神聖戦姫ヴァルキュリア・ガーネット 作: 霜月ナル(元Hpinch_like)
世界観は構想中の健全作品と共有しています。
いつかどこかでその作品は公開するかもしれません・・・・・・
サクラが恥ずかしさで絶叫した後、慌てて変身を解除。
顔を真っ赤にしたサクラを他所に、一行は屋敷の中へ移動した。
そして、屋敷内にある七海姉妹専用作業部屋に集まる。
使用人達が紅茶を全員分用意し、配り終え部屋を出て行く。
サクラは気を落ち着かせるために一口飲む。
「あ、この紅茶美味しい」
「最近私のお気に入りでな。良ければお裾分けしよう。事件が終わってからになるがね」
「ありがとうございます。――それで、この事態は一体どういうことなんですか?」
「それは、わたくしから説明いたしましょう」
魔界から来たシャルロッテが事態の成り行きにについて語り出す。
「まず前提からお話しいたしますが、魔界と言っても皆様が想像するような広い土地ではありません。魔界とは遙か昔に力ある存在が作り出した、この世界に重なるように存在する異界の1つなのです」
「異界?」
サクラの疑問にヒオウが答える。
「異界ってのは昔話に出るような神様とかが作り出した異空間のことさ。東京には神様の管理するちゃんとした異界があるとか。神様達は自分たちがいると人類の成長の邪魔になるってんで、異界に隠居したんだ。ただ、魔界の場合は封じられたパターンだな」
「はい、わたくしたちのご先祖様がまぁ、おとぎ話によくある世界征服を企んで当時の現人神に封印されたとか」
「なんだかスケールの大きな話ですねぇ・・・・・・」
正直サクラには冗談を話しているようにしか聞こえない。
今回の事件がなかったら信じなかっただろう。
ゴブリンは実在するし、サクラは変身した。
もはやこれまでの常識には意味がない。
「ちょっと話が脱線しましたね。それである日、異界を維持していたわたくしのお父様が亡くなっていまいました。お父様は病気ではなかったですし、前日まで元気に政務をこなしていました。――つまり、暗殺されたのです」
「――え?」
「異界を維持するには強大な力が必要です。今その役目を継ぐ資格があるものは存在しませんでした」
冷静な表情で語るシャルロッテ。
父親が殺されたというのに悲しみの感情はないようだ。
――いや、彼女の手をよく見ると拳を強く握り震えていた。
表に感情を出さないように我慢しているのだ。
「異界を維持するものを失い、魔界は少しずつ不安定になっていきました。そして我々は2つの派閥に分かれました。人間界を攻め土地を奪おうとする過激派と人間達と交渉し穏便に移住する穏健派です」
「それってつまり・・・・・・」
「お父様を暗殺したのは十中八九、過激派の方達でしょう。お父様は人間界への侵攻など興味ありませんでしたから。後継者がいない以上、お父様を殺せば魔界が崩壊するのはわかりきっています。それを人間界侵攻の理由にしたかったんだと思いますわ」
そこで一度言葉を切り、カップを口に運ぶ。
貴族いや王族の姫として育ったため仕草はとても優雅だった。
「そしてわたくしたちは過激派が強引に人間界を侵攻しようとしている情報を掴み、代表としてわたくしが人間界へ赴いたのです。過激派の行動が想定よりも早く、直前になってしまいましたが」
「――ということだ。で、シャルロッテとの交渉や技術交流を行う人材に魔界と繋がりやすい土地に住んでいて、技術の理解が出来る頭脳を持つ私が選ばれたんだ」
「だからお姉ちゃん、今日忙しそうにしてたんだ」
サクラたちが誕生日祝いを街でしている間に、ヒオウはシャルロッテを迎え入れたのだろう。
「あ、もしかして家の周りにいたゴブリンが弾かれてたのはシャルロッテさんが持ち込んだ技術なんですか?」
「そうですわ。ゴブリン程度なら簡単に弾く結界発生装置です。害意のあるものに反応して弾くようになっていますのよ」
「だから私たちは普通に入れたんですね」
合点がいったように頷くサクラとアヤメ。
敷地に入ろうとしたゴブリン達は悉く結界に弾かれて立ち往生していたのだ。
あれはまるで誘蛾灯に集まる虫のような有様だった。
「とはいえ、効果が無限に続くわけじゃない。お前たちがゴブリンを排除してくれて正直助かった」
「いえいえ、お役に立てたようで何よりですよ」
「でだ。逆に聞きたいんだが、お前のアレはなんだったんだ?前やってたコスプレみたいだったが」
「コスプレ、ですの?」
「あー!あー!あれはですねぇ――」
サクラは誤魔化しながら事の経緯を説明した。
高級ケーキ店からの帰り、ゴブリンに遭遇したこと。
ゴブリンに襲われた時、アヤメが作った指環の影響でサクラが変身したことを。
「――あの基礎理論を勝手に試したのか?まったく危ないことをする」
「え、危険だったんですか?」
「あぁ、あの術式は人の魂の奥底に眠る力を強制的に覚醒させるものだが、その力が良いものとは限らない。人によっては力が暴走し、最悪死に至る可能性だってある。だからかなり厳重にデータをロックしたんだがな・・・・・・」
ヒオウの話を聞き、顔を青ざめるアヤメ。
結果的にサクラは問題なく覚醒し変身できたが、一歩間違えばサクラは死んでいてもおかしくはなかった。
そんな危ないものを渡していたなんてと後悔する。
そんなアヤメの手をサクラが握る。
「アヤメちゃんは悪くないです。だって指環がなかったら私たち死んでいましたから」
「――サクラ・・・・・・でも」
「もう、気にしすぎですって。終わりよければすべてよし、ですよ?」
「・・・・・・ありがとう」
サクラの言葉に心が軽くなる。
やっぱり私はサクラに勝てないなぁと苦笑した。
そんな2人をヒオウはニヤつきながら眺めていた。
サクラは気づかなかったが、アヤメは視線に気づいて睨み返す。
だが、すぐ呆れたように溜息を吐いた。
きっと何を言っても無駄だと悟ったのだろう。
「しかし、覚醒したら変身ヒロインになるとはなぁ。お前本当に『キューティーナイツ』が好きなんだな」
「もう!それは良いじゃないですか!」
顔を赤らめながらサクラはヒオウに抗議する。
『キューティーナイツ』は日曜日の朝にやっている所謂子供向けのアニメ。
少女向けにもかかわらず、熱いバトルと友情が描かれ大きなお友達にも人気が高いシリーズなのだ。
アヤメが日曜に特撮を見る流れでサクラは見始めたのだが、描かれる女の子達の友情や青春、戦いに心を奪われハマってしまったのだ。
高校生になった今でもシリーズを欠かさず視聴している。
先ほどヒオウが言っていたコスプレというのは、サクラがこっそりとオーダーメイドで購入したキューティーナイツのコスプレ衣装を着てポーズをとっていた時の話だ。
その時のコスプレ衣装はタンスの奥にひっそりと眠っている。
「いや、あそこまで変化するのはあまり見たことがなくてな。私が所属してる組織には覚醒した人、つまり『現人神』がそこそこいるんだが、彼らは大体髪色が変わって固有武器が出るくらいだったから」
「――つまり、それほど私に強い変身願望があったと?」
「まぁ、そういうことになるな」
ガクッと項垂れるサクラ。
ここまで影響が出るほど私はキューティーナイツを愛してるのか・・・・・・と。
だが、悪い気分ではなかった。
憧れの存在になれるのだから。
(あの格好は恥ずかしいけど)
それにアヤメを守る力を手に入れたのは嬉しかった。
「――名前とかあるのか?こう、キューティーなんたらみたいな」
「そこまでしたら恥ずかしくて死んじゃいますけどぉ!?」
「――神聖戦姫ヴァルキリー・ガーネットでどう?」
「アヤメちゃん!?」
「ずっと考えてた」
親指をビシィと立てドヤ顔をするアヤメ。
完全に面白がってるとサクラは確信した。
おそらくこのネタをしばらく引っ張られるのだろう。
サクラは恨めしげにアヤメを見つめるが、当の本人はどこ吹く風だ。
「はぁ・・・・・・まぁもう何でも良いです」
サクラは諦めたように呟いた。
そこへシャルロッテが口を開く。
「仲が良いことは素晴らしいですが、これからのことを話しませんか」
「そうだな。アヤメ、街の地図はなかったか?」
「うん、たしかこの辺に・・・・・・あったよ」
アヤメはキャビネットに入っていた街の地図を取り出しテーブルに広げた。
そしてシャルロッテがペンを持ち、地図に書き込みを行う。
「今、この街には外部からの侵入を防ぎ、魔界と繋がりやすくするための結界が張られています。街全体がちょっとした異界のようなものになっているのです」
「あの空が紫色になったやつですね?」
「そうですわ。そしてその結界を支えるための基点が四方に1つずつと、本命の術式が中央の電波塔にあるのですわ」
「つまり、その基点を潰して術式を破壊すれば良いわけか?」
「その通りですわ、ヒオウさん」
地図の四カ所と中央にマークが書き込まれる。
北の月読神社、東の森林公園、西の廃病院、南の港倉庫、そして中央の電波塔。
「直接術式を叩くのは無理?」
「部下からの報告によると基点を破壊しないと電波塔には入れないようなのです。なんでも基点から龍脈を辿って力が噴出させて壁にしているとか」
「過激派とか言うから脳筋な奴らかと思ったが、よく考えているものだな」
「魔導元帥と呼ばれる知恵者が向こうについてますから・・・・・・」
苦々しそうな表情をするシャルロッテ。
彼女にとっても頭の痛い問題なのだろう。
「もしかして、危ない実験ばっかりしてるタイプの人?」
「ええ、アヤメさん。実験のためなら手段を選ばないです。過激派に付いたのも実証実験が出来るからでしょう」
「うわぁ・・・・・・」
ドン引きの声を上げるサクラ。
絵に描いたようなマッドサイエンティストだった。
暗い研究室で怪しげな薬品を調合したり、気持ち悪い標本が飾られているイメージが浮かぶ。
「ここから近いのは東の森林公園だな」
「そうですね、まずはここから叩くのが良いでしょう。撤退も容易ですし」
「――あれ、誰が基点を破壊するんですか?」
サクラの疑問に三人の視線が彼女に集まる。
その視線を受けて、サクラは冷や汗を流す。
「もしかして・・・・・・私?」
「そりゃあ、今奴らと戦える戦力はお前しかいないからなぁ」
「わたくしは戦闘出来るほどの能力はありませんし」
「――ほんとはサクラを危険な場所に向かわせたくはないけど・・・・・・」
「ヒオウさんの所属している組織の人たちは・・・・・・?」
サクラの言葉にヒオウは首を横に振る。
「ここの支部にはお前ほどの戦力はいない。魔界と繋がりやすかったとはいえ強力な敵が現れたりするわけじゃなかったからな。せいぜいゴブリンを倒せる程度だ」
「先ほども説明したとおり、お父様は人間界侵攻に興味がなかったですから。むやみに人間界に行ったり、人に危害を加えるのを禁止していたのです」
「救援を呼ぼうにも、結界が邪魔をして街に入れない」
ヒオウとシャルロッテは悔しげに語る。
つまり現状ではサクラが基点のある地点に乗り込み、破壊しなければならない。
確かに彼女は強い力を手に入れ、非凡な才能の持ち主でもあるが普通の少女だ。
だが、誰かがやらなければこの街が完全に魔族の手に落ち、人々は死んでしまうだろう。
その中にはアヤメも含まれる。
サクラは拳を強く握りしめ、覚悟を決める。
「――わかりました。私にしか出来ないならやります!」
「・・・・・・すまない。本来なら私たち大人が責任を負わなければならない事をサクラに負わせてしまって」
頭を下げるヒオウ。
その姿にサクラは慌てて手を振る。
彼女のせいではないと伝えるために。
「私たちも出来るだけサポートする。幸いいくつか物資があるしシャルロッテの持ってきた道具もある」
「戦闘に役立つ物もありますわ」
「私も頑張ってサポートする」
「皆さん、ありがとうございます」
三人の優しさが嬉しくなり、微笑むサクラ。
それを見た三人は何故かうっと眩しそうに怯む。
「か、可愛いですわ・・・・・・」
「あぁ、あれで無自覚なのが恐ろしいんだ。学校にもファンクラブがあるらしい」
「サクラ、きゃわいい・・・・・・」
「?」
小声で話す彼女たちに疑問符を浮かべながら、サクラたちは作戦会議を続けた。
そして30分後、準備を終えたサクラは七海家の前に出ていた。
『あー、テステス。聞こえる、サクラ?』
「よく聞こえますよ。アヤメちゃん」
『こいつは特殊な通信機で異界の中でも届く。何かあればいつでも連絡をくれ』
「わかりました、ヒオウさん」
『先ほどお渡ししたポーチにはポーションや毒消しなどを入れてあります。見た目より多く入りますが無限に入るわけじゃないので気をつけて下さいまし』
「シャルロッテちゃん、ありがとうございます。――四次元ポケットじゃないんですねぇ」
『よじげんぽけっと?』
「ああ、気にしないで下さい」
通信で確認を終えたサクラは変身を行う。
だが、何故かもじもじしている。
「アヤメちゃん、ほんとに言わなくちゃダメ?」
『うん、変身するには決めゼリフが必要』
「うぅ、恥ずかしい――『ソウル・アウェイキング!』」
アヤメが決めた変身ゼリフをきっかけにサクラが変身していく。
髪が紅く輝き、戦乙女にふさわしい姿へと変わっていく。
そして、変身が完了し大剣を構え見得を切る。
「神聖戦姫ヴァルキリー・ガーネット、ここに参上です!」
サクラが格好よくキメたものの目の前には敵も味方もいないため、一人で寂しくポーズを決めているだけであった。
これが仲間のピンチや人々の危機に颯爽と登場したのならまだ格好がついたのだが・・・・・・
『おぉ――、格好いいですわ!人間界ではああいうのが流行ってるんですの!?』
『まぁ、小さい子供には流行ってるというべきなんだろうか。しかし、コスプレして決めポーズとってただけあって慣れてるな』
『サクラ、凄く格好いい』
「――あーもう!騒がしいですよ!というかどこから見てるんですか!?」
『正門のカメラから。バッチリ録画したから後で見せる』
「見せなくても良いです!とにかく森林公園に向かいますね!」
顔を真っ赤にしたサクラは足早にその場を後にする。
その姿を見て三人は苦笑していた。