※この作品はR-18です。

春庭秋桜シリーズ   作:香風ゆう団長

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ふに虹3人娘(ハナモモ・ネリネ・ビオラ)がお祭りでわちゃわちゃする強めの幻覚が見えた回。
公式で描かれてないだけです(暴論)
描かれてないだけで3人で仲良く過ごしてるんです間違いない(暴論の連続魔)
年齢設定的にはネリネ>ハナモモ=ビオラです(ジェットストリーム暴論)




春庭桜丘夏祭りの記録

 発端

 

 ウィンターローズ所属の花騎士、サフラン。

 その名を聞いて、貴殿は何を思うだろうか? 

 

 大貴族の令嬢、人気ブランド「アスファル」の箱入り娘、しかしそれを鼻にかけない品格も併せ持った美人、才色兼備かつ武も一流の花騎士、エキナセアの友人、煙管が似合う、イージスの盾etc……

 様々なイメージはあるが、概ね武も品格も兼ね備えた一流の花騎士、という印象が強いのではないだろうか。

 我が騎士団においても彼女は大きな役割を担っており、特に危険度の高い戦地では守護神の如き活躍をしてくれている。

 それ故に、彼女の発言は騎士団内でもそれなりの力を伴っている。

 無論、常識的な範囲内で……という事は互いに弁えてはいるが。

 

 さて、そんな彼女にこの度「頼み事がある」と言われ、何事だろうかとほんの僅かに身構えた所

「お願い、団長さん! 今度のお祭りに、うち(アスファル )の新作浴衣の宣伝をさせて欲しいの!」

 危うく椅子からずり落ちかけた。

 

 うちの騎士団における彼女の評価(と言うより肩書き)は、「芸術を愛する花騎士の会(通称:芸ラブの会)会長」である。

 服飾や演劇、歌唱・絵本・彫刻など、分野は違えども「芸術」という点において通じ合う仲間達との交流の場……いわばサークルのようなものであり、内部に留まらず他の騎士団の花騎士とも交流をしているとのことだ(生憎、まだその機会に立ち会った事は無いのだが)。

 この手の芸術分野には自分も理解があったのだが、軽い気持ちでその事を会長に話した所「じゃあ団長さん、私と契約して顧問になってくれないかしら!」と言われてしまった。

 実にわけがわからないのだが、受けた方が彼女達も活動がしやすいのだろうと思い、(「本業に差し支えのない範囲で」という条件付きで)受けたのだった。

 しかし、王室御用達の一大ブランドであるアスファルならば、わざわざ宣伝などしなくとも売上に問題は無いのではなかろうか? 

 素人考えで会長に尋ねてみた所、

「オーダーメイドのお客さん(お得意さん)なら、それでもいいのよ。だけど、浴衣はお祭りで皆に着られてこそ輝くものだと思うの。既製品なら値段も抑えられて量産もしやすいし、多くの人に手に取って貰えるんじゃないかなって。……こう言うとすごく失礼になっちゃうんだけど、今まで『アスファルには足を運び辛い』と感じてた人にも、もっと身近な存在になって欲しいな……って思うの」

 このような答えが返って来た。

 慎重に、言葉を選んで話している様子が伝わって来る。

 どうしても『大貴族の娘』という色眼鏡で見られがちな、サフラン自身の事も含まれているのだろう。

 それで、初夏のこの時期にここブロッサムヒルで行われる祭りの機会に、アスファルの浴衣を多くの人に大々的に宣伝したい……という事か。

 そういう事であれば、断る理由など無いだろう(他のメーカーは希望が絶望へと転移するかも知れないが……)。

「本当!? ありがとう、団長さん!」

 満面の笑みで手を握って来るサフラン。

 ……この場に副団長が居なかったのが幸いである。

 そもそも、彼女には危険な役割を担って貰っている関係上、(公序良俗等に反するものでない限りは)彼女の「お願い」にNOとは言い辛いのだが。

「団長さんにとってもいい話になると思う……ううん、損はさせないわ!」

 ……はて? 

 自分にとってもいい話とは一体……? 

 その真意を聞く前に、サフランは執務室の扉を開けていた。

「それじゃ皆、入って来て!」

 ……皆? 入って来て? 

 疑問符が尽きない中、現れたのは

「団長さま! この浴衣、とっても素敵ですの!」

「ふにー♪ スミレお姉ちゃんとお揃いの色ですー」

「えっと……団長さん、どうですか? 似合ってますか?」

 副団長(ハナモモ )・ビオラ・ネリネの仲良し3人組だった。

「……ね?」

 こちらにウィンクを飛ばしてくるサフラン。

 ……成程、こういう事か。

 ハナモモの浴衣は桃色の生地をベースに、所々に桃の花のシルエットの模様が入っている。

 ビオラは菫色がベースになっており、こちらは模様が菫の花になっている。

 二人が憧れているモモとスミレを織り込んであるのだろう……粋な計らいである。

 ネリネの方は海の中を思わせる少し緑がかった水色に、人魚と思われるモチーフが描かれていた。

 こちらも人魚姫に憧れを抱く彼女の思いを汲んだのだろう……流石と言うべきか。

 やけに準備がいい……というより、明らかに事前に作ってあっただろう、これは? 

 そう尋ねるなり、目を泳がせ始めるサフラン。

 明らかな肯定であった。

 彼女達に合わせてある所を見るに、これらはオーダーメイド品と見て間違いないだろう。

 とりあえず副団長に、その浴衣を着るに至った経緯を尋ねてみる。

「サフランさまから『お祭りに行く時にこの浴衣を着て欲しいの』ってお願いされましたの! この浴衣はお礼に頂けるそうですの」

 ……話が見えてきた。

 オーダーメイドの浴衣をプレゼントする代わりに、彼女達にアスファルの広告塔になって貰おうという魂胆か。

 どうやら、既に水面下で手を回していたようだ。

「……えーっと、でもほら、皆すっごく似合ってるし……」

 そこは同意見ではあるが。

 まぁ今更許可を取り消すつもりなど無いし、双方が納得しているのなら口出しをする方が野暮だろう。

「次からは先にこちらの許可を取り付けるように」とだけサフランに伝え、この場はお開き……になるかと思われたのだが

「今度からはそうするわ……でもそれはそれとして、団長さんだけ普段着というのも、趣に欠けるんじゃないかしら?」

 ……もしや、この流れは……

「勿論、OKが出たからには団長さんもうちの浴衣を着て(広告塔になって )くれるのよね? ちなみに用意はもう済んでるわ」

 ……こんなの絶対おかしいぞ……

 

 そうして、現在に至る。

 

「ふにー……お祭り、とっても楽しいです」

「団長さま、遅いですわよ! レディを待たせるものではありませんわ!」

「団長さん、早く行きましょう?」

 

 浴衣姿の美少女3人と共に、祭りを回る……確かに役得ではあった。

 ……絵的には引率の教師といった方が相応しいだろうが。

 

 ちなみに宣伝方法はというと、両面にアスファルのロゴが入った団扇を(配布の分も含めて)持ち歩く事だった。

 浴衣にもさりげなくアスファルのロゴが入ってはいるが、より視覚的に目に留まりやすく……との事らしい。

 実際、効果はあり、道行く人達から声をかけられたり、囲まれて(自分以外が)ちやほやされたりした。

 スプリングガーデンは元々男性が少なく、彼女達はいずれも最高位の虹クラスの花騎士だが……それでも彼女達だけで行かせるよりは、一応は成人男性である自分が近くにいた方が良いだろう。

 ……スプリングガーデンでなければ、誤解を招きかねない光景かも知れないが。

 ちなみに自分の浴衣は、黒と赤を基調としたものだった。

 シックと言えば聞こえはいいが……どこぞの閻魔大王補佐官のような気がしなくもない。

「団長さま……とっても格好良いですの!」

「ふにー……団長さんにとっても似合ってます!」

「大人です……」

 ……彼女達には割と好評だったのが救いだろうか。

 

 

屋台(チョコバナナ)

 

 メインの花火大会までにはまだ時間があるため、特に目的もなく屋台を回っていた所、

「団長さーん! 是非寄ってって下さーい!」

 見知った顔から声を掛けられた。

 声を掛けて来たのはコスモスで、チョコモスことチョコレートコスモスとウィンターコスモスもいた。

 花騎士が出している屋台も少なからずあり、その事で(治安自体は元々悪くは無いが)治安維持と害虫対策という意味で祭りの会場に大きな安心感をもたらしている。

 巡回の花騎士も(自分達以外に)いるが、警備が厚くて困る事は無いだろう。

 それはさておき、彼女達はチョコバナナの店を出していた。

 バナナオーシャンに縁があり、名前的にもチョコモスの提案のように思える。

「……そだねー」

 ……本人は何故か疲れた表情をしているが。

 理由を尋ねてみたが

「そのうち分かるよ……」

 としか答えてくれなかった。

 心なしか目が死んでいるように見えなくもない。

「団長様でしたら、特別にお安く致します」

 そうウィンターコスモスが申し出てきたが、流石にそれは公平性に欠ける。

 普通に支払うと伝えたが、コスモス曰く

「持ち帰りは普通料金ですけど、ここで食べていくのでしたらお安くしますよ」

 との事らしい。

 ご丁寧に近くに数人が座れるベンチまで用意されていた。

「この後他の店も回るんでしたら、出来るだけ出費は抑えた方がいいんじゃないですか?」

 と、こっそり耳打ちも加えて。

「ふにー……団長さん、チョコバナナ食べたいですー」

「あたしも食べたいですの!」

「私は……無理にとは言いませんが……」

 ネリネだけは遠慮がちだったが、ここで彼女にだけ買わないというのも残酷だろう。

 結局、3人分を購入することにした。

 彼女達も給料を貰っている身ではあるが……団長というより男としての甲斐性の問題である。

「アリガトウネー……」

 チョコモスだけは依然死んだような目をしていた。

 その理由は、この後に思い知る事となる。

 

「あーん……ぱくっ!」

「ふにー……美味しいですー」

「美味しいですの~」

「すみません、私にまで……」

 三者三様の反応であった。

 今、彼女達はベンチに座って先刻買ったチョコバナナを堪能していた。

 ……のだが……

「いやぁ……これは堪りませんなぁ……」

「ああっ……いけませんわ! あんなに小さな子達が、大きなチョコバナナを一生懸命お口であむあむって……」

「ちょっ、ウィンターちゃんその表現は……あぁ、私の妄想力が高まるうぅぅぅぅぅぅぅ!!」

「……もうやだこの二人……」

 ……そういう事か……。

 疑問が氷解した、してしまった。

 この二人は事もあろうに、チョコバナナを買った人がバナナを貪r……もとい、食べる姿によろしくない類の妄想を重ねていたのだ。

「ここで食べると安くなる」のカラクリもこれだ。

 とりあえずチョコモスのストレスが心配になる。

 しかし、そう言われてみるとチョコバナナを食べる3人……ネリネはまだ口を付けていないので2人だが……の姿がどことなく……

 いやいや、しっかりしろ自分、妄想に毒されるな。

 ……改めて3人を見てみると

「……ふにー?」

 ビオラは「どうかしましたか?」と言わんばかりに首を傾げてこちらを見つめており、

「んちゅ……あむぅ……れろぉ……」

 ハナモモは意味ありげにバナナを舌で舐っておr……目が完全に寝室の時のそれであった。

 明らかに分かっててやっているとしか思えない。

 そして……夏だというのに凍り付きそうな目線をこちらに向けている氷術使い(ネリネ)が一名。

「団長さん……」

 それは今まで見た事もない程……害虫に対するものよりも遥かに冷徹なものであった。

 最早人魚姫というより氷の女王である。

「ハナモモちゃん……絶対誘ってるよね、これ……」

 君らがありのままの姿を見せた結果がご覧の有様なんだがなぁ!? 

「団長……ごめんね……」

 いやまぁ……チョコモスも被害者だし、気をしっかり保って欲しい……お互いに。

 

 この後、不穏な雰囲気を察知したネリネはバナナに口を付けず、その結果1本だけ残ったのだが

「団長がバナナを……それもありかも……」

 良心だったはずのチョコモスまでもが壊れ(「大丈夫……わたしはしょうきにもどったよ」などと言っていたが……あれは絶対に戻っていないパターンだろう)

 結局ハナモモとビオラで分ける事になった……のだが

「ハナモモちゃんとビオラちゃん……そんな……2人でなんて……!!」

 コスモスは更に熱暴走し、ウィンターコスモスに至っては倒れて医務室に運ばれる事態となった。

 不安しかない先行きだった……。

 

 

屋台(コットンキャンディ&かき氷)

 

 それから、明後日の方向に(一人をオキザリスにして)全力疾走している秋桜族の店を後にし、あてもなく夜店を見て歩く。

 ただし片やこちらに流し目を送り、片や冷ややかな目を向けてくるため、必然的に目線は残るビオラの方に行くのだが……

「……ふにー? どうかしましたか、団長さん?」

 これまた純粋無垢な天使過ぎて直視出来ないという有様である。

 そんな訳で、どうしたものかと目線を彷徨わせていると

「団長さ~ん、こっちも見て行って下さ~い」

 またも見知った顔に声を掛けられた。

 

「綿菓子? ……甘いですね。今のトレンドはコレ、コットンキャンディです! カラフルで見た目も楽しい、新時代のお菓子ですよ!」

「こっちにはかき氷に、ソフトクリームもありますよ~」

「ちょっとハツユキソウさん! 私が先に団長さんに声を掛けたんですよ! 横取りしないで下さい!」

「うえぇ!? そ、それならわざわざ私の向かいに屋台を出さなくてもいいじゃないですかぁ! 私の方が先にこの場所を取ったんですよぉ!?」

「私がどこに屋台を出そうが自由じゃないですか! それに、団長さんを横取りしていい理由にはなりませんよ!」

「よよよ横取りぃ!? そそそんなつもりじゃ決してないんですってばぁ~!」

 言い争いをしているのは、綿菓子? の店を出しているイベリスと、かき氷(とソフトクリーム)の店を出しているハツユキソウだ。

 そう言えば二人は昨年、バナナオーシャンで行われたクリスマスイベントに共に参加していた。

 あのイベントを通して、それなりに仲が深まった……かと思っていたのだが。

「むぅ~……ともかく! 団長さん、うちの店にはもちろん寄ってくれるんですよね、ね?」

 イベリスは相変わらず自分に対する執着心が強く

「うええぇぇ……て、天下の団長さんなら、花騎士が出してるお店を素通りなんてしないですよね、ね?」

 ハツユキはハツユキで小物ぶりを遺憾なく発揮していた。

 ……実に厄介な事になった。

 これは、どちらかの店でだけ買い物をすれば、確実にわだかまりが残るだろう。

 かと言って両方買わなければ、双方から不興を買う事になる。

 ……つまり、両方の店で何かしら品物を買う事を強いられているのだ。

 1人分ならまだしも、(自分を除いたとしても)3人分ともなるとそう安くは付かない。

 いや、彼女達にも給金は出ているのだが……傍から見た場合の問題もある。

 お小遣いという名目で見てくれればよいのだが、おそらくそう好意的に見てくれはしないだろう。

 ……仕方ない、ここは3人にどちらの店で何を買うかを選んで貰おう。

 そう思ったのだが

「うぅ……どっちも美味しそうで、決められませんわ……」

「ふにー……迷います……」

「かき氷、美味しそう……でもあの綿菓子も……」

 ………………嫌な予感しかしなかった。

 イベリスが「だーかーら、綿菓子じゃなくてコットンキャンディですってば!」などと訂正していたが、問題はそこでは無いので聞き流した。

 得てして、こういう時の予感は当たるもので

「困りましたわ……どっちかだけなんて、決められませんわ……」

「ふにー……どっちか諦めないと、ダメですか……?」

「うぅ……食べたいよぉ……」

 なんとハナモモたちが目を潤ませ、買って欲しそうにこちらを見ている。

 ……いやいや、彼女達も給金を貰っている身だろう。

 いくら良心が咎めようと、そのような手に屈するようでは騎士団長など到底務まりはしないのだ。

 

 …………

 ……

 ……

 

「「毎度(ありがとうございました)ー!」」

 仲良し3人組には勝てなかったよ……。

「~~~っ、冷たいですの! でも、美味しいですわ!」

「ふに~……シロップ、とっても甘いです」

「~~~♪」

 ……まぁ、彼女達が喜んでいるので良しとしておこう。

「「………………ちょろい」」

 やかましい。

 さっきまで争っていた割に、随分と息が合っているではないか。

 とりあえず、カップに入っているため持ち運びの利く綿菓s……ではなくコットンキャンディは持ち帰り、溶けてくるかき氷(ソフトクリームのせ)を先に食べることにした。

「今回は引き分けですか……こうなったら売り上げで勝負しましょう、ハツユキソウさん!」

「うえぇ!? 勝負ですか!? も、もし負けたら……?」

「団長さんに近付かないで下さい! ……というのは半分冗談ですが、あんまり馴れ馴れしくしないで下さい」

「半分は本気じゃないですかー!? ……ま、負けませんから!!」

 その間にも2人でこのようなやり取りが行われていたが、これ以上巻き込まれたくなかったため早々に退散を決め込んだ。

 ……巻き込まれるで思い出したが、ツツジはどうしているだろうか? 

 彼女も誘えば良かっただろうか……などと場違いな事を思いながら、2人の屋台を後にしたのだった。

 

 

お化け屋敷

 

 ……いかん、先程から食事関係(それも甘味系)の店しか回っていないではないか。

 淑女3人組は楽しんでいるようだが、食事(と言うよりはデザート)だけというのも考え物だろう。

 そう思って周囲を見ていると、丁度良い出し物が見つかった。

 

 ……のだが

「ふにぃ……怖いです……」

「うぅ……団長さん、意地悪です……ぐすっ」

 どうやらお化け屋敷はお嬢様方のお気に召さなかったらしい……無理もないが。

「こ……怖くなんかありませんわ!」

 ハナモモだけは気丈に振舞っていたが、身体を震わせながら言われても説得力が無い。

 ……お化けよりも、極限指定級の害虫の方が恐ろしいと思うのだが……

 などと(思うだけに留めつつ)、何気なく屋敷の方に目を向けると

「……あれ? 団長さんだー! せっかくだから寄ってってよー!」

 思いも寄らぬ人物(ナナカマド )と目が合った。

 

 ……作り物(のお化け)なら平気、ということだろうか。

「さ、流石に平気だもん! それに、このお仕事が終わったら、美味しいカルボナーラを食べに行けr……あっ」

 成程、そういう事か。

 どうやらカルボナーラは恐怖心を超克するらしい。

「という訳で、団長さん達も寄ってってよ。大丈夫、アトラクションみたいなものだから安心だし、私のカルボナーラを助けると思って、ね!?」

 ……カルボナーラは城に幽閉でもされているのだろうか? 

 清々しいまでの本音駄々洩れである。

 とはいえ、男一人でお化け屋敷というのも面白味に欠ける。

 折角なので、誰かと一緒に入ろうと思ったのだが……

「「「…………」」」

 返事が無い、ただの少女達に戻ったようだ。

 自分が先頭を歩くので、3人で手を繋いで後からついてくるのでも無理だろうか? と提案してみる。

 3人はしばらく逡巡した後、(渋々ではあったが)了承してくれた。

 ……なぜか自分の両手まで繋いでいたが。

 これでは円陣である。

「あーっ! ハナモモちゃんとビオラちゃん、ズルい! 私も団長さんと手を繋ぎたかったのに!」

 中央にいたネリネが両端にいた2人を非難する。

 問題はそこではないのだが……

「ズルくなんてありませんわ! あたしは副団長ですもの、団長さまのお傍にいるのは当然ですわ!」

「そうですー! それにネリネさんは、お姉ちゃんじゃないですか! ビオラは一番年下ですから、団長さんに甘えたいんですー!」

「お、お姉ちゃんって……そこまで変わらないじゃないですか!?」

「ビオラさんはあたしと同級生ですわよ!?」

 ……ややこしい事になった。

 こうなるとしばらく話が通じない事は、これまでの経験で理解していた(未だに時間経過以外の解決法は見つかっていないのだが)。

 こうして見ていると、同年代の少女達と何も変わらないのだな……と(現実逃避気味に)悟っていると、新たに手を添えられた感触があった。

「……えへ♪」

 ……何をしているのだ、受付嬢よ。

「あーっ! 何してるんですか、ナナカマドさん!?」

「えーと……皆が団長さんと手を繋いでるの見たら、羨ましくなっちゃって……つい」

「つい、じゃありませんわ!」

「ふにー!!」

 何故余計にややこしくなるのだ……

 

 紆余曲折あったが、どうにか収まった所で、(ようやく)4人で入る事となった。

 ……残念ながら、団体割引というものは無いらしい。

「いってらっしゃ~い♪」

 見送るナナカマドの声が、やけに弾んでいるように聞こえた。

 

「だ、団長さま……そこにいらっしゃいますわよね?」

「うぅ……団長さーん……」

「怖くない……怖くないもん……」

 ……実に前途多難な出発である。

 屋敷内は空調が効いているのか、随分と涼しい。

 と言うより、冷えるくらいである。

 季節柄、こういった環境は大歓迎なのだが……どうも彼女達にはそこまでの余裕が無いようだ。

「ひゃうっ!?」

 そんな事を思っていると、ネリネが短い悲鳴を上げた。

 何事かと一瞬身構えたが

「いえ、あの……上から水滴が落ちてきて……それで……ふえ~ん!!」

 臨界点を超えてしまったのか、とうとう泣き出してしまった。

「うぅ……ここ怖くなんて、ありませんわ……」

「ふにぃ……」

 ネリネの不安が伝播してか、ハナモモとビオラもすっかり委縮してしまっている。

 ……このまま無理に進むよりは、入口まで戻した方が良いか、とも考えたが

「あたし達がついてますわ。大丈夫ですわよ、ネリネさん」

「そうです! ……怖いですけど、皆が一緒なら頑張れます、にこー」

「ぐすっ……ありがとう、ハナモモちゃん、ビオラちゃん」

 2人の励ましが効き、ネリネが持ち直した。

 ……少なからず涙脆い面はあるのだが、芯は強い花騎士である。

 しかし、そんな決意を嘲笑うかのように、その声は響いてきた。

 

「……うらめしや~……」

 

「きゃああああぁ!?」

「うわ~ん!!」

「ふにー!?」

 再びパニック状態に陥る一同。

 今時何ともベタな……という感想を抱いたのは、どうやら自分だけだったようだ。

 このままでは埒が明かないと判断し、先に正体を探ろうと、声の主の方へと近付く。

 その声の主はというと

 

「うらめしやぁ~……何で私がこんな役を……って、団長さん!?」

 

 ハツユキソウ(虹)が あらわれた! 

(余談だが、先程のハツユキソウはクリスマスバージョンである。ちなみにイベリスもである……完全に余談だが)

 

 裏は飯屋、表は蕎麦屋。

 ……とりあえず、経緯を聞こうか。

「私だってかき氷屋さんをやりたかったんですよぅ~うぅ……あの時チョキを出していれば……」

 一行で把握出来た。

 どうやらじゃんけんに敗れ、こちら(雪女役)に回されたようだ。

 向こうは向こうで、イベリスに絡まれて大変そうだったと伝えると

「えっ? 団長さん、もう一人の私に会ってたんですね。……いやぁ~でもそうなんですかぁ、それじゃ負けて却って良かったのかも知れませんね、ふふっ」

 ……この変わり身の早さである。

「……私って、大体こういう役回りなんですよねー。夏は重宝されますけど、結局クーラー替わりって事なんでしょうしね……うらめしやぁ~」

 かと思えば急にヘコみ始めてしまった。

 反応にも困ってしまう。

「まぁお給料はちゃんと出るみたいですし、ちゃんとやりますよ~」

 ……実はエピデンドラムだったりしないだろうな、と一瞬だけ思ったが、これだけの冷気はハツユキソウのもので間違いないと思い直した。

「この後も色々な仕掛けがありますので、楽しんでって下さいね~」

 そう言って手を振るハツユキソウは、全てを凍てつかせる雪女と言うよりも人に幸福をもたらす座敷童のようであった。

「や、やっぱりまだ何かありますのね……」

「うぅ……」

「スミレおねえちゃぁん……」

 ……彼女達にとっては「色々な仕掛け」という言葉が、不吉な予言にしか聞こえていなかったようだが。

 

 座敷童……もといハツユキソウと別れ、しばらく進むと立札が目に入った。

「この先、足下注意」

 内容に従って先の地面を見てみると、色の異なる部分が複数あった。

 おそらくは落とし穴の類だろう。

 その部分は踏まないよう、後方のハナモモ達に伝える。

 ……しかし、こうした注意書きがわざわざしてあるという事は、もしや何か別の思惑があるのでは……? と考えた所で

「今うさ!」

「それっ!」

 どこかで聞いたような声がした……と思った時には既に、自分の頭上めがけて何かが落下してきていた。

 完全に出遅れたため、そのまま頭で落下物を受け止めてしまう。

 ……とはいえ衝撃はさほどなく、その落下物……ゴム製のタライは自分の頭に当たって一度跳ね返ってからは、すぐに動きを止めた。

「引っ掛かったー! ……ってあれ、団長さん?」

「かかったうさ! 団長さん、迂闊うさよ!」

 今度は悪戯兎コンビ(ススキ&ウサギノオ )の登場だ。

 ……成程、立札で注意を足下に引き付けておき、別の所から本命のトラップを作動させるというカラクリか。

 中々に考えられている。

「そううさ! 我ながら名案うさ!」

「タライはケガしないようにゴム製にしてあるんだ。……大丈夫だったでしょ?」

 ……確かに、大した影響は無かった。

 引っ掛かったのは自分だけなので、後ろの幼……淑女達は無事だ。

 ご丁寧にウサギノオの格好は(時期外れではあるが)ハロウィン仕様である。

 何故かススキは水着姿だったが……突っ込むと厄介事に発展しそうだったのでスルーを決め込んだ。

 この二人の性格を踏まえると、雇われたというよりは自ら驚かす側に志願したのだろう。

「そううさ! 堂々とイタズラが出来るんだから、やらない手はないうさ!」

「お化け屋敷だもんね。……私はもっとゲリラ的に仕掛ける方が好みなんだけどね」

 大人しい顔して、中々な事を言うススキである。

 とはいえ、悪戯と言えども笑って済む程度のものであり、(頻度はさておき)その辺りの塩梅は行き過ぎないよう考えられているため、特に口出しはしないでいた。

 頻度はさておき。

 

 ……のだが

「それで、団長さん」

 薄ら笑いを浮かべたウサギノオが、とんでもない事を言い出した。

 

「悪戯好きの兎さん達に、お仕置きはしないうさ?」

 

 お仕置きとは本来、期待に満ちた目で要求するものでは無い筈なのだが……? 

「しちゃううさ? 団長さんにイタズラしちゃう、イケない兎達を躾けちゃううさ?」

 ……おまえはなにをいっているんだ。

「…………」

 見れば隣の兎娘も、何かを期待するような目でこちらを見ている。

 お前もかブr……もといススキ。

 そこへ、ハツユキソウのものとは異なる急激な冷気が吹き付けてきた。

「団長さん……?」

 追い付いたネリネが色々と察した様子で、冷たい眼差しをこちらに向けていた。

「えっちなのはよくないと思います」

 ……頬の一つでも染めていれば可愛らしい台詞なのだが、生憎と表情筋や目線は冷たくかつ鋭かった。

 さながら氷のごとく。

「団長さま……?」

 更に隣のハナモモも、疑惑の眼差しを向けている。

 仮にも公共の場で彼女達が考えているような事をするつもりは全くないのだが、色々と身に覚えが無いわけでもないので、甘んじて受けざるを得なかった。

「……ふに?」

 ビオラだけは純粋無垢にこちらを信じ切った目で見てくれているが、それはそれで心に来るものがあった。

 ともかくエスカレートだけはしないように、と(どこまで効くかは甚だ怪しいが)釘を刺し、足早にこの場を去ることにした。

「むー……あえての放置プレイとは、団長さんも中々に鬼畜うさね」

 後ろから何か聞こえた気がしたが、空耳だと思い込むことにした。

 それほどお仕置きをご所望ならば、後で特別に用意しておこう。

 

 ……尤も、相手は君達の御目付役(サンカクサボテン)だが。

 背後から刺さるような視線を感じつつも、出口へと向かう。

 今振り向いたら、お化けなどよりも恐ろしいものと対峙する羽目になるのだから。

 経緯はともあれ、先程までの恐怖感はどこへやら……といった具合である(出口が近付いてきた、というのもあるだろうが)。

 しかし、人間にとって最も危険なのは緊張感から解放された瞬間である。

 隙が生まれやすいのだ。

 大技を相手に命中させて「やったか!?」などと言ってしまうのが最たるものだろう。

 そう言わんばかりに、最後の仕掛けがまさしく牙を剥かんとしていた。

 

 ペポォ……

 

「ふにっ!?」

「な、なんですの……この声……?」

 ペポォ……ペポォ……

「また聞こえましたわ!?」

「ふええっ……」

 後ろが騒がしくなってきた。

 恐怖が先行しているためか、彼女達は気付いていないようだが……執拗にペポを求める者など、思い当たるのは二人しかいない。

 その一人であるヒトリシズカは、このような真似をするタイプでは無い(……筈)。

 となれば、自ずと容疑者は絞られる訳で。

 ペポォヲ……ヨコセッ……!! 

 声の主はその言葉と共に、こちらの行く手を阻んできた。

 

「フハハハハ……遅かったなだんちょ! 選ばれたのはランタナでした!」

 知ってた。

 むしろ君じゃなかったらどうしようかというレベルだ。

「なにぃ!? わたしの正体を既に察知していたとは……やるな、だんちょ!」

 あれで察知出来ない方がどうかと思うが……

「なぁんだ、ランタナさんでしたのね……驚かさないで欲しいですわ!」

 お化け屋敷の存在意義が、副団長によって全否定された。

「ランタナさんなら怖くないですー」

 ビオラはそう言うが、ここはお化け屋敷である。

 案の定、ただ驚かすだけで済む筈も無く

「わたしは怒っているのだよ、だんちょ!」

 彼女の言葉に思い当たる節はある……おそらくアレだろう。

「だんちょは常々言っていた……うちには打属性の虹の花騎士が少ないと……」

 ……その言葉で、予感は確信になった。

「あたし達がいますのに、まだ足りないと仰いますの!?」

「ふにー!!」

 いかん、何やら面倒な事態に発展してしまった。

「まぁ聞きたまえ……だんちょは好きな虹の花騎士を呼べる権利を持っている。そこでわたしは思った。きっとペポを……わたしが見繕った水着ペポ太郎を呼んでくれるのだと……!」

 彼女の説明を補足すると、虹の花騎士を呼べる権利とは虹メダルのことである。

 更に加えると、自力で呼び出せた打虹の花騎士は先程の小物……もとい、ハツユキソウだけである。

 それほどまでに打属性の虹花騎士は、うちにとっては希少な存在なのだ。

 そして……

「だが!! だんちょはわたしの期待を裏切った!!」

 その通りだ……選ばれたのは、ステラでした。

 いや、あれは仕方ないのだ。

 何かこう……不可抗力的な力学が作用したと云々。

「言い訳など聞きとぅない!」

 左様であらせられるか……

 つられてこちらまで時代がかった口調になってしまった。

「という訳で、わたしの純情を弄んだだんちょには天誅を下さねばならぬのだ……覚悟ッ!」

 誤解しか招かない口上を述べるや否や、ランタナが飛び掛かってきた。

 要約すると八つ当たりでしかないのだが、(知っていながら)彼女の期待を裏切ってしまったのもまた事実であり、さてどうしようかと思いながらとりあえず受け流す構えをとった所で

「あいや待たれい!」

 一つの影が自分の前を横切り、間に割って入った。

「ぬ、貴様は!」

 そこに現れたのは

 

「だんちょのピンチと聞いて、勇者ランタナ……推☆参!」

 

 ……まさかのランタナ(虹)であった。

「おのれ……乱心したか!? もう一人のわたしよ!!」

『それはこっちの台詞じゃい! 理由はどうあれ、だんちょに襲い掛かるなど……たとえ天が許そうと、この勇者ランタナが許さぬわっ!』

 ……なんかはじまった。

 それと、ややこしいため勇者の方のセリフは『』で囲むことにした。

「……誰に話してるんですか?」

 そこは気にしてはいけない。

「貴様は悔しくは無いのか!? 身体がペポを求めているのは、貴様も同じはずであろう!?」

『分かるぞ……もう一人のわたしよ。確かにわたしも、ペポは欲しかった。……だが、だからといってだんちょを襲うのは筋違いだ! 本当は分かっているはずだろう、お前もわたしなのだから!』

「ええい黙れぇ! わたしには……ペポが必要なんだ! 新参の癖に、偉そうに語るなぁ!」

『だったら尚更、自分のしている事がおかしい事に気付けるだろがい! 古参の癖に、そんな事も分からないのか!』

「黙れぇ!!」

 器用に剣を交えながら、互いの思いをぶつけ合うランタナ達。

 さながらヒーローショーである。

 ……少なくとも、お化け屋敷のアトラクションにしては異色だ。

 このような事になるならペポにしておくべきだったかと思った所で、文字通り後の祭りなのである。

 少なくとも自分はこの戦いの結末を見届けなくてはならないと思った。

 ……漂う茶番臭はさておき。

 

『金が虹に勝てるかぁっ!』

「ぐはぁっ! ……くそぅ、わたしにも貴様ほどのチカラがあれば……っ!」

 ……そうこうしている間に、決着がついた。

『己の欲に心を支配され、邪な思いを抱いた……だからお前は勇者に選ばれなかったのではないか? たとえ力があろうと、その使い方を誤っては……何よりペポを悲しませるだけだ』

「くっ……殺せっ……!」

 いやそれは駄目だ、と全力で止めに入る。

「……優しい奴だな、だんちょは」

『当然だ。なにせ、このわたしが認めた男だからな、だんちょは!』

 ……こんな時にどんな表情をすれば良いのだろうか? 

 笑うのは何か違う気がした。

「あぁ……だがせめて最期に、ペポを齧りたかっ……た……がくっ」

 そう言うなり、腕をだらりと垂らすランタナ(金)。

「ランタナさん!?」

「そんな!?」

「ふにー!? 死んじゃダメですー!」

 空気に感化されたのか、3人が目にうっすらと涙を浮かべながらランタナ(金)を取り囲む。

 ……が、そもそも死んでなどいない。

 彼女の腕は今も元気に脈を打っている。

『……彼女はわたしの心の闇から生まれた存在。わたしがいる以上、第2、第3の闇に魅入られたわたしが現れることもあるだろう。だが! わたしがいる限り、彼女達の過ちは直ちに修正……っておぉーい!?』

 何やら面倒な事にしかならなさそうだったので、決めているランタナ(勇者)をよそにまたも足早に退散を決め込むのだった。

 ……ペポの件は、前向きに検討しよう。

 

「お疲れ様~。どうだった?」

 ようやく出口に辿り着くと、ナナカマドが声を掛けてきた。

「やっと出られましたわ……」

「怖かったです~」

「凝ってましたね……色々と」

 口々に感想を述べる3人娘達。

 色々と刺激的な体験ではあった気がする……お陰で大分疲れたが。

「そっか。お陰でこっちも、カルボナーラがもっと美味しくなりそうだよ」

 ……最早突っ込む気力も残っていない。

 と、そんなやり取りをしていると

「だ、団長様っ!?」

「あれ、団長? 奇遇だね~」

 ツツジとイカリソウから声を掛けられた。

 中々に珍しい組み合わせである。

 何気なくそう呟くと

「えっと、パパ……いえ、両親とお祭りに来たんですけど、色々あってはぐれてしまいまして……」

 ……どうやらツツジの巻き込まれ体質は、今日も平常運行らしい。

「そこを買い出しに出てた私が見つけて、声をかけたんだ。とりあえず私達の出店まで同行しようって流れになって、今はその途中だったんだ」

 なるほど、経緯は分かった。

 外見はさておき、2人とも強い力を持つ花騎士であり、(主にツツジの特性で)何らかのトラブルに巻き込まれたとしても、余程の事でなければ解決出来てしまうだろう。

 ……外見はさておき。

 そしてイカリソウが言っていた「自分達の出店」とは、青い悪魔一家も何らかの出店をしていると見て間違いは無さそうだ。

「そだよ~。折角だから団長達も来ない? 何をしてるかは行ってみてからのお楽しみ~」

 メインイベントである花火の開始までにはまだ少し時間の余裕があり、他に断る理由も無かったため、イカリソウの誘いに乗る事にした(ツツジが心配だったりもする)。

「団長様と一緒……心強いです……!」

「むー!」

「また団長さんは……もぅ」

「ふにー♪ 一緒に回りましょう、ツツジさん!」

「はーい、それじゃ5名様、ごあんなーい!!」

 かくして、(一抹の不安を覚えつつ)6人に増えた祭りの珍道中はもう少しだけ続くのだった。

 

 

屋台(射的)

 

「着いたよー」

 道中、意外にも(と言うとツツジに失礼だが)特にトラブルに巻き込まれることもなく、イカリソウ達の出店に辿り着いた。

 すると

「おー、お疲れっすイカリン……と、団長さん達じゃないっすか!」

「お帰り。……あら? 団長様と一緒だったのね」

「お疲れ。おっ、団長にネリネじゃないか。折角だから寄ってってくれよな」

 青い悪魔一同から三者三様に声を掛けられた。

 

「射的のお店でしたのね……」

「そだよ~。シーちゃん発案でぇ……」

「私とスイギョクが景品の選定や届け出とかの諸々、シーマニアは銃の整備も担当してくれたわね」

「で、イカリンが屋台の組み立てっすね」

「えっ、イカリソウさんが一人で組み立てたんですか!?」

「すごいです~」

「えへへぇ~、わたし、力には自信あるからね~」

「……何本か組み立て用の木折られたけどな」

 やはりか。

「あぁ~、それは言わないでよキャプテン~」

「強過ぎるんだよ! お前の腕力は! ……ちったぁ繊細さも身に付けてくれよな」

「おやびんがそれ言いますかね……」

 随分と賑やかしくなったものだ。

 9人もいるのだから無理もないが。

 ……ところで、この景品というのは探検で見つけたものだろうか。

「その通りだ。結構色々なものが集まったのと、面白そうな催しをやると聞いて、店を出す運びになったってワケだ。発案はシーマニアだがな」

(……本当は換金した時に、大して値の付かなかったものばっかりなんですけどね……)

 そのシーマニアが真相をこっそり教えてくれた。

 景品を一瞥して、何となく理解した。

 ドクロの置物? 等、今一つ需要の分からないものが多い。

 某花騎士には大絶賛されそうではあるが。

「ただ……その割に客が来なくてな」

「やっぱり、海賊団というのが知れ渡ってるせいかしらね?」

 ガザニアが代弁してくれた。

 ……理由はそれだけではない気もするが。

「ともかく、折角だからやっていってくれよ。団長とネリネのよしみで安くしとくぜ」

「えっ、いいんですかスイギョクさん?」

 そういえば、二人はベルガモットバレーの防衛戦で面識があったな。

 ……客が少ないのに安くすると言う辺り、スイギョクは本気で稼ごうとは考えていないのかも知れない。

 元々大した値の付かなかった(ガラクタまでいくと言い過ぎだが)ものが多いようだし。

(流石にそれだけじゃ何なので、私らの不用になった私物も入れてあるんですけどね。……おっと、今のはここだけの話っすよ)

 裏事情ありがとうシーちゃん。

 まぁ、そうなると

 

「「「じぃ~~~~~~~」」」

 

 ……こうなる訳で。

 自分とネリネのよしみで安くしてくれるそうだし、ここまで来て冷やかしも出来まい。

 とりあえず、全員の1ゲーム分の料金をスイギョクに渡した。

「へへっ、毎度!」

「えっ!? 団長様、私、お金なら持ってますから……」

 ツツジはそう申し出てくれたが、この場でツツジだけ自腹で払わせる方が却って酷というものだろう(尤も、全員給金は貰っているのだが)。

 押し問答になりかねなかったので、受け取った銃を半分強引に押し付けることで反論を封じた。

「あ、ありがとうございます……」

「「「ありがとうございます、団長さま(さん)!!!」」」

 ……今日は奢ることにしているとはいえ、中々調子の良い3人である。

 

 そんなわけで、始めた射的であったが

「ふにー……当たりませんでした……」

「当たったけど、倒れませんでした……」

「倒れましたが、落ちませんでした……」

「難しいですのね……」

 知ってた。

 かくいう自分もこの手のものは得意……ということはなく、普通に失敗した。

 そう都合良くビギナーズラックが起これば苦労はしないか……などと思っていると。

 小気味よい発泡音と、景品が落ちていく音が続けざまに聞こえて来た。

「おおぉ!? やるな姉ちゃん!」

「大したものね……」

 スイギョクとガザニアも感嘆の声を上げている。

 一体どんな凄腕の人物だろうかと思い、視線を向けて見ると

「ふぅ……あら? 団長さんじゃない、奇遇ね」

 ……よく見知った人物(サフラン )であった。

 

 何故ここにいるのだろうか。

「エキナセアと一緒に来たんだけど、人混みではぐれちゃってね。仕方ないから探しつつ出店を回ることにしたんだけど、団長さん達に会えるとは思って無かったわ」

 そう言ったサフランは、自身が手掛けたと思われるアスファルのロゴの入った浴衣と団扇を身に付けていた。

 自身をも広告塔にしてしまう辺り、中々のやり手ではある。

 元が美人なので、人目を惹くのも確かである。

 それにしても大した腕前だ。

 明らかに落ちそうもない、重みのある景品までもが落とされている。

「ふふっ、ありがと♪」

 口ではそう言いながらも、サフランの目は次の景品に向けられていた。

 標的を補足し、静かに引鉄が引かれる。

 コルク弾が飛び出した事を認識した頃には、既に景品は落とされていた。

 普段から爆薬入りの瓶を、クロスボウで正確に撃ち抜くだけの事はある。

 その照準には寸分の狂いも見当たらない。

 

 などと思っていると、反対側の方でまた大きな歓声が上がった。

 いつの間にか集まっていたギャラリーによるもののようだ。

 視線をそちらに移すと

「うふふっ♪ ……あら、団長さん? 奇遇ねぇ~」

 またも知り合いであった。

 ……YOUは何故ここに? 

「えっとぉ~、ウメちゃんと一緒に来たんだけど、回ってるうちにはぐれちゃったの。それで探してたんだけど……面白そうなお店があったから、つい引き寄せられちゃって」

 それは奇遇だ、つい最近似たような話を聞いた気がする。

 そう言いながら、サクラは事も無げに景品を撃ち落としてみせる。

 尤も、彼女に関しては深く語るまでもない。

 ウメと並びブロッサムヒル最強の騎士と称される程の実力者であり、何より武器が銃なのだから。

「うわぁ……すっごいねシーちゃん!」

「すっげーのは確かだし認めますけど……これだと商売上がったりっすよ? おやびん」

「いいじゃねーか。これだけ面白いもん、そうそう見られねーぞ! それにさっきまで閑古鳥だったのが、今や大注目だ。今一番注目を集めてるんじゃねーか?」

「閑古鳥って……そもそも海賊が目立つの自体、どうかと思うわ」

 ガザニアも色々大変そうだ。

「……ふふ。流石はブロッサムヒル最強と謳われる花騎士……見事ね、サクラさん」

 ……ん? 

「あらぁ~、そうかしら? 貴女も凄いわよ、サフランさん」

 ……おや? 

「……ねぇ、一つ提案があるんだけど……」

 …………二人の様子が……? 

「あら奇遇ね。多分私も、同じ事を考えてると思うわぁ~」

 

 …………何が始まるのだろうか? 

 

「さぁさぁそこの姉ちゃん方、ちょっと立ち寄って見てってみな! 今なら面白いモンが見られるぜぇ!」

 屋台主(青い悪魔)全面協力の元、サフランとサクラの射撃対決が始まることとなった。

 互いの腕前を認めた上で、闘争心が着火したようである。

 もはや見世物と化しているが、スイギョク自らが呼び込みを買って出たので問題は無いらしい。

 先程までの二人の腕前を見た見物客による口コミもあってか、屋台の前には人だかりが出来ていた。

 見物客の整理を残りのメンバーが分担して行っている。

 騎士団長としてはどうかとも思いはしたが、腕利きの花騎士の存在は来場者にとっては大きな安心となるであろうし、その気になっている彼女達を止めるのも無粋ではある。

 何より屋台主が乗り気であり、ここまでの規模になってしまった以上、止められそうもない。

 それに、個人的にも見て見たくはある。

「何だか、凄い事になりましたね……」

「あたしまでドキドキして来ましたわ……」

「どっちも頑張って下さーい!」

「……もしかしてこれ、巻き込まれたんじゃないでしょうか……」

 少女4人組は三者ならぬ四者四葉の反応を見せながらも、固唾を飲んで見守っている。

 ルールはシンプルな早撃ちで、互いに自分のエリアに置かれた20個の景品を早く落としきった方の勝ちというものだ。

 景品は青い悪魔のメンバーが選んでおり、簡単なものから難しいものまで公平に選ばれている。

 今回は特別ルールとして景品は落ちやすいよう、台座の奥側に設置されてあるが……本当に落ちるのか疑問を呈するものもある。

 果たして。

「よし、状況は整ったみたいだな。後はお二人さん次第なんだが……」

「大丈夫よ」

「こっちもよ~」

「おっし! じゃあ始めるか……ウィンターローズの凄腕射手(スナイパー )、サフランVSブロッサムヒル最強の銃士(ガンナー )、サクラによる早撃ち一本勝負……始め!」

 スイギョクが言い終わるや否や、即座に狙撃を始める二人。

 その狙撃は高速かつ正確に景品を捉えており、瞬きする間もなく次々と撃ち落としていく。

 自分達を含む観客は水を打ったようになり、感嘆の声すら出てこないといった状態だ。

 二人の速度には殆ど差がない……厳密には付いているのかもしれないが、ほぼ同時という表現が尤も当てはまるだろう。

 互いに一度も外すことなく、難関と思われた小物や重さのあるものまでもが、いとも簡単に落とされていく。

 そうして、互いの景品が1個を残すのみとなり、最後の獲物に照準を合わせた……と思った瞬間の事だった。

「サフラン!!」

「サクラ!!」

 聞き覚えのある声が響き、コルク弾が撃ち出され、

 二人が初めて、景品に当て損ねた

 

 ……かと思ったが、かすってはいたようで

 二人の最後の景品は、全く同じタイミングで落下したのだった。

 

「全く、心配したんだぞ! それなのにキミは……」

「エキナセアさんの言う通りだ。お前が本気を出せば、こうなる事くらい分かっていただろう?」

「あ、あはは……」

「ごめんねぇ~、サフランさんが凄かったから、つい……」

 予想通り、声の主はそれぞれの連れであるエキナセアとウメだ。

 はぐれた者同士かつ花騎士同士という事もあり、サフランとサクラを探している時にこの屋台の人だかりを見つけ、見てみた所……という訳だ。

「キミもだぞ、団長。団長というものがありながら……」

 などと経緯を整理していたら、こっちにまで飛び火した。

 自分でもどうかとは思っていたので、反論できずにいたが

「待って、エキナセア! 言い出しっぺは私なの、団長さんは悪く無いわ!」

 サフランが弁護をしてくれた。

 ……聞きようによっては、却って誤解を招く物言いではあるが。

「そうなのよ~。団長さんはたまたま居合わせただけで、その頃にはもう引っ込みが付かなくなってたの。屋台主さんにも許可は頂いたのよ~」

「む……」

 サクラも援護をしてくれた。

 当の屋台主が一番乗り気だったのだが……面倒になりかねないので黙っている事にした。

 ちなみに、落とした景品はネリネとツツジが魔法で元の位置に戻し……それを見た観客から喝采が飛んだ事もあり、屋台は今や大盛況……とまでは行かずとも、それなりの盛況を見せていた。

「私も魔法を扱うけど、こういう使い方は出来ないというか……やった事がないのよね。覚えてみようかしら」とはガザニアの弁である。

 スイギョクによれば、元々エニシダに協力を頼むつもりだったのだが……景品を見るなり逃げ出してしまったのだとか。

 ドクロが駄目だったのだろう……某花騎士とは逆で。

 ブルーエルフィンにも注意されたそうだ(スイギョクは「妖精っぽいの」と言っていたが)。

 その後の顛末について、サフラン達が撃ち落とした景品については「(屋台主の許可を得たとはいえ)騒動を起こしたから」との理由で本人達は頑なに受け取りを拒否し、自分達に好きな景品を譲る事で落ち着いた(その時に、ドクロを好む花騎士がいる事も伝えておいた)。

 ツツジの両親とも会え(と言うより、魔法を使った事で両親が気付いた)、家族水入らずで過ごすと思ったが「何かあった時、自分達よりは団長や花騎士達が近くにいた方がいいから」との理由で、今も行動を共にしている。

 スイギョク(とサフラン)達は忙しくなったため、簡単に挨拶を交わして場を離れる事にした。

 ちなみにサフラン達は見物客達に囲まれている。

 さながら、ベイサボールのヒーローインタビューであった。

 

 時間を見ると、メインの花火大会まであまり時間はなく

「「「「団長さん(さま)、早く行きましょう?」」」」

 少女達に急かされながら、会場へと向かうのだった。

 

 

花火

 

「団長さん」

 夜空に咲き誇る火薬の花を眺めながら、ネリネが話しかけてきた。

 ちなみに彼女は自分の右側に、ビオラは左側に、ツツジは右側手前にやや遠慮がちに……ハナモモに至っては特等席と言わんばかりに、自分の足の間に座っている。

「花火……綺麗ですね」

 横顔を向いたまま、ネリネが呟く。

 その姿が大人びて見え、心臓が跳ねるのを感じた。

「ふに~……綺麗ですぅ」

「本当ですね……儚いですけど、だからこそ美しいのかも知れませんね」

 ビオラは無邪気に、ツツジは思いに耽りながら花火を眺めている。

 ハナモモは言葉こそ発しないが、うっとりした様子でこちらに身体を預けている。

 見入っているようだが……眺めているとこちらが魅入ってしまいかねないので、視線を上に向けた。

「来年も、また見たいですね……」

 その言葉で、ハッとした。

 この世界が未だに害虫の脅威に晒されており、来年もこの光景が見られる保証など、どこにも無いという事実を。

 だからこそ、護っていかなくてはならない。

 この世界で生きる人々を。

 美しいこの光景を。

 信頼し……想いを交わした、花騎士達と共に。

 自然と、言葉が口をついた。

 

 見よう、この光景を。

 来年も、再来年も、その次も……皆で。

 

 

 その言葉に、ネリネは少し驚いた様子を見せたが

「…………はいっ!」

 瑠璃色の空を彩る花にも勝る笑顔で、彼女は応えた。

 

 

 ~Fin~

 

 

???

 

「団長さま」

 いつになくしおらしい様子で、ハナモモが尋ねてきた。

 何かあったのだろうかと、この時は軽く考えていた。

 直後に降りかかる爆弾発言と、それに伴う災厄にも気付かずに。

 

 

「当たってますわ……その、団長さまのが……」

 

 

 当ててないですけど!? 

 

 

 見ると、察したであろうツツジの顔は朱く染まっており、

「ふに?」

 ビオラはまだ気付いていないようだが、気付くのは時間の問題と思われ

 そして……先程から一転、凍てつく冷気を纏った視線が一筋。

 目を合わせた途端に氷漬けにされかねず、本能が目線を合わせる事を全力で拒んでいた。

 

 当ててませんのよ!? 

 不可抗力ですから!! 

 

 当人はといえば「ネリネさんといい雰囲気になったお仕置き」とでも言わんばかりに口角を吊り上げている。

 つまりは、嵌められた訳で。

 

 ……たまにはこの花火のように、綺麗に終わらせてくれても良いのではないだろうか。

 

 ~Bitter End? ~




ねりねりがメインヒロインっぽいなと思いました(粉ミカン)
お互いの呼称は幻覚(強め)です(公式(お母さま)いわく、ビオラ→ハナモモは「ハナモモちゃん」で確定のようですが)。
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