※この作品はR-18です。

OVERLOAD 鈴木悟の消失   作:九折

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どうもお久しぶりです、九折です。
おまたせしました、ナーベラル編です。


諦観の海から浮上する二重の影 〈ナーベラル編〉

 

 

 

 

 

ナザリック地下大墳墓の食堂は、墳墓内のメイド達が使用することの多い場所となっている。種族的にそもそも食事を必要としない者たちが多いが、至高の御方々が決められたルーチンワークとも言える食堂の利用というのは各自当然のものとして行っている。

休憩というよりはそれ自体が命令として遂行しているものが多いが、それでも、特にナザリック地下大墳墓戦闘メイド、プレアデスたちはアインズに直接命令される機会が多く、かつ誰もが慈悲深いと思う主君であるがゆえに、最近はしっかりと「休憩」という意味合いで食堂に入ることが多い。

 

「それでそれでぇ~、ナーちゃん聞いたっすか?」

 

軽快な口調で、プレアデスが次女、ルプスレギナ・ベータがナーベラルに話を振る。

彼女がだした話題はつまるところアインズの最近における閨事、と言われている特別任務のことだった。

情報が降りてくることが少ない一般メイドたちはもっぱらその話題で湧いていた。

もちろんアインズが詮索しないように命令しているので、誰も真実に辿り着こうとはしないが人の口に戸はたてられないし、彼女たちの唯一の娯楽とも言えるゴシップは流石に強く諫めるものはいない。

 

「…なにか、変わったことあったの?」

 

ナーベラルは見た目コーヒーを啜りながら横目でルプスレギナを見る。

机に突っ伏した状態の彼女は楽しそうに笑うと目を伏せて語る。

 

「前はアウラ様がアインズ様に呼ばれて二人っきりに、次はなんとなんとマーレ様!昨日も呼ばれたみたいっすよぉ~?」

「そう……。」

 

ナーベラルは驚くとともに少しだけ思案する。

ナーベラルがアインズにおける正妻戦争でアルベド派なことはこの場にいる全員が知っている。そのうえでナーベラルはどうにかアルベドが次に選ばれないかと考え続けていた。

考え続けていたのだが、ここで男性のマーレが呼ばれたことでさらなる混乱がおき、それが最近になって収まった。

そろそろ次の相手は誰なのかと皆口々に噂していた。

 

「まぁ私にはどうすることもできないし、せいぜい祈るくらいよ。」

「えー?アルベド様っすかぁ~?」

「まぁ…ね。」

 

アルベドに対しての気遣いというわけではないのだが、仮にプレアデスから選ばれるにしてもできる女美人系であるユリか、元気あふれるルプスレギナか、そこらだろうと諦観する。

自分はといえばそもそも、モモンとの相棒役として、最近はパンドラズ・アクターが変わることも多いが、アインズの隣に立てる機会が多いのだからそれで満足だ。

 

「でもぉ~個人的に、ああもちろんアルベド様が選ばれるのもまた喜ばしいことっすよ?けどぉ~たぶん予想としては一番選ばれないんじゃないっすかねぇ~?」

「…どうして?」

 

こういう感覚的な彼女の予想は結構当たる。

シズほどではないにしろ、彼女の直感は油断ならない。

 

「うーん…なんて言えば良いのか……そう!アインズ様とアルベド様は近すぎるんす!」

「近い?」

 

彼女の言葉の真意を探り、考える。

 

「……親密すぎて家族みたいな間柄になってるから意識する対象にならないってこと?」

「や~そういうわけじゃないんすけど…うーんお互い大切に思い合ってるけど、特にアインズ様は女性に優しいっすから踏み出せずにいる…こう、罪悪感をなにか感じているような…。」

「ありえないわね…アインズ様が罪悪感を感じるなんて罪悪を感じる前にその対象に死ぬよう言えば良いのだから…。」

「まぁそうっすけど…でもじゃあナーちゃんはアルベド様と自分だったらどっちがいいっすか?」

 

突然、仰ぐ上司との比較をされて、マグカップを持つ手が止まる。

ちらっとルプスレギナを見ると酔狂で聞いたようではない。

 

「…そうね、もちろん夜伽を命じられればこの上ない幸せでしょうけど…私は選ばれないだろうし、選ばれたとしてもアルベド様と変われないか程度のことは聞くわね。」

「アインズ様の命令に異を唱えるってことかしら?」

 

黙って聞いていたユリがナーベラルをじっと見つめる。

 

「そうじゃないけど、アインズ様は慈悲深い方だからせめて間違いではないか聞く権利くらいはあるんじゃないかと思っただけ。もちろんアインズ様に間違いはないから、私が選ばれるという間違いもない。だからこの会話に意味は無いわね。」

 

一人で完結してしまうナーベラル。

彼女にとって、今が一番幸福なのだ。アインズが扮するモモンと行動をともにし、時に急ぎの用がなければ宿屋では同じ部屋で寝泊まりすることができる。

アンデッドは睡眠しないので、時折ベッドがきしんだりなにか紙をめくるような音がするが、それだけでナーベラルは嬉しい。

自身の近くで主君がくつろいでいるということ自体が。

だからもう望むことはないし、これ以上なにかあるとは思えなかった。

 

「もーナーちゃんは欲望が薄いっすねねぇ~。」

「でも、そうね私達の誰かが選ばれることになるとは思えないけど、自分が選ばれたときどういう反応を見せるかくらいは思案しておくのは悪くないかもね。」

 

ユリがメガネのズレを直す動作をして、プレアデス一同を眺める。

 

「もちろん全員拒否することはないにせよ、いざ命令を承ったとき驚いて粗相をしないとも限らないし…。」

「なっなんでアタシをみるっすか……あはは。」

「…まぁ良いでしょう。」

 

ナーベラルは再びコーヒーを啜る。

しかしそもそも、夜の相手であると確定しているわけではない。

そう考えると案外自分が選ばれる可能性だってなくはないのかもしれない。が、じゃあ自分にできることは何かと自問自答するが、特に思い至らなかったので、やはり自分が選ばれることは万に1つもないとごちる。

 

ナーベラル自身は気づいていないが、しかし先程から彼女は自分が選ばれないと言えば言うほど落ち込んだような表情をしているのを全員が見ているので、皆苦笑していた。

 

「そもそも……アインズ様…性交の相手……探してる…って決まってない…ような…。」

 

シズが「チップス」なる薄く切られたイモ類を揚げたものをカリカリと食しながらつぶやく。

そしてそれは最もなことだった。

 

「最初こそアウラ様が呼ばれたっすけど…たしかに次がマーレ様ってのは誰も予想していませんでしたっすね…。」

「でもアインズ様ってアンデッドなわけだからその…あの…子供作る器官…ないでしょう?なら性別はあまり関係ないんじゃない…かしら?」

 

ユリが普段のおしとやかな言葉遣いから一転、どもりながら語る。

 

「前に男であることは伝えられてましたし…私の胸元をよく覗いたりしてくれていますから…まぁ男性と考えてよろしいのでは?性的趣向も女性でしょう?」

 

ソリュシャンがその豊満な胸を両サイドから挟んで見せつけるように動かす。

それ自体は皆も納得しているし、ユリやルプスレギナ、ナーベラルなどある程度発育が良い組は憶えがあることだった。

シズが胸元をさすっているのは誰も気づかなかった。

 

「まぁマーレ様も言われなければわからないくらい可愛いっすから案外アインズ様も絆されちゃって?とかっすかね?」

「それはないんじゃないかしら、同性愛には懐疑的な反応を何処かで見せていたような…それに異性と意識するなら以前の…そう、一緒にお風呂なんて入らないんじゃない?」

「あーまぁ確かに…じゃあ何なんでしょうね特別任務ってのはぁ~?」

「わからないけれど、アインズ様にはアインズ様の思惑があるのよ。だから私たちは粛々と受け入れるしかないわね。」

 

最後にユリが締めてこの場は終わる。

そもそも答えなんて見つかるわけがないだろう。それは誰もが思っていることだし、だからアインズに懸想する者たちの溜飲を下げる意味合いもあってゴシップは広がっていくのだ。

アインズに直接聞けなくとも、いつかその噂話がアインズにまで届いて、「私たちは知りたいです」と伝わることを密かに願って。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ナザリック地下大墳墓第九階層、玉座の間。

今日はいつもより人口密度が高かった。異形種しかいないので、人口という表現はおかしいが。

各階層守護者、並びにセバスチャン、プレアデス達が頭を垂れている。

 

「デミウルゴス、スクロールの調子はどうだ?」

「はい。アベリオンシープ改良種の皮を使用すると、比較的第4位階程度の魔法であれば種類は少ないですがいくつか魔法をスクロール化できるところまでこぎつけました。」

「ふむ…それは良いことだ。いずれ大きな報奨を与えることを約束する。励むが良い。」

「もったいなきお言葉!」

 

それからデミウルゴスは仰々しくアインズが聞いたことのない御礼の言葉を紡ぎ出す。

 

「…してデミウルゴス、例の計画は?」

「はっそれにつきましても可能と判断してよいかと。まぁ実際に成功したわけではありませんが…。」

「アインズ様…?どのような計画かお聞きしても?」

 

アルベドはデミウルゴスとアインズが個人的な話をし始めたので少しムッとした後デミウルゴスをにらみつける。

デミウルゴスはバツが悪そうな顔をしつつも、アインズが「説明してあげなさい」というので粛々と語る。

 

「はぁ…いやね?以前アインズ様から個別にある任務を言い渡されたのだよ。」

「特別任務ってこと?」

 

アルベドは顔を青ざめる。

アインズがデミウルゴスを夜伽の相手として呼ぶのは百歩譲って同性なのは気にしない。性別にとらわれるような方ではないのだから。だが自分より先にデミウルゴスが呼ばれるなどあってはならない。

 

「いや、特別任務ではないよ。あくまでスクロール開発の延長線と言って良い。」

「どういうこと?」

「アインズ様は……ふふ、魔を導く王として相応しいアインズ様、そうアインズ様は新魔法の開発に力を入れているのだよ!」

「新……魔法…?」

 

アルベドが驚愕する。

無理もない。そもそもアインズ達が使う位階魔法はユグドラシル上で決まった魔法しか使うことができない。ユグドラシル場にあった魔法やスキルが、現実的なものへと修正されて効果を発揮している。

 

「ああ、アインズ様は新しい魔法をすでに練っている段階ではあるものの、それは非常にコストパフォーマンスが悪いとのことでね?なんとかスクロールで代用できないか考えていたところ試しに魔法の質を検証したところ私が開発しているスクロールと相性がいいことがわかったんだ。」

「そうなのですか?アインズ様…?」

「う…うむ。未だ完成には至らないが、ゆくゆくは皆に説明しようと思う。」

「アインズ様が開発している魔法は第5位階魔法らしいので、後少し、というところでね。」

 

デミウルゴスは新魔法の開発という一大プロジェクトの根幹に他のものよりも関わることができて大変満足している様子が伝わる態度だった。

アウラとマーレは珍しく怒りの感情をあらわにしているが、ここでどうこういうきはないらしい。

 

「…さて、では報告会も終わりだ。そしてーーー」

 

ビクッとアルベドとシャルティアが震える。

 

「ーーーナーベラルは後で私の自室に来るように。」

 

シンっと静まり返る玉座の間。

デミウルゴスはこめかみから脂汗を垂らし、コキュートスは触覚を痙攣させ、セバスはひげを触る。男性陣は胃がきゅっとなるのを感じたとか。

デミウルゴスは先程まで言い争いじみたことをしていたアルベドをチラリとみる。

頭を垂れているせいでアインズには見えない角度だ。しかしデミウルゴスは隣のゴリラがゴリラから真の化け物に進化したのではないかと錯覚する。

いや、まぁ淫魔なので正真正銘の化け物ではあるが。

 

顔は笑顔のままだ。だが目が笑っていない。

 

そして何よりも時間がたつに連れてアルベドの放つ殺気が増幅していく。

デミウルゴスはハッと気づいて、大きな声ではないもののしっかりと届く声音で伝える。

 

「ナーベラル・ガンマ、返事はどうしたのかな?」

 

一同がアルベドの殺気に怯えていたのもつかの間、今度は別の意味でゾッとする。

アインズの命令に対して即座に反応を示さない。

それはナザリックにいる者としてこの上ない恥さらしだ。

 

「へっ…あっ…ぁあああぁっはっはいっ!承りましたっ!」

 

ナーベラルは呆然としていた。

自分の名前が出るとは想定していなかったし、アルベドの名前が出ないことでアルベドが放つ殺気に圧倒されていた。

普段の彼女らしさは微塵も感じられないほど慌てた様子で美しい額を床が割れるのではないかというほど地面に押し当てる。

 

「う……うむ。たのんだぞ…では解散。」

 

アインズは場の空気が凍りついたのを流石に察したのか、足早に去っていった。

なんとも情けない主人である。

静まり返る玉座の間。

 

女性、女っぽい男、女性ときたのだからやはりアインズは閨の相手を選んでいる。そういう推測がより現実を帯びてきたところで、やはり正妻候補である2人が静かなのが一同をそこに縛り付けていた。

帰りたかった。けど帰らせてもらえなさそうだった。

 

「ナーベラル。」

「はっ……ひっ………ひゅっ……!」

 

ナーベラルは片膝をついてひざまずいていたところをアインズが去った瞬間腰が床に倒れ込み、崩れた女の子座りになってしまう。

アルベドの声だけで失禁ものだろう。

これが彼女となんの関係もないプレアデスだったなら何もなかった。いつものようにアルベドとシャルティアが暴れて終わりだ。

だが皆知っている。ナーベラルは正妻戦争においてアルベド側。そのアルベドを差し置いて主君に呼ばれる。

 

「アっアルベド?なにもそんなおこりんせんでも…。」

「黙って…。」

「ぴぃっ」

 

珍しくシャルティアがフォローを入れようとするも、一言で吹き飛ばされる。

 

「ひっ…!」

 

ナーベラルは終わったと思った。

ここで終わるのは仕方ない、しかしアインズの命令を遂行できないのはまずい。

 

「ナーベラル…私は怒っていないわ。」

「へ?」

 

嘘つけ、とナーベラルとアルベドを抜いたその場にいる全員が思った。

 

「ただ、そうね少し複雑なのも理解しなさい。それに、いくら自分が呼ばれないと思っていてもこうなる可能性が1%でもあるなら、呆けず、返事くらいは自分でしなさいな。」

「はっ…はい。申し訳ありません。」

「それで…貴女が呼ばれたのなら、終わった後、内容を聞いてもかまわないわね?」

「はっはいっ!」

 

はい、としか言えないオーラをだすアルベド。

これにはデミウルゴスも何も言えなかった。

 

 

●

 

 

ナーベラルはあまり頭がいい方ではない。

いや、バカという自負があるわけではないのだが、様々なタスクが並行して行われると頭を押さえつけられているように感じてしまう。

特に、今回のように、至高の御方々の頂点に君臨するアインズからの勅令、アルベドの立場、メイドの身分、淡い希望、そういった自分にはどうしようもないことが立て続けにナーベラルをせめぎ立てる。

すでに身なりは整え終わってはや30分。

定刻よりかなり前にこの完全防音魔法が施されたアインズの部屋の前で立つ。

一般メイドよりも立場が上であるナーベラルが無表情にもただ部屋の前で佇む姿は、今日のアインズ様寝室前当番である一般メイドにとって胃が痛くなる有様だった。

最初こそアインズを呼ぶか聞いたのだが「まだ定刻にはだいぶ先、ここで待つわ」とあしらわれてしまった。

 

「よーっす、ナーちゃん。」

 

座った目でジッと扉を見続けるナーベラルは聞き慣れた声に振り返る。

 

「ルプー…なに?」

「いやぁついにこの特別任務争奪戦にプレアデスも参戦っすねぇ!」

「…本当にそうなのかしら、例えば、アルベド様を直接呼ぶのは忍びないからワンクッション置くために私を呼んだとも考えられるわ。」

 

ごうっと殺気が飛び交う。

 

「それ、本気で言ってるの?」

 

普段の気さくな話し方ではない本来のルプスレギナ・ベータの声音で紡がれる問い。

一触即発の空気に一般メイドは失神寸前だった。

ナーベラル自身、自分の発言がいかに不用意で不敬であったかを理解して応戦する気は見せない。

 

「そうね…ごめんなさい。」

「………まーでも不安な気持ちはわかるっすよ?どうせなら私を呼んで欲しかったすねぇ。」

「…何れにせよ粛々と期待を裏切らないように応えるのみよね、ありがとうルプー。」

「良いってことっすよぉ!願わくばアインズ様に口添えしてくれたら万々歳っす!」

 

ひょうひょうとするようでその実、確実に有効な一手を打つルプスレギナにナーベラルはため息を吐く。

もし本当に、夜伽なら、ナザリックの者にとって喉から手が出るような任務だ。

そしてそれを7人の中から選ばれたのが自分。そんな自分が曇った表情のままでは主にも、同僚にも失礼だ。

 

しばらくして、

 

「そろそろ時間っすね。」

「ええ、じゃあ行ってくるわ。」

「土産話期待してるっすよ~」

 

ルプスレギナは踵を返して軽く手を振りながらその場を去る。

彼女の性格はどこか掴みどころがないが、ナーベラルは遠のく背中を見ながら、彼女が元気づけに来てくれたのだろうと思い、視線を寝室の大扉へ向ける。

その視線で一般メイドは察し、アインズに入室の許可を取り出した。

 

「(はぁ、本当にアインズ様に口添えでもしてあげようかしら?)」

『入れ。』

 

聞くだけで心地の良い主の声が耳に入った。

 

 

●

 

 

「失礼します。」

「ああ……ナーベラル。」

 

ナーベラルは入室すると、扉の前で立ち止まり跪き、頭を垂れた。

 

「ナザリック地下大墳墓戦闘メイド、プレアデスが三女、ナーベラル・ガンマ参上いたしました。」

「ん…ああ…うむ。」

 

アインズはキングサイズを遥かに凌駕するサイズのベッドに腰掛け、玉座の間での姿とは対称的なラフな装いで薄暗い部屋の中ナーベラルを見つめる。

ナーベラルはといえば、いつもの鉄仮面からは考えられないほどに焦っていた。

入室前にルプスレギナに緊張をほぐされたとはいえ、寝室に入ると、完全な密室、薄暗い部屋、ぼんやりと照らすランプ、ラフな格好の至高の御方、緊張しないわけがない。

 

「さて、ナーベラルよ。」

「はっ…はい。」

 

ついつい言葉が震える。

不敬という言葉が延々と脳内で再生され続ける。

 

「ま……うむ、そうだな。まず、あまり緊張をされるとやり辛いのだが…。」

「もっ!申し訳ございません!」

 

ひざまずく姿勢から流れるような土下座にかわる。

どことなくナザリックは洋風なデザインが多いが、とっさの謝り方が土下座なあたり、創造主が弐式炎雷であることを思い出してアインズは少しだけ吹き出す。

 

「…ふぅ、ナーベラルよ。まず最初に、今回呼び出したのはお前がなにか失敗をしたわけではないと知れ。」

「はっ!」

「うーむ…どうも固くなるな……ナーベラル立て。」

 

ナーベラルは疑うこともなく、土下座からすぐに直立姿勢へ切り替えた。

面を上げて、アインズを見れば近づくように手を動かしている。おいでおいでというように。

ナーベラルは拒否できず動き出すものの、しかしどこまで近づけば良いのかと頭を悩ますが、普段アルベドがいる距離以上、もう触れられる距離まで来てもアインズは手を止めないので更に混乱する。

だが、その混乱は一気に初期化される。

 

アインズがナーベラルの艶やかな黒髪で覆われた頭部に優しく手をおいて、動かす。

いわゆる撫で撫で。

 

「!?!!!??!?ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 

ナーベラルは思考停止。

 

「…勝手に触れてすまない…が、あまり緊張してほしくないのだ。一挙手一投足気をつけないといけない場ではない。そうだな、すぐには難しいだろうが、幼い頃からよく遊んでくれていた見慣れた父親の友達、そういう距離感はどうだ?」

「はっ……へっ……ひゅっ……はぃ…。」

 

ナーベラルはついつい撫で撫でにとりつかれるようにゆっくりと膝を折ってアインズの前で立膝状態になる。頬は紅潮し、もちろん墓場まで持っていく事実ではあるが漏らしてしまいそうだった。ルプスレギナだったら漏らしてた。絶対。

 

「落ち着いたか?」

「…はい。」

 

少しして、一時撫で撫でが取りやめになる。

恐ろしいほどの喪失感を感じつつもナーベラルは、されるがままアインズの前で立膝のまま話を聞くことになる。

 

「さて、本題に入るが、ナーベラルよ。今回呼んだのは二重の影(ドッペルゲンガー)という種に対して興味を持った、というのもあるのだが、お前とよく……話をしたかったから、なのだ。」

「アインズ…様?」

 

ナーベラルは不思議そうにアインズを見る。

普段と変わらない美しい顔にはなにやら憂いがある。

これはナザリックに所属するものにしかわからない。アインズですら理解していない彼の独特な表情変化を読み取るパッシブスキルのようなものだが、ナーベラルは不思議と不安感はなかった。

 

「ナーベラル。まずお前と一緒に冒険するにあたって名を改めさせてすまなかった。」

「あっアインズ様が謝ることなど!?」

 

軽く会釈するように謝るアインズに慌てるナーベラル。

 

「弐式炎雷さんにもらった大切な名前だろう。偽装工作が必要なことも理解してくれているとは思う、だが改めて伝えておきたかったのだ。」

「……もったいなきお言葉です。」

「ああ、それでなのだが………、薄々感じているだろう?」

 

アインズはナーベラルを軽く見つめる。

ナーベラルは虚空に浮かぶ真紅の眼光を見つめ、何を問われているのかを察する。それは入室直後から感じていた違和感。

 

「…アインズ様はもしかすると、そちらが素のアインズ様なのですか?」

「……そう、だな。失望するか?」

 

死の威厳もなく、言葉遣いもどこか柔らかく、フレンドリーで…

ナーベラルはふと自らの創造主の面影を感じた。

 

「いいえ、アインズ様。不敬とされるのであれば受け入れますが、私はどちらのアインズ様も好きです…失望することなどはありません。それは私だけでなく姉妹たちも皆、そうだと言うはずです。」

「そ…そうか…。」

 

いつも無表情で、怒っているように見えやすいナーベラルが優しく微笑んで「好き」なんて言うものだからアインズは少し驚いた。ついつい目線をそらしてこめかみをかく。

 

アインズはこうなる前、常々女性は理解できないと思っていた。

特に話すこともない同僚の女性は多かったが、話すときは普通に話してくれるのだが、はなさないときはキッと顔を不機嫌そうにしていることが多く、どこか自分が苛つかせているんじゃないかと怯えていたことを思い出す。

 

「ナーベラル、ありがとう。だからこそ改めてもう一度、はっきりと聞こう。」

「はい。」

「仮に私が元人間だとしても、その気持ちは変わらないか?」

 

アインズは視線を落とす。

その巨体、人間とは思えない厳つい見た目をしたスケルトンが赤子のように小さくなっていく様子へと変貌していった。

アインズは常々モモンとして行動するときにナーベラルの悪態を聞き続けていた。

人間を見下し、害虫扱いし、汚物を見るように顔を歪ませる彼女に恐怖すら覚えていた。

 

本来、今回ナーベラルを呼ぶ予定はなかった。

しかしアウラとマーレから、階層守護者だけでなくプレアデスたちともよく話すべきだと言われ、最初はおとなしいシズあたりからとアインズが情けない姿を見せると、アウラが困った顔しながら、たしなめてきて、「むしろ一番人間が嫌いそうなのから攻略したほうが後が楽ですよ?」「茶釜様もげぇむ?の難易度がどうこうっていうときに『時には強すぎる敵を相手にしたほうが成長できるのよねぇ…。』って言ってました。よくわからなかったけど…。」と説得されて今回の選出に至った。

 

そして今、アインズはその選出の意味をはっきりと理解した。

 

「(そうか…アウラは差別を産まないようにしたかった…のか?)」

 

差別、というほどのことではないが、アインズの真意を受け入れてくれそうなNPCばかりをこの特別任務に呼んでいくとなれば必然的に一部のカルマ値が高い(数値上は低い)NPCが後回しになり、アインズのいないところでいらぬ軋轢が生まれる可能性がある。

ナーベラルは特に身内かそれ以外かを明確に判断し、結果を表に出す性格をしている。

それはナザリック内でも知れ渡っている。

だからこそ法則性をつけないためにもナーベラルは今回適任だった。

彼女の生粋の人間嫌いこそが今回の選出基準だ。

 

「……質問を質問で返すことをお許しくださいアインズ様。」

「ああ、構わない。」

「それは、アインズ様が仮に今人間であるとしても変わらずアインズ様に仕えることができるか?ということですか?」

「…それもまた含むが、ナーベラルは人間が嫌いだろう?」

「はい。」

 

間髪入れずに応える。

 

「ナーベラルはきっと私に仕えるだろう。だがそれはお前の『我慢』の上に立つ忠誠じゃないのか?そう思えてな。私は…お前だけじゃない……私はお前たちの上に立つ資格があるのか?」

 

ナーベラルは目を見開く。

それは踏みとどまったからだ。

普段であれば、普段であればナーベラルはきっと「そんな事はありません!アインズ様は至高の御方々の頂点!世界を統べる神ごとき存在!」なんて言葉を並べ立てて仕えることを伝えていただろう。

だが、ナーベラルの中の「なにか」が踏みとどまらせた。

今、その言葉に価値はない、と。

だから…だから必死に考えた。自分の心の内を、不敬だとされようとここは間違ってはいけないところだ。

 

「……アインズ様。私はアインズ様が人間であっても変わらず仕えます。貴方様のためにこの生命を使います。」

「そこに…そこに我慢はないのか…?」

「ありません。私は頭の回転は早くありませんが、例えるなら………リスを想像してみてください。」

「リス…?」

 

唐突な話にアインズは困惑する。しかし酔狂で語っているわけではないらしいと従う。

 

「はい、この世界にもリスはいます。ですがリスを飼っていたとしたら世界中のリスが好きだと思いますか?」

「そ…そうなんじゃ…ないのか?」

「はい、そうかも知れません。ですが逆はどうでしょう?」

「逆?」

「世界中のリスが嫌いだけどなにかのきっかけでリスを飼っているひとがいて、果たしてその人は飼っているそのリスが嫌いでしょうか?」

「……。」

「その『きっかけ』がずっと自分を、自分たちを見捨てずにいてくれた、だとしたら。」

「…。」

 

ここまでくれば何を伝えたいのか理解できる。

彼女の言う通りうまい例えではなかったが、それでも気持ちはしっかりと伝わっている。

 

「烏滸がましい例え話でしたが、私が人間が嫌いなこととアインズ様が人間で、アインズ様のことが好きであることは両立します。」

「…っ!」

「アインズ様、もし、本当に本当に…アインズ様が『元』人間だとして、私は貴方が好きです。」

 

彼女は自然体で、当然のように、まっすぐとアインズの光のない眼光を見つめて言葉を紡ぐ。

 

「例え弐式炎雷様とアインズ様が敵対しても、私はアインズ様と共に戦いましょう。」

「なぜ……。」

 

そこまでしてもらうほど自分に価値などないと、アインズはたじろぐ。

 

「アインズ様、アインズ様はきっとなんでもないことと思われているのかも知れませんが私達だってアインズ様をずっと見続けているのです。モモンとナーベの時、私が失敗すればサポートをしてくれますし、そうでなくても淑女として扱ってくれるお優しい方。」

 

ナーベラルだけではない。ひとりひとりのNPCたちを気遣い、彼女たちの真意を汲み取り続ける姿勢。そんな大きなことでなくとも、街道を歩くときは、ナーベラルが車道側にいかないようにし、できるだけ下卑た視線を遮るように立ち、飲食不要の指輪を外したことによる弊害でナーベラルが一人になりたいときは察する。

 

「そういう小さなことだけではありません。アインズ様、アインズ様が何を気にしておられるのか私如きではわかりかねますが、そう…仮にそうですね、アインズ様がゴミにまみれ、威厳もなく、弱々しく、それこそ人間で、今のアインズ様の見る影もない状態になったとしても私たちは、いいえ、私は絶対にアインズ様を見捨てることはありません。」

「いいえ、私達が見捨てられることはあってもその逆はありませんが。」

 

ついつい自分たちを下げてしまう言葉を挟むあたりは変わっていないらしい。

 

「長く言葉を弄しましたが、アインズ様、私はアインズ様が人間であっても……心から、愛しております。」

「……。」

 

うつむくアインズの顔、顎からゆっくりと頬へ手を滑らせて顔をあげさせる。

他の守護者、メイド達が見たら発狂し即座に殺されるであろう行為。

本望だ。だがナーベラルはいっつも失敗ばかりな自分のことを棚に上げていることを理解しつつもどうしようもなく小さく縮こまってしまっている目の前の愛おしい御方を元気づけてあげたかった。

 

親指で突き出た頬骨を撫でる。

涙が流れるはずもないのに、我が主は涙を流しているようで、ナーベラルは拭ってあげたかった。

 

「ナーベラル。本当は、私は人間だったんだ。」

 

ぽつりと絞り出た声で告げられる真実。

 

「はい。」

「今はもちろん不死者の王(オーバーロード)だ、だが本当は威厳ある至高の御方々の頂点なんかじゃあないんだよ…。」

「…はい。」

 

そんなことはないですと言いたかったが、聞くことに徹する。

 

「失望したか…?」

「いいえ、むしろ理解が及ばず今まで、同族を馬鹿にされ堪えたのではないですか?」

 

だとしたら自分はなんてことを、と思う。しかし自分を罰するのは後でいい。

アインズはその言葉に首を振る。

 

「……いや、そうでもないんだ。」

「というと?」

「その……なんだろうな…『ナーベラルの口から放たれる罵詈雑言』それ自体が辛かった気がする。」

「他の誰かが…リザードマンやドワーフ達が人間を冷たくあしらっても俺は気にしない。だがナーベラル、お前に人間を貶められると自分までお前からそう思われているんじゃないかって、どうしても思ってしまってな。」

「っ!」

 

それは、とナーベラルは思い至ってはいけない答えにたどり着いてしまう。

つまり、ナーベラルに嫌われたくなかった。ということではないか。

どうでもいいやつになんて言われようと知ったことではない、けど大切な相手から放たれる差別的な言葉は自分にも響いてしまう。

 

「(アインズ様は…もっもしかして……私のことが好き…!?いや、もちろん私だけ、と言うことはないでしょうけれどっもしかして……もしかする…と…私にもまだ芽は…ある?)」

 

端から自分には参加券なんてないと諦めていた。

モモンとナーベだけど、他のプレアデスたちとは違って二人一組で一緒に行動できる特権を得ているだけで十分だった。

でも、もし、もし仮に自分のことを異性として、好色の対象として見ているのなら…諦めるのはまだ早い?

 

そう、ナーベラルが思い至ってから急速に胸の内が切り替わっていく。

浅ましいとは思う。だがまるで枯れきった草木に水が注がれるように、急激に増大する、他の女性に渡したくない、アルベドに渡したくないという女心。

 

「勘違いしないでほしい、決してもう言うなと命令してるわけじゃないんだ。『そうあれ』とされているのだからナーベラルは間違っていない。ただ、そうだな…。」

「アインズ様は、『知っていてほしかった』ということでしょうか?」

「む…そうだな。それに少しだけ気が晴れる時もあった。私だって言われっぱなしは悔しいからな?ナーベラルの痛快な毒舌で私の溜飲が下がるときもあった。」

「ど…毒舌…。」

「それとまぁ…そのなんだ…。」

 

アインズは少し言いづらそうに、頬をかく。

 

「ナーベラルほどの美人から紡がれる毒舌というのも味があっていい。」

「っ!」

 

ナーベラルは赤面する。

 

「そのっアインズ様!それで、最初におっしゃられていた二重の影(ドッペルゲンガー)の性質についてはっどういうことなのでしょうか!?」

 

ナーベラルはついつい恥ずかしくなってしまい視線をそらすついでに話もそらす。

アインズは突然慌てだしたナーベラルに少し可愛げを感じながら、思考を切り替える。だが同時にその思考はある意味でこの雰囲気を促進させる思考でもあるためアインズは気まずくなった。

 

「あー…そう…だな。」

「アインズ様、私が協力できることであれば何なりと申し付けください。その…もし本当に夜伽などご要望でしたら…それも…!」

「よっ夜伽っ!?あっいやー…うむ…うーん。」

 

ナーベラルは最初こそ入室時は諦めていた恋慕の感情を最前面に押し出す。相変わらず表情はぎこちないが。

そしてアインズの反応を見て少し驚いた。

アルベドいわくアインズ様は奥手な方でガツガツいかないと意識してくれない、ということで今の行動をしたわけなのだが、なにやら『夜伽』というのが特別任務というわけではないらしい。

 

「ナーベラル…ベッドに上がってくれるか?」

「…へっ……はっはい!」

 

ナーベラルはアインズがベッドの上であぐらをかく姿を珍しいものを見たというふうに見つめながら「失礼します」とあがる。

スカートをつまみ軽く持ち上げて、膝を付き、女の子座りになる。

アインズを見れば悩むような素振りをしつつも覚悟を決めたようにナーベラルを見つめる。

 

「ナーベラル、私はあくまでこの逢瀬を相互理解のために行っている。」

「相互理解…ですか?」

「うむ…アウラを最初に呼んだのは、彼女は一番ナザリックで理性的だと思ったからだ。」

 

それを聞いて腑に落ちる。

仮にアインズが何かしら負い目やおそれをNPCに抱えているのであれば、先程の話を切り出すのであれば温厚で理性的な守護者を選ぶのは順当だろう。

そういう意味で言えば、自分も人間が嫌いという性質はあるがナザリックの仲間に対して感情を乱すことはほぼない。

 

「マーレを呼んだのはアウラつながりからではあるが結果的に私の知識欲を満たしてくれた。」

「知識欲…。」

「ああ、それで二重の影(ドッペルゲンガー)であるナーベラルとも話がしたかった。」

「何なりとお聞きくだされば!」

 

ナーベラルは胸を張る。

 

「しかし、アインズ様。二重の影(ドッペルゲンガー)のことを聞くのであればご子息であられるパンドラズ・アクター様でも良かったのでは?」

「……ま、まぁそれはそうなんだがあいつ…うるさいからなぁ…。」

「ふふ…そうですね…あ、申し訳ありませんっ!」

 

ついつい場の雰囲気に流されてナーベラルは笑ってしまうが、流石に至高の御方の子供を笑うのは不敬すぎると気づき謝罪する。ベッドの上でまたも土下座する羽目になったナーベラル。

 

「ナーベラル、気にしなくていい。」

「そ…そうでしょうか…。」

「私はお前たちと、今はお前ともっと気軽に話をしたい。」

 

アインズは再度ナーベラルの頭を撫でる。

 

「それで、ナーベラルを呼んだのは二重の影(ドッペルゲンガー)であるナーベラルは実際どういう特性があるのかを把握したかったからだ。」

「特性…ですか?」

 

首を傾げる。

 

「うむ。」

「しかし特性という意味ではやはり多くの見た目になれるパンドラズ・アクター様のほうが良かったのでは?私は種族Lv.1の二重の影(ドッペルゲンガー)ですから、この姿にしかなれません。」

「いや、それは別として、ナーベラルが良かった…という理由ではダメか?」

「そっ……そっ…そんなことっないっ……です!光栄です!」

 

ナーベラルは慌てて紅潮する。

 

「そうか、で、話を戻すが、その…手を触っても…良いか?」

「はっはい!」

 

ナーベラルは言われるがまま両手を素早くだす。

アインズは少し遠慮がちにその手を掬うように触る。

 

「…きれいな手だ。」

「もっもったいなきお言葉!」

「もったいなくなんかないさ……ナーベラル。手のみを二重の影(ドッペルゲンガー)のものへと戻せるか?」

「へ?」

 

ナーベラルは言われた質問が突拍子のないもの、というほどではないにしろあまりしたことがない行動であるがゆえに驚く。

そして意識して手の変身状態を『解除』する。

 

「おお…。」

 

ナーベラルの手はきれいな女性の手から、木の根のような歪んだ二重の影(ドッペルゲンガー)の手へと変化する。指は四本になり、手首から先のみの変化だ。

 

「二重の影(ドッペルゲンガー)状態に『戻す』ことは可能なのでできます。」

「ふむ…『戻す』を強調するということは、なにか違う変化があるのか?」

「いえ、アインズ様がどういった知識をほしいのか理解できていないので蛇足かもしれませんが、例えば人間Aに変身した状態で、ストックの人間Bの手に交換する、といったことは不可能です。」

「ふむ、あくまで二重の影(ドッペルゲンガー)という通常状態に『戻って』いるだけだから『一部変身解除』ができるだけで、変身の一部を他の変身と同時併用することはできない、ということだな?」

「はい。」

 

ナーベラルは口々にアインズが今まで言ってきた「俺は頭は良くない」という発言がやはり謙遜または自己評価が低いお方なのだなと確信する。

自身が二重の影(ドッペルゲンガー)であるならば理解は早いだろうが、不死者の王(オーバーロード)であるアインズが他種族の特性を一部見てある程度把握するというのは、十分に高い知性を持っていると思うナーベラルだった。

 

「ナーベラル…一度人間の手に『戻って』くれるか?」

「はい。」

 

戻る、という言葉は本来の姿が二重の影(ドッペルゲンガー)であるナーベラルには少し違和感を感じるが、しかし人間の、アインズが美人だというこの姿がナーベラルのデフォルトなのだと思われていることに少し高揚感を感じる。

 

「…この状態で、二重の影(ドッペルゲンガー)状態に変わってくれるか?」

 

アインズがナーベラルの人間の手の薬指のみつまんで要求する。

ナーベラルは言われた通り、変身を一部解除して変化させた。

 

「…二重の影(ドッペルゲンガー)の指は4本ですから、私の場合は中指と同化して一本となるようですね…。」

「面白いな…いやすまない、不謹慎…か?」

「いいえ、私はこんなこと疑問に思ったことすらないので、驚いていますし、アインズ様のお役に立てているのですから…嬉しいです。」

 

何度かアインズが指をつまんだ状態で今度は人間→異形→人間→異形…と変えていく。

更に面白いことに、人間状態で薬指をつまみ、異形化で中指とつながって一本になった指をそのまま離さずにもう一度人間になると薬指側につまむ指が移動することがわかった。

これは最初から中指をつまんで実験しても最後は中指をつまんだままになるので、観測上の確定が起きていることがわかった。

物理的にどこをつかんでいるのかが重要ではなく、どこをつかんでいると二人が認識しているかで変化するようだ。

 

「んっ…♡」

 

突然ナーベラルの口から艶のある言葉が漏れる。

アインズはハッとナーベラルに意識を向けた。どうやら興奮して指をニギニギとしていたらしい。

 

「すっすまない…!」

「いいえ…それで、その実験などは終わり…でしょうか…?」

 

アインズは目の前のナーベラルを見てズンッとなにかを感じる。

アウラやマーレでは出し得ない成人女性特有の色っぽさを醸し出し始めるナーベラル。大切な人が自分の指を熱心に触って愛撫し続けているのだから当然と言えば当然だが。

今までアウラやマーレに感じることのなかった、謎の感覚。

なにかに身体が支配されるように、アインズはナーベラルを押し倒す。

 

とす…

 

「あ…アインズ…さ…ま?」

「まだ…だ…ナーベラルお前は誰のものだ…?」

 

しゅる……しゅっ…

 

アインズはナーベラルの肋下から、ゆっくりと胸に触れないように肉体の側面を上へ撫で上げていく。

目の前の雌を自分のものにしたい。実験対象であるはずの女を自分に夢中になるように仕向けたい。支配したい。

ずっと、ずっと思ってた。ナーベラルが自発的に言ったから意識せざる負えなくなった。

他のギルメンと自分が敵対した時、自分を崇め奉る彼らは一体どちらにつくのか、と。

ナーベラルは自分についてくれると、嘘偽りなくはっきりと告げた。

 

なら…、こいつは俺のものだ。

 

「ひ…は……ぁっ…。」

「弐式炎雷さん…か?」

「いっいえ……いいえ…アインズ様のもので…す。」

「ならば…お前の身体も心も…すべて私のものだな?」

「ひっ…あ♡……はっはい!」

 

ナーベラルは突然豹変した主に驚く。

そして何より突然敏感になった自身の体に違和感を感じつつも、拒否するつもりもないので流されるままになってしまう。

 

「私はな…ナーベラル……お前のその怒っているかのような無表情…が、好きなのだ。」

「へっ!?」

「その無表情が…悲しみ、喜び、蔑み、愉悦に変わるのがたまらなく好きなのだ…。」

 

「好き」という言葉が耳元でささやかれる。

ナーベラルは自身の下腹部が熱くなっていくのを感じた。

そしてそれを測ったようにアインズの右手がナーベラルの下半身へ這っていく。

アインズのゴツゴツとした肋骨でベッドに押しつぶされる気持ちよさにナーベラルはたまらず足を痙攣させた。

 

「いい匂いだ…すぅ……はぁ……。」

「んっ♡」

 

アインズが食べ物を食べられないことはナザリックの皆が知っている。

そしてそれゆえに香りにこだわりを持つこともまた周知されている。

だからこそ、自身の体臭に自信のないナーベラルは、顔の真横にあるアインズの頭骨から発せられる髪を嗅ぐ音が自分を酩酊状態に近いなにかに染めていくので恐怖した。

耳元でささやかれる大好きな人の声、ベッドに広がった黒髪をゼロ距離で嗅ぎ続ける呼吸音、時折こめかみ付近にゴツゴツ当たる骨。

 

「おっ………ひっ……♡」

 

こんな幸せなことがあっていいのだろうか…?

 

「ナーベラル…パンドラではな?ダメなのだ。お前でなければ、な。」

「なっ……あっ…ああぁあっ!?♡」

 

ぴと……♡

 

ナーベラルは自身の秘部に添えられたものがなにかを理解し歓喜と混迷の悲鳴をあげた。

アインズの指と、恥丘を隔てるのは布一枚のみ。

乱れたスカートからするりと侵入したアインズの前腕から先は、しっかりと女性の部位へ到達し、獲物を前にした動物のように内太ももや鼠径部を撫で回す。

すぐには貪らないねちっこさ。

 

ねり……にゅっ……♡

 

「二重の影(ドッペルゲンガー)の内臓はどうなっているんだ…?私と違い、食べ物を食べ、排泄することはわかる。しかしその食べたものは食道をとおり、胃で溶かされ、小腸大腸で吸収され、排泄されるのか?」

「あ……はっ♡…ぁ……♡」

「そして……ナーベラルには女性器をもち、子宮があり、卵巣があるのか…?」

 

普段の彼からは考えられないデリカシーのない質問。

しかしそれほど自身に夢中になっているんだという確信。

 

「あっ…」

 

しゅる…

 

アインズはナーベラルの下着をそっと横へずらす。

指先に感じる柔らかな茂みを撫であげ、軽くつまんで引っ張る。

すでに布は濡れに濡れ、ベッドが水浸しになるのも時間の問題だろう。

 

「にっ……人間の女性を…元に…作られた……私はっ…ぁっ♡……内臓も…♡人間と…同じように…できて……いまぁ…♡…す…♡」

「ならば…ここに適当な人間の子種を入れれば…子供ができるのか…?」

「できっ…ます……でも……はぁあっはっ♡ひゅっお゛っ♡」

 

言わなくともナーベラルの気持ちはわかっている。

意地悪な言い方だったとアインズは反省する。もちろんおくびにも出さない。

アインズはお詫びに、ナーベラルの膨れた肉芽を弾く。

どうも普段きつい性格からは想像できないほどマゾヒスト味を感じる反応にアインズ自身、嗜虐心が湧いてくる。

 

くぷっにゅるっ

 

「ほぉ゛っ!?♡」

 

ナーベラルの腰が浮く。

ただ乗っているだけのアインズを押し上げるほど腰が痙攣し全身で快楽を感じていることを示す。

アインズの長く鋭利な指がナーベラルの秘裂に侵入していく。

成人女性らしい厚みあるもちっとした肉ひだが、入ってきた異物を体外へ押しのけようとするも、無駄な抵抗だろう。

アインズの指は長いゆえに、すぐに行き止まりへと差し掛かる。

 

こつ…ぷぷっ♡

 

「まっまっで…くだっ…ぃ♡♡」

 

ナーベラルは普段の冷めた目付きを感じさせないほど目を見開き、顔を紅潮させて快楽から逃げようとする。ぱっつんと整えられた普段の前髪は無惨に乱れ、ひと目見て美人特有の余裕は感じられない。

 

「あぁナーベラル…どうだ…気持ちいいのか…?」

「はぃ……いぃっ♡ゆっ!?♡」

 

ぐにゅっみちっ…♡

 

アインズはわざと快楽に耐えるナーベラルに耳元でささやき、質問する。

それに律儀に答えようとしたところで、尖った末節骨で左右上下へと肉壁を押しつぶす。

 

「ナーベラル…お前と旅をしているときは時折思っていた…もしお前が本当に人間の女性と同じ肉体構造をしているのなら…何かで不覚を取った時…お前が人間の男たちに悪さをされるのではないか…と…な?」

「そっそんなことはありぇっ♡おぉっ♡なぃっ!♡でっぇえ♡♡」

「だがナーベラルは可愛くて、スタイルも良くて、それでいて人間を嫌っている節があるからなぁ…何かの油断で…凌辱されるかもしれない…私の怖さがわかるか?」

 

さもナーベラルが悪いと言うようにアインズは伝える。

本当にそんなこと思っていたわけではない。ただアインズ自身、いや鈴木悟時代の知識として、地球ではそういった高慢な女が犯されるなんてシチュエーションの薄い本はたくさんあったことを知っている。

 

ぐちゅっ♡ぶぐっちゅぶっ♡

 

「も゛申し訳あっあん♡♡りまっ!♡」

「まぁいいさ…元人間の私のことも、低俗な蟲だと思っているんだからなぁ…?」

「そんにゃっ!?♡♡♡ぉ゛んっっっ♡」

 

めりっ……みち…

 

アインズはもう一本指を追加する。

自慰すらしたことのない膣口が人間の平均ペニスサイズ以上に広がり、ナーベラルは一層愛液を垂れ流し始める。

 

「ナーベラル……。」

「は……はぃ……♡」

 

もはや反射で返事をするナーベラル。

視線は天井へ向かっており、心臓の音がやけにうるさいとナーベラルはボーッとする思考で考える。

 

「変身を解除しろ。」

「へ……?」

 

だから、唐突な言葉に正気に戻る。

快楽は止まらない。下腹部から尋常じゃない快楽が押し上がるのをなんとか耐えつつ、言われたことを必死に理解しようとする。呆けている場合じゃない。

主人の命令なのだから。

 

「でっ…すが♡……二重のぉっ♡影にっ……はっ…ぁ♡」

「いいから、やれ。」

 

ゾッとする命令。

今までのアインズなら相応しい声音だろう。

しかし今は素のアインズであるはずなのに、その状態での命令口調にナーベラルはゾッとする。そしていつもより何倍もの快楽が一気に押し寄せる。

自身を押しつぶすこの方こそ疑う余地なく支配者だと全細胞が肯定する感覚にナーベラルは変身を解除する。

 

「ぁれ……?」

 

しかし解除できない。

そして本能で悟る。

 

「ぁいんずしゃまっ……もうしわげっ♡…ありまっ…♡」

「細胞がっうごきませっ…♡かわりませっん♡……アインズさまと子作りっしだい…っで…さいぼー…がっ♡おひゅっ♡」

「……だめだ…変われ。」

 

さらなる強い命令に竦むナーベラル。

メイドの服ごと、ナーベラルの肉体の色が抜け落ち、変化していく。

ナーベラルは絶叫しそうだった。

痛み?いいえ。恐怖?いいえ。嫌だった?いいえ。

自分の意志で変身することが二重の影(ドッペルゲンガー)としての尊厳だとすれば、それが他人の意思で強制的に行われる感覚に自己憐憫に浸る絶叫。

 

「こうなるわけか…ふふ…いいぞナーベラル。いい子だ。」

 

二重の影(ドッペルゲンガー)に生殖器はない。

二重の影(ドッペルゲンガー)はそもそも生物ではなく事象として増える。

現実の人間がいて、その人間における何らかの要因で生まれる。諸説あるが、二重の影(ドッペルゲンガー)はつまり鏡の中にいる自分や、自身と常に隣り合わせでいる影から生まれるので生殖の必要はない。

胎児から成長するわけではなくある日突然現れるものだ。

 

そしてこの度ナーベラルを構成する二重の影(ドッペルゲンガー)の細胞は変化するに至った。ナーベラル自体は種族Lv.1なためナーベラルか二重の影(ドッペルゲンガー)にしかなれない。

 

アインズとの性交渉を望むナーベラルと本来生殖器のない二重の影(ドッペルゲンガー)が入り混じった状態になり生殖器を持った人間の女性っぽい見た目の二重の影(ドッペルゲンガー)となる。

目はナーベラルのまま、口は見た目人だが開けば底の見えない虚空。

身体もナーベラルの乳房であるが乳首はなくつるっとしており、くびれた肉体にも関わらずへそや腹直筋などは感じられない腹部。

手や足は二重の影(ドッペルゲンガー)のままなのだが、股間には陰毛のない女性器とも言えないが穴はついているただの裂け目となっていた。

 

みきみきっ…みちっ♡

 

形状が変化したことで、かなりきつくなる膣口。

 

ナーベラルは怖かった。

 

アインズにこの異形の中でも特に一貫性のない醜い姿になってアインズの性的な興味が自分へ向かなくなってしまうのではないか、と。

だがそんな彼女の内心は打ち砕かれる。

 

「無理やり変身させてしまってすまない…だが、ナーベラルは二重の影(ドッペルゲンガー)でも美人だな。」

 

頭部を撫でられる。

 

ぷしゅっ♡

 

ナーベラルは潮を吹いて痙攣する。

初めての絶頂。

そういう物があるというのは知識として知っている。しかし初めて感じるこの絶頂は多幸感より恐怖が勝った。

こんな、こんな気持ちの良い幸せが怖い。

本当の姿である二重の影(ドッペルゲンガー)、しかも変身が中途半端な醜い状態にも関わらず、我が主は愛撫をやめずに甘い言葉で絆してくる。

ナーベラルは絶頂による一瞬の失神で、操作を手放してしまい、ナーベラルに『戻って』しまう。

 

「お゛っほひゅっ!?♡♡」

 

ぷしゅっ……ちょろっ……ろろろ…

 

そして誤算が生じる。

異形化中での絶頂。本来であれば生殖器を持たないはずの二重の影(ドッペルゲンガー)で絶頂したために肉体を構成する神経が甘かったことで抑えられてた快楽の波を全身で感じてしまう。

一つの穴しかなかった状態が、膣と尿道を再現し、潮を吹いて、全身の筋肉が本来の役目と言わんばかりにスパークで痙攣する。

 

ベッドにぶちまけられた潮、そして小便。足をピンと張ってなんとも無様だ。

 

「本来内臓のない二重の影(ドッペルゲンガー)に変化しても整合性が取れるように内臓が形成される…そしてその状態で蓄積した快楽はもう一度変身した人間状態で一気に肉体へ還元される…ふふ。」

「お゛っ……おっ……ひっ♡」

 

ぐぶじゅっちゅぽっ♡

 

ナーベラルが尋常でないほど身体を痙攣させていることを無視しつつ冷静に考察するアインズ。その間も、たとえ絶頂中であっても決して蜜壺から指は引き抜かないアインズ。

手がナーベラルの潮と小便でべチェベチャになろうと、アインズは人間に戻ったナーベラルの乳房をつかむと、わざと乱暴に乳首をつねる。

 

「んひぃっ!?♡♡」

 

一頻り揉んだ後、アインズは一気に指を出し入れする。

 

「ナーベラル…素晴らしい…素晴らしいぞ…いい子だ…。」

「あいっんず…しゃま……ぁっ♡」

 

とちゅっ♡にゅぷっ♡

 

「ナーベラル…お前は誰のものだ?」

「あっぁいん……♡さま……のっ♡…でっ……すっ♡」

「そうだ……いい子だナーベラル……お前は弐式炎雷さんには渡さない……お前は…。」

 

アインズは少しぶつぶつと言葉を発しながらナーベラルの顔に近づく。

虚ろな目、絶頂からまだ完全には帰ってこれてないナーベラルの定まらない目は、目の前に来たご尊顔に強制的に縫い付けられた、そして直後に息苦しさと視界の揺れ。

 

ちゅぼっ……にゅぐりゅっ♡

 

「ぁ…おぉごっ!?」

 

アインズは秘処をいじめ抜きながらもう片方の手でナーベラルの首を締め、上へと引っ張る。

嗜虐心に火がついたのだ。

二重の影なら、内臓を持たない状態なら引っ張られることの苦しさはあっても酸欠の苦しさはなかった。だが飲食不要関係の指輪を軒並み外した、つまりは普通の人間と変わらない状態での首絞めは単純にナーベラルの思考を更に奪っていく。

 

そして何より嬉しくてたまらない。

 

自身の身体がすべてアインズにいいように弄ばれている。

先程まで感じていた優しい男性の様子は見る影もなく、主人に自身の肢体を弄ばれ、貪られている感覚に全身が喜んでいる。

 

限界まで勃起したクリトリスと乳首が跳ねた。

アインズの末節骨が子宮口を引っ掻いたのだ。

 

ごりゅっん♡

 

「かっ…!?」

 

ナーベラルはありえない心象を薄れゆく視界で捉える。

本来の姿、二重の影(ドッペルゲンガー)として存在するナーベラルだからこそ、人間状態の今、内臓が備わっているから感じる感覚。

 

排卵の感覚。

 

バカ正直に生命の危機を肉体が感じ取って、慣れない女性器を濡らし、慣れない卵巣が無闇に卵子を放出する光景。

 

当然、そんなことはありえない。

 

人間の女性で言うところの「危険日」には今日はまだ程遠いし、そもそも排卵を感じ取れるなんてフィクションの中だけだ。

超人を超えし異形故に感じ取れる者もナザリックにはいるかもしれないが、少なくともナーベラルは自覚したことはない。

アインズがなるべく普通の生物として生活するようにという令を出してからナザリックの特に女性たちは月のモノに面倒臭さを感じていたが、それだってナーベラルは一度も「排卵したな」と感じた記憶はない。

 

ぷりゅっ

 

無垢な、男を知らない、模造品の子宮が仕事を果たそうと疼き、卵巣が脈動するのを幻視する。そしてそれは受け入れがたい現実ではない。

眼の前の、この御方に自身の内臓をいじられ、扱き使われ、道具のように使い捨てられようと、何度だって限りある卵子を差し出して見せましょう。

 

ナーベラルは背骨が折れるほど弓なりに腰を曲げる。尾骨付近から腹部表面へ重たい強大な快楽が持ち上がってくるのを今か今かと耐え忍ぶ。

 

ぐちゅっ!ぐりゅるっ!♡

 

アインズの指がずるっともう一本入り、びしゃびしゃと行き場を失った愛液が溢れ出す。

そして子宮口で3本の指先で弄られ、ついに限界が訪れた。

 

「逝け。」

「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!?!?♡♡♡」

 

ぶしゅっ♡びしゅるるるっ♡びっびしゅっ…………しゅっ!!!♡

 

ばんっと一気に腰が今日一番持ち上がり、更に首が締まる。

あまりの勢いにアインズの手は抜く意思もなかったのにはずれてしまった。

尿道から出血するんじゃないかというほど勢いよく、潮が解き放たれ、天井にぶち当たる。

潮はやがて勢いを失い、小便へと切り替わり、我慢するような素振りを見せることなく、ここが便所だと胸を張れるほど堂々と排尿され続けた。

 

30秒ほど経ち、痙攣が収まり始めた頃、ナーベラルはやっと意識を取り戻す。

 

「ぼっ……ぅし……ぉ゛♡…わけ……あぃ……ま…んっ♡……ぇん……ひっ♡」

「…ナーベラル…お前は誰のものだ…?」

「あぃ……ず様…で……んっ♡…す…。お慕い……して…ぃっ♡…ます…んっ♡」

 

ナーベラルはそう伝えると、ゆっくり寝息を立ててしまう。

変身するのだってタダではない。

度重なる部分変身、初めての事だらけの複数回の絶頂、強制異形化、彼女の精神を刈り取るには十分だった。むしろ最後に会話できただけ根性があると言っていい。

 

アインズは軽くナーベラルを起こさないように愛液やら尿やらをタオルで拭いた後、衛生的にきれいにする魔法をかけて、布団を被せる。

 

「…しかし、今回のことで非常に面白いことがわかった。本当に役立っているぞナーベラル。」

 

アインズは一人薄暗い部屋の中で虚空を眺めながらつぶやいた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ーーーーーーーーーー以上で、報告を終わります。」

「うむ。ご苦労だった。」

 

アインズは玉座で首肯した。

カルネ村で行われている、というよりはバレアレ家で行われている新ポーションの開発が着実に成果を出しているということでアインズはご満悦だった。

元より、ユグドラシル製のポーションを目標とした回復ポーションの製作を命じていたのだが、かなり前から製作過程において他の用途に使えるポーションの類がいくつかできあがっていた。

最初こそ回復ポーションでないのなら意味は無いと切り捨てていたのだが、敏捷性が5分間増加するポーションや、即死を低確率で阻害するポーションなど、戦闘面でも有益なポーションが出始めた頃からその見解を見直し始めた。

緊張状態にするポーションや、酩酊状態にするポーションなど状態異常系アイテムの細かい派生が見られるので、そのへんはデミウルゴスに任せつつ、この世界にもユグドラシルにもなかった新しい魔法薬を作れそうなら作るように言ってある。

もちろん回復ポーションが優先ではあるのだが。

 

「アインズ様、少し質問してもよろしいでしょうか?」

「ふむ…なんだ?」

 

アインズの近くで集まった各階層守護者、セバス、プレアデスたちを眺める形で立っていたアルベドがアインズに振り返り質問の許可を取る。

彼女の並々ならぬ真剣な眼差しに気圧されたわけではないが、アインズは許可する。

 

「ありがとうございます……以前から、アインズ様はアウラやマーレ、最近ではナーベラル・ガンマを私室に呼び、特別任務につかせています。」

「……うむ。」

「その具体的な内容を詮索することを禁じたこともありました…。」

「そうだな。」

「ですが、ですがこれだけはお教え願えないでしょうかっ!?」

 

アルベドは悲痛な叫びを上げるように、その場で跪いて、懇願する。

普段であればデミウルゴスあたりが「不敬だ」と止める場面ではあるが、そうでないあたり彼も気になっているのだろう。

アインズは顎に手を添えて、物思いに耽る仕草をした。

 

「よかろう。」

「……ありがとうございます…アインズ様はついに…ついに正妃を決めようとしているのでしょうか!?」

 

その言葉は静かに玉座の間に響いた。

無表情を貫くもの、顔を赤くして戸惑うもの、不安がるもの、どうころんでもありだとほくそ笑むもの、様々なものがいる。

アインズは直ぐに返事をしなかった。

アルベドの慟哭が生み出した静寂が退屈に変わるころ、アインズは眼光に赤い光を灯す。

 

「アルベドよ…いや、他の疑問に思っている者たち含めて、だな。」

「はいっ!」

 

アルベドはついに内容を聞けると食い気味に相槌を打つ。

 

「特別任務は、正妃つまりは妻を決めるための任務ではない。」

「というと…では何を…?」

「具体的に何をしているのか、どういった目的があるのかを教えるつもりはまだない。しかしこれは一種の『相互理解』のために行っている任務だ。」

 

まだ教える気はない、と言われ目に見えて落ち込むアルベドだったが、ひとまず自分が正妻戦争に乗ることすらできていない、ということではなく安堵する。

 

「また、マーレ以外の男性守護者たちを呼ぶこともあるが、あくまで話し合いだ。故に女性だけを呼ぶという正妃を審査するようなものではないという証左と思ってほしい。」

「アインズ様、つまり…私も呼ばれる可能性はある、と?」

「もちろんだともデミウルゴス。以前は皆で行ったが、今度は男二人で風呂でも入り、語らおうではないか。」

「おおっ!」

 

デミウルゴスはメガネをクイッとして紳士風に喜ぶが、尻尾は大いに暴れていた。

 

「私からは以上だ。仮に具体的な、個別にどのような『相互理解』を行ったかを知りたいのであれば、特別任務に呼ばれた者達に聞くといい。」

 

アインズはそう締めくくるがそこで今日一番の荘厳な声音で圧をかける。

 

「ただし、無理に聞くことは許さない。いいな?」

「はっ!!」

 

アインズはそう言うと、上位転移で玉座の間を去った。

最後の至高の御方々の頂点たる圧力にアルベドは生唾を飲み込む。あれは逆らってはいけない、慈悲深いアインズ様でも絶対に許してくれない類の命令だと理解した。

そこでアルベドは、振り返る。

 

「では、アウラ、マーレ、それに……ナーベラル、どうなの?」

 

アルベドは穏やかな声で、威圧しないように意識しながら問いただす。

 

「私は教える気はないかな。」

「ぼっ僕だって…あのっ…その…教えませんっ!」

 

アルベドは苦虫を噛み潰したような形相に一瞬なったものの、すぐに切り替える。

2人はともかく、最後の相手ならまぁアインズ様との恋路を応援してくれているのだから、教えてくれるだろう。そこから考えればいい。

 

「ナーベラル?」

 

アルベドは再度名前を呼び、告げるように言う。

しかし帰ってきた言葉は想定したものではなかった。

 

「…やです…。」

「…なに?」

「アルベド様、嫌です。報告したくありません。」

 

一瞬の静寂。

続いて怒髪天、となることはなかったが、アルベドは戸惑った。なぜ、と。

 

「アルベド様、私は今までアルベド様とシャルティア様の正妻戦争に加担する場合、アルベド様を応援しておりました。しかしながら私は今はどちらも応援する気はありません。」

「そう思う何かが『相互理解』であったの…ね?」

「何もお応えできませんが、私の価値観を変えることがあったのは確かです。申し訳ございません。」

「そう…。」

 

アルベドは喉まででかかっていた恫喝をしまい込む。

 

「それはアインズ様の意向なのね?」

 

アルベドは仕方ない、と。諦める。

先程のアインズ様の言を信じるのであれば、いずれは自分も呼ばれるのだから、焦ってアインズ様に嫌われでもしたら目も当てられない。

そう思い直し、いつもの余裕のある笑みに顔を作り直す。

正妻戦争自体決着がついていないにも関わらず手駒がひとり減ったのは惜しいが、ここで無理に聞いて、仮にアインズ様に無理に聞いたことが伝わらなかったとしてもナーベラルに反感を抱かれるのはまずい。

だがせめて、それはアインズ様の命令であるという確信が欲しかった。

それさえあれば、どうでもいい。

 

「………いいえ、私の意思です。」

 

その時のナーベラルの顔は、普段の無表情から一転、満面の笑顔だった。

 

 

 

 

 

to be Continued?

 




はい、というわけでナーベラル編でした。
(二重の影(ドッペルゲンガー)がゲシュタルト崩壊しそうなほど入ってて編集するのが大変でした…漏れがあったら優しい目で見逃してください…)

今後考えている2章(そこまでいくかいな?)で出したい展開の伏線のためどうしてもアウラ編、マーレ編含め今回も地の文や無駄な理由付けの文章が多めになってしまい結果として読みにくい文章となってしまい申し訳ありません。
この後、次は誰にするか決めていないのですが、おそらくソリュシャンあたりになると思います。やはりアニメで出番が多かったキャラ中心に消化していく感じになりそうですが、正直プレイ内容が基本的に手マンしかできないのでどうも退屈させてしまい申し訳ありません。

長くなりましたが、今後とも気長に見ていただければ幸いです。
また、ちょくちょくコメントしてくださる方もちゃんと見ています。励みになっているのでありがとうございます!
ではノシ
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