神聖戦姫ヴァルキュリア・ガーネット 作: 霜月ナル(元Hpinch_like)
次回への繋ぎ回です。
「悪いな、嬢ちゃん。結界発生装置が届くまで待ってくれ」
「いえいえ、また別の敵が襲ってくるかもしれませんし、構いませんよ」
市民会館の中で缶コーヒーを飲みながら休憩を取るサクラとケンゴ。
あれから新しい敵は現れず、バリケードを作り直し会館内へ移動した。
落ち着いた後、改めてヒオウに連絡を取り、結界装置をクラウディアが七海家に取りに行き市民会館へ届けてくれる事になった。
その間、ここの防衛を手助けするためにサクラは残っていた。
「そういえば、ケンゴさんはヒオウさんとどんな関係なんですか?」
「あぁ?――アイツとは腐れ縁だよ。高校から大学が一緒だった。まさか職場まで一緒になるとは思わなかったが」
「職場って警察の?」
「警察内部にある対異界事件担当の部署さ。俺は実働部隊で、アイツは研究部に所属してる」
昔から警察には異界に対処する組織が存在しており、異界が関係する事件に対して超法規的な活動を行っている。
東京や横浜、京都等の主要都市では数多くの事件が起こっており日々解決に駆け回っているという。
今回の事件はかなりイレギュラーだったようで、普段この街ではゴブリンがちょっと暴れるぐらいだったらしい。
「まさか俺が隊長やってる時にこんな大事件が起こるとはなぁ」
「ほんと、私もこんな格好して戦うことになるなんて思いもしませんでしたよ・・・・・・」
「そりゃあそうだろうなぁ、ククク」
「笑わないでくださいよ!他人事だと思ってぇ・・・・・・」
この力に目覚めてからサクラは弄られてばっかりだ、と嘆いていた。
(本来は私がアヤメちゃんを弄る側だったのにぃ・・・・・・)
「あ!ヴァルキュリア・ガーネットだぁ!」
「う゛!?」
市民会館に避難している子供達がサクラに群がってくる。
どうもサクラを信仰してしまったアカネが避難民に広めてしまったらしい。
大人達からは好奇の目線が、子供達からは尊敬のまなざしが向けられていた。
もうこの事件が解決するまでは我慢するしかないと腹を括ったサクラだったが、それでも中々慣れない。
「ねーねー、魔法見せてー!」
「あのでっかい剣見せてくれよ!」
「はいはい、皆さん一度に沢山話しかけないでくださいねー。残念ですが、危ないので見せられないですよー」
「えー!?」
「怪我したら大変ですから。ほら、ご家族が心配してますよ?」
口を尖らせながら不満顔をして、渋々と家族と戻っていく子供達。
苦笑しながらそれを見守るサクラ。
「――まぁ、安心しろ。事件が解決すれば記憶操作術式である程度の情報統制は行われる。完全に消えるわけではないが」
「それって、うっすらと覚えてるって事ですか?」
「人の記憶を完全に消すなんて事はかなり難しいのさ。脳と魂、どちらも繊細で今だにわかっていないことが多いんだからな」
「そう都合良くはいかないんですねぇ……」
「今回の場合は、ガス漏れ事故で市民が昏倒、幻覚を見ていたってところで手が打たれるだろう。だが、お前はインパクトあるから都市伝説として噂されるかもしれんなぁ」
「はぁ――」
溜め息をつくサクラ。
人々が噂する都市伝説にまさか自分がなろうとは思ってもみなかった。
クラスメイトがその噂話をしていたらどんな顔をすればいいのか。
今後のことを考えて憂鬱になるサクラだった。
「隊長ー!ガーネット様ー!」
「ん、どうしたアカネ」
「今、クラウディアさんって方が隊長に会いに来ました!」
「あぁ、その人が結界装置を運んできてくれる人だ。通してくれ」
「わかりました!」
「では、お邪魔します」
「うぉ!?」
突如、ケンゴの後ろから現れるクラウディアに驚く。
いつの間に近づいていたのか、ケンゴ達は気配を全く感じていなかった。
「あんた何者なんだ・・・・・・?」
「シャルロッテ様のメイドをしております、クラウディアです。以後お見知りおきを」
「あ、あぁ・・・・・・。よろしく頼む」
丁寧なお辞儀をするクラウディアにケンゴは面食らう。
「それでは、こちらが結界発生装置になります」
「ありがとうございます」
「いえ、これが仕事ですから。それとこれをアヤメ様からお預かりしてます」
「え?――おにぎり?」
「アヤメ様による手作りでございます」
クラウディアから形が不揃いなおにぎりをいくつか渡される。
アヤメの手作りと聞いて微笑むサクラ。
不慣れながら頑張って作ったであろう姿が目に浮かぶようだ。
とりあえず一つ食べてみたが、少し塩が効きすぎな感じだったがそこは愛嬌みたいなモノだろう。
好きな人が作ってくれたことに意味があるのだ。
「では、私はこれで。また何かありましたら気軽に連絡してください」
「はい、本当に助かりました」
「いいえ、これもシャルロッテ様の命令なので」
そう言って、再び姿を消すクラウディア。
ケンゴ達は姿を消したクラウディアに驚いているが、もう慣れたサクラは貰ったおにぎりを食べつつアヤメに通信を行う。
「アヤメちゃん、おにぎり美味しいですよ」
『――!あ、ありがとう・・・・・・』
「いや、お礼を言うのはこちらです。慣れない手料理をわざわざ届けてくれて・・・・・・アヤメちゃんは良いお嫁さんになりますね」
『・・・・・・!!』
通信の向こうでアヤメの顔が真っ赤に染まっているだろうとわかるほどに狼狽えている。
サクラとしては褒め言葉のつもりだったのだが、アヤメにとっては不意打ちに近い。
素直に嬉しい反面、恥ずかしくて照れ隠しをしてしまう。
それが更にサクラに可愛く思われてしまうことに本人は気づいてない。
(そう、これですよ!私が望んでいたのはこれなんですよ!)
サクラは内心狂喜乱舞していた。
今日散々弄られてきたので、弄り返せる立場に戻って嬉しくてしょうがない。
この後もアヤメを弄り倒して、アヤメ成分を補給するのだった・・・・・・
「――アヤメ嬢を弄るのも良いが、話がある」
「あ、はい。なんでしょうケンゴさん?」
「嬢ちゃんは他の基点も破壊するんだろ。なら次は南の方へ行ってくれないか?」
「南の港倉庫の方をですか?」
「ああ、途中に神楽月学園があるだろ?ついでにそこへ結界装置を運んで欲しいんだ」
神楽月学園はサクラが通っている学園で、部隊の副隊長が市民会館と同じように校舎を避難場所にしているという。
今のところ大きな襲撃はないものの、オークが散発的に襲いかかってきているらしい。
地雷などを駆使してなんとか防衛しているそうだ。
「オークですか……やはり性欲旺盛だったりするんでしょうか?」
『まぁ、そうですわね。知能はそこまでゴブリン同様そこまで高くはありませんが、それを補うほどの身体能力を持っています』
「典型的な感じですかー。数で押されると厄介そうですね……そういえばヒオウさん」
『ん?』
「先ほどの戦いでなんですが――」
サクラはヒオウに先ほどの戦いで新しい力に目覚めたことを話した。
ピンチになった時、負けられないと強い意志で抗おうとしたこと。
直後、力が溢れ出してきて、今まで使えなかった能力が使えるようになった事を。
『ふむ――、指輪で力が覚醒したと言っても普段から100%の力を引き出していないことはわかるな?おそらくお前はその時、一時的に100%に近い力を引き出していたんだろう。言うならば、オーバードライヴといったところか』
「オーバードライヴ……」
『ずっと全開で力を引き出しているとすぐにガス欠になるから、お前は無意識に力をセーブしているのさ。それを土壇場で引き出したんだろう』
言われてみれば、あの時は自分の中に眠っていた力が一気に解放された感じがあった。
あれがオーバードライヴというものなのかと思うサクラ。
使いこなせば無敵の力を得られるが、あの状態を長時間持続するのは難しいと感じていた。
『そうだろうな。さっきも言ったが、ずっと全開で力を引き出しているとすぐにガス欠になる。お前がその力を効率的に使えるようになれば、より長時間持続できるようになるはずだ』
「なら慣れるためにも積極的に使っていった方が良さそうですね……」
力の使い方を学べば、より戦闘を有利に進めることができる。
今後現れる敵はさらに力を増していくだろう。
そのためにもサクラはもっと強くならないと、と決心するのだった。
――神楽月市の中央に建っている電波塔。
今は魔族の本拠地と化しているそこで、魔導元帥と何者かが会話をしていた。
長い銀髪が目を引き、貴族が着るような華美な黒スーツを着ている。
「――それで、例の現人神はどうだったのだ?」
「そこそこ、と言ったところですな。その内に我らの軍によって倒されるでしょう」
「ふん、所詮あの
「魔族を統べ、人間界を支配するのはやはり貴方様、『アルベルト』様です」
魔導元帥の報告を聞き、嘲笑う男。
この男こそ、魔族の過激派トップである魔王の息子『アルベルト』だった。
シャルロッテの腹違いの兄で、力の無い彼女の事を見下している。
人間界への侵攻をいつまでも行わない父親の魔王に業を煮やし、暗殺したのは彼だった。
異界を維持する魔王を殺し、人間界へ侵攻せざるを得ないようにしたのだ。
「ようやく俺が魔族の悲願である人間達への復讐を果たすのを邪魔されては困るからな・・・・・・邪魔者は抜かりなく消せ」
「――はっ、かしこまりました」
魔導元帥はアルベルトへ礼をし、その場を後にした。
(くくく、ワシは復讐など興味が無いのでな。好きにやらせてもらうぞ若僧)
魔導元帥は敢えて、サクラの事を過小に報告した。
それは様々なデータを取得し研究を進めるためだ。
あそこまでの現人神を手に入れる機会は少ない。
ある程度力を引き出してから、実験体として捕獲したかった。
結局の所、アルベルトの事を敬ってなどおらず自分の研究が全て。
彼の事は都合が良いので利用しているに過ぎない。
(馬鹿な男よ・・・・・・)
魔導元帥はほくそ笑みながら、今後を予想し準備を進めていくのだった・・・・・・