神聖戦姫ヴァルキュリア・ガーネット 作: 霜月ナル(元Hpinch_like)
生存者が逃げ延び、集まっている市民会館。
普段は色々な催しに使われる会館の周辺にはバリケードが設置され、ゾンビパニック映画のような様相を呈していた。
そこに大勢の骸骨兵隊が攻め込んでいた。
生き残った警察官達が武装し、バリケード越しに銃で抵抗している物の効果が薄い。
一見すると脆そうな骸骨兵だが、その身には魔力障壁を纏っており、見た目とは裏腹に固く銃弾を弾いてしまう。
「くそっ!全然効いてねぇぞ!?ゴブリンには効いたのに!」
「それでも撃たないよりはマシだ!ほら、弾と手榴弾の追加替え玉!」
「はぁ・・・・・・ラーメン食いてぇ」
「冗談言ってられるならまだイケるだろ!」
彼らは、元々この都市が異界と繋がりやすいために配備されている特殊部隊のメンバーだが、普段は仕事も少なく暇を持て余しているため予算泥棒などと揶揄されていた。
日々、訓練とたまに現れるゴブリンへの対処を行っていたがこの事件が起きてからは途端に忙しくなった。
ありったけの武装と物資を持ち出し、各自避難場所の警護へ駆り出された。
なんとか生存者を保護して市民会館へ避難したものの、今度は骸骨兵に襲われる。
部隊メンバー全員が
(ついてねぇ、厄日だ・・・・・・)
と嘆いていた。
「うまい特製グレネードでも喰らっとけ!」
対魔族用グレネードを骸骨兵達へ投擲。
一瞬間をおいて爆発。
さすがの彼らもこれには耐えきれずに木っ端微塵になった。
「よっしゃ!――って、まだまだ来てるぞぉ!?」
「あー、もうダメだー!」
「諦めんな!俺らがやられたら、ここにいる数百人以上の市民が死ぬんだぞ!」
隊長の綾瀬健吾は部下達に発破をかけながら、骸骨兵に銃撃を続ける。
しかし、少しずつ骸骨兵との距離が短くなり追い詰められていく。
ついにはバリケードを破壊し始めた。
「くそがっ!俺もここまでか――ん?」
「どうしました。隊長!?」
「なんか上から声が・・・・・・って、なんだぁ!?」
「――うわぁぁぁぁ!?どいてください~!!」
直後、爆撃のような音と揺れが目の前で発生し土煙が立ち上った。
健吾たちは新手かと思い、銃を構えて警戒する。
「――アイタタタタ・・・・・・クラウディアさん、上空に出るなんて聞いてないですよぉ。って、もういないしぃ」
煙が晴れ、現れたのは日曜朝の子供向けアニメに出てくるような魔法戦士?だった。
思わず健吾たちの目が点になってしまう。
「――なんだ、ありゃ?いつの間にこの世界はニチアサになったんだ?」
「落ち着いてください隊長。間違いなく現実です」
「――か、かわいい」
見惚れて呟く女性隊員に思わず視線が集中する。
確かに美少女と言っていい容姿をしている。
だが、ここは戦場だ。油断は出来ない。
「おい!?何者だ!」
「――あっ、すみません怪しい者じゃないです!?」
「いや、どうみても怪しいんだが」
「悲しいことにそれは否定できませんが、とにかくあなた達を助けに来たんです!」
「助けにぃ?――おい、後ろ!」
少女の後ろに剣を振りかぶる骸骨兵が迫る。
「――でりゃぁぁぁ!」
しかし、骸骨兵の攻撃が当たる前に少女の蹴りによって吹き飛ばされる。
まるで漫画のように綺麗な回し蹴りが決まり、蹴りを受けた骸骨兵はバラバラになって地面に転がった。
その光景を見た隊員達は唖然としてしまう。
銃弾を軽く弾いた防御をいとも簡単に破り、蹴り一つでバラバラにしてしまったのだ。
さらに背負っていた大剣を軽く振るい、骸骨兵達を蹴散らしていく。
「皆さん、今のうちに立て直してください!」
「お、おう。おい!今のうちに負傷者の救助と治療を行え!手が空いてるヤツは攻撃して支援しろ!」
「ありがとうございます!」
少女は礼を言うと、骸骨兵への攻撃を再開する。
先ほどまでの劣勢はどこへ行ったのか。
数に勝る骸骨兵達が一方的に蹂躙されていく。
そんな様子を見ていた健吾は呆れたように溜息をつく。
「まじでアニメやゲームみたいなヤツだな・・・・・・」
「いやまぁ、ゴブリンとか相手にしてるんだし今更じゃないっすか?」
「それはそうなんだがな」
余裕が出来たのか軽口を叩きながら仲間の救助と支援を行う健吾たちだった。
「これで、最後ぉ!」
サクラは最後の骸骨兵にトドメを刺す。
一息つき、市民会館側を見るとバリケードの再建や治療を行っている警官達の姿が見えた。
犠牲も多くなく、無事に終わりほっと安堵の吐息を漏らした。
しかし、突如怪しげな笑い声が響き渡る。
『くくく、これは興味深い。現人神をこの目で見られるとはなぁ』
「――誰ですか!?」
サクラが声の方へ顔を向けると、空中に浮かぶ黒いローブを着た骸骨の姿があった。
明らかに先ほどまでの骸骨兵とは次元の違う存在だ。
健吾たち特殊部隊も警戒して銃を向ける。
『ワシは魔導元帥。魔界一番の知恵者と呼ばれる最高の魔道士じゃ。シャルロッテに聞いておるのだろう?』
「あなたが魔導元帥・・・・・・」
『ゴブリンどもを蹴散らし、第一基点を破壊した貴様に興味があってのう。貴様をおびき寄せるためにここを襲撃させてもらった』
「そんなことで人々を危険な目に遭わせるなんて・・・・・・!」
魔導元帥を睨み付けるサクラ。
しかし、魔導元帥は飄々とした態度で鼻で笑う。
そして、手を上にかざすと巨大な魔法陣が現れる。
そこから現れたのは、全長20mほどの巨大骸骨兵だった。
その姿を見て、健吾たちは顔を青ざめさせる。
「おいおい、あんなのありかよ!?」
「ロケットランチャーでも持ってこないと無理ですよ!」
「くそっ!」
隊員の一人が魔導元帥へ銃を発砲するが、弾は当たらずにすり抜けてしまう。
『残念ながらこれは幻影でのぉ。ワシは本拠地でゆっくりと見させてもらうぞ』
さらに魔導元帥は通常の骸骨兵達召喚し、隊員達に襲わせる。
バリケードの再建が途中だったこともあって、隊員達は防戦一方となってしまう。
「くっ、すみません!私がデカいのを倒すまで持ちこたえてください!」
「――何とかしてみるが、できるだけ早くしてくれ!」
健吾の返事を聞いたサクラは、大剣を構え巨大骸骨兵へと立ち向かう。
巨大な拳がサクラへ振り落とされる。
それをギリギリで回避すると、そのまま懐に入り斬りかかる。
しかし、巨大骸骨兵の骨は硬く、刃が通らない。
それでも、構わずに何度も攻撃を繰り出す。
――ギィィンッ! 甲高い金属音が響く。
「くぅっ!硬い!?」
攻撃を繰り返すがダメージを与えられず、徐々に追い詰められていく。
その隙を突いて、骸骨兵が攻撃を加えてくる。
「――ぐっ!?」
攻撃を回避できず、まともに喰らってしまう。
その衝撃で吹き飛ばされ、地面に倒れ伏してしまう。
慌てて起き上がり、剣を構える。
だが、そこに骸骨兵が拳が迫り来る。
避けられず剣で防御するが、あまりの衝撃に吹き飛ばされてしまう。
「がふっ!?」
地面に叩きつけられ、口から血を吐き出す。
痛む身体を起こし、立ち上がると大剣を杖代わりにして立つ。
その様子は満身創痍といった感じだ。
もはや立っているのがやっとの状態だ。
そこへ、再び巨大骸骨兵が攻撃を仕掛けてくる。
(まずい!?)
痛みを堪えて攻撃を避けようとするが間に合わない。
骸骨兵の拳がスローモーションになる。
「ここまで、なの?」
脳裏に走馬灯がよぎる。
今までの人生、アヤメとの思い出。
ケーキ屋からの帰り道、意を決して告白しようとするアヤメの姿。
――ここで負けるわけに行かない。
そう思った瞬間、力が湧き上がる。
「――ぅぉぉぉぉぉぉぉ!」
衝撃波がサクラを中心に発生し、巨大骸骨兵の拳が押し戻される。
そして凄まじい炎が吹き荒れた。
サクラの眼がより紅く輝き、髪も同じように輝く。
『――ほぉ、面白い』
興味深そうに笑う魔導元帥。
巨大骸骨兵に命令を出し、もう一度攻撃させる。
巨大な拳が再びサクラへ繰り出される。
「はぁぁぁぁぁぁ!」
サクラは迎え撃つように大剣を拳に振るう。
ぶつかり合った瞬間、衝撃波が走り瓦礫が吹っ飛ぶ。
拮抗する二人だったが、サクラが一気に力を込めて弾き飛ばす。
それによりバランスを崩したのか、よろける巨大骸骨兵。
サクラは追撃を仕掛けようと駆け出す。
大剣に今まで以上の魔力を込め、骸骨兵の頭上に飛び上がる。
「でりゃぁぁぁ!」
骸骨兵の頭から真っ二つにするように剣を振り下ろす。
あまりの威力に強固な防壁も紙のように裂け、骸骨兵の体が真っ二つに斬り裂かれる。
「す、すげぇ・・・・・・」
戦っていた骸骨兵と隊員達が思わず呆けてしまうほどの圧倒的な力。
その炎を纏う姿はまさに戦女神だった。
さらにサクラは炎弾を無数に生成し、残った骸骨兵へ放つ。
次々と爆発し、残っていた骸骨兵は跡形もなく消え去った。
着地したサクラはゆっくりと顔を上げる。
「これであなたが出せるのは全てですか?まだやるなら容赦しませんよ」
魔導元帥を睨み付けるサクラ。その瞳は怒りに染まっている。
殺気を感じ取った魔導元帥は不敵に笑い、手を叩く。
『いやはやお見事!面白いものを見せてもらったわい。とりあえず今回はここまでとさせてもらうかの。また「次」があれば会おうぞ』
それだけ言うと魔導元帥は霞のように消えた。
辺りには静寂が訪れる。
「――ふぅ、っと」
緊張の糸が切れたのか、サクラが膝をついてしまう。
思わず健吾が近づいていき、声をかける。
「おい、大丈夫か!?」
「ちょっと疲れただけですので、大丈夫ですよ。えーと、」
「綾瀬健吾だ。対魔族特殊部隊の隊長だ」
「へぇ、隊長ってわりに若いんですねぇ。――あ、ヒオウさん?市民会館は無事です。守っていた警察官の隊長さん達もなんとか・・・・・・」
ヒオウからの通信が入り、応答する。
それを聞いて変な顔をする健吾。
「お前、ヒオウの知り合いか?」
「え、ヒオウさんを知ってるんですか!?」
『もしかしてお前のいう隊長って健吾のことか?ならちょうど良い通信機を渡してくれ』
「あの、ヒオウさんが話したいと」
「はぁぁぁ、わかった」
呆れたように通信機を受け取る健吾。
「お前、連絡が取れないから死んだかと思ってたぞ!」
「――はぁ!?魔族の姫君だぁ!?聞いてねぇんだが!」
「新しい現人神って、この嬢ちゃんが!?」
通信機でヒオウと言い合う健吾。
それをサクラは困ったように見ていた。
「うーん、お二人は仲が悪いんでしょうか・・・・・・?」
「いや、あれがいつも通りですよ女神様」
「――喧嘩するほど仲が良いっていうことなんですかね?って、女神様ってなんですか!?」
いつの間にか隣にいた女性隊員がサクラを女神様と呼び、驚く。
思わず彼女の顔を見ると、サクラをうっとりとした目で見ており、頬を赤く染めている。
身の危険を感じたサクラは女性から少し距離をとる。
「えーと、あなたは・・・・・・」
「私は対魔特殊部隊所属の雨宮茜です!あなたの下僕にしてください!」
「――はい?」
突然のことにポカンとするサクラ。
「というわけで、これからよろしくお願いしますね、女神様!」
「い、いやいやいやいや、何がどういう訳なのかわかりませんよ!?」
あまりの出来事に困惑するサクラ。
そんな彼女に構わずににじり寄ってくる茜。
あの巨大骸骨兵を倒した時の気迫はどこに行ったのか、女性に圧されてしまうサクラ。
ドンッと壁に追い込まれてしまう。
「さぁ、女神様ぁ!」
「ちょ、近い、近すぎます!」
「――何をやってるんだ、お前は!」
「あいたぁ!?」
いつの間にかヒオウとの連絡を終えていた健吾が茜の背後に立ち、頭を拳骨で殴る。
サクラはほっとため息をつく。
「申し訳ない・・・・・・アイツは変なヤツだが悪いヤツではないんだ。ただ自分の感性に素直というか・・・・・・」
「ああ、いえ大丈夫ですよ?ちょっと面食らいましたけど」
「そう言ってもらえると助かる。――それで、ヒオウから大体の事は聞いた。嬢ちゃん一人に重荷を背負わせてしまってすまない」
「そんな――私にしか出来ないなら、大切な人たちのいるこの場所を守る為に戦いたいと思っただけです。それに、健吾さんが謝ることなんてありませんよ。悪いのは襲撃してきた魔族です」
サクラは健吾の目を真っ直ぐに見つめる。
その瞳には揺るがぬ信念が宿っており、とても強い光を放っていた。
「珍しくあの変人ヒオウが推すだけはあるな。俺の部下よりも肝が据わってるよ」
「はは・・・・・・それ、褒めてます?」
「褒めてるよ。んで、とりあえず嬢ちゃんのコードネームは『神聖戦姫ヴァルキュリア・ガーネット』ってことで通すんだろ?」
「――ん?なんのことですか?」
「あれ?ヒオウ達がそう言ってたんだが。嬢ちゃんも了承してるって。いやあ、中々こっぱずかしくて言い辛いぜ」
先ほど頭を拳骨で殴られ、悶えていた茜の耳がピクピクと動く。
そして急に立ち上がるとサクラの手を昂奮しながら掴む。
「おぉ!女神様の名前はヴァルキュリア・ガーネットと言うのですね!敬意を込めてガーネット様とお呼びいたします!」
ぶんぶんとサクラの手を掴みながら振る茜。
サクラの顔は真っ赤に染まり引きつっている。
健吾は頭を抱えて溜息をついた。