えろすばかりでも何ですし、たまにはラブコメ的なのもね(??)
これはこれで良いものであるとワイトは思います←
吾輩は団長である。
名前は既にある……が、名乗る程の者でもないので「団長」ということにして貰えると助かる。
唐突だが、諸君は「騎士団長」と聞いて、どのような印象を持つだろうか?
騎士達のまとめ役、部隊最強の騎士、陣頭指揮者……といった辺りが一般的な印象だろうか。
それを踏まえた上で聞いて貰いたい。
今まさしく、自分が戦っているのは……
書類だ。
それも積み上がること山の如き。
騎士団長には平時の討伐要請から催事等の護衛要請、討伐の結果報告、資金管理及び運用の報告等、書類を通して王族を始めとする各方面への報告が義務付けられている。
団長ともなると、戦いの事だけ考えるという訳にもいかないようだ。
尤も、実際の討伐はほぼ花騎士が行っているのだが。
幸い、討伐計画や戦法の考案、部隊の編制考察といった実務的な部分は元々得意分野である。
花騎士の中にもそういった考察を好む者が少なからずおり、彼女達と意見交換を交わす事も度々ある。
無論、騎士団長の名に恥じぬよう、剣術の腕が錆び付かぬよう日々の鍛錬も欠かしてはおらず、花騎士と手合わせをすることも少なくない。
……主に書類仕事への意欲が枯渇した時に、ではあるが。
花騎士達は各々の力量は勿論だが、世界花の加護を受けていることが大きい。
小型であればまだしも、大型の害虫と事を構えるともなれば、例え熟練の騎士であってもただでは済まない。
それこそ、命が残れば儲けものといった具合だ。
現状では世界花の加護を受けられるのは花騎士のみであり、彼女達の力を借りて日々平和を脅かす害虫達と戦い……そもそもは共存していた虫達が害虫と化した原因を探っている、といった所だ。
……今は山の如き書類と格闘している訳だが。
長時間手を動かして書類と格闘するという行為は、体力的にも心理的にも堪えるものがある。
そろそろ区切りが見えてきた事もあり、気分転換という名目で訓練場に顔を出そうかと考えた所で
「団長さまぁ~~~~!」
彼女はやってきた。
「団長さま、お仕事中でしたの?」
そう言って軽く首を傾げた少女、ハナモモ。
見た目は愛らしい少女だが……彼女は花騎士の中でも最高の位を誇る「虹」クラスの花騎士だ。
(原理は未だによく分からないが)杖から桜色の巨大な塊を生み出し、棍棒のように殴り付ける攻撃を得意とする、外見との落差が大きい花騎士でもある。
彼女曰く「お仕置き」らしいが、このお仕置きによって数多の害虫が光の粒子に変えられた事と思うと、味方とはいえ背筋に来るものがあったりする。
それはさておき。
「なんだかお疲れのようですわね……」
書類に囲まれ突っ伏して……とまでは行かないが、疲弊しているのは確かだ。
休憩を兼ねて訓練場に顔を出すつもりだと伝えると
「そうですの? でしたら、あたしがお風呂を沸かしておきますの!」
と、なんとも魅力的な申し出をしてくれた。
渡りに船である。
彼女に頼むと、「お任せあれですの!」と元気良く返され、そのまま浴場の方へと向かって行った。
有難い気遣いで、心が温まるのを感じた。
一度、大きく腕を伸ばす。
そうして緩みかけた自身を引き締め直し、訓練場に向かうことにした。
……書類の山を視界に入れないようにしながら、ではあるが。
ふぅ……風呂はいいものだ。
湯船に浸かり、訓練で心地良く疲弊した身体を労う。
充実した時間だった。
ナイトメアと打ち合っていた際に、オオオニバスが乱入してきた時は肝を冷やしたが。
たまたま通りかかったリンゴが何故か例の叫びを上げた後、鼻血を噴き出して倒れたりもしたが、それはさておき。
そのままゆったりと過ごしていると
「団長さま、お湯加減はいかがですの?」
外からハナモモの声が聞こえた。
丁度いい加減であり、準備をしてくれたことと併せて感謝の意を伝えた。
彼女が副団長で良かった……と、この時まではそんな事を思っていたのだが。
続いた言葉に、身体も思考も凍り付いてしまった。
「団長さま……宜しければ、あたしがお背中、流して差し上げますわ……」
……いや、不味いだろう。
何かとてつもなく不味い気がする。
ハナモモから言い出した事なのだから、彼女はOKという事だろうが……。
だからと言って、はいそうですねと応じる訳には行かない。
では断るのか?
それも彼女の好意を無下にする行為ではないだろうか?
……などと一通り遼巡していると。
「団長さま……? 入っても、宜しいですの……?」
返事が無い事を不安を感じたのか、ハナモモが心配そうな声で尋ねてきた。
迷った挙句、許可を出す。
なるべく彼女の方を向かないようにしようと心に誓っていると、浴室の扉がゆっくりと開かれる音がした。
「お邪魔致しますわ」
そう言って入って来た彼女は、薄桃色の可愛らしい水着をその身に纏っていた。
……いや、それはそうだろう。
バスタオル1枚などという事などあるはずが無い、常識的に考えて。
いや、良かった良かった。
敢えて問題を挙げるとすれば……タオル1枚なのはこちらの方だという事くらいだ。
……宜しくないではないか。
何らかの間違い……例えば、タイルでうっかり足を滑らせでもしようものなら、よろしくない類の事故が起こりかねない。
今からでも辞退すべきか、そう思っていたのだが……
「それでは団長さま、失礼致しますわ」
彼女に背中を流されている内、その考えは霧散してしまっていた。
……前々から薄々感じてはいたが、我ながら些か状況に流されがちではないだろうか?
弁解という訳では無いのだが、彼女の手つきは優しく、心地の良いものだった。
日々の疲れに加え、心までが洗われていくような……
聞くに、この水着はネリネ達と一緒に選んだものだそうだ(背中を流す、というのはモモの入れ知恵だったが)。
よく似合っていると伝えると、「もぅ、お上手なんですから」と、満更でも無さそうな声色で応えてきた。
実に健全なやり取りである。
そうして(若干の気の緩みを感じつつ)談笑しながらの一時を過ごし、背中を流して貰った所で、改めてハナモモに感謝を伝えようとすると。
「それでは団長さま、今度は前を綺麗にしますの!」
耳を疑う発言が飛び出した。
流石にそれは不味い!
即座に自分で出来るからと断りを入れるが、何故かハナモモの方も「遠慮なさらないで欲しいですの!」といった調子で、聞き入れてくれる様子が見当たらない。
ふと、かつての大坂の陣が頭を過った。
背中だけという約束では無かったのか!?
そしてモモは一体何を彼女に吹き込んだのだ!?
答えの出ない疑問に頭を抱えつつ、ともかくまずはこの状況を何とか収めなくてはと、彼女を落ち着かせようとしたのだが。
「きゃっ!?」
しまった、と思った時には既に手遅れで。
二人でもつれるように風呂場の床に倒れてしまった。
この時、良いニュースと悪いニュースが発生した。
良いニュースは、自分が下になった事で、ハナモモを受け止める事が出来た事だ。
幸いにも下がマットであったため、頭を打ち付ける事も無かった。
……そして、悪いニュースの方はというと。
倒れたハナモモが右手を付いた場所が……丁度(よりにもよって)、自分の最も大事な場所だった事だ。
タオル越しであった事だけが、不幸中の幸いと……言えただろうか?
「いたた……ごめんなさいですの、団長さま。……?」
当初は倒れた事に気を取られていたハナモモだったが、次第に状況を把握していく。
「えっ……? これ、えっと……も、もしかして……だ、団長さまの、お、おち……」
そこまで口にした所で、ハナモモの顔は急速に熱を帯びていき……
「ご……ごめんなさいですの~~~~~~~~~~~~~~~!!」
謝るが早いか、あっという間に浴場から走り去ってしまった。
残されたのは、未だ浴場に横たわっている自分一人。
……あぁ、これは不幸な事故だ。
早く忘れてしまおう。
犬にでも噛まれたと思って。
慌てて出ていったハナモモの事も気がかりではあるが、いずれは落ち着きを取り戻すだろう。
水着を着ていたので、他の花騎士とすれ違ったとしてもおかしな事態になるとは考え辛い。
自分も早く入浴を済ませ、互いに落ち着いた状態でもう一度彼女と話をしよう。
それで問題は無い筈だ。
だから。
先程から視界がやたら潤んで見えるのも気のせいなのだ……きっと。
「し……失礼しますわ、団長さま」
浴室から出て執務室で書類作業……をするでもなく黄昏ていると、ハナモモが入って来た。
心無しか頬は朱を帯びており、目線を彷徨わせているようにも見えるが……見間違いという事にして(思い込んで)おく。
何か用事だろうかと思い尋ねてみると
「お風呂上がりに、マッサージはいかがですの?」
との事で。
(先程の気恥ずかしさが抜け切ってはいないが)折角の申し出であり、受ける旨を伝えると「お任せ下さいですの!」と、笑顔を返してくれた。
……これだけでも、受ける事にして良かったと思う。
早速、敷物の上にうつ伏せになる。
「それでは、失礼しますの」
ハナモモが背中に跨り、マッサージを始めた。
背中や肩を通じて、心地良い刺激が伝わって来るのを感じる。
あまり疲れているという自覚は無かったのだが、蓄積疲労というものを甘く考えていたようで、それはすぐに痛みとして実感させられた。
ハナモモは当初こそ(自分が痛がる様子に対して)身体を気遣ってくれていたが、次第に慣れていったのかそれも無くなり、ついには「団長さまはムチャをしすぎですわ! もっとお身体を大事になさって下さいですの!」と窘められてしまった。
彼女曰く、モモにもその腕前を褒められた事があるらしい。
その腕前は確かであり、身体が先程よりも解れていくのを実感出来た。
これなら、もっと力を込めてやって貰っても良いかもしれない。
……その考えが不味かった。
この時、自分は完全に失念していた。
彼女が世界花の最高格……「虹」クラスの花騎士であるという事を。
「お任せあれ、ですの!」
そうして、彼女は本気を出し
何かが砕けたような嫌な音が聞こえ
「……団長さま? 団長さまっ!?」
慌てたようなハナモモの声を耳にしながら
自分の意識はゆっくりと、闇へと沈んでいった。
……という夢を見たらしかったが
「団長さま! 気が付きましたの!?」
目を開けた途端飛び込んできたハナモモの顔を見て、現実だった事を認識した。
どうやらあの後、気を失ってしまったようだ。
「ごめんなさいですのっ!」
目尻に涙を浮かべながら、ハナモモが謝ってきた。
……とりあえず、目を覚ます事が出来た時点で大事には至らなかったようなので、それほど恐縮しなくてよいと伝える。
今回の事も半ば事故のようなものであり、自分の見通しが甘かった部分もあるのだから。
「ナズナさんにも、叱られてしまいましたの……」
ナズナも心配してくれたらしい。
後で無事である事を伝えようと思った矢先、
「まだ団長さまにやって頂かないといけない書類が沢山あるのに、って……」
前言撤回。
心配していたのは書類の進捗の方だったらしい。
何と酷い団長補佐だろうか……と、思わぬ扱いに独り憤っていると
「あたし……全然ダメダメな子ですの……」
普段の彼女とはかけ離れた、ハナモモの声が聞こえて来た。
「ずっと副団長をさせて頂いて……日頃のお礼にと思って団長さまが喜びそうな事をしてみても、失敗ばかりですの……」
そういう事だったのか。
「こんな事では……モモねえさまみたいなレディになんて、なれないですの……」
そんな事は無い。
確かに少々空回り気味な面は見られたが、その気持ち自体はとても嬉しいものだし、彼女が今日、自分の事をもてなしてくれた事とその思いは、紛れもなく淑女の振る舞いそのものだ。
そもそも彼女は本業の害虫討伐においてもめざましい戦果を挙げているし、副団長として日頃から何かと自分の事を支えてくれている。
「団長さま……」
結果としては芳しく無かったかも知れないが、その経験は決して無駄にはならないだろう。
天下無敵を自称するモモは、最初から何でも上手くこなせたのだろうか?
……そういうタイプの花騎士はいなくもないが、ほんの一握りである。
失敗や挫折の経験が無い者は、まずいない。
大切な事は、そこから何を学び、如何にして成功に繋げるかではないだろうか。
だから、どうか
こちらまで元気にさせてくれる、いつものハナモモに戻って欲しい。
そう言うと
「ずるいですわ、団長さまは……
そんな事を言われたら、落ち込んでなんていられませんわ」
ハナモモはくるりと振り返り
いつもの笑顔をこちらに向けて、言った。
「不束者ですが、これからも宜しくお願い致しますわ……団長さま!」
ラブコメにTo〇oveる的ハプニングは鉄板だからね、仕方ないね(対象がヒロインとは言ってない)。
(今にして思えば、この頃の方がキャラの心情の掘り下げをしっかりやっていたような…)