神聖戦姫ヴァルキュリア・ガーネット 作: 霜月ナル(元Hpinch_like)
「はぁぁぁぁぁぁ!」
戦姫へと変身した火神サクラはゴブリン達を蹴散らす。
一体の力は変身したサクラと比べるとその差は歴然だが、その代わり数で圧してこようとしてくる。
サクラは戦う術を持たないアヤメを守りながら戦う必要がある。
しかし、アヤメはただ守られる少女ではなかった。
「サクラ、右から来る!」
「了解です!はぁ!」
右の死角から襲いかかろうとしていたゴブリンを斬り払う。
アヤメのサポートは戦えないながらも的確にサクラをサポート。
二人のコンビネーションによって、付近のゴブリンを倒し終える。
「――ふぅ、とりあえず安心というところでしょうか?」
「うん、落ち着いたところでこの後のことを考えよう」
サクラはアヤメの言葉に頷く。
この混沌とした状況で闇雲に行動しても徒に体力を消費するだけだ。
まずは目標を明確にして行動するべきだろう。
「まず、このまま私の家に行こう。もしかしたらお姉ちゃんがまだいるかもしれない」
「ヒオウさんがですか?流石に逃げてるのでは・・・・・・?」
「いや、作業場にこもってるなら外の状況に気づいていないかもしれない」
「あー、ありえますねぇ・・・・・・」
七海家にある姉妹の作業場は防音/遮音設備が整っており、集中して作業していると外の状況に気づかない。
それに七海家の敷地は広く壁も高いため、下手に避難するよりも安全である可能性が高い。
「とにかく、お姉ちゃんの安全確認のためにも家に向かおう。食料とかの確保も必要だし」
「確かにそうですね。この状況がいつまで続くかもわかりませんし」
直近の目標を決めた二人はその場から移動を始める。
無用な戦闘は避けたいため、遠回りになってもゴブリン達がいない道を通っていく。
しかし、それでも避けようのない時がある。
「っ!サクラ、なんかよくわからないけど結界?みたいなのに閉じ込められた!」
「あー、これゲームとかでよくある強制戦闘のやつですねぇ!」
ちょっとした広場のような所にでると、突如逃げられないよう道に結界が張られてしまった。
同時にゴブリンがぞろぞろと異空間から現れる。
ゴブリンの中には棍棒をもった通常の個体だけではなく、杖を持つタイプも存在していた。
「ゴブリンシャーマンってやつでしょうか・・・・・・」
「たぶん、魔法を使ってくるだろうから気をつけて!」
「アヤメちゃんもですよ!」
まず、邪魔になるだろうゴブリンシャーマンを狙うサクラ。
しかし、それを見越したように大きな盾を持つゴブリンがサクラの攻撃を防御する。
最初に遭遇したゴブリン達とは違い、統率のとれた動き。
明らかに軍やそれに類する組織に属しているものの動きだった。
「くっ!?面倒くさいですね!」
盾を持つゴブリン、とりあえずゴブリンタンクとでも呼称しようか。
そのゴブリンタンクを倒すために間合いを詰めようとするサクラだったが、そこへ横槍を入れるように魔法攻撃が行われる。
それは炎球だったり氷塊といった様々な属性の攻撃だ。
しかし、それらは全てサクラには当たらず避けてしまう。
護身のため様々な武術を習ってきたサクラにとって直線的な魔法は避けることなど造作もないことだ。
とはいえ、全て避けられるかと言えば答えはノー。
いくつかは直撃コースのものもあり、それらは剣で叩き落としていた。
「――とはいえ、このままではじり貧です。あのゴブリンタンクをどうにかしないと」
下手な攻撃ではパリィされ、こちらに隙が出来てしまう。
――ならば、魔法はどうだろうか?
サクラはゴブリンシャーマンに魔法が使えるなら、自分にも使えるのでは?と考えた。
こんな格好をしていて使えるのが剣による物理攻撃だけとは思えなかった。
どうせ常識など全て覆った後。
試すだけならタダだ。
(そういえば、あの時――)
ゴブリンとの初遭遇戦の時、サクラは無意識だが剣に炎を纏わせていた。
しっかりと意識して、剣に炎を付与すればあの盾を溶かし斬ることが可能なのでは?
「とにかく試してみないとわかりません!――はぁぁぁ!」
剣に炎で熱せられるイメージを強く行う。
すると、体からナニかが抜けていき剣へと伝わる。
これが所謂魔力だろうか?
すると剣が熱を放ち、紅く輝いていく。
名付けるなら『魔法剣・炎』だろうか?
「その盾、断ち斬ります!」
充分に魔力を剣に行き渡らせゴブリンタンクへ攻撃を行う。
ゴブリンタンクは変わらず、盾を構えて受けの体勢に入る。
そして、サクラの振るう一撃がぶつかる。
サクラの振った一閃はゴブリンタンクの持つ大楯にぶつかり接触点から溶け、斬れていく。
自慢の盾が半分に斬れてしまったゴブリンタンクは驚きで固まり動けなくなってしまう。
サクラはその隙にゴブリンタンクを真っ二つに断つ。
「グギャァァ!?」
「よし!これであとは雑魚のみ!」
ゴブリンシャーマンは慌てて魔法を放つが、今のサクラにそんなものは当たらない。
最小限の動きで避けながら、確実に仕留めるために間合いを詰める。
「はぁ!」
「ギッ……」
ゴブリンシャーマンも近づかれては無力。
あっさりと首を飛ばされ絶命する。
こうして、ゴブリン達は全滅した。
同時に道を塞ぐように張られていた結界が破壊される。
「ふぅ、なんとか終わったかな・・・・・・」
「サクラ、スゴい・・・・・・」
呆然とサクラを見つめるアヤメ。
ついさっき力を手に入れたばかりとは思えない順応性。
サクラの思い切りの良さ、幼少期から学んでいる武術。
それに今日手に入れた力が加わり、サクラは戦闘に関して非凡な才能を発揮し始めていた。
見た目はお淑やかな令嬢なのに、中身は歴戦の騎士のようだ。
「とりあえず、先を急ごう」
「ええ、行きましょうか!」
二人は七海家へと急いだ。
途中、同じようにゴブリン達に足止めをされたが、やはりサクラの敵ではなく危なげなく倒すことが出来た。
しかし、無力な人々の死体も見てしまい吐きそうになってしまう事もあった。
そしてようやく七海家の前まで到着すると、正門の前でゴブリン達がたむろしていた。
中に入ろうとしてナニかに弾かれているようだった。
「アレ何が起きてるんでしょう・・・・・・?」
「わからない。私が知らないうちに新しい防犯設備でもいれたのかも?」
二人は顔を見合わせる。
しかし、考えてもわかるものではないため、とにかく中に入ることを優先することにした。
もしダメなら庭から侵入しようと決めて、正面から突撃する。
サクラが先頭になってゴブリン達に向かっていく。
ゴブリン達も気づき、サクラたちを認識する。
彼らの奥から今までとは違う、身長が高校生くらいの騎士のような剣を持つゴブリンが現れる。
ゴブリンナイトとでも言うべき新種。
群れの中で、このゴブリンだけが明らかに雰囲気が違う。
彼らの部隊長なのだろう。
「サクラ、気をつけて!アイツ強そう」
「ええ、油断しないでいきますよ!」
サクラが武器を構えると、ゴブリンナイトは腰を落とし剣を構えた。
まるで居合のように構えられた剣を見て、警戒心を高める二人。
ゴブリンナイトは一歩踏み込み、剣を振るう。
「――グォォッ!」
速い! ゴブリンナイトが振るった剣は目で追えないほどの速さで迫ってきた。
「きゃっ!?」
辛うじて反応できたサクラは、その攻撃を剣で防ぐことができた。
しかし、ゴブリンナイトの攻撃はそれだけでは終わらなかった。
続けて、ゴブリンナイトは剣を横に薙ぎ払う。
その攻撃に今度はガードが間に合わずに脇腹を掠めてしまう。
幸い服を裂かれただけで済んだが、血が流れ始めた。
「くぅ!」
一旦、距離を取りたいサクラだったが、ゴブリンナイトはそれを許さない。
すぐさま距離を詰めて、サクラに追撃を加える。
それを回避しながら、反撃の機会を伺うサクラ。
「サクラ・・・・・・」
先ほどまで戦いとは違い、手こずっているサクラを心配そうに見つめるアヤメ。
今の自分に彼女を手助けする術はない。
悔しそうに唇を噛むことしか出来ない自分が情けなくなる。
しかし、次の瞬間状況が変わる。
「はぁ!」
「ギャギャ!?」
先ほどまで追いついていなかったゴブリンナイトの攻撃にサクラが順応し始めた。
ゴブリンナイトの剣筋を見極め、避け弾く。
そして、徐々に攻撃を当てていく。
流石にゴブリンの上位種、一撃では倒せない。
それにうまく致命傷を避けている。
だが、サクラはゴブリンナイトの攻撃を受けながらも着実にダメージを与えていく。
「はぁ!やあ!」
サクラが振るった一撃は、ゴブリンナイトの剣を砕いた。
「ギャ!?」
ゴブリンナイトは驚いて動きを止めてしまった。
そこを見逃すサクラではない。
即座に懐に入り込み、渾身の力を込めて横薙ぎに振り抜いた。
ゴブリンナイトは辛うじて避けたものの、胴体に深く傷が刻まれる。
ブシャァと血が噴き出す。
「ギャァァァァ!?」
すかさず追撃を行おうとするサクラだが、そこへ今まで待機していたゴブリン達が加勢してくる。
どうやらゴブリンナイトはこのままでは勝てないと悟り、なりふり構わなくなったようだ。
「騎士といえど、所詮はゴブリン。ということですか・・・・・・」
サクラは小さく呟いて、襲いかかってくるゴブリン達を切り伏せる。
ゴブリンナイトは奥でシャーマンに回復されている。
「させません!」
サクラは魔力を操り、火の玉を作り出すとゴブリンシャーマンに向けて放つ。
火の玉はゴブリンシャーマンを焼き尽くし、ゴブリンナイトへの回復が中断される。
一見するとサクラに斬られた胴体の傷は塞がっているものの完全に治療はされていないようだった。
自分の思い通りに行かず、ゴブリンナイトは怒り狂う。
「グォォォォォ!」
ゴブリンナイトが雄叫びを上げると、筋肉が膨張し鎧がはじけ飛ぶ。
もはやこれではナイトではなく、バーサーカーだ。
ゴブリンナイトは理性をなくしたように、サクラに向かって突進した。
仲間のゴブリン達が巻き込まれ吹き飛ばされる。
先程までの鋭いスピードというより、パワーのある攻撃へと変わっていた。
サクラめがけて飛び上がり、拳を振り落とす。
「グガァァァァァ!」
サクラは落ち着いてその攻撃を避ける。
ドンッと地面が割れるが、サクラには当たらない。
続けて何度も殴ろうとするゴブリンナイト。
しかし単調な攻撃が当たるわけもなく、サクラは難なく避けながら攻撃を加えていく。
「――これなら先ほどまでの方が強かったですね」
サクラの言う通りだった。
ゴブリンナイトの攻撃が当たらなくなり、焦っているのか次第に大振りになっていった。
その隙はサクラの反撃を許してしまう。
ゴブリンナイトの右腕が斬り落とされ、痛みで絶叫する。
「ギャアァァ!?」
そしてサクラは大剣に魔力を込め、上段から一気に振り下ろした。
「これで、トドメです!」
ゴブリンナイトは咄嵯に反応し、左腕でガードしようとするが意味がなかった。
腕ごと頭を真っ二つにされたのだ。
ゴブリンナイトはそのまま絶命して斬られた箇所から消し炭となった。
「ふぅ・・・・・・」
ゴブリンナイトが倒されたことで残党のゴブリン達は逃げ惑い、隙だらけな彼らを殲滅。
七海家の前にいたゴブリン達は全て倒す事が出来たのであった。
「いや、ほんとサクラスゴすぎ・・・・・・。武術習ってたとはいえ、こんなのあり得ない」
「うーん、変身できるようになってから体の動きが最適化されたというか、遙か昔に忘れていた感覚を思い出したという感じでしょうか?私も正直、ここまで戦えるとは思ってませんでした」
「遙か昔・・・・・・基礎理論にあった前世の影響ってやつなのかも」
「ヒオウさんに聞けばわかりますかね?」
「とにかく中に入ろ」
二人は正門をくぐり、中に入る。
どうやらゴブリンを弾いていたナニかは二人には効果がないようだった。
少し庭を歩いて屋敷の前に着くと、二人が会ったことのない少女が立っていた。
「アヤメちゃん、知り合い?」
「いや、知らない子。あんな派手な金髪ゴシックロリータ美少女、見たら忘れない」
二人が顔を合わせて話していると少女が近づいてくる。
そして、彼女は貴族然とした挨拶を二人に行った。
「初めまして、わたくしシャルロッテと申します。魔界で貴族をしているものですわ」
サクラとアヤメはその言葉に驚く。
なぜなら目の前の少女は見た目に似合わず、流暢な日本語を話したからだ。
しかもその内容にさらに驚かされる。
「「ま、魔界ぃ!?」」
その反応にニッコリと笑うシャルロッテ。
まるでイタズラが成功した子供のようだった。
シャルロッテと名乗るゴスロリファッションをした金髪の女の子に、二人は驚きを隠せないでいた。
「え、ということは今回の事件の関係者!?」
「むしろ犯人側?」
「おーい、早合点するんじゃない」
混乱する二人に背後から声がかかる。
そこに現れたのは眼鏡をかけ、草臥れた白衣を着た女性「七海ヒオウ」だった。
「ヒオウさん!無事だったんですね!?」
「お姉ちゃん、この娘なんなの?」
「あー、二人で捲し立てるな・・・・・・」
自作の特製ハーブタバコに火を着け一服するヒオウ。
煙を吸って吐く。
一拍おいて、ヒオウは語り始める。
「その娘は彼女の言うとおり、魔界の貴族であるシャルロッテ。今回の事件で襲撃してきた奴らとは敵対派のね」
「今回の事件の直前に私が所属している政府組織に彼女が接触してきた」
「んで、色々対策を立てようとしたが、相手の動きが速かった」
ヒオウの話を聞き、驚く二人。
まさか本当に魔族だと思わなかったからである。
そんな二人の様子を見て、シャルロッテは楽しげに微笑む。
「わたくし、和平派の筆頭なんですの。今回襲撃を行っている過激派の計画を突き止め、人類に警告をするためにこちらへ来ました」
「和平派・・・・・・。ということは味方って事ですか」
「ええ、そのように思ってもらって差し支えありませんわ」
微笑むシャルロッテを見て、怪しむアヤメ。
正直この状況で魔界の貴族です、といって近づいてくる人物を怪しまない方がおかしい。
「まぁ、彼女にも利点はあるのさ。情報や技術提供の代わりにこちらからは移住者の受け入れや支援を行う手筈になっている」
「移住者?お姉ちゃんどういうこと?」
「――話せば長くなる。こんなとこで長話も何だから屋敷に入ろう。――ところで」
「?」
「サクラちゃんのその格好はなんだ?コスプレでもしてるのか、こんな時に?」
ヒオウから言われてサクラはまだ変身したままだったことを思い出した。
サクラの顔が羞恥で紅く染まる。
「へ、変身解除するの忘れてましたぁぁぁぁー!」
七海家の広い敷地にサクラの叫びが木霊した・・・・・・
ゴブリンナイトが形態変化するのはアクションゲームで一定ダメージを与えると凶暴になるボス戦のイメージです。