優柔不断は切り捨てろ:周りの美少女は全員他人のモノ 作:エルサイズ
――――――――――――――――――――主人公視点
美咲と初めてセックスをしたあの日から数日。
行為そのものが切っ掛けかもしれないが、美咲の精神状態はみるみるうちに良くなった。
今ではもう満員電車に乗れる状態まで回復し、本人の希望でアルバイトにも復帰するとのことだ。
別に金銭的に厳しい状態ではないので無理に働く必要はないのだが、美咲はアルバイトそのものが楽しいらしく、パートのお姉さま方からも可愛がられていたとのことなので戻りたいらしい。
ちなみに、美咲の学費やその他諸々の費用は華織の給料から支払われている。これに関しては絶対に譲らないと宣言された。...実の娘の事なので責任を取りたいのだろう。
「ふぅ...」
今は夕暮れ時。俺は職員室に戻って小テストの採点と次回の授業の準備をしていたのだが、ようやく一段落ついた。
「お疲れ様です♪」
柔らかく美しい声で労いの言葉をかけられた。
「お疲れ様です、八條先生」
プラチナブロンドのロングヘアに透き通るような白い肌。英語の先生にしか見えないのだが、れっきとした国語の先生だ。
「お疲れ様です。あんまり無理しちゃ...めっ、ですよ?」
そう言いながらフィナンシェをカバンから2つ取り出した。
「はい、どうぞ」
ニコニコと可愛らしい笑顔を浮かべたまま、その内の一つを手渡してきた。
「良いんですか?」
「はい♪...今日はもう2個も食べちゃいましたから」
少し恥ずかしそうに頬を染める八條先生。...3個までは許容量らしい。
「それでは...遠慮なく頂きます」
「はい、どうぞ♪」
彼女の白く柔らかい手からフィナンシェを受取った。
そして、そのままジャケットのポケットに入れた。
「あ...今、お食べになるのではないのですか?」
フィナンシェを両手で持っている八條先生が小首をかしげている。
「後で頂きますよ。今食べると夕飯が食べれなくなりますので」
「なるほど...それでは私も」
八條先生もフィナンシェを上着のポケットに仕舞い込んだ。
「良いんですか?」
「...実は、今日はもう食べすぎかなって思っていましたので」
えへへ...とはにかむ八條先生。...相変わらず可愛いな、この人。
「良い心がけです」
「ふふふっ...ありがとうございます」
残業で少し疲れた心身に効果的な、清涼剤のようなひと時であった。
...............................
「さて...」
少し前に帰宅する八條先生を見送り、俺も岐路に就くことにした。
周りの机にはカバンが残っている。...今日は他の先生も何かと忙しいらしい。
「お疲れ様です、教頭先生。お先です」
「お疲れ様。気を付けてね」
挨拶を済ませ、駐車場の自家用車に乗り込んだ。
「今日は...美咲がバイトに復帰する日だったな」
様子見がてらスーパーに寄って帰るか。
俺は脳内で目的地を決め、車を発進させた。
「...」
校門を出ると、ちらほらと他の車が走っている。夕飯時に近い時間なので、帰宅する人や買い物に出かける人で混雑しているのだろう。
...そういえば、聞いた話によると翔太はアルバイトを辞めなかったらしい。
あの状況の中で辞さないというのは、なんとも鈍いのか図太いのか...よくわからない奴だ。
ぼんやりとそのようなことを考えながらスーパーを目指したのであった...
――――――――――――――――――――美咲視点
スーパーの更衣室...久々に来るけれど、まだ少し怖い。
パートのおばさまたちには体調を崩していたと説明しているけれど、まあ...概ね間違ってはいないと思う。
「はぁ...」
パイプ椅子に深く腰掛けたまま、思わずため息を吐いてしまった。
「大丈夫?無理しなくてもいいのよ?」
心配そうに私を見つめているのは...私より小柄な年上の後輩。...でも、私のお姉ちゃんのような人。
「大丈夫ですよ、茜先輩...ちょっと怠けているだけですから」
...そういうことにしておく。
「...怖くて当然よ。まだそんなに経ってないんだから」
茜先輩は私の頭を撫でてくれた。
「...ありがとうございます。正直に言うと...ちょっと怖いです。でも、本当にもう大丈夫なんです。もう...私は一人ではないので」
お母さんも居る。夕華先輩も居る。それに...茜先輩と兄さんが居る。それだけで...私はもう怖くない。
「...そう。それならもう止めないわ。でも―――」
茜先輩は優しく微笑みながら撫で続けてくれた。
「...あなたは私の妹みたいなものなのだから...遠慮しないこと」
「えへへ...ありがとうございます」
私が休んでいる間...茜先輩はずっと私を気にかけてくれた。もちろん夕華先輩も優しくしてくれたけれど、茜先輩はお母さんが仕事でいない間はずっと一緒に居てくれて...もう一人のお母さんみたいだった。
「ふふふっ...」
優しく微笑んでいる茜先輩。...兄さんも時々茜先輩に甘えているけれど、多分...こんな母性的なところが好きなんだろうなぁ...
兄さん...あ、そういえば―――
「茜先輩。さっき私のこと妹みたいなものって言ってましたよね?」
「ええ。それがどうかしたの?」
小首をかしげている茜先輩。
...私は、特に何も考えずに思い浮かんだことを口にしていた。
「実際、私と茜先輩って竿姉妹ですよね」
「...さおしまいって何?」
不思議そうな顔で小首をかしげている茜先輩。
...自分でもとんでもないことを口走っていたと気が付いたのは、意外と純情な義理の姉の顔を見た後だった。
「な、なんでもない...ですっ...!」
「??」
茜先輩は何か言いたげな様子だったけれど、シフトに入る時間が来てしまった。
「...い、行きましょう!茜先輩!」
「え、ええ...」
困惑気味の表情の茜先輩の手を引いて、更衣室を出るのであった。
...............................
「ありがとうございましたー」
夕飯前のラッシュアワーが過ぎ、レジ業務も少し暇になってきた。
「ふう...」
「美咲ちゃん、無理しなくてもいいのよ?」
目の前のレジにに入っていたパートのおばさまにも気遣われている。
「大丈夫ですよ。ちょっと怠けていた分を取り戻りますから!」
明るく答えた。
「もう...そんなに頑張らなくても良いのよ?」
「えへへ...ありがとうございます」
何だかんだで...このスーパーの人間関係は良好な方だと思う。
女の人が多い職場は人間関係が複雑とは聞いたことがあるけれど、ここでは特に不仲の噂は聞かない気がする。
...と、そんなことを考えていると次のお客さんが並んでいた。
「い、いらっしゃいま―――ええっ!?」
「お疲れ様、美咲」
そこに立ってたのは...スーツ姿の兄さんだった。
「に、兄さん...どうしてココに...?」
自分でも変なことを聞いたと気が付いた。...それに、先ほどの竿姉妹発言のせいで頬が熱くなってしまう。
「どうしてかというと...まあ、御覧の通りだよ?」
カゴの中にはビールの6缶パックとカシューナッツが入っていた。
―――当然、買い物に来たに決まっている。
「あ...」
このビール...お母さんの好きな銘柄だ。それに、カシューナッツもお母さんの好物だ。
「ほら、お会計お願いできる?」
「あ、は、はい」
ぼんやりとしていた...仕事しないと。
レジを通して金額を伝えると、兄さんはクレジットカードで会計を済ませた。
「帰りはどうする?迎えに行こうか?」
ここから兄さんのマンションまではそこまで遠くはない。それに、前の家と兄さんのマンションも近いので通勤経路もほとんど変わらない。
「大丈夫ですよ。茜先輩も居ますし」
そういえば...上がりの時間一緒だったかな...?
とはいえ、そんなことを言えば兄さんはきっと心配するだろうから何も言わなかった。
「そうか...それなら良いけれど」
「それより...今日はお母さんと晩酌でしょ?」
あの買い物内容なら間違いないだろう。明日は兄さんもお母さんも休みだし。
「...バレたか。まあ、茜と美咲が帰って来るまでは飲まないさ」
最近気が付いたけれど、兄さんはいつもそうだ。夕華先輩や茜先輩、お母さんや私が帰宅するまで絶対にお酒を飲まない。
「...いつも本当にありがとう、兄さん...♡」
そんな優しいところが...本当に好き。
「??どういたしまして...?」
よくわかっていない様子だ。...そんなところも可愛いと思う。
「ふふっ...♡」
兄さんがエコバッグに商品を詰めて駐車場の方へと出て行った。
無意識のうちに目で追っていると、外の商品を補充していた茜先輩と何か話していた。
遠目から見ても茜先輩が笑顔になっていることがわかる。...やっぱり、私のお姉ちゃんも兄さんのことが大好きみたい。
「美咲ちゃん、こっちのレジ閉めるわね」
「あ、は、はい」
パートのおばさまはもうすぐシフトが終わる。その為にレジ閉め作業を行うのだ。その間は私のレジ1台で対応することとなる。
―――混んできたら茜先輩を呼ばないと...でも、兄さんと楽しそうに話しているから呼びにくいかも。
そのような杞憂があったのだが、特に混雑することもなくレジ閉め作業は終わったのであった。
「じゃあ、帰るわね。美咲ちゃん、お疲れ様」
「お疲れ様でした」
おばさまは汚れた硬貨や受け取った商品券をもって事務所に向かっていった。
そろそろ次のシフトの人が来るハズだけど...
「...お疲れ」
「あ...お、お疲れ様です」
現れたのは...翔太さんだった。
なんとも気まずい気分だったけれど、それは翔太さんも同じみたい。
そこで気が付いた。
...多分、このシフトだと茜先輩は私より1時間早く上がる。ということは...
「あっ...」
今日は翔太さんと同じ時間に上がることになる。...余計に気まずい。
「...」
しかし、気分で仕事を怠るわけにはいかない。
それに、一応は翔太さんと私は関係を清算しているつもりだ。...思うところはあるけれど、翔太に非があるわけでは無いのだから
でも...何となく、納得は出来ない。
兄さんなら...兄さんならきっと...と、比べてしまう。
「...だめだめ」
そんなことを考えるのは兄さんに失礼だ。...翔太さんにも。
その後は、無心で働いたのであった。