優柔不断は切り捨てろ:周りの美少女は全員他人のモノ 作:エルサイズ
――――――――――――――――――――翔太視点
部活終わりの帰り道。
今日はバイトも無いので帰宅中だ。
「...っ...」
脳裏に浮かぶのは、つい先日の公園での出来事。
顔をひきつらせた美咲、俺を睨みつける先生。そして...その腕の中で涙を流す美咲。
...気に食わない。とにかく気に食わない。
今まで付き合った女の子はみんな俺に夢中だった。だから、俺の言うことを何でも聞いてくれた。
美咲もそうだった。あんなに俺の事を好きでいてくれたのに...
それに...麻衣さんもそうだ。傷心のところを慰めてもらい、俺が彼女に夢中になると同時に彼女からは好かれている自信があった。それに、セックスの際もちゃんと感じていたはずだ。
「...」
でも...結局のところ股と頭が緩い女だったのだ。だからあんな女はもう知らない。俺にはもう...俺を愛してくれる美咲しか居ない。
優しくて、賢くて...俺を愛してくれる愛しい恋人。
ちょっとしたすれ違いはあったけれど、話せばきっと分かってくれる。
「...」
しかし...昨日の公園の出来事が頭から離れない。
...あれは何だったのだろうか。先生と美咲は何か関係があるのだろうか。
「...とにかく美咲と話そう」
昨日はちゃんと話せなかった。それに...ちゃんと二人きりになれるところに行かないと。
俺はスマホを取り出してメッセージアプリから美咲に電話を掛けた。
「...」
...出ない。今日は美咲はシフトに入っていたかな?
買い物ついでにスーパーに寄ってみよう。
................
家を出て数分、すぐにスーパーに到着した。
「お?」
居た。白いブラウスにエプロンと帽子姿。
地味な制服姿さえ彼女の美貌のお陰で素晴らしい衣装に見える。
「...よし」
声をかけよう。レジに入っている今ならすぐに話せるはずだ。
自動ドアをくぐり抜け、サッカー台に並ぶ買い物客をかき分けて奥のレジに向かう。
そして、ようやく彼女の元にたどり着いたのだが...
「っ...!」
次から次へと買い物客が彼女の元に並ぶ。...わざわざ俺の邪魔をしなくても良いのに。
4台並ぶレジがフル稼働している今、別に彼女のレジに並ぶ必要は無いだろう。
そんな中、美咲に声をかけようとタイミングを見計らっていたところ―――
「あれ?翔太?」
段ボール箱を抱えた店員に声をかけられた。
「え?」
マスク姿の男性店員。一瞬、誰なのか判別出来なかったのだが、すぐにその声の主が友人の斉川圭介であることに気が付いた。
「圭介...」
親しい友人ではあるが、今は圭介とお喋りしている時間はない。
それに、彼はレジに入らなくてもいいのだろうか?見たところそれなりに混雑している。彼が美咲の代わりにレジに入れば良いのに。
「今日はシフト入ってなかったよね?遊びに来たの?」
「あー...うん。そんなところ」
「...?」
圭介と話している間に、段々と人混みが疎らになってきた。
それと同時に、美咲が俺に気づいたらしい。
「み、美咲...」
「はい?」
不思議そうに小首をかしげる美咲。
一つ一つの仕草が愛らしく、思わず頬が緩みそうだ。
「その...この後―――」
そう言いかけたその時、背後に人の気配を感じた。
「お疲れ様です!!」
それなりに長身なはずの俺より更に大きい体躯。筋肉質な体つきにスキンヘッドで強面という...およそ一般人には見えない新しい社員さんがそこに居た。
「お、お疲れ様です...」
その迫力に気圧されながら挨拶を返す。...そうしなければボコボコにされそうな気がした。
社員さんはニコりと爽やかな笑顔をこちらに向けた後、美咲の方に振り返った。
「美咲さん、兄貴から伝言です!!」
大声で美咲に声をかける社員さん。
美咲は少し顔を赤くしながら慌てて社員さんを制した。
「わ、わかりました!わかりましたから!...帰りの件ですよね?」
「はい!」
よく言えば元気のよい、悪く言えば威圧感のある大声だ。
「わかりました。よろしくお願いします」
「はい!兄貴にそう伝えておきます!」
嵐のように過ぎ去る社員さん。
...噂では彼のお陰で質の悪いクレーマー気質の客が減ったらしい。
「あ、ごめんなさい。それで?何の御用ですか?」
妙に他人行儀な口調が気になるところではあるけれど...まあいい。
「あ...いや...その...後で、公園に来て欲しい。その...前に行った公園のベンチまで」
付き合い始めてすぐの頃、美咲と夜遅くまで語り合った公園のベンチだった。...あの日はお互いの両親にこっぴどく叱られたモノだ。
「どうして?」
間髪入れずに理由を尋ねられた。
「それは...その...」
何と説明しようか...
そう思い悩んでいたところ、美咲の方が先に口を開いた。
「...シフト終わって1時間後なら行けますのでそれでも良いですか?」
「あ、ありがとう」
よかった...理由を説明しなくて済んだ。
「...?」
圭介は終始不思議そうな顔を浮かべていた。
................
スーパーから程近い公園。確か美咲の家も近所の筈だ。
「...」
俺はぼんやりとベンチに腰かけていた。
時刻は...そろそろ約束の時間だ。
しかし、どうにも美咲が来そうな気配が無い。
1時間程前に駐車場に車が停まった事を除けば他に人の出入りは無い。
「...遅いな」
時間に正確で真面目な美咲の事だ。約束の時間の15分前には待ち合わせ場所に来ているし、30分前には近くで待機している事も珍しくない。
そんな彼女が約束の時間を過ぎても来ないなんて...まさか何かトラブルに巻き込まれているのではないだろうか?
「それに...」
駐車場の車も気になる。木の陰で中は見えないけれど、人が出てくれば分かる程の距離だ。しかし、大きな白いセダンのドアは一度も開いていない。
『....!....!!』
その車からは、時折くぐもった声が聞こえ、かすかに揺れているようにも見えた。
まさか、こんなところでカーセックスでもしているのだろうか?
確かにこの公園の駐車場は道路からも離れており、木々に囲まれているので好都合なのかもしれない。...ハイエースで女性を連れ去り、ここで暴行するという事件の噂話を耳にしたこともある。
「...」
まさか、あの車もそのような犯罪者が乗っているのだろうか?
どうするべきか...と悩んでいたところで、俺のスマホに着信が入る。
...相手は美咲だった。
「もしもし?」
『はぁ...はぁ...ごめんなさい、遅くなってしまって...もうすぐそっちに向かいます』
何故か息切れしている。走って来ているのだろうか?
「あ、ああ。急いで来なくても良いからな」
美咲が怪我をしたら大変だ。
『はぁ...はぁ...大丈夫です。すぐに...っ...到着しますので...っ』
そこで通話は終了した。
...さて、俺もベンチに戻るか。
「...?」
ドアを開閉する音が聞こえた。...まさか、あの車には...いや、気のせいだろう。
俺は疑念を振り払い、思い出のベンチに向けて深夜の公園内を歩んだ。
さらさらと頬を撫でる夜風が心地良い。
「そういえば...」
美咲と深夜まで過ごしたあの日も似たような気候だった。
夜も更けた頃、美咲は少し寒そうにしていた。そんな中で、美咲が寒くないようにと俺のブレザーを上から着させたものだ。
...俺は寒かったけど、美咲の笑顔が見れたので満足だった。
そんなことを思いながら思い出のベンチを目指す。
そして、通路を一度曲がって到着したその先には―――
「寒くないか?」
「ううん...平気です...♡」
俺と美咲の思い出のベンチに座る...密着した男女の姿だった。
「あ...」
男性はYシャツに灰色のスラックス、そして濃い茶色の革靴に紺色のネクタイだ。女性の方は...見覚えのある制服の上から灰色の男物のジャケットを着ている。
「?」
俺の声に男性の方が先に気が付いたらしい。
「え?」
女性の方もこちらに振り返った。
「み、美咲...」
当然のことながら、その女性は美咲であった。そして...
「学生がこんな時間にフラフラと出歩くのは感心しないな」
先生だ。...そうだ。あの白いセダンは先生の車だ。どうして忘れていたのだろうか。
「ど、どうして先生がここに...」
俺は美咲と二人で話がしたかったというのに...
「俺が美咲の保護者だからだよ」
「あっ...♡」
美咲の細い腰に手を回しながら答える先生。
...明らかに保護者や教員が接する距離感ではなかった。
それに...美咲の方も満更では無さそうだ。
「でも...!」
「そんなことより、美咲に何か話があったんじゃないのか?」
俺の疑念など"そんなこと"という些細なモノらしい。
「お、俺は...美咲と...」
二人きりで話がしたかった、と伝えたくて美咲に近寄った。
「...っ...!」
美咲はビクンと身体を跳ねさせ、咄嗟に先生の体に抱き着いた。
「み、美咲...?」
その不自然な所作に違和感を感じた。
「小井川、悪いがあまり勢いよく美咲に近づかないでくれ。お前も事情は知ってるだろ?」
まあ、あんなことがあれば男が怖くても仕方ないだろう。...しかし、どうして先生は平気なのだろうか?
その疑問が浮かんだのだが、それはすぐに美咲が答えてくれた。
「その...先生は平気だし、信頼してる人なら多少は大丈夫なんですけど...他の人に勢いよく来られたら怖くて...」
...俺は"他の人"のカテゴリーに含まれているらしい。
「わ、わかった...気を付けるよ」
その時、美咲の顔が外灯でちらりと照らされた。
「...?」
暗くてよく分からなかったのだが、何やら口元に何か付着している。髪の毛かと思ったのだが、明らかに太さが違う。それに、なんだか妙に汗ばんでいるような...
「美咲、口元に何か...」
そう指摘した途端、美咲は慌てて口元を手で覆い、そのままハンカチで拭き取った。
「な、なんでも無い...ですっ...!」
「あ、ああ...」
別に何も疑ってはいないのに、そんな態度をされると不自然に見えてしまう。
「そ、それで?何の御用ですか?」
取り繕うように質問を投げかける美咲。
「そ、それは―――」
本題に入ろうとしたその時...
「あっ...!」
突然声を上げる美咲。
一体どうしたというのだろうか?
「美咲?」
先生が美咲に問いかけていた。
「に、兄さ.....さっき.....垂.....て...」
美咲は先生の耳元に顔を寄せ、何か囁いていた。しかし、風音でこちらまでは聞こえない。
「あー...」
先生は何やら納得したらしい。
そして―――
「美咲のせい、かもね」
―――少しからかうような口調で美咲に微笑みかけた。
「...確かに始めたのは私ですけど」
唇を尖らせている美咲。
先生はそんな彼女の頭を優しく微笑みながら撫でていた。
...なんだこれ。
「あ、ごめんなさい、遮っちゃって」
美咲はようやくこちらを向いてくれた。
...よし、言おう。
「み、美咲...もう一度、俺と...付き合ってくれないか?その...悪いところは全部治すからさ...」
「嫌です」
言い切った。あとは美咲の反応を...え?
「今、なんて...?」
「だから、嫌ですと言いました」
断られるかもしれない。そうは思っていたのだが、まさかこんなにきっぱりと言い切られるとは...
「ど、どうして...?」
一応、理由を聞いておきたい。
「どうしてって...もうあなたに気持ちが向いていないというのが一番の理由です」
またしてもバッサリと切り捨てるように言い切られてしまった。
「それに...二股なんてできませんし♡」
「え?ふ、二股...?」
まさか...
「用事はそれだけですか?」
特に感情が込められていない口調。
もうお前との話は終わりだと言外に伝えられているようだ。
「で、でも...!」
「でも?」
小首を傾げている美咲。その様は大変愛らしいのだが、口調は平坦で冷たい。
「...何でもない」
「そうですか。それでは...これで"終わり"ですね」
俺は...美咲を引き留める事が出来なかった。"終わり"という言葉の中には、俺たちの関係もこれで完全に終わりであると言われていることが理解できたからだ。
「じゃあ帰ろうか。小井川、夜も遅いから寄り道せずに帰るんだぞ」
「...はい」
今更教師面されても説得力は無い。
だからと言って何か言い返す度胸は無かった。
「...失礼します」
これ以上は見ていられない。そう思いながらベンチを後にした。
................
「あっ」
公園から出た途端、あのベンチに忘れ物をしている事に気が付いた。
財布やスマホはポケットの中にあるのだが、家の鍵や最低限の筆記用具が入っている通学カバンを置いてきてしまった。
生徒手帳も手元にあるので別にあのカバンそのものには大した価値はないのだが、家の鍵は無いと困るので取りに帰る事にした。
「...」
公園の敷地に入り、ちらりと駐車場を見た。
...居る。白い大きなセダンはまだ駐車されている。
ということは...
「...居た」
通路ではなく、樹木の間を抜けてベンチの裏からこっそりと近づくと、ベンチには先程と同じように先生と美咲が腰かけていた。
「...」
息をひそめながらゆっくりと近づくと、二人の会話が聞こえてきた。
「もう...兄さんのいじわる」
「ごめんごめん。...でも、最初に咥えてくれたのは美咲の方だろ?」
「それは...そうですけど」
「まあ、調子に乗ってその後
「なっ...!そ、外でそんなこと言わないでください...!」
...え?
どういうことだ...?
理解が追い付かない...
「....誰もいないから大丈夫さ」
「...それなら良いんですけど」
「美咲は嫌だったのか?」
「...ふふふっ...わかってるくせに...♡」
甘ったるい声。まるで...恋人に甘えるような口調だ。
「美咲...」
「兄さん...♡」
月明りを背に、お互いに視線を絡めあう二人。
そして、段々とその距離を縮めて―――やめてくれ...本当に...やめてくれ....っ....!
「ん...」
「んぅ...っ...♡♡」
「ぁ...あぁ...」
腰から力が抜け、膝から崩れ落ちてしまう。
「...」
「んぅ...兄さん...♡....んっ...れぅ...♡」
甘ったるい声を漏らしながら夢中で舌を絡めあう美咲と先生。
先生は美咲の耳を塞ぎ、視界を奪うように抱きしめながら深いキスを交わしている。
「ちゅ...えへへ...好き...大好き...♡」
美咲の唇からとろりと唾液が糸を引き、先生の唇に繋がっていた。
蕩けた表情に甘ったるい口調。まるで恋人に向けるようなその表情に...俺の心はバラバラに砕かれてしまった。
「俺もだよ、美咲」
「えへへ...♡」
緩み切った笑顔。先ほどまで見せていた平坦な表情とは大違いだ。
「うぅ...」
ポロポロと溢れた涙が膝に落ちる。
...全て理解してしまったのだ。
もう...美咲は...先生と...身体を...
「...」
「兄さん?さっきから何処を見て―――あっ!!」
2人の視線がこちらに向けられた。
...気づかれた...!
「こ、これは...!」
「ど、どうして翔太さんがここに...!?」
慌てふためく美咲とは対照的に、実に落ち着いた様子の先生。
「これで理解できただろ?もう美咲の心の中にお前は居ないんだ」
勝ち誇るでもなく、ただただ淡々と告げられる。それが当然の事実であるかのように。
「うぅ...」
情けなくむせび泣くしかないのか...俺は...
「ほら、これを持ってさっさと帰れ」
丁寧に膝の上に置かれる通学カバン。
...どうやら、俺の行動は全て読まれていたらしい。
「ね、ねえ...兄さん....大丈夫なの?」
「ああ。どうにでも出来るさ。少なくとも美咲が傷つくようなことは無い。ほら、帰ろうか」
美咲は先生に支えられながらフラフラと立ち上がった。
「う、うん...ひゃっ!?」
しかし、唐突に声を上げながら先生の腕に抱き着いていた。
「どうした?」
「さ、さっき垂れてきたのが...またっ...!」
「...そうか。それなら...」
先生はポケットティッシュを一枚取り出し、そして...
「ちょっと触るよ」
「う、うん...ふあっ...」
おもむろに美咲のスカートの中に手を差し入れた。
「取れたか?」
「う、うん...でも、また垂れてきちゃうかも...」
「まあ、その時はその時さ。...小井川」
「...?」
唐突に声をかけられた。
「悪いけど...これ、捨てておいてもらえるか?」
「ぁ...」
俺の右手を取り、丸めたティッシュを手渡された。
「悪いな。...行こうか、美咲」
「う、うん...」
そして...美咲と手を繋ぎながらベンチを後にしたのであった。
「...」
俺は...しばらく動けなかった。
様々な感情が入り乱れる。
悔しさ、絶望、恋慕、恨み。
そして何より...俺の美しい思い出が跡形もなく破壊された気分だ。
美咲は俺と語り合ったベンチで...まるで思い出を上書きするように先生と濃厚な口づけを交わしていたのだ。
「ぁ...あぁ...」
精液の臭いの中に、ほのかに残る美咲の甘い香り。
...俺は、手のひらで丸められたゴミを捨てることが出来なかった。