同じところに連れていかれている」
「そう...ですか」
表情から読み取れるほどの感情の変化が見れなかった。
現実として受け止める事が出来ているのか、それとも...感情が停滞しているだけなのか。
「あの...もう一つ良いですか?」
「ああ。何でも聞いてくれ」
店長に関することならある程度は話せる。
出身地、年齢、住所、電話番号、マイナンバー、免許書の番号、銀行口座の暗証番号、クレジットカードのカード番号と暗証番号とセキュリティコード。出身校、前妻、前前妻の情報等々...一通り調べはついている。
「翔太さんは...今何をしているんですか?」
「小井川か...」
一応調べたのだが...さて、言うべきか。
「あの...私、大丈夫ですから。もう、覚悟は決めていますので。...それに、何となく想像は出来ますし」
「そうか...わかった」
姿勢を正し、再び美咲と向き合った。
「小井川は..."マイ"という女と関係を持ったみたいだな」
「マイ...」
女の名前を口にして、なにやら考え込んでいる様子だ。
「聞き覚え有るか?」
「はい...多分、
その通りだ。さすがにバイト仲間なので面識は有るのだろう。
「ああ。鎧坂麻衣で合っている。この女も店長の....愛人の一人だ」
セックスフレンドの一人だと言いそうになったので訂正した。
「優しくて綺麗な人だと思っていましたけど....クソ女だったんですね」
全くもってその通りだが、丁寧な言葉遣いであった美咲の口から"クソ女"などというワードが飛び出したことに驚いた。
「詳しい動機は分からないが、どうやら店長とは完全に遊びの関係だったらしいな。それで...本命は小井川だったのだろう。だから、店長の計画に乗った...と推察される」
真意の程は本人たちを拷も―――尋問して聞き出すことにしよう。
「ちなみに、今日も鎧坂麻衣の家に泊まっているようだ。...どうする?呼び出して真相を伝えるか?」
一応、小井川翔太は被害者の一人だ。鎧坂麻衣に誘惑されて、安易にその身体に溺れたという遺恨は残るかもしれないが。
「...翔太さんが悪くないことはわかりますけど、正直...複雑な気持ちです」
それもそうだろうな。追い詰められていたとはいえ、その日のうちに他の女の誘惑に乗る軽薄さが鼻につく。
「...とりあえず、今はご自身の心と身体を休めることをお考え下さい」
桜の言う通りかもしれない。
「...そうします」
暗く沈んだ表情。
...どうやら、まだまだ回復していない様子だ。
とにかく、今は母娘共々落ち着くまで保護する必要があるだろう。
「2人とも、いきなり知らない男の家に連れてこられて不安かもしれないけれど...とにかく、此処は安全だから安心して欲しい」
母娘を真っすぐに見つめて伝える。
「...茜先輩の彼氏さんなら信用できますよ」
力なく微笑む美咲。
...少しは信用してくれているらしい。
「美咲がそう言うのなら...」
華織は今日会ったばかりだからな。まだまだ信頼されずとも仕方ない。
とはいえ、母娘が近くで過ごすことが出来る上に、茜や夕華と言った信用できる同性が身近にいるというのは、環境的にも良いはずだ。
「ありがとう。この後の処理は任せてくれ。全て上手くいくように片付けるから」
桜と並んで母娘に向き合った。
「...分かりました。よろしくお願いします。夫の事も、娘に乱暴を働いた男のことも...全てお二人にお任せします」
「はい。お任せください」
...よし。これからが本番だ。