優柔不断は切り捨てろ:周りの美少女は全員他人のモノ 作:エルサイズ
――――――――――――――――――――主人公視点
「...」
車に戻ると、目を真っ赤にしている美咲が助手席に座っていた。
「お待たせ」
運転席に乗り込んで電源を入れると、3500ccのV6エンジンの始動音と共にエアコンが駆動し始めた。
「いえ...」
覇気の無い声だった。
「よしよし。よく頑張ったな」
美咲に手を伸ばし、柔らかい髪の上から頭を撫でた。
「ありがとうございます。...ふふふっ、本当にお兄ちゃんみたいですね」
力なく微笑む美咲。
「本当にお兄ちゃんだからな」
夕華や茜は妹みたいなモノだ。...身体の関係が有るけれど。
「...エッチしてるのに?」
いたずらっぽい笑み。...言われてしまった。
「...そうだな」
否定することは出来ない。
「ふふふっ...でも、良いと思いますよ?」
「そうか?」
まあ...絶対に無理だと言われると困っていたのも事実だ。
「はい。その、世間一般の常識で言うと...ちょっと思うところはありますけど。でも、夕華先輩も茜先輩も...すっごく幸せそうですし」
ほんのりと頬を染めながら言葉を紡いでいた。
「そ、それに...」
美咲は少し恥ずかしそうに続けた。
「に、兄さんは、その、すっごく上手で...き、気持ち良かったって...言ってました」
...更に頬を赤らめていた。
アイツらなんてことを話しているんだ...年頃の女の子のガールズトークはそこまで話すのか...?
「...とりあえず帰ろうか」
「は、はい...」
泣き腫らした目は赤く、それとは別に頬が赤い美咲だった...
――――――――――――――
それから数日。美咲は徐々に落ち着きを取り戻していた。
特に茜が気をかけているという事もあるのだろうが、何より母親と一緒にゆっくりと過ごす時間が良かったのだろう。
「ふぅ...」
かく言う俺は、最近の別荘からの長距離通勤の為に放置していた仕事に追われていた。
生徒に配る資料や授業の準備は怠っていなかったのだが、それ以外の仕事は溜まりに溜まっている。
そんな中、明日は土曜日で休日だというのにこんな夜更けまで学校に残っていた。
茜には家の事を頼み、遅くなるから先に休むように伝えている。
―――『...茜ってお兄ちゃんの奥さんみたいだね』と頬を膨らませていた夕華のフォローに、24時間営業のスイーツショップで何か買って帰ることにしよう。
「さて...」
なんとかキリが良い所まで片付いた...これ以上は居眠り運転をしそうなので帰宅するか。寄り道もあることだし。
俺はパソコンの電源を落とし、カバンに詰め込んで職員室を後にした。
既に生徒は完全下校していることは分かっている。先程生徒指導の先生が帰宅間際に伝えてくれた。
「...」
綺麗に整頓されている隣のデスクを覗いた。
『手伝いますよ』という八條先生の言葉に甘えていれば...もう少し楽しく残業出来たのだろうか。...いや、ダメだ。こんな夜更けまで彼女を付き合わせるワケにはいかない。
これ以上考えても仕方ないので、玄関のセキュリティコンソールで警備を開始して学校を後にした。
「えっと...」
車に乗り込み、システムを起動する。
モーターの低い駆動音の後にV6エンジンが始動し始めた。
その間にナビゲーションのスタート画面が切り替わり、目的地をセットできるようになっていた。
「スイーツスイーツ...あったあった」
最近話題の24時間営業のスイーツショップ。車で少し走った街に出来たので気になっていた。
勿論俺はそんなことは知らなかったのだが、昨日の夜に夕華と美咲が楽しそうに話しており、俺も興味を持って詳しく聞いた次第だ。
ちなみに、ここから車で20分程度の所らしい。
「せっかくなら全員分買って行くか」
甘いモノが苦手な人は居なかったはず。...いや、華織さんは分からないな。数少ない成人組なので一緒にお酒を嗜むことはあるのだが、スイーツを嗜んでいる姿を見たことが無い。
この前は美咲に加えて茜や夕華も一緒にお菓子作りをしている姿を見たので嫌いではないとは思うけれど...
「メッセージ入れとくか」
彼女も今日は仕事で遅くなると聞いている。会社の部署内の飲み会が有るらしい。
車を走らせる前にメッセージを送り、送信出来た事を確認して発進した。
.....................
「ここか」
比較的住宅地が多い地区を抜け、飲食店や居酒屋がちらほらと並ぶ地域に到着した。
目についたゲート式のコインパーキングに駐車し、つい先ほど目にした店舗に向かった。
―――そのときだった。
「ん?」
スマホに着信が入って来た。
誰だろうと画面を覗くと、そこには『花園華織』と表示されていた。
「もしもし?華織さん?」
『あ...もしもし?』
落ち着きのある綺麗な声だ。
「華織さん?どうされました?」
『ふふふっ...メッセージ、見ましたよ』
先程の送ったメッセージの事だろう。
「あ、見られました?それで...どうですか?甘いモノは好きですか?」
『はい♪甘いモノ大好きです♡』
楽しげな声色だ。
彼女は精神的に不安定なところが有ると聞いていたのだが...どうやら順調に回復しているらしい。全員がそうとは限らないだろうが、やはり子供が出来ると違うのだろうか?
「わかりました。それなら華織さんの分も何か買って行きますね。何が良いですか?」
折角なので好みを聞いておこう。
『うーん...お電話でお伝えしても良いんですけど...♪』
ふと、電話口から声が離れた。
「華織さん?」
そう尋ねたその時―――
「直接...お話したいです♡」
突然、真後ろから甘い香りとお酒の臭いと共に電話口で聞こえていた声が聞こえて来た。
「か、華織さん!?」
いつの間にか背後を取られるとは...集中力を使い過ぎるのも良くないな。
「えへへ...近くの居酒屋でしたので...来ちゃいました♡」
そう言えば、このスイーツショップに来ることもメッセージで伝えていた。
「そうでしたか...でも、抜け出してきて良かったんですか?」
「はい♪...しつこいナンパから逃げて来ただけですし」
少し表情が陰る華織さんだった。
「...社内の人ですか?」
度が過ぎる場合や、上層部の人間であれば何かしらの対処が必要かもしれない。
「はい。あ、でもそこまで酷くは無いですよ?良くあることですし」
「そうなんですか?」
まあ...これほどの美人なんでナンパしたくなる気持ちも分かるけれど。
「はい。今日は...この後カラオケや別のお店に誘われていただけですし。でも...」
あわよくばその後に...とナンパした男は考えているかもしれない。
「...わかりました。でも、何かある前に相談してくださいね?なんでもお力になりますので」
「ありがとうございます♪...何でも?」
「ええ。何でも」
おおよそ殆どの願いは叶えることが出来るだろう。
「それなら...あ、いえ...また後で、お話します」
何故か少し顔を赤らめてそう告げる華織さんだった。
「わかりました。とりあえず...何か買って帰りましょうか」
「はい♪」
......................
俺たちは肩を並べて店内に入り、目についたアイス類を購入して帰路に就いた。
「それでは帰りましょうか」
「はい♪」
助手席で華織さんがシートベルトを装着した事を確認し、車を出発させた。
「...華織さん、お店はどちらの方向でした?」
「えっと...ここから南の方ですね」
「わかりました」
家路も南の方なのだが、今回は逆方向に向けて出発した。
「あれ?お家の方角って...」
「ええ。反対方向です」
居酒屋の方向を通ると、彼女の職場の人間に見られてしまうかもしれない。
「そ、そうですよね。...それにこっちの方って...っ...」
「え?」
ちらりと隣を見ると、外灯に照らされた頬が真っ赤になっていた。
「そ、その...私は...あなたになら...良いですけど...寧ろ、嬉しいというか...」
何故かしどろもどろになっている華織さん
「華織さん...?」
「でもでも...アイス溶けちゃいますし...きっと私夢中になっちゃいますし...でも...」
「一体何を言って...あっ」
そこで気が付いた。...ここラブホ街だ。
煌びやかな看板と共に見えるのは『休憩○○○○円!宿泊○○○○円!』の文字や、『全部屋オンデマンド配信見放題』と書かれた大きな建物たち。
土曜の夜にいきなりこんなところに連れて来られると身構えてしまうだろう。
「あ、いえ...そういうつもりじゃなくて...」
「え?」
パタリと動きが止まる華織さん。
「その...男の車に乗っている所を見られて変な噂をされるとご迷惑でしょう?」
既婚者であったことは知られているはずだ。...それでもナンパされるほどの美人であるが。
「あ...そ、そういうこと...でしたか。その...ありがとうございます。お気遣いいただいて...」
明らかに気落ちした声色。
...え?行きたかったの?
「...」
むくむくと邪な欲望が鎌首をもたげ始めた。
「私ってば...年甲斐もなくはしゃいじゃってすみません...」
恥ずかしそうにする様が...なんとも大人のイメージがある彼女とギャップが有って可愛らしい。
「...華織さん」
路肩にハザードランプを点灯させて停車し、彼女と向き合った。
「??」
こちらに視線を向けて来た華織さん。
そのまま細い顎を捕らえて強引に顔をこちらに向けさせた。
「ぁ...」
小さく声を漏らす華織さん。嫌がっている様子は無い。
「期待、していたんですか?」
真っすぐに見つめながら囁いた。
「...はい...♡」
囁くような声だった。
色気のある...甘い声色だった。
「...わかりました。とりあえず帰りましょうか」
彼女を解放し、再び運転席に座り直した。
「え?...あ...は、はい...」
明らかに気落ちした声。
どうやら本当に期待しているらしい。
...しかし、それは俺も同じこと。
俺は、深夜であることを良い事に、少し速度を上げて帰路に就いたのだった。
お待たせしてしまい申し訳ございません...また更新していきますのでよろしくお願いします。