※この作品はR-18です。

ペットサキュバスの犯され学園生活~退魔師学園でエロスキル特盛の銀髪ロリ巨乳美少女サキュバスにTSしたダメ男が、性処理便所として犯されまくるようです~   作:クマノミの実

8 / 26
 この世界は基本的にエロゲ的世界ですが、

 夜が居ない時:フルプライスのラノベ風シナリオ
 夜が居る時:低価格抜きゲーシナリオ

 この位の差があります。


EX 疑念と調査

 ――退魔師。

 それは、己が魂を用いて超常の現象を発生させる、霊力と言う力に目覚めた者たちである。

 そんな、彼、彼女らの間にある一種の傾向を上げるのならば、それは退魔師と言うのは、常人に比べて力(・)に対する欲求が強い、ということだろう。

 強く。強く。より強く!

 己の能力を上げることに貪欲であり、その為ならばある程度の危険、犠牲、悪徳など気にしない。

 どうしてそこまで、強さを重視するのか?

 そういうものだから、と言われてしまえばそこまでだが、しかし、其処には確かな理由が存在している。

 

 ――退魔師たちは知っているのだ(・・・・・・・)。

 常世・幽世(かくりよ)・彼岸・異界・魔界・天界・地獄・妖精郷。呼び名は様々であり、ある種どれでも良い。

 即ち、我らが住む世界から1枚壁(・)を挟んだ、隣の世界(・・・・)。

 其処に、ナニカ(・・・)が居ることを知っているのだ。

 ドロドロでグチャグチャで、人間の知覚では上手く認識が行えない不定形のナニカ(・・・)。

 そして、そのナニカ(・・・)の眼には、我らの住む現実世界が、とても、とても魅力的に視える様であり、彼らは常に此方側に来たがっている。

 

 視えるのだ、ナニカ(・・・)が壁の向こう側で蠢いているのが。

 聴こえるのだ、カリカリと硝子を引っ掻くように、壁を掻いている音が。

 臭うのだ、甘く、爛れた、腐乱した果実の如き臭いが、壁の向こう側から。

 そして、体全身で感じるのだ、大挙して此方に押し寄せようとしているナニカ(・・・)のプレッシャーを。

 

 感じ方は人それぞれであり、その大小もまた個人差がある。

 されど、一度霊力に目覚めた時点で、誰であろうと悟るのである。自分たちが住む世界は、まるで薄氷の上に建っているかのような不確かなものであるのだと。

 そしてそれは、残念ながら確かな事実であった。

 此方がナニカ(・・・)を上手く認識出来ないのと同じ様に、ナニカ(・・・)も此方側には上手く干渉出来ない。

 しかし、それは完全では無く、ナニカの中には壁をすり抜けて、此方側にやって来ることに成功するものが現れる。

 そうした場合、彼らは此方側の世界に合わせた姿を獲得することとなる。

 それは、幽霊や、怨霊や、はたまた此方側の伝承に伝わる、魔物・妖精・天使・悪魔――或るいは神である。

 そして体を獲得した彼らが、此方の世界で暴れると、2つの世界を隔てる壁が少しずつ、しかし確かに壊れていくのだ。

 その事実を知っているからこそ、退魔師たちの力に対する欲求は高いのだ。

 何故なら、もしも壁が壊れてナニカ(・・・)が大挙して押し寄せて来たのならば、その時頼りになるのは、自分自身の力だけだと本能的に悟っているから。

 故にこそ、黄泉比良坂学園のような、場合によっては人間としての尊厳が全て奪われるような、普通の感性をしていれば、まず入りたいなどとは思えない、フザけた場所が各国で成立しているのだ。

 

 

 ……まあ、飽くまで傾向(・・)の話であるので、中には自分の尻に、どころか全身に火が回ったような危機的状態で、まだ、辛いことは明日でいいや、と問題を先送りするような、阿呆も居るのだが。

 

*

 

 赤銅色の金属の如き肌。顔の上半分に存在する大きな単眼。

 太陽のような(・・・)明かりに照らされる、清々しい平原に居るソイツ(・・・)は、そんな特徴的な姿をしていた。

 しかし、もし仮に100人の一般人が、ソイツの姿を目に収めたのなら、本来ならば目を奪われて然るべきの、それらの特徴には目もくれず、100人が100人同じ第一印象を抱く筈だ。

 

 巨大(デカい)。唯々、只管に、巨大《デカい》。

 なんせ、ソイツの大きさは、建物で表せば7階以上。凡そ20mを超える身長であった。

 人を蟻のように踏みつぶせそうな巨躯。特徴的な単眼と金属の如き肌。手に、その身体に見合ったほどに大きな金槌(ハンマー)を握りしめたソイツは――単眼巨人(サイクロプス)と呼ばれている。

 

 学園迷宮・第6級【単眼巨人(サイクロプス)の平原】。

 ただ1つ等級が異なるだけで、豚鬼(オーク)の洞穴などとは比べ物にならない程に危険なその場所。

 そこで、サイクロプスと相対している1組の人間たちの姿があった。

 

 金髪のガタイの良い――サイクロプスと比べてしまうと、流石に小さく見えるが――チンピラ風の男、荒木 士郎。

 やはり、不良めいているが、黒髪に日本人男性の平均的体格であるため、士郎に比べると、無理して悪ぶっている感が否めない男―― 友原(ともはら) 秀(しゅう)。

 セミロングな黒髪に、眼鏡をかけた気弱げな雰囲気の、大きな胸が特徴的な美少女――久住(くずみ) 観月(みづき)。

 魂装の影響により、元の茶色が、オレンジ色がかった、非常に特徴的な長髪を、ツインテールに纏めた、釣り目で勝気そうな印象を受ける、胸は全く特徴的では無い美少女――古城(ふるき) 明日奈(あすな)。

 彼ら計4人は、荒木を中心とした固定PTとして、4月の終わり頃より活動をしている者たちだ。

 

「――『魂装(モード)』【有袋守護獣(ナイトカンガルー)】!」

 

 一番最初に動いたのは明日奈であった。

 発動するは励起形態(ドライブ)。 魂装の戦闘用状態とでも思えばよい。

 髪色がより鮮やかなオレンジに染まりながら、明日奈は山の如き単眼巨人(サイクロプス)へと突撃した。

 その疾走は、走っているというよりは跳ねている。さながら、短距離のジャンプを繰り返しているかのような、特徴的な動きであった――が、速い。

 風にたなびくツインテールが、宙に橙色の軌跡を描き、明日奈とサイクロプスの間にある彼我の距離が、急速に零に近づいていく。

 

「■■■■■■■■■‼」

 

 しかし、それをサイクロプスが、只々見守っている訳も無かった。

 人間の耳では聞き取れない、巨大な咆哮が辺りに轟く。

 それと同時に、サイクロプスは、その手に持った巨大な金槌(ハンマー)を振り下ろした。

 そして、その振り下ろした先には、丁度明日奈の姿がある。

 巨体による鈍重さなど、まるで感じさせず、サイクロプスは、明日奈の素早い動きを、完全に捉えていた。

 後、刹那の時間で、明日奈に鋼鉄の鉄槌が下される。

 マトモに受ければ、それこそ潰された虫の様になるに違いない。

 

「――『魂装(モード)』【結界宿借(ハーミットクラブ)】」

 

 その未来を防がん、と動いたのは観月だった。

 発動する励起形態(ドライブ)。見た目などに、さしたる変化は起きなかったが、彼女が取った援護は、すぐさま目に見えるようになった。

 

「■■■■■ッッ――」

 

 サイクロプスが振り下ろしていた金槌(ハンマー)。それと明日奈の間に、突如として半透明の壁が現れた。

 それは、結界。此方と彼方を分かつもの。

 金槌と結界が衝突すると同時に、辺りに轟音が鳴り響いた。

 激突の衝撃で、周辺の空気が激しく吹きすさぶ。

 それほどの威力の攻撃を受けたにも関わらず、結界は見事、明日奈を守りきっていた。

 

「はぁああああッッ‼」

 

 そして、それを――観月の結界が己を守ってくれることを信じていたが故に、明日奈は一度も速度を緩めることなく、サイクロプスへと接近し、遂に笑えるほどのリーチの差を消し去った。

 そうして、そのままサイクロプスの脚部へ、殴りかかる。

 しかし、それは傍目に見れば、余りに無茶な突撃だろう。それこそ正に山に殴りかかっているようにすら見えて、いや、だがしかし――

 

 山が動いた(・・・・・)。

 明日奈の、サイクロプスと比すれば、もはや華奢という言葉では済まないほどの小さな腕。呆れるほどの体格差。

 しかし、その腕による打突により、サイクロプスの巨体が、強制的に動かされた。

 後方へ動かされるサイクロプスの両足により、地面に大きな電車道が作られ、周辺に大きな土煙が立ち込める。

 

「ふッッ――――」

 

「■■■■■■」

 

 そして、攻撃が一度で終わる訳もない。明日奈は、下がったサイクロプスへ追撃を加えるために、再び地面を跳ね駆ける。

 またもや近づいてくる、明日奈に対して、サイクロプスは、まるでそれしか考えられない脳筋の様に、先程と対応を変えなかった。

 故に、明日奈が近づき、サイクロプスが迎撃し、観月が守り、そして明日奈がサイクロプスを殴り飛ばす。

 その一連の流れが、都合何度か繰り返される。

 このまま行けば、明日奈たちの勝利は目前である――かのように見えていたのだが。

 

「■■■■■■‼」

 

「――っ!結界が破られる!一旦退いて、明日奈ちゃんっ‼」

 

「了解。観月っ!」

 

 連打されたサイクロプスの攻撃に、響く観月の叫び声。

 それに呼応して、明日奈が後方に素早く退避したその直後、ガラスが割れるような音が、周辺に大きく鳴り響き、サイクロプスの金槌の振り下ろしにより、結界が破壊された。

 明日奈が退いた事により、標的を失った金槌が地面に勢いよく叩きつけられる。

 その衝撃により、さながら地震が起こったかのかと錯覚するような、大きな揺れが発生した。

 結界を破ったサイクロプスは、それを誇るのでも無く、当然だ。とでも言いたげに鼻を軽く鳴らした。その姿に、先程までの明日奈の連撃によるダメージは一切見られず、事実として彼は一切のダメージを受けてはいなかった。

 

 巨大(デカイ)とは、力強い(つよい)という事。

 巨大(デカイ)とは、硬いという事。

 巨大(デカイ)とは、俊敏(はやい)という事。

 

 圧倒的巨体より発生する、未曾有の運動エネルギーは、ありとあらゆる小細工を消し飛ばす。

 そもそもサイクロプスが、策も練らずに、バカの一つ覚えの様に攻撃を繰り返していたのも、彼が脳筋だからという訳ではなく、策を練る(そんなこと)をする必要性が、全く見いだせなかったからだ。

 

 蟻を踏み潰す(・・・・・・)のに策を練る(・・・・・・)人間は居ない(・・・・・・)。

 それと全く同じこと。

 跳ねて飛び回る女(古城 明日奈)も、小賢しく結界を展開する女(久住 観月)も、そして戦っては居ないが、傍観している黒髪の男(友原 秀)も、サイクロプスからすれば、人間にとっての蟻と何ら変わらず、警戒に値しない。

 多少、潰しにくいのは認めよう。だが、それ以上では決して無い。それが、サイクロプスが冷静に下した3人(・・)に対する戦力評価である。

 そう3人(・・)。虫けらたちの中に、たった1人、自分と同等、或いはそれ以上の戦士が紛れていることをサイクロプスは悟っている。

 そいつに常に警戒を割いていたからこそ、明日奈たちに手間取っていた面もあるのだ。

 

「じゃあ、俺もそろそろ働くとするわ」

 

「……私たちだけでも、まだやれるわよ」

 

 その1人――士郎が遂に動き出す。このPTにおいて4級であるのは彼のみであり、他の3人は全員5級だ。等級と強さが必ずしも一致する訳ではないとは言え、この場合は、等級通りに彼が最も格上であった。

 サイクロプスの攻撃から退避して、仲間たちの元まで戻ってきた明日奈が不満を口にするが、士郎は肩を竦めた。

 

「と、言っても、あちらさんからのご指名な様なんでな。まあ、サイクロプス2人討伐はまたの機会ってことで、ここはPT全員で行こうぜ」

 

「ふんっ!」

 

 サイクロプスの大きな単眼は、士郎にのみ向けられている。正しく、他の3人など目にも入らない(・・・・・・・)、とばかりに。

 その光景を見て、明日奈も不満気ではあったものの、士郎の意見を否定したりはしなかった。

 士郎は、そのままサイクロプスの方へ歩いて行き――

 

「――『魂装(モード)』【白毛狼人(ライカンスロープ)】」

 

 ――一陣の白の風と化した。

 励起形態(ドライブ)発動から、瞬く間に士郎の姿は掻き消えて、次の瞬間には、サイクロプスの後ろ側へと移動していた。

 それと同時に、明日奈が何十発も殴打してなお、青痣1つ出来なかったサイクロプスの脚部に切り傷が付けられ、そこから血が噴き出した。

 

「■■■‼」

 

「よっ!と」

 

 士郎の居る位置に、サイクロプスが金槌を振り下ろすが、遅い。

 金槌が地面に到達した瞬間には、もう士郎の姿はそこになく、その上、再びサイクロプスの足には切り傷がつけられている。

 

「■■■■■■■■■――ッッ」

 

 明らかに速度という分野に関しては、目の前の戦士(士郎)が上をいっている――その事実を前にして、サイクロプスは攻撃の方法を切り替えた。

 これまでのような単調な振り下ろしでは無く、広範囲への薙ぎ払い。

 見た目としては、野球のアンダースローに近いか。金槌を地面に沿わせるように、円を描いて薙ぎ払う。

 特筆すべきは、その攻撃範囲だろう。山のような巨体のサイクロプスが、その腕を地面に這わせながら攻撃すれば、それだけで、辺り一帯はただでは済まない。

 

「食らうかよ、そんなもん!」

 

 しかし、その範囲攻撃を持ってしても、士郎を捉えることは出来なかった。

 横では無く、上へ。空中に跳躍して攻撃を躱すのと同時に、そのままの勢いで、士郎の体はサイクロプスの眼球へと向かっていった。

 これが通れば戦闘が終わる。そんな致命の一撃に、しかし――

 

「■■■■」

 

 飛んだな(・・・・)?

 そう言わんばかりに、その行動を予期していたサイクロプスの、金槌を持っている手とは反対の手による鉄拳が、士郎に降り注ぐ。

 地上においては、己が捉えることが出来ない敵を、空に飛ばせて仕留める。それがサイクロプスの作戦であった。

 無論、霊術の中には、宙を浮遊するものなど、といった空中移動を可能とするものもある。

 そういった術を、目の前の戦士(士郎)が習得している可能性は、十分にある。

 

 ――だが、貴様(士郎)の得手は、地を駆けることだろう?

 もし仮に、そういった術を士郎が持っていたとしても、それは、先程までの尋常ではない地を駆ける速度に比べれば、一段も二段も落ちる物である筈だ、とサイクロプスは予想していた。

 これで、決めきれる。とまでは思ってはいないが、手痛い代償は払って貰う!と息巻くサイクロプスの拳が、士郎に降り注ぎ――

 

「⁉」

 

 ――しかし、その瞬間に士郎の姿がかき消えて、拳は何にも当たること無く、空振った。

 それと同時に、空振ったサイクロプスの腕より、鮮血が噴き出し、士郎の姿がいつの間にか、サイクロプスの斜め後ろへと移動している。

 

「■■■‼」

 

 それを、追うように、金槌を振り回したサイクロプスだが、やはり攻撃が当たる前に、士郎の姿が掻き消えて、それと同時に、士郎の攻撃が決まる。

 

 …………これは。

 突如として、繰り広げられた士郎の空中高速機動に、しかし、サイクロプスは平静さを失わずに、士郎を観察し、その絡繰りに当たりを付けた。

 

 足場(・・)だ。こいつ(士郎)が消えるその瞬間に、こいつ(士郎)の足元に足場が作られている。そして、それを踏みしめて跳躍することで、この高速機動を実現している。

 それが、サイクロプスが見破った、士郎の空中移動の方法であり、正解であったのだが、しかし、ならばこそ、解消されない疑問点がサイクロプスの胸中に生じていた。

 それは、士郎の速度が、予想よりも速すぎる。という事。

 

 成程。空中に足場を作ることにより、空を翔けるのでは無く、空を駆ける。それは良いだろう。確かにその方が、目の前の戦士(士郎)の適正にあった空中移動方法である事は疑いようもない。

 だが、足場の作成と言う一動作を間に挟む以上、その疾走は、地上でするよりワンテンポ遅くなるはずだ。例え、この男(士郎)が、それらの術に尋常では無く、精通していたとしても、だ。

 だと言うのに、実際の所、この男(士郎)の速度は、地上に居る時となんら変わらず、いやむしろ僅かではあるが、速くなっていると言ってすらよい。

 理屈が合わない異常事態。

 もしも、そんな事を起こし得るのだとすれば、それはこいつ(士郎)だけの力では無く――

 刹那の思考。サイクロプスの単眼が一瞬だけ、士郎以外の人間――観月へ飛んだ。

 

 ――正解だよ。デカ物。

 サイクロプスが気が付いたことに、気が付いた士郎が、高速でサイクロプスの肌を切り刻みながら、薄く笑いを浮かべた。

 サイクロプスの推察は概ね正しい。確かに、士郎は空中に足場を作る霊術を使うことが出来るが、それを使用して移動する場合、地上での移動よりは速度が落ちる。

 そうであるにも関わらず、今の士郎が地上より早く動けているというのならば、その答えは1つ。足場を作って(・・・・・・)いるのが(・・・・)士郎以外(・・・・)であるからだ(・・・・・・)。

 そして、それをなしているのが、観月であった。

 

 ――久住 観月という少女の、戦闘の適正は防御に大きく偏っている。それは一種の特化型と言っても良いほどであり、特に結界技術に関しては同階級の中で群を抜いていると断言出来る。

 先程の明日奈と2人で戦っていた時は、その事がバレないように態と手を抜いていたが、本来彼女の結界技術は、あの程度ではない。

 それは、観月本人は、士郎の速さを全く視認出来ていないというのに、彼女の結界は士郎の動きに合わせて生成されているという、神業的技術を見るだけでも理解できるだろう。

 結界による、空中における足場の高速生成。

 それにより、士郎は、敵を切り刻む刃の旋風と化した。

 

「■■■■■⁉」

 

「よっ、とォ――」

 

 平面、いわば2次元的な攻撃ですら追いきれていなかったのだ。3次元的立体高速機動を防げる道理はない。

 縦横無尽に、宙を駆け巡る士郎による爪撃は、サイクロプスの全身を切り刻む。

 サイクロプスの体のあちこちに、切り傷が刻まれ、そこから血液が噴出する。

 正しく、圧倒的。

 この光景を傍から見ていれば、これは決まったと確信するだろう――が(・)、しかし(・・・)。

 

「――――」

 

 全身を切り刻まれ、辺りに一体に血を撒き散らかしていながらも、サイクロプスの瞳に諦めの色はない。

 彼の戦意は微塵も薄れておらず、そもそも論として、彼は現状にさほどの危機感を覚えてはいなかった。

 なぜなら、傍目からは絶体絶命に見える、サイクロプスの惨状だが、その実、肉は切らせていても、骨を断たれてはおらず、しかも急所になりうる場所はしっかりと防御を固めてある。

 人間基準で見れば、数十人単位で失血死する量の出血も、彼の巨体からすれば、直ちに問題となるものでは無い。

 何故、このような事態が発生しているのかと言えば、その原因は士郎の攻撃力だろう。

 攻撃力が足りていない、という意味ではない。

 

 確かに士郎の魂装が最も得手としているのは、速力ではあるが、その鋭い爪による攻撃力は決して低い物ではなく、それはサイクロプスの鋼鉄の肌を易易と斬り裂いていることからも分かるだろう。

 しかし、この戦闘において、攻撃力で重要なのは、質(・)では無く、量(・)なのである。

 士郎の攻撃は、爪による一点集中の、謂わば点と線の攻撃だ。

 だが、サイクロプスの巨体と、それに相応しい体力を削り切るのに必要なのは、範囲攻撃――面による攻撃なのだ。

 如何に鋭くとも、針の一刺しで山は崩せない。

 現状は即ちそういう話であり、端的に言って相性が悪い。という事である。

 そして、故に当然――有利なのは(・・・・・)士郎の方(・・・・)だった(・・・)。

 そもそも、どの学園迷宮(ダンジョン)に入るか、つまりどんな相手の戦うのかの選択肢は、人間側にあるのに、相性の悪い相手に無策で挑んでいる訳がないだろう。

 そして、その策(・)。動き出したのは、これまで戦闘を静観していた、秀であった。

 

「――『魂装(モード)』【追従小判鮫(レモラ)】」

 

「■■■」

 

 発動する秀の、励起形態(ドライブ)。サイクロプスの背筋に得も言われぬ悪寒が走る。

 しかし、サイクロプスはすぐさま秀から視線を外さざるを得なかった。

 何とかなるだろう、と楽観視した訳では無い。

 ただ、脅威になるかもしれない(・・・・・・)秀に気を取られて、脅威になっている(・・・・・)士郎に倒されれば、それこそ阿呆の極みでしか無いからである。

 それに、秀の動きがサイクロプスに隙を作る為の、ブラフであるという可能性も、無いわけではない。

 そうした次第で、フリーに、正に千載一遇の好機を手に入れた秀であったが…………意外な事に彼は何もしなかった(・・・・・・・)。

 そう。何も、である。攻撃をする訳でもなければ、補助をする訳でも無く、ただ先程までと同じく、士郎とサイクロプスの戦いを見守るだけ。

 本当に、サイクロプスの気を惹くためだけの、虚仮威しであったのであろうか?

 ――いいや、違う。秀が励起形態(ドライブ)を発動させた意味は、直ぐに分かる事となる。

 

「――■■■■■■■■■■⁉⁉⁉⁉」

 

 サイクロプスの巨大な口より、これまでとは桁が違う絶叫が溢れた。

 今までの彼の叫びは、自らの士気を高め、敵を威圧するための咆哮であったが、たった今響いた叫びの色は、明らかにそれとは異なっていた。

 苦悶。苦痛。そして驚愕。 

 泣き喚く、などという無様こそ晒すことは無かったが、サイクロプスの上げた声は確かに彼の苦しみを表していた。

 

 ――一体何が。

 サイクロプスの身に起きた出来事を言い表すの簡単だ。

 目の前の戦士(士郎)に攻撃された途端、彼の肉体を夥しい苦痛が襲った。それだけの話である。

 しかし、解せないのは何が起こったか、では無く、それが何故起こったかであった。

 今までと何ら変わらない攻撃から、今までとは比べ物にならない痛み。

 ならばそこにある違いは何なのか。

 

 ――ここだ、見届けろ。

 己の身に発生した異常事態の原因を探るべく、サイクロプスは、戦士(士郎)の攻撃に注視する。

 卓越したサイクロプスの動体視力を持ってしても、微かな残影にしか見えない士郎の動き。

 その僅かな動きの軌跡が、自身の腕を通り抜ける瞬間に、意識を合わせる。

 戦士(士郎)の鋭い爪撃が、自身の腕にいとも簡単に、切り傷を負わせる。

 これは、先ほどまでと同じ。

 問題は、ここから――

 

「■■■⁉」

 

 その刹那、サイクロプスが認識したのは、非常に奇っ怪な出来事であった。

 士郎につけられた切り傷。

 サイクロプスの巨体からすれば、致命傷にはなり得ない、そこを起点(・・・・・)として(・・・)、その周辺の(・・・・・)肉が(・・)抉れだしたのだ(・・・・・・・)。

 そうまるで、鮫に食いちぎられた(・・・・・・・・・)かのように(・・・・・)。

 士郎は先程から何も変わったことをしていない。

 故にこの現象を起こした者は――。

 ――キサマか。

 サイクロプスの単眼が、ギロリ、と秀を睨みつけた。

 

 サイクロプスのその憶測は正答である。

 友原 秀。そしてその魂装である【追従小判鮫(レモラ)】の戦闘能力はお世辞にも高いとは言えない。

 されど秀の魂装には、その戦闘能力の低さを補う、1つの特異な能力が存在した。

 それは、仲間の攻撃(・・・・・)を起点とした(・・・・・・)追撃能力(・・・・)。

 自分1人では何の意味もない。という前提条件があるが故に、その能力は非常に強力であり、1種の法則(ルール)創造の領域にあると言っても過言ではない。

 本来、秀自身が殴りかかったところで、かすり傷1つ負わせることが出来ないであろう、サイクロプスに痛打を与えているのが、その証左である。

 

「――■■■■」

 

 秀の魂装による、法則(ルール)が追加された、士郎の攻撃が、サイクロプスの体を駆け巡る。

 サイクロプスの体から、これまでとは比べ物にならないほどの鮮血が噴き出し、その口から苦悶の絶叫が溢れ出す。

 士郎の、速度及び、一点突破の攻撃力と、秀の法則(ルール)の相性が、サイクロプスにとって、致命的なほどに良すぎる。

 法則なしの士郎の攻撃が、剃刀の嵐だったとするなら、今の攻撃は鉈の嵐であった。

 切り刻まれるのではなく、抉り取られていく。刻一刻と命を削り取るカウントダウンが進んでいく。

 ――故に。

 

「■■■■■■■■■‼‼‼」

 

 ここでサイクロプスが動いた。少し距離の離れた秀たちの下へと雄叫びを上げながら突撃を開始する。

 これまで、サイクロプスの戦法は、その圧倒的な体力を活かした持久戦であった。

 自身の機動力を圧倒的に上回る士郎を相手に、しっかりと考えられた戦法と言うべきだろう。

 よって、その意識は大凡9割方、防御に割かれていた。

 肉を切らせて骨を断つ。体の表面を切り裂かれようとも耐え抜き、士郎の隙を見つけ出し、一手で逆転する。そういった戦い方であった。

 しかし、もはやその戦い方は、まるで通用しない。

 このままダメージを積み重ねられれば、サイクロプスが敗北するのは自明の理であり、よって賭けに出ざるを得なくなったのである。

 本当に致命的なダメージだけは受けない程度に、2,3割程度のみ防御に意識を割き、残る全てを攻撃に注ぎ込む。

 必然的に隙が大きくなり、これまで以上のダメージを受けることとなったが、それは想定の内だ。

 致命傷だけは負わずに、その圧倒的な巨体から繰り出される、士郎には及ばないものの十分な機動力で、秀たちとの距離を高速で詰める。

 最上で秀。次点で観月。もしくは、その2人を助けるために隙を晒した士郎に痛打を与える。

 それが、サイクロプスの考えだったのだが……。

 

「――?」

 

 秀たちに近づいたサイクロプスにとって、想定外の出来事が発生する。

 サイクロプスに接近された、秀、観月、明日奈の3人。

 その内の1人、明日奈が脱兎の如く駆け抜けて、遠くへ逃げ出したのである。

 

 ――仲間を見捨てて逃げるのか⁉

 

 サイクロプスの驚愕も無理はないだろう。

 士郎を除いた3人の内、サイクロプスと肉弾戦である程度戦えるのは、明日奈だけである。

 その明日奈が、戦いの要である秀と観月を見捨てて、自分1人で逃げるなど、サイクロプスには考えもつかなかった。

 とは言え、それはサイクロプスにとって追い風となる出来事だ。

 4人の中で、明日奈が1番どうでもいい相手で有ることもあり、サイクロプスはその逃走に対し、何ら行動を起こさず、秀と観月の排除に意識を向けたままにした。

 あるいは、観月の結界による邪魔が入るかもしれないが、諸共潰す。と決意を固めたサイクロプスだったが――。

 

「残念。そうは行かないわ」

 

 遠くへ1人逃げ出した筈の明日奈が、そんな風に声を上げて。

 

「⁉」

 

 途端、秀と観月の姿が(・・・・・・・)かき消えた(・・・・・)。 

 慌てて視線を彷徨わせたサイクロプスだったが、半透明の大きなポケット、とでも表現すれば良いのだろうか。

 そんな奇妙な物体が、明日奈の後ろに創られて、そこに先程まで自分の攻撃が届く距離にいた筈の、秀と観月の姿が存在するのを、サイクロプスは認識した。

 

 そう。明日奈は決して、秀と観月を見捨てて逃げ出した訳では無かった。寧ろその逆と言って良い。

 彼女の魂装の能力の1つである、【守護袋(ナイトポケット)】。その効力は自身が作った防御空間の中に仲間を短距離転移させること。

 その能力を用いて、明日奈は2人を助けたのである。

 

 ――これは。

 単純な戦闘能力において、サイクロプスを上回る士郎。その士郎をサポートする、秀と観月。そして、秀と観月を守る明日奈。

 その布陣を認識して、サイクロプスは確信した。

 

 これは狩りだ(・・・・・・)。

 士郎を頂点(ボス)とした、狼の狩り。そして自分は、それに絡めとられた獲物なのだ、と。

 故に詰み。最早、どうしようも――

 

 ――まだだ。

 

「■■■■■■‼‼‼」

 

 自身の対策が完全に完了されている、という状況に気付いて尚、サイクロプスは抵抗を諦めなかった。

 全神経を攻撃に注ぎ込み、大振りで金槌を振るう。

 それは、防御を完全に捨てた行動であり、やけくそと言われても仕方が無い物ではある。だが、全く考え無しの行動と言う訳では、決してない。

 もはや、持久戦において、勝利の可能性が欠片も存在しない以上、取れる手段は一発逆転を狙った攻勢以外には存在せず、そしてその手段を取るならば、未だ体力が残っている今より他に無い。

 

「いいぜ。決着を付けよう」

 

 サイクロプスが覚悟を決め、大きな隙を晒したことで、士郎も思考を決戦に切り替えた。

 燦々と光り輝く、平原の空。その空中を、金槌が振るわれる黒色の軌跡と、士郎が駆ける白色の軌跡が交差して――。

 

「これで、終わり。っと」

 

 サイクロプスの山の如き巨体が崩れ落ちる。

 その特徴的な大きな単眼がくりぬかれ、後頭部まで貫通する巨大な穴が開いていた。

 ――勝利したのは、士郎であった。

 

*

 

「……ねぇ、今日はずいぶんと調子が良さそうね。アンタ」

 

「ん?そう見えたか?」

 

「ええ。無駄に、ね」

 

 サイクロプスとの戦いの直後、戦闘の余韻が未だ冷めやらぬ中、士郎たちは互いに会話をしていた。

 上のやり取りは、士郎と明日奈の物であるが、彼らは共に敵を打倒したPTメンバー同士だというのに、その会話は和気藹々とした物ではなく、どこか刺々しい物であった。

 というより、明日奈が明らかに、士郎に食って掛かかっている。

 しかし、まあ、仕方がないと言えば、仕方のない話だろう。

 

 古城 明日奈。 久住 観月。 

 彼女らは、黄泉比良坂学園に入学する前からの知り合いであり、一緒に入学を果たした友人同士である。

 そんな彼女たちであるのだが、何と2人とも、自分の処女を不本意に、士郎に奪われているのである。

 そんな風に聞くと、レイプでもされたのか?と思うかもしれないが、そういう訳ではない。

 今でこそ、幾つかの理由――必ず、単独で現れる。特殊な能力などを持たない。――で6級とされているが、単純な戦闘能力で言えば、5級の迷宮に出現する敵と比べても何ら遜色の無いサイクロプスと、ある程度以上は戦える、明日奈と観月の2人だが、入学当初の彼女らの実力は、今よりも遥かに低く、昇級はおろか、降級すら見える状況であった。

 そんな2人に対し、士郎――とついでに秀が、貞操と引き換えに、助力を申し出た。と言うのがコトの真相である。

 しかし、表の基準で言えば、即通報ド安定な、士郎の所業だが、実は黄泉比良坂学園基準では、大したコトではない。

 学園内ではありふれた出来事であり、何なら優しい対応。とすら言われかねなかった。

 末法ここに極まれり。である。

 そして、その事実は、明日奈と観月の2人も、しっかりと認識している。

 そもそも、そんな学園に入学を希望した以上、自分たちの貞操を奪われるコトなど、覚悟の上であるし、結局の所、悪かったのは、我を貫くことすら許されなかった、自分たちの弱さである、と2人は結論付けている。

 まあ、憎悪などを抱いているのならば、今もPTを組んでなどいない、という話である。

 但し、気の強い明日奈としては、釈然としない部分も残っている訳であり、ちょくちょく士郎に対して当たりの強い時があるのだ。

 しかし、明日奈としても、本気で言っている訳でも無く、士郎もそういったやり取りを楽しんでいる節があるので、ある種2人の間のスキンシップと言っても良いかもしれない。

 

「もう、明日奈ちゃんったらっ、また荒木さんに当たって」

 

「はは、まあアイツも、ああいうやり取りを楽しんでいるから、問題ないよ。久住ちゃん」

 

 対して、残りの2人――観月と秀は、互いに友好的であった。

 明日奈と士郎の、スキンシップ(じゃれ合い)を、仕方がないな。と2人で苦笑しながら見て、歓談をしている。

 観月の方は、魂装にも表れているが、元々他者との争いを好まない性格である。

 秀の方は、そんな、優しげな美少女な上に、胸と、胸と、あとついでに胸が、好みド真ん中である観月に対し、淡い恋心を抱いているので、彼女に対し、とても気遣っていた。

 結果として、この2人の中は、最悪の出会い方をしたにも関わらず、大分良好な訳である。

 

「でも、本当に調子が良かったですね。荒木さん」

 

「ん。そうだね」

 

 さてそんな秀だが、現在、意中の美少女とのお喋りタイムに、心を踊らせている――――――――訳ではなかった。

 

 …………何か変だな。

 表面上は、観月と和やかに談笑している秀だったが、実は内心、そんな風に、とある事象に対して疑問の念を抱いていた。

 秀が疑問を抱いているとある事象。それは、今正に話題に上がっている士郎の調子について、であった。

 明日奈と観月が、学園入学前からの知り合いであるのと同じ様に、士郎と秀も、入学前からの知り合いである。

 ただし、仲の良い友人と言う関係性の女子2人に対して、秀の士郎に対する関係性は、いわゆる子分だとか、取り巻きだとか、金魚のフンなどと表現される物であるのが、悲しい所だが。

 まあ、そんな関係性であっても、付き合いが長いのは確かであり、だからこそ、秀は他の2人が気づけなかった、士郎の様子の奇妙な点に気がつくことが出来たのである。

 秀から見た、現在の士郎の様子は、非常に言語化が難しいが、あえて表現するならば、『非常に調子が良くて、調子が悪い』と言った物であった。

 何だそれは?と思うだろうから詳しく説明しよう。

 

 まず、士郎の動きがいつもより良いと言うのは、確かな事実である。元々サイクロプス相手に遅れなど取らない士郎であるが、それにしても今日は動きのキレに、磨きがかかっている。

 にも関わらず、秀の目からは、同時に調子が悪い様にも見えるのである。

 例えるなら、そう。調子+200の出来事と、調子-100の出来事が同時に発生していて、傍目に見れば、調子+100に見える、と言った感じだ。

 

 ……何だろう。気力が満ち溢れていて、上の空って感じか?

 具体的に言い表せば、生気がとても満ち溢れているが、同時に何事かを、気にしていている様子であった。

 そして、そんな秀の、目測の正しさを裏付けるかの様に、士郎は午前中の迷宮探索が終わった後、何時もならば一緒に飯でも食いに行くのに、今日はそそくさと立ち去っていってしまったのである。

 しかし、現時点では、そこまで気にする話でも無い。実際、秀も、何か外せない用事でもあったんだろう。と思っただけであった。

 この士郎の様子が、重大な異変の予兆であった事に、秀が気が付いたのは、意外にも早く、その日の夕方の事であった。

 

*

 

「ああ、秀か?ワリィけど、明日1日、用事が出来たから予定はキャンセルな」

 

「は?え?いきなり何を――って!もう切りやがった、アイツ……」

 

 夕方5時過ぎ、自室でくつろいでいた秀は、士郎から突然かかって来た、翌日の予定のキャンセルの電話に、目を丸くして放心していた。

 言いたいことだけ言って、さっさと切られた携帯端末が、心なしか寂しげな様子に見える。

 

 ……可笑しい。やっぱり、何かが絶対に可笑しい。

 一度は気のせいだろう、と流した違和感が、秀の心中で爆発したかの様に、膨れ上がる。

 用事のキャンセルそのものは別に構わない。

 元より、そこまで重要な用事であった訳でも無いのだ。

 しかし、士郎の態度が、秀にはどうも疑問に思えてならなかった。

 

 荒木 士郎という男は、見た目、チンピラか、ヤクザか何かか、と見える男である。

 正し、その内面は…………いや、貞操と引き換えに助力してやる。なんて言う以上、内面もチンピラの様ではあるのだが。

 しかし、決して、それだけの人間ではない、というのが、秀の談である。

 例えば、それは明日奈や観月への対応だ。

 確かに、士郎は彼女らに対し、手を貸す代わりに抱かせろと言う条件を持ちかけたが、その条件を行使したのは、彼女たちが弱かった時だけであり、2人が成長し、強くなって以降は、しっかり仲間として扱っている。

 それに、秀が観月に淡い恋心を抱いて以降、観月に対してはちょっかいをかけないようにもなった――まあ、それは、明日奈の気の強さを気に入った、というのも理由だろうが。

 とにかく、秀にとって士郎は、粗暴ではあるが、一本筋が通った男であった。

 故に、今回の行動は、どうにも奇妙。勿論、人間、機嫌の悪い時や、急いでいる時など、幾らでもある訳で、それが偶々今日であった、という可能性もあるのだが。

 しかし、午前中から続く、どうにも消えない違和感が、秀の第六感に、背中から虫が這い上がって来ているかのような悪寒を与えていた。

 

 何か。何かが起こっている様な気がする。

 故に――

 

*

 

 ――何やってんだろうな、俺は。

 翌日の早朝。秀は1人、内心で自嘲を行っていた。

 それも、その筈だろう。

 秀は今、士郎が借りている部屋の近くに隠れ潜み、その様子を伺っているのである。

 言ってしまえば、男相手のストーキング行為であり、もし仮に、別の人間が同じ様な行為を行っていれば、まず気持ち悪く思うであろう為、どうして俺はこんなことをしているのだろう?と秀が自嘲するのも無理はないだろう。

 しかし、そんな自分自身で気持ち悪く思う行為に、秀が手を染めているのには確固とした理由がある。

 

 表の社会ならばともかく、退魔師たちの中で、虫の知らせという物は、決して馬鹿に出来るものではない。

 何故なら、彼ら、彼女らは、超常の力を扱う常人とは異なる特別な人間たち。

 彼らの嫌な予感とは、普通の人間とは違う特別な第六感が、何らかの異変を察知したものということが大いにあるのだ…………まあ、普通に唯の杞憂という事も多々あるが。

 そして、今秀が感じている嫌な予感とは、虫の鳴き声なんて小さな物では無かった。

 まるで、耳元でパトカーのサイレンをかき鳴らされているかの様な、そう、何か取り返しの(・・・・・・・)つかない(・・・・)ことが起きている(・・・・・・・・)かの様な(・・・・)――。 

 そんな、莫大なまでの悪寒に突き動かされて、士郎の家の入り口を監視していた、秀であったが、遂にその目の前に異変(・・)が訪れた。

 時間は朝の5時過ぎ、士郎の家から、見知らぬ人間が出てきたのである。

 それは、1人の少女であり、その少女を見た瞬間、秀の意識は、一瞬、空の彼方へと吹き飛んだ。

 

 美しい(・・・)。唯々、只管に、見たこともない程に。

 それが、秀が少女を見て抱いた感想であり、思わず我を忘れた原因であった。

 流れるような銀の長髪は、朝の陽光を受けて光り輝やいており、透き通った真紅の瞳は、高価な紅玉を思わせる。

 白雪の如き白き肌は、シミや傷1つ見えず、その顔は精密に作られた彫像の様に整っている。

 印象としては、怜悧で氷の如き綺麗さであるが、幼げな肢体とそれに伴ったあどけなさが、大いに可愛らしさを追加している。

 それでいて、母性の象徴である胸部は、しっかりと出て、女らしさを主張している。

 例えば、観月や明日奈なども、タイプの違う美少女であるように、黄泉比良坂学園に通う女生徒は、皆一様に一定以上の顔面偏差値である。

 だが、今、秀の目線の先にいる少女は、その中においても完全に図抜けていた。

 まるで、女神や天使、妖精などといった題名の絵画から、そこに描かれた存在が抜け出したのか、とすら錯覚するほどの存在感。

 何故か、色気の無い男子用の制服を着ているのだけが、マイナスポイントであったが、それでも尚、周囲の男性の視線を誘蛾灯の様に惹きつける、そんな少女であった。

 だからこそ、可笑しい。秀は見惚れて、惚けていた頭を大きく横に繰り返し振り、自分の中の煩悩を外へと叩き出した。

 

 ――こんな娘(こ)、今まで1度も見たこと無いぞ⁉

 

 秀は、今まで僅かたりとも、少女の姿を士郎の周りで見たことは無かった。

 こんな特徴的な少女、1度でも見れば2度と忘れる筈もないので、まず間違いないだろう。

 

 ……どうする?追う、か?――いや。

 

 この少女には、何かある!と思い、そう思案した秀であったが、結局、少女を追跡することはしなかった。

 士郎本人を探ったほうが、確実であろうというコト、身内であっても大分不味いコトをしているのに、赤の他人相手は、勘違いであった場合、洒落にならなすぎるからである。

 結局秀は、士郎が家から出てくるのを隠れながら待つこととなった。

 

 来た、か。

 

 その行動が報われたのは、2時間以上経ってからのこと、大凡7時半くらいの時刻であった。

 秀は、妙に気分良さげに、家から出てくる士郎の姿を目撃した。

 そして、細心の注意を払って、その後を決してバレない様につけて行く。

 そして、士郎が向かった先は――

 

 ――慰労係の使用所?

 

 到着した場所は、秀にも馴染みが深い場所であった。

 大きな部室棟を思わせる建物。慰労係の使用所である。

 慰労係は通常4級以上でしか使用できないが、例外として4級以上の生徒が所定の数保有する使用権を譲渡して貰えれば5級以下でも使用できる。

 観月や、明日奈を仲間として扱うように成って以降、性欲を解消するのによく使うのだ。

 流石に、建物の中だとバレやすくなるため、更に距離を取らざるを得ず、士郎がどの慰労係を使おうとしているのかまでは、確認出来なかったが、ソレは意外にも直ぐに判明することとなった。

 

 ……これ、あの娘じゃん。

 

 慰労係の個室の横に備えられた情報端末。

 部屋の中に居る慰労係が、どんな女の子であるのかを示す顔写真。

 その中に、今朝確認した、人智を超えた美少女の物があったのだ。

 こんな美少女が慰労係をやっているのか……、と呆然としたのは一瞬。

 きっと士郎は、この娘に会いに来たに違いない、と当たりをつけて、更に詳しい情報を調べ始めた、秀の眼に飛び込んで来たのは――

 

 名前は、甘土 夜か。

 ……………………………………は?元男で現淫魔(サキュバス)?????

 それに、これはっ――――⁉

 

 少女――夜の情報を知っていくと同時に、秀の思考が面白いほどに混乱させられていく。

 まず、経歴が意味が分からなかったが、それ以上に驚愕したのは、彼女の使用履歴や予約情報であった。

 何とこの数日間の使用履歴と、数日後までの予約情報の全てが士郎であり、しかも殆ど休み無く、取得出来る最大であったのだ。

 こんなもの、考察するまでも無く、ドハマリしていると理解出来てしまう。

 明らかに尋常ではない。

 

「これ、不味いだろ……」

 

 明確な異常事態に、秀の口から思わず言葉が漏れ出した。

 そもそも、慰労係相手にドハマリするというのが、そんなに宜しくない。

 彼女らは所謂ドロップアウト――落ちこぼれであり、道具のように使うのならばともかく、余り入れ込みすぎると、諸共に落ちていく可能性もあり、それで身を崩した男の話も割と聞く。

 だが、もっと問題なのは、その相手が、淫魔(サキュバス)の魂装持ちであるということだ。

 性行為によって力を奪い去る能力を持った者たち、淫魔はその中でも最高クラスに性に特化している。

 慰労係の容姿以外の様々な情報が見れるのは、そういった魂装持ちが居るから、と言う理由がかなりの部分を占めているくらいである。

 淫魔との性行為は、非常に大きな快楽を得られるが、その代わりに多大な危険性がある。

 しかも、このレベルの嵌りようともなれば、魅了(チャーム)などといった、精神操作の術にかけられている可能性もある。

 秀は、直ぐに確認しなければ!と、思い立ち、情報端末を操作して、甘土 夜という少女の次の予約を上書き――しようとしたが、そこで一旦手を止めた。

 

 落ち着け、俺。と秀は一度深呼吸をして気を落ち着かせる。

 まず、昨日士郎に、衰弱した様子は欠片も無く、何ならむしろ調子が良さそうだったくらいだった。

 それに、いくら淫魔とのセックスが危険だとはいえ、相手は8級。圧倒的格下である。

 そんな相手に、士郎がどうこうされる情景は、秀には思い浮かばず、もし仮に、どうにかなるにせよ、それは今直ぐに、という訳ではないと考えた。

 ならば、気を付けないければならないことは、何か。

 それは、焦って行動して、自分が疑っているという事実を、相手に察知されてしまうことだ。

 この尋常ではない予約が、士郎の意思なのか、それとも甘土 夜という少女?の姦計なのか、それは秀には分からない。

 しかし、こんな予約の取り方をしている以上、予約の上書きには最新の注意を支払っている筈であり、今急いで上書きしたところで、上書きされ返されるうえに、自分が疑っているという事実がバレて、口裏合わせをされる可能性がある、と秀は思考する。

 予約の上書きをするのならば、それは相手が、今日はもう大丈夫だろう、と気を抜く可能性が一番高い時間。

 つまり――

 

 ――最後の予約の開始時間である15:00の数分前‼

 

 勝負をかけるのはその時だ、と秀は決断した。

 そして、そうなると何時までも扉の前でウロチョロしている訳にもいかないのだから、どこかで時間を潰さなきゃな、とも考えた。

 

 ――ああ、観月ちゃんに癒されたい。

 

 色々と不穏な空気の中、秀の頭に思い浮かんだのは、自らが淡い恋心を抱く女子のことだった。

 

 ――ケーキでも買ってこようかな。

 

 何も問題ないことを確認したら、それを持って観月に会いに行って、彼女の笑顔を見て安らぎたい。

 秀はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………自分がこれからどうなるのかも知らずに。

 

 






 TIPS

■黄泉比良坂学園

 日本に数多く存在する退魔師育成機関の内の1つ。
 とある片田舎の山中からのみ入る事の出来る異空間に存在し、許可なしの侵入、及び脱出は非常に困難。
 数多くある育成機関の中で、最も多く、強力な退魔師を継続的に排出しており、名実ともに国内最高峰の育成機関であるが、しかしその実態は、暴と性の嵐が吹きすさぶ地獄めいた場所である。
 この学園で落ちこぼれた者の末路は、性奴隷・実験体etc……など、最低なものばかりであり、無事に卒業出来るのは、毎年平均して入学時の3分の1以下程度。酷いときは片手で数えられるくらいであった年すら存在する。
 しかも、入学する際に、そう言った学園のルールに従うことを強制させられる霊術を受けねばならず、最悪の結末から逃れるのは実質不可能(その霊術を解けるくらい実力を持っていれば、基本的には落ちこぼれないので……)
 そんな場所であると言うのに、入学する人間は、毎年1000を軽く超える上に、霊的先進国には、似たような場所が1つは存在している。
 何故、こんな場所が成立するのか?と疑問に思うかも知れないが、そもそも学園側としても、人を悪戯に傷つける目的でこんなことをやっている訳では無く、しっかりとした理由の下で、態と地獄を作っているからである。
 霊力とは魂の力であるが故に、生命の危機などの大きな負荷がかかると、成長しやすくなるという性質を持つ。
 契約霊術をかける事により、魂に負荷をかけるのと同時に、蠱毒や魔女の宴(サバト)などと言った呪法を用いた巨大な霊力成長促進機こそが、学園の真の姿であり、目的である。
 わかりやすくゲーム風にいうと、黄泉比良坂学園に、契約霊術がかかった状態で居ると、常に取得経験値上昇・スキル取得率増大のバフがかかるように成っているという訳である。
 その効果は非常に凄まじく、退魔師たちの間では、学園に入らなかった天才よりも、学園を卒業した凡人と言われている程である。
 本来、退魔師が長い年月をかけて荒行に身を投じることで、漸く習得出来る奥義である魂装が、学園の中では、1年の間に習得しておくべき基本技能の様に扱われていることからも、その効果のほどが伺えるだろう。
 因みに、才能が無いものでも化ける可能性があることや、餌(・)が大量に必要なこともあり、選考基準はかなり緩く(女子の場合は容姿があるが)それも大量の入学者が入る理由の一助と成っている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。