優柔不断は切り捨てろ:周りの美少女は全員他人のモノ 作:エルサイズ
――――――――――――――――――――翔太視点
「さて...
川元刑事の目つきが変わった。
「ヤツ...?」
ヤツの所業と言われても...
「お前が告発した件だよ。高校の教師の...よく女を連れてるスカした野郎だ」
ああ...先生の事か。
「...わかりました。まず、今回警察に相談したきっかけは...俺の恋人が寝取られた事から始まります」
「なるほど...」
黒い手帳を取り出し、俺の言葉をメモしながら聞いてくれる川元刑事。
「それで―――」
「待て」
次の言葉を紡ぐ前に遮られてしまった。
「はい?」
「...やっぱり人違いじゃないみたいだな。今回の件、お前が取調室で話している内容を聞いていたから大体分かるんだ。だが、一応確認の為に試したんだ」
なるほど...確認の為の質問だったのか。
「それなら...川元刑事が捜査してくれるんですか?」
どうにもあの刑事課の刑事が動いてくれるとは思えない。
「ああ。...だが、慎重に動く必要がある」
「そう...なんですか?」
先生は普通の人間にしか見えないのだが...何か事情があるのだろうか?
「そうだ。あの男はとんでもない大物なんだ。刑事課の連中を見ればわかるだろ?それに...後から取調室に入ってきたジジイはあの警察署の署長だ。あのジジイももっと上の人間から指示されている」
「え...」
ドラマや映画でしか聞かないような事をポンポンと話されている。
故になんだか現実感の無い話のように思えてきた。
「冗談なんかじゃねぇぞ。だからこんなに離れたレストランまで来たんだ」
確かに遠かった。しかし、それにはこんな理由があったのか...
「だから...俺は窓際族なんだ。前に上の指示を無視してあの男を捜査した事があるからな」
「そんな、ことが...」
学校で接する分には普通に優しい先生だと思っていた。確かに美咲を寝取られた恨みはあるが、まさかそんな危険人物だったなんて...
「ああ。それで、今回は未成年への淫行だったな?」
「あ、はい。俺の彼女と...その...明らかにヤってる事を見せつけてきたんです」
今、思い出しても腹が立つ。
「あの野郎...俺の美咲を誑かしやがって...」
「なるほど...何か証拠はあるか?」
川元刑事がメモ帳を取り出そうとしたその時、タイミング悪く食事が運ばれてきた。
「...話は後だ。とりあえず飯を食おう」
「...はい」
目の前に運ばれてきたハンバーグ定食。...見た目は普通のハンバーグだ。
ナイフとフォークで切り分け、ひとかけらを口に運ぶ。
「ん...」
...可もなく不可もなくと言ったところだろうか?
特段旨い訳では無いが、別に食べれない事もないくらいだ。
「...」
黙々と食事を口に運ぶ川元刑事。
...かなり食べるのが早い。
「...っ...」
待たせては悪いと思い俺も急いでハンバーグと白飯を口に運んだ。
そして、味もよくわからないままに完食したのであった。
「ふぅ...」
食器も片付けられ、食後のコーヒーを嗜みながら再び向き合う。
「話の途中だったな。何か証拠は有るか?」
「えっと...」
証拠...それらしいモノといえば―――
「これ...です」
俺は...丸めたティッシュをテーブルの上に置いた。
「...なんだこれ?」
怪訝そうな表情でソレを見る川元刑事。
「これは...その...先生が美咲の...その...アソコを拭いた時に使ったティッシュです」
「なるほど...」
再び怪訝そうな表情を向けられるのかと思いきや、なにやら真剣な表情でティッシュを見つめていた。
「なあ、どうしてヤツはお前の彼女の股間を拭いたんだ?」
「そ、それは...」
...言い辛い。それに...思い出すのも辛い。
「...先生と、美咲がヤった後始末...みたいなモノです」
「...なるほど。理解したよ」
それで察してくれたらしい。
「それなら...付着した体液やら皮膚片から物的証拠に出来るかもな...コレ、証拠として預かっても良いか?」
「あ、はい。お好きにどうぞ」
持っているのも嫌なモノだ。
「悪いな」
そう言うと、川元刑事はハンカチ越しにティッシュを掴み透明のビニル袋に入れて鞄に仕舞い込んだ。
「他にはあるか?その...思い出すのも辛いかもしれねぇが、お前の彼女とヤツの関係について、とか」
「っ...」
俺も詳しくは知らない。
しかし、一応は聞いている。
「その...最初から話すと、美咲は薬漬けにされてレイプされていたんです」
「ヤツにか?」
当然の疑問だ。俺の言葉には主語が足りない。
「いえ、別の男です。...具体的には、バイト先の店長と義理の父親です」
「なるほど...それで?」
再びメモを取る川元刑事。
「はい。それで、美咲を助けたのが...先生らしいです」
「ああ...そうだろうな」
なにやら思い当たる節があるらしい。
「驚かないんですね」
一介の教師がそんな大事件から女の子を救い出す...まるでドラマのような展開だというのに。
「まあな。あの男は...前にもその手の事件に関わっていたんだ」
「え...?」
あの時は"知り合いが事件を片付けた"と言っていたが...ひょっとして先生も事件に直接関わっていたのだろうか?
「タチの悪い事に...ヤツは警察とも協力関係にあるんだ。言い方を悪くすればウチの警察署は署長以下ほぼ全員がヤツとヤツの後ろにいる組織に手を出せねぇ。寧ろ、心強い協力者として好意的に接しているくらいだ」
なんだよそれ...漫画かよ...
「ただ、俺はそれが気に入らねえんだ。アイツは悪党だ。そんな奴に...俺の...娘は...っ...!!」
拳を強く握りしめる川元刑事。
「ど、どうしたんですか?」
思わず動揺して問いかけてしまった。
...一体何があったのだろうか?
「あ...悪い。つい...な」
「娘さん...事件に巻き込まれたんですか?」
この反応からして、恐らくもう娘さんは...
「ああ...」
川元刑事は手帳から写真を取り出して俺に見せてきた。
「この子が?」
写真に写っているのは制服姿の少女であった。髪は焦げ茶色で派手めな化粧だが、かなりの美人でスタイルも良い。
「ああ。美紀っていうんだ。今頃は...18になっているはずだ」
はず...ということは、18歳になっている姿を見ていないという事だろう。
「女房とは別れて一度も連絡してねぇが...美紀とはたまに会っていたんだ」
川元刑事は愛おしそうに写真を撫でながら語る。
「可愛い子でなぁ...ちょっとヤンチャだが友達も沢山いて...反抗期には補導された事もあるけど...全く、そんなときばかり俺を頼りやがるんだ」
口ではそう言いながらも嬉しそうに微笑んでいる。
「"ちょっとヤンチャ"なだけでいい子なのに...ヤツは美紀の友達諸共搔っ攫いやがったんだ...!」
怨嗟の込められた声。
まさか...ただの不良少女や不良少年という事だけで連れ去ったのだろうか?
「そのときも...他の刑事さんは捜査しなかったんですか...?」
「それは...そのぉ...」
普通に尋ねただけなのだが、何故か川元刑事は言葉に詰まっていた。
「川元さん?」
「...お、俺のことは良いだろ?今はヤツの話だ」
先ほどからずっと先生の話をしている気がするのだが...まあ良いか。
「お、俺が知ってるのはそれくらいです...」
聴取とこの場で話した以上のことは知らない。
「...わかった。とにかく、この件に関しては俺が捜査する。だが、さっきも話した通り...この件には関わるとマズい奴らが大勢絡んでいる。だから慎重に動く必要がある。それに、この辺の警察は頼れねぇ。だから、今後も協力してもらうことになるが...構わねぇか?」
一般人...ましてや未成年の俺を頼るなんて...それほど誰も信用できない案件なのだろう。
「...わかりました」
「悪いな。それじゃあ行こうか」
タバコを灰皿にぐりぐりと押し付けた後、伝票を手に取って席を立つ川元刑事。
俺もその後に続いた。
「会計を頼む」
川元刑事は現金払いで会計を済ませ、ガラス戸を引いて外に出た。
「ごちそうさまです」
「構わねえさ」
ゴソゴソとポケットをまさぐり、車のカギを取り出している。
「乗りな。家まで送ってやるよ」
「あ、ありがとうございます」
地元から離れている上に、付近にバスや電車もなさそうだ。送ってもらえるのはありがたい。
「よっ...と」
「お願いします」
運転席と助手席、それぞれに乗り込んだ。
「行くか...ん?」
いざエンジンをかけて...というタイミングで、川元刑事は声を上げた。
「どうしました?」
カギを捻っているように見えるが...エンジンは掛からない。
「エンジンが掛からねぇ...おかしいな...」
故障だろうか?
しかし、それほど古い車には見えない。
「この前点検に出したばかりだってのに...」
川元刑事はボヤキながら車を降り、シートの下をゴソゴソと触り始めた。
そして、座面のロックを外し、シートごと押し上げてエンジンルームを露出させた。
「あー...」
そこにエンジンが有るのか。だからシートを上げて...
「うーん...」
しかし、シートの下を覗いても原因がわからないらしい。
「とりあえずレッカーでも呼ぶか...時間は大丈夫か?」
今日は学校をサボっているので問題ない。バイトもシフトに入っていなかったはずだ。
「はい。夜までに帰れば大丈夫です」
「悪いな」
そう言ってどこかに電話をかけ始めたのだが―――
「あれ...?」
どうやらスマホも不調らしい。
「大丈夫ですか?」
悪い偶然か...もしくは―――
「悪い、携帯貸してくれないか?」
「あ、はい」
慌ててスマホを取り出した。
「あれ?」
しかし、どのボタンを押しても反応しない。
つい先ほどまでは使えたのに...
「どうした?電池切れか?」
「そうみたいです...」
他には...あ、そうだ。
「これなら...あっ」
先生に渡されたスマートフォンだ。...麻衣さんの痴態が記録されているモノだ。
幸いなことに、何かしらのSIMカードが挿入されているらしく、通話もできる状態だ。
「もう一台持ってたのか...凄いな」
「いや、これは...あれ?」
川元刑事にスマホを手渡そうとしたそのとき、今まで通知一つ来なかったというのに...なぜか着信が入ってきた。
「...出ないのか?」
「いや...だって...これって...」
番号は...非通知と表示されている。
...しかし、出る他に無いだろう。
「も、もしもし...?」
通話開始のアイコンをタップし、耳にスピーカーを押し当てた。
聞こえてきたのは―――
『小井川...駄目じゃないか。学校をサボってどこに居るのかと思えば...』
―――先ほど話題に上がっていた人物であった。
「え...?先生...?」
「なんだと...?」
川元刑事の表情が険しくなる。
『お母さんやお父さんから教えられなかったのか?』
ドクン...ドクン...と心臓の音が高鳴る。
「な、何を...」
『お巡りさんの言うことは―――』
「―――ちゃんと守らないとな」
その声は、電話越しではなかった。