※この作品はR-18です。

『生きてこそ』 ソードアート・オンライン   作:ビルダー林檎

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お久しぶりです。まず初めに、投稿が遅くなり申し訳ございませんでした!最後まで書き切りますので、どうかこれからもよろしくお願い致します。


⑤「苦痛」

「はぁ……はぁ。」

 

 

(息が……はぁ……胸が、苦しい。)

 

 

 ユウは、額に汗をかきながら、眼前の敵を睨みつけた。現実世界の彼は、今頃汗だくに違いない。彼等は今、30階層のボス 二枚爪の獣「ツヴァイ・オニュクス」と熾烈な戦いを繰り広げていた。

 

「ユウッ!大丈夫か!?」

 

 トールがユウを配慮しながら、獣の巨体から繰り広げられる猛攻を紙一重で躱している。

 

「大丈夫だトールッ!く……うおおおッ!!」

 

 ユウは呼吸を整えると、咆哮を挙げる獣に対峙し、真っ直ぐに突っ込んでいった。

 

♢♢♢

 

———話は数時間前に遡る。

 

 

 

「ランチェスターの法……則?」

 

 ローズ・キャッスルの客間にて、【イノセント・ナイツ】の全員が不思議そうにユウの顔を覗き込んでいた。

 

「確か……第一次大戦時に提唱された戦法、だったかしら?」

 

 ミナミの言葉にユウは満足気に頷く。

 

「そうです。簡単に言うと、数の多い方が有利という法則です。1対の相手に例えば……3人で攻撃して、こちらの被害を極力抑えつつ敵を効率良く倒す方法です。」

 

「つまり……多勢に無勢ってことですか?」

 

 マイが小首を傾げた。ミナミ程では無いが、彼女もなかなかに飲み込みが早いようだ。

 

「……俺達はその数で劣っているんだが。」

 

 

 トールが机に肩肘をつきながら、面倒くさそうにぼやいた。彼が疑問に思うのも当然だ。あの塔の中の敵モンスターの数は不明。対してユウ達の戦略は5人。他のギルドの様に数十人なら兎も角、少数の彼等にはランチェスターの法則は当てはまらない。しかし。

 

「僕は……このランチェスターの法則を逆手に取りたい。」

 

「逆手……とは?」

 

 

 今まで沈黙を続けていたシスター・ローズがユウの声に耳を傾けてくれた。ユウは話を続ける。

 

「敵の攻撃を僕に集中させ、その隙に他のメンバーが敵を攻撃します。」

 

「……仰る事の意味を理解していまして?」

 

 シスターローズが驚きのあまり目を見張った。

 

 

「例えユウ様の腕前でも、それは難しいと思いますわ……。」

 

「そうよユウ君、無謀よ。」

 

「大丈夫です。そのために、僕はある装備を提案します。」

 

 

 ユウは、強い意志を秘めた瞳でシスターローズを見つめた。

 

 

♢♢♢

 

「うおおおおおおッ!」

 

 ユウは左手と右手の両腕に大楯を構えながら、ツヴァイオニュクスに突っ込む。敵は反射的に大足でユウを踏み潰そうとするが、頑強な”大楯”に阻まれ効果はなかった。

 

(全身にフルプレート、両腕に大楯を装備した防御特化仕様だッ!)

 

 “多重積載装甲”そして銀の大楯で堅固に構成されたユウの装備は、例え30階層のボスでも破りきれはしなかった。

 

 

(……凄い重たいし疲れるがッ!僕のヒットポイントは少しも減ってはいないッ!)

 

「今ですッ!一斉攻撃をッ!」

 

 ユウは全員を呼んだ。その声に反応し、トールとミナミの2人が攻撃を集中する。

 

「姉貴ッ!体勢が崩れたッ!」

「ローズさん!お願いします!」

 

 2人が叫ぶ。

 

「行きますわよ皆さん!はぁぁぁッ!!!」

 

 シスター・ローズとテオドール 卿とローゼン卿の3人が同時に剣技を繰り出す。真一文字に伸びた剣先が、ツヴァイオニュクスの心臓に突き刺さった。唸り声を上げながら、ツヴァイオニュクスは地に伏す。

 

(……やったのか?)

 

 ユウは安堵のため息を漏らしつつも、ツヴァイオニュクスから目を逸らさない。しかし、動き出す様子はなかった。第二形態はないと確信出来る。すると気が緩んだのか、途端に身体が重くなり、ユウはよろめいた。

 

「おっと。危ないぜ。騎士様。」

 

 ふらつく彼の身体をトールが支える。

 

「トール。騎士様はやめてくれよ。僕はただの……。」

 

 ユウは照れ隠しをしつつも……脳裏に前回の記憶が蘇った。

 

 

 

♢ ♢ ♢

 

 

 街の中を、炎が渦巻いている。煙と焼けた死体の悪臭が、ぷんと鼻をついた。

 

 

 (どうして……)

 

 

 ユウは、足元に無造作に転がる死体を力無く見つめながら、ツヴァイヘンダーを肩にかける。自暴自棄に陥ったプレイヤーキラー達の死体が、辺り一面を覆い尽くしていた。ユウが、1人でやったのだ。何の感情も無く剣を振い、敵の首を刎ねただけだ。フルフェイスの兜は、あらゆる感情を抑え込んでいる様に、見えた。

 

 

 (……つまらないな。)

 

 

 

 人を、殺した。という感傷などは、彼にはもう無かった。ただ虚しさだけが、彼の心を占めていた。

 

 

♢ ♢ ♢

 

 

 

(僕が、頑張らなきゃ。無理をしてでも、みんなを助けなきゃ……いけない。)

 

 ユウは、全員の顔を眺めた。この1人1人の生死が、自分の肩に重くのしかかる様な錯覚を覚える。

 

「……凄い顔してるわよ。ユウ君。」

 

 

「ユウさん、また寂しそうな顔してる。」

 

 表情に出てしまったのか、桜木姉妹に心配され、ユウはハッと我にかえる。

 

(……気を張り詰めすぎた。)

 

「トール。」

「ん。」

 

 ユウはトールの背を叩き、彼の支えを離すと、そのまま床にゆっくりと座った。

 

「……これで、とうとう30階層ですね。」

 

 ローゼン卿は興奮を隠しきれない様子だ。

 

「あー!今どれくらいなんだろーな。全部で50階層くらいだったらいいのに。」

 

 ローゼン卿の言葉に、ユウを除く全員が頷く。

 

(少なくとも後50階層以上はありますよ。)

 

 ユウはそう思ったが、口には出さないでおいた。

 

 

 前回は”グランザム”に到達して以降の記憶が曖昧だが、今回のペースならば、1年以内には辿り着けるだろう。彼は知っていた。この先の敵は、どの様な方法で攻撃をして、どんな攻撃に弱いか。例え差異があったとしても、この経験と知識は無駄にはならない。

 

 

 だからこそ、ユウは防御に特化した装備を提案した。ツヴァイヘンダーによる力押しだけでは、敵は倒せたとしても、味方を守りきるのは難しい。1人に攻撃を集中させ、仲間の生存確率を1%でも上げなければ、ならない。ユウは痛む体を抑えながら、立ちあがろうとした。

 

(待て……"痛い"?)

 

 身体中に冷や汗が伝う感触を覚えながら、ユウは試しに頬をつねる。やはり、痛みが走った。恐る恐る身体を見回す。傷口と思われる部分から、じわじわと血が滲み出ていた。

 

「どうしたのユウ君……待って!その身体!」

 

「ユウ……お前、血か?血が出ているのか?いや待……痛ッ!?何だ?身体が痛ぇぞ。どうなってやがる?」

 

「ホントだ!おかしいよ!ゲームなのに。SAOという”仮想空間”の筈なのに!まるで本当に傷が……。」

 

「オチツイテ、下さい。」

 

 パニックになりかけた彼等だったが、テオドール 卿が助け舟を出した。彼の声からは不思議な穏やかさがあった。

 

 

(しかし、これは一体どう言う事だろうか。)

 

 

ユウは胸が疼くのを感じた。不快な感覚だった。

 

「……皆様、一度城に戻りましょう。」

 

 そしてこんな状況でも、シスター・ローズは冷静だった。

 

♢ ♢ ♢

 

 

「さて。先程の件についてだが。」

 

 トールが不機嫌そうに、ソファに腰掛ける。

まるで実家の様に寛ぎつつも、その声には不穏な色を含ませている。

 

「この痛みは何なのか、か?」

 

 ユウは痛む身体を抑えながら問いかけた。

 

「ああ。ユウ、お前はどう思う?」

 

「さあ、僕の憶測だけど、GMによる細工じゃないかな。彼はこの世界に僕達を閉じ込める事が目的だと言っていた。それはつまり……。」

 

「——痛みがあるからこそ、生を実感出来る。」

 

 ミナミが、冷ややかに呟いた。その声に全員が反応し、視線が彼女に集まる。

 

「……痛覚がなければ、恐怖も無いわ。だから私達に恐怖を実感させるため、後は……これは考えたくないけど、ユウ君の作戦を妨害するために、GMは痛みを与えた。」

 

 理屈としては納得出来る話ではあった。

事実として、ユウの防御特化はこの近接攻撃主体のSAOにおいては有効な戦法だろう。範囲攻撃でもない限り、敵モンスターが攻撃出来るのは、1人だけだ。

 

(ふむ……。ん? 待てよ。そういえば、確か……。)

 

 ユウは閃き、メニューウィンドウを開いた。そこには一つのスキルが記されていた。

 

 

—————スキル 痛覚

 

 

(これは……。 )

 

 スキルの説明文を読む。すると、そこに書かれていたのは驚くべき内容だった。

 

スキル:痛覚

効果 :HP以外に対しステータスへのダメージを付与する。

説明:HP以外のステータスとは、すなわち”五感”全てを指す。

 

(なるほど、これが答えか。)

 

 ユウは、思い切って頬をつねった。途端に痛みが走る。やはり痛みがある、という事に間違いはないようだ。それを見た全員が、彼の真似をして自分の頬をつねた。当然の事ながら痛みを感じたようで、顔をしかめていた。

 

「……でも私は、そんなに悲観的になる必要はないと思ってる。」

 

「どういうことですか? 」

 

 ミナミの発言に対し、ユウが尋ねた。

 

「私達は、元々は普通の人間よ。だから痛みを感じれば、プレイヤーキルをする人が……減るかも知れないわ。」

 

 彼女の言葉には、希望的観測が含まれているとはいえ、一理あった。しかし痛みを感じる。という言葉に、ユウの心に再び刺す様な疼きが生じた。

 

("以前"は、痛みが無かった。痛みが無いということは、死ぬという意識が薄れてしまうということだ。だから……プレイヤーキルなんて残酷な事象が起きた。)

 

 ユウは、今までに殺した相手の表情を方時も忘れる事は無かった。HPが0になれば死ぬ。

単純であるがあまり、実際に自分が死ぬとは信じられないのだろう。呆然とした様子で死んでいく人達を、ユウは大勢見てきた。またプレイヤーキラーに対して、心の中ではどこかざまあみろ、という残酷な感情があった事も否定はしない。

 

 しかし、SAOにいる人々の一人一人には、命がある。そして家族が、仲間が、友人もいる。前回においてそれを奪ったのは、紛れもなく自分だった。

 

(痛み、か。)

 

 ユウは、痛む身体をぼんやりと眺めながら、今後の戦いを想像した。間違いなく、苦しい物になるだろう。いくら防御力を高めようとも、痛みによる体の鈍りは誤魔化せない。まるで、彼の考えを先回りするかの様な対策の早さだ。

 

(防御特化による効果は……もう見込めないだろうな。)

 

 身体の節々に走る痛みを顔を歪めながら、ユウは、今後の戦いに思いを巡らせた。

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