優柔不断は切り捨てろ:周りの美少女は全員他人のモノ 作:エルサイズ
――――――――――――――圭介視点
~♪
「ん...」
朝、スマートフォンのアラームで目覚める。
ぼんやりとした頭で音源を探り、アラームを止めた。
「起きなきゃ...」
夕華を待たせるわけにはいかない。
眠い目を擦りながら体を起こす。
スマートフォンをポケットに入れて洗面台を目指す。
今月は父も母もそれぞれ別件で不在だ。
別に別居や離婚といった不穏な話題ではない。両親ともに海外出張が多い仕事なので家を空けることが多いだけなのだ。
昨日の塾の帰りに買った菓子パンをかじりながらテレビをぼんやりと見る。
どうやら今日は晴れるらしい。
「ん?」
スマートフォンに通知が一件入ってた。
「夕華...」
送信元は夕華だった。
内容は、用事が有るから先に出ます、というものだった。
ああ...それで昨日は、また学校で、と言って別れたのか。
「律儀なところも可愛いなぁ...」
こんなに良い子が幼馴染とは。僕も恵まれていると思う。
それに...多分だけど、それなりに好感度は高いはずだ。
「ゆくゆくは良い関係になれたりして...」
僕は明るい未来に胸を抱きながら学校に行く準備を始めたのだった。
「....」
1人で歩く通学路は久しぶりだ。
話し相手が居ないと色々と考え事が捗る。
...お兄さんと夕華。前からあの2人は仲が良かった。それに、お兄さんは夕華の親代わりみたいな立場のはず。
だから心配する必要は無い...と思っていた。
しかし、最近はやけに夕華との距離が近い気がする。それに夕華を見つめるあの目つき...絶対に邪な気持ちがあるに決まってる。
しかし...気持ちはわからないでもない。あの身体付きにあの顔だ。男なら誰でも振り向いてしまうだろう。とはいえ、あの年齢差ではダメだろう。
だから、僕が夕華を守る必要が有るのだ。
と、そんなことを考えているうちに学校の近くに到着した。
バスを降りて学校へ向かう。
少し早い時間なので生徒は
そのとき、クラスメイトの一瀬さんが歩いているのを見つけた。
あまり真面目な方ではないが、夕華の友達なので面識はあった。
普段は重役出勤の彼女がこんな早い時間に来てるなんて...
「い、一瀬さん!」
下心が無かったと言えば嘘になる。彼女と夕華が一緒に居ると、まるでモデルの撮影なのか、と思う程だ。
夕華と比べても遜色ないスタイルに、間違いなく美少女だと言われる相貌。男としてあわよくばと思うのは当然だろう。
「え...?あなた...誰?」
衝撃の一言だった。あいさつ程度で会話が終わるくらいは覚悟していたが、まさか個体認識されていなかったとは。
「あの、クラスメイトの斉川圭介だけど...夕華の友達の」
「夕華...ああ、夕華のダンナね」
「だ、旦那じゃないよっ」
そうは言ったが、悪い気はしなかった。
「ふふ...冗談よ」
軽く微笑んだ顔に思わずドキッとしてしまった。
普段は眠そうだったり不機嫌そうな顔ばかり見ていたので、その優しい笑顔にはギャップがあった。
「今日は早いんだね」
「...まあね。ちょっと野暮用よ。じゃあ、私はこっちだから」
そう言うと、一瀬さんは暗い表情を浮かべて体育館の方へ歩いて行った。
「朝練かな...」
そもそも部活に入っていたのだろうか...
教室に入ると、どうやら僕が一番乗りだったらしい。
「...」
話し相手が居ない...と、思っていた時だった。
「あれ?圭介も早かったね」
入口から聞こえるソプラノボイス。昨日も夢に出てきた彼女。夕華だった。
よく見ると、彼女の席には既にカバンが置いてあった。
「うん、早く起きたからね」
「そうなんだ。って、ひょっとして、いつも結構待たせてる...?」
待たされているというより、僕が勝手に待っているだけだ。だから夕華に落ち度はない。
「そんなことはないよ。夕華を待たせるのが悪いからいつもちょっと早く出るだけだよ」
「あ...そうだったんだ...いつも待たせてごめんね」
「え?いいよいいよ。気にしないで」
ふわりと夕華は隣の席に腰掛けた。
「あれ...?」
ちょっとした違和感。いつもの彼女のはずだ。いつものシャンプーの匂いのはず...しかし、何かおかしい気がする。
「ねえ、夕華」
「うん?」
「やっぱりシャンプー変えた?」
「えっ...?変えてないけど...どうして?」
怪訝な表情の夕華。どうしてそんな顔をしているのだろう...?
「いや...なんだか知らない匂いがした気がして...」
「...ねえ、圭介。友達だから言うけど...他の女の子にそういうことはあんまり言わない方が良いと思うよ」
「え?そうかな」
「...うん。その...ちょっと怖いよ?」
そんなものだろうか?というか、他の人が違う匂いがしても気が付かないだろう。夕華だから気が付くのだ。
「...まあ、わかったよ」
曖昧な返事でお茶を濁しておこう。
...なんだか、最近は夕華と距離がある気がするなぁ...
その後は特に会話も無く、続々とクラスメイトが入って来ていつもの教室へと姿を変えていった。
...もう少しだけ夕華と2人きりの時間を過ごしたかったなぁ...
「ほら、ホームルーム始めるぞ」
お兄さんが入ってきた。
教室の中を見渡すと、ある一点を見て次に手元のボードを見た。
「また一瀬は遅刻か...」
「え?」
お兄さんの視線の先に目を向けると、一瀬さんの席には誰も座っていなかった。
「ん?斉川、何か知ってるのか?」
「あ、いえ...」
かなり早い時間に登校しているはずだ。それなのに教室に居ないのは何故だろうか。
「もう...茜ったら...」
夕華と一瀬さんは仲が良い。少し大人びた一瀬さんが夕華を妹のように可愛がっている様子は微笑ましいものだ。
「...橋本、一瀬に会ったら放課後に職員室に来るように言ってくれるか?」
「はーい」
明るい表情で返事をする夕華に少し穏やかに微笑み返すお兄さんを見逃さなかった。
...結局、一瀬さんが教室に姿を見せたのは一限目が始まる寸前だった。
「ねえ、茜」
「なあに?ふふっ...寂しかったの?よしよし」
軽く微笑んで夕華の頭を撫でる一瀬さん。
美少女2人が戯れている様は目の保養になるというものだ。
「それもあるけど...お兄ちゃんが放課後に職員室に来てって言ってたよ」
「お兄ちゃん?ああ、先生ね。はいはい。放課後...はダメね。お昼休みに行くって言っといて」
「それはいいけど...放課後は忙しかった?」
「....ちょっと用事があるのよ」
少し暗い表情を見せていたものの、それ以上聞くなと言った雰囲気を夕華も感じたらしく、深くは聞かなかったようだ。
そして、授業は何事も無く進み、お昼休みに入った。
夕華は一瀬さんと一緒に教室を出たが、夕華だけ戻ってきた。
しかし、その表情は複雑で、何か考え事をしている様子だ。
「夕華、何かあった?」
「え?...ううん大丈夫。何でもない」
僕に意識は向けられたものの、すぐに難しい表情に切り替わった。
....なんだというのだろうか。
そして、予鈴が鳴ったので次の授業の準備を始めた。次の授業は社会科だ。
「っ...!」
「あ...夕華...」
教室の扉の隙間からお兄さんと一瀬さんの姿が見えると、夕華は弾けるように教室を飛び出した。そして、お兄さんの下にたどり着くと、一瀬さんは教室に向かい、お兄さんと夕華だけが取り残された。
角度的に恐らく僕にしか見えない場所に移動すると、お兄さんは夕華に顔を寄せて会話をしているようだ。...僕からは見えるとはいえその姿は殆ど見えない。
「....」
まるで口づけを交わしているようにも見えるその姿に、少し胸が締め付けられた。
「....!!」
見間違えでなければ、夕華が少し背伸びしたように見えた。
そんな距離で背伸びなどしたら....
いや...違う。見間違えに決まっている。
僕は....そう自分に言い聞かせた。